外伝その57


――大海戦は正念場を迎えていた。それはジェット戦闘機と爆撃機、攻撃機による航空攻撃を受けたからだ。近代化が終わっている艦艇を最終防衛ラインにし、直掩機、直掩ウィッチ、防空艦問わず対空戦を開始した。

「A-4とA-7を近づけさせるな!あれのMk82が駆逐艦に当たれば、一撃で船体が折れるぞ!」

黒江が号令を発する。Mk82爆弾は500ポンドと重さは軽量だが、破壊力は第二次大戦中の同重量爆弾とは比較にならず、一発でも当たれば駆逐艦程度は撃沈確実になる。巡洋艦でも、軽巡であれば砲塔がぶっ飛ぶ。そして、急降下爆撃ではなく、水平爆撃を(ジェット時代では急降下爆撃は廃れているのと、する意義がない)を用いたものの、数が多かったのもあり、艦隊外縁を守備しているブリタニア駆逐艦がその矢面に立たされ、特にトライバル級駆逐艦はその旧式ぶりから、被弾していった。



――A-7のMk82が4発投下され、一隻のポンポン砲は当たりもしないままに、主砲の12cm45口径MkXII連装砲を爆弾が破壊し、更に三発が破孔に突っ込み、砲塔の弾薬ごと爆発して轟沈させる。やはりジェット機相手には、ポンポン砲は無意味であったのだ。外縁部の駆逐艦勢は数が多いブリタニアの艦で占められていた事もあり、史実日本海軍並の苦しい対空戦を強いられた。

「クソ、ベドウィンがやられたぞ!!」

「ジェットというだけで、こうも当たらないのか!?当たれよ、当たれ!!」

駆逐艦の対空戦要員は必死に12.7o4連装機銃2基を撃つが、まるで当たらない。しかも逆に20ミリ機関砲を撃たれて要員を殺傷させられたりするなど、ブリタニアの旧式駆逐艦群は完全に、模擬標的並の扱いで弄ばれていた。トライバル級はブリタニアの中では、比較的新しい駆逐艦ではある。しかし間に合わせでかき集めたため、初期仕様のままの艦も多く、それらが被害の中心であった。

「コサックのレーダーがロケットで破壊されたぁ!?電子装備を狙って来やがったぞ!」

今度は、ブリタニア式の271型対空・対水上捜索用レーダーを備えた一隻がA-7の一機が放ったAGM-45ミサイル(対レーダーミサイル)で破壊される。ついに第一世代対レーダーミサイルを試験的に投入したのだ。第二次大戦中の駆逐艦の装備では阻止は不可能であり、戦術データリンクが叶わない在来型装備艦では、史実1950年代後期から60年代相当の技術で圧倒可能なのが示された格好だ。主力艦勢の多くが戦術データリンク(M粒子散布下でも可能な23世紀型)で、高度な近代防空網を使っているのとは対照的だ。直掩機がA-7やA-4を追い散らしたり、直掩ウィッチが対応する。

「ジェットへの見越し射撃の仕方は覚えた!落ちろ!!」

バルクホルン(装備はF-86A、サイドアームはMK103二丁)が30ミリ砲をA-7に撃つ。魔力による強化で破壊力が強化されているのもあり、翼をへし折り、落とす。ジェットでの空戦に適応したようで、Me262より格段に機動性があるF-86との組み合わせは良好で、スペックで上回る機体相手に渡り合う(因みにISも持ち運びしている)。

「これで二機か。あいつには負けるものか」

バルクホルンは、Me262のテストもしていた都合上、かつての部下であるマルセイユがジェットストライカーを乗りこなしている事に強いライバル心を抱いていた。マルセイユがアフリカで出会ったティターンズのエースに追いつこうと必死に勉強した(欧州への道中、圭子が黒江に頼んで、VF-Xのエイジス・フォッカー大佐に映像通信を通して、ジェット時代の空戦の組み立て方をレクチャーしてもらうなどの便宜を図ったりもしたが)結果、ジェットストライカーやVF-19A(マルセイユは格闘戦を重視するために、じゃじゃ馬なA型を敢えて選んだ)を調達し、更に連邦軍からの借用で、最新鋭のΞガンダムを扱ってみせたという知らせに、かつての上官としての対抗心が強烈に芽生えた。スコアそのものも自分に肉薄(スエズ運河戦でマルセイユをネウロイが集中打したおかげでもある)してきているためか、マルセイユと撃墜スコアで競う形になったのだ。






――そのマルセイユは、今や唯一の心の拠り所とも言えるハルトマンの存在もあり、以前の快活さを取り戻しつつあった。Ξのサイコミュを稼動させられる『素養』がアフリカ戦線の失陥をきっかけに本格的に開花しつつある事も相なって、ジェットストライカーでは史上初の『格闘戦闘脚』であるF-86(実戦型の初形式のA型だが)を乗りこなし、MK103の重火力もあり、スコアを更新する。また、戸隠流の門戸を叩き、未来での戸隠流第35代宗家である山路闘破の教えを受けた他、独学で飛天御剣流の心得を得た事もあり、接近戦用に刀を挿しているなどの変化を見せていた。


「秘技・横一閃!」

横に斬りつけてから縦に斬るこの技、山路闘破=磁雷矢の見よう見真似であるし、元々、念動系の素養ではない(刀に多くの魔力を集中させる技能はウィッチの中でも少なめである)はずのマルセイユだが、この時には若返りと連邦の施術で魔力の永続性を得ていた事で多用が出来るようになった事、ベルカ式魔法をティアナ・ランスターとフェイト経由でシグナムから教えてもらった事もあり、その応用で使った。マルセイユには、意外に接近戦の才能があるのが分かる一コマだ。

「私が再び欧州で戦うとは。しかもハルトマンと轡を並べて。このような形で、あいつとは再会したくはなかったが……せめて、この空だけでも守り通す!」

刀を手に、マルセイユは突貫する。アフリカ戦線を守れなかった贖罪の意味を込めて剣を振るう姿からは、哀愁と同時に悲しみを振り切った姿が伺えた。







――黒江は新生501の先任中隊長として指揮を取りつつ、CICからの指示を受けていた。

「ロマーニャ海軍を艦隊戦の囮に?」

「そうだ。9隻ほどしかいない上に、戦艦は2隻、巡洋艦はザラ級重巡洋艦が2隻しかいない陣容だ。事実上、『いてもいなくても変わらない』。前衛に置いて、弾除けに使う決議が出された」

「いいんですか?」

「これは彼らの希望でもあるのだ。未来のブンヤ連中が書き立てているのだよ、『イタリア海軍は沿岸警備隊にでもしていろ』と」

「確かに、史実のこの時期のイタリア海軍は練度不足・士気最悪ですが?」

「おまけにイタリア海軍は枢軸国を真っ先に裏切った前歴が有る。それもあって、彼らは名誉回復をしようとしているのだよ」

――ロマーニャ海軍は史実伊海軍の風評により、多大な風評被害を被っていた。『臆病者』、『裏切り者』、『腰振り軍隊』というレッテルで未来世界のマスメディアから罵声を浴びせられ、今次海戦への参陣の際にも『いないほうがいい』と評されるほどだった。これは艦隊ごと投降したために、怒りのヒトラーからフリッツXをぶち込まれ、ローマが爆沈した故事のとばっちりであった。もちろん、ロマーニャ海軍は大いに憤慨し、タラント空襲で主力(改装戦艦、建造中空母含む)の大半を失った状況なのにも関わらず参陣した。参陣は国内でも反対派が多数だったが、海軍提督等が押し通して出陣させたのだ。これはロマーニャ海軍の名誉を守るための戦いでもあり、二隻のリットリオ級にウィッチを乗せての出撃であることからも意気込みが分かる。

「小沢長官、相手はアイオワ級とモンタナ級を有するんですよ?大和とタメ張れる化物だ、下手をすれば、ここが彼らの墓場になりますよ、無謀だ。死に行くようなもんだ」

黒江は小沢治三郎に懸念を伝える。史実でフランス海軍にすら及び腰だった上に、頼みのリットリオ級戦艦も、日米の誇る二大巨頭には到底敵うはずはないからだ。モンタナのSHSが直撃すれば、一撃で戦闘力を大幅に減じるのは確実、サウスダコタ級とさえ渡り合えない可能性が高いからだ。『大和型を凌ぐ射程』はあくまでカタログスペックであり、実際は36000あれば良いほうだろうと黒江は踏んでいた事から、無謀と断じた。だが、小沢はロマーニャ海軍の意志を尊重したいようだ。

「中佐、ルッキーニ少尉を護衛につけたまえ。彼女ならローマの『悲劇』を防げるかもしれん。それに、囮と言っても釣り野伏のようなものだ。追いかけてきたところをこちらで潰すのだからな

「了解です」

小沢はローマが史実でフリッツXの爆撃を受け、轟沈した史実を懸念し、ロマーニャ最高のウィッチの一人であるルッキーニ(赤ズボン隊もついているが、機材などで不安要素が高かった)をつけろと指令し、作戦の真の意図を伝える。それが小沢なりの気遣いだった。







「撃て!!」

改大和型、富士の垂直発射システムシースパローミサイルが発射され、艦隊を襲うジェット機郡を撃墜していく。大和型とその発展型に艦隊防空能力を与えていたのが幸いしたのだ。未来的光景に、直掩についていた坂本は脱帽する。

「去年から見てきたが、本当に時代は変わったのだな。寂しいが、これも未来との接触で得たモノなのだろう」

貪欲に未来技術を吸収した扶桑は、大和型を実験材に、未来装備を運用し始め、ミッドチルダ動乱での運用試験が良好であったためもあり、この時点では大和型・三笠型、超甲巡の他、大鳳型、翔鶴型空母、新造駆逐艦などに未来装備がされている。気風も伝統的な『シゴキ』などは駆逐され始めている(扶桑海事変時に三羽烏が実態を皇族に伝え、そこから更に尾ひれがついた状態で陛下の耳に入った。当然ながら激怒して、当時の陸軍三長官に大臣、海軍の要人らを呼びつけて烈火のごとく叱責、直々に免職させることも示唆したことによる)。坂本は幼少時から、軍のその過激で野蛮な気風を嫌悪していたので、三羽烏の行為を歓迎している。(ただし、三羽烏も坂本も、ビンタなど、良識に則った範囲での『修正』はしてきているので、『一線』を越えないように歯止めをかけたというべきか)

「穴拭、こちらの制空権は確保した。そっちはどうだ?」

「こっちもブリタニアのシービクセンが思ったより奮戦してくれたおかげで撃退したわ。エーリカからの報告で、被害は駆逐艦4隻が大破、2隻が撃沈に留められた。思ったよりは良好よ」

「そうか……、それは良かった。ジェット機を配置していたのが功を奏したな」

「ええ。だけど、まだ安心は禁物よ。敵は対レーダーミサイルを使ってきた。砲撃戦に介入させてくるのも考えられるわ。綾香から、、ルッキーニをロマーニャ艦隊の護衛に回せと連絡が来たわ。ルッキーニに言ってくれる?」

「了解だ。あいつは母国の船を守りたいだろうからな。しかし、あいつのストライカーはレシプロだぞ?いいのか?」

坂本が智子に懸念を伝える。ルッキーニは感覚で、決戦にはジェットでは無く、従来から使用しているチェンタウロの改良型である『G.56』を選んで使用しているからだ。501の人員の複数がジェットを試験運用も兼ねて、F-86を履いているのに対し、ルッキーニは決戦にかける意気込みから、不具合と感覚の違いを嫌い、慣れたレシプロを使用した(根本的な機種転換に時間がかかるのを嫌がったのもある)。それ故、ジェット主体の敵との制空戦は辛いからだ。

「直掩だから問題はないわ。赤ズボン隊もいるわ。敵も砲撃戦に航空機入れるなんて野暮な真似しないだろうし」

智子は黒江から伝えられた事を、多少オブラートに包んだ上で告げる。そのまま言えば、『ロマーニャ海軍を弾除けに使うなど!』と激怒して、司令部に殴りこみをかけかねないからだ(青年期以後の坂本の性格を芳佳から聞かされているので、対策が立てられた)。未来世界の海軍が『古来の戦艦主体の砲撃戦に憧れている』気質を持つのも知っていたので、当たらずといえども遠からずであった。






――ティターンズ海軍空母艦隊旗艦『ミッドウェイ』

「速成の急ごしらえパイロット主体にしては、上出来だな」

「駆逐艦とは言え、撃沈艦を出せたのは幸運でしたな」

「今のパイロット練度では期待していなかったが、思ったよりは成果を出せたな。アレクセイ閣下もお喜びになられるだろう」

「A-6とF-4のリバースエンジニアリングと製造が間に合わなかったのが悔やまれますな。あれらがあれば良かったのですが」


「史実を考えると、1945年でF3Hを有する分、恵まれているがね。F7Uはどうする?」

「あれですか?どうしましょう?」

「未亡人製造機だからな……あれ」

彼らティターンズも、使用する軍備に満足していなかった。ティターンズは攻撃機をできれば、名機の誉れ高い『A-6イントルーダー』へ更新したかったが、F-4E共々、思わぬ壁が立ちふさがった。技術者の扶桑への大量亡命で、リベリオン本国の軍需産業の開発力が大幅に低下したのだ。中には試作機ごと亡命したメーカーも存在し、自らがぶち込んだ核兵器の副作用に頭を抱える羽目となった。ティターンズはその事実にもめげず、自らのデータバンクから設計図や概念図を引っ張りだしたり、メーカーに指導員として技術将校を派遣するなどの努力を払った。その甲斐もあり、海軍向けにはF3H、A-4、A-7、早期警戒機のAD-5Wまでは、1945年には先行配備に成功したが、さすがに技術難度が高いF-4EやA-6の実用化は無理難題であり、次点でF3H、A-4とA-7を積んだのが実情だった(両機の量産配備はティターンズも扶桑軍も1949年以後になる)。彼らの悩みは、その両機の開発の難航(アビオニクスやエンジン面など)と、未亡人製造機の名高いF7Uが完成し、配備をどうするかであったりしている。

「戦艦部隊より入電!伊残存部隊が接近中。捻り潰しにかかるとのことです」

「イタリアだと女口説くのと、パスタ食うしか脳がないパスタネイビーの後始末にモンタナを使うまでも無いはずだが?ノースカロライナ級とサウスダコタ級を行かせればいいだろうに」

空母艦隊の人員はイタリア海軍を『パスタネイビーと呼んで小馬鹿にしていた。空母艦隊の栄光を持つ旧米国出身の者が多かったためだ。そのため、リットリオ級も低評価に見ており、ノースカロライナでお釣りが来るとさえ宣っていた。その楽観は奇しくも、ロマーニャ軍の奮戦で覆された。



「敵艦隊、接近!」

「よし!奴等は我々を舐めきっている。良いか、例え落伍艦が出たとしても、伝統あるロマーニャ海軍の意地を見せよ!任務はある程度の砲撃戦を行った後に、味方艦隊の進出海域まで敵を誘導する!ブンヤ共を驚かせてやれ!」

――戦艦二隻、重巡二隻を中心とする小規模艦隊。これがかつて、世界第四位を誇ったロマーニャ海軍の最後の生き残りなのである。彼らは意気軒昂ではあるが、扶桑側は地球連邦軍からモンタナ級戦艦、アイオワ級戦艦などの親衛戦艦の情報を得ていたため、任務を与えたものの、5隻以上の生存の可能性を悲観視していた。そのため、進出海域を予定より前よりにしていた。


「あたしたち赤ズボン隊がいるかぎり、ロマーニャの軍艦に指一本触れさせないわよ!」

リットリオとローマの護衛についていた赤ズボン隊はロマーニャ公国王室直属の精鋭部隊である。主なメンバーはフェルナンディア・マルヴェッツィ、マルチナ・クレスピ、ルチアナ・マッツェイの三人で、階級は中尉だが、ルッキーニを除けば、ロマーニャ最高の三人組である。負傷から立ち直り、今回が復帰戦である。フェルは負傷中に空戦機動の本を読み漁ったため、未来世界のジェット機が実現させた空戦機動『ブガチョフ・コブラ』の存在も知っていたりする。


「フェル隊長、501からルッキーニ少尉がこっちに派遣されたそうです」

「あの子が?同じロマーニャ空軍のよしみだし、面白いわね」

ルチアナにフェルは言う。旧504は501に半ば取り込まれたので、書類上は彼女らも501の一員なのだが、王室の中に『護衛がいる』という意見が出た事から、出動許可が出なかったのが実情だった。だが、彼女らとルッキーニが数十分後に見たのは、強大なリベリオン戦艦群だった。






「何あれ!?」

フェルは持ち込んでいた双眼鏡越しに焦りを顕にした。双眼鏡に移るは、リベリオン海軍最大最強を誇る大戦艦『モンタナ級戦艦』であった。見慣れない装備(ミサイルランチャーなど)を多数持ち、尚且つ、16インチ砲を三連装で四基備え、280mに達する威容を誇る同艦に、フェルは言葉を失う。

「じ、冗談じゃないわよ、あれ……16インチを三連装で四基なんて……」

と、驚愕を顕とする。リットリオが14インチ砲を(38.1cm50口径砲)搭載し、カタログスペックでは『威力で16インチ砲と同等』とされるに過ぎないのに対し、リベリオン製長砲身16インチ砲はSHSを使用すれば、『大和型に迫る破壊力がある』とされる威力を持つ。それを12門備えるのが、如何に空前絶後であるかが分かる。

「リットリオとローマが射撃を始めました!」

ルチアナが報告する。リットリオ級が牽制射撃を行う。命中率が期待できない最大射程での射撃だが、任務の性質上、これで良かった。しかしながら元々は中距離の砲撃戦を想定しているので、遠距離での散布界は酷く、ティターンズ側が笑うほどのものだった。

「パスタ野郎共の砲撃はなっておらんな。射程に到達次第、『教育』してやれ」

と、モンタナ級の艦橋では、司令官がパイプを吸いながら余裕の一言である。リベリオン戦艦群の乗員の練度は猛訓練で向上しており、史実太平洋戦争での1944年後半当時の水準に達していた。そのため、ミッドチルダ動乱で練度を上げた扶桑艦隊とも渡り合える自信を持っていたからだ。ロマーニャ艦隊が転進の機会を伺うように動いているのに対し、リベリオン艦隊がそれを阻止するかのように回りこんでいる様子を見せ、双方の思惑はいささか外れた形で砲撃戦は展開した。

「敵艦隊、射程に入りました」

「最大射程で三斉射!パスタ野郎共に砲撃戦を教育してやれ!」

射程が長いモンタナ級戦艦二隻、アイオワ級三隻が最大射程で牽制打を放つ。砲撃の命中率は電子装備の都合上、リベリオン艦隊が上回っており、SHSを使った都合上、垂直面への打撃力は大和型に迫るもので、一発がリットリオの381mm/50 三連装砲の第二砲塔の天蓋から斜めに命中し、砲塔を上方からの大重量でひしゃげさせ、内部要員を殺傷させる。砲身が折れなかったのは幸いだが、使用は不可能に陥る。その前のリットリオの放った一弾はモンタナ級戦艦の装甲に命中するも、超重装甲の水平装甲に弾かれる。牽制打であったが、ロマーニャ艦隊への心理的圧迫に効果覿面であった。

「敵リットリオ級、砲撃速度落ちます」

「砲塔をやったか?意外に脆いな、伊戦艦は」

「ですな。ミサイルを撃ちますか?」

「その必要なし。敵の護衛ウィッチは彼女に対応させる。良いな?中尉、期待している」

「……ハッ」

非公式であるが、この時がウィッチ同士が相見えた初の例だった。そのウィッチは、佐々木勇子中尉(ティターンズでの階級)。智子が第一次現役時代の最後に属した飛行50戦隊のエースパイロットであり、その腕の冴えは既に盛を過ぎていた当時の智子を上回るもので、『腕の佐々木』と称された。彼女は北辰一刀流の心得があり、その冴えは当時の智子では劣勢になる(絶頂期の黒江に匹敵しうるとされた)ほどで、戦死を偽装し、ティターンズに加わった。そのため、軍服はティターンズのものであった。モンタナ級戦艦から発艦した彼女は赤ズボン隊とルッキーニを撃退すべく、姿を表した。

「にゃ!?な、なんで、なんで……ウィッチが敵の戦艦から来るの!?」

赤ズボン隊と合流したルッキーニは驚愕し、目の前の光景が信じられないとばかりに硬直する。ティターンズの軍服を纏い、日本刀を持つ10代後半と思しき風貌の扶桑人ウィッチ……。

「ほう……。赤ズボン隊にフランチェスカ・ルッキーニ少尉か。初陣の相手にはちょうどいいだろう」

「あ、あんたは何者!?」

フェルとルッキーニが絞り出したような声で同時に叫ぶ。『あってはならない』光景を具現したような悪夢。赤ズボン隊もルッキーニも顔面蒼白に陥りながら対峙する。そのウィッチは告げる。自らの名を。敢えて全ウィッチ共通チャンネルを使って。

『俺は佐々木勇子中尉。元は扶桑皇国陸軍第50戦隊所属だったウィッチさ』

この声に智子が顔面蒼白に陥り、堰を切ったようにジェットを吹かして、空域に向かう。そしてその声に呼びかける。

『勇子!?あなた、勇子なの!?でも戦死したんじゃ!?』

『久しぶりだな、穴拭。……俺の死はトリックだよ』

『なんでそこにいるのよ!?答えなさいよ!』

『貴様と戦うためさ。そのためには、戦死という手段を使うしかなかったんでな』

『そんな……!?』

智子から全ての血の気が引く。同じ部隊で釜の飯を食った後輩が敵に回る。信じたくない光景であった。智子の手足が震え、心臓の動悸が激しくなる。歴戦の智子も、こればかりは信じたくない気持ちが『戦士としての自制心』を上回っているのがわかる。智子が駆けつけた時、そこには智子が最も信じたくない残酷な光景が広がっていた。

「勇子、やめてぇぇぇ――っ!」

智子は開口第一声、そう叫んだ。勇子がマルチナのストライカーを躊躇いなく、北辰一刀流の太刀で両断し、撃墜したからだ。

「大尉、知り合いなの!?」

事態を察したか、ルッキーニがマルチナを落とされた事での怒気混じりの声で問う。智子はそれに答える。かつての部下だと。

「あの子は……あたしが一度あがりを迎える頃にいた部隊の……部下よ」

智子はかつての部下と戦場で相見えた事への哀しさと、自分達に刃を向ける事を選択した戦友へのけじめをつける事の葛藤が入り混じった複雑な感情により、顔は怒っていながらも、瞳からは涙が溢れていた。そして、その感情が智子の魔力を迸らせ、視認可能なほどのオーラが周囲に出現していた。

「お前の腕では俺は止められん。昔の模擬戦の勝率で証明されているだろう?」

そう嘯く勇子。智子は飛行50戦隊時代、既にウィッチとして盛りを過ぎていたこともあって、智子は8対2の割合で負け越していたからだ。だが、智子は愛刀『備前長船』を抜いて啖呵を切る。それが改変後の彼女が身につけた闘志であった。

「……そうね。『昔』は確かにあんたが上だったわ。だけど……、あんたがあたしの仲間を傷つけるのなら、あんたを止める!!それが、飛行50戦隊で仲間だったあたしの責任よ!!」

「いいだろう。来い!」

刀を右手に、開いている左手で印の形を取って見得を切るあたりは、戸隠流の影響をモロに受けたのが窺えるが、ばっちり決まっていた。後天的にリンカーコアが生じた際に得た『炎』の変換体質(黒江は電気である)を実戦で初披露したのだ。魔力が最大限に昂ったためか、智子の特徴である黒髪と瞳が紅く染ったかのような様相を見せる。(ロングヘアーであるのも相なって、黒江から21世紀序盤に人気があったライトノベルの『灼眼のシ◯ナ』かと、からかいの対象になっていたりする)それに呼応し、勇子もオーラを迸せ、固有技能『覚醒』で対抗する。

二人のドラゴン◯ールじみたオーラ合戦についていけないルッキーニ、マルチナを肩を貸すフェル、ルチアナ。ウィッチ達の戦いも始まった。



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