外伝その6


「アフリカは熱いわねぇ……まいちゃう」

ラムネと思しき炭酸飲料を飲みながらティアナは愚痴る。強烈な日差しは一発で肌がカラカラになるかと思うほどだ。

「うまいねぇ。このラムネ」
「でしょ?主計課の人からチョロマカしといて正解だったわ〜」

ティアナと真美は出発までの短い休息を楽しんでいた。ラムネを飲んでいる美女は飛行機の整備をしている男たちには何よりの眼の保養であったとか。

 

− アフリカ大陸 トブルク 第31統合戦闘飛行隊「ストームウィッチーズ」が駐留している航空基地

轟音と共に3機の噴流推進機(ウェイブライダー)が現れ、ランディングギア(航空機としての運用も一応は考慮されているために装備されている)を出して着陸態勢を取る。

「あれは……?」

加東圭子は上層部から通達のあった援軍の第一陣が飛来する時刻になったので基地の外に出ていた。見たことのない灰色の飛行機だが、上層部の言っていた`援軍`とはアレのことなのだろうか。基地の要員が着陸の指示を無線で伝えている。先方は見事な動作でアプローチを行い、整然と着陸していく。
「ケイ、あれが援軍なの?」

待機中だったライーサ・ペットゲンが圭子のそばにやってきた。加東圭子は扶桑海事変に従軍した経験も持つエースなのだが、今は`あがり`を迎え直接戦闘には参加しないが指揮官としての役割を果たしている。退役時の最終階級は中尉で、その後現役復帰の際に大尉へ、次いで少佐に任官された。因みに従軍記者の身分であった際に`ケイ`と呼ばれており、それが定着している。

「ええ、そうらしいわ。それにしても凄いわね」
「大きい……。普通の戦闘機の2倍はありそう」

駐機を終えたZプラスのパイロット達が着任の挨拶を行うべくやってくる。パイロットたちは比較的若めだが、26、7には見える。彼等は圭子に着任の挨拶を済ませると艦隊が得た情報を伝える。

「少佐、私たちは地球連邦宇宙軍戦闘第301航空隊「新選組」であります。
我が艦隊の司令長官からの命を受けてやって参りました。よろしくお願いいたします。」

パイロットたちはその後、官名を名乗った。宇宙時代で様々な人種が混在する地球連邦軍の中では珍しく純粋無垢な日本人らしく、苗字で「セキ」、「スギタ」、「イソザキ」と名乗った。階級は左から順に大尉・軍曹・大尉である。部隊名や苗字が何処かで聞いたような名前なのは訳があるらしい。

「他の人員と機材、それと補給物資はあと3時間ほどで到着いたします」
「ありがとうございます」
「早速ですが、少佐。状況はどうなっておりますか」

小隊長の`セキ`大尉が圭子に状況を尋ねる。圭子は一枚の写真を見せる。それは以前、マルセイユが戦った`みにくいアヒルの子`と形容した戦闘機−「F−4 ファントムU」であった。

「私たちはこれらの戦闘機に苦戦を強いられてます。この戦闘機のスピードとロケット攻撃に悩まされて、制空権を維持するのも一苦労で……」
「…コイツは驚いた。こんな古典的な機体がまだ残っていたとは」
「これのことを知っているのですか?大尉」
「ええ。コイツは`F−4 ファントムU`。我々の世界でのリベリオン合衆国に当たる国家「アメリカ合衆国」が1950年代に採用した艦載機です」
「……!!」

大尉は圭子に戦闘機の正体を告げた。この戦闘機は一時代を築いた名機だということを。そしてこれは彼等から見れば`古典的`とされる代物である事実を知ることになった。

 

 

現にティターンズの有する戦闘機の殆どは連邦正規軍の装備から見れば、外見は旧式だが、
アビオニクスやエンジンが最新レベルの物に換装されているために最新装備の連邦正規軍でも決して侮れない。特にスピードでは現状のストライカーユニットでは対抗するのは極めて困難である。それは人類最強のウィッチの一人「ハンナ・ユスティーナ・マルセイユ」を以てしても同様であった。

「クソッ!速度が違いすぎる……!!この私が一度ならず二度までも……っ!」

この日も彼女はストライカーユニットの小回りの良さを以てして、数日前と同様にクルセイダー1に挑んでいたが、やはり決定的な速度差は否めない。一撃離脱を目論んで作られたメッサーシャルフ(向こう側のメッサーシュミットに当たる)109Gの特徴をことごとく上回るジェット戦闘機の前では複葉機で最新鋭機に挑むのような感覚を覚える。これが真美や圭子が使っている扶桑のストライカーユニットなら`左ひねりこみ`や`木の葉落とし`などの扶桑(日本)機特有の神がかり的な旋回性能を用いたマニューバーを以てして対抗できる(史実でも熟練搭乗員の手にかかれば、一式や零戦でP−51を一方的に捻り潰す事も可能で、実際に赤鼻のエース`若松幸禧`陸軍少佐が中国戦線で示している)のだが、`敵が銃の火線に飛び込む`とまで謳われる技量を持つ彼女をしても、一撃離脱戦法を主な戦法としているメッサーシャルフ109にとってジェット戦闘機は自身の全てを上回る強敵なのだ

F‐8`クルセイダー`の航空機関砲である「コルトMk.12」が火を吹き、マルセイユを襲う。
彼女は持ち前の空戦技術で回避するが……、
人類最強を謳われる彼女をしても未来のジェット戦闘機の魔手から逃れることは出来なかった。
クルセイダーの銃撃を回避できたと思えば…。

 

 
`ズガガガッ!!`とストライカーユニットの装甲を弾丸が穿つ音が響く。

−馬鹿な……後ろからだと!?

「お嬢ちゃん、覚えておけ。これがジェット戦闘機時代の編隊空戦戦術だ」
「何だと……!」

この時期,ティターンズ残党の間でもマルセイユの`アフリカの星`としての勇名は轟いていた。それを落とすための戦術はヨーロッパの基地で、唯一ティターンズが辛うじて保有に成功した可変戦闘機で、後の機体のプロトタイプとなった`VF−0フェニックス`を仮想敵として考え出されていた。彼等はそれを正に実行したのである。

マルセイユは何時の間に周りこまれたのかと思わず後ろを振り返る。そこにはまたまた別の機体−F−14より先に可変翼機として作られた`F-111 アードバーク`−が後ろから航空機関砲の銃撃を浴びせてくるのが見えた。
無線を活用した編隊空戦でティターンズはマルセイユを出し抜いたのだ。

因みに普通の実体弾で`シールド`を後ろから穿つことは可能である。実際に大戦初期に穴吹智子が当時良く確認されたネウロイ`ラロス`改に銃撃され、当時の愛機`キ27`を失っている例がある。
ティターンズの場合はウラル方面戦線で、ウィッチのシールドに火器が防がれたりしたので、タングステン合金製の弾頭に火薬ではなく、タキオン粒子を仕込んだ`波動エネルギー弾`(最も波動エンジンが開発された時にはティターンズは最末期だった。そんな中、波動エネルギーをエンジン以外に利用するのは正にコロンブスの卵的アイディアだった。これは2199年の世界にいる、宇宙戦艦ヤマト技師長`真田志郎`をしても、まだ考えついていない事である)

`M61バルカン`の毎分4000発の発射速度のバルカン砲の徹甲弾はストライカーユニットの最重要部−飛行魔法を発動させる後部を破壊せしめ、マルセイユの片方の素足を露にした。

この時、まだ無事であった片方とのバランスが取れなくなり、失速し。きりもみ回転しながら落下していった。単独行だったのが災いした。援軍が来る前に`アフリカの星`は史実通りに`流星`となって墜ちていくしか無いのか。(史実でのハンス・ヨアヒム・マルセイユは脱出時にパラシュートが開かずに戦死している)

基地の方から轟音が響き,2機のジェット戦闘機が姿を現す。ティターンズ側はほくそ笑み、こう言った。

「やっと`対等`な相手が来たか」

その戦闘機は彼等の目の前で`変形`し、モビルスーツの形態を取る。かつての仇敵`エゥーゴ`が象徴としていたZガンダムによく似た姿のガンダムタイプだ。これぞティターンズのTMS(可変MS)に対抗すべくカラバがアナハイムエレクトロニクスに作らせ、後に正規軍が制式装備化した`Zプラス`である。一機は通常型のA1型、もう一機はウェイブライダー形態での空戦を重視したD型である。因みにマルセイユを救出したのはA1型のほうである。

「隊長、マルセイユ大尉は自分が基地まで運びます」
「頼む。どうやらやっこさんもおいでなすったようだ」

レーダーに光点が2つほど映る。エネルギー量からすると、ウィッチだ。どうやら輸送機ではなく、ストライカーユニットで直接やって来たらしい。ここから中間地点の基地まではストライカーユニットで来れない距離ではない。恐らくティターンズの航空軍襲来の報を受けて、慌ててやって来たと見える。−日本陸軍……扶桑皇国陸軍のウィッチらしいのは分かった。遠目からでも巫女装束なのは実に分かりやすい。

 
−真美とティアナだった。あの後、緊急で出撃したので、武装は扶桑刀とティアナは試験装備の「ホ301 40mm機銃」、(史実では二式単座戦闘機「鍾馗」の後期型と二式複座戦闘機 「屠龍」に搭載された機銃)真美はボヨールド(史実でのボフォース社)40mm機関砲である。

「……マルセイユ大尉!?」
「真美,落ち着いて!」

真美は`飛燕`の魔導エンジンを限界まで吹かして、急いでやって来たのだが、ZプラスA1型の手の中で横たわるマルセイユの姿を見て、`間に合わなかったのか`と顔面蒼白になる。ZプラスA1型のパイロットは真美に`気絶`しているわけだと説明し、真美はひとまず安堵の表情を見せる。

「君達には急で悪いが、臨時で俺の指揮下に入ってもらう。アイツらを落とすぞ」
ZプラスD型のパイロットで、この2機編隊長の`イソザキ`大尉は取り急ぎでティアナ・ランスターと稲垣真美を編隊に加え、配下に加えた。事態はそれ程に切迫している。A1型はマルセイユを抱え基地に急がないといけない。さらにウェイブライダー形態での空戦は全く考慮されていないので、アムロ・レイやカミーユ・ビダンのような凄腕のエースパイロットでもなければ、ジェット戦闘機との空戦は無謀である。まともに渡り合える性能のD型は大尉の一機だけ。戦力は多いほうがいい。

「は、はいっ!」
「アイツらとやり合う前に君達の名前を聞いておこう。俺は地球連邦軍 戦闘第301航空隊 新選組所属 イソザキ大尉」
「第31統合戦闘飛行隊「アフリカ」所属、稲垣真美曹長です」
「同じく、ティアナ・ランスター軍曹です」
「よし、2人とも俺に続けッ!!奴らをたたき落とす!!」
「了解ッ!!」
 

 ここにティアナ・ランスターのウィッチとしての初陣は幕を開けた。高町なのはやフェイト・テスタロッサ・ハラオウンら`機動六課`の面々が見たら仰天するのは間違い無しのティアナのストライクウィッチとしての戦歴が始まった。時に1944年のある日の事である。

 

 

 

 

さて、ティアナは本格的にストライクウィッチとしての初陣を迎えた。戦う相手はストライクウィッチとしての本来の`相手`のネウロイではなく、我々のよく知る世界各国の現用戦闘機群。試験装備の`ホ301 40mm砲`を携えてZプラスD型に率いられる形で生涯初めての空戦に臨んだ。

`ブロォォォ`とハ45`魔導エンジン(海軍名は誉)を唸らせ、4式戦闘脚は空を疾駆する。他の国のストライカーユニットより旋回性能が遥かにいい(実際に4式戦闘機は日本軍機の例に漏れず、空戦での機動性は良好な部位であった)機体は格闘戦なら下手なジェット機など目ではない。すぐにジェット機の中では比較的旧式な部位に入るF−4 ファントムUを捉える。敵は所詮プロペラ機の延長線上に位置すると侮っている。その鼻をへし折るべく、ティアナはホ301の照準をファントムに向ける。弾丸がロケット弾なため、かなり近接する必要があるが、威力はかのB−29すらたたき落とせるほどである。

「……当たれぇっ!!」

40mm砲の鈍い発射音と共にファントムの胴体に40mm砲弾が吸い込まれていく。威力は魔力による強化作用もあって、ファントムの胴体に大穴を開けるほどの破壊力を発揮した。

「くそっ!!今の攻撃で操縦系がイカレやがった」
「たった二発でか!?脱出(ベイルアウト)するぞ!!キャノピーに頭ぶつけんなよ」
「分かった!!救助要請は出しとく」

ファントムに命中した弾丸が内部の電装系を破壊し, HUD(ヘッドアップディスプレイ)が消える。射出座席を司る系統が無事なうちに脱出しなくてはならない。パイロットたちはレバーを引いて射出座席の火を入れ、脱出する。ティアナは脱出した2人のパイロットたちのパラシュートが開くのを確認すると、次の敵に向かう。機動六課で実戦を経験したためにその当たりの動きは手慣れたものだ。

‐初陣で……戦果を上げられた。だけど……喜んでいいのか……複雑。

歓喜はするもの、今、自分がやっていることは明らかに`殺し合い`なのだ。決して気分のいい物ではない。ネウロイのように`異形の敵`なら割り切れるのだが……。なのはやフェイトがたとえ半管理局勢力のテロ犯であろうが、人を殺すことを嫌悪しているというのも分かる。(特にフェイトはなのは以上にあの世界でジオン残党軍が行っている`スペースノイドの地球からの開放・自冶権獲得`を大義とする悲壮な抵抗戦をその身を持って体験してきた。そのためになのは以上にその傾向がある)
ティアナも向こうにいる時に地球連邦軍の兵士たちが時空管理局の局員や執務官達を`本当の殺し合いをしていない甘っちょろい野郎ども`と陰口を叩くのも幾度か耳にした。
ティアナは真の意味で戦争を行っていたのは、遠い昔の出来事でしかない、時空管理局の現状を考えれば、戦争に対して甘い考えが出てきてしまうのも致し方無いように感じられた。ネウロイとの生存競争を戦うこの世界や、宇宙規模の戦乱が日常茶飯事となっている第120管理外世界に比べると、第一世界`ミッドチルダ`はどちらかと言えば平和だ。しかし、間接的な支配に反目する者達はいくらでもいる。反管理局のテロは各次元世界で絶えないし、ミッドチルダの首都たる、クラナガンにしても廃棄都市区間がいくつも存在する。戦いはどのような理由であれ、どこでも発生する。それは人間の変えられない性かも知れない……。そんな事を考えつつもティアナは敵に立ち向かう。

−戦いが起こるのなら少しでも速く終わらせて見せる!!

ティアナはその決意を胸に秘めて戦いの空を飛んでいく。これがこの半年間で形造られていった彼女の信念だった。

真美も背後について40mm機関砲を撃ち、ファントムのエンジンを狙い撃った。

「射撃のコツは至極簡単―当たるところまで近づくだけ!!」

40mmという大口径砲を、魔力による強化作用も加えた弾丸を至近距離から喰らっては、いくらファントムUと言えども持ちこたえられるハズは無く、(40mmは重装甲の戦略爆撃機であったB−29であろうが撃墜可能な威力を持つ。たとえ装甲板の質が大戦時からは比べ物にならないほど向上した時代のものであろうが、40mmの大口径機関砲に耐えられるように造られた飛行機は存在しないし、ロシア機でも30mm砲までしか搭載していない)。2つのエンジンを同時に破壊されては飛行不能になり,パイロットたちをして機体の放棄を決断させた

瞬く間に2機を失ったティターンズ航空軍は損失にも動じること無く、冷静に戦いを進める。ティアナと真美に残存機の他クルセイダーとA−4スカイホークをぶつけた。
F−111ではいくらエンジンを換装したと言っても本格的な空戦は無理なので後方に下がらせた(マルセイユを銃撃できたのは連携の賜物である)結果,実質的に対空戦闘可能なのはクルセイダーと一機のスカイホークのみとなった。

「こちらクルセイダー1。適当に楽しんだ後は引き揚げろ。機体はいくら損失が出てもいいが、搭乗員は失うわけにはイカンからな」
「了解」

彼はマルセイユを撃墜した後も戦地にとどまり、新たな敵を待ち構える。その佇まいはさしずめ空の騎士と言えるほどの騎士道精神溢れたものであった。

ティアナと真美はZプラスD型の援護を受けつつ、生き残りの戦闘機に挑んだ。スカイホークとクルセイダーは自分たちの空戦機動にも動じずに追従してくる。ファントムよりもさらに旧式でありながらも、持ち前の運動性でウィッチのストライカーユニットの空戦機動にも対応し、機関砲を撃ってくる。ミサイルを使用しないのはパイロットの心意気なのだろうか。あえて機銃のみを用いる`ガンファイト`のみでの空中戦を楽しんでいるようにも思える。

「くっ、当たらないっ!」

攻撃を巧みな機動で避けるクルセイダーとスカイホークに真美は思わず焦りを感じてしまう。当たるか、紙一重でかわすほどの動きを見せることから、パイロットは余程の手練であるのは容易に分かる。ティターンズが有する20世紀ごろの戦闘機の中でも最古参に位置するであろう時代の物にあえて乗り込むのだから、自身の腕に絶対の自信があるのだろう。

前方に回りこんだクルセイダーの機関砲が火を噴く。真美は螺旋を描きながら旋回し,攻撃を回避し、クルセイダーから見ると半円を描くような機動を見せる。

「ほう。バレルロールで背後を取るつもりか……ガキ共でもドックファイトのセオリーは弁えているな」
クルセイダーのパイロットはその熟練した腕前で真美の機動を読み切り,なかなか背後をとらせない。

「これでどう!?」

ティアナも側面から回りこんで銃撃を加えるもまたしても避けられる。ZプラスD型のビームカノンにしても同様だ。

クルセイダーのパイロットは可変MSとストライクウィッチを向こうに回しての大立ち回りを演じている。彼等が一年戦争以上の激戦となったグリプス戦役をくぐり抜けてきたのは伊達ではなかったのだ。

「こっちはセイバーフィッシュで土台付きのMSを迎撃してた時もある。グリプスの生き残りを甘く見るなよ」

クルセイダーとスカイホークは見事な動きで2人と一機を相手に航空機関砲だけで渡り合う。

この光景を当時の開発者が見たら、あまりの感動にむせび泣くだろう。熟練兵によって限界まで引き出された機体のポテンシャルは200年後の最新モビルスーツや、ジェット機以上に小回りが効くストライカーユニットをまとうストライクウィッチにも通じたのだから、誇っていい。

ティアナと真美は実に空戦機動が洗練されているF−8クルセイダーとA−4スカイホークの戦いぶりに舌を巻く思いであった。

 

―加東圭子は戦友のマルセイユが撃墜された報に動揺するも、無事であるのでひとまず安堵していた。マルセイユを落としたのはこの時代より後に造られるはずのジェット戦闘機。ジェットはレシプロの数倍の出力とスピードをたたき出せると聞いていたが……まさかこれほどに強力だとは。

「まさかジェット機がここまで強力だなんて……」
「まだ第3世代機だっただけでも幸いですよ」
「50〜60年代の戦闘機か……。これでもまだ彼等にとっては旧式の部類なんですか」
「そういう事です、少佐。しかし油断は禁物です。現にロマーニャ方面ではこのような機体も確認されていますから」

軍曹は圭子に504統合戦闘航空団が担当しているロマーニャ方面でこの日より3日前に姿を現した3機の可変翼を持つジェット戦闘機の写真を見せた。機種は 「トーネード ADV」。かつて大英帝国(イギリス)が80年代から防空戦闘機として採用していた機体で、ご丁寧に識別マークも元々の所属国のそれのままである。

「ブリタニアの戦闘機……?」
「我々の常識でいうならば`大英帝国`です。トーネード ADV、第4世代ジェット戦闘機に属するものの一つで、基地の防空用に造られてます。顔見せ程度ですが、504と交戦したとの報告も我が艦隊に入ってきております」
「504が……?」
「はい」

504とは、第504統合戦闘航空団の事。かの`リバウの貴婦人`の異名を誇る竹井醇子大尉が属している統合戦闘航空団。ロマーニャ方面の防衛を担当するが、彼等はそこまで進出したのか、

「彼等はいったい何者なんですか?」
「`ティターンズ`。かつてはそう呼ばれていました」
「ティターンズ……?」
「元々は地球連邦軍内部のタカ派・保守派が作った宇宙移民を取締り、コロニー独立戦争の際の敵であった`ジオン公国軍`の残党狩りを推し進めるための特殊部隊でした。その立場を利用して連邦軍での発言力を増大させていったのです」

 

ティターンズがいつ、どのようにできたのか。そしてその行為がやがて穏健派や改革派の反発を招いていく事、そしてそれはやがて内乱へ発展したことを軍曹は圭子に説明していく。圭子は話の中で出てくるティターンズの行ったという行為に身震いしてしまう。
毒ガスで1500万人の人々を虐殺した`30バンチ事件`……さらに大量破壊兵器`コロニーレーザー`を用いた18バンチコロニーの破壊……。

―宇宙移民というだけで民間人相手にこんな残虐行為を行えたの…ッ!?

圭子は憤慨せずにはいられなかった。ティターンズという組織が行った残虐行為。―民間人を無作為に殺した―それもただ宇宙移民というだけで……前に504の竹井醇子から電話で話に聞いた未来世界の戦争での`コロニー落とし`とて、まだ`宇宙移民者を解放するための腐敗した連邦政府への鉄槌`という大義名分があった。しかしこれは……。

「これらはティターンズの中のさらにタカ派が独断で行った行為です。戦後の軍事裁判で判明したことですが、殆どの構成員は組織全体の行為を知らなかったのです」
「内部の構成員も知らないとはどういう事です?」
「`大本営発表`ですよ」
「大本営発表……」

圭子はその言語に複雑な気持ちを浮かべた。彼等の歴史では`大本営発表`は事実の歪曲・摸造の代名詞として歴史に名を残したという。いったいどれだけの悪行を行えばそこまで言われるのか。圭子には想像しにくい事だった。
そしてティターンズという組織がどのようなモノだったのか。圭子はこの日徐々にその全容を知るべく、未来世界の資料を読み耽ることになる。

そして、それから3日後。続々と基地には対ティターンズ反抗作戦の準備のためにコスモタイガーやバルキリーが次々に基地に飛来し、轟音がひっきりなしに響き渡る。

「あれが未来の最新鋭機か?」
「ええ。何でもアイツらに対抗するためだとか」

マルセイユは、続々と基地に飛来するコスモタイガーやバルキリーにちょっぴり羨ましそうな視線を向ける。あのジェットに対抗できるのは今の所、彼等のみだ。ジェットストライカーの登場が待ち遠しい。

「アレに乗ってみたいという気持ちもあるが……、頼むから早く完成してくれよ…ジェットストライカー」
「ティナ……」

それは現在のレシプロストライカーではジェット機には勝てないという悔しさも多分に含まれていた。

‐これも時代の流れか……。

マルセイユはレシプロストライカーの時代がもうじき終焉を迎えるのを予期し、複雑そうにコスモタイガーの勇姿を見つめていた。

 

ティアナは着任の挨拶も無事終え、部隊に馴染み始めた。この日、彼女は圭子へ黒江から伝えられた本土からの通達を報告した。

「ケイさん、綾香さんから伝言があります」
「え?黒江ちゃんから……?」

こちらはティアナ。着任して早々に途中地点で未来世界にいる綾香から託された伝言を伝えるべく、圭子の部屋に来ていた。その伝言とは。

「ジェットストライカーは実用化の目処がたったと事で、7ヶ月でこちらに実用型を送れるそうです。
それともう一つ。本国からです。`急ぎ帰還して`例の奴`を受けよ`と」
「ジェットストライカーはありがたいけど、まさか私にアレをうけろと……?」
「はい」
「うぁ〜!!ロリは勘弁してぇぇ〜!」

圭子はこの度の共同戦線の折に行われている施策の結果として、戦友から送られた写真が相当にトラウマになっていた。`戦友`である黒江綾香が子供に戻ったという精神的衝撃は相当な物で、もし自分が被験者に選ばれるなら、せめて外見は14,5になりたいとの願望を密かに持っているので、相当に不安なのだ。

「ケイさん、諦めましょうよ♪」

ティアナの笑顔は圭子の不安をさらに増大させ、圭子はその場をのた打ち回って`ロリに戻るのはいや〜!!`と悲痛な叫びを挙げていた。

‐果たして加東圭子の明日はどっちだ!?ロリータ系生活、それともミドルティーンの青春を謳歌するのか?それは連邦軍次第であった。

「少佐、ロンメル将軍がお見えです」
「ロンメル将軍が?」

兵士が報告のために部屋に入ってきた。どうやらこの戦線の司令官の一人「ロンメル」将軍がやってきたようだ。
彼がやってきた目的は今後の反攻作戦の事を通達するためであった。

 

−地球連邦軍の各種モビルスーツが集結しつつあるアフリカ トブルク。そこでマルセイユらは異世界で日常的に起こる`モビルスーツ戦`、宇宙のどこかで起きる可変・通常戦闘機の制空権争いなどの映像を見させられていた。マイクロミサイルが乱舞し、ビームが飛び交い、人型兵器同士が広大な宇宙を背景にぶつかり合う映像は凄まじいの一言だった。特にジオン残党軍の熟練者達が駆る`AMS‐119 ギラ・ドーガ`と、これまたエースが駆るスタークジェガンのぶつかり合いの様子を撮った映像には、歴戦の猛者であるマルセイユすら唸らせられた。

スタークジェガンのあらゆる火器を全て回避し、接近戦を挑むギラ・ドーガ。能動的質量移動による自動姿勢制御(AMBAC)を駆使して縦横無尽に空間を駆け抜ける両機。ビーム・サーベルによる接近戦。そして僅かな隙が両者の明暗を分ける……。

「……これが私たちの世界では日常的な`戦争`の光景です」

連邦軍の武官が未来の映像機器を駆使して見せた未来世界での戦争の光景は奇しくも自分達ウィッチの戦いに近いものだった。皆、不思議そうな顔をしていた。(未来世界を経由してこの世界に来たティアナは事情を知っているので、説明側に回っている)

「……そういう訳だったとはな。`洗練された兵器`。ある意味ネウロイより戦いにくいぞ……っ」

マルセイユは人間が操る兵器を破壊することは`人を殺す`事に繋がる事を良く理解していた。ネウロイは怪異であり、あくまで異形の敵と割り切れる。だが、ティターンズは同じ人間であり、対話だって出来るはず。彼等を相手に戦うことはネウロイが台頭していることでこの世界の人間が忘れている`血みどろの殺し合い`なのだ。戦闘機を相手に空戦していた時はそれほど感じなかったが、こうして改めて事実を突きつけられると、気が重くなる。しかしティターンズはあくまで自分達を排除しようとしている。それは数度の交戦で見にしみて理解している。彼女の心中は複雑だった。

‐人を殺すことは軍人として割り切るべきなのか?

表面上は落ち着き払ってはいるが、まだ10代の少女でしか無いマルセイユには辛い事実だった。

そして、ここのところ通常部隊のウィッチが消息を絶っている事の理由もティアナから説明がされた。

‐アイツが何故、扶桑の軍人でありながら、妙に地球連邦や`時空管理局`の事情に詳しいのか。今度、取っ捕まえて聞き出してやるか……。

そんな事を思いながらマルセイユはティアナの説明に聞き入っていた。
「ウィッチが消息を絶っていた理由はこれです」

ティアナは先程まで映像が写し出されていたプロジェクターに2枚の写真を掲示し、拡大して写し出す。それはティターンズが主に狙撃任務に用いているモビルスーツの写真であった。1枚目はRMS-106CS`ハイザック・カスタム`。ティターンズの保有する狙撃任務用モビルスーツの中では最新の設計年次の機体だ。もう一つは設計年次こそ古いが、この手の任務での正確性・確実さでは定評があるRGM‐79SP`ジムスナイパーU`だ。実弾系を敢行した際のライフルはカールスラントの制式小銃`Kar98k`をそのまま拡大した物に見える。

「消息を絶ったウィッチはこれらのモビルスーツに狙撃されたものと推測されます」
「ちょっと待て。いくらモビルスーツが高性能とは言え、たった数メートルのものが狙撃できるのか?」

「確かに普通の機体では無理です。ですが、これらの機体は狙撃機能を駆使すれば可能です。ティターンズは連合軍が各戦線への派遣任務に費やせるウィッチの数をおいそれと増やせないことは承知していますからね」
「狙撃兵で人員を秘密裏に撃墜するか……。奴らもうまくこっちの穴を突いてくるものだ」

次いで、武官が次の事柄の説明に入る。それは今後ティターンズが取るであろう行動の一つであった。

「我々が恐れているのは、彼等が占領した地域からウィッチを入隊させ、捕虜にしたウィッチを教官に仕立ててそれ相応の教育をし、それで編成した部隊でこちらを攻撃してくる事なのです」
「まさか、そんな事が……!?」

ティアナと共に説明に入っている武官のこの一言にライーサ・ペットゲンが`まさか`と言った様子で狼狽えた顔を見せた。確かに考えられることではある。しかし費用や時間を考えれば非現実的であるし、第一ウィッチやストライカーユニットに関するノウハウを一切持たない彼等がまともにウィッチ部隊を機能させられるはずが無い。

「……軍人は常に最悪の事態を考慮に入れなくてはなりません。現に敵は各戦線でウィッチとストライカーユニット関連施設を関係者ごと接収していると、各戦線へ派遣された我軍の部隊から報告が入っています」

それは兵員数が絶対的に足りないティターンズ残党軍が`使えるものは何でも使え`の理念を20世紀ごろのジェット機だけでなく、ウィッチにまで当てはめ始めるのは時間の問題であることを暗に示していた。

「そこで先手を取るために、敵の橋頭堡となっている臨時の航空基地及びエジプト軍から奪取したと思われる施設を奪還する作戦を実行する事になったのです。作戦開始は偵察部隊の報告や情報収集、敵戦力の分析などが完了する8月を予定しております」

この作戦は奇しくも501によるガリアの奪還作戦実施とほぼ同じ時期に実行に移されることになる。ティアナ・ランスターにとっては、ウィッチ転向(?)後初めての大規模な戦いとなるのは間違いなかった。

「どうしたんです、大尉」
「いや、さっきロンメル将軍から通達があって、ケイの代わりに当面、私が指揮を任される事になってしまった……」
「だって最先任士官が大尉のあなたしかいないんだからしょうが無いじゃないですか」
「私は後方指揮向けじゃないんだよ〜前線で弾丸撃ってるほうが性に合ってるんだ〜!ああ、考えただけで胃が痛い……」
「ガ●ターテン飲みます?」
「ああ……。これから将軍たちの相手をするなんて……。ケイ、何故いなくなった……」

マルセイユは圭子に押し付けていた事を自分が行なうことになった事をティアナに愚痴る。
ライーサは将軍たちへの挨拶回りのためにいなくなったので、その場にいたティアナを取っ捕まえて愚痴っていたのだ。
マルセイユは自分自身、上層部から問題児扱いされているので、上層部からはからかわれるのは目に見えている。マルセイユの苦労の幕開けであった。
そこでかつての戦友に話を聞いてもらおうと、電話に手をかける。

「501のいるブリタリアヘ繋いでくれ」
「はい」

電話を交換手を介して501にかける。出たのはミーナ。理由を言ってハルトマンに取り次いでもらう。

「ハぁルトぉマ〜ン〜〜っ……」
「うぇっ……ハンナぁ?何の用だよ。私、眠いんだけど……切るよ」
「ま、待てっ、話を聞いてくれ!!後で未来の扶桑産のうまい菓子を箱ごとそっちに送るから、なっ!?」
「……半年分で手を打とうか」
「わかった……」
「それじゃなんでも相談に乗るよハンナ♪」

マルセイユはハルトマンとは訓練学校時代の同期。マルセイユのほうがハルトマンをライバル視している。そのため、ハルトマンの好みは把握していた。
そのリサーチが功を奏し、マルセイユは話を聞いてもらえたのだ。

「実は……カクカクシカジカで……」

マルセイユは事の経緯を話す。すると。

「ハンナが、部隊の、指揮官代行っ!?何かの間違いじゃないの?」
「本当なんだなこれが……ロンメル将軍から正式に通達されたんだよ。部下にも愚痴ったけど、私は前線で弾丸撃ってるほうが性に合ってるんだ〜!」
「トゥルーデが聞いたらひっくり返るねそれ」
「あいつか……アイツの気持ちが今になって分かる気がするよ」
「だね♪」
「ハルトマン、お前なぁ、人事だと思って……」

‐受話器の向こうで楽しそうなハルトマンの姿が眼に浮かぶようだ。思わず持っている水タバコを握り潰したくなったマルセイユであった。

 

とにかくマルセイユは1時間にわたり、ひたすら愚痴りまくった。後にマルセイユの元上官のバルクホルンはハルトマンからその話を聞くなり、
天地がひっくり返る如く、腰を抜かしたとか。

 

 

‐コスモタイガー三座型に乗り込んで加東圭子は扶桑へ向かっていた。上層部からの命令で若返りを果たすためだ。

「あと30分で扶桑へ到着します、少佐」
「ありがとう。(うわぁぁ〜!!不安になってきたぁぁ〜!!))」

圭子は態度は平静を保っているように見えても、心臓はバクバク言い、今にも口から飛び出さんばかりに鼓動が早まっている。
果たして自分が望む年齢に戻れるのか。黒江は不本意な年齢(13歳)になってしまった事を手紙で愚痴っていたが、自分もそうなってしまうのか。
手が自然と震えているのを自覚しながら、圭子はハラハラドキドキしながら落ち着こうと必死だった。それとマルセイユに部隊運営ができるのか不安で眠れない。

―この間にも連邦軍の医療チームの待つ横須賀にコスモタイガーは飛んでいく。圭子は不安な気持ちで数年ぶりに母国の土を踏もうとしていた。


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