短編『扶桑海軍航空母艦現況』
(ドラえもん×多重クロス)



――扶桑海軍が得た戦後世代型空母「龍鶴」。同艦は元々は『改大鳳型』として計画されたのを未来技術で設計を変更し、起工されていた『G14』を建造前段階で改良する 形で生み出された。そのために外観は大鳳の面影を残す。だが、当初予定とは別物といえるほど大型化していた。基準排水量は61174トン、全長は325mと戦後世代の条件を満たす超大型空母として完成し、艦載機は連邦軍による試験運用中は第4世代機が積まれていたが、本格的に扶桑軍による運用が1946年に開始されてからは、同軍が制式採用に内定した第二世代機である『F8Uクルセイダー』と『A-4スカイホーク』(天山や流星後継機の一つ。旧型空母用にA-1スカイレイダーも採用された)などが積み込まれた。そして搭乗員・整備員技能も当初のヒヨコからは大きく向上していた。



――1946年 扶桑

1946年。史実では日本軍は解体され、戦前国家も消滅した年である。それを思えば、戦前の南雲機動部隊を構成していた大半の艦艇や大和型戦艦が健在な扶桑は恵まれていた。同年、扶桑皇国は勅令第500号により、海軍基地航空隊と陸軍飛行戦隊を統合し、正式に空軍として独立した。ただし組織としての体裁が整うのは1948年の事。この時点では便宜上、書類上は空軍所属でも、実質的には前身組織所属として戦線を戦っていた。陸軍新三羽烏の面々は未来世界での功績と経験を加味され、概ね中佐から大佐へ進級。肩書を全員が『上級将校』に変えていた。(元々佐官であった圭子と黒江は通常の進級扱いだが、尉官であった智子は佐官教育を受けた上で進級した)



「宮藤の奴はどすんだって?」

「空軍転属は内定してるんだけど、坂本が強く引き止めてるらしいのよ。ほら、あの子は教え子を取られるの嫌がってるから」

「アイツは頑固だからなぁ……そこんとこかわんねーんだから…」

海軍基地航空隊が空軍の一部化することで、海軍航空隊は規模を縮小され、空母航空隊のみになる。それに落胆しているのが坂本であった。坂本は自らの信念を押し通し、この頃にはエクスウィッチとなっていた。現役復帰の話も来ているが、それを断りつづけ、ウィッチ本来の道を歩んでいる。これはエクスウィッチが現役復帰していく現況への反発と、教官となることで少しでも多くの若者を育てたいという考えからの選択だった。


「どのうち343空は空軍の飛行隊として再編されるから宮藤だって空軍所属になるぞ?」

「あの子、政治を理解してないからなぁ。だから疎まれちまうのに」

「そうよねぇ……」

圭子はストームウィッチーズ隊長として、政治的立ち回りも行ってきた。それ故に我を押し通そうとする坂本の頑固さを嘆く。坂本は頑固さな性格な故に周囲と衝突を起こすことがままある。上層部が坂本を功績にも関わらず、特進させなかったのはそういう面が裏目に出たからだと専ら囁かれている。






「今日の仕事は空母艦載機運用試験か。例のフォレスタル級でしょ?」

「ああ。建造段階でスーパーキャリアに変更されたからそうなった。受け入れが大変だったそうな」

三人のこの日の仕事は空母『龍鶴』における艦載機運用テストである。これは三人が未来空母でジェット機搭乗経験があるためで、同艦艦長の原忠一大佐の要請であった。龍鶴の艦容はフォレスタル級と大鳳の間の子で、装甲甲板の改良型を持ち、第4世代機であっても60機以上は積める大型空母。地球連邦軍が援助の一環で建造した。これで扶桑皇国軍には超大型空母時代が到来した。ただ、同艦が引き渡された瞬間に他の空母がいっぺんに旧式化してしまうという現実問題も生じている。

「ドックとかの拡充でしょ?大変そうねぇ」

「それといきなりスーパーキャリアなんてデーンと渡されたから、大鳳以前の空母が全艦陳腐化しちまって大変だそうだ。天城や翔鶴でもジェット機積むには小さいから、改装しても20機行くかどうか」

「レシプロ機より重いし、スペース食うからねぇジェット機は」

「今の軽空母はヘリ空母に転用するしか無いし、正規空母も今のような多数機運用は望めない。エセックス級より小さいのが大半だしね」

「それが艦政本部の悩みどころだよ。まるでドレッドノートショックみたいに大パニックだぜ」


扶桑皇国空母の大半は基準排水量が40000トン未満である。翔鶴や瑞鶴で32000トン、大鳳でさえ満載排水量37000トン。信濃が空母ではない故、どれもこれも寄ってたかってジェット機を積むには小さすぎるという現実問題が扶桑皇国に降りかかっていた。友邦のエセックス級が43000トン級の排水量、計画され、連邦軍が概ね最終時のスペックで建造中のミッドウェイ級で50000トンを超える。これに扶桑皇国海軍は対抗心を煽られ、龍鶴を買ったのだ。しかし自前の空母が旧式化という副産物も産んでしまい、艦政本部は大慌てである。






――停泊している同艦はアングルドデッキや蒸気カタパルト、CIWS、シースパローを備えた戦後型空母であった。アイランドが船体後部三分の一に設置されていたり、エレベーター配置などはキティホーク級に習っている事から、フォレスタルとキティホークの長所を混ぜ合わせたのが分かる。

「これがF8U?なんか不格好ね」

「F4なんて『みにくいアヒルの子』って評判もあるぜ。それに比べりゃかわいいもんだ。エンジンや機銃、素材は史実より高性能なの載せてるってよ」

「M61にでも替えたの?」

「まんまだと故障するから換えたって」


扶桑皇国海軍航空隊は格闘戦を重視している。その時に機銃が故障すると困るという事情から、史実でのコルトMk.12から、より高性能かつ高信頼性を持つM61バルカンへ予め変更されている。装弾数は多くされているが、扶桑皇国海軍搭乗員の練度ではすぐに撃ち尽くす可能性が大なので、発射速度は下げられているとの事。

「でも紫電改や烈風からいきなりこれじゃパイロット連中大変よ?」

「だから私達が呼ばれたんだよ」

ジェット機搭乗経験がある者は扶桑全軍中を見渡してもごく少数。そのために各国から教官として経験者を呼び寄せてあるらしい。



「なんだ、貴官らも呼ばれていたのか」

「お久しぶりッス、ルーデル大佐」

「扶桑の連中がジェットに手を焼いていると聞いてな」

「でも、いいんっすか?大佐はそもそも爆撃機乗りでしょ」

「制空戦闘は出来ないわけではないからな。それで引き受けた」

ハンナ・ルーデルは爆撃機乗りであるが、メカトピア戦争の際にはVF-25で相応の戦果を挙げている。ジェットの扱いに手馴れているというのが話が来た要因らしい。



「バルクホルンがやけに行きたがってたんだが、貴官に心当りはないか?」

「あ〜〜たぶんそれ、ウチの宮藤が原因かと」

――そいやバルクホルンってシスコンだったっけ。写真見たことあるけど、宮藤に似てるんだよなぁ

「ああ、バルクホルンの妹にそっくりだという343空の……」

この頃には501での芳佳と菅野の奮戦や、343空構成員達の各地での活躍により、343空は『扶桑皇国精鋭部隊の一角』として一気に著名になった。ルーデルの耳にも入るほどに。そのため空軍でもそのまま存続予定である。


「ええ。どうもバルクホルンはあの手に弱いようで」

「ハハ、そうか。奴はあの手に弱いのか」

――ガハハと笑い飛ばすルーデル。なんと彼女、この時代でも未だ現役であり、タンクキラーの異名を不動のモノとしていた。武勇伝にますます箔が付き、ティターンズからかけられる賞金額も米ドル換算で700万ドルへ増加していた。年齢的には20代後半に差し掛かっているはずなのに、である。これは地球連邦の最先端医学を以ってしても解けていない謎である。一説には芳佳や、かつての黒江のような魔力減衰が遅い、もしくはない体質ではないかと推測されているが、憶測の域を出ない。




「しかしだ。第一世代のF9FやF7Uとかをぶっ飛ばして、いきなり第二世代のF8Uを買うとは、扶桑海軍は何を考えている?」

「格闘性能ですよ、格闘性能。ほら第一世代のジェット機は基本的にレシプロ機とのドックファイトに向かないじゃないっすか。ストライカーならいざ知らず、戦闘機じゃこれは致命的。だから第二世代機に手を出したんですよ」

「しかしこの国の在来空母ではもれなく改装は必至だぞ。しかも搭載機数はどう考えても軽空母並に落ち込む。どうするつもりだ?」」

「この空母を追加購入して、年数が古い正規空母や軽空母を代替するらしいです。既に加賀と土佐、鳳翔などを代替する同型艦が予算計上されたようです」

後退翼かつ、胴体内蔵エンジン式ジェット機は直線翼かつエンジンが外装式のジェット機より遥かに高性能である。しかし究極のレシプロ機と謳われし強豪達を完封し、ティターンズ本軍が繰り出すジェット機と渡り合うにはF8Uの高性能は必須と位置付けられた。そのため海軍は自国製の震電改(ジェット型)の開発を続ける一方で、F8Uを購入したのだ。未来世界でその高性能が実証されており、なおかつ現時点の技術で製造可能な機体を。

「そういえば、なぜこの国は未来世界の連中を恐れるんだ?政治家、軍人、官僚……天皇陛下……ありとあらゆる人間がビクビクしているように見える」

「未来世界での過去の記録の大日本帝国の滅亡では、今の軍人や官僚達の見積りの甘い判断で無謀な戦争を始めて、全てを失ったとあります。だからしばらく未来世界の軍人達による、『無能な軍人や官僚、政治家』への私刑が横行しましたし、未来世界での評判が流されて失脚する軍人や官僚が多数生じる事態になった。この前に戦艦大和が343空のウィッチを改装のために呉に帰港途中の戦艦大和が誤射する事件が起こった時なんて、誤射した機銃要員と艦長の責任問題だとマスコミにすっぱ抜かれて、軍法会議ですよ」

「やれやれ、哀れだな。要するに未来世界での記録で『無能』の烙印を押された連中の排除だろ?」

「ですね。未来人達、特に日本人は『国を破滅に追い込む』として、政治家、外務官僚、軍人、マスメディア関係者に至るまで憎悪の念を持っている……だから必死なんでしょうね。上の連中。保身に。一発で首飛びますから」

そう。地球連邦の日本人らは扶桑皇国のあらゆる役職の著名な人間らの別世界での失策を知っている。家庭内の不和に至るまでの。そのため、軍令部総長や陸軍参謀総長、はたまた大使に至るまでの命運を握っていると言える。この時には、実際に史実で日独伊三国軍事同盟を調印し、ナチスびいきであった松岡洋右が『麻薬中毒』の題目で逮捕され、表舞台から追放されていたし、駐カールスラント大使であった大島浩が有無を言わさず免職させられ、本国召還の後に網走刑務所に収監させられるという『暴挙』も一部軍人がマスメディアなどを動かして起こさせた。無論、その軍人らは銃殺刑に処されたが、今際の際に『大島が死の接吻をした事実は消えない』と叫んだという。扶桑皇国の人間たちはこの暴挙に怯えた。情報一つで、自分たちの子々孫々に至るまでの名誉と社会的地位が地に落ちるのだ。外務官僚も、かの杉原千畝を冷遇したとされる重要官僚や同僚、同期らが大量に免職されるという『吊し上げ』に近い追放が公然と行われたという。

「まるでスターリンだな」

「シナプス艦長も悩んでましたぜ。当人達にしてみれば『招来の癌を取り去るため』なんですから。その結果、去年に陸海軍の青年将校がクーデターを起こした……」

圭子が言う青年将校らのクーデターとは、1945年の秋ごろに『尊皇攘夷』を掲げて、皇室や国から未来世界の影響を排除せんと陸軍師団と海軍航空隊の部隊が反乱を起こした。反乱は自分たちを無能と批判される事への不満が鬱積していた連合艦隊の一部艦隊が共鳴し、一時、内乱状態へ陥った。その時に反乱軍に下った戦艦伊勢、戦艦駿河、近江と戦艦大和、戦艦長門が撃ち合ったという。

「結果は?」

「援軍に来た主力戦艦級のミサイル掃射が近江を炎上させ、大和が駿河を大破させて、伊勢は長門の主砲が艦橋に直撃して降伏。航空隊もジェット機に全機撃墜、陸軍もMSやMBTを投入した掃討作戦で2日あまりで殲滅されました。首謀者は自刃の顛末でした」

「ふむ……それで今は?」

「連邦軍との友好関係を壊したくない政府や陛下、一部軍人の暴走を食い止められなかった連邦側が互いに謝り、今に至ります」

この内乱事件は連邦軍一部軍人の過剰な干渉に憤慨した扶桑皇国陸海軍青年将校らの行動と、舶来文化で皇国が壊されるのを恐れた首謀者の扇動が相なった結果であった。彼らの行動は結果的には地球連邦の規律引き締めと、扶桑皇国の膿を出しつつ、扶桑皇国保守派の自尊心を満たす役割を果たした。(この時までに公職追放された者達は史実通りに1952年に追放解除と名誉回復がなされたとの事)

「なるほどな。連邦の日本系の軍人にとっては、かつてGHQがした公職追放と同感覚なんだよ。あとで解除するつもりの、な。しかし扶桑皇国の連中には社会的地位を奪われて抹殺されるに等しい。村八分って文化もあるからな……それに我慢ならなかったんだろう」

「ずいぶん詳しいッスね」

「なのはの家に邪魔して、宿泊した事あるからな。青年将校が反乱起こすのも無理かしらぬ事だ。こちらでは何もしていないのに、『別の歴史で自分がしてしまった罪』と言うだけで私刑にされたり、公職追放されてははた迷惑もいいところだ。一族だってヘタすれば離散だからな」

ルーデルは前線任務の都合上、なのはと会える機会には恵まれず、なのはが18歳を迎えた時に一度だけ訪れたことがあると告げる。その時には大いに驚かれたのは言うまでもない。その時に日本文化を吸収したとの事で、反乱を起こした青年将校らに同情を見せる。青年将校の中には親なり兄弟が突然、追放された事で一族郎党が村八分される事への恐怖から反乱に加わった者も多数だったからだ。

「未来世界のマスメディアの誹謗中傷も大きかったと聞きます。栗田健男中将なんて、いきなりレイテ沖海戦の時のターンを揶揄する誹謗中傷のせいで出世コースから外されてアリューシャン方面に左遷させられたと」


「やれやれ。いつの時代も良くも悪くもマスメディアは強力だということか。マスメディアの評価一つで一人の人間を破滅させることも、社会的地位を押し上げる事も容易だからな」

それはルーデルなりのマスメディアの行ってきた行為への揶揄であった。別の世界では帝政ドイツ崩壊後に人々が求めたのは『強大なリーダーシップで祖国の名誉と地位を回復する者』であり、かのアドルフ・ヒトラーの台頭は『人々が求めた事を叶えさせてくれる』とマスメディアに錯覚させられたために起こった。それ以外にも、マスメディアが持ち上げた者が実は無能だったというケースも数知れない。つまり全てのメディアさえ(21世紀以降はインターネットも含む)抑えれば一国の首相や大統領になる事も容易である。それを知る身としてはどうしてもいいたくなるらしい

「おっと、原大佐に挨拶するの忘れていた。行くぞ」

と、言うわけで4人は歓談を打ち切って、アイランドにいる原忠一大佐のもとへ足を運んだ。

「よく来てくれました、ルーデル大佐、それと空軍三羽烏の諸君」

「只今、着任いたしました、原艦長」

「4人には我が軍が採用した新型機の教官をしてもらいますが、よろしいですな」

「ハッ」



こうして正式に辞令(ルーデルはカールスラント皇帝およびガランドの辞令が伝えられた)が通達された四人は扶桑皇国海軍が購入した第二世代ジェット戦闘機の教官の任に付き、龍鶴に配属された搭乗員達の育成に励んだ。F8UはF-4よりも良好な運動性を元々保有していたが、扶桑皇国が購入する時に『運動性を向上させてくれ』と要望を出し、それに見合う改良が施された結果、史実F-4を十分に上回る機動性を確保した。史実よりも『制空戦闘機』としての性能が強化された事になる。搭載量は概ね変化はないが、機関砲が変更された事で、その分重量が増している。砲門は減らされたものの、より高威力のM61が積まれ、火力はむしろ向上している。(これはA-7が積んでいたので、原型機のF8Uにも積めるだろうとの判断)




――ブリーディングルームに行くと、20代から30代前半の男性搭乗員、配属されたウィッチらが4人に敬礼してきた。経歴を問うと、男性搭乗員は天城や加賀から転属してきた者達、ウィッチは瑞鶴及び大鳳からの転属者が多かった。講義は日によって異なる内容と教諭となる持ち回り制で、土日以外の月〜金で行われた。この時の様子を少し紹介しよう。



「ジェット戦闘機は紫電改や烈風などのレシプロ機と違い、旋回半径はどうしても大きい。だが、それは敢えて意識する必要はない。それと搭載レーダーを過信するな、見張り能力は依然として必要である」



そう。ジェット機同士の空戦でも、依然として相手を早く発見する事が重要である。圭子はゲットマシンやコスモタイガーなどに搭乗した経験即から見張り能力の必要性を説く。生徒達は既に実戦を経験していた者も多く、納得といった表情であった。アビオニクス関連は黒江が担当し、計器類の説明を行う。

「ジェット機の計器類はレシプロ機より複雑だ。搭載レーダーもより高度になり、火器発射法も零式から烈風までと異なる」

「何故ですか?」

「ジェット機のスロットル調整は繊細だ。急激に操作したら失速したり、故障を起こす。誤操作を避けるためもあって、発射機構は操縦桿に戻された。戦線からの要望も大きかったがな」


火器の発射装置については、零戦や烈風、紫電改はスロットルレバーについていた。これは『機銃発射の時に操縦桿が微妙に動いてしまって命中精度が落ちる』という扶桑海事変で得た戦訓からのものだったが、戦乱で平均練度が低下した事で『撃ち分けできない!』、『訓練機と違いすぎる』とクレームが多数寄せられた(零式練習機は制作されていない模様)事、後世の戦闘機は操縦桿に火器発射機構をつけていて、スロットルレバーにつける方式は日本海軍のみで、海軍滅亡後はまったく普及せずじまいという事実が判明したため、ジェット時代の到来とともに結局、ものほかの兼ね合いで操縦桿に発射機構をつける方式へ戻された。(既存の紫電改・烈風も1946年度中に火器発射機構を操縦桿方式へ改修された)


「諸君らがこれから扱う『F8Uクルセイダー』は本来であれば今から10年後に登場する第二世代ジェット戦闘機である。しかし諸君らも知る通り、未来世界からの技術援助で早期開発が叶い、本艦艦載機に選定された。君たちは扶桑皇国における、栄えある『ジェット戦闘機搭乗員』の先駆者である。そのことを自覚するように」

ルーデルの担当日には爆撃機乗り達へ模範を示すため、自らA-4スカイホークに搭乗。なんと急降下爆撃をしてしまう技量を発揮したという。(ジェットで正しい急降下爆撃をするのはルーデルくらいなものだが)こうして育成される搭乗員達。数ヶ月の後にはストライカー型の両機が亡命リベリオンで完成し、ウィッチたちへの訓練も本格化した。



――1946年 3月 宮藤家

「大変ですねぇ、皆さん」

「本当だよ。機体を壊しそうになるのもいるし、ジェット後流で制御不能になって墜落しそうになるのも多いんだぜ?参っちゃいそうだ」

「根気よく行かないと。実戦経験者が多いぶん、マリアナ沖海戦よりはマシだけどね」

「元々技能は確かな連中だ。慣れればすぐに着艦できるようになる」

「芳佳、移籍話はどうなったの?」

「坂本さんは嫌がったんですけど、最終的には空軍所属になるそうです」

「所属部隊が343空じゃ、坂本がどうあがこうと空軍所属になるのは決定事項だしな。坂本にもそれ理解すればいいものを」

「アイツが頑固なのは変化しなかったからな。まぁ、それがアイツのいいところだけどな。これで流石に諦めるだろう」

「坂本が目にかけてるあの子も空軍移籍の通達はいくはず。名前なんつったっけ?」

「服部静夏よ。坂本は教え子を取られるのが我慢できないみたいで、軍令部に殴りこみかけたとか」

「〜〜アイツ、懲戒免職されてぇのか?」

「北郷さんが止めてくれたようだけど、あの子、やっぱり事変の時に堀井が私達を利用しようとしてたのを相当根に持ってるんじゃ?」

「あり得る。確かお前、モントゴメリー将軍と仕事してたな?なんていってた?」

「嫌味言ったら汚いものを見る目で睨まれたって泣いてたわよ。たたっ斬らん勢いで睨んだみたい」

「やっぱり政治的駆け引きにウィッチを利用するのを嫌がっているわよ、あの子」

「坂本さんにそんなところがあったなんて……」

「聖人君子なんていないわ、芳佳。坂本にだって許せない事の一個や二個はあるわ」




三羽烏は坂本がウィッチを政治の道具として利用する、しようとする者を徹底して嫌っている事に気がついたようだ。扶桑海における体験で快活さを身につけた坂本が唯一無二、絶対に許せないのが『政治的にウィッチを利用する事』だと。芳佳も師に苛烈な一面がある事には驚きのようだ。

「あの子は前線で生きてきた。竹井やミーナ中佐のおかげで裏取引や駆け引きと無縁の世界にいられたけど、エクスウィッチになったらそれを覚えないといけない……考えようによっては可哀想よ」

圭子はこれから坂本がウィッチ出身者として生きていくに当たって、ぶち当たる『壁』を示唆する。『駆け引きや裏取引』などの汚い事に手を付けなくてはならないという事を。圭子もストームウィッチーズ隊長として、そういうことを行使してきたからこその言葉だった。

「すまねーな。暗い話題しちまって」

「いえ、いいですよ。人間、誰だって愚痴は言いたいですからね。私も軍医学校で苦労してますから」

芳佳はこの頃には海軍中尉の階級を得、『空の宮本武蔵』の異名を不動のものにしていた。1946年時には海軍軍医学校に籍を置き、医学の勉強に励んでもおり、智子のツテでライダーマン=結城丈二と知己になり、勉強を時々見てもらっているとか。






「管理職も大変だぞ。胃が痛くなったり、腰痛になったり……あとで湿布薬もらっていいか?」

「処方箋出します。一応見ますよ」

「いつつ……デスクワークのし過ぎかな……」

「体、動かしてます?」

「ここ最近は忙しくて、それどころじゃなくてさ」

「だめですよ。ちょっとの間でいいから動かさないと」

「あ〜神さんから仕事の手伝い誘われてるっのにぃ……海行きてぇよぉ!」


黒江はここ数週間、釣りに行けないのが不満らしい。彼女は意外にもXライダー=神敬介に可愛がられており、海洋調査の仕事の手伝いに誘われているらしかった。空軍軍人でありながら海も大好きなのは彼女くらいなものだろう。この日、黒江達の涙ながらの要請で、芳佳も龍鶴に乗艦することになり、乗員の健康チェックやメンタルケアに尽力したとか。



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