外伝その77『アナハイムの化物』


――地中海の決戦はロマーニャ公国全土を覆い尽くした。ローマを除いた全ての地域は戦場になり、連邦軍の各種機体が飛び交っていたが、その中で抜群の働きを見せたのが、地上では自前での空挺降下が出来る可変機であった。

――ZプラスA1型、D型と言った機体がティターンズMS部隊を蹴散らし、砲撃支援用に回されたファッツの増加生産機がダメ押しの火力を見せつける。連邦軍は立て続けの戦乱をいいことに、かつてダメになったペーパープランも続々と完成させており、これが後のデザリウム戦役の際にプラスとなる。宇宙軍が贅沢し放題であるのに不平を漏らす地上軍だが、空軍以外は治安維持に必要である以外、存在意義は殆ど薄れており、この作戦に動員されていた部隊の7割は宇宙軍と空軍であった。


「敵さんはレシプロだけでも、グロス単位を投入してるから、弾が追っつかんぜ」

「戦闘機の消耗は?」

「修理必要なコスモタイガーが50、レシプロ機は零戦やフルマー、 ファイアフライなどの旧世代機に集中している。英国の機体群は、二桁生き残れれば上等だろう」

英国海軍のレシプロ機は史実の今頃(1945年)に於いてさえ、二線級の代物であり、P-47とP-51H、F8F、F4Gの前に歯が立たずじまいであった。一部精鋭に配置されたシーフューリーが奮戦したものの、それ以外はカモであり、帰還機は少なかった。

「うーむ。やはりブリタニア海軍の機体は殆ど、めちゃんこだな」

「仕方がない。シーフューリーを渡したとは言え、英海軍はめちゃんこに弱い機体ばかりなんだ。日本海軍と死闘を演じた米軍の高性能機の前には『雑魚』なんだ。残っただけでも御の字だ」

「ウィッチは?」

「ガリアやロマーニャのウィッチが酷い。後送率も高い。やはりケッテで戦ったり、戦闘機に撃たれてパニックになるため、一部エース以外は使いもんにならん」

――半島内陸部戦線は、連邦軍が戦線を支えている状態であった。ロマーニャ陸軍の弱体、空軍の大損害もあり、連合軍のうち、フル稼働なのは、扶桑とリベリオン亡命軍、ブリタニア空軍の三カ国。カールスラントは前線でバルクホルン達が奮戦しているため、内陸部戦線にはウィッチはいない。そのため、フル稼働の三カ国空軍(一部、海軍基地航空隊あり)は疲労困憊に達しており、連邦軍がMS、VFをフル稼働させ、空戦を。陸戦ではデストロイドも使用していた――

「第5空挺MS師団より通達。怪異は我が方の火力投射により、敗走。しかし、旧ジオン系の鹵獲機も含めたMS師団が接近!」

「デストロイドとVF、ジークフリートを一機回せ!火力で制圧しろ!」

ロマーニャの大地では、連邦軍のMS達が死闘を演じており、陸戦型怪異相手に、空中からのミサイルとビーム、砲弾の雨を降らせ、制圧し、ティターンズのMS相手には、火力によるゴリ押しを行っていた。そのため、ジムVやネモと言った、一部の型落ち機は、180ミリキャノンによる支援砲兵として運用されていた。(ジェガン以降は、前線で歩兵的運用である)

「うわぁ。凄い〜。ロボットがあんな大砲持って撃ってるなんて」

上空から連邦軍MS砲兵達の一斉射撃を目の当たりにした、任官間もない新人ウィッチ『雁渕ひかり』。343空の雁渕孝美の妹である。彼女は基地航空隊の新人であり、状況さえ許されていれば、502ブレイブウィッチーズに送られるはずだった逸材である。

「甲巡の主砲級の大砲を対戦車ライフル感覚で撃つんだから、信じられんよ、全く」

彼女の長機である『大原亮子』大尉はため息をつく。常識が全てぶっ飛ぶ、連邦軍の兵器に圧倒されているのが分かる。

「陸さんは、ティーガーの小型化を要求してきているが、ケーニッヒを作ったばかりで、しかも、ウィッチ一人での運用限界に来たからな。連邦軍の支援がなければ、まともな運用も出来ん。まぁ、乙巡最大口径砲の砲塔を走らせてる奴さんほどでもないが」

「カールスラントじゃ、80センチ砲を自走砲にする『モンスター』なんてのが試作されてるとか聞きますよ?」

「馬鹿か!第一、80cmといったら、大和の二倍の……」

「あれに比べたら可愛いほうじゃ?」

「なんじゃありゃ!?」

突如として現れた、連邦軍の陸上戦艦『ビックトレー』。連邦軍が誇る、一年戦争中に多数が建造されていた超弩級戦車である。移動司令部代わりに運用されており、戦後に改良された後期型のようで、51cm副砲を備え、対空パルスレーザー砲が内装式で多数装備されている。言わば、ビックトレー改だ。

「うそーん……あんなのありか……」

唖然とする大原を尻目に、ビックトレーの護衛のヘビィ・フォーク級陸上戦艦が多数現れる。連邦陸軍のアピールも兼ねているらしく、現存車の殆どを駆り出している。編成は、ビックトレー『スピリッツオブアメリカ』号を旗艦に、『吹雪号』、『功臣号』、『パーシング』、『リー』などの司令部直掩艦隊、ヘビィ・フォーク級だけの砲撃艦隊などであった。ビックトレー級の艦内では。

「これが連邦軍の陸上艦隊……モンスターが可愛く見えるわ」

フレデリカ・ポルシェが呆気にとられていた。連邦陸軍の隠し玉と言える陸上艦隊は、自国が皇帝の鶴の一声で計画させている、モンスター超戦車でさえ霞む威容であった。

「全くだよ。連邦の超技術は、こんな巨大な陸上戦艦を作ってしまうんだから、恐ろしい」

シュミット大尉が言う。彼、髭さえ剃ればイケメンなのだが、アフリカでその暇が無かったため、実年齢プラス10から15歳に見られる。(実年齢は30代前半から半ばほどらしい)若白髪であったのもあり、周囲からおっさん呼ばわりされているが、フレデリカが現役時の20代当時はイケメンであったとの事。





「ケーニッヒを作ったと思えば、今度は機動性をどうにかしろ、か。贅沢もいいところね」

「仕方がない。敵は飛躍的に強力な戦車を送り出して来ているんだ。軍も焦っているんだろう」

「だからって、次期中装甲脚にこんな仕様を要求するだなんて、無謀もいいところよ」

技術中佐に任じられ、次期装甲脚を模索しているフレデリカだが、軍の要求仕様がむちゃくちゃレベルで、現状の技術レベルを逸脱している。重装甲脚としたほうが早いくらいだ。この時から模索していた次期中装甲脚は、『レオパルト』として結実する。構想に3年、実用化に3年以上の歳月を費やしたそれは、軍在籍中最後の傑作となり、太平洋戦争に福音をもたらすのであった。


――なお、フレデリカは大戦終結後に大佐で退役。後に、戦前から営んでいたカーメーカー『ポルシェ社』を成功させ、財を成す。未来世界で言うところのフェルディナント・ポルシェ博士の同位体であった宿命であり、退役後は圭子にポルシェを売りつけ、黒江にテストドライバーを依頼するなどの破天荒ぶりを見せる。また、未来世界のポルシェ社に相談役として招かれ、名車を生み出す運命だが、それはいささか未来の話――




――連邦とティターンズがもたらした軍事的革命は、ウィッチ世界を大きく揺るがせた。その象徴と言えるのが、アナハイム・エレクトロニクスが生み出し、連邦空軍と陸軍の『化物』。その名もジークフリート。ZZの設計を使用して生み出された『城塞攻略用重MS』という特殊なカテゴリーの機体であり、ZZガンダムをそのままスーパーロボットサイズに拡大した外観を有する。ZZの設計を使用したとは言え、多少の外観的違いがあり、ハイメガキャノンの砲身がオリジナルよりもロングバレルになっている、スカートが大型化しているなどの違いがある。連邦は1945年以後、ティターンズの陣容を把握するにつれ、同機の使用を始めており、ロマーニャ決戦にも、五機ものジークフリートが使用されていた。

「あれが連邦の城塞攻略用MS?ダブルゼータそっくりね?」

「ダブルゼータの設計を使用して作ったからだそうだ。B-29も霞むよ、アレじゃ」

シュミットは真上を通過していった、ZプラスD型に護衛されるジークフリートのGフォートレスを見上げて、嘆息する。飛行形態で空から近づき、MS形態で制圧する戦法が常道であるジークフリートには圧倒されるようだ。

「あれ一体で街が一個消せるそうだがら、スーパーロボットを除いた、連邦の戦力としたら最高レベルだそうだが、変形機構が災いし、割合、構造的に脆い面も多いそうな」

「オリジナルの特徴だった変形機構オミットすればいいのに。」

「建造物に穴を開けて、腕をタラップ代わりに内部へ小隊単位の歩兵を突入させる空挺作戦にも対応させた都合、飛行機能は必要だったんだと。戦艦のブリッジを直接占拠したりする『兵員輸送機』の役目も担ってるらしいから」

「万能兵器目指しすぎね、全く」

フレデリカは、連邦軍がガンダムに求める万能性に苦言を呈する。実際は空きスペースがあったので、追加したわけだが、連邦のガンダムに対する考えへの一つの疑問でもあった。実際、ジークフリートはティターンズに対し猛威を奮い、陸軍が用意したガンダムMK-Uの陸戦型量産機(現状、陸軍が用意できる最高級品)の援護のもと、圧倒的火力で戦線を制圧していく。

「すごい……怪異も、MSも有象無象みたいに倒していく……」

シャーロット・リューダーはこの時、W号F2型中装甲脚で戦っていたが、連邦のジークフリートの制圧射撃に息を呑む。怪異もMSも、戦車も、兵士も関係なしにミサイルとビームの雨で薙ぎ払っていく。圧倒的な光景だ。

――ジークフリートの主な運用法である『火力制圧』。連邦軍がガンダムタイプに志向する方向性が凝縮されたような存在である。一方で、そのZZの簡易量産機も一応は存在しており、宇宙軍の要望で、アナハイムが生産再開した『量産型ZZガンダム』である。連邦軍がとにかく重火力の量産機を求めたため、計画が復活。連邦軍の重MS大隊用に再生産された。ただし、当初の設計からマイナーチェンジがされ、リゼルの下半身を流用して改設計されている。ライフルもリゼルのライフルを流用したので、リゼルのラインに実質的に組み込まれた形となる。そのため、かつての試作機とは下半身を中心に差異が多い。実質的にリゼルの砲撃増強型であるのだが、ZZに近い外見から、『MAssproduction ZZ』を略して、MAZZ(マッツ)と通称され、制式採用となった。制式量産型は23世紀初頭現在、月や対ジオン最前線の艦隊や独立部隊に配備され初めており、アナハイム・ジャーナルには『ようやく登場したZZの血族』という見出しで特集を組まれたという。そのマッツは、シャーロット達陸戦ウィッチを援護しつつ、下がらせる。ハイメガキャノンは簡易型であるが、低出力に抑える事で連続照射が可能になっている。ただし、低出力型なので、ZプラスA2型のメガキャノン(初期仕様)よりはマシな程度の威力であり、オリジナルZZと比べ、半分以下である。(それでも戦術単位としては強力な部類に入る)

「ほれほれほれ!」

マッツは、旧式になりつつあるマラサイや、それより古いハイザックと言ったMS群を圧倒する。火力が違うのだ。装甲も一応はガンダリウムγなので、ザク・マシンガン改の実弾射撃程度は跳ね返せ、パワー面でもハイザック程度は赤子の手を捻るかのように圧倒出来る。

「ぬ、ぬぬぬ……!」

ハイザックがマッツと力比べするが、スラスターまで用いても、マッツを押すことすらままならず、ハイザックの腕部アクチュエータが過負荷で故障を起こす。マッツはそのまま持ち上げ、ぶん投げて沈黙させる。駆動系はジェガンのものとはいえ、ジェネレータ出力が高めであり、フレームも増強し、アクチュエータも高負荷に耐えられるものだったり、腕部も割合、高トルクであったために出来た芸当である。ただし、増強したとは言え、Z系フレームなので華奢な部類には入る。マニュアルでは徒手空拳での格闘は推奨されていないが、敢えて行う者も続出したので、急遽、指揮官仕様機と称し、フレームを更に増強し、各性能を増強した改良機をつくる事になり、概ね、リゼルと似た経緯を辿ったという。また、合気道などの柔術の動作パターンが高値で取引され、レーションが飛び交ったという。


――ティターンズは、空で、陸で、海で押され始めていたが、所定の目的そのものは果たした。ロマーニャ、ガリア、ブリタニアに一定の打撃を与えるという。特にガリアは、空軍がトマホークミサイルで保有機を大きく減らすという惨事を味わい、ロマーニャを上回る惨状を呈し、ド・ゴールを烈火の如く憤慨させ、空軍は連邦軍に泣きつき、ミラージュVの設計を貰い受け、なだめるのに必死だったと伝えられる。ただし、その前にウーラガン→ミステール→エレンダールという機体発展段階を経由しなければならず、設計図をもらった割には、自国の基礎研究がそのレベルに達していないという点が判明。結果、目論んだ早期完成はならなかったという。




――ウィッチ達は、連邦軍の超兵器が戦場を闊歩する事で、自身の存在意義を悩む者も生じていた。だが、ハルトマンや芳佳、スリーレイブンズのように、戦う理由を見つけていく者もいた。連邦軍と交わる事で、自身の新たな生き方を見出した坂本、ウィッチを超えることを選び、それを達成したスリーレイブンズ、父との約束を胸に、戦士として生きる事を選んだ芳佳。剣鉄也との出会いで、新たな境地に達し、敢えて、険しい剣の道に入門したハルトマン。悲しみと怒りを力にし、ニュータイプに覚醒し始めたマルセイユ。芳佳を守ることを選び、それをスリーレイブンズの前で宣言し、それに突き進む菅野。彼女らと対照的に、明確に、人と戦う理由を見出せない者もいる。リネット・ビショップであった。

「ハァ、ハァ……」

リーネは怪異相手ならばトリガーを引けるが、人相手にはトリガーを引けないという点を突かれ、敵から逃げ惑うばかりであった。戦闘機相手ならまだしも、同じウィッチだと、恐怖が先立ってしまい、引き金を引けない。この時がリーネが、芳佳と一線を画するようになる始まりであった。『父との約束を守るために』あらゆる相手と戦う事を選んだ芳佳との思いの違いは、次第に二人の道を分かつ事になる。

「抱え込まないで皆に助けてもらえば良いよ、私も必ず助けるから。 リーネちゃんはリーネちゃんが出来ることする、私も私が出来ることする、ね?」

芳佳の言葉を反復するリーネ、リーネは決意する。

「私は人を殺しません!あなた達の歪んだ怨念を殺します!」

リ―ネは叫び、対装甲ライフルを放つ。目標は敵の片側のユニット。なるべく人を殺さない選択をする。それがリーネに出来る『戦う』事なのだ。上がるまでは芳佳の側にいたい、一緒に戦いたい。自分に戦う理由を与えてくれたのは誰でもない。芳佳なのだ。




――リーネはその後、中尉に昇進した後に退役。太平洋戦争後はごく普通の生活を送るものの、ベトナム戦争を期に、自らの役目として、各国退役軍人と共に自衛隊設立に尽力。その頃には子供が一定の年齢に達していたのもあり、幹部自衛官として活動。その際の階級は二尉であったとのこと。


――この時に、ミサイルの威力を目の当たりにした一人の青年将校がいた。扶桑陸軍の青年将校で、『三輪』という男である。彼は強硬派から改革派へのスパイであり、その直後の公職追放も切り捨てを繰り返す事で上手く逃れ、やがて太平洋戦争が終わり、自国でミサイルが生産の軌道に乗ると、ここぞとばかりにミサイル万能論をぶちまけ、戦争終結後の軍縮の空気に便乗した形で、ウィッチ育成カリキュラムまで変えてしまい、スリーレイブンズらを閑職に追い込む。だが、その報いはベトナム戦争の勃発で受け、ウィッチの損害率のあまりの高さに、当時の総理大臣「池田勇人」から叱責を受け、天皇陛下でさえ苦言を呈した。池田勇人は天皇陛下の裁可を仰ぎ、三輪を『ウィッチの損害を防げなかった』という名目で更迭、その後任に、事務方の職にうんざりしていた江藤敏子を添える。江藤は当時、40代入りたてであったが、ウィッチ出身では初の抜擢とニュースになった。彼女は直ちにカリキュラムの大修正と、携行武装に機銃と近接武器を復活させた。ミサイル万能論は主に空軍での問題だったが、一時は世界最強を謳われし扶桑空軍の体たらくぶりに、江藤は目を回した。そこで、緊急措置として、当時は基地司令級であった、大戦の生き残りを前線任務に就かせた。スリーレイブンズが揃って『扶桑皇国軍人』として戦ったのは、実質的に、この『ベトナム戦争』が最後になる(以後は地球連邦軍人として、である)。また、江藤は野党からの追求に、『待って味方の瓦解を座して見てろと?』と切込み、『64SSQはあくまでも救援部隊で、遊撃部隊です、戦場の火消しとして、経験と実力を兼ね備えたメンバーを選んだ結果ですから」で押し切った。実際に、64戦隊はこの当時、『特殊飛行隊』編成であり、少数の前途有望な新人と、大戦終結前後に志願した中堅世代が大戦経験者を支えるという編成で、中隊長クラス以上は将官級という異例の構成であった。実質的に投入時期を逸した統合戦闘航空団達を宛にしていなかった江藤の采配が功を奏した。統合戦闘航空団の投入を待たずに、大戦経験者主体の部隊を送り込むことは、扶桑国内の野党から問題視された。だが、この時の現役世代はカリキュラムが稚拙な都合、大戦終結時に在籍していた者達の半分も練度があればいい方であり、統合戦闘航空団といえども同じであった。それは当事者もよくわかっており、当時の501の隊長であったミーナの子『クリスティーナ』は、自分達が母世代に比べて『無個性』であるのを自覚しており、自分達が実質的に戦局に寄与しなかったのを自嘲し、彼女自身の子『ミア』に、空戦での近接戦闘の大事さをよく言い聞かせていたという。孫世代が祖父母の再来と賞賛されるまでには、子世代の苦難があったのである――



――歴史の因果は回る。この時に前途有望な新人であったのが宮藤芳佳の次女『剴子』である。ベトナム戦争の後期に、当時としては若めである、中学在籍中に志願。戦闘面での芳佳の才能を受け継いでいたため、母親が軍医として従軍するのに付き添う形で配属され、後期から末期に活躍する。母親が1988年頃に退役したのと時を同じくして、教官任務に就き、軍人としての後半生を過ごす。彼女の教え子の一人が、母の師である坂本の孫『百合香』である。後年、百合香が64に入隊時に、二代目スリーレイブンズが噂したのも、初代が坂本らと出会ったのと同じような内容であったのだ。そして、その20年ほど後、二代目が子を成し、成長した後の2020年代半ば以降、今度は百合香が、三代目スリーレイブンズとなる『黒江春奈』(翼の長子)、『加東深雪』(澪の次女)、『穴拭クリス』(麗子の三女)の師となり次代のエース達を育てていく。それは祖母が本来、望んでいた道でもあった――





――ジークフリートと陸上戦艦達の勇姿は、連邦軍の軍事力をこれ以上なくアピールするのに絶好の機会でもあり、陸上戦艦同士の砲撃戦も発生し、雁渕ひかりらはその直掩任務についた。

「うわわっ!……すっごーい。キャタピラもないのに、あんなのが動けるなんて」

ひかりは、連邦軍とティターンズの陸上戦艦が砲を撃ち合う光景に圧倒される。彼女自身にも対空砲火が向けられるが、回避する。

(お姉ちゃんがすごく心配してるって、あの人が教えてくれたな。お姉ちゃんって、意外に心配性だよね)

姉・孝美のアタフタする光景が目に浮かぶ。彼女は宮藤芳佳と同じく、明確に戦う理由を見出しており、後に海軍から空軍へ移籍。大戦途中で64戦隊に配属され、心配性の姉を振り回し、64戦隊を大いに賑わせる事になる。軍志願年度は服部静夏よりも早いので、静夏は『ひかり先輩』と呼ぶ事になる。




――ノイエ・カールスラントのジェットストライカーのテスト現場は大いに震撼した。二代目スリーレイブンズや、トリエラ達孫世代が未来のジェットストライカーを持ち込み、それでドッグファイトをしてしまったので、カールスラントで提唱された『高速・一撃離脱』がジェットの戦法だとする教義は、相手が現在のままでなければ意味をなさないものであると示されたからだ。つまり、将来的には『相対的にジェットの持つ利点の半分は消滅する』事を意味した。

「なんなのでありますか……あれは!?」

「ジェットだと!?馬鹿な、扶桑があれだけのジェットを造れるはずが!?」

ノイエ・カールスラントの実験中隊『ハルプ』は、映像に映し出された『F-15』、『F-104』と言った次世代ジェット群に圧倒される。自分達が亜音速から遷音速でヒーヒーいっているというのに、扶桑はかる〜く音速を超え、更にリボルバーカノンどころか、手持ちバルカン砲を持ち、背中の武装ユニットにミサイルなどを収納し、更に腰の横に刀を携行出来るアーマーがある。明らかに技術に数十年もの差がある。ハルプは完全にお通夜状態となった。

「私達はいったい、何のために努力してしたんだ?」

と、乾いた笑いも続出し、ノイエカールスラントを震撼させ、後日、扶桑へ問い合わせが殺到したという。扶桑は『我軍最高機密に属する兵器であるので、直接、見学に来られたし』と返したという。そして……。

「あれが連邦の……巨人」

映像に大写しになるジークフリートの威容に凍りつくハルプ。そのハイメガキャノンで陸上戦艦をぶち抜く姿は、正に怪物、化物。『ハルプ』は以後、扶桑空軍の有力な後援部隊となり、自らにMSの導入の仲介を依頼。連邦もここぞとばかりに売りつけ、マッツの有力なテスト部隊となる。また、ジークフリートの購入を熱望し、連邦を驚かせたという。



――ソビエツキー・ソユーズの出現は、内陸部からも観測できた。ひかりは唸る。

「あれは……!」

「雁渕、無理だ!引き返せ!」

「あれが敵の切り札って言うのなら、落とせるはずです!」

「お、おい!」

「新501へ!新501へ!こちら……」

ソビエツキー・ソユーズを目の当たりにしたひかりは、最前線に突っ込んでしまう。彼女の上官の大原は、すぐに緊急電を打つ。それは黒江のいる空母にキャッチされ……


「何ィィィ!?雁渕の妹が突っ込んだだと!?アホーーーー!怒られるのはこっちなんだぞ〜〜!」

と、報告を受けた黒江は頭を掻きむしって絶叫する。そして、すぐに格納庫に行き……。

「麗子!予備の15、借りるぞ!緊急事態だ!!」

「あ、おばさん!武器、武器!」

「おっと、忘れるとこだった。よっしゃ、行くぞ!!」

と、予備の15を履き、出撃していく。未来の人格であるため、15も『履き慣れている』。そして、腕のエクスカリバーをエアを愛刀の『雷切』と同調させ、雷切を使う時にエクスカリバーとエアの力を上乗せ出来るようにする。これは聖闘士となった後で身につけた技だ。麗子から報告を受けた坂本は、『あいつがジェットで出た!?誰か追え!』と命令を発するが、ジェットは二代目のスリーレイブンズが持ち込んだモノで、この時代のプロトタイプでは速度差があり、追従不可能と説明される。

「無理ですよ、坂本大佐。この時代のプロトタイプじゃ、せいぜい950。15は最高でM2.5は出るんです。パワーが違いますって」

「何ぃ!?」

「しょうがないですよ、21世紀だと旧式になり始めたとは言え、この時代だと『スーパーストライカー』なんですよ、F-15は。あれは30年以上も世界最強の機体であり続けた機体ですから」

「うーむ。ところで、なんで、私を大佐と?」

「あなたの最終階級が大佐だからですよ。叔母さんからよく話は聞かされていましたから。クラエスから聞いてません?」

「その時は冗談と思ってな。しかし、大佐か……あまり出世はせんか」

「まぁ、現役末期の揉め事が問題視されまして」

「恥ずかしい限りだなぁ。君が穴拭の?」

「はい。大姪の麗子です」

「若い時の穴拭にそっくりだよ。違うのは、戦闘服に階級章がついているくらいか」

「私達の代は、戦闘服が改定されてますから」

「しかし、あいつに親族がいたとは思わんだ。君の叔母さんは親族について、あまり話さないものでな」

「アハハ、私の祖母―智子叔母さんの姉に当たるんですが――はすごくシスコンでして」

「フムw」

坂本はここで、やっと智子に対し、優位に立てる要素を見つけ、ご満悦なようだった。だが、周囲が慌ただしくなるのが気になり、甲板に出ると。

「あれは!?」

「ラ級『ソビエツキー・ソユーズ』……!」

「ラ級だと!?」

「ラ號と同等の力を持つ化物ですよ!ん!伏せて!」

「!?」

ズドオオオオという凄まじい閃光と爆音と爆風が空母を揺るがす。

「あれは核爆発!?」

「あれが原子破壊砲……なんて威力なの!?」

内陸部を包む核爆発級の爆煙。ソビエツキー・ソユーズ級戦艦の誇る原子破壊砲の破壊に驚く二人。そこに一人のウィッチが突撃するのを目にする。坂本はとっさに魔眼を使おうとするが、キィン、キィンという音がし、魔眼が発動しきれないのか、苦しむ坂本。

「ク……ま、魔眼が……発動しきらない……!?ぐああっ!む、胸が……」

膨大な魔力を吸われた反動により、魔眼の制御すらままならなくなり、不活性のリンカーコアと心臓に多大な負担がかかり、胸を抑える。この時の負担が坂本の寿命を縮める一因となった。へたり込む一瞬前、ひかりの姿を視認する。

「雁渕の妹だ……まずい……追いついてくれよ、黒江……!」

坂本は祈る。雁渕ひかりを救えるのは現状、黒江しかいないのだ。呟きながら、麗子に支えてもらうのだった。



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