外伝その48


――芳佳らが特訓に精を出す最中、智子と黒江はミーナを伴って、鹵獲された『F-100』を確認しに、ロマーニャ国内の空軍基地を訪れていた。これは501の識別表に追加するための作業の一環で、ミーナが直接確認したいと要請した事で、ロマーニャ空軍も許可した経緯がある。


――とある基地の格納庫

「これがF-100……」

「そうです。これがF-100。名をスーパーセイバーと言います」

エンジントラブルで不時着した機体を鹵獲したそれは、旧・米軍の制式塗装に彩られていた。修繕して、テスト飛行を行った後らしく、各国の技術者らがレポートを書き記す姿が見受けられる。武官からの説明もそこそこに、機体を見て回る。

「後退翼を持ち、そこそこの爆撃能力も備える……まさに新世代機ね……」

「元来は制空戦闘機なんですがね。亡命リベリオンが配備を急いでるF-86ってあるでしょ?こいつはその正統後継機なんです」

「これがあの……。随分姿が変わったわね……」

「後退翼の角度が上がってますし、機体も4mくらい大型化してますからね。武装は……こりゃ戦闘爆撃機型か。アビオニクスが更新されてる。ん?速度計がマッハ2まである?エンジンは記録通りじゃないな……」



F-100は制空戦闘機としては、不遇の生涯を辿った。それはノースアメリカン社の凋落と時を同じくする。皮肉にも、東西冷戦下での飛躍的技術の進歩がF-100を瞬く間に『時代遅れ』としたのだ。扶桑軍も、F-100を制空戦闘機として採用する見込みはこの時期にはほぼ無くなり、F-104が採用されることの内示が連邦軍に伝わり、契約中の段階である。最盛期が生産当初の段階という、余りに不運なこの戦闘機、ティターンズは製造年代の近さから、調達容易な超音速戦闘機として、リベリオン本国のF-86用生産ラインを改変した上で生産している。黒江達が見学した鹵獲機は、エンジンを史実の搭載エンジンよりも数段強力な推力を持つJ79に改変されていた。このエンジンは当時最新最強のジェットエンジンで、扶桑・リベリオン本国共に、未来資料によって製造に成功したばかりの新鋭機だった。

「中佐。これが技術者達がこの機体を解析したレポートです」

「ありがとう」

ミーナは武官からレポートを手渡される。目を通してみると、地球連邦側の記録とは、いくつも差異が存在する事が分かる。機体の接合部分に使われているリベットの数、搭載されているエンジンなど……地球連邦に残されていた米軍の運用記録と異なる点がいくつもある。共通点は塗装と、武装の傾向くらいだ。

「部材はノースリベリオン社の調達した部材で造られてるみたいね。リベットの規格が同社のものだったと書かれている。どういうことなの……」

「多分、こっちが戦後第一世代と第二世代を前倒しして造らせるのを読んでたんでしょう。同じこと考えたんでしょう。これで向こうもジェット機の生産ラインを確保し始めたのがはっきりしましたよ」

「そうね。敵がレシプロ戦闘機を制空戦闘に使うのは、あと数年でしょうね。この世代のジェット機までは航続距離の問題がありますし」

「初期のジェット機は燃料バカ食いだしな。ターボファンが実用化されない限りは解決できないからなぁ、これ」

――戦後のジェット戦闘機が最初に突き当たった問題は航続距離である。初期のジェット戦闘機は戦闘爆撃機として使える航続距離の余裕がなかった。それ故に1950年代までは、第二次大戦後期に設計されたレシプロ戦闘機が戦闘爆撃機として使用されていた経緯がある。

「今後はこちらもジェットを主体にしないといけなくなるわね……でも、今の試験機はどれもこれも機動性や滑走距離、航続距離が実用に耐えないし……」

「しょうがないですよ。こっちの魔導エンジンにはアフターバーナーもないし、機動性を確保できるエンジンは亡命リベリオンしか持ってないんですから」

「テストして、第二世代をよりよくするためと思って」

「そうそう。失敗は成功のもとっていうじゃないですか」

「帰ったら、基地に用意されてる試作機をチェックしてください。どれが一番使いやすいかチェックします」

「了解」

敵が超音速戦闘機をロールアウトさせ、しかも既に量産配備を成功させつつあるという事が明らかになった事で、この日を境にミーナは、ジェットストライカーを本格的に運用し始める。しかしこの段階で配備されていたジェットストライカーの試作機の多くは滑走距離、航続距離、空戦での戦術的自由度の低さ(機動性が低い)から、専ら重ネウロイ及び、超重爆撃機(B-29、B-36)迎撃に使われ、制空戦闘に最も進歩的な設計であったF-86のみが使用されたという。(同機は決戦兵器として、主要国でライセンス生産され、最後の機体は1980年に使用されたという)






――後日、撹乱のために各地でゲリラ戦を行っている宇宙刑事達から連絡が入り、ティターンズ主力が本格的にヴェネツィアに集結しつつある事や、ヴェネツィア王室はガリア地域を制圧し、古のフランク王国再興を目論んでいる野心家が王位を継いだ事が明らかになった。

――ブリーディングルーム

「何故、何故……今更、フランク王国なんですの?」

ペリーヌはこの凶報に、すっかり意気消沈している。歴史的には仏・独・伊の三国の源流となった強大な国家であり、支配地域は最盛期には、西欧州のほぼ全土に及んだ。それはこの世界においても同様だ。その復活を焚き付けられたのだろうが、既に確固たるアイデンティティを確立させた地域を再度制圧する大義名分などないはずだとペリーヌは考えた。いくらガリアが、かつてのフランク王国の領域であろうとも。それがまかり通るのなら、ローマ帝国やマケドニアを復活させていいということになるからだ。

「恐らく、ヴェネツィア王室の王位継承者にかつてのカロリング朝の血が流れていたのを発見したティターンズが焚き付けたんだろう。こちらでのムッソリーニもローマ帝国再興を目論んでいたから、カロリング朝再興を目論んでも不思議じゃない」

連携訓練のために、ブリーディングルームに足を運んでいたカミーユ・ビダンが言う。カミーユはムッソリーニを引き合いに出し、『古の王国や帝国の夢よもう一度』となる心理は、ある国が一定の繁栄を得た時、既に繁栄の峠を一回越していた場合、その国が最も栄えていた時期の栄光を再度追い求めてしまう傾向がある。特にフランク王国やローマ帝国の伝統を持っていたヴェネツィア公国は、ローマを有し、伸長してきたロマーニャに吸収される恐怖を持っていた。そこで、王位を継いだ王子(強硬派で、母親がフランク王国・カロリング朝傍流の末裔)はティターンズの思惑通りにフランク王国再興の野心を明るみに出したのだと説明する。ペリーヌは祖国を再度蹂躙されるという事実、それも今度は人同士で相争う『戦争』でという事に打ちのめされ、嗚咽を漏らす。カミーユは彼女に慰めとなるニュースを告げる。

「だが、そうは問屋がおろさない。君の国とヴェネツィアの国境には、グレートマジンガーが控えている。鉄也さんは必ず食い止めてくれるさ」

「グレートマジンガー…?」

「ああ、『偉大な勇者』さ」

ここでペリーヌは、ヴェネツィアとガリアの国境に、ミーナが地球連邦軍の最大戦力と言っていたスーパーロボットが配置されている事を知った。ガリア防衛の一端はグレートマジンガーが担っていたのだ。偉大な勇者が。


――斜陽を迎えつつある同国は、自国を古のフランク王国として再編せんと、ガリア政府に宣戦布告し、軍は既にガリア領域を侵食し始めていた。国土が荒廃しているガリアにこれを食い止める力は無く、地球連邦軍がそれを食い止めているのが現状だった。



――ガリア=ヴェネツィア国境

『ニーインパルスキック!』

グレートマジンガーである。ティターンズがヴェネツィア軍のの補助に送り込んだハイザック隊を相手取って立ち回りを演じていた。スーパーロボットである故、一対多の状況でも苦にしない。ニーインパルスキックの突起でハイザックの胸を串刺しにし、もう一機のヒート・ホークをマジンガーブレードでいなし、弾き飛ばす。剣鉄也の戦闘センスの高さが窺える。次いで、突き刺さっているハイザックを引き剥がすと、マジンガーブレードでもう一機ごと斬り裂く。残骸はブレストバーンで焼却処分する。

『ん!もう一機いたか!』

ビームライフルを乱射しながら急降下してくるハイザックの三機目。ビームライフルは超合金ニューZの装甲に負けて、ビームが偏向して弾かれる。それに気づき、マジンガーの通例である頭部コックピット部を狙おうとするが、グレートマジンガー以降はコックピットキャノピーが超合金を加工したモノとなっており、意外に頑丈なのだ。(これはZ敗北時にジェットパイルダーのキャノピーを破壊され、甲児がモロに電撃を食らってしまった戦訓によって、グレートマジンガーは初投入後にキャノピーを強化された)しかし、他の箇所よりは弱いので、被弾しないことに越したことはないので、サンダーブレイクで迎撃する。

『ここにはもう敵はいないな。本隊に合流するか。スクランブルダッシュ!』


グレートマジンガーの活躍は対ティターンズへの心理的圧力を狙う連邦軍の意図もあり、連合軍と連邦軍の暗黙の了解となっていた。この日に従軍記者によって撮られた雄姿が軍内部の広報新聞の一面を飾ると、501でも、その話題が出た。

――501基地 待機組

「鉄也さん、派手に暴れてんなー」

「誰が鉄也さんを呼んだの?鉄也さんはゴッドのテストで忙しいって聞いたわよ、圭子」

「エーリカよ」

「あ、ああ〜。そいえばあの子、鉄也さんと仲よかったわよね。いつの間に……」

智子はハルトマンがいつの間にか剣鉄也と仲良くなっていた事に驚きを隠せない。圭子は新聞の記事の内容について智子と話しつつも、ストームウィッチーズの移転のための事務作業を進めている。

「空中指揮は綾香に任したし、私の機材は調整中だし、正直言って暇だわ!」

「へいへい。あ、そうだ。村雨さんが来るからそのつもりでいて」

「村雨さんが?」

「なんでも、クライシスがロマーニャできな臭い事を引き続きしてるらしいのよ。その関係で」

「あいつら、光太郎さん達に毎回毎回やられてんのに、懲りないわねぇ」

「しゃーない。奴らの怪魔界の環境は破滅的に悪化してるんだ。60億人を移民させるにゃ現有の地球人を皆殺しにするしかないし、未来の地球は環境が悪化してる。こっちに手を出すのもわからなくはない。だが、侵略してきた以上は倒すのみだ」

「わかったわ」

圭子は智子に、仮面ライダーZX=村雨良が欧州戦線に転戦してくる旨を伝え、クライシスへの警戒を促すように言う。智子は了承し、圭子と別れて、この日は非番で待機組であった芳佳、ジェーン、ドミニカと共に、基地内に新設された視聴覚室へ趣き、この日の午後のロードショーを楽しんだ。

――基地・居住区内視聴覚室 


「穴拭さん、今日の映画はなんですか?」

「今日はA・ヒッチコ○クの『裏窓』よ。本来なら、もう9年しないと見られない映画なんだから、心して見なさいよ?」

「は、はい」

「大尉、そんなに緊張させるな。映画というのは楽しんで見るものだ。そうだろ、ジェーン」

「もう大将ったら……。まぁ、ポップコーンでも食べながらゆっくり見ましょうよ」

「そうね。ポップコーンの味は?」

「味?そんなのがあるのか?」

「23世紀には、キャラメルコーン味とかバター醤油味とかが流通してるのよ。それで希望を聞いとくわ」

智子に4人はそれぞれの希望を告げ、購買部にポップコーンを注文し、5人分を座席にキープしてもらう。サスペンスものにはあまり興味がない芳佳とリーネだったが、せっかくなので見ることにした。そして、映画が始まり……。











――この日の空中指揮は黒江が担当し、ティターンズが差し向けたヴェネツィア軍のG.55「チェンタウロ」と「MC.205」と戦闘を行った。この日は黒江の直掩をシャーリーが担当し、(先日の戦闘で撃墜判定をもらったルッキーニは大事を取って待機)、バルクホルンとハルトマン、エイラとサーニャがそれぞれ編隊を組んで対応した。502からはジョゼとニパが参加していた。

「各機、こいつらの航続距離は短い。前線基地が近くに設営されている可能性が高い!航続距離に余裕が有るものは機銃掃射で撹乱しろ」

「了解!」

各ウィッチは航続距離に余裕がある機種を用いていた。黒江はこの日はマ43搭載型キ84(疾風)を履き、シャーリーはP-51Hを初使用している以外は、概ね集結時に支給されたユニットを使用している。が、亡命リベリオン製の高性能プラグと高オクタン値燃料のおかげで平均スペックの底上げが初めて行われた事もあり、平均速度は670キロ台を叩き出していた。


「MG151か!だが、そのような射撃で私は捉えられん!」

MC.205の襲撃をバルクホルンは軽くいなす。そしてホバリングを活用した空戦機動で背後を取り、レシプロストライカーユニットで扱える最大口径の機銃である『MK108』を発射し、 撃墜する。二丁使って蜂の巣にする様は贅沢ですらある。ハルトマンは一撃離脱戦法を主とするものの、最近は剣鉄也の影響でドックファイトも嗜むようになり、MG151/20を用いた。まずは格闘戦に引きずり込み、次いでシュトゥルムで相手の態勢を崩してからコックピットに銃弾を撃ち込む芸当を見せる。これにはバルクホルンも唸る。

「あいつが格闘戦を行うとは……うぅ〜む。驚いたな」

「見とれてる場合じゃねーぞ、大尉」

「あ、ああ」

「さて、私も久しぶりに肩慣らしと行くかな」

エイラは固有魔法の効果がニュータイプの先読みに近い。そのためにこれまでの戦いで被弾していないという技能を誇り、相手の動きを先読みできる(ただし能力が上位互換に等しいニュータイプ能力の前にはさすがに及ばず、昨年時の模擬戦ではZZやF91に大いに苦戦したらしい)。相手が技能未熟なパイロットなのも手伝って、エイラの撃墜スコアの肥やしになった。

「まっ、こんなもんか。サーニャ、大丈夫か?」

「うん。私もドックファイトの訓練はしてきてるから、大丈夫よ」

サーニャは昨年のティターンズとの初戦闘以後は策敵摩法の精度がミノフスキー粒子の妨害作用で低下した事もあり、ドックファイトに引きずり込まれてしまう機会が増加。それを憂慮した坂本は智子と黒江に相談し、サーニャに通常装備での戦闘訓練を新たに課す事で一致した。対爆装備であるフリーガーファウストは今回は背中にマウントし、手持ちの
銃をMG151/20にしている。訓練の成果と、元々の才覚もあり、エイラと互角の戦果を発揮してみせる。この日以後、サーニャは『白百合』の異名を正式なものとし、後にオラーシャ帝国皇帝に拝謁する名誉を得たとの事。

「さて、若い奴らにいいところ見せてやるか」

「黒江さん、後ろはカバーすんぜ。突っ込め!」

「がってんしょうち!」

黒江は疾風の上昇力と急降下への耐性(鍾馗の発展型であるので、耐G能力は高い)を最大限用い、この日に届いた日本刀『ヒヒイロカネ』(古代日本が有したという、オーバーテクノロジーで造られた一種のオリハルコンの類の超金属を加工したもの。邪馬台国と朝廷が残した精錬法が、ある世界で発見され、それを時空管理局が更に情報を得た上で再構成し、近世以後の太刀として製造したもの)の試し斬りを行った。

「食らええぇっ!」

相手はG.55である。高度11000mからの急降下斬りで同機はコックピットにいるパイロットごと綺麗サッパリに切り裂かれ、爆発する。切り裂いた後も、刀に一切の刃毀れはなく、現在における超合金Z系列と遜色ない切れ味を見せつけた。

「これが日緋色金……オリハルコンの類が次元世界には実在したんだな……海のト○トンか、緋弾のア○アかつーの」

――オリハルコン。大抵の世界では、青銅系の合金であった例が多く、半ば神格化された伝承通りの超金属であった例は貴重であった。時空管理局はその通りであった世界を発見し、それを独自に解析し、日本刀の製造法で精錬し、刀剣としていくつか製造した。その一つがフェイトのツテで、黒江と智子に補給物資として回されてきたのだ。

「オリハルコンねぇ。オーリハールコーンとか言って光らすなんてのは、ネタ的に古いからやめてくれよな?」

「海のトリ○ンじゃあるまいし、やるかよ。せめて、緋弾のア○アのヤンデレ巫女のほうをだな……」

「あたしはブラックキャ○トのほうを思いだしたけどな」

「ありゃ、銃だろ」

と、20世紀後半以後の日本のマンガやライトノベルを読んでないと理解不能な単語が飛び交う。黒江とシャーリーは趣味などで妙に馬が合い、未来世界でもケッテを組む際に飛んでいる。その関係を垣間見せ、エイラとサーニャは不思議そうな顔を浮かべたという。



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