外伝その8



−1944年。アフリカ戦線は連日連夜の激戦により消耗を強いられていた。特にジェット戦闘機の猛攻によりレシプロストライカーユニットの稼働率は50%を切っており、新鋭のジェットストライカーユニットの登場が待たれた。

 

そして、モビルスーツがアフリカで投入された初めての戦闘はこの通りであったという。

 

 

−陸戦ウィッチ達は今、最大の敵と戦闘に入っていた。それはアフリカ戦線に新たに配備されたティターンズのモビルスーツ部隊だった。形式は一年戦争〜デラーズ紛争時の旧式だが、マラサイやバーザムなどのパーツで近代化が計られている。陣容はアフリカ地域に適応した局地戦用の`RGM‐79F`デザートジム`にRGM‐79Q`ジム・クゥエル、`RGC‐83`ジム・キャノンU。それらモビルスーツはその重装甲でウィッチ達の火器の一切を避けつけなかった。

「なんで!?ネウロイに通じたモノがどうしてこいつらには通用しないのよ!?」

ブリタニア王国陸軍少佐の`マイルズ`は部下達と共に2ポンド砲を浴びせたもの、弾を逆にはじき返された事に驚愕した。先頭の一機に至近距離からの斉射を浴びせたはずが、装甲を破壊するどころかかすかにカスリ傷が盾に出来ただけに終わったのだから。ネウロイにも対応可能な初速だったはずの弾丸が直撃したのに、敵は全く意にも介さない。
‐当然だが、一年戦争後のジム系の装甲と盾が合わさった防御力はザクUの120ミリマシンガンを意にも介さないほどに向上した。このような実弾攻撃にはチタン合金セラミック複合材の威力が発揮される。

『蟷螂の斧というのは正にこの事か。……哀れな奴らだ』

デザートジムのパイロットは哀れみを自分達に対して必死に火砲を撃ち上げて来るウィッチ達へ向けながら、せめての慈悲とばかりに手持ちの火器を構えた。その火器は……。

`バチバチッ`と閃光が砲身に迸る。電気で砲弾を電磁加速させる`電磁加速砲(レールガン)`である。2199年時点では多少古い技術になるが、威力は実弾系最強を誇る。未来世界では計らずしも御坂美琴によってその実用性が再実証された武器がウィッチに対して牙を抜いたのだ。ビームの如き閃光が`人間`でしかない陸戦ウィッチに向けて超音速で発射され、マイルズの部下達のうち数人は文字通りそれを認識する前に`吹き飛ばされた`。肉片一つも残さずに。

「……え?」

シールドさえ張ることも許されずに一瞬で吹き飛んだ部下たち。マイルズは取り乱しそうになるも、軍人としての誇りと指揮官としての自覚がそれを辛うじて食い止めた。前に空想科学読本で見た電磁加速を利用した大砲。その実物を見て、身を持って体験する事となった彼女らは恐怖を感じた。歴戦の彼女らとはいえ、SFに出てくるものが現実になった超未来の兵器(彼女らにも連邦軍からの情報は伝わっていた。しかしその脅威は身を持って体験しなければ理解出来ない)の力は並のネウロイより上という事を認識した。どうせ速度差で逃げられないのなら、せめて一矢報いらんとばかりに残りの火砲を構えた。

‐その時。ジェットエンジンの轟音と共に救援が現れた。ただの軍隊ではない。例の義勇軍だった。

「遅いわよ……まったく」

マイルズはせめて後数分早く……と愚痴りたかった。部下を数人死地に追いやってしまったのは何よりも悔しかった。だが、先方にも都合はあるだろう。今は天国への階段を登りつつある部下達の冥福を祈りつつ、彼等に任せるしかなかった。

『各機、各個に散開し、敵モビルスーツを殲滅せよ』

`RGZ‐95`リゼルとスタークジェガン、それぞれの小隊だった。彼等もまたティターンズ同様に一年戦争からの多くの戦乱をくぐり抜けた古参兵が駆っている機体だ。彼等は多くの機体を乗り継いできた。歴代ジムシリーズにネモにリック・ディアス……そしてジェガン。彼等の部隊にはまだ最新最強のジムの末裔`ジャベリン`は配備されていない。(理由は初期生産機、第2次生産型ではザンスカール帝国の高性能機との戦闘で苦戦が多かったために、さらなる高性能化のアップデートが完了した第3次ロットに生産ラインが切り替えられた影響で満足に前線に行き渡っていないため。苦肉の策で既存のジェガンの最終生産型をさらに大改装する策が取られた)
『了解』

ここからはモビルスーツの独壇場だった。ビームやらミサイルが飛び交い、人型ならばの格闘戦が入り混じる。

『君たち早く腕に乗って!巻き込まれるぞ!!』
「は、はい!!」

リゼルの一機がマイルズ達を腕に乗せて安全圏に退避する。その戦いの様子にマイルズは思わず息を呑んだ……。

『エゥーゴの走狗共め!!我らを何回邪魔すれば気が済む!!』

ジム・クゥエルのパイロットは思わずジェガンの小隊に毒づく。ティターンズを正規軍という立場から引きずり下ろし、`反政府組織`というレッテルを貼ったエゥーゴと、自分達を裏切り、あっさりエゥーゴに下野した腐敗しきった連邦政府の官僚達への侮蔑。それが彼を突き動かしていた。そして目の前の敵は憎むべきエゥーゴの主力`ネモ`の後継機らしきモノ。それがティターンズとしての彼の闘志を燃やしていた。

『貴様らもいい加減にしろ!!連邦軍内のイザゴザを別世界にまで持ち込んで何になる!?』

スタークジェガンのパイロットもそれに返しながらビームライフルを撃つ。彼は小隊の中で唯一、白色彗星帝国とのフェーベ航空決戦や土星決戦にもヌーベルジムVで参戦した猛者だ。
無論、グリプス戦役ではエゥーゴの一員として参戦した。あの頃の連邦軍には、ティターンズの掲げた大義を信じた兵士は大勢いたが、その実態にに気づいてティターンズを抜けた者も多い。かのティターンズ草創期のエースの一人「ベルナルド・モンシア」も地球至上主義者であったが、その蛮行には加担しないで、ティターンズ解体後は正規軍へ戻った。その際の軍事裁判での台詞は「あんな事をやったってサウス・バニング大尉は喜ばねえ。そう思った。だから俺はG3ガス散布にも、アポロ作戦にも参加していませんよ」であったと伝えられている。

『だからこそだ!この世界も何れはああなる……だから我らが支配し、人類を管理するのだ!』
『それはギレン・ザビが言っていた事と同じだ!!何故それが理解出来ない!!』
『戯言をっ!!』

ジム・クゥエルのハイパーバズーカの弾丸がスタークジェガンに直撃する。彼は勝利を確信したが……。

爆煙が晴れると、そこには無傷のジェガンR型(スラスターと一部追加装甲はついたまま)が立っていた。被弾の瞬間に身に纏っていた増加装甲の一部を任意にパージしたのだ。

「アーマーをパージしただとぉ!!?フルアーマーオペレーションの完成形だとでも!?」

ティターンズ側の彼は追加装甲という点に一年戦争中のFSWS計画を想起する。この計画はファーストガンダムのパワーアップ策として実行され、結果としていくつかの高性能試作機とRX-81という量産試作検討機が造られた。必ずしも当初の思惑道りにはいかなかった計画だが、その技術的遺産は活かされており、それが遂にジム系に及び、目の前の新型ジム系に応用されたのだと。 

彼が驚く間もなく、ジェガンはそのムーバブルフレームの柔軟性を活かした動きを見せた。
仮面ライダーBLACK RX張りの逆宙返りを披露し、着地と同時にビームサーベルをかっこ良く引き抜く。これまたリボルケインを思わせる動きで。

僚機のジェガンJ型とD型のパイロットは思わず溜息をついてこう言い合った。

「ま〜た隊長のアレが始まったよ」
「好きにさせておけよ。隊長の趣味なんだから」
「仮面ライダーのファンだって公言してるからなぁ……風見志郎さんや南光太郎さんにサイン貰ったってすごく喜んでたし」

そしてジェガンR型はリボルケインのようにジム・クゥエルの脇腹にビーム・サーベルを突き刺す。

『何ィィィィィィィィッ!?』

ジム・クゥエルのパイロットはこのような形で敗北したのを受け入れられない。一年戦争やグリプス戦役も生き残った自分が無様に機体を失うのかと。かろうじて脱出に成功したが、この上ない屈辱だ。

そしてジェガンR型はビーム・サーベルを引き抜き、決めポーズに「R」の字を描くように振るう。

(……決まったぁ〜〜!!)

‐RXのリボルクラッシュをモビルスーツでそのまま再現したのだ。ある意味凄い技量のパイロットである。
ゴッドガンダムのようなモビルファイターのようにモビルトレースシステムを積んでいない通常のモビルスーツで行ったからこそ、彼のその技量が際立つのだ。

 

この行為にマイルズは思わず拍手してしまった。

「アレがモビルスーツ……あんな動きを再現できるなんて……凄い」
「まるでコミックのヒーローネ……しっかり決めポーズとってるシネ」

部下達も口々にジェガンのこの行為に圧倒された感想を言い合っている。戦いはまだ続いているが、マイルズは腕で十字を作る動きをし、亡くなった部下の冥福を祈った。

マイルズはこの戦闘を期にモビルスーツに正面から対抗可能な力を求めるようになり、度々上層部に意見具申を行う。その結果は後に「センチュリオン」として実を結ぶ事になる。

 

 

それからしばらく経ったある日。

 

「コイツもだめか……エンジンが逝ってる」

整備員達は基地に配備されているストライカーユニットが次々と失われていくのを嘆いていた。隊長代行のマルセイユも出撃しているが、彼女を以てしてもストライカーユニットの損耗率は増加の一途を辿った。特に欧州系ストライカーユニットの損耗が激しく、BF109は全損の憂き目にあっていた。辛うじて稼動状態なのは運動性のいい扶桑系列の物のみ。それでも3式「飛燕」はその「日本系で一番食いやすい」と敵に評される特性のために破壊され、4式のみが稼動状態であった。

 

「まいったなぁ……飛燕をやられちゃったよ」

稲垣真美は前日の出撃でなんとか帰還したもの、愛機の飛燕を失っていた。飛燕は戦闘機としてもそうだが、日本の機体にしては運動性が平凡で、敵には食いやすいと称されている。高高度性能は高いが、それはレシプロの範囲内の話である。ジェット戦闘機相手には通じず、上空からの一撃をやられてから空戦に入るのが最近の常だ。撃墜数に反比例して損耗率は高くなる一方である。これにはさしものマルセイユも頭をかかえる悩みの種である。

「マルセイユ大尉、敵は2機ほど落としました。ですが、ストライカーユニットへの被弾を防ぎきれなくって……」
「……そうか。よく戻ってきたな」

報告を受け、真美が執務室から出ていくのを確認すると開口一番で漏れたのはため息だった。ここの処は各戦線ともジェット戦闘機に苦戦を強いられていて、欧州では半分蹂躙に近い損耗率を記録しているともっぱらの噂だ。ノイエカールスラントで急ピッチにジェットストライカーユニットの開発・配備が進められているのも分る。

 

 

「502はともかくも504までも苦戦してるとはな……なんて事だ」

マルセイユは各地の部隊が苦戦を強いられているという報に顔を曇らせる。それほどまでに新時代の空戦に適応したジェット戦闘機は強いのだ。リベリオンの高性能機「B−29」(ティターンズには日本系の人員もいるので`大空襲`の復讐`とばかりに余計に狙われていた。捕虜も乗員は裁判なしで処刑されるケースが多い)もただの『ジュラルミンの棺桶』と言わんばかりに的扱いになっている。唯一なんとか敵に劣らない性能を持つ戦略爆撃機は扶桑が配備を開始したばかりの最新鋭「富嶽」(その性能はB−52には劣るが、B−29よりは圧倒的に高性能である)のみ。稼働数は少なく、戦局に影響は与えていない。考えただけで暗くなる。

「今じゃ飯が唯一の楽しみになった感がある……あとで覚えてろモントゴメリーめ」

今頃厨房では稲垣真美とティアナ・ランスターが食事の用意をしているはずだ。それが完全勝利の凱歌が消えて久しい最近の心のオアシスとなっていた。最近は加東圭子がいないために書類仕事まで押し付けられるようになったマルセイユにとって安らぎを得られる数少ない時間だからだ。

「今日はなんだっけか……中華料理か」

マルセイユは食事の献立表を見てこの日の昼食を楽しみにしていた。彼女は未来世界から持ち込まれた様々な料理を吟味してきたが、
意外なヒットだったのはこの世界では存在しない`中華料理`。ラーメンにチャーハンやシュウマイなどの料理が彼女の好みにあったようで、飛びつくように食している。今では1週間にいっぺんは必ずラーメンなどを食し、ティアナ達を呆れさせているとか。

 

−ジュウジュウと何かが煮える音と共に中華鍋に米や具材が景気よく入れられ、火で炙られる。ティアナ・ランスターは時空管理局で特殊な部署である機動六課に配属されていたのと、六課転属以前は災害救出方面部隊に在籍していて食事は出前(ミッドチルダには地球出身者が多く在住しており、地球の料理が持ち込まれていた)のチャーハンで済ますこともままあり、親友のスバルのために自炊する機会もあった。それらの要因により、ティアナはある程度の料理が作れるのであった。

「手馴れてるね〜」
「まあね。`向こう`で腐れ縁のルームメイトのために自炊した経験あるし、出前で済ませる事も多かったけど、料理本見て作ってたの。それでおぼえちゃったってわけ」

料理が得意な稲垣真美であるが、中華は初めてなので料理本(2199年現在ベストセラーの本)を片手に作っている。メインディッシュのチャーハンを作っている。ティアナは味付けなどをチェックしている。具材は連邦軍の艦のコック達が提供してくれた物で、鮮度などは最高レベルだ(地球連邦軍は宇宙戦艦ヤマトなどの戦訓で長期間の航海における料理の多様性や旨さを重視している。そのためどの地域の料理でも作れる具材は備蓄している)。

「ベーコンはこのくらいかな?」
「もっと大きくてもいいわ。ベーコンの盛り付けは重要だから」

ティアナは具材の盛り付けに気をつけるように真美に促す。よほどのこだわりがあるのだろう。具材を切る大きさにも留意するように促す。

(まるでどっかの料理マンガみたいね……あたし)

ティアナは料理を作りながらそう独白していた。スバルが見たら何と思うのだろうか。

 

 

 

−基地は今や連邦軍の部隊も駐留しているので大所帯であった。トブルク港には宇宙空母や戦艦までもが入港し、その威容を見せつけていた。そこに陸戦ウィッチ達は集まっていた。

「これが新型の`センチュリオン`?」

マイルズ少佐はアフリカ戦線に回された真新らしいストライカーユニットにいささかの驚きを見せた。

そのストライカーユニットは本国で使用されているコメットやチャーチルよりも最新型のストライカーユニット。見るからに洗練されたフォルム(以前より洗練された設計で、動きやすいような形状)、モビルスーツにも打撃力が期待出来る20ポンド砲が装備として用意されている事に喜ぶ。

「連邦軍がブリタニアに圧力をかけて先行生産されたものを回したものだ。より一層の戦果を期待するぞ、少佐」
「ハッ、ありがとうございます!!」

彼女が敬礼をしているドイツ系のこの将官は「エルヴィン・ロンメル」元帥。史実では機甲師団による電撃戦の名手(近代的電撃戦を考えついたのはハインツ・グデーリアン大将)で、戦史に残る名将として勇名を馳せた。もちろん地球連邦軍部隊にとっても彼の指揮下で戦えることは至上の誉であり、敬意を持って接している。彼は未来世界のモビルスーツなどの戦術・戦略も即座に理解できる数少ない陸軍将官(他には今村均中将やドワイト・アイゼンハワー大将など)で、その評価をさらに高めた。これにより彼の政治的発言力は連合陸軍随一に高まり、アフリカに最新鋭兵器を回させられるほどであった。

「来るべき作戦では彼らとの共同戦線となる。協調訓練を怠らないように」
「了解!」

ロンメルは作戦の方法をこの時すでに考えついていた。それは各種兵器の機動力を生かした電撃戦と言うべきモノだった。

 

 

 

−アフリカでは連日連夜、ウィッチ達や連邦正規軍の持ち込んだ最新鋭機とティターンズ残党の戦闘機、モビルスーツが激しくぶつかり合う。
その中で戦闘機として意外な猛威を奮っていたのがF-104`スターファイター`である。細長く、尖った機首に向かって先細りになる胴体を持ち、非常に小さい中翼配置とした台形の直線翼を持つこの機体はかつて、先進国の防空戦闘機としてその任を果たしていた。潜在的機動性は熟練度の高い兵士が機体特性を理解した上で操縦すれば後々のターボファンエンジン搭載の機体にも太刀打ち可能ほどであり、思わぬ脅威であった。

機体の仕様は主にイタリア仕様。訓練用に少数の日本仕様もあるが、イタリア仕様のほうが長期運用されていたので戦闘力は高い。この頃、第一線で運用され始めたのは前者である。各戦線から輸送体制が整ったティターンズの整備効率が上がったためだろう。(スターファイターの整備には高度な技術を要するため、熟練の整備兵が回された。)

「ライーサさん、どうでした?」

この日の朝の防空の任を終え、基地に着陸したライーサ・ペットゲンを出迎えたのはティアナ・ランスターであった。彼女は基地到着後もマルセイユと彼女の下で飛行訓練を続け、2週間程度前からは第一線での任務が許されていた。(ちなみにタイムスケジュールとしては、昼から夕方は彼女と稲垣真美の担当である)

「敵も整備体制が整ってきたみたい。今までの機体に加えてF3H や`BAC ライトニング`も混じってきてる。今回はF-100を 2機戦線離脱させたけど、ストライカーに相当無理させちゃったから……」

―そう。初期のジェット機ならいざ知らず、第二世代以降の機体をレシプロ機で撃墜するのは至難の業である。ストライカーユニットは小回りが効くので、なんとか対処できてはいるが、やはり不利なのは否めない。他の部隊では高速を発揮するジェット機とミサイルに戸惑い、ストライカーユニットの損耗率が80%に達した例さえ存在するという。この部隊−改名され「ストームウィッチーズ」となった−や501などに戦死者が出ないのが不思議な位だ。

 

「それじゃあとをお願いね。私はストライカーを整備班に届けてからティナに報告してくるから(加東圭子が扶桑へ一時帰国したため、現在の指揮は最先任大尉のマルセイユが代行している)」
「了解です」

「行くわよ真美」
「OK!!」

今回のティアナの敢行武器は`ホ5 20ミリ機関砲`と扶桑刀、愛用のデバイス`クロスミラージュ`である。機関砲が弾切れを起こしても、すぐにデバイスによる戦闘を可能とするためだ。(起動状態のデバイスを初めて見せたときには、あのマルセイユ曰く`目が点になった`と言った程に衝撃を受けたとの事)彼女は`疾風(はやて)`をまとって、稲垣真美と共にコスモタイガーやバルキリーの`エクスカリバー`の護衛を受けつつ、この日の防空のローテーションを勤めるべく、所定の飛行に臨んだ。

―無線で既に`F−104 スターファイター`に他の部隊が襲われているとの報告も入っている。急がなくては。

 

 

彼女らの今回の敵は`F−104 スターファイター`。第二世代ジェット機の中では比較的長期運用されていた名機。敵もいよいよ本腰を入れてきたという事か。敵影が視える。だが、そのF−104部隊の機体や尾翼に描かれた`十字軍騎士`のエンブレムは紛れもなく、この間から幾度か空戦をやりあっている「クルセイダー」のパイロットのそれだ。今回は機体を乗り換えたらしい。

案の定、通信が入る。その声は間違い無くあのパイロットのものだ。

『よう、お嬢ちゃん達。また遊びに来てやったぜ』
『……で、今日はなんの用なの?』
『今日は部隊の機体を新調したから慣らし運転って所だ。マルセイユのお嬢ちゃんにも伝いといてくれ』

気楽な口ぶりとは裏腹に彼は一級の腕を持つパイロットである。この間は見事に弾を切らされて逃亡を許された。彼のような好人物が何故ティターンズにいるのだろうと考えられさせられる。恐らく、まだ右派が実権を握る前の創成期から在籍した古参兵なのだろう。

『伝えとくけど……どう伝えればいいのよ』
『俺のコールサインを言ってくれ。そうすればマルセイユの嬢ちゃんも分るだろう』

彼は自らのコールサインを名乗る。それはエンブレム通りの`クルセイダー`だ。あえて名乗るということは自身の腕によほどの自信を持つのと、自分達に敬意を払っている(大概のティターンズ兵士はウィッチを侮るあまり、見下しているが、彼を初めとする一部の将兵は敵を見くびらないで敬意を払っている。)のだろう。軍人としては実に有能かつ高潔な人物だ。

−そう。彼と「ストームウィッチーズ」の間には奇妙な友情が芽生え始めていたのだ。不思議なことだが、人間同士は分かり合えるということの証明でもあった。

『さて、始めるか』

彼−クルセイダー1は新たな愛機`F−104 スターファイター`のエンジンを吹かしてドックファイトに入った。彼の部下達も皆、グリプス戦役を生き残った強者ぞろいだ。無論、ネウロイに遅れを取るような未熟な兵士は一人たりともいない。それがティターンズのアフリカ戦線を支える航空部隊と自負する彼らの`誇り`であった。

`キィィィィン`とエンジンの爆音が響き渡る。機体の識別標識は改装前のイタリアのそれだが、主な改良点として機銃が搭載されているのがこの機体の大きな特徴だ。彼らはかつての航空自衛隊が追求した空戦術を駆使し、ティアナと稲垣真美に一泡吹かせる。

「……え!?」

ティアナは背後を突かれた事に焦りを感じつつも日本(扶桑)機特有の超機動性で背後を取り返そうとするが、彼らの相互に補助しあう機動の巧みさに思惑を潰される。

「やっぱりそうさせてはもらえないかっ!!真美、40ミリ砲は!?」
「こいつは弾は多くないから無駄遣いは避けたいけど……そうは言ってられない。私に任せてっ!」

真美はティアナを援護すべく40ミリ砲を発射しようとするが、そうはさせじとスターファイターの一機がミサイルを放つ。見事な援護行動だ。射撃体勢を解き、回避に移る。(この時期、ミサイル対策の一環として未来世界のジェット機のマニューバーを伝授したり、チャフやフレアの開発が急がれていたが、それが開発されたり、完全に普及するのは翌年以降となる)。幸い彼女のストライカーユニットは日本機の中では機動性は低いが、他国よりは小回りが効く`飛燕`なのでミサイルの特性を利用するように回避する。味方の`エクスカリバー`や`コスモタイガー`も一機たりとも敵を落とせていない。コスモタイガーにも遅れを取らないスターファイター側の戦術の巧みさが光っていた。それは敵ながら見事だとティアナは感心する。

スターファイター側のクルセイダー1はその熟練した操縦技術により2人を弾切れに追い込み、撤退に追い込む。ティアナも真美も彼の空戦技術の高さに舌を巻き、この日も思惑を達成できずに終わった。

 

 

−2人が空戦を行なっているのと同時刻の基地の執務室では指揮代行を勤めるマルセイユが愚痴を連邦軍の武官にこぼしていた。上層部との交渉や装備や物資の請求はすべて加東圭子に任せきりだったのを、
何の因果か、自分が行うハメになったのでゲッソリしている。

「ケイがやってた事がこんなに大変だったとは……クソッ、胃に穴が空きそうだ」
「胃薬、飲みました?」
「飲んだよ。最近はリポ●タンDやエプカ●プが手放せん……おかげで昨日はモントゴメリーの奴に小馬鹿にされたぞ」
「あの野郎はイギリスじゃ評価高いですけど、アメリカとかじゃ無能扱いされてますから」

モントゴメリーとは`バーナード・モントゴメリー`ブリタニア(イギリス)陸軍元帥で、史実ではマーケット・ガーデン作戦を失敗させた事で歴史に名を残した。無能とされている資料も多く、連邦軍が彼に難色を示しているのもマーケット・ガーデン作戦の失敗のせいである。そしてこの武官はマーケット・ガーデン作戦から辛うじて生還した兵士の遠い子孫にあたり、
先祖の戦友を無駄死にさせたモントゴメリーを嫌悪していた。なので事あるごとに`あの豚野郎`などの罵詈雑言でモントゴメリーを罵っていた。
(モントゴメリーにしてみれば、起こってもない並行時空の戦いの失敗を棚にあげて罵しられるのは心外である。しかし連邦軍の日本出身者から`、
なんだモントゴメリーの野郎か`と馬鹿にされるほどの低評価を受けているのには落ち込んでいる)

「チキンラー●ンはまだか?」
「卵載っけます?」
「頼む。これがまた美味いんだ」

マルセイユは意外にも未来から持ち込まれた食品などに何ら抵抗感を示すことなく、むしろ積極的に食べていた。未来に行く機会があれば、コンビニに行きたいとの事である。

彼女が近頃ハマっているのは日本の某有名食品加工会社の超ロングセラーインスタントラーメン「チキンラー●ン」。発売以来多くの日本人が魅了されてきたその味はアフリカの星をも`落とした`のだ。
ある意味凄いことである。

武官が上手く卵をのっけたどんぶりを机に載せる。マルセイユは待ってましたと言わんばかりにわりばしを上手くわって、麺をすする。その表情は実に幸せそうだ。

「この卵の黄身と麺のハーモニー……うぅ〜たまらんっ」

−執務が多く出撃できない鬱憤を紛らせているのはある意味連邦軍が持ち込んだ未来食品のおかげかも知れない。マルセイユはそう思った。

そして、この間にも反攻作戦の準備は着々と進んでいた。ティターンズ残党軍の掃討作戦のために連邦軍の一大戦力が集結を行なっているからだ。
主な主力はRGM‐89「ジェガン」D型やR型のさらなるマイナーチェンジ機(現地部隊が独自に後継機のジャベリンのジェネレーターを積んでR型からさらなる改装を施したもの。現時点ではジェガンの最高到達点で、非公式にV型と呼ばれる)及びスタークジェガン、ジャベリン。
航空部隊は可変機のリゼルにZプラスと各種バルキリー、コスモタイガー。(最新鋭ガンダムタイプも場合によれば投入される)そして空挺部隊には、小型モビルスーツが登場した時勢では随分とレアな機体となった陸戦型ガンダムの姿も見えた。l

 

 

 

 

−そして。8月初頭 

8月に入り、アフリカでは「エルヴィン・ロンメル」将軍を指揮官とする対ティターンズ反攻作戦が開始されようとしていた。

主戦力である、地球連邦軍側の機体は様々で、古いところでは`RGM−79SP`「ジム・スナイパーU」、新しいところでは砂漠迷彩仕様の`RGM−122`「ジャベリン」が参加していた。
ウィッチ達はこれら兵器が自分たちと共に参加することに驚きを持って迎えた。

 

「ん?何だこのばかでかい`Kar98k`は?」

ハンナ・ユスティーナ・マルセイユは作戦前の地球連邦軍との打ち合わせのために地球連邦側の駐屯地を訪れていたが、武器弾薬が置かれている倉庫にモビルスーツサイズに拡大したような`Kar98k`小銃が置かれていることに驚く。そのまま拡大したと言っていいくらい再現されている。モビルスーツ用の武器だというが……。

「それですか。ジム・スナイパーU用のライフルですよ」
「モビルスーツ用のライフルだと?ビーム兵器があるそちらでの時勢でも実弾砲は需要あるのか?」
「ええ。ビームはコロニーとかだと使えませんし、大気圏内だと減衰するんです。その点、実弾兵器だと安定した威力が出ますから。狙撃任務にはうってつけです。ただし口径は昔の歩兵戦闘車両用に使われていた75o砲の転用ですがね」
「75ミリが`ライフル`扱いか……モビルスーツというのは凄いな」
「ええ。モビルスーツは昔の戦車砲〜巡洋艦の艦砲まで手持ちで扱えますからね」
「そういえば今度、陸戦型ガンダムを見せてくれ。渋いからな」
「良いところ突きますね。あれは一番歩兵らしいガンダムですから」

マルセイユは関心したりであった。モビルスーツの威力は旧来の戦車を遙かに超える。これが一時的にも戦闘車両を退役に追い込んだ未来での花形兵器であるとばかりに倉庫に置かれているモビルスーツ用の武器は物語っていた。

 

 

 

−ウィッチはこの作戦に当たって、出来る限りの最新装備を受領していた。空戦用ではティアナや稲垣真美には扶桑の最新鋭、火龍と橘花が優先的に配備された他、
マルセイユにはMe262の後継として採用された第二世代型ジェットストライカー「`Ta 183`フッケバイン」が与えられた。陸戦分野ではティーガー装備部隊に後継の試作型ストライカー「レオパルト1」(ケーニッヒティーガーは本土防衛部隊が優先的に装備していたので未来情報を基にストライカーユニットとして試作した)が配備され、
扶桑出身者にも「チト」が「チハ」の代価ストライカーとして配備されていた。

「これがレオパルト?」
「らしいわ。ティーガーの後継的なストライカーとして作られたけど、実質的には`W号`の後継の主力として配備されるらしいわ」
「よかった。これであのモビルスーツとも戦える……」

ティーガーは戦車らしいフォルムを残す大型ストライカーユニットであったが、レオパルトはW号までのような形状をしている。火砲は105ミリへアップされているのにも関わらず連邦軍側の技術提供によって快速を誇るという。カールスラント出身の陸戦ウィッチで、ティーガーを主に使っていたポニーテールの少女「シャーロット」軍曹はレオパルト1でようやくモビルスーツに対応できる火力を得られた事に安堵を見せる。彼女は数カ月前にティーガーでティターンズの誇るモビルスーツ部隊と交戦した経験があった。その時は正に地獄としかいいようのない光景であった。

−あの時は顔から血の気が引くのがわかった。重ストライカーユニットのはずのティーガーでも相手の装甲を全く貫徹できなかった時のショックは……。その時の相手側のモビルスーツは「マラサイ」と「バーザム」という機種。後で聞いたけど、装甲素材はガンダリウムγ合金という特殊金属を用いていた。この時代では考えられないほど堅牢な金属で、駆逐艦程度の主砲ではびくともしない強度を誇る。どうりでティーガーの主砲が通じないはずだよ……。

彼女はガンダリウム合金の威力を身を持って体験していた。88ミリ砲の徹甲弾の方が装甲に負けて砕けるという現象まで経験し、火力に仲間共々半ば蹂躙されてしまうところであった。そこに救援に駆けつけたRGM−89R「ジェガンR型」の部隊がマラサイらを撃退した。さらなる高性能をジェガンが見せつけたわけであるが、ジェガンは度重なる改修で総合性能で言えば、一昔前のガンダムタイプに相当するほどの性能を得ており、マラサイを撃退することは比較的容易であった。ネモ系列の機体をジム系の思想と合流させて生み出された`連邦大型量産モビルスーツ`の集大成的存在は伊達では無いのだ。

「でも今回は私たちだってモビルスーツと戦える!レオパルトは伊達じゃない!!」

……と、どこかで聞いたセリフを言いながら作戦へ並ならぬ意気込みを見せるシャーロットであった。

−作戦室

「よし、3日後をめどに作戦を開始する。各部隊に通達せよ」
「いいのかロンメル。あの様な得体の知れない輩と共同作戦など……」

地球連邦軍に対し、あまり信頼をおけないとばかりに渋い表情を見せるモントゴメリー将軍。彼は連邦軍から`マーケット・ガーデン作戦を失敗させた愚将で、人種差別主義者`と嘲笑されている現状に鼻持ちならないようだ。ロンメルが`電撃戦の名手`、`砂漠の狐`と持て囃されているとは偉い違いである。ロンメルはモントゴメリーを一笑に付しながら言い放つ。

「構わん、敵の敵は味方だ。それに彼らの言うことは信用に値する」
「しかしこの私を`愚将`、`劣将`と嘲り笑ったのだぞ!!何がマーケット・ガーデン作戦だ!!」
「だから君は器が小さいと奴さんから笑われるのさ。パットンを見習え」
「ぐぬぬ……まあよい。此度の作戦で汚名挽回を…」
「それを言うなら汚名返上だろう」

それは自分の軍人としての手腕を歴史によって真っ向から否定された哀れな老将軍の姿であった。感情を顕にするモントゴメリーをロンメルは半分哀れんで見ていた。だからある一方面の指揮を任せ、汚名返上の機会を与えたのだ。主力はモビルスーツや精鋭ウィッチを集めた自らとパットンの部隊。これで電撃戦を展開するのだ。

「本日を持って今次計画を`Valkyrie(ワルキューレ)`とする!以上!!」

アフリカ戦線は動き出す。「Valkyrie」作戦。目的に捕らえられたウィッチ救出も含まれるこの作戦は乾坤一擲のもの。果たして成功するのであろうか?伝説の名将軍「エルヴィン・ロンメル」はティターンズ残党軍を撃ち破れるのか。
奇しくもその作戦秘匿名は史実での第三帝国総統「アドルフ・ヒトラー」を暗殺しようとしたクラウス・フォン・シュタウフェンベルク大佐が実行したクーデター作戦と同名であった。そのため連邦側には一抹の不安がよぎったという。

そしてウィッチ救出作戦のために機材の選定が急がれていた。連合・連邦両勢力の機体から最良なものが選定される予定だが……?

 

 

 

−ティターンズ側も連合軍と連邦正規軍の行動は察知していた。彼らは転移前に鹵獲に成功していたエゥーゴ製高性能機や捕虜となったウィッチをも動員した。

「エゥーゴの奴らと連合軍が行動を起こすようです」
「うむ。部隊の再編を急げ。ウィッチ達の教育は充分か?」
「ハッ。各地から摂取した人員を我がティターンズに相応しい人員に再教育致しました。これを航空隊として参加させます」

彼らティターンズは連邦正規軍をエゥーゴと言った。その言葉は彼らが`自分たちこそ連邦の正規軍だ`という自覚のもとに発しられていた。実際グリプス2の攻防戦まではティターンズは文字通りに連邦の正規軍として行動していた。それが彼らをそう言わせる理由であった。そして敵であるはずのティターンズに志願したウィッチ達はティターンズに触れることで、連合軍への疑念を強くした結果、袂を分かち、かつての同胞と戦う道を選んだ。それは何百年経とうとも同じ人間同士で争い合う人間の性を理解したがために、若いウィッチ達の大多数は`殺される位なら……`の心情が働いたのだが、自らティターンズへ志願し、同部隊の一員になったウィッチもいた。その中にはカールスラントの空戦のエースたちも複数含まれていた。同国航空隊所属のリーケ・ザクセンベルクやルドルフィン・ミューラーなどがそれであった。彼女らはカールスラントで前世紀以来続く、旧態依然とした皇帝主体の体制に疑問を抱いており、かねてより噂になっていた未来の軍勢である「ティターンズ」に合流した。戦線の予想以上の好調ぶりで人材不足に悩んでいたティターンズはこれを歓迎。元々呉越同舟的色彩の強かった連合軍の無能な指揮官に対しての疑念に漬け込む形でティターンズの残党軍はウィッチ達に志願を促した。結果は成功。ティターンズは今では錬成途上含めてウィッチの3個航空軍を抱えるまでになっていた。人員は占領地に駐留していた部隊や企業の人材を、機材も製造工場ごと摂取して運用していた。これは奇しくも元は連邦軍部隊を摂取したのが出自のザンスカール帝国軍に似ていた。

 

「敵の指揮官は誰だね?モントゴメリーやパットン将軍か?」
「いえ、`砂漠の狐`です」
「……ロンメル将軍か」
「彼は電撃戦の名手です。どうしましょう」
「面白いでは無いか。彼も万能ではあるまい。事実、1943年には連合軍に敗北している」
「ですな。どう迎え撃ちましょう」
「ソ連流の戦術で行こう。東部戦線を勝利に導いた将軍達の知恵が役に立つ」

ティターンズの戦略はソ連流の戦略を採用。ドイツ電撃戦の雄を、東部戦線でドイツを打ち破ったソ連の打ち出した機甲戦術で迎え撃つのである。ある意味では独ソ戦のバルバロッサ作戦〜バグラチオン作戦の流れの再来とも言えた。そして……ティターンズの軍服を着込んだウィッチ達が待機している格納庫には往年のモビルスーツや戦闘機の名機がいくつも鎮座していた……。

 

−アフリカ戦線の動きを察知したティターンズは先手を打ち、モビルスーツ一個中隊をモントゴメリー将軍の担当戦線へ進出させた。ジム系モビルスーツを主体とする部隊ではあるが、240ミリ砲を持つジム・キャノンの火力は脅威であり、モントゴメリーの指揮する部隊に痛撃を与えていた。

「何事だ!?」
「ハッ、敵の攻撃です!!」
「チィッ、先手を打たれたか!!ロンメルに打電!`我、敵部隊と交戦中ナリ`!復唱はいい!!」
「ハッ!!」

モントゴメリーは汚名返上も兼ねて部隊を応戦させた。戦車・陸戦ウィッチ達が必死に防戦を展開する。だが、情勢は芳しくない。ジム・キャノンの240ミリロケット砲は一昔前の戦艦の艦砲にも相当する。トーチカが粉砕され、爆風で吹き飛ばされた兵士たち`だったモノが`辺りに散らばる。この方面に打ち合わせのために来訪していた王立ブリタニア陸軍第4戦車旅団C中隊隊長「セシリア・グリンダ・マイルズ」少佐は急遽「センチュリオン」で応戦し、ティターンズMS部隊に立ち向かった。

「ジム・キャノンのデータは頭に入ってる。240ミリ、もしくは360ミリロケット砲を肩につけている火力支援用モビルスーツ……あれをやらないとキツイわね」

マイルズは最優先目標に火力支援を行っている砂漠迷彩仕様の`RGC-80`ジム・キャノンを上げた。機によっては扶桑の誇る金剛型戦艦にも匹敵する巨砲を装備する機体。あれを沈黙させ、火力支援を断つ。センチュリオン用の手持ち火器として用意された20ポンド戦車砲を用いてジム・キャノンを狙う。背部バックパックや頭部メインカメラが狙い所。レオパルトほどの火力を持たないセンチュリオンの戦術としてモビルスーツの側面、背後を狙うのが最善の策。マイルズは歴戦の勇士としてそこを見抜いたのだ。

「行けっ!!」

背後に忍び寄り、20ポンド砲を浴びせる。実弾攻撃であるが、魔力強化により弾丸は装甲を貫通、ジム・キャノンはまるで糸の切れた操り人形のように前のめりに倒れる。砲身は倒れる瞬間に折れている。マイルズはここのところマチルダUで部下ともども敗北続きであったが、ブリタニア最強の`巡航戦車`の記号を持つストライカーユニット「センチュリオン」でリベンジを果たしたのだ。

戦場ではモビルスーツ戦も展開されている。旧式のジム改やジムUなどが正規軍の持ち込んだ直系後継機のRGM−86R`ヌーベルジムV`と剣戟を展開し、ジムの後継者たる`RGM−89`ジェガンがそれらを薙ぎ倒していく。特に存在感を見せつけたのは`最強のジェガン`と誉れ高き`RGM−89S`スタークジェガン`。その性能で先祖というべきジム系モビルスーツを次々に沈黙させていく。現在の地球連邦軍にとっては後継機のジャベリン、Z系可変機を除けばエースパイロットに与えられる最高峰量産機の地位をかつての`ジム・カスタム`に代わって占めている。つまりスタークジェガンに乗れるということは連邦軍モビルスーツパイロットの中では羨望を集める存在として認められた事でもある。実際にこの戦線の参加した搭乗員の中でも搭乗時間が長く、戦歴も一年戦争以来の老練達は皆、その気になればZ系も軽く乗りこなせる腕の持ち主であるが、操縦性が`素直`なジムの系譜を継ぐこの機体に好んで乗っていた。

「あれがスタークジェガン……凄い」

スタークジェガン達の奮戦はマイルズたちを勇気づける。中にはモビルスーツでサムズアップをしてみせるお茶目なパイロットもいて、ウィッチを鼓舞しながら援護する。スタークジェガンの背部追加スラスターの噴射炎が夜空に消えていく。マイルズは彼らに背中を任せながら進撃を続けていく。旧式のジム達の屍を踏み越えながら……。

 

 

 

 

−アフリカ戦線ではティターンズが先手を打って攻撃を開始した。それは陸軍だけではなく、海軍も同様であった。エジプト付近のティターンズの海軍所属「ニミッツ級航空母艦」(2代目。かつての米軍ニミッツ級航空母艦の直系の子孫で、同級のそれを継いだ)が出港。連合軍所属の空母と決戦に入っていた。相手は扶桑皇国海軍航空母艦の雄「瑞鶴」。指揮官は城島高次少将であった。

―ティターンズ海軍第3空母打撃群旗艦「ロナルド・レーガン」艦橋

全長400mはあろうかという超弩級空母が大海原を往く。この1944年という時勢を鑑みるとエセックス級航空母艦は愚か、ミッドウェイ級航空母艦であろうともこの原子力空母たるニミッツ級航空母艦の前には張子の虎に等しい。だが、彼らとて恐れるのはある。それは日本海軍(扶桑海軍)航空隊である。ウィッチを主軸とする航空隊はジェット戦闘機といえども手を焼く相手。加えて正規軍化したエゥーゴの護衛艦隊。それなりの損害は覚悟せねばならない。

「艦長、敵艦隊を補足。`日本海軍`と`米軍`の連合艦隊の模様」
「ふん、来たか。注意するのは、かの`長槍(ロングホウ)`の酸素魚雷を誇る日本海軍の水雷戦隊とウィッチの母艦の空母だ!米軍の船は雑魚にすぎん。護衛艦の速射砲で蜂の巣にしてやれ!!。陣容は分かるか?」
「日本の翔鶴型航空母艦が旗艦です。スの標記があったので2番艦の瑞鶴かと」
「瑞鶴か……強敵だな」

ロナルド・レーガンの艦長は太平洋戦争で猛威を奮った九三式魚雷と航空用の九一式魚雷、史実の太平洋戦争での戦歴を鑑みると、やはり有力な航空戦力を搭載しているであろう瑞鶴に注意を払っていた。防御のために、分厚い装甲を纏った第二次大戦型の軍艦を撃沈せしめる威力を誇る酸素魚雷は船体装甲を殆ど持たない戦後型艦船にとっては脅威そのもの。ダメージコントロールで抑えるのにも限界はある。酸素魚雷に注意しつつ艦載機である「F/A−18F」と「F−35C」(このF−35はティターンズのいた歴史では`万能ステルス戦闘機`と謳われたもの、当初の思惑を外れる高価格が仇となって、軍縮機運にあった議会の槍玉に上がり、同盟国である日本やイギリスを含めても1000機にも行かぬ少数生産に終わった。無論、ベストセラーであったF−16シリースの後継を目指した計画は見事に破綻し、F-111の失敗を繰り返しただけでなく、各国国防計画を狂わせてしまい、米国の凋落の序曲の象徴となった)が発進する。目標は敵艦隊。既に水上艦艇によるミサイルの飽和攻撃も開始されている。いくら米軍がダメコンに優れるといえ、アイオワ級にも一定のダメージを与えられる対艦ミサイルを食らい続けば駆逐艦程度は沈没は避けられないはず。

空中管制機から通信室に通信が入る。内容は「アレン・M・サムナー級駆逐艦やフレッチャー級駆逐艦が炎上し、隊列から落伍しつつある」というもの。奇襲は上出来だ。

「あとは艦載機の戦果次第だな」

艦長は艦載機の武運を祈ると同時に更なる支持を飛ばす。

 

 

−翔鶴型航空母艦2番艦「瑞鶴」艦橋

「駆逐艦、炎上!!」
「先程の噴進弾でか!?馬鹿な……そうやすやすと炎上するはずが……」
「電探室より入電!!」
「敵機か!508に迎撃させろ!!」
「しかし、相手はジェット戦闘機ですぞ!!」
「99式(史実の96式艦戦)や零式をだして犠牲を無暗に出すよりはマシだ!!責任は私が追う!!」

城島高次少将は独断で艦載していたウィッチ隊で、統合戦闘航空団の一つで、空母航空隊である「連合軍第508統合戦闘航空団「MIGHTY WITCHES」を出撃させ、直掩に当たらせた。これは彼としては越権行為であった。指揮権は持っていないからだ。彼女らの本来の母艦は「ビックE」こと、「エンタープライズ」。だが、同艦がドック入り中にF/A−18Cの対艦ミサイルによる空襲に合い、中破。急遽、瑞鶴が臨時の母艦になっただけだからだ。
奇しくもその判断は的中する事になった。F−35C(希少なのでエースパイロット専用機扱い。改装により完成当時は不可能であったスーパークルーズが可能となっている)が瑞鶴へ襲撃を敢行したからだ。508の戦闘隊長の新藤美枝は急いで邀撃したもの、敵もさるもの、空対艦ミサイルを撃つと思わせておいて、空対空ミサイルを撃ったのだ。ジェット戦闘機ならばのブラフを行ったのだ。

不意打ちで放たれたAIM-120はマッハ4で彼女に突入する。彼女は咄嗟にシールドを張ったが、爆風は彼女を吹き飛ばす。

「くっ……紫電でなければ死んでたな……」

新藤美枝は最新鋭の紫電の2000馬力相当の出力でなければシールドを突き破られていたと冷や汗をかく。そして瑞鶴の艦上では……。

「無理だ、松田!!やめろ!!こんな時に行くな!!行くんじゃないぃぃっ!!」
「いえ行きます!!」

部隊の一員の松田昌子が弾雨が飛び交う中を無理やり発進しようとする。彼女は若手だが、既に100機撃墜を数えるエース。343では菅野の相棒的立場にいた。502にも菅野の代理で出向した経験を持つほどの手練。だが、その行動は奇しくも史実のエースパイロットの杉田庄一(すぎたしょういち)兵曹の最期と同じものであった……。つまり離陸のところを敵機の銃撃を受け……

離陸途中のウィッチは格好の獲物とばかりにF−35Cの外部装備のGAU-22/A 25mm機関砲が火を噴く。瑞鶴の飛行甲板にガトリング砲の掃射による銃撃を浴びせられていく。

「松田ぁぁぁぁぁ――っ!!」

−新藤の絶叫が瑞鶴に木霊する……。それは松田の死を意味するのであろうか?塗料に引火したか、瑞鶴の飛行甲板は炎と煙に包まれ……消化班が急行し、消火作業を行う。次いで救護班が向かい、彼女を確保する。

急いで地球連邦軍と救護担当の医療ウィッチによる治療が行われた結果、幸いにも一命は取り留めた松田であったが、手術後は連邦軍艦船内の集中治療室(ICU)にその身を横たえる事になってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

−その松田の悲報はすぐに501にいる菅野のもとに伝えられた。菅野は艦内の坂本の部屋で戦友の松田昌子の事を坂本美緒から聞かされると愕然とし、その場にへたりこんでしまった。

「お、おい菅野!!しっかりしろ!」
「嘘だろ……あいつが……!?それで……?」
「発艦途上で銃撃を受けたらしい。なんとか一命は取り留めたらしいが、意識がまだ戻らんらしい。それと……もう一つ。お前に悪い知らせが入っている。お前の戦友の関大尉が………戦死したそうだ」
「!!!!」

菅野はここで更なる追い打ちをかけられてしまった。戦友の松田昌子の事だけではなく、兵学校同期でその後の親交もあった`関`大尉が戦死した事が伝えられたからだ。坂本によれば彼女はティターンズとの最大の激戦地の一つの海域「大西洋」付近で艦爆型ストライカーユニット「彗星」装備部隊を率いてティターンズ水上打撃艦隊と交戦。だが、イージス艦のファランクスの一斉射撃の前に被弾、負傷。ストライカーユニットの損傷も激しく、帰投不能と判断。500Kg爆弾を抱えたまま敵艦に突入した。その際に部下に言い残した言葉は「私は天皇陛下のためとか皇国のためとかで行くんじゃない。誰かを護るために行くんだ。最愛の者のために死ぬんだ」であったという。

−菅野は人目もはばからず号泣した。

まるで、子供のように泣きじゃくる彼女を坂本はただ、抱いてやることしか出来なかった。掛ける言葉も見つからない。黙って小柄な菅野を抱き止める。菅野は普段の勇猛果敢な姿からは想像もつかないほど泣いて、泣いた。かけがえの無い友を失った彼女の沈痛さは表情から察する事ができる。
そして坂本から渡された遺品を手に取り、亡き戦友の名を叫んだ。もう`帰らぬ人`となってしまった関大尉に対して。

「……関ィィィィィィィィィィィィィィィ―――ッ!!」

それは菅野にとって、戦友を失った虚しさと悲しみが交錯する叫びであった。手に持つ関大尉の映る写真には、大粒の涙が零れていた。
坂本はただひたすら菅野を抱いてやることしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

― アフリカ トブルク 航空基地

「私にとっては初めての大規模航空戦になるのよね……」

この時期にはストームウィッチーズの一員になっていたティアナ・ランスターは初めての大規模航空戦に4式戦闘脚「疾風」を纏って参戦することになった。入隊以来、コンビを組み、今では相棒と言える稲垣真美と共に空へ舞い上がる。今回は空戦が主な任務なので2人とも武装は「ホ5」20ミリ機関砲である。

「大丈夫だって。ティアならうまく出来るよ」
「だといいけどね」

―真美にそう言われるのももう何度目かしら?だけど今ならやれる自信がある。昔とは違う。

そうティアナは自分を勇気づけ、空へ翔ぶ。彼女は確実に機械化航空歩兵としての道を歩み出していた。2人の姿が蒼穹の空へ舞い上がり、消えていく。兵士たちは彼女たちを伝統の`帽振れ`でいつまでも見送っていた……。

 

 

 

さて、ティアナ達は大空へ舞い上がった。今回はジェットストライカーユニットの調整が間に合わなかったので在来のレシプロストライカーユニットでの出撃となった。共に編隊を組むは地球連邦軍の海軍航空隊所属のVF-19Aの中隊とMSZ−006A1の中隊である。共同作戦である。ティアナと真美はモントゴメリー将軍の担当地域の制空権確保が今回の任務だ。

「制空権の確保か……一見なんでもないように思えるけど重要なんですよね」
「そうだ。俺たちの援護がなければ陸戦部隊なんぞ捻られる。モビルスーツにしてもそうだ。だからこうして可変機の需要があるのさ。歴史上に制空権を持たない側の軍隊が捻られた例なんて腐るくらいある。あの戦艦大和さえも……な」

Zプラス隊の隊長が空戦の世界に足を踏み入れて間もないティアナに空戦の大事さを教える。ティアナは管理局時代にはなのはやフェイト達という空戦での`絶対的な撃墜王`達の傘のもとで戦うことが多かったため、その辺はあまり考えた事は無かった。だが、自分がこうして空戦を行う立場になってみるとその制空権の確保の重要性が改めて良く分かる。敵機との性能の差は技量で補えるのでその辺は問題ない。皆、それくらいの腕は持っている。

「敵機だ。俺たちがミサイルで奇襲をかける。嬢ちゃん達はその後に攻撃しろ」
「了解です」

Zプラスとバルキリーの`エクスカリバー`隊が先手必勝とばかりに、ミサイルによる奇襲を敢行する。アクティブホーミング方式のミサイルである。打ちっ放し能力を持つのでこういう時には最適である。エクスカリバーやZプラスのウェイブライダーの翼下に敢行されている空対空ミサイルが発射される。2199年9月現在の最新鋭のミサイルなので、命中率はミノフスキー粒子散布下でも60%以上を誇る。発見が遅れた敵編隊の内、5機ほどがチャフなどの手段を使うのに間に合わず、ミサイルの餌食となる。この時の敵機の陣容は、隊長機が「F-104J スターファイター」で、隊長機の護衛機が「F-105 サンダーチーフ」。
その他は「F-100 スーパーセイバー」という1950年代に米軍が送り出した「センチュリーシリーズ」の雄達。アフリカのティターンズは緒戦での反省か、前線では故障してもこの時代の部品で代用が効き、前線での修理も比較的しやすい第二世代ジェット戦闘機を主に主力として用いていた。部品の現地調達や工場での生産効率を考えると妥当な判断である。ティアナ達はこのセンチュリーシリーズに果敢に挑む。

 

「まずは!!」

ティアナは疾風の主要戦法である一撃離脱戦法はジェット戦闘機には通じないことは知っていたので成道ではない`巴戦`に持ち込む戦法を取った。米国製第二世代ジェット戦闘機は巴戦に持ち込まれると、その真価を発揮できる機種は限られている。これは`ミサイル万能論`が最も幅を効かせていた時代に作られ、米軍が制空戦闘機というジャンルを最も軽視した頃の機体なためだ。その中ではスーパーセイバーやスターファイターなどは比較的巴戦をこなせるだけの機動性は持ち合わせている。サンダーチーフも同様だ。

ティアナは実戦で積んだ経験に則り、まずは一番の雑魚と言える「F-100」に攻撃を仕掛ける。
F−100は比較的多数を保有しているためか、割と戦線では姿を見る。攻略法も既に頭に入っている。レシプロストライカーユニットの独壇場と言える旋回性能で後ろをとり、ホ5の射撃を浴びせる。魔力による強化作用のため、機銃としては第二次大戦世代のホ5でも十分に装甲は撃ち抜ける。一斉射でエンジンを停止に追い込み、撃墜する。ただしホ5はベルト給弾式150発あまり。戦闘機としての疾風なら4門搭載なのでそうやすやすと弾切れは起こさないが、ウィッチの場合は一門しか持たないので弾切れを起こすことも多い。その点ティアナは射撃戦での緒戦能力は損なわれない。管理局時代から引き続きクロスミラージュを保有しているためだ。真美も一時帰国の際に黒江から託された刀があるので機銃を失っても一応は戦える。

「っ!!」

ティアナを狙ったサンダーチーフの機銃である「M61 バルカン」の弾丸が偶然にもホ5に命中し、ティアナは早くも機銃を失う。咄嗟に手を離した上でシールドを展開したので無傷だ。戦場では何が起こるか分からない。

「あ〜!!まだ全弾撃ってないってのに!!も〜あったまきた!!行くわよクロスミラージュ!」

彼女としてはこんなに早くデバイスを使うことになったことに腹を立てる。なるべくもっと温存しておくはずだったからだ。カートリッジも新暦75年当時の管理局正規規格の物はあまり多くは持ち合わせていなかったので、この分だといずれは連邦軍から仕入れられる魔力の容量や精度の落ちる試作タイプを全面的に使用せざるを得なくなる。

ティアナは予想外の事態に対応を迫られつつもクロスミラージュを二丁拳銃の状態で使用し、銃撃戦に入る。精度は使い魔の補助も入るので、以前より遙かに正確。ストライカーユニットの制御も行う関係で技量が上がったのだ。これにはセンチュリーシリーズのパイロット達も仰天。思わぬ効果を上げた。

「おっ、おっ、おっ!?」
「あれはデバイスだ……と言うことは奴さんは……」
「知っているのか?」
「ああ。アイツはおそらく`管理局`の局員か、それだったか……」
「管理局?ああ、エゥーゴとつるんでいる変な組織の事か。それが何故?」
「俺達のように迷い込んだんだろう。次元断層は不意に人間やその場の空間をも飲み込む。それに巻き込まれてきたと思う」

それは的を得ていた。ティアナ・ランスターは彼らの推測とほぼ同じ経緯で、2199年で戦うなのは達の元いた時代のミッドチルダからはおよそ8年後の世界から2199年に飛ばされている。その後に穴拭智子と親交を結んだ事によりこの世界に来訪している。彼らはティアナの服装は扶桑陸軍軍人のそれであるが、髪の色が1940年代当時の日本人ではまず有り得ない事、この時代の技術では作れない`魔力を動力に用いる兵器`(この世界では魔力による動力機関は実現しているが、兵器への応用はまだまだである)を使っている事からそう目星をつけたのだ。

クロスミラージュを使うティアナは本来の`得物`を使えているせいか、水を得た魚のように戦果を上げ、スーパーセイバーがまた一機彼女の餌食となる。

(まだスターライトブレイカーは使えない。一機づつ確実に落としていくしか無いわね)

「真美、援護、頼むわよ」
「了解、任せといて」

ティアナは扶桑陸軍軍人となってからも砲撃魔法の習得は独学で続けていた。なのはの切り札として管理局では有名な`集束砲`の魔法−なのはの物言いを借りるなら「スターライトブレイカー」−の習得に全力をあげ、この時期には一応撃てるようになっていた。
これは本来の歴史の流れの史実より速いペースでティアナが成長しているという証でもあった。

「来たわね……」

地上からの対空砲火も打ち始めたようだ。ティターンズは自走式対空砲である、M163対空自走砲やゲパルト自走対空砲なども有していたようで、それらが複数で綿密な弾幕を貼り出す。航空ウィッチといえども、この弾幕は脅威。ここはZプラスなどに掃討してもらうしかないだろう。ZプラスA1型達はすぐに近接航空支援を行い、統制のとれた急降下爆撃を敢行。確実に対空砲火の数を減らしていく。

−この場にいるウィッチは彼女らのみ。護衛する側としては楽だが、完全に地上兵器を掃討するには他の戦線からの援軍(対地攻撃機など)を待つしかないだろう。
Zプラスのパイロット達はそう思った。

 

 

 

Zプラスを初めとする可変モビルスーツは兵たちの高性能機を欲する声が高いのと、「可変戦闘機」(Variable Fighter)に対抗する意味合いも含まれてか、この世界ではどれもが量産されていた。その最新制式量産型機として採用され、系統的には廉価版に位置づけられるモビルスーツ「リゼル」は亜流のZZ系列の血統も受け継ぐ機体であり、実際、そのような武装も用意されていた。1944年での作戦ではZZ同様のバックパックを背負った機体も投入され、斬り合いで戦果をあげていた。このユニットを装備した仕様は、本来なら宇宙戦用で飛行機能は無いものZZガンダムから受け継がれた「ハイパービーム・サーベル」の威力は折り紙つきのものだった。マイルズはリゼル部隊の威力を目の当たりにした。

ウイングバインダー仕様のリゼルの持つビーム・サーベルがモビルスーツの重装甲をも容易に切り裂く。マイルズはモビルスーツ同士の斬り合いでは一瞬の隙が生死を容易に分ける事を改めて理解する。陸戦での斬り合いを好むパイロットもいれば、Ζ系列本来の空中戦を行うことに徹する部隊もいる。リゼルはZ系の入門機的位置づけなので、熟練者は隊長機仕様を乗りまわした後はより上位のΖプラス系統に乗り換えていくという。

「これがモビルスーツ同士の戦い……」

マイルズは人の形を持つ兵器群の凄まじいぶつかり合いに息を飲む。リゼルは性能的には連邦軍から見れば所詮、「変形したらメタスになれる程度のジェガン」程度なのだが、グリプス戦役レベルのモビルスーツにとっては充分に高性能である。旧式化して久しい、ハイザック程度では相手にもならずに倒される。やはりΖの血統を継ぐ機体は熟練者が乗って真価を発揮するものだ。

「少佐、大丈夫か?」
「は、はい」
「よし。乗ってくれ。モントゴメリー閣下の受け持つ戦線が苦戦中だ」
「分かりました」

マイルズはストライカーユニットを纏ったままリゼルの全天周囲モニターが備え付けられているコックピットへ入り込み、リニアシートの臨時の複座席へ入る。変形機構の関係で多少狭いが、2人程度なら問題ない。飛行形態へ変形し、すぐに飛び立つ。護衛付きだ。

「もう変形してるんですよね……まるで感じなかった」
「ムーバブルフレームの柔軟性とマグネットコーティングの効果だ。変形所要時間はゼロコンマ秒単位だし、普通は気がつかんさ」

Z系統の変形機構は年々洗練されている。グリプス戦役から第一次ネオ・ジオン戦争で用いられた、最初に製造されたオリジナルのΖでさえ0.5秒。後発のZプラスやZZではさらに短縮され、最新鋭機のリゼルでは変形機構の単純化とマグネットコーティングの能力向上で、さらに早くなり、最新鋭らしい、最速の「コンマ2秒台」。マイルズがあっというまでもない間に変形し、空を駆ける。
変形したウェイブライダーは基本的に高速移動に用いられる。……と言っても速度は遷音速ほど(超音速を出せるのはペネローペなどの一部の超高級機のみ)だが、この時代の飛行機よりは高速で移動できる。

下ではシャーロット軍曹がレオパルトTで進軍している。このことを知ったら羨望されるだろう。こうして運搬してもらえば魔力の節約にもなる。連邦軍はこうした可変モビルスーツを`空挺師団`の制式装備として用いているという。陸戦ウィッチもこうした作戦行動ができれば迅速な展開が可能となる。空戦ウィッチたちの活躍が注目されがちな今次大戦では陸軍は軽んじられがちである。

(後で上に陸戦ウィッチの空挺運用を提案してみよう)

マイルズのこの思案は後に各国に取り入れられ、ウィッチの「エアボーン」として一般化する。しかし、今次大戦に間に合ったのは既に通常部隊が運用されていた扶桑陸軍の挺進連隊、カールスラント空軍の降下猟兵による第1降下猟兵軍、リベリオンの第18空挺軍団などの大国群の誇る精鋭達に限られたとか。

「パラシュートはつけたな?」
「はい」
「んじゃ降下!」
「了解」

これが史上初のウィッチによるエアボーンの事例となった。モビルスーツによる手伝いも込みだが、それはOKとなった。マイルズは初めての空挺に緊張しつつも敵の背後に降下。進軍を開始した。

「空挺って、やってみると案外やれるもんね……移動も楽だし、魔力の節約にもなる」

リゼルから降下すると、彼女は単騎ながら敵(ティターンズ)の補給基地を襲撃した。20ポンド戦車砲と基地の弾薬庫から適当に盗んだ「ベネリ M4 スーペル90」散弾銃(偶然にも、イギリス軍運用モデル)で基地を撹乱する。基地内での移動は脚部を移動時の軌道ではなく、通常時の脚部で行っている。

「う、うぉわぁぁぁぁっ!?」

マイルズは敵歩兵の「L85」や「AK-47」、「FN FAL」、「H&K G36」などの古今東西のアサルトライフルから撃ちだされる「5.56mm NATO弾」や「7.62mm NATO弾」による掃射を床を滑りながら必死にくぐり抜ける。これではやってることはほとんどアクション映画でのシルベスター・スタ◯ーンかアーノルド・シュワルツェ◯ッガー、あるいはスティーヴン・セ◯ール、キ○ヌ・リーブス、トム・ク◯ーズである。

−軍人生活やってもう5年以上だけど、こんな……アクション映画まがいの行動やるハメになるなんて〜!?

……と心のなかで大泣きつつ、なんとか手持ちの火器で反撃する。室内で戦車砲は危険なので散弾銃だ。ドアをストライカーユニットの重量を用いた蹴りで蹴破るとすぐに部屋に潜り込んで火線から逃れる。

「ハァ、ハァ……た、助かった……」

部屋は士官室のようで、ティターンズの士官の軍服が置かれ、拳銃(SIG SAUER P228)とその弾薬が置かれていた。絶好の機会だ。

「ラッキー!!これで拳銃を替えられる!!」

彼女の拳銃は「FN ブローニング・ハイパワー」であったが、運悪く装弾不良を起こしていた。それに渡りに船で、銃を弾薬ごと奪う。幸い時代が変わっても弾薬そのものは互換性がある(9mmパラベラム弾は20世紀後半以降のスタンダード弾薬)らしく、手持ちのハイパワー用の弾薬が使えた。ホルダーに仕舞い、拳銃を変えるとひとまず汗を拭う。喉もカラカラだ。冷蔵庫に入っていた炭酸飲料水を物色する。ベットに腰掛け、一瞬の休息を楽しむ。

「さて、これからどうするか……この基地の地図がほしいわね……」

単騎での襲撃故に脱出経路も確保しなくてはいけない。それに留意しつつ、彼女は行動を起こした。近くを通りかかった歩哨を背後から襲い、アサルトナイフを奪った上で気絶させると忍び足で基地内部の散策を始める。監視カメラに写らないように壁に張り付きながら歩くなど、コレは完全に「沈黙の〜」シリーズか何かであった。

「見つからないように……。まさかストライカーユニットつけたままで隠密行動を行うことになるなんて……無限軌道は使えないわね」

そう。陸戦型ストライカーユニットに備えられている無限軌道は駆動音などで敵に見つかる可能性がある。それを考えると脚部を展開したままの方がいいだろうと考えるマイルズ。それは実際、的を得ていた。探知装置が飛躍的に進歩した時代の設備が多数備わっている基地で隠密行動を行うには如何に`敵に察知されないか`が肝なのだ。

「扶桑じゃその昔、`忍者(にんじゃ)`っていうスパイの役割を担ってた集団がいたっていうし……やってみるさ」

マイルズは忍者を引き合いにして隠密行動を行う。忍者は日本で独自に発達し、隠密・諜報分野を近代に入るまで担っていた集団。1940年代以降では面白おかしく語られる場合が多い(かの白土三平氏の忍者漫画などが戦後日本でのイメージを形成したのだろうか)が、実際はスパイのような存在であった事が判明している。彼女は扶桑の人間からそれを聞いていたので、忍者の存在を正しく認識していた。だからそう言ったのだ。

-隠密行動を行いつつ、彼女は歩を進める。

途中、SIG SAUER P228を撃って敵兵を倒し、部屋に入る。作戦会議に使われる部屋だ。マイルズは覚えたコンピュータ関連の知識を駆使し、コンピュータを起動。敵兵の服のポケットに入っていた用紙に書かれていたパスワードを慎重に入力する。

「出た!これは……佐官級の士官用パスワードだったようね。機密情報にもある程度アクセスできる。」

マイルズは同胞らが囚われている場所の情報を探した。すると断片的にだが、情報が得られた。

捕虜となったウィッチ達の収容所はティターンズが中央アフリカのザイール共和国(22世紀世界での地球連邦設立時の国号はコンゴ民主共和国)に作って、そこにティターンズ志願者以外を収容・隔離しているらしい。彼女はコンピュータの電源がティターンズ側に切られる前になんとか記録ディスクに焼くことに成功。この情報を伝えるべく、行動を起こした。

 

 

 

−さて、状況的にストライカーユニットによる隠密行動をすることになった「セシリア・グリンダ・マイルズ」少佐。彼女は敵基地に侵入。センチュリオンの静粛性テスト(結果的にだが)を兼ねての行動は緊張感あふれるものであった。機密情報を盗み取った記録ディスクをしまい込み、敵兵に通信をされないように通信兵を優先的に排除する。(この世界にもティターンズはミノフスキー粒子を散布していたので、無線通信はノイズが混じるため、ある程度は制限されている)。そして魔力を節約するためと、隠密行動のため、無限軌道の使用はできないという点と室内戦なので20ポンド砲は使えないのが不安要素であった。

「敵から奪っておいたけど……基本的にカールスラントのStG44と同じ……銃の構造ってそんなに変わらないのね」

マイルズは先ほど不意打ちで気絶させた敵から奪ったH&K G36への感想を言う。この銃はStG44 の二世代後の新生ドイツ連邦軍制式小銃。口径は小口径化しているが、威力は弾丸初速の向上や工作精度の進化でさほど変化していない。未来ではStG44に範を発する技術で作られた自動小銃が「アサルトライフル」という名で普及しているという。このような小銃は便利であるので早くブリタニアにも普及してほしいものだ。

「マガジンは30発ほど……奪って調達するしか無いか」

魔力による強化作用を加えると初速はカタログスペックより上がるだろうが、銃身に負担がかかるので多用しないほうがいいだろう。一歩づつ確実に歩いていくしかない。
だが、そうは問屋が卸さないのが世の常。この時、彼女の知らない探知装置が最前線基地であるゆえに備え付けられていた。赤外線センサーによる探知装置である。この時代にはまだ存在しない。そこが彼女の1940年代の人間であるゆえの限界であった。センサーが探知し、瞬く間に基地の中枢部に情報が伝達され、付近の分隊に連絡が行く。

「南部通路付近に敵兵発見。熱探によればウィッチと思われる。注意せよ」
「了解。急行する」

アサルトライフル装備兵が分隊単位で駆けつけ、マイルズに向けていきなり発砲する。命令として射殺も許可されているらしく、威嚇ではなく本気で殺しにきている。マイルズは都合、何度目かの対人戦闘を行った。彼女は本来`人殺し`のために軍隊へ入隊したわけではない。初めて人を撃ったときは震えて声も出せなかった。年齢も通常なら学生としてあるべき若輩者に過ぎない彼女には辛い事実ではあった。だが、時世は彼女を容赦なく戦争の現実に突き落とした。撃たなくては殺られるという厳しい現実。

−受け入れるしかないのかという絶望の気持ち。敵は憎いが、怪異のような異形の怪物ではなく、同じ人間。話しあえば分かり合えるかもしれないという気持ち。その気持ちを打ち砕く彼らの崇高なる魂。連邦軍がもたらした敵の正体。

「くぅぅっ……異世界に来てまで自分たちの理想に殉じる……なんでそこまで出来る!?」

マイルズはG36を撃ちながら自然と叫んでいた。異世界に来てまでもあくまで信じた理想に殉じて戦い抜く事。そんなティターンズ兵士たちの思想への疑念。だが、ティターンズ兵たちは平然と言ってのけた。それは帰るべき場所を失った男たちの覚悟でもあった。

「我々にもう故郷はない。生きるも死ぬも天に預けた!!後は`ジャミトフ閣下`の理想を実現させるだけだ!!」

彼らは20世紀後半の資源を幣ぼり尽くすだけの大衆を忌み嫌っていた。大衆を正すには
22世紀末の技術を有する自分たちが地球圏を管理すればいいという傲慢。思想では完全に相容れない。故郷を失った彼らは死をも恐れない。守るべき何かはとっくの当に失っている。ならば軍人として最期まで組織に殉じる。奇しくもそれは彼らがかつて撃つべき対象としていたジオン軍残党と同じ思想であった。

「なら私は……あなた達を討つ!!その考えが傲慢だって気づけぇぇっ!!」
「吐かせ!!ユニオンジャックの旗のもとに沈めてくれる!!死んで国王に詫びていろ!!」

彼らはマイルズの姿格好からイギリス兵であることは気づいていた。だからユニオンジャックと国王と言ったのだ。史実ではこの時期の大英帝国の国王はジョージY世(かの有名な退位したエドワード[世の弟で、20世紀後半〜21世紀初頭まで在位したエリザベスU世の父)。ブリタニア連邦でもそれは変わっていない。

互いに5.56mm NATO弾を撃ちあう。マイルズは正確に敵兵を撃つ。2人ほど倒れたところで格闘戦に持ち込む。

「だらしがない奴らめが……いいだろう。こい」

隊長と思われる男がわざわざ服を上半身だけ脱いで己の鍛え上げた肉体を誇示してマイルズを迎え撃った。その男は元々ティターンズ内でも過酷な任務についていたらしく、引き締まった肉体美を魅せつける。無駄な筋肉は一切ついていない。(よく映画などで見るス◯ローンなどの兵士のイメージは誇張が入っている。実際には見かけが細くとも筋肉は付いている)

「おぉぉぉっ!!」

マイルズは先手必勝とばかりにストライカーユニットによる回し蹴りを加えるが、相手はそれを耐え切り、逆に反撃を加える。ボディブローだ。ストライカーユニットを纏った上で身体機能を強化しているウィッチが相手なのだが、彼は意にも介さない。よほど訓練で鍛え上げられた肉体に自信があるのか。

「なめるなよ。小娘。キリストにお祈りは済ませたか?念仏は唱えたか?」
「それはそっちの台詞よ!!」

2人は互いに挑発し合いながらパンチを打ち合う。最もウィッチと対等に戦える`彼`のほうが賞賛されるべきだろう。さながらどこぞの格闘漫画か、ハリウッドのアクション映画のような構図が繰り広げられていた。そして2人の放った拳が交錯し……。

 

−アフリカ戦線や欧州戦線に振り向けられたウィッチ用機銃口径は20ミリ以上に統一された。それは何故か。単に戦線で使用される機銃が新型のMG 151 機関砲や九九式二〇粍二号機銃四型などへ大口径化し、更にネウロイが各地でティターンズと交戦することで、ミサイルを装備するジェット戦闘機に対抗するために装甲厚を強化させ、ウィッチの標準装備の13ミリ機銃を弾くようになる進化を急速に行った事、主にアフリカ戦線でジェット機と交戦する機会が多くなり、中口径銃では有効な射撃を与えられないという戦訓が明らかになった事で大口径砲が求められたためであった。これによリ、扶桑ではわざわざ九九式を13ミリへ小口径化改造する意義は消え、未来艦隊の援助もあって、再び20ミリとして各地へ供給された。

 

−アフリカ戦線

 

「これがMK 108か……」
「はい。これが次期主力戦闘脚用の装備です」

連合軍第31統合戦闘飛行隊「ストームウィッチーズ」の隊長代行であるハンナ・ユスティーナ・マルセイユは今回の作戦用に用意された新型ジェットストライカーを視察していた。

ジェットストライカーはレシプロより遙かに魔力ペイロードが増大する。それを生かして大口径砲が専用装備として各国で制作された。ノイエ・カールスラントではこのMK 108がそれに当たる。元は「Ta183」の前型機の「Me262」用に造られていたが、前型機が稼働時間の短さなどが問題視され、本国の防空部隊への配備に留まったので後継機へお鉢が回ってきたという事情がある。このフッケバインは未来世界での各種テストや研究が反映された第二世代型で、航続距離はエンジン構造の新素材による強化、魔力消費効率の劇的な改善で長距離航行に難なく耐えられるほどに向上した。機体の反応速度・運動性も第一世代型より向上し、レシプロと十分巴戦が可能な水準に上がった。

「大口径化か……やはりジェット機にはこうするしかないからな」

機関砲の口径が大口径化した理由はマルセイユ自身が一番良く知っている。F‐4などの高速機や、A‐10などの攻撃機には従来使用していたMG34では有効打を与えるのは甚だ困難であったからだ。特にA‐10は元々の設計時でさえ、23ミリ機関砲の徹甲弾に耐えられる構造であり、未来に至る幾多のアップデートによりその重厚な装甲は更に強固となった。そのため、航空歩兵での邀撃で撃墜するのは困難を極めた。戦線では恐るべき兵器が戦線に投入されたという。

「前線じゃヘリが猛威振るっているというし……アレをどうにかしないとな」

それはかつて世界最強のヘリと称された「AH-64D アパッチ・ロングボウ」とその後継機ら。22世紀末の時点ではそれら一族が連邦軍・ティターンズらによって運用されており、22世紀においてもその威力は衰えていない。アフリカ戦線では連合軍の機甲師団の主力の一つを構成しているコメット巡航戦車を一方的に屠る戦果を上げ、連合軍将兵を震え上がらせていた。そのため扶桑からも機甲師団の抽出が求められたが……。

「扶桑もようやく機甲師団の本格整備を始めたようだが……アテにはできんな」
「ええ。扶桑の戦車隊は烏合の衆ですからね。私達がどうにかしないと」

 

陸上装甲歩兵は主にブリタリアとカールスラント、リベリオンがその中核を担っていた。何故、世界第3の大国であるはず扶桑の陸上装甲歩兵の姿が殆どないか?
それは過去の総理のせいであった。扶桑では1939年まで首相に在任していた東条英機以下の一派が戦車や陸上装甲歩兵を主に用いる機甲戦術を否定していたがために、師団編成は大きく立ち遅れていたからである。しかも戦車は1943年末の時点で、「九七式中戦車`チハ`改」が未だ数の上で主力を占めていた。それ故、MBTを持つティターンズに太刀打ち出来るものではなく、援護に駆けつけた地球連邦軍をして「チハはトーチカとして使えばいい」と呆れられる有様であり、全世界に赤っ恥をかいてしまった。そのためメンツを取り戻すため、本格的な機甲師団の整備を急ぎ、当初は1946年に本格量産化予定であった「四式中戦車`チト`」と「五式中戦車`チリ`」を緊急生産し、2199年のハワイ戦に先行投入。次いで第4師団を編成し、「三式中戦車`チヌ`」を先行して送った上でアフリカ戦線に回したのである。マルセイユとライーサが「所詮、付け焼刃の扶桑機甲師団などアテには出来ぬ」と言うのも無理は無かった。それは扶桑軍人の稲垣真美とティアナ・ランスターも弁護の余地が無かった。

確かに扶桑の陸上部隊の個々の部隊・将兵には第11連隊(士魂連隊)、北野古子(愛称・チコ)のような猛者もいるにはいるが、ちょうどウィッチの空中勤務者・地上任務者の双方で世代交代の時期が来ており、一部若返りを選んだ扶桑海事変当時のエースを抜いて考えると、扶桑の実戦部隊の平均練度は低下しており、経験豊富かつ世代交代がうまく行っている、カールスラント・ブリタリア・リベリオンなどには及ぶべくもない。

「悔しいですけど、今の扶桑は弁護の余地がありませんね」
「うん。東條大将のせいで機甲師団の研究が遅れちゃったのは事実だからね。チコも相当悔しがってたよ」

稲垣真美とティアナ・ランスターは北野古子やシャーロット・リューダーなどの陸上装甲歩兵と交流が深い。そのため陸上装甲歩兵の苦労を知っているのだ。シャーロットにしても、ティターンズの「61式戦車」のおかげでティーガーやパンターさえ陳腐化してしまい、レオパルトへ急速に世代交代を強いられた事に、性能向上は歓迎したもの、自分達が必死にテストしていたモノが突然役立たずの烙印を押されたのには愕然としていたのを思い出す。

真美とティアナの武器・弾薬の補給中の一コマである。

「大尉、モントゴメリー将軍麾下の戦線から打電!!」

連邦軍の兵士がマルセイユへ報告を入れる。よほど緊急のものらしく、慌てている。

マルセイユは隊長代行であるので、兵士に落ち着くように促してから報告させた。

「内容は?」
「ハ、ハッ。敵駐屯地へセシリア・グリンダ・マイルズ少佐が単騎で潜入し、重要情報を入手した模様ですが、敵制空権下のため脱出が困難であるとのことです。第31統合戦闘飛行隊は直ちに出動、一時的に制空権を確保し、少佐を救出されたしとのことです」
「了解した!みんな、行くぞ!!」
「ティナ、あなたも出るの?」
「ああ。もしかしたらアイツも出てくるかも知れないからな……今度こそ落としてやる!」

それは「`クルセイダー`1」の事である。最近、マルセイユはもっぱら彼を「宿敵」と認識しており、彼と戦うことを望んでいる。アフリカの星と讃えられ、元・同僚のエーリカ・ハルトマン、ゲルトルート・バルクホルン以外には敵なしであった彼女にとって初めて「自らを完全に超える敵」との出会いは大きく、彼を超えんと努力をするようになり、人生の目標が形作られた。そのため彼を超えんと頑張るマルセイユの姿は連合軍や連邦軍の将兵の間で評判であった。こうして意気込むマルセイユとは対照的にクルセイダー1のほうはというと……。

 

 

 

 

 

‐アフリカ エジプトのとある航空基地

ここには対連合軍の前進航空基地があり、クルセイダー1はそこに着任していた。

「ご苦労だった。中佐」
「ハッ」
「君たちの部隊にはSu-35を用意した。戦果を期待しているぞ」
「ありがとうございます、閣下」

クルセイダー1はティターンズ航空軍の中でも有数のエースパイロットであり、グリプス戦役後期には中佐へ昇進しているほどの俊英であった。ティターンズ設立当初から在籍する古参の搭乗員で、真っ先にティターンズに指名され、空軍から引き抜かれる形で籍を移した男。彼は飛行隊を率いる形で前任地からやってきたのだ。彼に与えられた機体は旧・ロシア系戦闘機の最高峰の一つ「Su-35」。ジェットストライカー実用化の報をブリタリア連邦空軍中枢の『内通者』から得たティターンズはエースパイロット部隊に第4世代以降のジェット戦闘機を与える方法で対処したのである。

「おっ、お前も呼ばれたのか」
「へえ……。あんたもですか、大尉」
「今はテメエのほうが階級は上だ。呼び捨てにしても構わんぞ」
「あんたを呼び捨てにはできませんよ」

クルセイダー1は基地にある人物がいることに驚いた。その人物はクルセイダー1が初配属になった部隊の先任将校であった大人物で、一年戦争以前から空にいた「叩き上げ」の既に50代前半の`大尉`であった。士官学校を出ていないもの、その腕は確か。パイロットとしては老齢ながら、クルセイダー1に匹敵する。ドイツ系の人物で、コールサインは`ティーガー`である。

「それであんたは何を与えられたんです」
「俺はF-15Cを選ばせてもらった。ロシアのウォッカ野郎共の機体は好かんし、ステルスかぶれの第5世代は信用ならん」

彼は質実剛健を地で行くようで、第4世代の中でも初期に造られたF‐15を選ぶ当たりはこだわりを感じさせる。

「お前もいいお嬢ちゃんをライバルにもったもんだ」
「知ってたんですか、大尉」
「当たり前だ。この俺を誰だと思っておる。アフリカの星か……世界が違うとあんな美人になるとぁ……良いもんだ」

ビールを飲みながらマルセイユをこう評するティーガー。そこには兵士たちの日常があった。ティターンズ穏健派の一端が垣間見える一コマであった。

 

 

 

 

ウィッチ救出作戦はアフリカ戦線で模索されてはいたもの、情報が不足しているために実行に至っていなかった。そんなでも作戦計画は練られ、その使用機種の選定が行われていた。敵制空権下を強行突破するためになるべく高速の航空機が求められた。

「ブリタリアのモスキートではだめかね」
「あれは論外です。敵は下手するとVFを持っているやもしれぬのです。モスキートでは遅すぎる」
「そちらの100式探索艇は?」
「20名以上は乗れない。新鋭のコスモシーガルならあるいは……」
「コスモシーガル?」
「多用途機として我が軍が配備を開始した新鋭の航空機です。あれなら制空権下でも強行着陸可能で、一度に24人を輸送できる」

それはアフリカ戦線に配備された連邦軍空母に搭載されている新鋭の多用途機。兵員輸送に使われる事が想定されている。かつての米軍が運用していたV-22 オスプレイを連想させる姿であるが、ティルトローター機ではなく、ジェットの推力をその要領で偏向できるので速力もそれなりの速さを確保している。これなら救出作戦にも十分に使える。制空権を確保した上での作戦行動は必須であるが、マイルズ少佐が配下のウィッチにモールス信号で伝えた『情報』の一部と捕虜のウィッチが送ってきたらしき伝書鳩の手紙でおおよその話は掴んだ。

その内容は「アフリカの奥地に作られた収容所で反抗的な輩は労働させられるか、行動に監視がつけられる。志願者はある一定の教育を施された後に、ウィッチ部隊の教官か隊員として戦線に送られている」というもの。ロンメル将軍はその事実に唸った。彼らに協力しているウィッチの存在、また、占領地域でウィッチを募り、士官級を隊長に据えて部隊運用を行なっているという事実は驚愕に値するもの。

「魔女も戦線に送っている……か。志願とはどういう事なのだ?」
「魔女と言えど、考えは千差万別。軍の上層部や旧態依然とした国の体制に疑問を持つ者もいます。ネウロイ討伐という大義名分も戦争の長期化で薄らいできてますからね……場当たり的対応しかしない軍上層部に対して愛想を尽かしてもおかしくはありません」
「馬鹿な……」
「我々は軍閥同士の抗争でそうやって所属軍を変えた兵士を大勢見てきました。十分に考えられることです」

それは第一次ネオ・ジオン戦争で多くの連邦軍系の兵士たちが様々な軍に所属を変えていった事例を指している。大義名分が薄らいだ軍隊ほど脆いものはない。それは歴史上の多くの軍隊が身を以て証明している。ウィッチの中に一向に好転しないネウロイとの戦争に嫌気が指している者がいても不思議ではなく、ティターンズ側に就いたウィッチもいる。それがこの戦いの闇を表していた。扶桑のウィッチにしても事変当時の軍上層部に恨みを持つ者もかなりいるはずである。軍上層部は身から出た錆で自らの首を絞める結果を生み出したと言っても過言ではない。

「あなたがた連合軍の過去も調べてもらいましたが……ウィッチと軍の一部高官達との軋轢が幾度も確認されてますね」
「ああ。魔女を快く思わん軍人は陸海空軍のどれにも必ずいる。あの扶桑でさえウィッチの作戦提案を取り合わなく、皇室のお方の勅諭でようやく実行したという程の馬鹿がいたというからな」

ウィッチの力で世界一流国に成り上がったはずの扶桑皇国でさえ、軍部の高官はそれに反発した。再開発されたタイムテレビで連邦軍もその裏付けをとっている。情けなきことであるが、いつでも人間は華々しく活躍するモノに嫉妬や妬みを持つ。地球連邦軍でも航空機や人形機動兵器が華々しく活躍する中で、日陰となった戦車兵や砲兵はパイロットに妬みを持った。この世界でも扶桑海事変当時、ウィッチの囮になることに陸海軍高官の大半は不快感を示し、当時中佐であった江藤敏子に軍への不信感を抱かせる原因にもなった(彼女はそれもあって、事変後に退役。基地の近くで喫茶店を経営しつつ実家で隠棲していた。彼女の復帰は現在の陸軍参謀総長の梅津美治郎大将が直接出向き、彼直々の長時間に渡る説得による奇跡である)。

扶桑海事変で見せた陸海軍の軋轢やウィッチへの妬みに失望したウィッチは江藤敏子を始めとして、多数存在する。当時海軍次官であった山本五十六や山口多聞(当時、第五艦隊参謀長。現在は第二航空戦隊司令長官)などをして、「此度の軍部高官等の場を考えない馬鹿な口のせいで我軍は多くの優秀な人材を失った。特に江藤敏子中佐の退役は誠に残念であり、軍部高官等を恨むものである」と言わしめた。そのため山本五十六や今村均陸軍大将、安達二十三中将は戦局の悪化を憂慮し、かつて優秀であるとされたウィッチを現役復帰させる事を積極的に推し進めた。無論、新規のウィッチも大募集したもの、その内の4割が呉の攻撃で死亡してしまった。扶桑がこの有様であるが、ブリタリアで悪魔の策動をしているのが今のところマロリー大将だけであるのは女王陛下の威光のおかげである。

 

 

 

 

 

「して、この手紙を寄越したウィッチは?」
「扶桑海軍所属で、元・第51航空戦隊参謀の坂谷茂子少佐だそうです。彼女は脱走計画を立てており、仲間と大脱走を行うつもりだそうです。しかしそのような計画は無謀すぎる。そこで救出作戦の開始を早めようと我々は考えます。中には`船坂`軍曹のように自ら大立ち回りを演じ、弾薬庫を爆破して脱走したのが確認されましたが、それははっきりいって類稀な例に過ぎません。救出作戦の開始を急ぐのが懸命です」
「板谷少佐はいつ脱走をするつもりなのだね」
「明後日辺りを決行日にしているようです。なので救出はその前に行うのが最善でしょう」
「うむ。しかし、どうやって少佐に伝えるつもりだ?」
「既に特殊部隊を捕虜収容所に潜りこませております。今回の作戦開始時に予め各地域の散策を行わせておいたのが吉と出ました。何分隠密行動なもので、あなたへの報告は事後報告になってしまいましたがね」

連邦軍側の将官はニヤリと笑う。ティターンズに悟られぬように味方の連合軍をも欺き、予め部隊を派遣し、なんとか救出作戦のお膳立てを整えたわけである。

「準備は万端と言うわけかね……フフッ、あなたも中々の策士のようだ」
「いえいえ、閣下ほどではありませんよ。後はあなたの裁可さえあれば即実行に移せる状態です」

ロンメルはその言葉に即うなづいた。敵の裏をかくのは戦術の基本。そして同胞を助けるには大胆不敵に動かなくてはいけない時がある。エルヴィン・ロンメルはそれを実行できる大胆さを十分に持ち合わせている。彼は命令を発した。

「我軍はこれより`W`計画を実行に移す!部隊に通達せよ!」
「了解!」

こうしてウィッチ救出作戦は開始された。連邦軍空母より隠密行動仕様(アスティブステルス搭載型)のコスモタイガーUと新鋭の多用途機「コスモシーガル」が月も無い漆黒の空に消えて行くように発艦していく。そして地球連邦軍が送り込んでいたという特殊部隊。彼らの働きにこの計画の成否がかかっている。

 

−その特殊部隊とは一体なんであろうか。

 

 

 

 

−ウィッチ救出作戦は無事、行われていた。捕虜収容所では各国のウィッチたちの前に連邦軍の極秘の特殊部隊の隊員が表れ、救出作戦のことを説明していた。彼等は地球連邦政府の秘蔵っ子であるが、正確に言えば地球連邦政府時代の人間ではない。国連の時代から連れてくる形で連邦軍に協力してもらっている臨時の混成部隊であり、ある意味では仮面ライダーと同類の『スーパーヒーロー』とも言うべき者達の集まりであった。
その一員である、一人の将校が板谷茂子少佐を初めとするウィッチ達に作戦の趣旨を説明する。

 

「君たちの救出は夜の一◯◯時に行われる。我々が敵を撹乱し、注意を引き付ける。君たちはその隙に外に脱出し、救援の飛行機に急ぎ乗り込むんだ。いいね?」
「は、はい。でも、もしネウロイが現れたら……今は敵もこちらの反攻作戦で大した戦力を置いていないですし、ネウロイも進化を重ねていて、今では並の対戦車砲じゃかすり傷も負わせられないんですよ?」

それは扶桑陸軍で数の上で主力を占め、陸戦ウィッチの装備としてもポピュラーな九〇式野砲やブリタニアの6ポンド砲などを指している。それらはティターンズ登場に伴って急速に進化したネウロイの前に無力化し、ティターンズが捕虜を多く獲得できた要因の一つに数えられる。ウィッチたちの中にはティターンズについた者もいるが、あくまで自分の信念を持ち続ける者も多かった。板谷茂子はその一人であった。だが、進化を遂げた新型陸戦ネウロイに襲われれば生身の人間が扱える範囲内の通常装備では、如何に未来装備でも心ともないからだ。

その将校−その名も飛羽高之と言った−はなおも余裕の表情を崩さなかった。何故だろうか。ネウロイにも対抗可能な力を持っているとでも言うのだろうか?

「大丈夫、安心するんだ。俺達はネウロイが来ても戦える力を持っている」

そう豪語する飛羽だが、茂子はその言葉をいまいち信じられない様である。だが、彼の腕にはその力の象徴とも言えるブレスがつけられていた。これは一節によれば宇宙から最初期にもたらされた技術を基に日本が造ったもので、その性能は22世紀の今でも十分に通用する。仮面ライダーZXが現れる数年前に悪から日本を守ったとも言い伝えられる戦士の証でもあった。

それを考えると日本は超技術持ちすぎである。22世紀現在に地球連邦の絶対的覇権を英国と共に担っているのも更に裏付けられる。日本で生まれ、その後に世界を守っていた米国の概念で言うところの『スーパーヒーロー』が仮面ライダー、宇宙刑事の他にもまだ居たという暗に示していた……。

 

 

 

 

−捕虜収容所に複数のネウロイが向かっているのが救援作戦に先立って偵察行動に出ていた偵察型コスモタイガーUの航空隊によって潜入部隊に伝えられる。今までの記録に残っているタイプとは明らかに異なるタイプの新型であると。ティターンズが1944年に来た事で生まれたティターンズの`罪`は通常、緩やかに進化していくはずのネウロイを未来装備で倒したがために、ネウロイが少しでもそれに対抗しようとし、その進化のペースを速めてしまったことである。

『そうか。新型ネウロイが接近中か』
『はい。ティターンズの戦力はここにはほとんどないので、妨害無くそちらへ到着の見込みです』
『あと何分か?』
『あと25分もあればそちらへ到着の見込みです』
『了解。`アレ`の発進準備を行うように駐屯地に通達してくれ』
『了解しました』

通信を切ると、飛羽は案の定、ネウロイが接近中であることを伝える。ウィッチたちの中で比較的若い連中は『今の自分達にはネウロイに対抗するための術がない』事に恐怖し、怯えてしまう者が多かった。

「怖いよぉ……今はストライカーユニットも銃もないのに……」
「死ぬのはやだだよぉ……パパ、ママ……」

これは当然といえば当然。今の彼女たちにはネウロイと戦うための力となるストライカーユニットもなければ、武器も一切手元にないからだ。ウィッチとしての適性があるとは言え、その殆どは普通なら学校に通っているはずの年齢に過ぎない子供たちである。戦う術を取り上げられた事で、武器を持って戦うことで今まで抑えていた戦いや死への恐怖が表に出てしまってもしかたがない。

だが、飛羽はそんな彼女たちを叱咤激励する。それは彼自身がかつて地球を悪の手から守った戦士であるから、というものではなく、一人の男としての言葉であった。それは自らのかつての恩師であり、上官であった人物が戦いの中で教えてくれた精神。そして任務を終えた後に、大いなる悪(バダン)と戦う過程で幾度か共に戦った仮面ライダーたちと分かち合った心。それを精一杯の言葉で伝える。若きウィッチたちはこれに勇気づけられ、心に勇気の灯を取り戻す。

「よし……。時間だ。敵は部下が引きつけている。予定通りに行動するんだ」
「了解」

飛羽高之は他のウィッチ達を閉じ込めている各々の独房のドアを予め備え付けていた時限爆弾で一斉に爆破すると、いくつかの班に分けて脱走させる。

 

 

 

ティターンズ側はネウロイへの対応と、注意を引き付けるために敷地内で暴れまわる飛羽の部下達(無論、彼等も飛羽と同類のかつてのヒーロー達の一人だが、出自は飛羽と同じ部隊の一員ではなく、別の部隊である)への対応に追われていた。

「何ィ!?何かの間違いではないのか!?」
「ハッ。どこからどうみてもあの伝説のアレです!!さらにネウロイが……」
「映像を回せ!!」

 

ティターンズ側も元々地球連邦軍の一部である。`それ`の存在は知ってはいたが、仮面ライダーと同じく、単なる伝説であると侮っていた。それが今、自分たちに牙を剥いているのだから、収容所所長の驚きもひとしおであった。

「!!こ、これは……伝説の`電撃戦隊`の一員ではないか……ええいエゥーゴめ!旧国連時代の伝説まで懐柔しておったのか!」

ティターンズでも旧国連時代に作られていたという、いくつかの特殊部隊の存在を知るものは極少数に過ぎない。
何故か、グリプス戦役時のティターンズとエゥーゴに分裂していた時代にそのような秘密を握る将官や政治家はバスク・オムの暴虐非道ぶりに憤慨し、エゥーゴに与した。ティターンズ設立時に正規軍で秘密の管理に携わっていた経験有の人員しかティターンズでそれを知る者はいない。それ故に彼は狼狽えたのだ。(ちなみに政府記録に平和と記されていた時期でも一般人が組織に習う形で`〜戦隊`と称し、悪と戦ったという未確認情報があるとか無いとか……)

映像に映っているのは伝説の旧国連時代の特殊部隊の一つ「電撃戦隊」−正式には電撃戦隊チェンジマンという−のリーダーである戦士とその副官の戦士がそのパワーで収容所の兵士たちを片っ端からなぎ倒していく光景。何故彼等が敢えて変身後の姿で暴れまわっているのか。この収容所(第一収容所)所長は思考を巡り回させる。

「……そうか!!」

彼は机に仕込まれた全敷地内に張り巡らせているスピーカーのスイッチを入れて叫ぶ。

「総員に告げる。エゥーゴ共は伝説の`戦隊`まで使ってウィッチを助けるつもりだ!戦隊共と戦っても勝ち目はない!だが、ウィッチ共は丸腰だ!ウィッチを捕まえろ!!抵抗した場合は射殺せよ!!」

彼の命令はすぐに伝えられたが、時既に遅し。飛羽とウィッチたちはチェンジマン(全員ではないが)達が引き付けている隙と困難に乗じて、収容所の建物を脱出し、救援の飛行機(コスモシーガル)との合流地点に向かっていた。だが、そう問屋は卸さないとばかりに、ネウロイが彼等の前に姿を見せる。

「ね、ネウロイ……!それも新型!?」

新型のネウロイはモビルスーツやVFに対抗するためか、今までより大型化して火力を固めたと思われるもの、小型化し、俊敏性に特化したものなどが誰かの魔眼により確認された。

「君たちは早く合流地点に行くんだ!ここは俺が引き受ける!」

飛羽は茂子等に合流地点に急ぐよう言うとネウロイの前に立ち塞がる。茂子らはネウロイの撒き散らす瘴気にはウィッチ以外の人類には為す術はない事などから飛羽を制止しようとするが、飛羽はここで彼を伝説たらしめた力を発動させる。彼が戦士である証のコードネームを叫び、ブレスを起動させる。

『バル!イーグル!!』

−変身する。鷲を思わせるマスクと赤きスーツを纏った戦士へ。

−そう。彼はかつて、太陽戦隊サンバルカンと呼ばれた`戦隊`で戦いし戦士の一人であったのだ。飛羽、いや、バルイーグルは万能武器「バルカンスティック」を変形させた日本刀を片手にネウロイに立ち向かった。

 

 

−アフリカ戦線に介入した2つの「戦隊」。彼等の兵器は20世紀の時点の製造でありながらもその性能は22世紀最新兵器と比べても遜色ないほどであり、
太陽戦隊サンバルカンのリーダー「バルイーグル」(2代目)はその剣技でネウロイとも対等に戦っていた。

「新・飛羽返し!!」

彼、2代目バルイーグルは剣の達人である。大鷲龍介が変身していた初代と比べた場合、能力は互角であるが、白兵戦では2代目に部がある。それは大鷲も認めるこの剣技。彼はこれで機械帝国「ブラックマグマ」との攻防を生き抜いたのだ。飛羽返しは空気中の静電気を集め、そのエネルギーを増幅させた光を纏う日本刀で敵のメカを狂わせる。ネウロイの場合はその超テクノロジーの刃と電気エネルギーの組み合わせでネウロイの装甲も斬り裂けるらしく、ネウロイは彼の剣の錆となっていく。この光景はもし、坂本美緒が見たら思い切り羨ましく思うだろう。
魔力でなくとも、何かかしらの超エネルギーを纏った刃であれば、ネウロイを斬れるのだから。

ウィッチを載せたコスモシーガルが離陸し、戦場を離れるのを見届けたバルイーグルはネウロイを斬るだけ斬る。それはスーパー戦隊の強力さを示す例。マイルズ少佐救出に先立って強行偵察に出ていたマルセイユはバルイーグル=飛羽高之のこの戦いを目撃した。

「ん!?な、何だあれは!?」

マルセイユは「`Ta 183`フッケバイン」のテスト飛行も兼ねて飛行に出ていたが、地上で戦う謎の戦士(バルイーグル)の姿に驚愕していた。それはおおよそ信じられない、「男がネウロイの瘴気も物ともせずに扶桑刀で斬りまくっている」光景。(男というのは男性の声がするのでわかった)
この時代の常識からは戦闘服には見えない「鷲を思わせる意匠のマスクとマフラーをなびかせ、赤いスーツを着た」だけの軽装に見える姿なのもマルセイユの目を引いた。

「たあっ!」

最後の一体を「秘剣・流れ十文字」で斬り倒したバルイーグルは響いてきたジェットエンジンの音に、上空に目をやる。マルセイユの姿が確認できる。

 

「君は第31統合戦闘飛行隊の……」
「私は隊長代理のハンナ・ユスティーナ・マルセイユ大尉。そちらは?」
「地球連邦軍`第一特務部隊`「太陽戦隊」隊長、飛羽高之。コードネームはバルイーグル、階級は大佐」

バルイーグル達のその存在は今まで隠されてきたが、どの内、この作戰を機にその存在は知られるので、マルセイユに官名と変身後のコードネームを併せて告げた。
それと同時に一旦変身を解く。(因みに「特務部隊」というのは、過去の国連から地球連邦へ出向したサンバルカンやチェンジマンらのために設けられた部隊区分である)

「それじゃウィッチ救出の特務の為に派遣されたっていう特殊部隊というのはあなた達だったのか……」
「そういうことだ、マルセイユ大尉」

マルセイユは改めて飛羽の姿を見てみる。精悍な顔つきの青年と言った感じであるが、軍人として鍛えあげられた肉体は見かけからは想像もつかないしなやかな雰囲気をも表している。

「仲間はどの程度助けられたのですか」
「あの収容所に収容されていたウィッチは我々が全員救出したが、あれが全てでは無いだろうな。敵はいくつも収容所を作っているからね」
「今回は氷山の一角を崩しただけ……か」
「例え氷山の一角であろうと、崩せたのはいい兆候さ。これからじっくりと崩していけばいいさ」

飛羽は顔を曇らせるマルセイユを元気づける。ここの所、苦戦の知らせが多く、隊長代理の任を負ったマルセイユは責務からか、気苦労が多く、その表情には以前と比べると憂いが出ていた。その心の声を感じ取った故の言葉であろう。スーパー戦隊のリーダーとして責務を果たしてきた飛羽は大鷲の後を継いだ故の責任の重さを痛感しているからこそわかる「何か」があるのだろう。

「大尉、君が単機で出ているという事は……敵地の強行偵察か何かか?」
「ええ。今日はマイルズ少佐救出のための偵察とあわよくば制空権確保の任を追っていますから」

マルセイユにしてはやけに丁寧な言葉使いだが、これは彼女が隊長代理として上層部との折衝も行うハメになった過程で身についたものである。(問題児扱いされていたマルセイユは上層部との揉め事は避けたかった。その為不本意ながらも上層部の前では猫を被る事にした)

「そうか。いくら君でも一人では危ない。俺も援護に入ろう」
「え?どうやってですか?ここには近くに味方の飛行場はありませんよ」
「こうするのさ」

飛羽は再度、バルイーグルに変身すると通信で彼等の有する母艦に出撃指令を発する。それは彼等の誇る超兵器(22世紀の目から見ても)の出現でもあった。その名は。

『ジャガーバルカン、発進!!』

彼等、太陽戦隊サンバルカンは戦隊史上初、合体ロボを有した。彼等以前に戦っていた戦隊達は彼等の装備の技術的原点である電子戦隊デンジマンとバトルフィーバーJを除けばロボは有していなかった。それは巨大化する敵が確認されたのがバトルフィーバーJが初であったからだ。その後のデンジマンを経てサンバルカンが結成された訳である。その合体ロボを分離状態で格納している、彼等の母艦「ジャガーバルカン」は黒雲と雷を引き裂くように現れるのだが、
これがまた痺れるほど格好いいと評判であり、それはマルセイユであっても例外では無かった。

(お、おおっ!何が何だが分からんが、か、カッコイイ……)

マルセイユはそのジャガーバルカンの圧巻の登場に思わず見入ってしまう。だが、更に驚いたのはそのメカから更に大型戦闘機が発進したという驚きの光景。

『コズモバルカン、発進!!』

30mはあろうかという(新コスモタイガーや20世紀現用機の倍の大きさ)超大型戦闘機がバルイーグルの号令と共に発進する。その図体に見合わぬ超スピードでジャガーバルカンから飛翔する。図体とは裏腹にその推力は凄まじく、短距離離着陸を行う。

『さあ、行こうか』
『あ、ああ』

マルセイユはサンバルカンに率いられ、マイルズの救出に先立っての行動を行う。地上では。バルシャークとバルパンサーの操縦する「ブルバルカン」が疾駆している。このスタイルは母艦を有する戦隊ではよくあるとか。

 

 

 

 

−ストームウィッチーズの駐屯地

「そうですか。サンバルカンが大尉の援護に……」
「そうだ。大尉のことは我々に任せたまえ」

電話に応対しているのはすっかり同隊に馴染んだ、元・時空管理局「機動六課」のティアナ・ランスターである。
マルセイユが隊長代理の任についてからはライーサ・ペットゲン共々、事務方の仕事にも駆り出されるようになっていた。
ティアナは元々管理局にいた頃からデスクワークはこなせ、ストームウィッチーズの事務を行なっている扶桑陸軍主計中尉「金子」の仕事を手伝っていた。
(ちなみに彼、ウィッチにモテるらしく、シャーロット・リューダーからは`ハナG`との愛称で呼ばれているとか)

「ありがとうございます、嵐山長官。わざわざ支援までしてもらっちゃって……」
「何、人類全体の大事だ。我々と君たちの住んでいる世界や時代の差など何のことがあろうか」

ティアナは電話越しにサンバルカンの直接の上官「嵐山大三郎」長官(階級は将官相当)にストームウィッチーズとして、謝意を伝える。嵐山はティアナにそう返し、ティアナに心強さを感じさせる。

「ところで、どうだね、軍曹。私が作ったカレーの評判は」
「上々ですよ。ロンメル将軍とパットン将軍なんて三杯も一気食いしてました」
「偉大な将軍方に食して貰えるとは……光栄だよ」

嵐山は第二次大戦を幼少期に経験した世代である。小学校に入学した頃には新憲法下にのおける新教育になっており、戦争の記憶は殆ど無い。
だが、その後の成長過程で第二次大戦の戦記漫画などをハラハラドキドキして見ていた経験があり、ロンメルやパットンの武勇に憧れた事もあるとか。歴史に名を残した将軍に自分が作ったカレーを食してもらい、更に上手いと言われた事に感無量なようだ。

「あの、長官。よければ私達にあのカレーのレシピを教えてもらえますか?」
「お安い御用だ。すぐにそちらへ行こう」

実は嵐山の作るカレーは秘伝であり、研究を重ねて作っている。バルパンサー=豹朝夫は毎回食っている(実は戦隊のイエローがカレー好きなのはステレオタイプ主観で、
実際にカレーが好物である入れローは彼を含め、2人だけである)が、アレは作るのに労力がいるという。
更に表向きの職業で、彼の経営する喫茶店「スナックサファリ」の看板メニューでもある。真美とティアナはその秘伝をモノにしようと奮闘中であった。
因みに嵐山はどこから電話しているのかというと……。

 

 

 

 

−扶桑 とある海域

「では、また」

嵐山大三郎はなんと、いつの間にかこの世界に基地を構えていたのだ。その基地の構造は元の時代におけるニューバルカンベースと同様であるが、
他戦隊のメカも受け入れるために更に大掛かりな秘密基地と化していた。そこにジャガーバルカンなどの超メカを持ち込んでいたのだ。

「この事は他の戦隊にどの程度伝わっているかね、美佐」
「はい。敵を倒した後も活動を継続していると思われる戦隊に調査と接触を行ない、現時点ではいくつかの戦隊から良好な回答が得られました」

彼は「太陽戦隊」の秘書官兼通信係でもある娘の「嵐山美佐」に命じ、未来世界における歴史上の伝承の中で「いた」という確証が得られた他の「スーパー戦隊」へ接触し、
事態への協力を仰ぐように要請した。そしてその要請に答えた戦隊は今のところ3つ。まずは全ての戦隊の起源に当たる「秘密戦隊ゴレンジャー」。
これは元々軍の部隊であった事から、すぐにも参加可能との回答が得られ、リーダーのアカレンジャー=海城 剛が作戦参加を確約した。
色々な都合上、今のところは代表者が参加する形に留まった戦隊もあり、それは「超獣戦隊ライブマン」と「高速戦隊ターボレンジャー」である。元々民間人であった
彼らには止むに止まれぬ事情もあり、全員のすぐの参加は無理だとそれぞれのリーダーから通達があった。そこで都合がつく者のみが先行して参加する事になったが、
ライブマンからは「レッドファルコン=天宮勇介」、「イエローライオン=大原丈」。ターボレンジャーからは「レッドターボ=炎力」が代表して参加する事になったとの事。

「今のところ参加を確約してくれたのはライブマンとターボレンジャー、それにゴレンジャーか」
「はい。今のところはその3つです。3日後には我々が活動を休止した後に現れたという「大戦隊ゴーグルV」と接触を試みてみます」
「頼む」

これは時空を超えたヒーローたちの策であった。ネウロイもそうだが、扶桑を以前共に戦った仮面ライダー達の敵が狙っているという未確認情報が仮面ライダーV3=風見志郎から伝えられたからであった。
如何に仮面ライダー達といえど、敵に多方面で動かれると対応が難しい。そこで風見志郎は以前、(ZXが現れる数年前なので、当時は9人ライダー)に共同戦線を貼ったこともある「太陽戦隊サンバルカン」とタイムマシンを使って接触。
未来での共同戦線を持ちかけ、嵐山大三郎長官が快諾してくれたからこそ実現した、いわば「ヒーロー達の饗宴」であった。

 

 

 

 

 

 


−あとがき 

スーパー戦隊シリーズの登場です。ゴレンジャー、サンバルカンなど、40代から30代大喜びな陣容です。(今のところ)

しかし、今尚、サンバルカンは面白いです。(最終回を見終えました)

 

[9]投稿日:2012年04月04日10:22:31 ゼロン
コメントの返事読みました・・ooとボトムズがだめならガンダムucだしてください!!<ついでにスト魔女劇場版の服部静香も!!>

>>ユニコーンは単語などで伏線を張っています。よく注意してご覧下さい。服部静夏については今後出します。

 

 

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