短編『回想 白色彗星帝国戦』
(ドラえもん×多重クロス)



―2190年代後半 フェーべ周辺空域 白色彗星帝国 空母機動部隊旗艦 艦橋

「急降下爆撃機隊発進準備完了!!」

「よし、発進60秒前!!いいな合戦の露払いだ、地球艦隊を存分に叩いてこい」

白色彗星帝国との戦いの一幕を紹介しよう。時はメカトピア戦争より数年前。当時の地球連邦軍は白色彗星帝国との血みどろの戦いを行っていた。その重要直面の一つ。『フェーベ航空決戦』。当時の記録映像を黒江綾香は連邦軍厚木基地内の視聴覚室で見ていた。敵の様子も捕虜などからの証言を元に、忠実に再現した映像も交えており、再現度は高い。ビデオ内のナレーションも交えて見ていこう。





――白色彗星帝国の空母機動部隊は帝国の制空権確保のためには必須であり、波動砲を有し、国土防衛の必要上から、防空及び決戦能力に優れる地球連邦軍を叩くには必要不可欠であったが、強力な戦艦艦隊を有している彼らは空母機動部隊を軽んじており、前衛という扱いに甘んじさせていた。しかし彼らは空母が前衛という戦術ドクトリンを確固たる物にしていたので、誰もがそれを疑問にしていなかった。司令や艦長級でさえ、だ。彼−艦隊司令のゲルンさえそう思っていた。そこに彼らに取って最悪の事態が巻き起こる。それはかつて世界最強と謳われた空母機動部隊を一回の戦いで失った大日本帝国海軍と同じ運命を辿った『哀れな者』の証でもあった……



「提督、未確認飛行物体多数!!」

「何っ……まさか!!」

その瞬間、彼の背筋に凄まじい悪寒が走った。地球連邦軍は必勝を期すために艦船への奇襲を敢行し、グッドタイミングで飛来した。弾薬満載の艦載機が多数発進のために待機していた彼らにとっては最悪のタイミングでの敵機襲来であった。

「飛行隊、攻撃開始!空母を潰せ!!」

この時期の地球連邦軍戦闘機トップエースであった、宇宙戦艦ヤマト艦載機隊初代隊長の加藤三郎少佐(当時。戦死後は大佐へ特進)率いる部隊がファーストストライクを行った。敢行しているミサイルは地球連邦軍が同年に正式採用したばかりの空対艦ミサイルで、当時の本星艦隊の主力戦艦として整備されつつあった、『スーパーヱクセリヲン級戦艦』レベルの巨艦が有する重装甲を想定した炸薬が使われている、最強の空対艦ミサイルと謳われた代物。大昔の急降下爆撃機よろしく、『上空』からの急降下爆撃による一撃離脱戦法で奇襲を行った。なお、連邦宇宙軍は既に真田志郎の索敵によって白色彗星帝国空母機動部隊の全容とその位置を把握しており、攻撃は迅速に行われた。まさに白色彗星帝国にとっての逆ミッドウェー海戦と言えた。











「飛行甲板とカタパルトを狙え!一機も飛び立たせるな!」

加藤三郎のコスモタイガーは対空砲火をそのテクニックで掻い潜り、空母の飛行甲板へ空対艦ミサイルを打ち込む。機動としては急降下し、そこから一気にミサイルを撃ち、機銃掃射しながら上昇という急降下爆撃の常道と言えるもの。ミノフスキー粒子のおかげで一部の戦術が第二次世界大戦へ『先祖帰り』したと揶揄されていたが、この時ばかりはミノフスキー粒子の効果に感謝するべきであると地球連邦軍の誰もが思っていた。

「ち、地球連邦軍の奇襲です!!」

「言わなくとも分かっとる!!おのれ……考えおったな……!?」

旗艦のとなりの空母がいきなり遠方からのビーム砲の砲撃で轟沈する。地球連邦軍がこのために投入したハミングバード隊も到着したのだ。ΖプラスC1Bst型「ハミングバード」はその圧倒的速度と火力で敵空母の土手っ腹をぶち抜く。その威容にゲルンは驚き、目を白黒させる。外宇宙仕様に改修されたそれは、当時の主力可変戦闘機『VF-11』を超越する速度を発揮。対空砲火を物ともしない。

「何だあのやたら速い矢のような機体は!!」

「敵の可変モビルスーツです!!新型のようです」

「あれが音に聞く`ゼータ`というものか……化け物めが。あれに対空砲火を集中させよ!!」
「ダメです、早すぎます!!」

「迎撃部隊はどうした!!」

「今の攻撃で飛行甲板をやられ、発進不能となった艦が続出!!既に20番艦までが無力化!!」
「後方の艦に連絡をとれ!!まだ40隻以上無傷の空母が残っとるのだ!!どうにかして迎撃だ!!」

「敵第二派、襲来!!今度はVF(可変戦闘機)です!!」

「直掩のイータUは何をしている!!直ちに空母を守れ!!」

ゲルンは内心、地球連邦軍の取った戦術に舌を巻いた。敵との兵力差を覆すには奇襲は考えつくが、ここまで大胆に行うのは帝国の戦史には太古から考えても例がなく、皆、冷静さを失っていた。ゲルンも例外でなかった。

(そういえば地球にはオダ・ノブナガなる武将が少数兵力で大軍を殲滅したという故事があると聞く。奴らはたぶんそれに習ったのだろうが……)

ゲルンは敵の星に伝わる故事を思い出し、自らの惨状と地球連邦軍の乾坤一擲の手の状況を重ね合わせる。そして次々と舞い込む悲報に顔を曇らせる。そして彼の眼前でまた一隻高速中型空母がハミングバードの攻撃によって沈められていく。

「ええい、索敵が遅れたのが仇になったか……」





この時、彼は自らの不手際を恥じた。そしてこの攻撃が白色彗星帝国艦隊敗北の序曲を奏でていく。フェーべ航空決戦の幕開けは地球の大胆不敵な奇襲という、敵に取って予想外の展開で始まった。地球には真珠湾攻撃や桶狭間の合戦などの多くの先例があり、奇襲慣れしている側面があるが、それがいい方向に作用したのだ。そして追い打ちをかけるように第二派の可変戦闘機隊とコスモタイガー隊(ヤマト艦載機の第二部隊)が襲来する。彼らは必死に迎撃態勢をとった。艦上攻撃機のデスバ・テーターをも直掩に狩りだして。しかし成果は一向に上がらない。逆に高練度の敵戦闘機隊の前に、いたずらに被害を出すだけだった。





『加藤、山本!下がれ!急降下爆撃隊にバトンタッチするぞ!』

『了解!』

古代進が直々に指揮する雷撃機タイプを急遽、爆撃機へ改修した臨時の爆撃機型(と、言っても宇宙では雷撃と爆撃の違いはないが、搭載量の違いで区別をつけた。後に制式採用)と護衛戦闘機隊の本隊が更に来援。手当たり次第に爆撃しまくった。









「敵機、直上より来ます!」

高速中型空母に一個小隊が群がる。彼らから見て『直上』から爆撃を敢行するその様は正しく、往年の『急降下爆撃機』を思わせる。古代が急降下爆撃と言ったのは、パイロットたち(海軍航空隊の単語で言えばアビエイターか)達がこの手法を好む海軍の『昔ながらの爆撃機の手法を好む爆撃機乗り』出身者達が人手不足のために宇宙軍に転属して参加していたからというお涙頂戴的な事情も含まれていた。対空砲火が及ばない艦橋部の上からミサイルとパルスレーザーを一斉掃射し、ぶちぬくこの手法は後に爆撃機乗りたちの間で普及し、暗黒星団帝国やメカトピアを震え上がらせるのである。白色彗星帝国艦の人員が最後に見た光景はパルスレーザーとミサイルが眼前に迫る恐怖であった事は想像に難くない。




「ええい、敵はたかが爆装した戦闘機だ!叩き落とせ!」

「敵機、第三波襲来!大編隊です!!熱量からして、爆撃部隊です!」

「何いいいいいいっ!?」

古代率いる急降下爆撃隊の登場である。ゲルンはその対応に参謀ともども悩殺される。五隻の戦闘空母の全爆撃隊をフル動員し、更に予備機をも投入しての乾坤一擲の航空攻撃は見事にはまり、爆撃機隊に少なからず未帰還機は出たものの、それ以上の戦果を上げ、白色彗星帝国は空母機動部隊を喪失。ズォーダー大帝を怒り心頭にさせ、この時から切り札である超巨大戦艦の投入を視野に入れるようになる。実際、ズォーダー大帝は地球連邦軍の軍備の情報収集に余念が無く、当時の地球連邦軍最強の波動エンジン艦であったアンドロメダ級を『ヤマトを超えるスペックを有している』と高く評価してもいた。アンドロメダ設計陣には、それが唯一無二の救いとなったという。事実、白色彗星帝国戦後世代の艦艇の内、新鋭戦艦はアンドロメダの血を何処かかしらで受け継いだため、ヤマト型とは異なる『量産可能な超弩級戦艦』のスタンダードとして開発史に名を残し、一般には『戦運無き悲劇の新鋭戦艦』とその名を知られるようになった。








――アンドロメダ喪失後にアンドロメダ級の追加建造の是非が問われた際に、真田達が思案していた改良型の設計案がここで陽の目を見、しゅんらんとネメシスとして完成した。それらは暗黒星団帝国との戦乱などで活躍し、更なる次世代艦である長門型戦艦以降の新鋭艦が就役するまで、連邦軍波動エンジン艦最強の座を守り続ける。そして悲運の最期を迎えた姉がその身を滅ぼされてでも残したデータは妹達がより改良された戦艦として生まれるきっかけとなったのだ。









――この時の宇宙戦艦ヤマト艦載機隊の練度はまぎれもなく地球連邦軍最高レベルであった。末端隊員に至るまでがガミラスとの戦乱を経験し、七色星団海戦を生き延びた猛者共である。斥候役の二個中隊の通常装備(空対空と空対艦兼用装備。コスモタイガーの通常仕様)なのに関わらず敵艦を既に屠っているのは、彼らが敵艦のウィークポイントを正確に突ける腕前を持っていたからだ。この海戦の航空戦は現在の我が軍の航空行政の方向性を決定づけたと言っていいだろう。当時はまだ配備開始から間がなく、目立った実績も無く、大気圏内機動性が前任機から落ちたのを理由に、ベテランパイロットの一部から不興を買ってさえいたコスモタイガーの量産機の評価を一躍、『地球連邦軍の誇るマルチロール機』へ押し上げたのだ。当時に流通していたA型は防弾性能や航続距離などがイーターUなどに劣る側面があり、地球連邦軍の作戦行動に制約をかけていた。新コスモタイガーと呼ばれるC型はその改善のためもあって、開発されたのだ。





――コスモタイガー自体、試作機のピーキーさを抑えて量産化されたのだが、白色彗星帝国の航空兵力に及ばない点がある事が判明した戦後に改善型の設計案がまとめられ、メカトピア戦争中盤以降に普及していく。新コスモタイガーの姿が原型機に比べてストレッチされたスマートな外見を有するのは、全面的に設計の見直しがされたためである。ペイロードが増加したのも、フェーベ航空決戦の際に戦闘機型のミサイル搭載量が足りないと報告され、その後の本土決戦の際に困ったという戦訓が反映されたからである。




「なるへそ。フェーベのこの戦いでコスモタイガーの初期生産型の問題点がいろいろ分かったんだな……キ43もそうだったが、新型機は使ってみないとわからねーからな」

ビデオ(正確にはDVDの子孫だが、大昔の名残でビデオと言う単語は残っている)についているブックレットを見ると、コスモタイガーがこの戦争で突き当たった問題点と、その後に改善された事項、この海戦に参加した当時の連邦宇宙軍空母部隊の陣容が写っていた。当時はまだ少数しか竣工していなかった、虎の子の主力戦艦改級戦闘空母が4隻、当時は空母扱いだったペガサス級強襲揚陸艦が当時稼働していた5隻、太陽系に配備されていたウラガ級護衛空母6隻、グァンタナモ級宇宙空母の3隻に加えて、旗艦は色々と逸話もちの宇宙戦艦ヤマトという陣容である。




―この宇宙戦艦ヤマト―なんでもこちらでは沈没した海軍さんの至宝の戦艦大和を宇宙戦艦へ改造したものらしいが……ここまで行くと物好きだと思っちまうが、ある意味自分の時代との繋がりを感じさせる。むしろ安心するなぁ。

「……何々?この当時の地球連邦の本星防衛艦隊が動かせる攻撃用空母戦力はこれが最大限だったが、白色彗星帝国の空母部隊は凄まじいもので、空母だけで60隻以上を数えていた……スゲエな。つまりヤマトの連中はコレを自前の40機で落としまくったって事か!?バケモンだな……」

黒江は自分で概算した、ヤマト航空隊の輝かしい戦果に目を奪われる。爆撃機の戦果も大きいが、それは護衛艦も含まれる。しかしヤマト航空隊の戦果はこのブックレットを見る限り、『大物』である空母群と飛行隊に集中している。当時の搭乗員らがガミラス戦役を生き延びた精鋭中の精鋭らであったことも勘案しても凄いものだ。


――機会があったら古代艦長代理に話聞いてみるか


と、聞きたいことを予めメモを取る彼女であった。




先程から黒江が視聴覚室で視聴している、ドキュメンタリー映画は戦争終結から数年経過したのを機に、メカトピア戦争直後に制作された作品。敵味方を平等に描写し、全体的に戦争の核心を突く、真に迫る描き方から、22世紀最後のアカデミー賞を受賞し、主要部門を総なめした。実際に写っているのは実機なので、余計に迫力がある。実機と実際の軍艦を多数使用した戦闘シーンがこの映画の売りでもある。それで当時に実際に搭載されていた艦載機の概要が映像特典として載せられていた。。当時の最新兵器の数々が掻き集められたが、数が足りず、この時に急遽完成させた、立案当時のペーパープランであった試作機なども多数搭載されていた。ハミングバードもその一つである。費用対効果などの面から完成させるのに疑問が出ていたが、制空権確保に縦横無尽の活躍を見せた事で、戦後に追加生産がなされたという。





















――当時の関係者のインタビューでは『一番の功労者はやはりヤマトのコスモタイガー隊だろう。当時のコスモタイガー隊の平均練度は宇宙で五本指に入ると謳われ、倍する敵を次々と打ち破る無敵の航空隊ではあったが、本隊到着までの時間、立ち直る隙を与えなかったのは流石である』と締め括られていた。この時に加藤三郎役の飛行スタントで出演していたのが、実弟の加藤四郎である。当時は少尉任官直後で、給金支払いが遅延していたのでバイトとしてやったのだが、コスモタイガーを動かす姿は兄と違いないほどであった。これを期に何かの縁が働き、後に自身が兄の後を継ぐ三代目隊長に就任し、ヤマトを支えていく事になる。ヤマトが使命を終えるその日まで……。




「今日はここまでだな。土星決戦と本土決戦はまた今度にしよう」

視聴覚室での視聴予約時間を終え、片付けをする。彼女は機械好きであった故に、未来世界の最新電子機器にも順応できた。時代の流れに適応できず、『老害』との陰口を叩かれるに至ってしまった坂本美緒とは対照的に、黒江は部隊の折衝などで苦労した分、適応力に優れていた故に、荒くれ者揃いのロンド・ベルに馴染んだ。このように、貪欲に未来の戦争で培われた戦術や戦略を勉強しようとする姿勢が二人の明暗を分けたかも知れない。それでも彼女は坂本を庇う事を選択するだろう。それが彼女なりに、後輩へしてやれることなのだから。




――いつか後輩達を読んだ暁には勉強会を開こう。

そう決意して厚木基地の視聴覚室を後にした。家に帰り、この映画のディスクを釣り用具とともに大手ネット通販サイトで予約、購入し、後日、同居している三羽烏の残り二人とともにびっしり全編視聴したとか。



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