外伝その89『ジオンの残光』


――二度目の統合戦闘航空軍は、戦力が前回比でも倍に膨れ上がり、これ以上ない陣容となった。特に504と506がフルメンバーで加わり、ロボットガールズの協力が早期に得られたため、それにフェイト・智子・黒江の三人のウィッチ(魔導師)兼任の黄金聖闘士を加え、神とも戦える軍団となった。そのため、平均戦闘力にムラが生じた。レイブンズの側近と言える者らはロボットガールズともタメを張れる戦闘力を誇るが、それ以外が平均を上回る程度なので、平均レベルに差がありすぎたのだ。そこで、VFで出撃した者らの帰還を待って、特訓の運びとなった。

――戦場では、黒江達が激闘を繰り広げていた。黒江達はVF-19系とYF-29と、連邦軍でも相当に贅沢な布陣で要撃したが、ジオンは旧ティターンズ系の技術者がギャプランのバリエーション案として考え、第一次戦争時には完成していた『ORX-005EX シュツルム・イェーガー』(ギャプランのジオン/制空仕様)を用いて黒江らを迎撃し、ドッグファイトに入っていた。

「ギャプランの流れた設計案を流用した奴か!ジオンめ、へんてこなのを使うな」

「中佐、あれが敵の?」

「そうだ。ドップで来るかと思ったが、ギャプランとは思わなんだ。元は連邦軍の機体だったんだがな」

ギャプランは元々がシャトル迎撃用であったので、情報を入手したジオンがバリエーションとして展開されるはずの設計案に修正を加えて、アクシズやアナハイム社に作らせたのが『シュツルム・イェーガー』である。ジオンは戦闘機がドップしかなく、ザンスカール帝国から接収したオーバーヘッドホークを『ドップV』として作らせているが、通常兵器を補助戦力と考えるシャア以外の高官らの意向もあり、『シュツルム・イェーガー』の配備が優先されている。これはジオンに航空兵器の運用ノウハウがあまりなく、元反統合同盟諸国からの『Sv-154』、『SV-52』の製造などとパイロット募集で可変戦闘機部隊を賄い初めてはいるものの、パイロット不足もあり、手慣れた『シュツルム・イェーガー』を第一次ネオ・ジオン戦争の経験がある者は好んだ。見かけは原型機に近いが、MA形態での運用に特化しているため、第一次ネオ・ジオン戦争時には『連邦軍に真っ向から対抗できる可変MA』と評された。が、流石にVF相手では機動性が違う事もあり、大火力での一撃離脱戦法を用いた。

「やっぱ、制空用と言っても、こいつと真っ向からやりあえる機動性はないな。見かけからして航空力学ガン無視だしな」

黒江は落ち着いて機体を横すべりさせ、イェーガーのガンポッド掃射を避ける。原型機のメガ粒子砲を使い勝手の良い実弾ガンポッドに変えており、『当たれば、ZプラスA型に致命傷を与えられる』のだが、VFはジオンにとっては難敵である。航空機の範疇を超えた予期せぬ挙動を行うからで、まだVFのノウハウが浸透していないネオ・ジオン軍にとっては強敵であり、シャアがVF部隊の編成を急ぐ理由だった。

「ダイブアンドズームしかできねー機体で、このYF-29に挑むなんてな!」

ガウォークで横すべりしながらビームガンポッドを撃ち、蜂の巣にする。地球連邦軍最強のVFはジオン軍パイロットの予想を遥かに超える旋回半径をファイター形態でも誇る。そのため、黒江としては手応えがないほどに、敵機を余裕で落とせた。黒江が高揚を感じる相手は、今や怪異ではない。彼らのような敵機なのだ。これは前史からの引き継ぎも入れると『搭乗型兵器に慣れて久しいから』でもあり、前史も入れると、戦闘機乗りとしての性分が身に染みているのが分かる。



――他を見てみると、菅野がバトロイド形態でピンポイントバリアパンチを『剣一閃改』として叩き込んでいたり、ニパがシールドを損壊されつつも、バトロイドで撃墜スコアを挙げている。ジオン側の一撃離脱戦法は、それを遥かに凌ぐ機動性を持つVFによってねじ伏せられており、太平洋戦争中期以後に見られた『日本軍勝利の方程式』と同じであった。その数合わせで駆り出されたマリアンは、VFの先進的なコックピットに戸惑いつつも、操縦への反応速度、切り返し速度などが講習で乗ったレシプロ機と桁違いなのに驚いていた。

「凄い……講習で乗った練習機とは桁違いだ!これが未来の変形する『ロケット機』なのか!?」

当時はジェットエンジンもロケットもまとめて、『タービンロケット』と呼んでいたので、彼女はVFのファイター形態をロケット機と表現した。(VFではそれは間違いではない)ウィッチ世界では『第一世代の光像式照準器』が現れたばかりなので、それを遥かに通り越した『ヘッドマウントディスプレイとヘッドアップディスプレイの複合式』に戸惑う。

「便利になったのはいいが、覚えるのが一苦労だぞ、こりゃ……。行けっ!」

ミサイルの照準を視線でロックオンし、複数の敵機を落とす。ミサイルはフリーガーハマーに自動追尾がついたものと考えればいいので、使い勝手は悪くない。また、VF-19系以後のVFは接近戦にも対応出来るので、その機能もウィッチ出身者には好評だった。

「ミサイルか……フリーガーハマーにも簡易的な追尾機能がついたものがあるが、これはもっと凄いな」

「そりゃ、ミサイルは誘導兵器の完成形だもの。でも、ミノフスキー粒子で外れる事も多いから、貴方は勉強の必要があるわね」

「貴方方のような『未来帰り』から見れば、自分は素人ですな」

「そういうこと。まっ、今日ので覚えなさい」

「ハッ」

智子がカバーに入る。智子は通常量産機のS型だが、A+型への機種変更を考えていた。これはブレイザーバルキリーではA型に追従し難いからで、新星インダストリー社にも連絡を入れてある。(後日、A+型の確保が出来なかったため、この機体に熱気バサラのファイヤーバルキリーとほぼ同等までのチューンを施す事になる)メカトピア戦争から乗ってきた(二度目に於いて)『吹雪』号(智子命名)は智子の戦歴を支えていく事になっていく。こうして、智子はブレイザーバルキリー乗りとしては、最も有名な撃墜王の一人になるのだった。

「お!敵に隙ができた!あたしは先に突撃するぜっ!」

シャーリーが敵の包囲網の間隙を突き、A+型で突撃する。こうなれば、VFは可変MAなど容易に振り切れる。更にシャーリーの固有魔法の補助も入るため、スーパーロボットでなければ追いつけない加速となった。シャーリーの成せる業である。最も、加速度がつきすぎると、今度は機体構造に負担がかかるため、シャーリーもあまりやらない。これを聞いた坂本は『バルキリーは魔力が良く通るからなぁ…機動系の固有魔法持ちに配備を優先するかなぁ』と呟いたとか。


「お、いたいた!ザメルだ!移動砲台のくせにナマやりやがって!接近戦に持ち込むぜ!」

ザメルは直上と背後が死角である。シャーリーはそこを突く。ガウォークになり、ホバー移動の形で奇襲し、ガンポッドとミサイルを背後から浴びせた。ザメルの3機が奇襲で沈黙するが、直援隊がやってくる。しかし、これは旧式のザクF2型なり、グフタイプである。グフ重装型がフィンガーバルカンを掃射したり、グフ戦術強攻型が主力で、ザクはその補助であった。シャーリーはザクを半固定レーザー機銃を放ち、撃墜する。ランドセル側面に長砲身のガトリング砲を持つ火力増強仕様のグフは手強い相手である。


「なになに、機動性を活かして火力を増強したため、地上軍最後の傑作機の一つとも噂されるが、火力を増強しすぎたため、兵站面からは不評であった、か。マシンガン、火炎放射器、ライフル、ロケット砲を束ねたぁ?ジオンはなに考えてるんだよ」

と、データベースを確認して呆れた。片腕を武装化して4つの武装を一つに詰め込んだ。これではまるで、『ロボ○ップ』の2である。しかも、故障率高そうな武装をしている。全部載せの悪い見本のようだ。一斉射撃されても面倒なので、武装の故障を誘うような動きを見せるシャーリー。素早い動きをすれば、パイロットが4つの武器を切り替えしている内に、機体のOSが過度の切り替え動作に対応出来ず、フリーズする可能性がある。楕円周回を繰り返す内に、セレクターがエラーを起こし、武器の使用が不可能となる可能性がある。いくら接近戦に対応したと言っても、一年戦争の時代のジオンの機体制御OS。武器とヒートサーベルの同時使用は不可能なはずだ。(連邦はその辺りの点はキャノン系統などの試験で解消しているが、ジオンにはキャノン系はあまりないため、戦後の新MSに至り、ようやく可能となった。)

「よし、やってみるか!」

シャーリーはジオン系の一年戦争時の固有OSに於ける盲点をついた。ジオンは機体の任務固定化を嫌って長距離砲の機体固定を行わない傾向が強く、キャノン系機体は主に対空砲を装備するパターンが多かった。グフ戦術強攻型もそれだ。ジオンはある意味、連邦以上に汎用性にこだわる節があったが、一年戦争時のジオン独自の機体制御システムには連邦製より劣る点が決定的にある。『射撃武装の照準システムが一系統で、持ち換えた武装に対応させるシステムであり、複数の射撃武装の同時制御が苦手である』事だが、同じアーキテクトをベースに構築された連邦軍製の機体制御システムはその点を改良し、一年戦争の時点で、フルアーマーガンダムなどの火器てんこ盛りの機体のフルバーストを可能としている。ジオンはソフトウェアの関係上、『一斉射撃』は一年戦争当時は考慮されておらず、ティターンズ系MSの入手で解消するのに第一次ネオ・ジオン時代までかかった事になる。

「ん!火炎放射器がエラー起こして暴走し始めた!チャーンス!」


シャーリーが楕円周回を繰り返す内にグフのウェポンセレクタがエラーを起こし、火炎放射器が勝手に火を噴く。それも最大パワーで。続いて、ロケットが勝手に発射される。ジオン兵は相当に慌てているようで、動きが止まる。

「今だ!」

ガンポッドを撃つ。シャーリーらは銃剣付きのGU-15を好んでいる。19純正のGU-15は弾切れをすぐに起こすため、サンダーボルト用の銃剣付きガンポッドを改造して用いている。このモデルは銃剣の分コストがかかるため、流通数は少ないのだが、エースパイロットやベテラン兵には好まれており、実弾ガンポッドの隠れたベストセラーである。一年戦争の旧式機には充分な破壊力であり、撃たれたショックでグフはよろめき、腕の火炎放射器にロケットが飛び込み、誘爆で自滅する。501からそのまま後の64Fに引き継がれる要素として、19のシールド裏にはガンポッド弾倉が二つ装着できるが、501/64Fでは一つが25か31のアサルトナイフを搭載している。これにより、VFより陸戦に適応しているMS相手でも渡り合える能力を得ている。

「おっ!接近戦をしてきたか!グフ相手は避けたいな……」

「シャーリー、グフは私に任せろー!」

黒江が29をバトロイドに変形させ、ナイフの代わりに装備させた特注の『剣』を構え、グフのヒートソードを弾く。黒江や智子は19/29の接近戦武装を更に強化しており、剣を持たせている。剣の形状は合成鋼G(ゲッターG以後に使用されているゲッターマテリアル)のおかげで好みの形状を取れるため、引き抜いた時に刀に変形させている。ゲッタートマホークやソードトマホークの応用である。任意でサイト/トマホーク/ランサー/ソードなどの切り替えが可能だが、二人はソードで固定している。黒江は示現流の使い手である都合、一撃必殺のため、段平の形状である。その動きをよく再現可能な柔軟性を29は備えているため、グフ以上の格闘戦能力を発揮した。黒江は、自身の主な剣術が打ち込み重視の打ち込み重視の断ち割るスタイルなので、鬼気迫るモノがあり、グフを綺麗さっぱり両断する。

「今時、ジオンなんぞお呼びじゃねーんだよ!」

と、ジオンという存在そのものが時代遅れになりつつある事を示す罵倒をわざと言う。未来世界では、ザンスカール帝国が敗れ去ってからも久しく、エレズムやジオニズムすら世代交代で薄らいできており、当のシャア・アズナブルすらも『ジオニズム』を組織をまとめる大義名分として用いているに過ぎない。ザビ家派が多い残党軍を『数合わせの捨て駒』としか思っていないシャアは適当な理由で送りこみ、ダイクン派に邪魔なザビ派を粛清していた。黒江はその辺りの事情を、上官のアムロから聞いており、『お呼びじゃない』と煽ったのだ。

「やれやれ。この世界に来てまで、ジオンの中興だの宣ってる暇があったら、ジオン共和国の延命に協力してやれ!この『ギレン・ザビの亡霊』が!!サンダーボルトブレーカー!」

黒江は魔法と小宇宙の応用により、VF越しでもスーパーロボットの技を放つ事が出来る。神格になっているから可能な芸当だが、本物と同等の威力をナインセンシズの応用で実現させた。拳を握りしめ、強磁場の空間ごとザメルとザク/グフの一団をまとめて爆破する。

「ヒィィト!エンドッ!」

と、ドモンを意識した台詞で締める。

「ほえ〜〜。さすが黄金聖闘士。VF越しでも地形変えられるんかい」

「まぁな。VFは媒介に過ぎないしな。聖衣なしでも技は打てるしな。ウィッチの固有魔法ならVFでつかえるぞ?増幅込みで」

「へぇ。あたしは加速だから、あんま使えないんだよな。機体がイカれちまうし。ん?そいや、今の技ってさ、噂のグレートマジンガーの後継機の技だろ?グレートマジンガーの強化って、完成が難しいって聞いたけど?」

「グレート自体がZのネガ潰して造られた触れ込みで、『マジンガーを超えたマジンガー』だしな。マジンカイザーを除きゃ、新規での難易度はハードなんだよ」

「あれ自体がZの強化?」

「そうだ。鉄也さんから聞いたんだが、グレートマジンガーはZの空戦型のアイデアから生まれ、その完成型のゴッドのアイデアが出来る過程で生まれたZの改良試作機だ。その後継機のマジンエンペラーは、これから生まれる悪魔『マジンガーZERO』にグレート系が対抗するために生み出された光子力/陽子/ゲッター線のハイブリッドマシーンだ」

「何すか、そのものすごいエネルギーの塊」

「グレートマジンガー系は、ZEROに取って『マガイモノ』らしいからな。因果律を操るから、さすがのマジンカイザーでも勝てない。だからこそ、奴の半身であるZの転生たるゴッドの力が必要だが、一体だけでは無理だ。そこで『因果を引きずってでも突き進む力が必要だった』。そのためにゲッター線増幅炉を陽子エンジンと光子力エンジンに次ぐ第三の動力に組み込むんだよ。まぁ、そのおかげで、『因果を超えて魔を断つ剣』の一振に成っちまった様だが」

「つまり真ドラゴンと同等の力が?」

「そうだ。ドラゴンの対はグレートだしな」

黒江はゲッタードラゴンとグレートマジンガーの関係を対(つい)と評する。それはマジンエンペラーと真ゲッタードラゴンであろうと同じである。

「つまり、マジンカイザーじゃそいつには?」

「超合金ニューZαを破壊できた因果を呼び出されてやられる。だからZEROにはカイザー系は使えないんだ。もちろん、Zとグレートも」

――マジンガーZEROは傲慢不遜。グレートやカイザーを認めず、その破壊のために因果を操る。グレートマジンガーは破壊される因果が多いので、ZEROには与し易い相手である。スペックで自身に対抗し得る力を持つカイザー系はその高次予測さえ出来れば一蹴出来るが、因果を高次予測することは、純正の『光子力を用いるマジンガー』に対してのみ通用する。逆に言えば、『純正なマジンガー』でないグレンダイザーやゴッドマジンガーは対抗できるし、ゲッターロボとのハイブリッドであるエンペラーには因果律が粉砕される。

「そのためのゴッドマジンガーと新マジンガーだと?」

「そういうことだ。奴は光子力には無敵だが、ゲッター線とかの別のエネルギーにゃ無力に等しい。その要素さえあれば互角になれる」

「つまり、『アンチマジンガー』に特化しすぎたって奴か……」

「そうだ。光子力といえばマジンガー。その認識があいつをマジンガーに無敵たらしめてる要素だが、マジンガーと別のスーパーロボットには弱いんだ。マジンガーでも、ハイブリッド動力機にはな」

――甲児の願い、兜十蔵の思いを歪んで解釈して生まれしZERO。それ故に、マジンガーでもハイブリッド動力になり得るという思考が根底から抜けており、その認識の存在がゼウスがエンペラーを早めた要因である。前史で敗れたゴッドマジンガーを倒すため、光子力を限界まで高めるであろうZEROだが、ZEROは『Zのすべての力を奮えない』。Zの眷属を否定したZEROはZの力の全てを振るうことは出来ない。本質は他の力と交わる事だ。ゼウスはそれを具現化し、自身の半身の生まれ変わりたるゴッドマジンガーと対に成るべし『勇者』をグレートマジンガーに見出し、そのパワーアップたるエンペラーの誕生をアシストした。Z神自身が人との絆で戦う力を得ていた様に、Zの力を受け継ぐマジンガーは色々な物と結び付いて更なる力を得る。その象徴がゴッドマジンガーであり、マジンエンペラーという、グレートマジンガーの意匠を引き継ぐ者達なのだ。ZEROが否定するグレートマジンガーの意匠そのものこそ、Z神が求めた『偶像』としての勇者の姿なのだ。

「…よし、ジオンは今ので引き揚げたな。擱座したザメルは連邦の部隊に引き取ってもらう。市街地の被害は?」

「幸い、お祭りだったおかげで、死傷者なしだって。人が中心部に集まってたんで、空き家になったところに着弾が3発あっただけだって」

「こっちも引き揚げていったぜ。5機は叩き落とした」

「ご苦労。こっちも引き揚げるぞ」

「ウッス」

ジオンは作戦を失敗したわけだが、これで事を構えるのが確定する。対ジオン戦も考えておかなくては、と、黒江は思うのだった。




――501では、特訓が行われていた。そこではハルトマン無双であった。ハルトマンは二度目においては既に、飛天御剣流の真技開眼に至っており、ウィッチの多くが対人戦闘技能皆無である中では際立った戦闘力だった。リーネはサーニャ共々、特訓には参加せずに見学に留まっていたが、多くのウィッチ達を寄せ付けない強さを数人が誇るのを目の当たりにしていた。

「ムウン!」

ユニット回収部隊長にして、『不死鳥』使いとなったアウロラが若手らをパワーでねじ伏せれば、ペリーヌのフェンシングを意に介さず、ペリーヌのサーベルの上に立ち、そこから龍槌閃を放つハルトマン。カールスラント人であり、自堕落の象徴であるはずのハルトマンが信仰する坂本の故郷の剣で自身を意に介さずに倒す。ペリーヌには屈辱感が残った。

(なっ……ハルトマン『少佐』(二度目では、ラルの着任と同じ日に二階級特進)……いつの間にこんな剣術を……)

「悪いね。今のあたしにゃ、お前じゃ相手にもなんないのさ」

と、完全に敵と見なされていない。その事もペリーヌには屈辱であった。自堕落的で、空以外ではダメ人間にしか見えないはずのハルトマンが、扶桑の剣術をモノにしている。その屈辱感がペリーヌに涙を流さす。(後に、この時に砕けたレイピアはペリーヌに唯一残された家伝の剣であった事を抗議され、窮したハルトマンは比古清十郎に頼み、手槍に仕立て直してもらい、朱塗り螺鈿の百合紋入りの豪華仕様で返す事になる)


「さて、お次はクロウズの剣客の一人と言われた少佐か」

「クロウズを知っていてくれたとはな。嬉しい限りだ」

「私らの世代はレイブンズの絶頂期にデビューしてるしね。その次に台頭してたクロウズの事は聞かされてるさ」

「お前がウィッチとして成熟する頃が私らの絶頂期に当たるわけか。歳を実感するよ。……さて、やるか」

「うん。行こうか」

「最近は剣を打ち合うことが減っていたし、前史からのお前との縁もある。先手必勝!!」

坂本は突きを見せる。前史で軍生活の晩年に習得した『牙突』である。坂本は良くも悪くも『武人』としてしか生きれない。その面が裏目に出たのが前史であるが、坂本は若き日に戻っている今だからこそ、武人としての歓びを見せる。

「牙突か!やるね。だけど、こっちも牙突は使えるんだ、返し技くらいは考えてある!」

緋村剣心と斎藤一の再会の際の一戦のような様相を呈する二人の戦い。基地の敷地という違いこそあるが、突きを主用して立ち回る坂本と、飛天御剣流で飛翔するかのような動きを見せるハルトマン。ハルトマンは峰から払って躱すと、刀を居合い抜きで抜き、衝撃波を作る。自身の固有魔法で突風を作り、それで相手の動きを封ずる。そして、左から踏み出す。

『飛天御剣流奥義――天翔龍閃(あまかけるりゅうのひらめき)!!』

坂本に対して遠慮なく奥義を放つ。『風王結界』も擬似的に再現するおまけ付きで。黒江のほうが神である分、再現度は高いが、風という本質として考えるなら、エーリカのほうが精度は高い。おまけに動きを封ずる効果を持つ天翔龍閃を更に強化したので、一撃必殺になる。これは黄金聖闘士でなければ、回避は不可能だ。

「逆刃に持ち替えてやったから、大丈夫だよ。実戦なら致命傷さ」

ハルトマンは、坂本が二度の逆行をしてでも及ばぬ高みに居る。その証明だった。黒江と智子も認めるその才覚の証明が天翔龍閃と、風王結界の擬似的再現だった。風王結界については、黒江との共通技だが、黒江より使用に必要な力の度合いが少ないため、どちらかと言うとハルトマンが主用してゆくのだった。


――ジオン残党軍の公的な参戦が判明し、マジンエンペラーGが完成する。事態が加速してゆく中、地球連邦軍はその討伐を急ぐ必要に迫られてゆく。その象徴と言うべきガンダム。その輸出も行われてゆく中、501にΞガンダムが到着する。マジンエンペラーの参陣も伝えられ、幹部らは中堅層に存在する『超兵器への反発』をどうやって抑えるかに心血を注いでいく。その筆頭と言えるペリーヌは前史では、真ゲッターのストナーサンシャインを見てから『超兵器の強すぎる力を嫌うようになり』、501がVFからスーパーロボットを運用していたことにも不快感を見せた事がある。今生においても、『真ゲッターロボ』などの強大な力を恐れており、前史ほどあからさまではないものの、黒江らを恐れている節がある。そして、この時期、前史では対人用に使用されなかったドーラ列車砲が『対人目的』で使用を決断され、ティターンズに一矢を報いた事が伝えられた事、超兵器でなければ、ティターンズとの戦争で一矢を報えないという現実が、ペリーヌの信念に変化をもたらした。それが『超兵器』にペリーヌが理解を見せるきっかけとなるのである。確かに、真ゲッターはペリーヌに恐怖をもたらした。が、ティターンズを撃退すべく、連合軍が80cm砲を使い、ティターンズの地下基地をまるごと吹き飛ばす威力を見せたという報に複雑な思いを見せたという。その際に、ドーラはラ級のソビエツキー・ソユーズを損傷させており、これがペリーヌに心境の変化をもたらしたのだろう――





――統合戦闘航空団×4+αの統合は実務者の反発を招いたが、圭子が『リベリオンの分裂で兵站能力が大きく低下している。遠隔地にバラバラに置いていては、503と505のように、各個撃破されるだけ』と説き、説得した。また、ウィッチとして強くても、純粋な戦士としては弱者に当たる事を分からすため、特訓では徹底的にしごいた。帰還した黒江と智子もシゴキに加わり、徹底的にしごく。

「やめてください、死んでしまいます!やめてくださいぃぃぃ!」

「ホレホレどうした!!向かってこい!」

悪ノリした黒江は、ジープを全速力で突進させ、リーネ、ルチアナ、マルチナ、サーニャ、下原、ジョゼを追っかけまわす。完全にモロ○シ・ダンのノリだ。ひ弱な女子相手でも情け容赦ないため、黒江の側近に落ち着いている芳佳、邦佳の二人は苦笑いを浮かべながら、見学でお茶を飲んでいるだけだ。

「お、おい宮藤、黒田!なんで止めねーんだよ」

「いやあ、ああなると黒江さん、ノリノリでやりますし。それに無理にきまってるじゃないですか、参加しろって言われるだけですよ、攻め手に」

「そうそう。先輩、ああいう特訓だとスポ根的な事しだすからねぇ。仮面ライダーの影響かも」

エイラが憤慨するのに、涼しい顔で返す二人。しかし、やっている特訓は仮面ライダーどころか、ウルトラ○ンレオの特訓である。ちなみに、黒江らの教育の賜物、スポ根的特訓に本来なら否定的に育つはずのなのはでさえ、特訓を肯定するようになっている。なのははもう一人の自分にスポ根的特訓を肯定する内容の手紙を動乱中に送っており、なのはBを涙目にさせている。これはなのはに殆どの場合、強いトラウマを埋めつけた『撃墜事件』の心のケアがなされたか、スーパーヒーローでさえ、精神面を鍛えなくては常勝は出来ないという『現実』を知ったか、『師』を見出したかどうかが関係している事実でもある。仮面ライダーら、特に7人ライダーが度々、一敗地に塗れて、立花藤兵衛に特訓を受けたという事実は仮面ライダーに詳しくなくとも有名だ。

「あの7人ライダーだって、一敗地に塗れて、特訓して逆転勝利してきたんだし、特段、目くじらを立てる事じゃないですって」

「だからって、全速力のジープで追っかけまわすか!?」

エイラは気が気でないようだ。仮面ライダーの事を知っている二人は、終始涼しい顔である。

「八番目のスカイライダーなんて、全速力のライダーマシンに追いかけられたんですよ?変身してない時に」

「!?」

「魔力で強化すれば、90km/hくらいなら走って出ますよね?」

「路外ならジープ60出るかどうかだしね。だからジープなんて振り切れるって」

「そういう問題かボケェ!」

身体強化をフルブーストした場合、ウィッチの平均でも、ショッカーやゲルショッカー戦闘員を上回る水準の速力を出せる。おおよそ、ウィッチの平均的なフルブースト時能力はゲルショッカー戦闘員を上回り、デストロン戦闘員に肉薄する。もちろん、出来ないものもいるし、攻撃的な固有魔法持ちほど、対物・対人使用を躊躇しがちであり、その事もあり、期待された戦術効果をティターンズ相手には発揮できない事が多い。また、この特訓で黒江や智子のナインセンシズに精神的に打ちのめされた者も多く出た。ライトニングフレイムやアークプラズマ、フリージングコフィンなどの闘技を見せたため、ペリーヌは今生でもショックで卒倒した。魔導徹甲弾をダイヤモンドダストで凍結、無効化されたアンジェラ・サラス・ララサーバルは正気を疑ったし、パトレシア・シェイドは、エクスカリバーでどんなシールドも切り裂かれ、パニックになっている。また、カーラ・J・ルクシックの魔法冷却を絶対零度で上回り、M2機関銃の連射時間がより長いなど、多くの固有魔法を小宇宙の応用で上回る事も見せたので、多くは放心状態である。坂本は『やり過ぎだ』と諌めたが、とりあえずのデモンストレーションは成功裏に終わった。

「嘗められないためには、力を九割方見せないとな」

「おいおい、お前らは黄金聖闘士で、神使だろう?二割も出せば十分だろう」

と、坂本は呆れる。黒江達の実力は既に、神を倒した星矢達には及ばないが、先代の黄金聖闘士に比肩する水準の能力になっている。普段は神聖衣青銅一軍以下、先代黄金聖闘士と同程度の戦力であると言えるが、彼らより先のセンシズに目覚めているため、潜在ポテンシャルは彼らより上に位置する。そのため、素で先代黄金聖闘士に追いつける星矢達の才覚は歴代でも上位に位置しているのが分かると同時に、神使にならなければ、黒江と智子は星矢達の水準に追いつけなかった証明でもある。元々が肉弾戦向きの性質ではないのは、星矢達、その中でも、とりわけ一輝や紫龍からはハンデとして見られており、訓練中はその二人からの忠告も受けているが、任じられて以降は良い戦友の間柄である。また、訓練中から黄金聖闘士候補であったため、魔鈴やシャイナにも手ほどきを受けた事もある。一度目、二度目共に共通事項だ。ただし、任じられる時間軸がかなり早まっており、未来世界ではデザリアム戦役前のこととなっている。

「今回はどうするんだ、お前ら」

「今回はジオニスト共とも一戦交えるぞ。それは覚悟しておけ。あいつらは正規軍と呼べるか怪しい連中だが、南極条約には目を通しておけ」

「あれは連邦とジオンの戦時条約だろ?何故、我々まで」

「仕方がない。戦時協定みたいなのが連邦の頃になると、南極条約が不文律みたいになってるんだ。これに違反したのは、宇宙人だろうがさばくことになってる」

「宇宙人が南極条約を守るか?」

「地球で捕虜になってる最上位の軍人と戦後に交わす事になっている。奴等と交渉の余地が無いのは、ガトランティスで懲りてるしな」

「自己満足に近くないか?」

「条約を結んだって言っておけば、平和主義者も納得するからな。政治的な意味合いだよ」

「平和主義者、か……連邦のはまだ納得いくが、日本のはな」

「仕方がない。日本の平和主義者は平和ボケの産物に近いし、連邦の平和主義者と違って、本当の戦争を知らん。相手にすると、疲れるだけだ。流しておけ。当面は日本からは取材に来んから、ティターンズやネオ・ジオンとの戦を考えておけ。そのほうが気が楽だ」

「お前、日本でどんな事にあってきたんだ?」

「色々と疲れる事があってな……。ジオン軍の兵器のデータは頭に入れておけよ」

「分かった。しかし、飛天御剣流、お前も使えるんだよな?」

「奥義はハルトマンに遅れを取ったがな」

「……ジオンか。滅んだ国が未だに影響力を持つとはな」

「反連邦の旗印になってるだけだよ。クロスボーンもザンスカール帝国もジオンに代わり得るモノじゃなかったし、反統合同盟も今や昔の事だ。だから、ジオンへの郷愁があるんだろう。ジオンが倒れた後に出現しては倒れていった国々はみーんな、地球を『どうでも良いモノ』としか考えてないかったしな」

「彼らは何故、そこまでジオンにすがるんだ?」

「連邦への怨恨、ティターンズだったりして、傭兵に転じ、ネオ・ジオンに落ち着いた、ジオンが存在しない世の中を受け入れない者とか、理由はそれぞれだけど、奴等は奴等なりに理由がある。けど、あいつらの殆どは漠然とした使命感や義務感で戦ってる。それだけじゃ、いつか破綻する。……昔の私のようにな」

「お前……」

黒江が未来で戦う理由を見出した事。それは喜ばしい事だ。そして、佐渡と新見の説明で周知となる悲しい側面。坂本が黒江のその悲しい側面をカバーするようになるのは、前史の償いだったのかもしれない。



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