短編『扶桑海軍ご一新』
(ドラえもん×多重クロス)



――1946年5月 扶桑皇国海軍は大幅な組織改編を余儀なくされた。これは反乱が起こった事による不祥事で、軍が国民からの不信を買ったためで、激怒した陛下は海軍の改革を外部組織に直接依頼した。それと南洋島が風雲を告げている現状、機能不全の扶桑海軍を地球連邦軍が指揮する必要が生じたためだ。ひとまず聯合艦隊を一端解散した上で、新たに未来世界での日本国防海軍及び米軍式の編成に改編された。これを『昭和の海軍ご一新』と呼んだ。









――軍組織は概ね戦前の姿から戦後日本式へ改編され、陸海軍省は空軍設立と同時に統合され『国防総省』と、軍令部と参謀本部も統合され、大本営に代わる組織として『統合幕僚監部』が設置された。これは未来世界での情報が一般に出回り、更に扶桑海事変の不祥事がリークされた事で『大本営発表』が決定的に不信を買ったためでもある。反乱を防ぎきれなかった事の責任を負う形で、小沢治三郎が聯合艦隊司令長官を辞任したのを機に、陛下からの依頼に則って、地球連邦軍は軍組織の再編を実行したわけだ。小沢治三郎は新体制下における再編を監督するため、軍令部総長へ任じられた。(その後に新体制下のポストへ就任)次長は井上成美である。(連邦軍側は本当は軍内いじめの根絶のため、旧軍将官の半数と佐官の30%を自主退職させたかったが、有能とされた者たちもそれに含まれてしまうため、消去法で有能な者はリストから外した。しかし史実の行いの情報は通達し、戒め代わりに使った)


――呉 旧軍令部

「小沢君、どうだねそっちは」

「向こうでの私の行いをこうして客観的に見ると、愚策を取り、兵たちからの評判が良くなかったのも理解できます」

自嘲地味に小沢は山本五十六に言う。小沢は確かに未来世界でも『統率力と指揮能力を兼備した名将』と評判だが、兵たちからは『頑固そうで、尊大ぶってやがる』、参謀から『航空部隊の運用については、就任後にどれほど勉強したか、飛行隊の実情をどこまで把握しているのだろうか?』と悪評も下されている。この世界における彼は男女平等が根付いている世界なためか、未来世界でのそうした負の面は無いのだが、改めて言われてしまうと意識せずにはいられないようだ。

「向こうでの私がどうだったのか、分かる気がします。世界が違えば、本に書かれているような側面を持ってしまったかもしれません」

「君だけではない。山口君も俺も、井上もそうした一面が表に出てしまったのが未来世界での過去の自分自身なのだろう。これは神が俺たちに与えた戒めの機会だ。悪いところは改めていけば良い」

「そうですな」

「俺は近々海軍大臣を辞する。井上に新体制下での国防大臣を打診しておるが、いい感触を得ている」



「山本さん、海軍はどうなるのでしょうか」

「時代が進めば海軍も変わってゆくさ。聯合艦隊などという明治期の遺産に縛られてはいかんさ」

山本五十六は未来人によって海軍が変わってゆくのを受け入れるつもりだろう。時代に合う形にしていくべきなのだから。

「蒼龍と飛龍だが、ウィッチ運用想定の強襲揚陸艦へ改修する案が承認された。雲龍型の初期建造艦も同様に改修していく」

「ウィッチ達が納得しますかな」

「いつの時代も反発は出る。何事もやってみるべきだ」


――山本五十六は艦載機のジェット化を推し進めているが、その課程でどうしても余剰となる蒼龍と飛龍、雲龍型の扱いに難儀していた。そこに強襲揚陸艦の情報が入ってきたので、ジェット機運用不可の小型正規空母を改修して生み出す方法が生み出された。後世のワスプ級強襲揚陸艦に範を取る形で、飛行甲板はウィッチ運用機能に特化し、ウェルドックを設ける形で改修がなされていた。

「果たして、吉と出るか、凶と出るか」

ウィッチ達が航空運用機能を持つ強襲揚陸艦を理解できるのか山本と小沢は不安であった。ウィッチ達の中には、突然降って湧いた新戦術に拒否反応を示すものも多いからだ。判断が正しいかは後世に委ねるとして……。






















――空軍組織が次第に形になり、高練度兵や士官はひとまず組織を形にしようとしていた。旧343空と64戦隊はプロパガンダ的意味合いも含まれるものの、一つに統合された。そこに宮藤芳佳や陸軍新三羽烏、加藤武子らは集められていた。戦線にそのまま送ることも考慮されたのか、先任分隊長は黒江綾香が任じられ、その下に菅野が第一分隊長を、加東圭子が第二分隊長を務めるといった豪華ぶりだ。このあまりの豪華ぶりに、他の部隊からクレームが出ている程だ。機材は双方が保有していた紫電改と疾風などを引き継いでいる。偵察隊として彩雲も配備された。







「独立空軍が設立されたのはいいんだけど、組織の規律とかはどうするの?双方の派閥争いも十分考えられるわ」

「向こうであった航空自衛隊とその後進の国防空軍を範にして規律とか整えるってよ。主力機も亡命リベリオンが作ったF-86のノックダウン生産品になるそうだ。組織そのものが再編されてる海軍に比べりゃ楽だぜ」



加藤武子は猛者共を取りまとめる飛行長の任に付き、大佐に任じられた。ミッドチルダへの再派遣も検討されている中、独立空軍を作った事は陸海軍の旧来の考えから解き放たれた事でもある。生え抜きが出てくるには当分かかるので、陸海軍の猛者共をどう纏めるかが課題であった。(ちなみに二人が着ている軍服はもはや陸軍のそれでは無く、新たに制定された物で、日本国時代の航空自衛隊及び国防空軍のそれである)

「F-86の後のは決まってるの?」

「うちらは攻撃能力備えた『普通の空軍』だからな。F-104かF-100の二強が候補だ」

「戦闘機型のそれは動かしてみたけど、F-100のほうが受けはいいでしょうね。F-104は迎撃戦闘機運用が最適だと思うけど」

「センチュリーシリーズのあたりは模索の時期だからなぁ。あの時期の米軍、核戦力に傾倒してたせいで『ミサイル万能論』『制空戦闘機軽視』が蔓延ってたって記録が残されてる。そのせいでベトナム戦争で泣きをみる」

「ミサイルか……たしかカールスラントが開発してる兵器を祖に持つ誘導ロケット兵器でしょ?」

「ああ。だが、過信はするな。妨害手段も確立されてるし、撃ち尽くしたらやはり巴戦の技能がモノを言う」

「もちろんそのつもりよ。新兵の子にはそれをよく認識させないとね」

技術革新の結果、ミサイルや空戦でのガトリング砲などが急速に実用化された。これによりウィッチ一人あたりの戦闘力は増した。問題は低練度兵がそれらを扱えるかどうかだ。新装備は優先的に撃墜王達に使わせているが、低練度兵らも訓練での使用が許可されていた。





――空戦訓練


「わ、わわっ!うっかりするとすぐ撃ち尽くしてしまう……九九式とまったく違う…!」

熟練者らが多く配置されたこの部隊においても若年兵は配置されていた。その中で、即戦力の有望株と見られているのが、坂本美緒の直弟子の一人で、芳佳の妹弟子に当たる海軍出身の若年ウィッチ『服部静夏』であった。彼女の転属に坂本は大反対したが、配属先が基地航空隊であった故に自動的に転属となった。容姿はポニーテールで、歳相応の初々しさを持つ若手である。少尉任官間もない彼女、周囲の期待を受けて育った故に『お固い』ところがある。それ故に部隊では『マスコット』扱いされて可愛がられている。彼女が今、持っているの、ウィッチ用にダウンサイジングされた、航空機関砲(原型はM61)である。これはジェット機の時代となった事で、旧来の航空機関砲では発射速度不足、威力不足が指摘された事によるもので、高等練習ストライカーも『T-33』が調達され、配備された。静夏はレシプロ機との速度の違い、機関砲の性能の違いなどに難儀していた。

「これがジェット……!今までとまったく違う!」

亜音速機とは言え、旧来のレシプロ実戦機より高速である。海軍兵学校時代に慣れ親しんだ九三式中間練習機脚や零式練習用戦闘脚とまったく違う飛行特性、速度差、機関砲の性能差に苦戦していた。





『フム……筋は悪くないが、機関砲の発射速度を頭に入れなさい。そんなんじゃすぐに弾切れよ』

『は、はい!』

静夏は無線で圭子から注意を受ける。ウィッチも高速化の時勢が訪れている以上、ジェットへの適応が求められる。インフィニット・ストラトスなどの未来装備に適応できるのはほんの一握り。今後はジェットストライカーに適応しなければ『落第』の烙印を押されてしまう。圭子はアメとムチを使い分け、育成に励む。教官としての素養もあったらしい。地上で次世代ウィッチの育成に精を出す、その姿は本人が当初望んでいた道でもある。ただし当時と違うのは、現役に戻っている状態で教官をしていること位だ。


『よし、今日はここまでだ。所定高度を維持しつつ帰投しろ』

『り、了解です』

初々しさを感じさせる静夏の声に、圭子は新世代の台頭に思いを馳せる。本来なら自分はとっくのとうに引退して然るべき人間だ。しかし今では、運命のイタズラで『空軍三羽烏』の一角を占めるようになった。未来世界や時空管理局との交流の成果で、ウィッチの謎もだいぶ解明されてはいる。

(坂本は戦うことでしか自分の存在意義を見いだせなかったのが運の尽きね。教官に専念してれば悠々自適に過ごせたろうに。あの子は意固地になるタイプだし)




坂本の愚直さは逆に上層部から疎まれる対象となり、501での功績にも関わらず、特進の対象とはならなかった。それはあくまで『武士』でいる事を望んだ末に友軍を危機に陥らせた事実との釣り合いなのだろう。今は自宅謹慎中のはずだ。

(武子と黒江ちゃんが明日見舞いに行くとか言うけど……)

坂本はこの2年、あがりに怯えていた。そしてその時が訪れた。教官の任について『余生』を送っていたが、空軍設立の際に一悶着起こし、自宅謹慎を命じられるなど、ここのところはいいところなしだ。のび太の時代に行ったことで多少は思慮深くなったが、根本的に激情型なのと、事変の時の経験でウィッチを政治的に利用しようとする者へは敵意を露わにする。良くも悪くも『前線で戦う』タイプである坂本には政治はできないのだ。圭子は坂本の行く末を案じる。それが戦う術を失ってしまった者が少なからず辿ってしまう道なのだから。
















――扶桑海軍の再編は地球連邦軍主導のもと迅速に進められ、南洋島・本土・ミッドチルダの三つの軍管区が設けられ、かつての米海軍及び、日本国防海軍(連邦海軍は両軍が主な祖である)に準じる編成が成された。米軍式の任務部隊が任務別編成として採用された。無線での欺瞞も兼ねて、旧・第3艦隊所属の艦艇は旧・第1艦隊の戦艦とを組み合わせて、南洋島方面防衛のために『第16任務部隊』として再編成された。旗艦は指揮艦として改装された軽巡『大淀』であった。









――軽巡『大淀』艦橋

「まさか乙巡ごときが大艦隊を指揮できる時代が来ようとはな」

大淀の艦橋でボヤくは角田覚治中将。猛将である事が評価され、機動部隊司令長官に任じられたのだが、旗艦が戦艦でも空母でも無いことに不満なようだ。彼はご一新で再び粛清人事の嵐が吹き荒れる中、積極的性格が吉と出て粛清を免れた。しかし軍内で蔓延っていたいじめ問題を見過ごしていたのが、陛下の怒りを買い、山口多聞と小沢治三郎共々、呼び出されて長時間に渡り、怒声で叱責されている。

『私は軍内で暴行が蔓延っているのはどうしても見過ごせん。要職にありながら見過ごしていたのはどういう了見か?』

――陛下に叱られることは扶桑皇国軍人にとって、最大の恥辱である。マスメディアには『人間性を疑う』と言った文字が踊り、自分たちの存在意義さえ問われている。帰り道で角田は意気消沈する小沢を宥め、山口多聞と共に名誉挽回を誓い、用意されていたポストを蹴り、前線任務を志願したのだ。

「閣下、CICまでおいでください」

「あいわかった」

大淀は元々は『潜水艦隊旗艦』として設計された。しかし時代の流れは大淀の想定任務を奪い、搭載機となるはずの紫雲も水上機の陳腐化に伴って開発中止され、1944年時には『浮いた存在』となっていた。だが、地球連邦軍は大淀を『指揮艦』として運用するを決定。大改装を施した。改装後の性能は以下の通り。


――『改大淀型軽巡洋艦』

全長・全幅その他は全長が竣工時より10m延長。後部甲板はヘリコプター甲板へ改装。武装は主砲は15.5cm3連装砲(自動装填装置搭載の新型。対空用途弾はVT信管化済み)二基、各種VLSを装備。CIWSは6基だ。対潜アスロック及び短魚雷装備(対艦用の酸素魚雷を外した)。指揮機能に特化したので、航空艤装は外された。速力はガスタービン搭載で32ノット(近代装備や装甲強化などの重量増の結果)である。大淀は途中で改装を施した信濃と甲斐の成果を反映して、より完成された指揮管制システムが搭載された。建造が棚上げされていた同型艦『仁淀』をこの仕様で新造する事も結成された



「無線を傍受した結果、ハワイの敵に活発な動きが見られます。南洋島侵攻を企てているのはほぼ確実かと」

「友軍艦隊の近代化はどうか?」

「エセックス級やモンタナ級の近代化は完了したとのことですが、デモイン級重巡洋艦の配備数はまだ十分ではありません」

「工廠に突貫工事を要請せよ。事は急を要するのだ」

「ハッ」






――この数年で南洋島の工廠は大幅に増強された。亡命リベリオン軍の拠点にもなっている都合上、地球連邦海軍がリベリオン艦艇の保守整備と造船なども引き受けているからで、ニミッツ提督の要請で重巡洋艦の増勢を依頼された連邦海軍はデモイン級重巡洋艦を造船することで答えた。史実では『遅すぎた最強の重巡』との諢名を持つデモイン級だが、連邦海軍が然るべき装備を与えた上で建造した結果、高雄型重巡洋艦を超越する高性能艦となった。既にネームシップと二番艦『セーラム』は竣工し、ボルチモア級重巡洋艦らと共に戦列を組んでいる。この重巡洋艦の登場は高雄型重巡洋艦の後継が棚上げされていた扶桑海軍を狼狽させ、対抗して『改高雄型重巡洋艦』の開発依頼と超甲巡の追加依頼を行うという面白い結果を産んだという。



「第30駆逐隊からの打電によれば、敵はウィッチの育成に成功、水無月、文月が同ウィッチ隊との交戦で撃沈された模様……!」

「恐れていた事が起こったか……」

「睦月と弥生は逃げ延びた模様ですが、重大な損害を被っており、航行が困難との事!」

「直ちに救助部隊を派遣せよ!それと統合幕僚監部に打電!『テキウィッチをカクニンス』だ!」

この打電は直ちに東京の統合幕僚監部へ伝えられ、大議論を巻き起こしたが、それは坂本の耳にも入った。従卒から伝えられたためだ。
























――坂本邸

「何だと!?それは本当か土方!」

「はい。上層部は蜂の巣を叩いたような大騒ぎです」

「おのれ戯言に乗せられおって……!ウィッチの本懐を忘れたか!」

ダンと刀を床に叩きつけて怒声を発する坂本。ウィッチが人類に弓引く存在となる事が許せないのだ。坂本らの世代はウィッチ同士で殺しあっていたであろう中世以前の時代の事など忘却の彼方に消え去っていた時勢の人間。ウィッチ同士で殺し合うなど悪夢以外の何物でもないからだ。



「少佐、どこへ!?」

「決まっている!横須賀に行く!」

「おやめください少佐、あなたは自宅謹慎中の身なのですよ!これ以上上層部の不興を買えば、今度こそ懲戒免職処分にされますよ!!」

「ウィッチが殺し合うなど私は許せん!!成敗してくれる!懲戒免職処分など知ったことか!」

坂本は自らの信念はどのような目にあおうとも曲げない。それがたとえ軍を去ることになっても信念を優先させるのが彼女だ。それがロマーニャでは裏目に出たのも事実だが……。土方は止めようと必死だが、こうなると坂本は止まらないのも事実。万事休すであったのだが……。


「やめなさい、坂本少佐」

「!その声は……加藤……さん!?」

武子だった。普段はぶっきらぼうな坂本も思わず敬礼を取る。誰に対してもほぼ呼び捨てをする彼女も武子に対しては、竹井が姉のように慕っている事などを知っているので、青年期を迎えてからは珍しく敬語を使っている。

「あなたの事だから行こうとするのは読めたわ。綾香から『見に行ってこい』って言われてね。業務は任せてきたわ」

「……黒江の差し金ですか?気の回る奴だ」

「あなたはあの頃から変わってないわね。羨ましいくらい。だけど、この事態は止められないわ」

「私に力がもはやないからですか!?エクスウィッチになったのが何です!信じるモノさえあればどんな事も、奇跡だって起こせます!」

「確かに信じることで奇跡は起きる。あなたの弟子の芳佳がやったようにね……。あなたに戦う意志が本当にあるか、確かめさせてもらうわ」

武子はそう言うと、なんとISを展開する。その機体は試作7号機に当たる機体で、最初から各部が小型化された状態で製造された、連邦製第二世代ISである。空間認識力が黒江より上である彼女の能力を反映し、フルスペックのサイコミュシステムが組み込まれており、武装に本式のフィン・ファンネルが含まれている。もちろん、扶桑軍人の例に漏れず剣術の達人であるので、刀も付いている。

「そ、それはハルトマンや黒江が使っていた……!あなたも手に入れていたというのですか!?」

「ええ。ミッドチルダにいる時にテストしていた機体の一つよ。あなたに戦う意志があるのならかかって来なさい」

「……いいでしょう。受けて立ちます」

「おやめください少佐。未来装備相手に生身で戦うなど無謀です!」

「確かに未来装備は強力だ。それにまとっているのは『扶桑海の隼』だ。だが、私とてウィッチとして名が知られた者。引くわけにはいかん」



坂本は制止を振り切り、刀を抜く。もはや魔力を失い、怪異と戦う術を失った事を示すかのように、寂しく刃に光が反射する。一方の武子は片手で悠然と構える。ISの武装である日本刀を構えるその姿はまさしく往年の『扶桑海の隼』である。幸い、坂本の邸宅には坂本が鍛錬するだけの空間は確保してあったため、二人が真剣で仕合うだけの空間はあった。なし崩し的に土方が見届け人を務めることになった。










「うおおおおっ!」

坂本は刀を振るう。ウィッチとしての力を失った者、取り戻した者。その違いはあれど、坂本は武士としての意地を見せんとした。だが、既に往年の技の冴えを取り戻した武子はその刃を軽くいなす。坂本もリバウで鳴らしていたが、武子はカールスラントで戦果を挙げた猛者。坂本の一撃を片手で受け止める。

(くそっ、全く攻撃してきてない……私の攻撃など片手で十分だというのか!?」

武子はISを纏っている。その分のハンデとして坂本に攻撃させていた。坂本の太刀は確かに幼い頃から研鑽を重ね、熟練者と言っていい。だが、同時に力を失ってしまった事に泣き、無鉄砲な行動に走らせている事をも武子に伝えていた。確かに武子も二年前の呉空襲で教え子を失い、一時は療養に追い込まれた。だが、嘆いたところで何も戻りはしない。武子はそれを糧にしたが、坂本は嘆くばかりで一歩を踏み出せていない。それを剣を通して感じていた。


(やはりこの子は魔力を失ったのを嘆いてる…。綾香が言ってた事が当たったわね。だけど嘆いてばかりでは何も変えられないし、『踏み出せない』わよ、坂本)

打って変わって攻勢に出る武子。無双神殿流免許皆伝な上に、黒江を通して飛羽高之と面識を持った事で二年の歳月をかけて会得した『飛羽返し』と『秘剣・流れ十文字』、バトルフィーバー隊の倉間鉄山将軍から伝授された『電光剣唐竹割り』がこの時点での彼女の必殺技である。しかしそれらを使わないあたりは『礼儀』である。ISと言っても各部が小型化された改良型なので、武器のサイズその他は人間サイズである。歩行機能も備えているので、このような立ち回りも可能である。(箒の赤椿もこの仕様に改良された)

「うっ、くうううっ!」


――武子の一撃一撃はISを使っている事を差し引いても重く、鋭かった。いくら優れた性能のマシーンを使おうとも使用者が性能を引き出せなければ意味は無い。だが、武子はISを使いこなしている。坂本は刃を受け流すだけで精一杯になっていた。だが、次第に消沈していた闘志に沸々と火がつくかのように、目が自信に満ち溢れていた時のそれに戻っていった。

「うおおおおっ!」


それを確認した武子は坂本の渾身の一撃を敢えて受けた。大上段からの振り下ろしだ。ハッとなって我に帰った坂本は武子に思わず問いかける。

「だ、大丈夫ですか、武子さん」

「なあに、ISにはシールドがついているから軽いものよ。やっぱり何だかんだであなたも北郷大佐の教え子ね。剣から迷いが消えた」

「私に仕合を仕掛けたのはそのためですか…?」

「そうよ。あなたが力を失うことに怯え、その時が来たことを嘆いたように、私も呉空襲で教え子を失った後悔にさいなまれて、勤務から外れたけれど、ある時に教え子の実家に戦死を伝えに行った時に、先方のご両親にこう言われたわ。『教官は娘の分までお勤めを果たされるように』って……ね」

武子が立ち直る最大のきっかけは戦死した教え子の両親にそう声をかけられ、自分を責める必要はないと諭された事で心の鎖が断ち切られた事であった。ミッドチルダに派遣される少し前の事で、それは三羽烏にも後々に知らされたという。それをきっかけに少しずつ往年の精気を取り戻していった。坂本は武子の心を垣間見、嘆き悲しんでいたのは自分だけではないのを知った。

――そこに通信が入る。黒江からだ。

『フジ!』

『綾香、どうしたの?』」

『お、坂本もいっしょか。ちょうどいい。ハワイの敵艦隊が南洋島めがけての出撃準備を始めた!かなりの大部隊だ』

『何ですって!それで上の対応は?』

『南洋島に配備されていた大和を中心にした任務部隊がリベリオン艦隊や連邦軍と共に出撃する。ウチにも出撃要請が下った!皆、瑞鶴に集まっている』

『了解、そのまま瑞鶴に行くわ』

『OK』

通信を終えると、武子の顔が戦闘時のそれに切り替わる。南洋島を失えば扶桑皇国は膨大な軍隊を動かす資源を失い、大日本帝国と同じ運命を遅かれ早かれ辿ってしまう。今の扶桑の強国ぶりは南洋島の膨大な地下資源あって始めて成り立つものだ。ティターンズは南洋島を奪う事で皇国を窒息させるつもりなのだと一同は悟った。

「坂本、あなたをウチの客室教官として迎えるわ。海軍大臣や軍令部総長の了解は得てある。瑞鶴に行くわよ」

「し、しかしここからでは艦隊の出航時間には間に合いませんよ!?」

「車で行くなんて一言も言ってないわ」

「……はい?」

外に出て、ウィングを展開する武子。その形状は黒江のそれと同型のウィングガンダム型だ。坂本を抱き抱え、スラスターに火を入れる。




「兵曹は補給物資の手続きお願い。小沢閣下には話つけてあるけど、主計科が文句言ったら小沢閣下や山本大臣の名前出してやって」

「ハッ!」

土方に言付けすると、坂本を抱き抱え、そのまま超音速で横須賀に向かった。












――こちらはハワイ真珠湾。今やティターンズの拠点と成り果てたこの地に一人の男が降り立った。ティターンズ残党を統率する『アレクセイ』である。彼、MSの腕前も実は撃墜王級で、在りし日のジャミトフ・ハイマンからはガンダムタイプの搭乗を許されていたほどである。

「閣下、アレがアルザス級戦艦であります」

「ほう。フランス軍艦をアメリカの部品で完成させたのか」

「何分、おフランス野郎どもの仕事はいい加減ですから」

アレクセイに紹介されたアルザス級戦艦とは、史実でリシュリュー級戦艦の発展型として建造されるはずの超大型戦艦であった。彼らは建造中の艦を接収。信頼性の高いリベリオン製部品を多分に使用する形で完成させた。そのために、原設計では四連装砲塔であった主砲がテストなどを経て、リベリオン製の連装砲塔(40cm砲)に換装されている。その他にはモンタナやアイオワ級との互換性の確保と兵站上の都合で細かな武装などは米艦のそれである。

「ふむ。それで敵の様子は?」

「ヤマトタイプを用意しているようです」

「キイタイプではモンタナの相手にならんことを教えてやったからな。それくらい出して貰わなくては張り合いがない」

「敵はエゥーゴの援助で編成を大幅に観直したようです」


「付け焼刃的な運用は損害を増やすだけだというのにな。デモイン級を竣工させた以上、奴らのミョウコウやタカオなど恐れるに足りん。粉砕してみせようぞ」

「ハッ。それとZガンダムが場合によれば投入されると」

「『出戻りジェリド』ご執心だった小僧か……G-X及びGP04の整備を整えよ。私が出るやもしれん」

「ハッ」







彼らの切り札は未来世界内に未だ燻ぶる地球至上主義者(アナハイムや連邦軍内などにも多数いる)達から数年ほどの歳月をかけて手渡された『ガンダムMK-X』や『GP04ガーベラ』などである。これらは核攻撃用のGP02と違い、通常のガンダムタイプであるために汎用性に優れる。アレクセイ用に用意されたという点に、ティターンズ支持派だった者達の残党への期待度が分かる。そして、双方ともに同種の艦が別々に存在する事を示すかのように、アルザス級の隣に投錨している重巡洋艦はデモイン級であった。こちらは5隻以上の複数が存在する代わりに近代化は軽微だ。(ちなみに彼らの間で出戻りと揶揄されるは、ティターンズ崩壊の原因を作った張本人である、今は亡きジェリド・メサ。彼はティターンズ崩壊を招来させた一因を結果的に担ってしまったため、内輪でも評判最悪である)


「揚陸部隊の編成ができ次第、作戦第一段階を始める。B-52Hの戦略爆撃の準備は?」

「間もなく完了します」

「手始めにムー大陸沿岸部の都市を爆撃し、市民を震え上がらせる。15000mからの爆撃に専念しろ。ジェット機でも無い限りそこまでは上がれんはずだ」

「ハッ」

アレクセイの通達は直ちに爆撃機隊へ伝えられ、轟音とともにB-52Hが発進準備を整える。8年ぶりに扶桑皇国が戦場となる、『太平洋戦争』の戦端は間もなく開かれようとしていた……。



※今回の扶桑皇国海軍再編成や改大淀型軽巡のアイデアはフェリさんから頂いたモノをベースに構成いたしました。909



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