外伝その34


――さて、1945年。501統合戦闘航空団の坂本美緒はF8Fへ敗北した事でようやく紫電改へ機種変更を行った。それは坂本にとって青春との別れを意味していた。


――格納庫

「うぅ……お前と別れなくてはならなくなる日が来るなんて……」

坂本は回収された零式五二型の残骸を目の前にして号泣する。零式が第一線で通用しない日を誰よりも恐れ、認めようとしなかった坂本も実際に敵の新型機の高性能を目の当たりにしたことで、ついに機種変更を決意したのだ。

「仕方がないわよ、坂本。これも時代の流れ、名機って言われても新世代が追い抜いていくんだから」

格納庫で人目に付くのも忘れて、号泣する坂本をなだめる智子。これも肉体的には若いが、実際には最年長である彼女の役割の一つだ。機種変更を嫌がるのも海軍の坂本世代に多い特徴だ。竹井醇子のように早々と紫電に乗り換えた者も多いが、坂本は零式を『一人前』に育てたテストパイロットである。それ故に零式にこだわったのだろう。しかし無常にもF8Fベアキャットがそれを打ち砕いた。ベアキャットは2100馬力のパワーで防弾装備の万全な超小型の機体を飛ばす、米海軍機かしらぬ思想の設計を持つ。そのためマイナーチェンジにすぎない零式52型で太刀打ちできるものではないのだ。



「52型は旋回性能落ちたとは言え、ヘルキャットよりは良かったはずだ……なのにあの機体は自動空戦フラップも無いのにあの機動性……」

「そりゃ、ベアキャットは向こうの記録だと、第一線で戦争に使われた期間が短かったけど、専門家の間じゃ『あらゆる日本軍機を蹂躙し得る』って評価されてるからねぇ。だから急いで今の体制下で急遽、凍結扱いだった陣風とキ94が開発されてるし、烈風のエンジン生産ラインが未来世界で造られた3000馬力エンジンに替えられて再建されはじめてんのよ」

「さ、3000馬力ぃ!?」

「そ。ジェット機の熟成に思ったより時間かかるから急遽、場繋ぎの機体が必要になったのよ。ジェット機が戦線で荒く運用できるほど熟成してないから、前線でレシプロの開発継続が希望されたのよ。上はジェット機に絞るつもりだったけど、前線のウィッチの多くが信頼性の低い新技術より既存の技術の集大成を望んだ末の折衷案よ。上は相当嫌がったらしいけど、地球連邦軍が『母体になるベース機体さえ提供してくれれば造るけど』と言ってくれたからプロジェクトが組まれたのよ」

そう。智子の言う通り、各国軍幹部らは1946年を機にジェット機に主力機を移行させるつもりであった。既に戦後第一世代ジェット戦闘機なり、戦闘脚の雄のP-86(F-86)が試作段階にあった(P-80は早々と練習機に用途変更)ため、レシプロ機を見限る絶好の機会としていた。だが、戦線でベアキャットとサンダーボルトなどの敵によって実用化された高性能レシプロ機の前に主要国レシプロ機が軒並み陳腐化したのに危機感を抱いたベテランウィッチから『実用化しても、年単位で熟成に時間がかかる新技術より、既存技術の集大成造れや!』という声が叫ばれたのだ。しかし技術リソースをジェット機に割いていた各国軍はレシプロ機のために新規プロジェクトを組む余裕はなかった。地球連邦はその需要に臨時の外貨獲得手段を見出し、レシプロ機の製造を引き受けたのだ。




――この時に各国が連邦政府に提出したレシプロ戦闘機開発要求のうち、最も早くハッキリとした要求仕様を出した日系(扶桑)機の要求仕様を記す。

『――地球連邦軍へ開発製造を委託する次期戦闘機の要求仕様は以下の通り。時速780キロ以上でなおかつ大火力と機敏な運動性を両立しうる事。爆装は爆撃機として転用可能な程度で、電探装備なこと。なお、海軍機は大型空母のみならず、中・小型空母でも良好な運用が可能な事』

……と、日本軍機らしい要求仕様を提出した扶桑。軽戦闘機万能思想が強いベテランと重戦闘機志向の若手や一部エースの派閥争いのせめぎ合いに呆れた連邦の軍需産業『新星インダストリー』と『アナハイム・ハービック』は海軍に『新鋭空母にはカタパルトくらい装備したらどうだ』と、提言したそうな。なんやかんやで母体になったのは海軍機は機体規模に余裕がある烈風と試製陣風。陸軍機はキ94であった。烈風の場合はコスモタイガーの海軍仕様を共同開発経験がある開発チームが民間向けレシプロ機のエンジニアチームと組んで、提供された烈風一一型をベースに改造を行う形でスタートした。議論は白熱した。

「烈風の逆ガル翼、デカすぎね?」

「扶桑側から油圧式カタパルト実用化に成功したと通達あったから小さくしよう。根本で折りたたみできるようにもするぞ。エンジンは4000馬力で」

「武装は5式30ミリ4門が要求されているが?」

「大日本帝国の10倍の国力と工業力の割りにはみみっちいなぁ。まっ、レシプロじゃガトリング砲の掃射に主翼が耐えるか疑問だからしゃーないか」

「装弾数増加と初速を上げて搭載しよう。記録だと302空が『弾少ないからヤダー!』って駄々こねてるからな」

「うむ」

「あ、無線はどする?」

「空自が1950年代から60年代に使ってたモデルを奴さんに輸出して造らせよう」

「あ、キャノピーは?」

「バブルキャノピーだろ」

と、ジェット機に比べると割りとのんびりした議論の末に地球連邦が輸出用に造り出した烈風二一型の仕様は以下の通り。

・全長などは原型機より若干の変更あり。

・4000馬力エンジン装備で上昇力や速力は顕著に改善。キャノピーはバブルキャノピーへ変更

・火力は改良型五式30ミリ砲を6門へ変更し、向上

・防弾装備は米軍機レベルへ向上。電子装備や照準器、無線装備も大戦末期米軍と同等以上へ。

・翼面荷重は低い部位に入り、要望で自動空戦フラップ装備。空戦性能は良好である。


地球連邦の発達した工業力が生み出した、日本軍機の末裔第一弾である烈風改造型は直ちに第一次生産ロットが300機発注され、紫電改の性能や操縦性に不満がある艦載機部隊へ優先配備された。新鋭艦である大鳳や瑞鶴、ミッドチルダ動乱で艦載機を消耗していた翔鶴がそれだ。第二弾の陣風ベースの『紫電改シリーズ後継機』は初期不良が多い初期生産型紫電を代替する機体として多めに発注され、こちらが実質的に主力とされたという。技術的話はここまでするとして、何が坂本を憤慨させ、ここまで意固地にさせたのか?その要因の一つに坂本が自慢する、鍛え上げた『練達の士』を未来世界の知識人層が『エレクトロニクスがそのような思想を葬ったんだよ、馬鹿』と坂本の心情を侮蔑するような論調の文をこの世界の雑誌に寄稿した事が後に判明する。要するに史実太平洋戦争で日本軍の敗北が『精神力重視の技術軽視』が通説となっているため、それを思い起こす事を否定すれば彼等の正義なのだ。


「未来の連中の内の日本の知識層は精神力を否定したがる……何故だ……どんな優れた兵器を持ったって心が伴ってなければ……」

「確かに向こうの知識層はうちら扶桑を侮蔑してる。でも、それは太平洋戦争以前に科学を軽視してうちらと同じような形の帝政が米国によって崩壊させられたトラウマが数百年たった時代でも忘れられない表れでもあるのよ。だから学園都市なんてのができたし、未来世界での大勢が科学重視なのよ。でもそれで造られたアンドロメダはそれ以上の力に滅ぼされたし、カタログスペックで旧式化した宇宙戦艦ヤマトが英雄になったのよ」

智子は坂本の言うことに理解を見せた。坂本の心情は宇宙戦艦ヤマトが体現してくれているし、科学至上主義の固りだったアンドロメダはそれ以上の力で滅んでいるという実例がある。

「向こうも白色彗星帝国時の戦の教訓であることを知った。何事も『合理性と非合理性、どちらかがかければ悪い結果が訪れる』と。合理性と非合理性の同居。それが最終的に奴さんが選んだ生き方よ」

地球連邦軍は白色彗星帝国戦役をきっかけに科学の持つ合理性と魔術などが持つ非合理性を併せ持つようになった。科学技術を重視する一方で特攻や殿などの文化が生き残っているのがその証だ。その言葉は坂本には慰めになったようだった。この後、坂本は二週間の謹慎処分が下ったが、坂本の爆走をなんとかしたい黒江がのび太に連絡し、留学という名目で送り込む事になるのであった。







――同日 リベリオン国内

リベリオン合衆国はこの日、ティターンズの間接統治下に置かれた。傀儡政権の長はティターンズにある程度従順かつ、国民の人気を一定でも良いので得られる人物が選ばれた。その人物はヘンリー・A・ウォレスであった。彼はルーズベルト元大統領と意見が対立し、副大統領を更迭されていた人物で、主義主張的には平和主義者であったのがリベリオンの超大国化を阻止したいティターンズに気に入られたのだ。ティターンズ内では国民の人気が高いチャールズ・リンドバーグを推す動きもあったが、『傀儡政権』かつ『フロンティア精神』がないと分かると政権が瓦解する危険が大きかったので、自主性をある程度持つヘンリー・ウォレスに政権を取らせたのだ。



「私は国民の皆さんにお約束しましょう。軍事より国民の生活を立て直すことを優先すると」

ウォレス新大統領は国土復興に予算を割き、建造中の軍艦の半分以上をティターンズに売却する事で復興に予算を割いている事をアピールした。軍隊も戦争に行かなくなったとう事で戦時動員の解除が順次行われていった。旧式戦艦などは新型艦の標的として海没処分がなされ、軍の各部隊も規模縮小が行われた。だが、元々の主力部隊の大半がレジスタンス化したために平均練度は往時の50%にまで大きく低下していた。

「よろしいですか、大統領閣下。軍の戦時動員の解除と軍艦の売却などを進めて」

「ネウロイはどうせここまでは来れんよ。それよりも前大統領の愚策で失った都市に代わる新たな都市を建設しなければ我が国は立ちゆかん。軍隊など防衛目的の必要最小限を維持してればよい。どうせモンロー主義に戻すのだから」

ウォレスはリベリオンを超大国化させるつもりはなく、第一次大戦で得た『そこそこの大国』の地位でいる方が国土復興に楽だと判断したのだ。『反乱分子』の情報はティターンズへ通達した。それの処断は彼等に一任するというのが彼の方針だった。経済の立て直しを優先するには軍備など惜しくはないと。しかしその方針はティターンズ海軍の更なる増強を招き、かつての友軍らを窮地へ追い込んでいった。


――ティターンズ海軍 北米 ワシントン海軍工廠

ここではティターンズ海軍へ提供する16インチ砲が製造されていた。目的はティターンズへ売却されたモンタナ級戦艦の建造途上艦『ルイジアナ』へ添えつけるためだ。ウォレス政権は軍備をティターンズへ売り払い、その代わりに自国の安全を約束させた。その証がこのルイジアナであった。

「モンタナ級か。大和型に唯一無二対抗できる大戦艦。これをもう一個手に入れられたのは行幸だ」

「うむ。これが完成すればブリタニアのジョンブル共など恐れるにたりん。ライオン級などは故障だらけのポンコツ戦艦だ、モンタナ級の敵ではない」

ティターンズ残党軍の海軍兵力は今やリベリオンから大量の軍備を得た事で1944年次の米海軍と同等の艦隊戦力を得た。人員も黒人やアジア系などの出自を問わず募集し、大規模に確保出来た。ティターンズ固有の未来装備を温存し、この時代相応の装備で戦線を支えるための試行錯誤の真っ只中であった。

「うむ。リベリオンが手に入った事で我が軍は安泰となった。大和型が4隻あろうが、一対一では勝てる公算もある。所詮、大正年代の遺物の思想が残る大和型はカタログスペックと裏腹に『脆い』からな」

「坊ノ岬沖海戦で大和型が浸水に脆いのは証明されている。やってやろうぜ」




そう。確かに史実の大和型は平賀譲の旧い思想のもとに設計され、『戦局を覆す兵器』との謳い文句とは裏腹に浸水に脆く、特に大和は武蔵の半分以下の時間で海の藻屑となった。(この事は地球連邦正規軍も熟知しており、扶桑皇国の造船官らを目の前にして批判している。彼等はカールスラント式の防御式だから違うと反論したが、ドイツ式防御は『第一次大戦何らと変わってない!』と更なる批判を招いた。これにより扶桑皇国の地球連邦に委託された新型艦は戦後日本&アメリカ式のダメージコントロール技術が全面的に取り入れられる事になった。そして扶桑皇国が大日本帝国比10倍の国力があるのに、1943年まで電気溶接に比較的消極的だったのも批判のもととなった。)そこを突けば長門であろうが、大和であろうが恐れずに足りぬと踏んでいるのだ。彼等は建造が進むモンタナ級戦艦「ルイジアナ」を見上げ、自身の前途洋々な姿を夢見ていた……。1950年代、この時以降の主要仮想敵国であるブリタリア連邦の本国艦隊、通称『グランドフリート』と相対する姿を。リベリオンが落ちた事で有力艦の多くを呼び戻しただろうが、海軍要員の育成が終われば技術力に勝る自らが勝つと踏むティターンズ海軍は前途洋々であった。






――扶桑皇国艦政本部は未来情報で前年から大揺れであった。呉軍港空襲で戦艦や空母、甲巡があっさりと多数着底・転覆した。しかもロケット弾(ミサイル)を数発食らって大穴が開いた空母天城(雲龍型)が浸水であっという間に転覆したという事実は艦政本部を震撼させた。奇しくも平賀譲造船中将が信仰していた中央隔壁が実例付きで否定され、更に彼が入れ込んでいた古鷹型甲巡がこのせいで一撃で転覆、浮揚されるも修復不能と判定されて廃艦とされた事実は艦政本部を震え上がらせた。ミッドチルダに艦隊派遣が決議されたその日に「中央隔壁を急いで取っ払え!そして間に合う艦はリベット使用比率を下げろ!」と決定され、大型艦は工期が短いものを中心に主要部装甲の換装が行われた。これは未来世界から輸入された23世紀製工作機械が物を言い、大和型を中心とする戦艦は流石に無理であったので、ミッドチルダで逐次改装するという案が採用された。

「奴さんと出会ってからこの方、俺達は罵倒され、一般人から罵声を浴びせられている。どう思うか、江崎?」

「参るよ。マスコミ連中はよってかかって俺達を『無能で老害のイエスマン』と書き、民衆を煽っている。俺達だって必死になってやってきたのにこの仕打ちはなんだ!?」

福田啓二造船中将はかつては反目する派閥にいた江崎岩吉造船中将に思わずこの一年の苦難を漏らす。彼等の信じていたものは一般人にまで否定され、石を投げられるようになってしまった。確かにこの当時の工業技術ではリベリオン(アメリカ)を以ってしてもリバティ船で船体崩壊を引き起こしているほどで、亡き平賀譲中将(この世界においては寿命が一年ほど長かった)の溶接技術への不信も無理かしらぬ事と思っていたが、未来世界から進出してきた新聞社や出版社などに『技術軽視!防御軽視!』と一面で批判されては艦政本部も抗しきれなくなったと嘆く。彼等の信じてきたものは別世界の破滅した自分らの例で否定されてしまったと。

「大日本帝国という別世界のこの国は資源がないのにリベリオン相当のアメリカに挑み、崩壊したという。資源も工業力もなく、技術軽視の末に連合軍に完膚なきまでに叩きのめされ、長年の間、政治的植民地に甘んじた。上はそれに萎縮しているんだ。噂だと陛下にも批判がいっている。『軍閥の反乱と立憲君主であろうとするあまり御前会議で発言しなかった!』と批判され、陛下は悩んでおられるとか」

「確かにそれじゃ陛下も腰をぬかされるなぁ。大変だな」

「大変なのは陛下よりも俺のほうだよ。平賀閣下の弟子だっただけで、マスコミのバッシングだ。下手すればおりゃ左遷だ。苦労も知らないでマスコミ共は……」

福田は平賀譲の弟子であった。薫陶を受け、今や後継者にまで成長したと自負するが、ここ一面は逆風と戦っていると言っていい。太平洋戦争における『大日本帝国の敗北は愚行で、その価値観を否定すれば国際社会に戻れる』は戦後日本において普遍化してしまい、その風潮は23世紀においてでさえ残っている。なので一般人からの批判が大きく、体面上の問題でリベット主体の工法を使えなくなったと嘆く。この時代の工作技術から言えば大和でさえ全面的溶接は取り入られず、全面的溶接は無謀そのものだ。だが、23世紀の技術を使えばそんなものは容易に克服可能である。なので余計に艦政本部は大揺れなのだ。



「水中防御方式も急遽、液層防御に一線級の全艦が変えられる事になった。それで友邦への艦隊派遣日が数ヶ月伸ばされたが、それでも大和型などは無理なので、現地で逐次改装の手筈となったと聞くが、本当か?」

「本当だ。呉で失った各艦の残骸を分析した結果、平賀閣下の防御思想が完全に否定された。加古や古鷹が一撃食らっただけで転覆した事が尾張の兵からの証言で判明している。俺も愕然としたよ」

「それで今度、奴さんから提供される新鋭艦はリベリオン式の防御式だって?」

「ああ。ダメージコントロール術はそちらの方が先進的という理由で採用された。カールスラントの技術者泣いてたぞ」

彼等は未来情報がもたらされた事で、扶桑皇国もカールスラント自身も信じていた『カールスラントは船体防御先進国』という評判は一夜にして崩壊し、代わりにリベリオン式防御が評価されるようになった事を嘆いているようだ。これに驚いたのは帝政カールスラント自身。ノイエ・カールスラントに派遣された技術者は戦艦ビスマルクを一瞥して『列強最弱候補戦艦』と言い放ち、カールスラント海軍を愕然とさせたという報に彼等も驚いているのだ。

「それで俺達は『戦後型艦艇』の勉強をしろと艦政本部長より通達が出た。ミサイル装備をモノにするには未来資料読み漁るしかないぞ」

「しかし、あんな貧弱な船が本当に主力になったのか?信じられんぞ、俺は」

戦後型艦艇はミサイル戦と高性能レーダー主体の装備であり、砲熕装備は二の次とされ、装甲も無きに等しい。これは『ミサイルの高性能の前にはどんな装甲も無意味』と万能論がまかり通ったからで、いざ実戦になると装甲が無いことで却って被害が増大するだろうと彼等は踏む。実際に彼等の間ではネウロイの脅威の前には『装甲はあればいい』という装甲重視論が主流なため、『多大な予算をかけた軍艦が一撃で失われては意味が無い』と考えていた。そのためにその後の扶桑艦艇は『戦後型と戦中型艦艇のキメラ』な重装甲と高性能電子装備を併せ持つようになっていく……。










――501隊長のミーナ・ディートリンデ・ヴィルケは自軍の可変戦闘機の頭数が二個小隊分確保された(持ってきた三人の他にもう三機分が提供された。機種はVF-19FとS)のを期に可変戦闘機運用に踏み切った。可変戦闘機の運用費はストライカーユニットと比較して非常に高額であり、隊の財政が整えられるまでミーナの命令で使用が禁止されていたのだ。新生501は旧・502を吸収しているため、以前の倍の運用予算が与えられているが、それでも持ち込まれた可変戦闘機が非常に高価な試作機であるYF-29を筆頭に、地球連邦軍でさえ配備が進んでいない高性能機ばかりなため、運用費の高騰を危惧する彼女の命令で財政が安定するまで運用が控えられていたのだ。

「ミーナ。どうするんだ、新たに向こうから送られてきたバルキリー」

「本来はあなた用にって送られたのもあるんだけど、あなたは機械が苦手でしょう、トゥルーデ?」

「う、うむ……。あのような複雑なもの、私は動かせんぞ?見ただけで吐き気がする。よくルーデル大佐や北郷大佐達は動かせたな……」

「あたしが乗ってもいいよ?一応シャーリーに付き合って訓練は受けてるから」

「ハルトマン、お前……いつの間に!?」

「未来行った時さ。備えあれば憂いなしってゆーだろー?一通りの機種の操縦訓練はしてあるよ」

ハルトマンはメカトピア戦争終結後もシャーリーやルッキーニに付き合って、しばし未来に留まっていた。その際にシャーリーに付き合って連邦軍基地で訓練を受けていたのだ。ハルトマンの天才肌はなんと可変戦闘機にも適応され、AVFも乗りこなすほどの高い適応を見せた。そのため、志願したのだ。


「サーニャやエイラにあれを使わせるのも酷だしね。カンノも乗りたがるだろうし、一応ラルにも言っとくさ」

ハルトマンはお気楽なようで、実のところシャーリーと並んで調整役兼ムードメーカーを担う。未来世界に行った後は孤児という出自を持ち、過去の過ちを背負って生きていくと語る剣鉄也(グレートマジンガーのパイロット)に好意を持つようになり、鉄也もまんざらでもないようで、親交を続けているようである。

「一応これでパイロットは確保出来たわね。サーニャさんが敵の色々な妨害手段で探知魔法の精度を落とされて索敵行動を封殺されているけど、その対策も考えなくてはね」

「確かに、ミヤフジのようにウィッチはストライカーユニットさえつければ飛べてしまうから通常兵器の操縦法覚える必要は無いからな……。今までは機械好きのウィッチの『物好き』だとされていたから、私達は訓練受けていない」

「ええ。だからアレに乗れる人員は貴重といえる。宇宙刑事さん達に今は哨戒任務を委託しているけど……私達がやれるようにならなければ状況を解決したことにはならない」


「ああ……少佐じゃ無いか、『ウィッチに不可能はない』からな」

バルクホルンは坂本が座右の銘とする『ウィッチに不可能はない』もまんざらでもなくなったようで、状況解決に全力を傾けるとの事だ。

「それまでにトゥルーデ。せめてパソコンくらいは使えるようになりなさいな」

「な、なにぃ!?」

バルクホルンはエレクトロニクス機器の操作が苦手である。未来との交流で急速にエレクトロニクス化が推し進められる昨今、PCの操作もおぼつかないのでは話にもならないとミーナは諭す。面食らって完全に呆然としてしまっているバルクホルンであった。この時、バルクホルンにはハルトマンとミーナは告げていないが、ハルトマンの妹のウルスラがクライシス帝国に拉致され、仮面ライダーBLACKRXや五星戦隊ダイレンジャーが救出に赴いており、その結果を待っている状態なのである。表面上は明るく振る舞うハルトマンだが、愛妹が拉致されている状況に気が気ではないと内心、ソワソワしていた。




――基地に響く、ジェットエンジンの轟音。ミーナとバルクホルンは時代の変革を目の当たりにする感覚を覚え、ミーナは今後の燃料費を思い、嘆くののであった。



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