外伝その44


――ティターンズはロマーニャへの宣戦布告を突然に宣言した。しかもMSを使って、一般大衆にアピールするかのように。これに新生501は度肝を抜かれた。

「宣戦布告をこんな場で大仰に宣言するだと!?とんだ酔狂な大将だぜ……」

(何故攻撃しない、黒江!)

(バッキャロー!相手はガンダムだぞ!下手に動いたらインコムやミサイルの餌食だ!あいつは戦局を支配し得る力を持ってんだからよ……)

黒江は血気に逸る坂本を必死に制止する。何せ相手はかつて猛威を奮ったという『ガンダムMk-X』なのだ。しかも正規仕様でありながらも、ニューディサイズが現地改修した武装もちゃっかりついている。これだけのものを彼らが元から持てるはずはない。秘匿されていたり、ドーベンウルフの素体としてネオ・ジオン軍に渡ったはずだからだ。その内の一体が渡ったとしか考えられないからである。

「一つ聞く。なんであんたらがG-Xなんて大仰なシロモンを持っているんだ!?そいつはあんたらがいたティターンズの崩壊後に出来たはずの奴だ!」

敢えて問う。そのガンダムの出自と彼らの組織とでは時間軸的に異なるはずだからだ。確かに開発指令はティターンズが最末期にサイコガンダムの小型化の試験も兼ねて出したが、すぐにグリプス戦役は終戦した。陽の目は見たものの、それはティターンズに共鳴した教導部隊であり、本来に想定された運用者で運用はされていなかった。


『答えてあげようお嬢さん。連邦政府には君らを支援するエゥーゴ系派閥を嫌う者がまだまだ息づいている。我々は彼らから支援を受けたのだよ』

「っざけんな!!いくらジャミトフ・ハイマンを信仰していたからって、別の世界で大量殺戮してまでやる通りはねぇはずだ!」

『戦争に汚いも綺麗もない。どんな事をやろうが、歴史は勝者によって決められる。ローマの時代から不変の真理なのだよ。大粛清やドレスデン空襲、ヒロシマにナガサキを行った連合国が戦後の世界を支配したようにな』

彼らティターンズ残党は第二次世界大戦で敗者側であった地域の出身者が多い。連合国が行ったとされ、不問に付された戦争犯罪を憎む者も多く、彼ら自身がティターンズ崩壊と共に戦犯として理不尽に裁かれた事から、先祖の因縁と併せてそれを晴らせるこの世界で戦っているのである。アレクセイの場合は日露戦争にまで遡るが、それを別世界で鬱憤晴らしをするなど、愚の骨頂である。

(連邦政府の地球至上主義は死んじゃいないって!?冗談じゃねーぞ!やっぱあそこも一枚板じゃねえって事か!)


ここで黒江達は地球連邦も決して一枚岩ではなく、地球至上主義が未だ生き残っていた事を知った。しかもスポンサーは植民地化でも目論んでいるかのような口ぶりだ。憤らずにはいられなかった。





「さて、見せてあげよう。G-Xの実力を」

G-Xこと、ガンダムmk-Xが遂に動く。その膨大な推力は可変機であるZガンダムに匹敵する強大なもの。核融合エンジンによる吹き上がりの良さも相なって、501の大半の人員の度肝を抜く瞬発力を見せた。シールドブースターも併せた加速力は全備重量85.31tの機体を俊敏に機動させる。501の一斉攻撃をも物ともせずにローマを疾駆していく。

「は、速い!!」

「25mもあるのにこっちが追いつけない速さをだせるって、どういうエンジン積んでるんですか!?」

「ジョゼに伯爵!とにかく撃ちまくれ!バルクホルン大尉にエーリカ中尉は援護してくれ!」

「了解!」

菅野が咄嗟に指示を飛ばす。黒江と智子はマラサイに阻まれている故、その次席である菅野がmk-Xを追う指示を出したのだ。菅野の指示で一同はG-Xを阻止せんと奮闘する。だが、5人の機銃ではガンダリウムγの多重空間装甲には通じない。そもそもネウロイのように『魔力で弱められる』性質と無関係な上に、元々が120ミリマシンガンを物ともしない耐弾性を有するルナチタニウム合金の一族相手には無力に等しかった。いくらカールスラント製機銃が高火力と言っても、元々が『戦車の砲撃にも耐えられるように造られたMSには非力としか言いようがない。

「くそぉ!MG151を持ってきたというのに全く効かん!」

「薄殻榴弾叩き込んでるのに全部弾かれてるよぉ!MSの装甲がこんなに硬いなんて……」

そう。ガンダリウムγ合金の最高品質のもので身を固めるG-Xはウィッチ達の20ミリ機関砲をすべて弾く。カールスラント勢のMG151/20は愚か、九九式20ミリも全く通じないのだ。バルクホルンは思わず本国で開発中の50ミリ砲を欲しがるが、すぐにそれは打ち消された。G-Xのビームライフルが火を吹いたからだ。牽制の一打であったが、近くで観測任務についていたSM.79の編隊を捕らえ、射線にいた全機を撃墜する。片翼を完全に溶解され、炎に包まれていく者、射線の中心部にいたために消滅したものと様々である。ネウロイのビーム以上に高初速・高威力のビームにバルクホルンは身震いする。

「あたしのロマーニャをこれ以上好きにさせるかぁ〜〜!!」

ルッキーニは黒江の直掩であったが、祖国が蹂躙されるのにいつになく激高し、黒江の許可を得て、離脱。シャーリーの手を借りてG-Xの斜め上からから突っ込んだ。多重シールドを展開し、ドリルのように螺旋回転しながら急降下で一気に貫くつもりのようだ。だが、アレクセイはお見通しであった。

『フッ……MSを甘く見ているようだな。教えてあげよう。人型機動兵器の真価を!』

彼は姿勢制御用バーニアとメインスラスター、AMBACを駆使し、なんと一旦跳躍した上で見事なバレルロールを見せたのだ。思わぬ回避法にルッキーニは面食らい、あわや墜落の事態に陥る。

「嘘……あたしとシャーリーの必殺技が避けられた……そんなぁ……あのタイミングで…!?」

ルッキーニはいつになくショックを受けた。必殺技の必中を確信するタイミングで見事に回避されたのだ。速度は瞬間的には音速に達していたはず。それを紙一重に回避されたのだからショックが大きいのだ。

『ルッキーニ、機体を立て直せ!このままだと墜落するぞ!』

『わ、わかった!!』

ルッキーニは機体を立て直そうとユニットを操作するが、操縦が効かない。

『シャーリー、そ、操縦が効かないよぉ!』

『な、何ぃ!?』

『音の壁だ!まさかこういう時にぶち当たるとは…シャーリー、急いで回収しろ!ルッキーニは緊急排除装置でユニットを排除しろ!地面にキスしたくなきゃ、とっととやれ!』

状況を聞いていた黒江が指示を飛ばし、ルッキーニは指示に従う。これもアレクセイの策であった。例えエーテルを用いた飛行魔法であろうと音の壁は平等にぶつかる。実際に太平洋戦争中に急降下した飛行機が音の壁にぶつかり、操縦不能に陥って墜落した事例がある。そこを突いたのだ。ちなみに大気圏内でのバレルロールはMS操縦の中でも高等機動戦術で、これを大気圏内で行える者はニュータイプや強化人間を除けばエースパイロットに限られる。彼もその資格を持っているという事だろう。バレルロールをし終え、余裕たっぷりに悠然とビームライフルを持ち、ローマ市街地に陣取る姿は力の誇示をするかのようだった。

「余裕こいてやがる……でも今の俺達の火器じゃまともに立ち向かえねぇ!」

「サーニャのフリーガーハマーならなんとかなるんじゃ?」

「無理よ。迎撃されるか、避けられるのがオチね。あれはそもそも自立誘導があるわけじゃないのよ?」

「大尉、どうにか抜けられたみたいだな」

「腕部をなんとか切ったついでにモノアイ潰して来たけど、それで精一杯」

「でもなんとかしないとローマが!」

智子らは悩む。今の状況は不利そのもの。たった二個小隊にローマを蹂躙されていれば501の有効性に疑問符がついてしまう。しかし全力でないにしろ、人類最高レベルの陣容であるのには変わりない。どうすればいいのか。一同は対策に苦慮する。




――ティターンズMS部隊がローマに展開した報を受けた現地駐留地球連邦軍は直ちにG-Xに対抗しうる切り札を用意する。それはかつてグリプス戦役でエゥーゴを勝利に導き、引き換えに精神崩壊で隠棲を余儀なくされていたカミーユ・ビダンとZである。Z自体は戦後に再建造された機体の一つで、構成部材をリゼルやリ・ガズィのものへ更新している他、ライフルはリゼルのそれを改良したものに更新されるなどの近代化を施されている。


『カミーユ中尉、出撃指令が出された。直ちに出撃し、G-Xを撃退せよ』

『了解。Zガンダム、カミーユ行きます!!』

ウェーブライダー形態で基地から離陸するZ。細かいところがグリプス戦役当時と異なる他、フライングアーマーがウェイブシューターとしての能力を備える型に換装されているなど、大気圏内運用前提の装備をしているので、正確には『ウェイブシューター』と言うべきであるが、皆はウェーブライダーと呼んでいる。護衛のZプラスA1型を率いて出撃していった。この時にカミーユが属している飛行隊の構成を記す。

・Zガンダム三号機仕様×3(カミーユ用と隊長機用と予備機)

・ZプラスA1型×6

・ZプラスBN型×6

・ZプラスD型×6

・ΖプラスE型×3

と、Z系でも高価な機種を保有しており、連邦軍MS飛行隊の中でも比較的豪華な陣容であるのが伺える。Z系はMSとして高価であるが、それ以上に高価なVF-19が再量産化された時世である故に抵抗感が薄れ、一定数が出回っている。奇しくも可変戦闘機の普及が可変機の戦略的意義を見直す契機になったのである。E型は電子戦機である故、出撃には帯同せずにその電子戦能力で後方から部隊を支援する。E型の支援を受けつつ、彼らはローマへ飛行した。







――このティターンズの突然の宣戦布告はノイエカールスラントに帰還し、兵器開発に勤しんでいたウルスラ・ハルトマンにも届いていた。彼女はMe262やHe162の開発を続けていたが、He162はダメ出しされ、中止に追い込まれていた。これは史実で『国民戦闘機という名と裏腹の飛行特性で殉職者出まくっただろう』という評価がガランドに伝えられたためで、さすがに中止指令を出さねばならなかったのだ。しかし既にメーカーに数百機分のパーツを発注してしまっていたというコンコルド錯誤に陥っていた。ウルスラ・ハルトマンはそのパーツの処理に追われていた最中での一報であった。

「姉様……一刻も早くこの子の完成を急がなくては!」

カールスラントはジェットストライカーの実用化において、他国に先んじていた。だが、黎明期故、ティターンズの有するジェット戦闘機との空戦を行える空戦性能を有していない。これは機動性・加速力において、とても最終型相当に改造されているセンチュリーシリーズには及ばないのが、実用化に前後する各部隊の実戦データで判明した。なので未来装備を独自に取り寄せる者も出始めている。元からテストパイロットであった者を中心に、広がりを見せている動きであるが、兵器開発者には面白くはなかった。自分たちが必死に作っていた物が落第扱いされ、いきなり予算打ち切りとなれば当然であった。彼女が今、心血を注いでいるのは史実でスウェーデン機として日の目を見た『ドラケン』であった。これは設計原案をカールスラントが得た事、扶桑皇国が次期主力要撃戦闘機に選定したことで、実機が持ち込まれたのをストライカー化する計画を持ち込んだからで、スウェーデンと同座標にあるバルトランド王国に独自開発能力がない故、カールスラントが代行した形である。1945年現在では、アフターバーナー付き魔導ターボジェットエンジンの開発は管理局の援助もあり、ブリタニアで試作段階には達していた。問題は機体である。ダブルデルタ翼という革新的な翼型をストライカーに当てはめるため、アレクサンドラ・リピッシュ博士(アレクサンダー・リピッシュ博士に当たる)が責任者となり、テストが繰り返されていた。

「ウルスラ中尉、テストは良好だ。私の理論がまさか超音速時代に実証されるとは!グハハ!」

と、電話越しに高笑いするリピッシュ博士。彼女は現在、36歳ほど。第一次大戦に第一世代飛行ウィッチとして従軍した経験を持つ。戦後は航空学に進み、航空機及びストライカー設計者の道を歩んだ。奇しくも彼女が考案している理論は未来情報によって正しいことが実証された(幾多のデルタ翼機がそれを証明している)ため、意気揚々と進歩した航空力学を以ってして機体設計に挑んでいた。

「そ、そうですか。それで空洞試験のほうはどうなのです?」

「言っただろう、良好だ。しかし設計に問題はないが、素材が問題だ。旧来のジュラルミンでは超音速飛行時の高温に耐えられんぞ。もっと熱に強い素材が必要だ」

「ジュラルミン以上の素材と言うと……」

「そうだな。超音速飛行の熱に耐えられる素材ならばなんでもいい」

――そう。現在のレシプロストライカーでは、超音速飛行を長時間行うとエンジンの冷却能力を超えてしまい、エンジンが停止し、機体強度の関係で分解する。メッサーシャルフ262などでも音速の壁は越えられていない。超音速を出そうとすると音の壁にぶつかるのだ。シャーリーのように、超加速で突破するのはイレギュラーなケースであり、普通はこのように苦労があるのだ。

「チタン合金が調達できればいいんだが……」

「チタン合金……精製施設はまだ建設中ですよ?」

「構わん。後の世で多用されるという複合素材など、こちらではまだ初期段階でしかない。かと言って、ジュラルミンではもはや限界だ」

「分かりました」

――チタン合金は航空機の歴史上、超音速飛行時代以降に多用されている素材である。これは旧来のアルミ合金では高速飛行時の高熱に耐えられない事が判明したからで、ストライカーといえども、それとけして無縁ではない。機体構造の各所にチタン合金を用いた最初の例はF-100である。そこから時代を下るにつれて技術革新で使用割合は下がる傾向にあったが、ルナチタニウム合金を使用してる歴代コア・ファイターで再び増加した。カールスラントは旧来のアルミ合金による機体強度の限界を悟り、チタン合金を主要素材に選定しようとしていた。ウルスラが姉たちに送ろうとしているのは、ストライカーとしてのドラケンであった。


「来年には試作機の飛行に持ち込むぞ。覚悟しておけ」

「えぇ〜!!」


――すっかりデルタ翼にご執心の博士に振り回されるウルスラ。と、言うのも理由がある。亡命リベリオンが南洋島の施設でF-86の完成に目処をつけ、航空メーカーの『ノースリベリオン』社から次期主力開発計画として提案された『セイバー45』(後のF-100)計画を開始した報への対抗心も大きかった。ジェットストライカーの第二世代機開発には、ウルスラ・ハルトマンはリピッシュ博士に振り回される形で携わっていく。扶桑が震電改を、亡命リベリオンが後の『F-100』を、カールスラントが『ドラケン』を代行して開発を行っていき、それらは後にそれぞれの分野で活躍を見せることになる。(その間にガリアもデルタ翼にハマり、ミステールデルタの初飛行に成功するが、何気に博士にスルーされたらしい)



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