外伝その4


−501はティターンズ残党軍とも何度か交戦していた。その内の一幕を紐解こう。
501の面々がもう一つの地球(我々の知る地球)の辿った殺戮の歴史を知ったメンバーは一様に衝撃を受けていた。戦争の嵐と形容したほうがいいほどの歴史。歴史上重要な戦争を挙げても3つの世界大戦に統合戦争、一年戦争からの度重なる宇宙戦争など。

「これがネウロイがいなかった場合の歴史だというのか……」

そう。彼女らにとって凄まじい殺戮の嵐と言える戦争。第二次大戦では戦前体制の崩壊によって一部の国々では永い間、愛国心を叫ぶことすらタブー視され、一部の超大国が
世界を動かした冷戦時代。冷戦の終わりと共に始まった超大国の衰退と新興国の勃興。そして地球連邦の設立とその過程での旧国家群、言わば「反統合同盟」とも呼ばれしもの。それらは主に旧東側諸国と石油が枯渇し、落ち目になった中東国家との長き局地戦。そして地球連邦が名実共に統一政府となる時に起こった米国との大戦。そしてその傷が癒えようとしていた時代には、今度は宇宙移民と地球に残る人々の対立。内輪揉めさえこれで、宇宙戦争では一部除き、更に酷い殲滅戦になり、母星を滅ぼしたり国家中枢を消滅させたりして生存を勝ち取ったという歴史は人間同士の戦乱から遠ざかって久しい彼女らにとって重く、辛い事だった。

「そうだ。悔しいがこれは我々にとっては事実だ。それと、君等を襲ったのはグリプス戦役の敗者となったティターンズの残党だ。奴らは殆どが軍閥同士の闘争に敗れた地球至上主義者の集まりと言ったほうが正しい」
「ティターンズって元はあなた方の中の内の一つだったんですよね、どうしてそこまで……」

ティターンズへの侮蔑を見せるシナプスにリネット・ビショップが戸惑いを見せる。落ち着いた壮年の男性に見えるシナプスがここまでの感情を見せるのは驚きのようだ。
シナプスはそれに答える。

「ティターンズは創設者はともかくも、殆どの構成員が反感を育てるだけの集団だった。彼の真意を理解していたのは少数の良識派だけで、宇宙の大衆には第二次大戦のナチスの武装親衛隊や秘密警察のような集団だと思われていたのだよ」

そう。ティターンズは地上部隊やコンペイトウ駐留部隊などの一部は真の意味のエリートと言えたが、大半が横暴かつ横柄な兵士たちで占められていたがために人々の反感を買った。創設者のジャミトフ・ハイマンでさえこの状況を打破すべく右派を粛清する計画を立てていたほどの非道ぶりはやがて現在の主流派となった「エゥーゴ」の勃興に繋がるとリーネに説明する。



「ティターンズの構成員の大半は選民思想と意識に取り憑かれていた。それが破滅の始まりとも知らずに……」

シナプスは自身を陥れ、一時は囚人に追い込まれたためかティターンズを嫌っている。が、ジャミトフ・ハイマンの抱いていた思想そのものにはある程度は理解できるとの心情は見せていた。たとえ表面的に悪に見えても連邦政府の腐敗を打破しようとした事自体は評価されている。これはエゥーゴの指導者であった「ブレックス・フォーラ」もティターンズ実戦指揮官「バスク・オム」に対抗心を燃やしつつも、ジャミトフ・ハイマンに対しては嫌っていたもの、思想そのものは否定していなかった事がその証拠である。

「選民思想か……確かにネウロイとの戦争がなければカールスラントもああなっていたかもしれんな……」

バルクホルンはもし、人間同士の戦争で皇帝を中心とする体制が崩壊していればナチス・ドイツのようになっていた可能性がある事に気づき、戦慄した。そうすれば自分は501のメンバーとはほとんど出会うことなく、下手すれば手にかけたかもしれないと。

「うん……今のカールスラントの体制に反対してる人なんて多いしね……もし今の帝政があの時に無くなってたら……ネウロイにしろ、人の手にしろ、倒されてたら……あんなになっちゃったかも」

そう。ハルトマンもバルクホルンと同様のようである。今のカールスラントの帝政は疲弊している。今は国への愛国心で国を持たしているだけだが、戦争が終わった後の施策を誤ったらたちまちの内に倒される可能性も無いわけではないのは容易に想像できる。そう。ティターンズの破滅はこの世界の国家のどこにも当てはまる`道を間違えた場合の行く末`を暗示していたのだ。地球連邦政府も一時は事なかれ主義と官僚主義に取り憑かれ、ジオン、クロスボーンやザンスカールの勃興の一因を形成したように、これは国家が陥りやすい罠なのだ。

次にティターンズの出自と使用兵器に関するレクチャーが始まる。ティターンズが使用しているのは装備からグリプス戦役の後期以降の装備と旧式装備との混成であると説明を受ける。特に注意を受けたのは主力モビルスーツである。この辺の説明は実際に交戦しており、人への説明が上手いシーブック・アノーが行なった。


「ティターンズのモビルスーツは大抵がこの`マラサイ`という機種です。ティターンズで最も普及した機体の一つで、能力も高い」

シーブックはわかりやすいように映像を織り交ぜながら説明する。501を最初に襲ったのが旧式のハイザックなのは威力偵察の意味も含まれるだろうとも付け加える。

「マラサイにしろ、ハイザックにしろ、ビーム兵器は標準装備ですし、うっかりするとシールドを貫通されてお陀仏になりかねないので注意してください」

モビルスーツにとってはビーム兵器は標準装備で、ウィッチはよほど注意しなければ落されるだけだと告げるシーブック。501の面々は既にモビルスーツの威力を理解している数人ももちろんだが、それ以外の面々も固唾を呑んで聞き入る。

「私は固有魔法で全方位広域探査を持ってます。だけどあの時は全く探知できなかった。どうしてですか……?視認はできたのに……」
「それは私も同じです。三次元空間把握能力を持っているのに、まったくそれが役に立たなかった……どうして……?」

サーニャ・V・リトヴャクとミーナ・ディートリンデ・ヴィルケが自身の感知系魔法を封殺された事に悔しさを顕にした。事前に察知できていれば、ああも安々と、いくらジェット機とはいえ、一方的な先手は打たれなかったはずだと言う。それは仲間を危険に晒してしまった事へのミーナとサーニャの悔恨でもあった。

「それは2人の固有魔法を妨害、あるいは無力化する装備を使ったことや、下準備をティターンズがおこなったからでしょう。ミノフスキー粒子やアクティブステルスなどでね」
「ミノフスキー……?アクティブステルス?」

シーブックはミノフスキー粒子散布の状況下での戦闘や戦闘機に備えられるアクティブステルスなどを2人に説明する。ミノフスキー粒子は「レーダー、センサーの多くを使用不能とするか、機能の精度を低下させる」効果があり、更にアクティブステルスはこの時代に研究され始めたレーダー波吸収を企図して色々と工夫をこなす受動的なものより、世代の進んだもので、`レーダー波を分析し、逆に欺瞞情報を送り返す電子対抗手段(俗に言うECM)である`事を告げる。

「ティターンズはそれらを上手く組み合わせてあなた達のレーダー他の索敵手段を封殺し、奇襲に打って出たんでしょう。それは実証されたので、これからはこういう手段で襲ってくるのは十分に考えられます」

「そんなものがあるなんて……これじゃ他の戦線でも苦戦は免れない……下手をすれば……」

これからの戦いでは自身の能力を封じられたに等しいミーナはそう危惧する。既に505が壊滅した報は届いていたので、これではティターンズに蹂躙されるのを待つだけではないかと。

「我々は元々は調査のためにきたが、ティターンズが行なっているのは単なる侵略にすぎん。ティターンズのような者を生み出したのは我々の落度でもある。それを止めるために我々は君たちウィッチに全面協力する事をここに宣言する」

シナプスは地球連邦軍が彼女らにとって友軍であることを示すため、ウィッチ達全員に向けて宣言して見せた。既に芳佳や菅野、坂本、シャーリー、ミーナは了承ずみだが、その他のウィッチ達は半信半疑であったので、味方だと信じてもらうには敢えて行動で示す必要があったためだ。この、艦隊司令自らの行動にウィッチ達は喝采を送る。そしてこれ以後、501は艦隊と溶け込んでいくことになる。


−余談

「宮藤、ついてこい!オレの訓練に付き合え!」
「え、ええぇ〜!!ちょっと待ってください菅野さん!これからリーネちゃんと料理の…」
「料理は逃げねえよ。とにかくオレにつきあえ!!じゃないとかつ丼奢ってやんねえかんな!」
「り、リーネちゃんんんっ……た〜す〜け〜て〜……」
「よ、芳佳ちゃ〜ん!?」

菅野に強制連行されていく宮藤芳佳。それに唖然とするリネット・ビショップ。そしてそれをさらに何故か嫉妬全開の視線を向けるゲルトルート・バルクホルンの姿があった。それにエーリカ・ハルトマンとジュドー・アーシタ、シーブック・アノーは顔を見合わせて「やれやれ」とため息をつきあった。

「やれやれ、ナオちゃんのいつものアレが始まったよ」
「ねえ、2人とも。カンノってそんなに凄いの〜?」
「ああ。ストライカーユニットを3日に一度くらいの割合で壊すんだよ。……ミーナさんの胃が持つかな」
「ミーナは苦労人だかんね」
「エーリカちゃん、今度ミーナさんにガ○ターテンか太○胃散でも持って行ってやりな」
「うん。トゥルーデは宮藤にお熱だしねぇ。カンノがアレじゃミーナが死ぬね。噂だとブレイクウィッチーズだっていうし……」

……と、意外に友を客観的に見るハルトマンであった。当のミーナは菅野がストライカーユニットを壊した事が美緒から報告され、頭を抱えながら突然の腹痛にも襲われたとか。後の艦医の診断では「神経性胃腸炎」とされ、図らずしもブレイクウィッチーズの一角を抱えてしまったことを改めて自覚した。















‐501とティターンズの戦いはZZガンダムとHi‐νガンダムの活躍により、501側にひとまずの軍杯が上がり、撃退に成功した。撃退後、直ちに破壊された基地から物資の搬入をすべく、作業用に格下げされて、搭載されていたジムUなどを狩りだしての作業が行われていた。
そんな中、とあるモビルスーツ大隊長が私的に調達していたガソリン車時代の名スーパーカー`ブガッティ・ヴェイロン`の存在が上層部にバレ、一悶着を起こしていた。

「全くよくこんなモノ手に入れてたもんだぜ」

兵士たちはもの珍しそうに赤城の格納庫に駐車してあるブガッティ・ヴェイロンの姿を見ている。
当代最速レベルのスーパーカーであったこの車の事は有名で、時速400キロを最初に突破した世代の代表格である。
そんなモノが何故軍艦にあるのかは調達してきた当人に聞かなくてはならないが、手空きだったシャーリーは`最速`を誇ったという車の噂を聞くなり、スピード狂の血が騒いだのか、数日の準備を経て、物資調達を名目にその車を駆って町に繰り出してしまった。

持ち主の`彼`曰く、大英帝国のどこであのパワー出すんだ?との事だが、シャーリーはそんな事お構いなしに未来のスーパーカーのパワーを存分に発揮させていた。

「おぉぉぉ〜!!こ、このパワー凄いぞ!ぐんぐん加速していくぅぅ〜!!この感覚、たまんね〜!!」

常識的に考えるとメーターの最高速度の時速400キロ余りを出せる所はブリタリアには無い。それは残念だ。

「未来世界のアウトバーンならこいつの最高出力出せんだけどなぁ……贅沢言ってられないな」
「物騒なこと言わないでください〜!!」

助手席には道案内役として、リネット・ビショップが乗っていたが、シャーリーのスピード狂な運転に冷や汗かきっぱなしで、心休まる暇がない。しかも今乗っているのは、未来世界の超絶までに速い車なのだ。
幸い物資を載せるスペースは、連邦軍の軍用車輌が来てくれたので、それに任せるとして、シャーリーの運転の荒さを考えるとハラハラドキドキせずにはいられなかった。

「ここで買えるもんは積み込んだぞ〜!」
「了解!さあ行くぜ!!」
「やめてください〜〜!!」





物資が搬入されたこの日より、破壊された基地の代わりの臨時基地として、ブリタリアに停泊している`地球連邦軍の戦闘空母にその基地機能を移した。
艦内を好きに回っていいとの許可も降りていたので、501の面々はそれぞれ自由行動をしていた。既に艦に住んでいる(?)
坂本美緒などが案内役になっていた。ゲルトルート・バルクホルンはエーリカ・ハルトマンを引き連れ、艦の格納庫に来ていた。

「あれ?バルクホルンさんにエーリカちゃんじゃないの。どうしたの今日は」
「ああ、今日は艦内を見て回ってるんだが……しかし、改めて見ると凄いな、これは」

バルクホルンは格納庫で整備を受けているZZガンダムの姿を見上げる。20mはあろうかという巨体は`いかにも`といった逞しさを感じさせている。この間見た時とは姿が微妙に違う。あの上からさらに装甲を纏っているというのが正解だろうか?武器のラックには手持ちの重火器らしきものもかけられている。

「あれは?」
「フルアーマー化の調整がやっと終わってね。その時に使う武器も届いたのさ」

ジュドー・アーシタはあれだけ重装甲に見えるZZがさらに追加装甲と装備を纏う必要があるのか。その理由を話す。ビーム兵器全盛の時代には一部の超合金(一部のガンダムが纏う超高級素材のガンダニュウム合金や超合金Zや合成鉱Gなどの素材)でも無ければ装甲でビーム兵器を完全に防ぐことは不可能であること、それで悩んだ連邦軍がたどり着いた答えは`追加装甲と武装をつけちゃえ!!`という子供みたいな答だったと。(ジュドーは第一次ネオ・ジオン戦争最終決戦時にフルアーマー化されたZZに`このゴテゴテしたのはなんなの!!`と憤慨しているが、今では受け入れた。)

実際、その答えは時世にマッチし、一年戦争末期にファーストガンダムタイプを素体にした数種の試作機が完成していた。時が下り、兵器開発の大口の一つ`アナハイム・エレクトロニクス社`がその考えを性能が向上したいくつかのガンダムタイプの機体に適用させた。その成果の一つがこのフルアーマーΖΖガンダムであり、その隣に安置されているフルアーマー百式改である。

「ハイパー・メガ・カノンだとかハイパーメガランチャーだとか、ビームマグナムだとか、舌を噛みそうな名前だね」


ハルトマンが武器の名前が複雑で言いにくいと感想をいう。たしかに語感の良さで付けられている感があるのでジュドーも同意を示す。そして彼女らの前で真新しいモビルスーツ用の武装が搬入される。それはアナハイム・エレクトロニクス社が手持ちライフルで`メガバズーカランチャーと同等以上の威力を実現させる!!`と息巻いて設計した新型のビーム・ライフルだ。名前は`ビームマグナム`。本来は今後新造予定の新型ガンダム用の武装として作られていたが、開発過程で他の機体によるデータ収集の必要性が生じ、在来の機体で運用可能なように改修されたデータ収集用の試作のものが予備含めて数個ほど回されて来たのである。

「俺達には新型の機体や武装が優先的に回されるのはいいんだけどさ。扱う方も大変なのよ。機体のOSのアップデートだとか機体の整備とかさ。複雑怪奇なの多いから、ワンオフの高性能機は」
「それはいつの時代も同じということか……喜んでいいのか、悪いんだか」

バルクホルンもいつの時代も自分達同様の苦労があるということを知り、ジュドーと共に溜息をつく。ハルトマンはそんなバルクホルンに気分転換をさせるべく、バルクホルンを強引に食堂に連れて行く。

「お、おいハルトマン!?」
「2人共、暗いことばかり考えると胃に穴開くよ〜食事でもして気分切り換えだよ」
「そういや俺も腹減ってたし、ちょうどいいや。ここの食事は上手いよ」
「ミヤフジの奴も手伝ってるって言うし、一度見に行こうよトゥルーデ〜」
「あ、ああ。確かにいい機会ではあるな……」

ハルトマンはバルクホルンが新入りの宮藤芳佳を妹に重ねて見ている節を知っていた。そして、昨日のネウロイの襲撃の際に宮藤が治療魔法でバルクホルンを救ったことはありがたかった。礼も兼ねて、宮藤芳佳やリーネ(宮藤芳佳とリネット・ビショップは互いの初戦果を共同撃墜という形で挙げたなどの経緯で親友となり、今は2人で食堂などを手伝っている)がどんな食事を作るのか見に行くのだ。ジュドーの案内で食堂へ向かった。

「ところでトゥルーデ。ミーナは何してんの?」
「ああ、ミーナは今上層部の提督達やこの艦隊の高級将校と会ってる。なんでも扶桑の連合艦隊司令長官自ら支援に来たとかで……」
「大変だねぇ、ミーナさん」
「アイツも色々と苦労してるからな。マッサージチェアをプレゼントしてやりたいくらいだ。あれって高いのか?」
「いや安いよ〜そこそこの値段で買えるし」

会話を楽しみながら3人は食堂に向かう。―しかし食堂ではとんでもない光景が広がっていたりしているが、この時の3人は知る由はなかった。











 ―食堂では菅野直枝がカレーライスやファストフードを食っていた。てっとり早く多くの量を食る特訓で、一週間後の艦内の大食い競争に半分勢いでエントリーしてきたためだ。

「宮藤、福神漬とラッキョウをもってこい〜!!」
「は、はい!!そんなに食べて大丈夫なんですか〜?」
「オレの胃はんなにやわじゃねーよ。まだ5杯しか食ってないしな」

いざ出るからには優勝したいのが心情だ。5杯くらいでへこたれていたらとても優勝など出来ない。せめて今回は10杯は行きたい。ひたすら食事にがっつく。

「直枝……お前、何をやってるんだ!?」
「お、坂本さん。今度大食い大会にでるから特訓してんだよ」
「特訓だと……?」

食事にありつこうと食堂にやって来た坂本美緒が菅野の周りに積み上げられた食器の様子に驚く。
既にカレーライスの食器が5杯は積み上げられている。さらに食おうとしているのが不思議なくらいだ。

「実はこれなんですよ坂本さん」
「どれどれ」

そして芳佳が艦内にはられているチラシを坂本に見せる。そしてその商品と賞金は美緒も思わず欲しがるほどの魅力に溢れるものだった。

「……宮藤、この大会のエントリーはどこでできる?」
「広報部のところで受付してますけど……まさか坂本さんも!?」
「善は急げだ!!アイツに負けてたまるか〜!!」

芳佳は坂本までもが大会にエントリーしに行った事に驚きつつ、菅野の座っているところに福神漬とラッキョウを追加で置いてやる。

よくよくみるとあちらこちらで似たような光景が繰り広げられている。-考える事は皆、一緒らしい。

今日は忙しくなるなと芳佳は微笑ましい表情を浮かべ、厨房に向かった。








-この時、坂本美緒は実は魔力を失いつつあった。ウィッチとしての寿命である`20歳`は後1年未満にまで迫ってきている。同期や先輩達が未来世界の技術で続々と若返りを果たして、前線に復帰していることは概ね知っていた。だが、彼女は元々の`運命`に必死に抗った。引退したウィッチが復帰するのはいい。だが、美緒は自分はまだ本当の意味での現役ウィッチだとの堅持を見せた。連邦軍からの若返りの誘いを`まだその時ではない`と断ってでも努力を重ねた。それはもはや『あくまで自分は宮藤芳佳を見守っていたい』という妄執にも近い想いだった。
その鍛錬の様子を、`この世界`では旧知の仲の菅野直枝はコッソリとだが、悲しげに見守っており、特訓が終わったあとは坂本を心配するあまり眠れなかった。





(坂本さん……アンタって人は……)

坂本の涙苦しい努力は痛いほどよく分る。だが、その運命に抗うには宮藤芳佳のように強大無比な魔力があるか、
体内に時空管理局の言う`リンカーコア`という体内器官が無ければ不可能なのだ。枯渇する前に何万分の一の確率でゲッター線との相乗効果で偶発的にリンカーコアが体の中に生じることを祈るしか無い(この幸運な例の一つが未来世界に行った穴拭智子であり、黒江綾香である)……。


「……どうするか?シーブックさんにでも相談してみるかな」

菅野はその性分からか、いても立ってもいられなくなり、ひとまず艦隊の機動部隊の`兄貴分`で、自らも慕っている、ガンダムF91のパイロット`シーブック・アノー`に美緒についての相談を持ちかけた。


− その日の夜 艦内 シーブックの私室


「シーブックさん……。もうオレ、坂本さんのこと、見てられないよ……どんなに努力しても大概のウィッチは魔力をいずれ失っちまうんだぜ!?」
「……あの人は芳佳ちゃんを見守っていたいんだろう。たとえ自分が死ぬことになっても……な」

―坂本の涙ぐましい努力はあと一年もすれば全てを否定されてしまう。


それを知っているからこそ、343空で姉貴分的存在であった坂本をなんとかしてやりたいが、どうすることもできない。
その悔恨が顔にモロに出て、今にも泣きそうな顔の菅野をシーブックは優しく抱き、菅降の涙を受け止める。
彼はニュータイプである故に、坂本のの秘めたる想いに気づいていた。彼女は必死に隠しているが、
ニュータイプであるジュドーやシーブックは彼女と触れ合った瞬間に彼女の心の望みを垣間見、想いを感じとった。今のところ、坂本の真意に気づいているのは彼女と最も多く接しているミーナと、
陰ながら鍛錬の様子を見守っていた菅野、それとニュータイプであるジュドーやシーブックだけだ。

「宮藤……か。たしか坂本さんは宮藤の親父さんと面識があったって`姉御`(西沢義子の事)から聞いたことが……まさか!?」

ハッとある一つのことを思い出す菅野にシーブックもうなづく。

「たぶん、そのまさかだろうな」

2人は坂本が何故、過剰なまでに芳佳に入れ込んでいるのか。その疑問に一つの回答を見出しつつあった。それは宮藤芳佳の父に関係があることだと。



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