外伝その30


――さて、再編された501は502と統合し、ロマーニャ防衛を任じられた。宇宙刑事シャリバンとシャイダーもこれに同行し、超次元戦闘母艦を引っさげて501に合流。501基地は同地の一大拠点と化していた。




―― 格納庫

「しっかしここも随分大所帯になったなぁ」

ストライカーユニットの整備を自主的に行っているシャーリーは格納庫に多種多様な兵器が所狭しと置かれている事に感慨深いようだ。

シャーリーと智子が持ち込んだVF(専用カラーに塗られている)、留守の時に基地防空を担当する新設部署の戦闘機部隊(連邦軍部隊が運用を担当)のコスモタイガーと可変モビルスーツ……。スーパー戦隊のメカはこれとまた別なので、501をバックアップする態勢はブリタニアの時より相当に強化されている。

「でもさ。ティターンズの奴らってどーやって武器を整備する材料とかを確保してんの?地上じゃルナ・チタニウムとかは取れないんでしょ?」

ルッキーニが言う。確かにティターンズの武器の内、モビルスーツなどの最新技術による主力装備の整備には相応の資材が必要である。特にティターンズのモビルスーツは主力機のマラサイに至るまで第3世代型ルナ・チタニウム合金、通称ガンダリウムγを装甲材に使用している。地球上では精錬出来ない特殊合金なのはルッキーニも知っている。武器の設備はどうにかなっても、重要資材はどうにも出来ないはずである。


「その辺は連邦軍も探ってる。この地球の近くの宇宙空間の何処かにティターンズ用の資源衛星が転移してきてる可能性が出てきてんだ。もうかれこれ一年間も暴れてんから普通に考えると基地の資材なんて使い切ってて可笑しくないからな。それなのに大手振って暴れてるには裏付けがあるはずだかんな」

シャーリーはアフリカにいた時に知り合いとなった連邦軍兵から“噂”として聞いた話をルッキーニに教える。ティターンズが大手振って暴れ続ける理由を。

「確かに」




ティターンズがこの一年間でこの世界に何をもたらしたか。ズバリ破壊と混乱である。ティターンズの兵器は未来技術で固められた兵器を主軸にして戦闘を行なっており、戦闘機や戦車でさえも連合軍の保有する大抵のものを遥かに凌駕する性能であり、連合軍は苦杯をなめさせられている。

「あいつらのおかげでサンフランシスコやらサンディエゴは無くなちまった。でも反撃できる手段は今の世界の軍にはねぇ……。悔しいぜ……全く」

シャーリーはサンフランシスコやサンディエゴをGP02サイサリスのアトミックバズーカで消滅させられた事が悔しいようだ。リベリオン西海岸有数の大都市であり、自身もレーサー時代(シャーリーは軍人になったのが遅く、16歳になった時で、それ以前は速さを生き甲斐にするレーサーであった)に何度か遊びに行ったこともある地がもうこの世から完全に姿を消した。この事実を聞かされた時、シャーリーは思わず絶叫してしまった。仇を討ちたい気持ちがないと言えば嘘になる。


「アフリカじゃマルセイユがΞガンダム乗り回してるっていうし、あたしもVFを乗りこなしてみせるぜ」

VF-9カットラスのカスタム機をアフリカ時代から乗り回すシャーリー。ポテンシャルそのものはAVFの量産機水準には高めてあるが、原設計が古いので力不足の感は否めない。

「VF-25に乗り換えなくていいの?」

「一応、ヤマトで乗ってた機体を送ってもらうように連絡したんだけどさ。兵站部に申請が通るのに数ヶ月かかるんだよ。色々な都合で」

シャーリーがカットラスから乗り換えない理由の一つに高性能機の申請が面倒くさい事がある。VF-25は本国でもあまり配備されていない高性能機である故に地球連邦軍の一部に配備への慎重論が根強い。なので、シャーリーの場合はたとえ機体の元々の配備先のヤマトの人間がOKしても、上層部が議論してしまい、申請が中々通らないのだ。

「ふうん。色々大変なんだね」

「そ。だから当分はこいつで頑張るしかないって事さ。」

シャーリーはルッキーニにそう言いながら機体の整備を続ける。彼女の言う通りにアフリカでは……





















――アフリカ

ここ、アフリカはティターンズが最もモビルスーツを積極運用している地の一つである。そのため地球連邦正規軍(旧エゥーゴ)とのモビルスーツ戦の頻度も他の地域より数段上であった。

風を切って飛行する一機のガンダムタイプのモビルスーツ。30m級の類を見ない大型機であるが、その速度はマッハ2を超え、人型を保ってのモビルスーツの飛行速度としては最速であった。

「どうですか大尉、Ξの調子は」

「良好だ。敵の位置はわかったか?ミノフスキー粒子が濃いからこっちのレーダーが役に立たないんだ」

「はい。そこから北北西に数キロ進んだところに敵モビルスーツ中隊が進軍中と通報が入ってます。大尉はΞでこれを殲滅してください」

「了解!」

マルセイユは連邦軍が新たに開発した最新鋭、第五世代モビルスーツであるΞガンダムを実戦テストと称して配備させ、使用していた。カラーはカールスラント制式の砂漠迷彩仕様。砂漠での運用のために宇宙仕様より排気インテークなどの各所に防塵フィルターが取り付けられている。基地の管制に従って進路を変える。この時期、ストームウィッチーズのメンバーの内の過半数はミッドチルダ救援に派遣されていたりしていたので、マルセイユとライーサは大忙しであった。それで連日の出撃により、ストライカーユニットの整備が追いつかないという事情も出たので、ライーサもモビルスーツなどの操縦講習を受けているとのこと。Ξの速力によってすぐに捕捉に成功、隊長機をマラサイ、他はハイザックで構成される中隊を宇宙から強襲した。

「まずは!」

Ξの肩部のアーマーが展開され、そこから大口径メガ粒子砲の砲口が覗く。真上から強烈なメガ粒子砲の雨を食らわせる。ファンネルミサイルを使わないのはマルセイユの技量がファンネルを使えるほどの水準ではない(サイコミュ兵器の運用には熟練を要するので、動かせても高度なオールレンジ攻撃がすぐに出来るという訳ではない)ためである。





――強烈なメガ粒子の雨に貫かれ、ハイザックが数機沈黙する。それに気づいた隊長機のマラサイと直掩のハイザックはメインカメラを空へ向け、見上げる。すると。

「た、隊長!あれを!」

「が、ガンダムだと!?」

彼らは今や旧・エゥーゴが連邦軍を掌握したために“反乱分子”と認定されてしまってはいるが、元々は連邦軍人である。そのためある意味ではガンダムの存在意義と意味を一番理解していた。彼らにとっては初めてである“空をとぶガンダム”は畏怖の対象であった。

「空を飛ぶガンダムだと……馬鹿な、アレだけの巨体をどうやって飛ばせている!」


彼らが未来の地球圏にいた頃はまだマジンガーZもジェットスクランダーを得たばかりの頃。そのため強力なスラスターを持たないように見えるΞが空を舞う姿に驚愕したのだ。

「は、速い!」

Ξはそのモビルスーツとしては異例の巨体にも関わらず、俊敏さを発揮した。急降下でビーム・サーベルをホルダーから引きぬき、そのままハイザックを数機両断してみせる。ハイザックのザクマシンガン改ではガンダリウム合金の最新型には貫通力不足を露呈。装甲で弾かれて通じない。

「まさかこの私がこんな物で白兵戦をやる事になるなんてな。本当に世の中わからないな」

マルセイユはウィッチとして超一流である。だが、モビルスーツのパイロットとしてはひよっこに過ぎないことはよく理解している。そしてこの戦果もΞの圧倒的な性能がもたらすものという事も。Ξはファンネルを使わなくとも従来型モビルスーツを凌駕する戦闘力を発揮すると聞かされていたので、マルセイユは今回はこれで戦った。

「残りはお前だけだ」

「ほう……キサマ、やるな。だが、その動きでは白兵戦を経験していないと見える。機体がよくとも腕が伴わくてはな」

と、マルセイユの動きが機体性能頼りのものであると直感し、マルセイユからの音声通信に応える。




「なんで回線を合わせた?」

「フッ。こんな世界に来てしまうと仲間内ではすぐに話の種が尽きるんでな。」

それはティターンズ兵の悲哀かもしれなかった。敗者として勝者に裁かれるのを待つのみであった彼らは奇しくもこの世界に転移する形で生きながらえ、この世界でジャミトフ・ハイマンの掲げた理想を実現させようとしている。

「聞くが、なんでお前たちはそんなになってまで組織に殉じる?」

「俺たちはティターンズの中でもジャミトフ閣下の理想に近づこうとした部隊だ。バスク・オムなどというあのゴーグル野郎とは違う。あの野郎は反乱分子だしな」


そう。この世界にいるティターンズは、ジャミトフ・ハイマンが生前に掲げた理想を信望する派閥である。そのため裏で反乱を目論んでいたバスク・オムからは疎まれていた。最もジャミトフ・ハイマンもバスク・オムも戦死した現在ではその情報はティターンズ崩壊とともに闇に葬られたが、当事者であった彼らは知っていた。

「何だと?どういう事だ!?」」

「それに……俺達ティターンズはそもそも特殊部隊なんて体裁で設立されたが、本当は腐った官僚に取って代わるのが閣下の理想だった。選ばれ、能力のあるエリートが地球圏を統制するための露払いが俺達の本当の役目だった」


ジャミトフ・ハイマンの本当の目的は合法的に地球連邦を乗っ取った上で一旦解体、少数のエリートによって地球圏を統制する組織へ改編させるというもので、遠大なビジョンを描いていた。この点では旧エゥーゴ創設者ののブレックス・フォーラを上回っていた。そしていずれシャアがブレックス・フォーラがいなくなればエゥーゴを捨てるであろうことも見抜いていたのかもしれない。

「エゥーゴを継いだシャア・アズナブルは馬鹿な男だよ。聞けば俺達を滅ぼした後に結局、ジオンに戻って地球に隕石落とそうとしたそうだが……何がジオンだ全く」

彼らも捕虜から話を聞くなりして、ティターンズ滅亡後の情報を知ったようで、ネオ・ジオン軍総帥として地球に再び仇をなした、かつての赤い彗星を侮蔑する発言をした。ティターンズとしても、地球圏に更なる戦争をもたらしただけのシャアは侮蔑すべき対象なのがよく分かる。


「あの男の罪は託された組織を放棄し、その後に地球に混乱をもたらした事だ。それを今更言ってもどうにもできん。ここで俺達がなすべき事は一つ。この世界に世界を超大国が出現する事を阻止する事だ!」

ティターンズの目的はつまるところ、この世界を統制するには突出して強い国は存在を許さず、軍事強国の軍事力を殲滅してティターンズに従わせることだとここで示された。

「だからって核でリベリオンの人たちを大量虐殺していい通りはない!!」

「ああ、あれは大昔の大戦で日本を焼き払い、この世界でも核を作ろうとしたトルーマンへの見せしめだよ。サンフランシスコとサンディエゴを焼き払えば反戦の世論が高まる。リベリオンを屈服させるためには数十万程度の犠牲もやむを得んさ」

彼は淡々と言う。それだけにマルセイユの怒りに火がついた。

「ふざけるなぁぁぁぁ!!」

普段超然とした態度のマルセイユも大義の名のもとに平然と弱者を犠牲にする彼らの言葉には怒りを露わにした。ビーム・サーベルをΞにもたせ、猛然と突っ込んだ。が、マラサイの彼は紙一重でそれを回避、逆にモビルスーツ越しに構えを見せ、突っ込む。これは扶桑の剣の達人らが極たまに見せた刀による突きにも似ていた。これにマルセイユは機体をとっさに動かし、サーベルを直撃コースから逸らす。が、かすった部分の装甲が焼ける。

「ほう。この刺突をよく避けた。褒めてやろう」


マラサイのパイロットの動きからマルセイユは敵が“日本の何かの剣術に通じている”と目星をつけた。モビルスーツの熟練パイロットは白兵戦を好む傾向にあるというのを講習中に聞いたが、まさにこの通りだった。

(くそっ……こっちはガンダムだが、いかんせん私の腕が……!)

マルセイユといえど、元来の土俵ではないモビルスーツ戦闘には四苦八苦していた。何せサイコミュシステムの補助があるとはいえ、操縦桿を操作するというのはウィッチとして、どうにも違和感が拭えない。実のところこの違和感というものが未来世界に行って操縦カリキュラムに挑むウィッチ達が最初に当たる壁である。操縦桿を動かすという作業に違和感を持つことが無くなれば手足のように感じられる。黒江やシャーリー、ルーデルはそれを克服したからこそ未来の機動兵器を乗りこなしたのだ。

「ほれほれほれ!」

Ξとは体格にして10mもの差があるが、マラサイは華麗なサーベルでの突きを披露する。サーベルの扱い方はまるで日本刀のようであるので、OSの格闘戦プログラムにかなり手を加えているのがわかる。マルセイユは避けるのに精一杯で、反撃する余裕が無い。なんとか反撃の糸口を探るマルセイユであった。

























――アフリカでマルセイユが苦戦しているのと同様に坂本美緒も特訓で四苦八苦していた。何せ仕合の相手が宇宙犯罪組織マドーから地球を守りぬいた宇宙刑事シャリバンこと、伊賀電だからで、死線を掻い潜ってきた伊賀の実戦経験に舌打ちされた剣筋は坂本相手にを終始優勢を保っていた。


「ふん!」

伊賀は坂本の剣筋を完全に見きっており、坂本の攻撃は紙一重ですべて躱し、かすりもしていなかった。加えて宇宙刑事となる以前は日本の森林パトロール隊に在籍していた経歴がある故の身のこなしを見せつける。




「あわわ、坂本さん押されてますよ」

「さすが宇宙刑事。すげえジャンプ力だぜ」

「ええ。あれじゃあたしでも当てられる自信ないわ」

新生501の扶桑出身の面々の内の3人がこの仕合を観戦しているが、いずれも伊賀の身のこなしの軽さに驚愕している。そしてややあって伊賀の一撃で坂本の木刀が弾き飛ばされる。

「そこまで!」

審判を引き受けているのはシャイダーこと、沢村大。三大宇宙刑事中最も若輩である故にこういう雑用を先輩から押し付けられる事が多い。



「くぅ〜〜!負けたぁ!」

今回は伊賀電の熟練された剣技に翻弄された坂本だが、何かは掴んだようで、その表情は晴れ晴れとしている。

「君の剣も中々いい筋いってる。俺も久々だったからヒヤッとさせられたよ」

伊賀は坂本の剣筋に光るものを見出したらしく、坂本の剣筋を褒め称える。坂本はこの日が丁度謹慎処分が解けた日で、腕が鈍っていないか心配だったところを智子に相談し、それを聞いていた伊賀電が仕合の相手をを引き受けたのである。互いに握手しあう二人の姿はスポーツが終わった後のように爽やかであり、見ていた三人も思わず拍手をしてしまうほどであった。


「あ、皆さん。飲み物お持ちしました」


ちょうど下原が飲み物を入れてきて皆に差し入れしてきた。夏らしくカ○ピスだ。この時代には既に定着している飲料なのだが、ガラスのコップに氷入りというサービス付きなので一層と清涼感が増している。

「おっ、この味……作ったな?」

「ええ。ペットボトルだと便利ですけど味気ないと思いますから」

下原はカ○ピスは自分で作ったほうがいいと思うのか、ペットボトルのカ○ピスウォータでなく、原液を薄めて作ったという。確かに家庭で作るとこんな味だと菅野、智子、坂本、芳佳達は納得したようだ。(ちなみにこの頃には未来世界から食料品も輸入されるようになっており、飲料にはペットボトルやボトル缶も含まれている)

「そういえば穴拭、お前があの時に見せた剣術の事なんだが、どこを当たっても文献がないぞー」

「ん、ああ。飛天御剣流のことね?あれはねこの世界のじゃないから見つからなくて当然よ」

「何―!?それじゃどうやってお前……!」

「そりゃ長くなるからパス」

(あの時の事、覚えてたのね……タネ明かすのはもうちょっとあとでいいか?)


坂本があることを覚えていた事に智子は驚いたような素振りを見せる。智子にとってこれは意外だったようだ。

(するとあたし達は歴史の改変に成功したって事なのかしら?あとで扶桑海の時の資料漁ってみるか)

智子はある出来事が本当に歴史に影響を与えたことをこれで確信した。密かにガッツポーズをして喜んで、その日の夜に黒江と圭子にそのことを伝えて互いに喜び合ったという。



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