外伝その66


――地球連邦軍は連合軍に『協力』という形で欧州へ参戦し、多数の機体を投入した。旧型機も動員しての大空中戦は、それこそ『空が狭い』とさえ感じられるほどの密度だった。

「なんだ、この密度は!扶桑海でも、こんな規模の空中戦はなかったぞ!?」

坂本は、連邦軍とティターンズの双方が主力を投じた事で生じた『史上空前規模の空中戦』に息を呑む。目の前には無数の戦闘機が種別問わず入り乱れ、ミサイルが乱れ飛び、パルスレーザー砲、機銃の火線が交錯する。

「あれ?もしかして、ビビってます?坂本先輩」

「んなワケあるか!しかし、お前と飛ぶとは思ってなかったぞ、黒田。前の時は別部隊だったし」

「そうですね。私もあの頃は、一桁の子供でしたしね。幼年学校出でしたから」

「そうか、そうだったな。こんな時に言うのはなんだが、幼年学校が廃止されるという噂を聞いたんだが、本当か?」

「ええ。思考的硬直性が未来世界の人達に嫌われてるんですよ。多分、時間をおいて、予科学生にするか、工科学生にすると思います」

「なんでだ?」

「そりゃいきなりほっぽり出したら、クーデターですよ。まぁ、堀井派閥がやっちったから、敢えてやろうなんて考えてるのは、よほど過激な連中だけだろうけど、ウチには多いし、そういう輩」

「なるほど。堀井は陸軍にも、かなり同志がいたようだし、奴に共感した連中は多いからな。あり得ない話ではない。それに噂で動くところあるしな、ああいう青年将校は」

黒田は航空士官学校へは、付属小学校→幼年学校を経たコースで士官学校に入校した最後期の世代である。その為に早いうちから軍歴を持ち、扶桑海事変にも末期だけとは言え、参戦した経験を持つ。その為、坂本と意外と話が合った。この時に話題に出したのは、陸軍幼年学校の廃止と改編についてだった。

「多分、またするかも。青年将校って誰かに炊きつけられると、すぐに動くし」

「あいつらは世の中を知らんからな。私が言えた事ではないが、彼奴等は軍隊しか知らんしな」

「まぁ、居場所を無くすと思い込んだら、軍人は何するか分かったもんじゃないですからね」

陸軍幼年学校とは、史実でも日本陸軍の教育制度を担っていた学校で、精神主義偏重だったのが災いし、戦後の自衛隊に再入隊出来なかった出身者が多かった。その歴史を持つ連邦軍内の日本国防軍閥は、幼年学校を陸軍士官学校予科に組み込むか、工科学校に改変させる予定を組み、陛下を説得し、半ば強引に推し進めた。実際、この年の秋には幼年学校が『思考的硬直を招く』との連邦軍の提言で廃止となり、予科学校、もしくは工科学校へ改組されたが、それを早合点した青年将校らがクーデター事件を起こすに至るのである。その結果として、新憲法では、軍人になる最低年齢が15歳以上へ引き上げられた事、兵器の高度化で、軍人へ求められる知識も桁違いに複雑化した事で、ウィッチであっても15歳にならなければ軍入隊資格を持たないようになる。それが人々の間で当たり前となるのは、ここから約10年の月日を必要とするのであった。

「おっと、敵だ。行くぞ!」

「待った、先輩!」

「何故止める?」

「相手が超音速に入ったら、マッハコーンが起きます。見てください」

「うん?」

友軍のF-14++が超音速に速度が達し、すり鉢型の雲が機体前方に出来る。同時に耳を劈く轟音が響く。

「あれがそうか?」

「ええ。あれに巻き込まれると、殴られたように吹き飛ばされます。格闘戦するんなら、相手が速度落としたのを見計らって……」

「まるで辻斬りだな」

「仕方ないですよ。私達の通常火力でジェットと正面戦やれます?やれないでしょ?」

「う、うぅ〜む。こいつでは確かに無理だな」

実際、坂本らが欧州で使用してきた99式二号改13ミリでは、小口径であるのが災いし、ジェット機には致命打を与えられずに逃がす事例が各戦線で多かった。そこで大口径である原型銃を持ちだして対抗する若手エースが多く、そちらが再評価された事もあり、今や欧州で戦う扶桑ウィッチの多くが携行弾数よりも大火力を求めるようになっていた。小口径化をウィッチとしての立場から推進した一人の坂本としては、若手からの陰口に文句を言いたいらしい。

「近頃の若い連中はすぐ文句を言うが、なんで私が槍玉に挙げられる?これを作った時はまだ一回の若手だ。確かに提言はしたが、当時は私よりも藤田さんのほうが発言力あったし、上もあの人の働きかけで動いたようなもんだぞ」

「溜まってますね、先輩」

「そりゃ文句ばっかり書いてありゃ、文句言いたくなるさ。私とて、付属小学校出の促成組だしな」

豪放な坂本でさえ文句を黒田へ愚痴る位、若手の質問に陰険なものがあるのが分かる。確かに小口径化を推進した一人だが、当時に『まさか超重爆やジェットが造られ、それが10年もしない内に戦線に現れる』事など、予測出来るはずがない。ましては当時は99式の携行弾数の少なさが問題視されていた頃。一発の威力よりも携行弾数の多さを取るのは当然のことだった。

「それに、扶桑ウィッチは『見て、感じて、盗め』というのが伝統だったはずだぞ?私もそうしてきたしな」

「技術の継承が難しいんですよ、昔からのやり方は。だから熟練者が死んじゃったりして、促成途中組が前線に立つと、額面上の数通りの戦力にはならない。だから向こうの日本軍は航空戦で負けたんですよ」

「育成途中でも前線に出せと言うのか?」

「ええ。平時ならいざ知らず、今は戦時です。黒江先輩だって言ってたでしょ?」

「あいつは勉強熱心だからな。あそこまで徹底するのは感服するよ。だけど、なんであそこまで猛烈になれるんだ?」

「私も加東先輩から聞いたんですが、黒江先輩は教え子の多くをティターンズの攻撃で亡くしてるんです」

「何!本当か?」

「ええ。その時に自分の無力を恥じ、上がりの宿命を呪った。その時の後悔の念が、先輩が力を求めるようになる根源になってるんです。だから人一倍、ウィッチの戦闘能力の向上に熱心なんです」


「そうだったのか……あいつにもそういう事があったのか」

「らしいです。さて、一機が速度を落とした。あれを落としますよ!」

「了解だ!」

彼女らはティターンズ空軍のF/A-18Eに狙いを定めた。同機は加速性能などにおいて、格闘戦向けでないとされる。そこで、坂本が牽制し、相手が距離を取り、旋回しようと脇腹を見せるところに、黒田がすれ違い様に槍で主翼を落とす。

「お見事!」

「じっちゃんの物干し竿がこんなところで役に立ったなんて。信じられませんよ」

「まぁ、槍はリーチが長いしな。しかし、こんな近くをあんなに戦闘機が飛び交ってるなんてな。翼端が触れ合うんじゃないか?」

「この分だと、ハリアーが飛んでてもいいくらいですよ、こりゃ。艦隊直掩か何かで」

「ああ、V/STOL機だろ?確か。そういうのまで実現させてしまうんだから、技術の発展は恐ろし……ん、あの機体はブラックタイガーだ!散開!」

一機のブラックタイガーが急降下で突っ込みながらパルスレーザーを掃射する。坂本たちはそれを躱す。ブラックタイガーは軽快な機動を見せ、坂本らへ再度の攻撃をかける。ブラックタイガーの30ミリ六門の火力は、当たれば一撃死は確実。二人はマニューバを駆使して逃れようとするが、ブラックタイガーの俊敏さの前に背後を取られる。

「先輩、上昇して!」

「分かってる!」

紫電改のマ43が唸りを挙げ、坂本は急上昇に移るが、ブラックタイガーはそれに追従してみせる。

「何!思ったより敏捷だ!前に聞いてはいたが、コスモタイガーとは飛行特性が違う!」

そう。コスモタイガーは大気圏内では『重戦闘機』的な飛行特性を持つため、格闘戦では機動バーニアも併用する。対して、その前型であるブラックタイガーは元々、大気圏内用の高高度迎撃機として設計が始まっていたのを宇宙戦闘機へ変更した名残りで、大気圏内のほうが設計時のポテンシャルを発揮させやすいのだ。坂本はなんとか反転する機会を伺うが、紫電改のマ43は高度7000を超えると、エンジンがフルポテンシャルを出しにくくなるため、下手に立ち止まると蜂の巣である。ましてや坂本のシールド強度は無きに等しいのだ。さすがの坂本も急降下か、反転かで判断に迷う。そして、高度8000に達しようかという瞬間、坂本を追うブラックタイガーが、更に上方からのパルスレーザーを喰らい、炎上、墜落する。その発射した主もブラックタイガーだが、塗装が違っていた。ロイヤルブルー(紺青系)と白の塗装で、旧イギリス軍風のインベイション・ストライプが施されていた。垂直尾翼のマークは地球連邦宇宙軍の空間騎兵隊のそれだった。

「く、空間騎兵隊のブラックタイガー!?嘘ぉ、空間騎兵隊まで参戦してるんだ!?それもあの塗装はイギリス系の部隊がしてる奴だ……」

救援に現れた空間騎兵隊は旧イギリス軍部隊を祖に持つ部隊だった。元が英国海兵隊の部隊らしく、その英国海兵隊の紋章が描かれている。(その歴史は統合戦争時に遡り、同海兵隊が航空部隊を持つようになったのが始まりとの事)

「こちら地球連邦宇宙軍空間騎兵隊、第二航空隊。これよりそちらの支援に入る」

「空間騎兵隊がどうしてここに!?」

「なに、数合わせで我々にも要請が出てな。それで参陣した次第だ。此奴らは我々が引き受ける」

空間騎兵隊の戦闘行動は、基本的には宇宙船や飛行物体を使わず、直接惑星表面に降下して戦う陸戦部隊であった。だが、旧米海兵隊閥の不満もあり、そこで白色彗星帝国戦後の軍備再建計画で、宇宙軍がコスモタイガーに機種変更して余剰となったブラックタイガーを譲渡したのが空間騎兵隊の航空部門設立の始まりである。以後は連邦政府樹立時に遡って、航空部門を有した規模の大きい海兵隊出身の部隊がそれを担っている。主にアメリカ海兵隊出身部隊が主だが、統合戦争時に英国海兵隊も規模が拡大され、航空部門を有したので、その延長上に位置する。

「各機、巨人の亡霊共を処理しろ。魔女たちの安全を確保せよ」

「ラジャー」

英国海兵隊出身の彼らは見事な連携で、坂本と黒田を支援する。同じブラックタイガーでも、動きが違うと一目でわかるほどに見事な編隊機動だった。

「同じ機体とは思えんほどの鋭い動きだ。経験差か?」

「でしょうね。今の連邦軍の実戦部隊の中堅以上はフェーベ航空決戦を生き延びた人達が多い。飛行時間は平均で1500時間オーバー。ティターンズがエリートって言っても、温室育ちの連中も多かったって言いますから、当然ですね」

「君たちはここから十キロほどの空域に向かえ。そこに敵のレシプロ機の編隊がいる。熱量で分かったが、攻撃機だ。艦隊に向かっている。味方はティターンズの迎撃に力を注いでいるので、あまりそちらに機を割けん。5号機から10号機までを護衛につけるので、邀撃に行ってくれ」

「了解」

隊長機からの通信に返事し、護衛されつつ新たな爆撃機と攻撃機の編隊へ向かう二人。周りを見ると、ジェットがレシプロ機の大編隊に殴りこんで突っ切ったり、レシプロ機が十字砲火をし、ジェットの退路を断ち、嬲り殺しのように撃墜する光景が見える。

「気分のいいものではないな。人同士が殺しあうのは……」

「ええ。だけど、これが当たり前な世界が未来世界なんですよ。理想やイデオロギーで人を平気で殺せるような、ね」

黒田は未来世界の殺戮の歴史に嫌気が差している節を覗かせた。この世界では近代以後は戦争=ネウロイとの生存競争という認識が強まっていたため、モンゴル帝国の絶頂期が終わった後はせいぜい、ナポレオン戦争くらいしかないが、未来世界では都合、4度の世界大戦、生存競争級の宇宙戦争を何度も経ている。しかも理想の違いやイデオロギーで億単位が死んだ歴史のため、黒田は落胆した気持ちが大きかった。だが、ある時、黒江に『黒田、オメーに守りたいものは無いのか?守りたいものがあるのなら、それを守ることから逃げるのか!?』と喝を入れられ、更に歴代仮面ライダーらや、スーパーロボット乗りらの戦いを目の当たりにした事で、黒田の心境に変化が生じたのだ。

「でも、ある時に黒江先輩に言われたんです。『守りたいものがあるのなら、それを守ることから逃げるのか!?』って。それで思ったんです。守りたい何かのために命を燃やす事は誰にも否定出来ないことなんだって。だから、私は戦うのを選んだんです。あの人たちに笑われないように。あの背中に憧れて、強くなりたいと願ったから」

「あいつらしいな。だが、アイツも誰かの背中を追ってるような感じがあるんだよな……」

「黒江先輩は、向こうで本郷さんやその後輩さん達と親しいですから。特に茂さんと敬介さんに可愛がられてますし」

「あの人達か。確かに、鞍馬天狗みたいでカッコいいからなぁ。あいつはドンピシャの世代のはずだし」

「です。本郷さん達がわざわざ来てくれたのだって、黒江先輩達が本郷さんに頼み込んでくれたおかげなんですよ?」

「あいつら、どういうコネがあるんだ?昔から思ってたが。お前を呼び寄せたのもそうだが」

「コネは主に加東先輩と黒江先輩ですよ。穴拭先輩はそういう動きは苦手ですからね。私が呼ばれたのだって、加東先輩が本家にコネがあったのと、パットン将軍が電話でアイゼンハワー将軍に電話で怒鳴ったから実現したようなもんですし」

「ん?パットン将軍は本土に帰ったんじゃ?」

「その寸前で政変が起こったから、南洋島にそのまま亡命したんですよ。家族ごと。士官学校まるごとの脱走作戦で。で、連邦軍の宇宙戦艦に回収してもらって、南洋島に入港、パットン将軍は家族ごと亡命したってわけです」

「士官学校まるごとぉ!?ど、どうやって!?」

「マック元帥が政権掌握直前に出した極秘指令ですよ。ウエストポイント作戦とかいう名前でね」

「大胆な手をやるものだな、マック元帥は」

パットンは先に本土へ召還されたが、実は、激戦で船が足止めを食ったりして、当初予定より到着が遅れた事や、リベリオンの政変を知ったなどの要因で、この時期には亡命リベリオンに合流した。また、本国軍が深刻な人材不足に悩む事になるのは、この時にアナポリスやウェストポイントの士官候補生らが学校ごと亡命したからでもあり、本国軍が士官学校を立て直すのは太平洋戦争中のことであったという。更にそこから士官が任官されるのは、太平洋戦争も終盤の頃であり、戦局には殆ど寄与しなかった……。





――スーパーバルカンベース

「鉄也君、グレートマジンガーの調整が完了した」

「ありがとうございます」

「ブースター二号機の改修のほうが手間取ってな。見給え」

「?」

嵐山長官に伴われ、鉄也は格納庫で調整されているグレートブースター二号機を確認する。かつて、ミケーネ帝国の無敵要塞デモニカにあっさりと大破させられたグレートブースターだが、戦後に二号機が再建造された。二号機は強度と耐弾能力向上を意図し、翼の可変機構を廃し、後退翼で固定。内部にマジンガーブレードよりも大きさ・強度を大きく増した大剣『マジンガーソード』を収納しているなどの変更がある。

「これはマジンガーブレード?いや、カイザーブレード並の大剣だ」

「マジンガーソード。兜博士がグレートの近代化で構想していた強化武器だよ」

ブースター内部に収納されるマジンガーソード。ダンクーガの断空剣やボルテスVの天空剣並の大剣で、後にグレートマジンガーが『グレートマジンカイザーへ進化した際には、『カイザーソード』の母体となるものだった。グレートマジンガーはこのように、地道な強化がなされてはいたが、MSの日進月歩ぶりは兜博士の予想を上回っていた。そう。過去に地球連邦軍が贅を尽くして造り上げたガンダム『ガンダムmk-X』の性能は、グレートマジンガーにすら肉薄していたのだ……


――ティターンズ海軍空母

「G-X、調整完了しました」

「うむ。閣下に借用の許可は頂いた。エゥーゴはスーパーロボットも使っている。それらに対抗し得るのはG-Xしかない。例のあの竜殺しの調整は?」

「間もなく完了致します」

「ご苦労。」

ジオン軍のサイコミュ研究の過程で生み出された『竜殺し』の剣。その伝説を持つ剣「アスカロン」の名を冠する大型ヒートソード。ルナチタニウム合金への対抗策として、ジオン地上軍が末期に用意していたモノ。ティターンズはそれを自らの技術で改良し、ガンダムmk-Xに装備させていたのだ。

「ガンダムタイプに乗るのは久しぶりだな。ヘビーガンダム以来か」

彼は数カ月前にバイアランに搭乗していたパイロットであった。彼は意外なことに、一年戦争からのベテランで、戦間期にヘビーガンダムの実働テストに参加していた経歴がある。彼はアレクセイからG-Xを借り受け、出撃準備を整えていた……。



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