外伝その103『ダイ・アナザー・デイ2』


――黒江は、変身した姿だと気楽でいられるからか、基地のゲートを潜るときや仕事以外の時以外は調の姿を取るようになった。ダイ・アナザー・デイ作戦との兼ね合いにより、公表する必要があるとのルーデルとガランドのアイデアで、管理局系の変身魔法という事で、公表した。黒江が『伝説の三大魔女』の一人である事も、併せて発表された。流石に自分達ウィッチの立場を確立した張本人である事が判明したからなのか、若手はもちろん、ベテランメンバーも、ものすごく気まずそうだった。人事も発表された。

「ロスマン、君は本日付けで特務士官に任じられる。皇帝陛下直々の勅だ。お父上と揉めたくはなかろう?」

「大佐、自分は教育係という立場に満足しております。何故、特務士官になど」

「軍規に触れるからだ、少尉。昇進を断り続けていれば、不名誉除隊になる。父上が許さんぞ、それは」

「うっ……」

ロスマンは教育係の下士官で満足しており、士官任官をあの手この手で断り続けてきた。だが、あまり昇進しないと。今度は軍規に触れてしまう。ロスマンの父は一次大戦の生き残りで、厳格な軍人だった。それがロスマンの不幸であった。父と確執が出来ており、前史では威嚇とは言え、モーゼルを発砲されている。それを知るガランドとルーデルは、先手を打ち、特務士官に任ずる事で、ロスマンの立場を守ろうとしたのだ。ロスマンは厳格な父を嫌っていたが、事件後、圭子が別次元で『雁渕ひかりに厳しく接した』事を多少誇張して伝えた(圭子なりの心理戦)のもあり、ロスマンは心理的にかなりショックを受けていた。ひかりのような『やる気があるが、魔力が少ないものへは態度を変えているのか?』という趣旨の皮肉じみた一言がかなり効いたらしく、また、高級将校だった父との確執に恐れを持つのか、懇願に近い形で侘びている。家庭に居場所が殆ど無いためなのか、ハルトマンが突き放す態度を取ってみせた事にも激しく動揺し、狼狽して『エーリカ、違うの、私は……』と同位体の行動を上手く説明できなくなるほど泣いた。これが圭子達なりの転生への『非難』に対してのお返しであった。ロスマンの同位体は言っていた。『ひかりは優秀とは言えないが、努力を怠ってはいなかった』と。努力と根性でトップエースに上り詰めた『タカヤ・ノリコ』の話を、鉄也から聞かされていた事もあり、圭子はロスマンに強力に釘を刺したのだ。

「ち、父にはその……」

「皇帝陛下が直々に訪問してくれた。これで君への態度も軟化するだろう」

「父のそういう所は嫌いでした。家族よりも軍隊を優先してた。だから……」

「仕方がない。お父上は跡継ぎが欲しかっただけだ。先帝時代に青春時代を過ごしたのなら、尚更だ。君は戦時下の採用基準でなければ入隊はできなかった。それが父上との確執のもとだろう?」

「前に、エーリカからも指摘されましたが、私は……驕っていたのでしょうか?」

「初心忘るべからず。扶桑の古い諺だ。君はそれを忘れていたのだ。だから、中佐に反発した。君が教えたいと思ったのは、どういう理由からだ?」

ルーデルは世阿弥の言葉を引き合いに出して説得する。確かに、ロスマンには煽てられての驕りも見えたため、事件は戒めのちょうどいい機会であった。引き合いに出すのが、世阿弥なあたり、ルーデルも相当に日本ナイズされているということだろう。



――ルーデルがロスマンを引き受けている内に、坂本が黒江の説明を行う。『伯爵』は食手が伸びないという現象に狼狽えていた。これは黒江のエクスカリバーへの恐怖だろう。実は一度、夜這いをかけたのだが、この姿で、人格があーや状態の黒江がパニックを起こし、エクスカリバーを打たれてしまったからだった。伯爵はこれで公表前に黒江の秘密を明かされたのだが、危うく、死にかけている。あーや状態であっても聖剣は使用できるため、伯爵のGLまがいの行為は、あーやのパニックを誘発させてしまい、エクスカリバーを乱打され、衝撃波で宿舎が崩壊してしまった

「伯爵ぅ〜!テメエ、なんてことしやがったぁ!!」

「し、知らなかったんだって!」

と、菅野には叩かれ、鉄板も難なく斬り裂く衝撃波に肝が冷えるなど、伯爵自身も震えていた。なお、あーやはこの時、主人格に統合されたかと思われていたが、変身した姿で寝た場合にも発現するらしく、黒江の心の傷は意外に深いらしい。パニック状態のあーやはやたらめったにエクスカリバーを乱打するので、宿舎は崩壊した。証拠隠滅の命を受けたのび太がとにかく当事者以外の全員に、如何な人間も瞬時に眠る『グッスリガス』を浴びせて回ったので、夜間哨戒担当者も寝かせてしまった。ただちに圭子が連邦軍に連絡を取り、山本玲のコスモタイガー隊にその任務を代行してもらったという。

「よし、これで誤魔化し成功。あとは宿舎をタイムふろしきで復元すれば完璧だ」

「あ〜ん!あのおねーちゃん怖いよ〜!」

「おー、よしよし……伯爵?どういう事なのかしら?」

「え、えぇ……それはそのぉ……!?」

あーやの一言は地味に突き刺さり、伯爵の心をぶち折った。当然ながら、黒江の姿が違うことを指摘したので、なし崩し的に種明かしが行われたのだ。黒江の仮の姿は、伯爵の『好み』のオーラが出ているのだが、エクスカリバーの恐怖が染み付いてしまった&あーやの純真な一言が何かをぶち折ったのか、理性では避けようとしているが、本能的なところで体がウズウズしているのだろう。その為、伯爵は微妙な表情だった。

「どうして、中佐はそんな姿に?」

リーネの質問に応えた。

「元は、ある別の世界に飛ばされた時に、その世界にいたある人物の存在を玉突きした時にその代替と見なされて、そのまましばらくなっていた姿だ。元になった人物そのままの声と容姿だが、能力は元と同じだ」

「その後に任意になれるように?」

「ああ。そいつを見つけて、あるべき場所に戻してやったら戻れたよ。それからしばらくしてからだな。任意で切り替えができるようになったのは」

「隠していたのは、やっぱり?」

「お前らガキ共とケイが揉めたろ?その事もあって、隠すつもりだったんだが、事態は変わった」

「事態とはなんですの?」

ペリーヌが言う。

「破壊神が迫っている」

「あの→悪意に歪んだマジンガーZの様な風体の……。あのロボットがいったいなんですの?」

「あれはもうマジンガーZじゃない。機械の体を持つ邪神だよ。姿がマジンガーなだけの、な」

「あのロボットが世界を滅ぼせると言うのは理解いたしましたが、対抗策はあるんですの?」

「あれはマジンガーを倒すために、能力を特化した破壊神だ。逆に言えば、それより上位のマジンガーか、別のスーパーロボットの動力を持つハイブリッドマジンガー、もしくはマジンガーと関連がないスーパーロボットをぶつける事で倒せる。が、一筋縄ではいかないだろう」


ZEROは、Zの後継であるグレートマジンガーや、マジンカイザーを圧倒して倒すことに妄執した結果、他のスーパーロボットと戦うにあたり、ダメージを覚悟しなくてはならない立場に置かれていた。ZEROは強力な因果律操作能力、自己再生と自己強化能力を備えている。それを上回るには、ZEROの能力である高次予測を超える必要がある。甲児も鉄也も、それを承知している。ZEROはマジンカイザーを倒すため、超合金ニュ―Zαを破壊された世界を探り当て、同合金を破壊する手立てを得たが、超合金ゴッドZについては、そもそも完成に至った世界すら希少すぎる&攻撃で破壊された世界が一切存在しない上、光子力ではないエネルギーで強化された超合金であるため、マジンガーの根幹であるはずの『光子力での駆動』という点から外れる。そこがZEROの高次予測が通じなかった所以である。ZEROは新たな因果を紡げはするが、それは元になった『Zが顔を合わせた魔神』に限定された事で、Zが生まれ変わったゴッドや、共闘の経験がないグレンダイザーには因果を手繰りもしない。それが勝利の鍵である。それと、Zと関連がないスーパーロボット相手では、素のスペックで勝負しなければならない。それがZEROに蓄積された『見えないダメージ』となっている可能性はある。黒江が希望と考えているのはその点だった。

「あの破滅的な魔神に対抗できるのがいるの?」

「マジンエンペラーGとゴッドマジンガー。グレートマジンガーの後継機であり、ゲッターロボとのハイブリッドであるマジンエンペラーG、奴の半身であり、善性を司るマジンガーZの生まれ変わりのゴッドマジンガー。それが私達の希望だ。」

フェルの質問に答える。マジンエンペラーGとゴッドマジンガーこそ、マジンガーZEROに対抗できる唯一のマジンガーであると。ZEROはもはや邪な神と化しているが、ゴッドは全てのマジンガーの神たるZ神の依代になれる魔神であり、マジンガーZの最終形態でもある、ZEROを打ち破るための『希望の魔神』だと。黒江がここまで断言するあたり、如何に甲児とゴッドに希望を託しているかが分かる。

「なんで、そこまで断言できるんですか?因果律にも干渉できる相手なのに」

「サーニャよ。いくら相手が強くても、私たちは一歩も引けねーんだ。それが転生者としての使命であり、甲児や鉄也さんたちが教えてくれた事なんだ」

黒江はヒーロー達の背中を見る事で、崩壊した精神に安定を見た。黒江はヒーロー達の生き様に追いつきたいと願い、大事なモノを守るための力を求めて来た。転生してもその傾向は同じで、今回は『守りたい』という思考が強く働いている。遂には、シンフォギア奏者にイレギュラーな形でなったが、黒江はシンフォギアには頼っておらず、あくまでナインセンシズを『真髄』と位置づけている。根幹は『ウィッチ』であるが、黒江は経験則から、多種多様な力を自家薬籠中の物にし、自らの選択肢を増やすことに一度目の生涯を捧げた事もあり、いつしか反骨精神旺盛な性格が構築された。この時間軸では直接の面識はないが、星矢が奇跡を起こし、(黒江の叙任時には、星矢はハーデスの死に際の呪いで廃人と化しているため)仮面ライダー達が常に悪と戦って勝利してきたのを知るからこそ、それを拠り所に戦えるのだろう。そして、姿は違っていても、根幹にある小宇宙に変わりはないのだと。

「あなたはいったいなんなんですか!?ウィッチなんですか、それとも聖闘士なんですか!?」

サーシャが問う。黒江は小宇宙を燃やし、ウィッチの枠を超えた戦闘力を発揮するが、その一方で、ウィッチとしての心構えを説く行動を理解できなかったのか、強い語気で問う。

「私の根幹はウィッチなんだよ、大尉。聖闘士になったが、ウィッチとして、聖闘士としての誇り。それを持ち併せて生きてる。君は何の気持ちで軍に入った?」

「私は……」

「君に年寄りのような説教をする気はないが、君にも戦う意義はあるだろう?それを言えるようになって欲しい。それがウィッチである事への答えだと思う」

黒江はここで聖詠を行い、ギアを纏う。変身した姿では『奏者』である事が先に来るからだろう。

「そ、それは?」

「21世紀くらいの現代人が科学で神秘を再構築した物、シュルシャガナ、科学者が作った聖衣の様なものだ。シュメール神話の鋸の欠片をベースにしたものだから、力の片鱗しか扱えないから、防御力は青銅聖衣程度だけど」

「あ、黒江さん、混じってます、混じってます」

「そ、そっか?」

この姿であると、調の記憶を持つため、自分自身と調がMIXされたような言動を見せ、芳佳に指摘された。声色も調のものになったので、普段と別人にしか見えないが、芳佳は普通に対応している。

「宮藤さん、なんで普通に対応できるの……?」

「動きとか気配が黒江さん以外の何者でもないですし。あ、大尉。実は私も転生者なんですよ。最終階級、軍医大佐だったかな…」

「少将だろー?」

「あ、そうでしたっけ?せがれのほうは覚えてるんだけどな―」

芳佳はのび太の影響か、子供を「せがれ」と表現する事がままある。その事も転生者であることの補強となった。最終階級が軍医〜であるということは、これから軍医学校に行く事を明示していて、子供も産むという事だ。

「私は中将で退役したからなー。フジと違って、大将になれんかったからなー」

「黒江さん、政治家連中に煙たがれましたしねー」

「私は色々やったから、この後に出てくる政治屋連中には好かれてなかったしなー」

「あー!退役前日にやたら重たいベタ金の階級章もらってたっけ。そっかあれ、将官の?」

「そーだ。レイブンズで大将になれんかったの私だけだぞー。ったく、野党連中め」

黒江はレイブンズで政治力がもっとも強かったがため、平時の政治家に『シビリアンコントロールを無視しかねない』と危険視され、結局、レイブンズで唯一、退役時にも大将になれなかった。だが、連邦軍の名誉元帥に任じられ、早くも今回はその待遇だ。連邦軍にあれこれ気軽に要請できるのはそれが理由だ。

「貴方達は本当に……」

「ああ。転生者だよ。君の運命も知ってるが、言わないほうがいいと思う。知っちまうと楽しみが半減する」

「え!?き、気になるじゃないですか〜!」

サーシャは戦後、空軍英雄の称号を皇帝から与えられ、元帥が最終階級である。それを知っている黒江は言わないことにする。菅野がそれを嫌がるからだ。(孫にバラされたらしい)

「サーシャさん、知らないほうが楽しみがあっていいじゃん。オレなんて、孫娘たちにバラされたんだぜ?」

「あ、そうなの、菅野さん…」

「うん……」

「それより、あなた、子供産んで一人前に出来たのね……」

「そっちかよぉ!」

菅野は別方面からのパンチに涙目になった。孫娘がいる事より、子育てを終えられたということの方に驚かれた。一匹狼な菅野にしてみれば心外もいいところだが、素行的に『家庭に落ち着く』タイプには見えないからだろう。だが、今の性格は黒江と同じく、『演じている』性格なので、すぐにスイッチできる。菅野はその技能で母親をしていたのだろう。そこが黒江とウマがあった要因であろう。しかしながら、孫娘らは直枝が演じていた性格が地であるため、世渡りが下手であるらしい。

「まー、菅野。今の性格からして分かってんだろ?」

「分かっちゃいるが、来るぞーこれ……」

落ち込む菅野。姿は変わっていても、いつもと変わらぬ漫才を見せる黒江。そのギャップに驚く一同。

「オホン。皆に伝えておくが、こいつらのお目付け役として、我が扶桑海軍から凄い人が来るぞ」

「マジで来ちゃうのかよ!」

「お前、怒られないようにしろよー」

坂本が重大ニュースも伝える。赤松の事だ。黒江達のお目付け役を担える世代と言えば、扶桑全軍でも、長老クラスしかいない。赤松は扶桑空戦ウィッチの第三世代に属する。これより上は一次大戦世代しかいない。赤松は黒江達よりも相当上で、北郷と比べても更に先輩になるので、黒江達が素直に従う、ほぼ唯一の特務士官ウィッチである。赤松は圭子の入隊時で既に古参曹長であったので、黒江など『ボウズ』扱いである。智子は『穴拭のお嬢』、『穴拭の娘っ子』なのに比べると、黒江は悪ガキ感覚だ。これは黒江が怪我して頭を刈る羽目になった新人時代のエピソードを偶々に共同訓練に参加していた同期から聞いており、当時から江藤と知己であった都合、『血気盛んな小僧』と一目置いていたからだ。黒江が赤松と今のような面識を持ったのは士官任官後の逆行時からの事だが、グランウィッチである赤松は全てを承知していて、逆行していた黒江が『ね、姐さん……!』と感涙にむせぶほどの信頼を勝ち得ていた。黒江が強く慕うようになったのは、そのタイミングだが、記憶が薄れた新人時代にも同様の傾向を見せていた事は赤松しか覚えておらず、いまだに「坊主頭可愛いのに、また剃らんか?」とかたまに言うのだ。冗談混じりだが、本当に気に入っていた模様だ。

「な〜に、どうなろうが根っこが黒江のボウズなら、そうひねくれはすまい」

「ね、姐さん!!」

「赤松大先輩!?と、到着なされたのですか!?」

「おう。江藤がコスモタイガーで送ってくれてのぉ。数分でついたぞ、ガッハッハ」

見かけは清楚な20代後半の黒髪ストレートの美女だが、言葉づかいや態度はまるっきり、荒くれ者、バンカラという言葉が似合う雰囲気のオヤジ系女子、赤松貞子。当時、海軍特務少尉。源田実も信頼し、小園大佐も『赤松なら大丈夫だ』と太鼓判を押す大物。

「おい、ボウズ」

「はいっ!」

さすがの黒江も赤松の前では緊張するのか、瞬時に元に戻り、直立不動の体勢を取る。

「着任の挨拶をしたいんじゃが、司令の執務室はどこだ?」

「案内します」

黒江は正規の陸軍将校、赤松は特務士官で、立場では上になっているはずだが、幼少からの関係もあり、赤松の前では柄でもなく、カチコチだ。

「あの中佐が……。菅野さん、あの人は……」

「あの人、扶桑全軍の空戦ウィッチ最長老の一人っす。あの人の一言でレイブンズも動くようなお偉い人ですよ。海軍航空隊にその人ありって、今でも恐れられてる人」

「えぇ〜!?」

「おまけにグランウィッチだから、多分、この中の全員より偉いかも。あの黒江さんがあんなにカチコチになるほどの御仁っすよ」

「そんな重鎮をどうして?」

「この間の事件で、レイブンズを体面上、押さえ込めって文句が出たんですよ、他国から。そこで言うことを聞かせられる唯一の現役って言うんで、あの御仁が。ウチの軍隊、メンコの数が普段はモノ言いますんで、黒江さんも『借りてきた猫』みたいでしょ?」

「え、ええ。あれが扶桑最長老の?」

「北郷大佐だろうが、江藤敏子参謀だろうが、あの人の前じゃ、単なる後輩にすぎない。正に扶桑の本当の魔女っすよ。レイブンズの手綱を引ける唯一の人ですよ」

赤松は扶桑軍で凄まじい影響力を持ち、あの三輪の権勢が絶頂を極めたベトナム戦争までの戦間期の時期でさえも手をつけなかったほどの聖域ぶりを誇る。それはこの時点でのトップだった山本五十六、最長老の岡田啓介も公認しているほどのもので、ミーナが赤松に黒江達の統制を投げたのも頷ける。

「あ、あの、坂本少佐。昨日、寝過ごしてしまって……。昨日の夜間哨戒は……」

「安心しろ、サーニャ。コスモタイガー隊が代行してくれた。当然の事だが、全天候対応、夜間飛行もなんのそのだからな」

「あの戦闘機って万能なんですね」

「当たり前だ。宇宙戦艦や宇宙空母に積まれて任務を果たすための戦闘機だし、星の光さえ届かぬ深宇宙ですら行動範囲が連邦の戦闘機だしな」

「航続距離、どのくらいなんですか?」

「確か、土星の衛星のタイタンからフェーベの距離を偵察することが『足を伸ばす』感覚でできるはずだ。初期型でこれだぞ?」

「凄い……」

「恒星間宇宙船の艦上機と言うのはそういうものだろう。これで列強の中では短い部類に入るそうだからなぁ」

「え!?」

「他の恒星間国家の艦上機は20mを超える大きさだし、17mで、第4世代ジェット戦闘機よりも多少小型だから、宇宙での航続距離は『短い』。他国のが星系超えできる航続距離あるから、それと比べて、という意味だが。コスモタイガーは目視でなければ探しにくい。それも敵には有利だ。自分から欺瞞するアクティブステルスを備えているから、お前でも探知は難しい」

「アクティブステルス……」

「実用化の研究がこの時代で行われていたステルスは『パッシブステルス』というものでな。それだと、機体形状に縛りができる上、維持費が高額になる逆転があった。が、アクティブステルスはその制約を取っ払ったに等しい設計自由度を与えた。だから第4世代のジェット戦闘機のような形状に先祖返りしたわけだ」

「ジェット戦闘機って、どうしてどんどん大きくなったんです?」

「フェル大尉、それは『任務への対応』もあるんだが、これをやると、講義にできる分量だしな。それと、敵のブラックタイガーも味方のコスモタイガーも、艦上機になったのは地下基地から発進するために小さく作ったからで、コスモタイガーが改良できたのは、元々の設計で機内容積に余裕があったからだ」

「主翼が小さくて、大気圏での機動性良くなさそうなのに、どうしてあんなに機敏なんですかー!?」

フェルが愚痴る。コスモタイガーは主翼が小さく、大気圏での機動性そのものはブラックタイガーより落ちる。それを感じさせない動きで、模擬戦でひねられたからか、ぶーたれている。

「あれは素早くロールを打ってるのと、宇宙用のバーニアを大気圏でも使ってるからだ。そんなのは極東地区の部隊しか出来ない『離れ業』だ。自衛隊からの流れを汲む、な」

「自衛隊からって……!?」

「元々、航空自衛隊は防空に特化して育成された組織だった。黒江が潜り込むほど、その技能には定評があった。数百年経っても、それは健在なのだろう」

地球連邦宇宙軍極東管区の防空部隊は統合戦争以後、旧空自/海自系の部隊がその主力を担っていた。ジオン軍が極東地区への直接降下を避けたのも、技能レベルがそこだけずば抜けていたからである。かのヤマト航空隊もその系譜の部隊の出身が大勢を占める。その為、極東管区の部隊は『地球本星の力の象徴』ともされ、設立予定のアースフリートにも選抜されているほどだ。

「君が相手どった防空隊もその流れを汲む部隊で、元々は航空自衛隊の第203飛行隊だったのが、時と共に、そのまま連邦宇宙軍に移管された部隊だよ」

地球連邦宇宙軍の本土防空部隊で練度に定評がある部隊の多くは旧航空自衛隊の流れを汲む部隊である。ヤマト航空隊の元になった『第8飛行隊』は元々、航空自衛隊の第8飛行隊を祖とし、ガミラス戦の初期段階ではブラックタイガーの前身『ブラックパンサー』という初期段階の万能戦闘機を装備していた。それがブラックタイガーの完成と配備、ヤマト完成と同時に、主力は艦上部隊へ再編、以後は機種を新コスモタイガーへ転換しつつ、地上防空部門と、艦上部門に分かれつつ、ヤマト航空隊への人材供給源となっている。玲がいる部隊はその防空部門で、彼女は加藤三郎の弟『四郎』と同世代にあたる。声がミーナにとても似ているが、ミーナを『凛々しくした』ような声色なので、聞き分けは容易だ。

「ん、噂をすれば」

「どれくらいの高度飛んでるんですか?」

「高度7000は下らんな。飛行機雲しか見えんし」

基地中央棟の窓から見える飛行機雲からの推測を言う坂本。この日は雲一つないので、コスモタイガーの飛行機雲がはっきり視認できた。レシプロ機ではゼイゼイ言い始めるような高高度も、コスモタイガーにとっては『準備運動のランナップ』感覚だ。と、坂本が言い終える。そこで。

「中々良い説明だったが、あれは『ロールが早いのとボディが揚力生みやすい形状で引き起こしがしやすいから素早い機動が可能』という奴じゃぞ、坂本よ」

「大先輩、挨拶が終わったので?」

「うむ。ボウズのアレも見せた。驚いておったわ、グハハ」

赤松は完全に女子というカテゴリに入るか微妙な言葉づかいである。笑い方もガハハだったり、グハハだったりするので、八割方、オヤジである。赤松の指示でシンフォギアも見せたらしく、後からやって来た黒江は変身&ギア姿だ。

「姐さん、ミーナ中佐、腰抜かしてましたよ?」

「お前の歌唱力にも嫉妬が見え隠れしておったじゃないか。お前、嫌々ながら母上に特訓されただろ?」

「お袋にびっちりと。いわゆる英才教育ですよ、英才教育。私をトップスターにしたがってましたから、お袋のヤツ」

黒江は苦笑する。母親は某歌劇団志望で、結婚で夢を諦めた経緯があるため、今回でも黒江は母親を嫌っている。母親の事を外でお袋と呼ぶのも、幼少からの反発の表れだ。ちなみに、転生で知った事だが、ハイカラにママと呼んでもらいたいらしい(父親よりだいぶ若い)が、古風な夫に阻まれ、それが不和の元だった。黒江のハイカラな面は母親譲りであるのが真相だ。

「ボウズ、お前が聖詠できるから、中佐がライバル心表に出しかけてたからの。あの人、オペラ歌手志望だろ?元々」

「確か」

「お前はレビューやミュージカル系だから、方向は違うが、似た教育は受けているということだな」

「はい。何故か、作詞作曲まで仕込まれましたよ。だから、シンフォギアを起動できたんでしょうね」

黒江は仕込まれた教育の質は、かのバッハの後妻『アンナ・マクダレーナ・バッハ』の末裔たるミーナにも劣らぬモノで、扶桑としては最高の教育と言えた。幸いにも音楽方面の才能にも恵まれていた事から、軍人になっても歌唱力はトップレベルであった。ただし、黒江のほうが20世紀後半以後のポップやロックなどのアップテンポのポピュラーミュージックへの適応性が高い。そこもシンフォギア起動の鍵であった。もっとも、起動の聖詠は宗教歌じみている。存在の格も関係していたが、起動が難なくできた。もっとも黒江にとってはシンフォギアは普段着感覚であるので、その姿で日常生活も送れるという『離れ業』をしたが。

「中佐、つまりどういうことですか?」

「腕にエクスカリバーとエアを宿してるし、更にシュルシャガナを『纏える』ってことだよ、フェル大尉。ギミック詰まっているけど、拳でやったほうが手っ取り早いかんなー」

「何ですそれー!」

フェルがぶーたれるのも無理ないが、黒江は神域の武器を両腕に宿し、更にペンダントのような形で、一個を携帯している。それでいて、歴代黄金聖闘士でも上位に位置する『超光速拳』を奮えるので、サーシャが言ったように、ウィッチである必要があるとも思えないが、なんだかんだでウィッチである事の誇りも持つ。更にコピーした時間軸の都合、エルフナインによるシンフォギアの強化改修後であるので、スペック上はイグナイトモジュール発動も可能だが、黒江は通常のギアでそれ以上の戦闘力を持てるので、使っていない。ギアの修理が実質的にタイムふろしきに頼ることになるため、負担がかかるイグナイトモジュールは発動終了後に隙ができるという運用上の難点があるので、使わないという実用上の問題も大きいが。シンフォギア世界でギアを纏っていても、セブンセンシズ主体で戦闘をしていたのは、そういう理由だ。もっとも、セブンセンシズの時点で、かの世界では驚異であり、ギアを纏った奏者達の内、接近戦を得意とする者達が黒江に挑んでは一蹴された事がその実力差を証明している。

「まぁ、この姿になってても、接近戦でオメーらガキ共には負ける気はしねーから。赤松の姐さんくらいだよ、勝てるのは」

「ガハハ、白銀だが、黄金に匹敵する実力はあるしの」

「最大闘技まで使って七三くらいだからなー、まいっちまうよ、本当に」

「そもそも、儂は素で扶桑最強だったしな。ポウズのような付け焼き刃とはワケが違うわい」


赤松も白銀聖闘士であり、孔雀座である。白銀聖闘士の中には、黄金に匹敵する実力を備えた実力者が生ずる事もあり、素の実力で黒江を大きく上回る赤松が聖闘士になれば、階級が下でも、黒江と同等以上の戦闘力を持てる。その為、黒江は黄金でありながら、白銀の赤松に7対3で負け越している。赤松もセブンセンシズに覚醒し、エイトセンシズ、ナインセンシズに到達していると言うべきだろう。

「ほんと、まっつぁんには敵いませんよ」

「まだまだ、ケツの青いボウズ共には負けんよ」

赤松と、もう一人の長老で、陸軍の『若松』はレイブンズも敵わぬ戦闘力を持ち、若松に至っては『モビルスーツキラー』の名を欲しいままにしている。若松はその後、赤松の誘いで黄金聖闘士になり、積尸気を習得して蟹座の黄金聖闘士に収まったので、扶桑の長老達は黄金聖闘士級の能力が素であったという事になる。なお、デスマスクが積尸気冥界波しか能がなく、最終的に紫龍にも一蹴されるほどの実力に堕ちたのとは対象的に、デスマスクの先代のデストールが使っていたり、その前の代が使っていた『積尸気鬼蒼焔』、『積尸気魂葬破』も復活させたという。聖域の次世代聖闘士の多数がウィッチ世界出身であるのは、ウィッチである都合、シックス・センスには届いており、小宇宙に覚醒しやすかったからである。女性比率が歴代でも類を見ないほど高くなったので、女性聖闘士の慣習の仮面は任意という事で落ち着いた。これは聖闘士世界の時代も1990年代に差し掛かっており、世界的に女性の役割が増大した事、沙織自身が表向き、財団の総帥に就任した事も大いに関係していた。1990年、蘇生したシオンのご達しにより、任意でバタフライマスク着用、金聖闘士と白銀の上位は着用義務を廃するとした。また、ムウが早期に戦死してしまい、弟子の貴鬼は幼齢であったので、フェイトに期限付きで牡羊座へのコンバートがシオンより打診される。フェイトはこれを受け、一輝の叙任を以て、牡羊座へコンバートしたのが実際のところだ。更に貴鬼の成人で蠍座に落ち着く。箒も射手から双子にコンバートしており、フェイト、黒江、箒の三人は代打やコンバートで守護星座が変わることが多くなった。転生後の黒江が廬山系列やライトニング系列の技を使用できるのは、そのコンバートや代打の記憶が拠り所である。

「なんかもう、あたし達のついていける領域じゃないわね、ミヤフジちゃん」

「まぁまぁ。要は小宇宙ですよ、フェルさん」

さらっと、ムウが生前に言った台詞を言ってのけた芳佳。芳佳はグランウィッチであるのと、途中何処かで転生していたらしく、戦車道世界の角谷杏を思わせるサバサバした面を見せる。その側面からなのか、いつもよりだいぶサラッと言う。黒江は芳佳のグランウィッチ覚醒後に、『お前、ぜってーあの生徒会長になってたろー!?』と言っている。角谷杏と会っていたので、芳佳かしらぬ交渉力はそうとしか考えられない。

「あ、そだ。言おうと思ってたけどよ、宮藤。おめー、ぜってー大洗の生徒会長になってたろー!一度転生しただけで、あの交渉力は身につかねー!」

「ええ、今度、陸戦ストライカー使ってみようかな、って考えてます。『あの時』はヘッツァーだったしなー」

「え?マジで……?そなの?」

黒江も流石にバカガラスが鳴いたようで、目が点だ。角谷杏を一度経由し、宮藤芳佳に戻るという何とも言えない転生コース。芳佳の今回における交渉力は『角谷杏』として生きた時代に培ったノウハウが由来ということが明らかになった。しかも、杏としての記憶も持っている事をハッキリ述べた。

「そ、それじゃ、みほ達を?」

「この姿じゃ、西住ちゃん達には会えんでしょ」

「うおおおおお!マジかよぉ!」

黒江も調の姿になっているので、グランウィッチとしての覚醒が進めば、芳佳も角谷杏の姿になれるだろう。芳佳の妙にサバサバした振る舞いは、杏であった時の癖であると考えれば、全ての説明はつく。流石にこれは予想外の展開であるので、黒江も大いに驚く。

「あ、カミングアウトしたから、今度からロンメルのおっちゃんに戦車のリストアップさせるの手伝うって言っといてくださいよー」

「つーか、その姿でおっちゃんって言うなよなー。リーネが用でいないからいいけどよ」

杏であった時代の事をカミングアウトしたからか、宮藤芳佳としてはあり得ない言葉づかいをする事を黒江は諌めておく。リーネが見たら、心配のあまりに医務室に連れて行こうとするからだろう。

「りょーかい、りょーかい〜♪」

「これだよ〜もう」

黒江は思わず額を抑える。この展開は予想外の嬉しいことだが、これは扱いに困る。しかし、角谷杏であったのなら、ド・ゴールやチャーチルの向こうを張れる交渉力があるということ。実務上の利点を鑑み、困る黒江だった。が、赤松やルーデルの不在時にもミーナを丸め込める口の回る腹心を得た事は安堵の一言。

(こりゃ強力なカードになるぞ〜。ミーナ、悪いけど、今回も好き勝手させてもらうぜ。姐さんの後ろ盾もあるし)

芳佳は、角谷杏として、戦車道世界を生きた経験を明かした。これ以後、黒江の仲介で三将軍と対等に作戦会議で議論するようになり、「おっちゃん、熟練の戦車長って育ってる?」と鋭く切り出す場面も見られるようになるのだった。



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