外伝その37


――ミーナは未来装備の使用を躊躇っていた。それは何故か?彼女は良くも悪くも『石橋を叩いて渡る』タイプのウィッチであり、指揮官である。予備が確保されていない&稼働率がまだ示されていない新兵器の安易な投入を避けたのである。

「ねえ、ミーナ。何で未来兵器の投入をしないのさ?」

「数がないし、それに安全に稼働するか見極めないと。安易な投入は事故のもとよ」

「相変わらずだねぇ〜」






ミーナはここの所、バルクホルンが姉バカぶりを発揮しまくっているのと、坂本がいない事もあって、ハルトマンに相談を持ちかけるようになった。意外にもハルトマンは折衝の才能があったようで、いけどんな面々と冷静な面々との調整役を買って出ていた。(メンバーはいけどんが智子、芳佳、菅野、シャーリー、フェイトなど。冷静勢がエイラ、サーニャ、リーネ、ジョセ、エディータなどである)

「新星インダストリーにYF-29用やVF-19と22の熱核反応タービン一式を頼んどいたよ。今日の夕方には空輸されてくる」

「ありがとう。整備班の練度は上がった?」

「今日までに整備時間を3時間縮められたそうな。講習の成果だよ」


「VFはこれで使えるわね。どうなの?あれって」

「慣れればレシプロ機より操作レスポンス速いかから楽だよ。小回りも効くし、火力もある。トゥルーデは乗れないけどね、多分」

「視察で整備現場見たんだけど、計器がゴチャゴチャしてて目が回りそうになったわ」

「ジェット機、それも軍用機はレーダーとか火器運用とかあるから、ゴチャゴチャなのさ。あれでも1960年代以前よりはだいぶスッキリしたほうだって」





――そう。ジェット戦闘機の計器は基本的にヘッドアップディスプレイ方式とヘッドマウントディスプレイ方式が複合して用いられている。特に可変戦闘機はバトロイド形態時の操作などで状況に応じて双方を使い分けるようになった。この時代に現れた光像式照準器の子孫とも言えるこの方式にミーナは面食らったのだ。特に可変戦闘機は変形機構操作や脱出装置、火器管制などを迅速に行うために最適化された操縦桿であるため、この時代の人間が見ると失神しかねないのだ。

「覚えれば存外速く動かせるようになるっていうけど……どうなの?」

「本当さ。メッサーやフラックと違ってエンジン周りの調整をする必要がないから、スロットル操作さえ気をつければいいからね。今度、あたしの後ろに乗ってみなよ。論より証拠さ」

レシプロ戦闘機は状況に応じてエンジンまわりの装置の操作をしなければならないという点がある。操作を間違うととんでもないことにもなるため、パイロットに負担がかかっていた。ジェット及びロケットはその必要がないため、搭乗員の錬成時間がその分短くすむ。そこが搭乗員の大量育成の必要に迫られる各国を歓喜させた。特に戦線に未だ残置する誉エンジン搭載機を有する扶桑軍に取っては死活問題であり、ジェット機登場後はジェットに統一する意志が一番強かったりする。

「コスモタイガーに乗って基本を覚えたら?」

「それもそうね……でもコスモタイガーって単座型じゃ?」

「早期警戒や訓練用に三座型があるんだよ。当初は戦闘爆撃機として製造されたんだけど、生産ロットが後期型に切り替えられて生産中止になったのを転用したのさ」

――コスモタイガーの生産ロットは西暦2200年には新コスモタイガーに統一されている。三座型は初期生産型と同一設備で製造されていたのと、数少ない実戦の都市彗星戦での撃墜率の高さが問題視された結果、新規製造は打ち切られた。が、多数がまだまだ残っているために活用策として、『高等練習機』、即席の『早期警戒機』として改造され、第二の人生を歩むようになった。無論、501の防空飛行隊にも配備されており、定期的に哨戒飛行(サーニャの魔法がティターンズの色々な方策で阻害されている影響でもある)を行っていた。ハルトマンは防空飛行隊に連絡を取り、コスモタイガー三座型を借り受け、ミーナを乗せて哨戒飛行を行った。(護衛に新コスモタイガーがつく)


ミーナは三座型の銃座ではなく、後部座席に座って、ハルトマンの操縦を観察する。ハルトマンはコスモタイガーの訓練も受けていたようで、手慣れている。



――新コスモタイガーに比べると、機首が短いなどの違いがあり、いささか糞詰りに思える三座型は、確かに世代が古いという事を表している。ハルトマンに言わせれば『昔の戦いで損害が大きかったから生産が中止された』らしいが……。元々は戦闘爆撃機とされていた名残で翼のハードポイントが初期生産型の単座型より多めであったり、自衛用の旋回機銃がついている。




「旧式だけど、これでも今、この世界の全ての国が実用化に躍起になっている機体より圧倒的に高性能なのよね?」

「そりゃそうさ。宇宙戦争、それも星から星のとんでもない距離でやり合うような戦い用なんだよ?造られた時代と技術力考えりゃ当然さ」

「……いいのかしら。他の部隊はまだF6Fや紫電改世代すら行き渡ってないところもあるっていうのに、超高性能のジェット機なんて乗り回して……」

「ウチは上の連中肝いりの『精鋭部隊』なんだし、表立って未来世界の援助を受けてる事も公言できる。他と差ができるのはしゃーないさ。アイツから嫌がらせされたブリタリアの時に比べりゃ天国だよ天国」

――ハルトマンはコスモタイガーを操縦しつつ、ミーナの気負いや後ろめたさをかき消すかのように気づかいを見せる。剣鉄也との出会いで精神的に一歩成長したらしい所を見せる。ミーナはハルトマンの成長を実感したらしく、しんみりした表情をする。

(エーリカ……大人になったわね。まぁ昔からその家はあったけど)

――501は今のメンバーに固まる以前は寄り合い所帯かつ、隊員の関係も総じてギクシャクしたものだった。設立時のメンバーであったラウラ・トート曰く、『以前の501はメンバーの入れ替わりが激しかった』との事で、現在のメンバーになって始めて、『501はまとまった』。その連帯感は502を吸収した現在でも維持しており、旧502出身者と上手くやっている。緩衝役のエーリカやシャーリーの功績は実に大きいのだ。



















――基地では、シャーリー、智子、芳佳、菅野らがエイラやサーニャ、リーネたちにジェット関連装備の講習を行っていた。フェイトはものほかの観測係だ。

「ひ、ひゃあぁああ〜!は、速すぎるよぉ〜!」

リーネがこの時に使用したのは、ブリタリア本国で実用化されたばかりの『ミーティア』ジェットストライカーである。性能はメッサーシャルフme262より低いが、それでも速度性能は800キロを超える。そのため時速600キロから700キロ近くの世界からの飛躍に、リーネは戸惑っているのだ。

『落ち着いてリーネちゃん!ゆっくりスロットルを絞って!』

「う、うん!」

この時、リーネは加減がわからず、スロットルを全開にしてしまっていた。ジェットストライカーに関しては芳佳のほうが経験があるので、芳佳の言うとおりにスロットルを絞る。するとスピードが次第に緩む。

「スピードが乗ると凄く出ます。これがジェットなんですか?」

「そうよ。スピードが乗ればこれまでのストライカーより速く飛べる。重いものも持てるようになる。未来装備に違和感がある者はこっちを選ぶでしょうね」

「機械を扱えるウィッチはそうそういるわけじゃないですしね。どのくらい速度出てました?」

「時速800キロ程度。おおよそ戦闘機型の後期型相当よ」

「あれでまだ800キロなんですか?」

「ええ。これからネウロイもその領域に踏み込むのが増えると思うから慣れなさい」

智子はフェイトから受け取った速度計をもとに記録を書類に記す。坂本がいない分、仕事が増えたためだ。ミーティアはおおよそ戦闘機の同期の後期型である『ミーティアF.4』相当の性能があることが確認された。次はペリーヌのテストする自由ガリア製のミステールである。急速に実用化されたジェットストライカーはできたてホヤホヤのモノも多く、圭子から以前、『よくに実地試験もしてない代物のせいでマルセイユが危うく死にかけた』と聞かされていたためか、試験は厳重に行うようにしていた。


「ふう……本当、できたてホヤホヤの新装備送ってくるのはいいけど、実地試験くらいしなさいよね……」

――新兵器の試験は通常は製造元企業である程度は行なわれる。扶桑は更にテストパイロットの飛行なり走行テストを経て採用する。他国では製造から領収までの過程などが異なるので、1942年頃のマルセイユのように、機体の不具合が起きる危険性もあり得る。智子は実戦部隊にテストを押し付ける各国軍事産業に辟易していた。

「それはウチも同じですよ」

「管理局も連邦も同じようなもんだから面白いもんだ。実戦部隊がその分苦労するんだけど」

「ええ。まぁ、ベテランが確実に動く機材を欲しがるってのはどこも同じですよ」

フェイトはどの勢力も『確実に動作する機材』を求める傾向があると言う。確かにどこの勢力も戦争中の一部ベテランは未知数の新型より既存機を求める傾向が見られる。だが、そんな声は多数派の新型を求める声の前に黙殺されていくのだ。既存機の性能を新型機にも求めた結果、戦争に負けた旧・大日本帝国、完成はさせたが、戦機を逸したジオン公国などの事例に恐怖した扶桑皇国は海軍は烈風よりも紫電改を、陸軍は疾風を優先生産し、更にジェット機に向かいつつある。坂本が疎んじられたのは少数派のベテランを代表するような意見を持っているせいである。

「坂本はそこら辺の代表選手だから嫌われるのよね……可哀想だけど、現実は非情って事ね」


智子はかつて、九七式戦闘脚に愛着を持っていた身である。それ故に坂本の見せた零式への愛着に理解を示した。だが、戦線の実情を理解しなければならないのが軍人だ。507隊長の経歴がある今では、扶桑軍の航空行政は時代に則さないと思っており、空軍設立嘆願の音頭を取っている。坂本は若き日に芳佳の父である宮藤一郎技師と出会い、撃墜王となった影響か、零式に異常な愛着を持っている。それは親友の竹井醇子ですら懸念するほどだ。

「あ、竹井少佐ですか。機材調達は上手く行きそうですか。それは良かった」

二人のもとに、504の立て直しに奔走する竹井醇子から連絡が入る。主力の面々が負傷し、その補充要員の確保、機材の調達などに走り回るあまり、智子も『働き過ぎよ?』と釘を差しているほどだ。

「ええ。何とか紫電改二型を回すように手配してもらったわ。人員の選定もリストもらったから、帰ったら作業するわ」

「働き過ぎですよ。智子大尉が休めと言ってますよ?」

「504が壊滅したせいで、501に負担を強いているのは確かよ。それに私達が不甲斐ないせいで、穴拭大尉のような先輩たちを戦いに引き戻してしまった。美緒じゃないけど、申し訳ないと思ってるの、私達世代は。バトンを託されたのに役目を果たせなかった……」

「あなた達が引け目を感じる事ないわ、竹井。私達は望んで戻った。それだけよ」





竹井は作戦が失敗し、504が壊滅したおかげでネウロイとの和解が潰え、戦いを継続せざるを得なかった事を悔しがっており、『対話』を実現しうるYF-29の配備を熱望しているという。親友である坂本と相容れない唯一無二の点はそこである。しかも扶桑海事変に参戦した経歴を持つ、現在の古参世代は少なからず智子達ら『余生を送っているエクスウィッチ』世代が1944年以降に現役に戻った事に負い目を感じていると告げる。智子は『望んで戻った』だけだといい、竹井をなだめる。








――この『エクスウィッチの復帰に引け目を感じる』事例は、扶桑軍ウィッチに多く見られる傾向で、他国軍が『人員不足を補うための応急処置』と割り切っている中、扶桑では古参が復帰したエクスウィッチに頼ることを避けようとするあまりに、戦死者が増えている事も問題になっていた。智子達が積極的に戦線に出るのは元々の性格+後輩を死なせないようにするためでもある。


――この頃から次第に国内に未来人達の流す太平洋戦争の情報が出回ってきたため、扶桑軍上層部の発言力と発信力は衰えを見せ始めていた。大本営もこの頃から報道の真実性に疑問が持たれ始め、国民への求心力が下がり始めていた。それ故に求心力維持のため、501と502の統合を推し進めたというのが正解であった。



「まぁ、そっちで二、三日休みなさい。今なら上の連中もブルり始めて来たから要求通るだろうし」

「いいんですか、そんなこと言って」

「いいのいいの。どうせ反乱起こした所で軍が不信買うだけだし、これからは私達の時代なんだから。一悶着は覚悟しといたほうがいいわよ」

智子は時代を担うのは、もはや重臣や上層部の明治期生まれの『年寄り』ではなく、若者である自分たちであると、竹井にはっきりと告げる。実際に日本国の戦後の繁栄を担ったのは時代時代の若者たちであったし、上層部の人間達はどこもかしこも自己保身に走る動きを見せているのを知っているからだろう。

「青年将校が反乱を起こすと?」

「根はあるし、失脚した連中を慕う青年将校の不満がかなり溜まってる。今年中には暴発するでしょうね」

「見過ごすんですか?」

「敢えて暴発させて、鎮圧の大義名分を得る寸法よ。地球連邦軍も不満分子をそこで燻り出すという事で結論を出した。そこで双方の不満分子を殲滅するのよ」

「確かに連邦には先祖を今の重臣達のミスで地獄に送られた者も多いと聞きますが……?」

「それに……舶来文化がどんどん入ってきてるでしょ?」

「ええ」

「炊きつけている首謀者を探し出すためでもあるのよ。舶来文化で皇国が壊されると思ってる輩の、ね」

――この時期における『舶来文化』は未来世界で培われたあらゆる文化が相当する。自由主義的思想が更に浸透することで、天皇制を批判し、貶める風潮が生まれる事、扶桑人の元来持っていた『集団主義』的な民族姓を崩壊させてしまう事を恐れる者はいくらでもいる。また、計画された都市計画がオジャンにされたことで、恨みを持つものもいる。(例として、未来世界では広島の中島地区は綺麗さっぱり消えている事もあって、再開発計画の立案すら不可能になってしまったりしている)

「まぁ、未来人が広島城周辺の再開発を潰したのには理由があるのよ。向こうでの今年の8月6日に核攻撃で消えたと記録されてるのがその理由よ」

「核攻撃……!」

そう。原子爆弾の存在は皮肉にもティターンズが水爆をサンフランシスコなどに使ったことで知れ渡った。都市を一瞬でクレーターに変える恐るべき破壊力を誇る新型爆弾。その原始型とも言えるものは未来世界での過去の歴史で広島と長崎の40万人の住人を問答無用で消滅させ、こちらでもリベリオン元大統領『フランクリン・ルーズベルト』が極秘に研究させ、ロスアラモスにおいて『リトルボーイ』がティターンズのもとで完成を見た事も知られていた。竹井の声が一気に恐怖の色を見せたのは、広島と長崎の辿った『別の運命』を知ってしまっていたためだ。

「この世界でも手に入れてしまっているはずだしね『禁断のメキドの火』は……。神話に疎いあたしでも『ソドムとゴモラ』位は分かるけど、街を一瞬で消せる力を手に入れたら使いたくなるものだもの」

「で、でもあれを使ったらもれなく国民感情は悪化しますよ!?」

「正当化するかもよ。広島と長崎の原子爆弾の事をアメリカが統合戦争敗戦まで正当化したように」

そう。戦争の行為を反省させるには、次の戦争で叩きのめすしかない。記録によれば、日本人が統合戦争で敢えてニューヨークやサンフランシスコを空襲したのは、かつての米軍の行為への時代を超えた報復であるとされる。それでアメリカも『因果応報』の理解に至ったという。

「ヘタすればウォレス大統領を動かしてリトルボーイ、あるいはファットマンを新京に落とす。それを警戒してるのよ、上は」

「まさか!?」

「白人至上主義ってのはそういう事よ。平和主義者であっても黄色人種への差別意識はあるでしょう?それに彼はティターンズには逆らえないしね」

そう。ヘンリー・ウォレスは所詮、傀儡に過ぎない。リベリオンの白人たちはここ数百年間、『大国』として君臨する扶桑皇国を衰退させて自分達がそれに取って代わるための策略を考えている。ティターンズは一旦、攻撃はしたが、その思惑を上手く利用して扶桑皇国を降伏させるための方策を思案しているだろう。ヘンリー・ウォレスを脅してでもリトルボーイ、もしくはファットマンを使おうとする事は容易に想像できる。

「つまりティターンズがゴーサインを出せばいつでも『ボックスカー』なり『エノラ・ゲイ』で新京を落とすと?」

「あるいは裏をかいて、ストレートフラッシュでくる可能性もある。パンプキンで訓練はさせてるようだしね。ルーズベルトの悪しき遺産よ」

マンハッタン計画はルーズベルトがネウロイへの切り札という名目で行なわせたが、その実はリベリオンを世界の覇者にさせるための道具造りであった。存命中に核爆弾の威力と弊害を知ったのに、である。コンコルド錯誤では済まない。


「三式12cm高射砲や五式十五糎高射砲は絶対数が足りないというのに……私達の驕りのツケですね…」

――扶桑皇国軍の防空網は19430年代初頭にウィッチ万能論が蔓延ったため、陸上の高射砲などの開発・整備は低調であった。しかし、B-29やB-36の登場で慌てて整備され、理論上は15000mに届く高射砲が相次いで制式化された。だが、それすらジェット機の登場とミサイルの実用化で旧態依然としつつあるのが現状だ。結果、国土が危うくなった肝心な時に数がないという本末転倒である。そのため、工廠をフル稼働で高射砲を市街地にも配置する事態である。

「急いで生産はされてるけど、新京を守るので精一杯な上に、ジェット機には高射砲は当たらない。ミサイルの生産が間に合えばいいけど…」

「美緒のようにウィッチ万能論を振りかざしたウィッチ達は今、若手に疎んじられてますからね。どうすればいいんでしょう?」

「軍備整備のバランスを五分五分にすればいいのよ。それでウィッチの体面も保てるし、通常部隊の面子も保てる。ウィッチ装備が優先されてたことの盲点で、誰も考えつかなかったけどね」

「私達はどうなるんでしょうか」

「新技術に適応できなければ、ウィッチはお払い箱にされるわ。堀井のやつが昔やろうとしたように。多分、今度の戦は坂本のようなタイプが輝ける最後の戦争になるでしょうね」



――そう。これからのウィッチに求められる才能は魔力の強大さもそうだが、ある程度の機械知識である。兵器が複雑化するに従って、徴兵制が消えていくように、坂本のように『刀を振るい、銃が撃てればいい』だけのウィッチは必要とされなくなるのだ。智子はそれを予見していたのだ。実際に1950年にウィッチ募集が志願制に変更され、以後はウィッチの職業軍人化が進む事となる。
































――ティターンズ リベリオン方面本部

「南米大陸に例のあれを造ると?」

「そうだ。『現在』の技術使っても4年はかかるだろうが、中東の石油地帯やインドを目指すための拠点が必要になる。アメリカを押さえたとはいえ、カナダ軍の事もあって、当面は動けんしな。既に工作隊は送り込んである」

彼らはリベリオンを抑え、ある程度の自給自足が可能な資源を手に入れた。が、どうしても中東の石油地帯は最新装備の石油消費量的な意味で抑えたいのだ。そのためにリベリオン領マヤ(中央アメリカ)ルートで工作隊を送り込み、数年の時間をかけて拠点を築き、そこからインドを目指す遠大な計画を建てたのだ。

「BM-8の生産はどうだ?」

「既にトラックに懸架させたものが数千両完成した。ロケットも命中率を上げたタイプにしてある。お情け程度だが、史実よりは使えるだろう」

彼らは史実でドイツ軍を恐怖せしめたカチューシャロケットを作らせ、多少の改良を行った上で配備しようとしていた。既にこの時のティターンズには白人と同等の地位を得れるとして、リベリオン内の有色人種や原住民、ガリア植民地の住民などが多数志願し、配属されていたために時代相応の兵器を与える必要に迫られた。そのためにリベリオン国内の工場でm4中戦車、T-34などの陸戦兵器、P-47、P-39、F4U、F6F、グリフォン・スピットファイア、ヤク戦闘機、紫電改などの航空兵器が元来の国籍と関係無く造られ、配備されていた。

「ミデア便で鬼戦車共々、アフリカに試験配備する。砂漠の狐の鼻っ柱をへし折ってくれるぞ」

「アフリカに?」

「そうだ。近々、主力師団は南アフリカルートで他方面に移転させるつもりらしいが、敵の目を引きつける囮に使うそうだ」

――鬼戦車とは、T-34についているアダ名である。T-34が出演した映画がその由来で、登場時にドイツ軍を恐れさせたソ連邦の救世主的存在でもある事から、後世に映画の内容と関係無く言い伝えられるようになった。そのT-34はミデア輸送機でアフリカに空輸され、配備された。


――そして……

「て、敵新型戦車の襲撃を受けつつあり!…P40の砲撃が通じねえ!た、たすけ……」

アフリカのとある地点で、ロマーニャ陸軍戦車部隊はP40戦車を押し立てて進撃していた。しかし、目的地近くで新型戦車部隊(T-34)の猛攻を受け、瞬く間に壊滅の危機に陥った。T-34は装甲厚、武装ともにロマーニャ戦車を上回っており、一撃でP40を複数撃破し、残骸を押しのけ、兵士を引きつぶす。必死の通信も虚しく、最後のP40が撃破され、その残骸を晒した後の20分後に駆けつけたパットンガールズが見たものは屍の山であった。黒焦げになって無残な姿を晒すP40や、他の戦車。横転した兵員輸送車、投げ出され、死亡したた兵士の死体。卒倒しそうになるほどの有り様であった。

「ひ、ひどい……!」

「P40はそれなりに強い戦車のはず……それをこうも一方的に叩きのめすなんて…!?」

「吐き気がするデース……」

――彼女たちは凄惨さに吐き気をもよおす。それほどに凄まじい屍の山であったからだ。随伴歩兵部隊を入れれば死傷者は部隊のほぼ全員だろう。 ここまで叩きのめされたのは初めてではないだろうか。

「これを!」

「これはカメラ?なにか写ってるかもしれない。すぐ持って帰ろう!」

死体となった兵士が持っていたカメラを回収し、引き上げようとしたその時だった。突然、オルガンのような音が響き、ロケットが近くの陣地に向かって飛翔するのが見えた。

「あ、あれは!?」

「まずい、あの方角はアハトアハトの陣地の方角ネー!」

そのロケットは複数発が飛来し、この地点の近くに配置されていた88ミリ高射砲の陣地へ殺到、数秒で沈黙せしめた。これは所々で原設計にティターンズが改良を加え、当てずっぽうでも『どこかかしらに当たれば大威力』なものをロケット弾として作ったことを暗示していた。パットンガールズはこれで帰ろうにも中継地点を失った事になり、困り果てた。そこでマルセイユに連絡を取り、グランドバースに回収してもらったとの事。


――ティターンズが史実で成果を上げた兵器を量産し、使用し始めた事がこの日に確認された。後日に各地からの報告で正式に確認されたのは以下の通り。報告書から引用する。

・航空兵器

『P-51H』 P-51の最終生産型。速度性能はレシプロ機最高峰の784km/を誇り、当時、亡命リベリオン軍が保有していたD型を遥かに超えている。レーダーも当時最新鋭のものがつけられており、各国軍の追随を許さなかった。(リベリオン国内ののノースリベリオン社製造)

『P-47』 レシプロ機最高の戦闘爆撃機として名を馳せた名機。8丁の機関銃と重装甲で史実ドイツ軍を恐れさせた。いずれもリベリオン本国内のエリート部隊に配備されている。


『F6Fヘルキャット』 艦載機部隊に配備されている機体。亡命軍も保有しているが、こちらは後期型のF6F-5相当。

『F8Fベアキャット』 エリート艦載機部隊の使用機と思われる。アリューシャン方面では零戦52型を圧倒し、紫電改と対等に格闘戦が可能と判定された機体。新鋭機故に配備は多くないものと思われる。

『Yak-9』 東部戦線にて確認。どの年代の型式かは不明。迎撃戦にてカールスラント軍機と互角に戦える。運用法は記録同様に数担当と思われる。





・陸戦兵器

『T-34』 記録によれば、ロシア帝国崩壊後のソビエト連邦軍中戦車。欧州東部戦線及びアフリカにて確認。形式は不明であるが、製造施設を勘案すると、後期型の85ミリ砲型ではないものと思われる。近いうちに『SU-10』などの派生型も開発されるのは必至である。

・『BM-7』 同じく、ソビエト連邦軍の多連装ロケット砲。支援用兵器だが、面制圧には強力な威力を発揮ス。該当カウンターパートの登場を乞ウ。

特記事項 KV-2やIS-2の登場は間近と思われる。せめてケーニッヒティーガーやパンター戦車、センチュリオン、パーシングなどの配備を急がせるべきである。


これが地球連邦軍と連合軍共通の連絡事項であった。鬼戦車と渾名されたT-34が現れた事で、V号戦車やW号戦車前期型、三式中戦車は旧式の烙印を押された。特に五式中戦車シリーズの配備が遅れ、数の上で三式が主力を占める扶桑陸軍は大慌て。工廠での五式中戦車改の生産数を増強。同時にその改善型である秘匿名『チヲ』(さしづめ、六式中戦車とでも呼ぶべき代物だが、これを最後に中戦車という区分そのものがMBTに取って代わられ、消えたために戦前の法則で秘匿名が定められた最後の戦車となった)の開発プロジェクトを立ち上げる結果になっったという。




――T-34は開発国であるオラーシャ帝国にも衝撃を与え、同国でも生産が始まっていた同一車両の配備が促進されるという珍効果も生み出した。そして不幸にも、ヴェネツィア公国が正式にティターンズの外交圧力に屈したと連合軍に通達されたのは、エーリカとミーナが同地上空に達したまさにその時であった……。


「なっ!?あれはMC.202!?」

「ああ……了解」

「どうしたのエーリカ」

「今、アイクから緊急電が入った。ヴェネツィアが外交圧力に屈した……あれは敵だよ!」


「えぇっ!?でもそんな急に!」

「外交ってのはそんなもんさ。ヴェネツィアは衰退しつつある国だ……統一した場合のイタリア王国軍よりも弱体な軍隊がリベリオン軍を取り込んだ強大な海軍力に立ち向かうと思うかい?それにあそこの王家はロマーニャに吸収されるのを恐れているって噂だ……領土保全を願うのは当たり前さ」

ハルトマンはスロットルを開き、後部銃座の自動制御システムをONにする。そして、前部火器管制をONにして、戦闘態勢に入る。護衛機も同様だ。

『各機、戦闘態勢に入るよ!敵はレシプロ機だが、侮る無かれだ!』

『了解!』


「ミーナはレーダーと魔法で索敵頼んだ!」

「は、はい!」

――こうしてハルトマンの精神的成長を垣間見せる一幕を目撃したミーナだが、感慨に浸る間もなく、後部座席で索敵担当を押し付けられる。ミーナはすったもんだで戦闘機による空戦を思わぬ形で初体験する事になってしまった。



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