外伝その118『最強の大海獣の宴(IV)』


――連邦軍は地上では前史同様、陸上戦艦隊を投入しており、半島陸上部はその艦隊による砲撃戦が行われていた。それに気を良くしたカールスラントがモンスター戦車の実制作に入るという副次効果を産んだ。これはネウロイの巣を覆う雲を吹き飛ばす『超爆風弾』と『魔導徹甲弾』が開発されていたからだが、ドーラをそれに使うのは『費用対効果的にどうなのよ』という疑問が浮き上がり、ラーテが比較的に順調に進んだのと対照的に、モンスターは無理難題すぎるため、連邦軍からヘビーフォーク級陸上戦艦、ビックトレー級陸上戦艦、ガンタンクの供与で妥協する案が出された。ウィッチ閥はこれに反対し、80cm砲の魔導徹甲弾と超爆風弾の効果を力説して開発継続を主張したが、ラルから『怪異に対策を立てられた場合、それらは無意味だ』との意見具申があり、プロジェクト自体が中止となる。宙に浮いた試作弾は試しに、欧州方面で使用されたものの、後者は巣の雲がシールドになる効果が発見され、二発共に無意味と終わり、前者は燃料気化爆弾で安価に代用可能であり、量産価値はないと判断された。また、怪異の巣の中心にいる大物怪異も、反応兵器やスーパーロボット、超次元戦闘母艦を使えば容易に消滅可能であり、ラルの意見具申は正しかった事になる。ウィッチ閥は自分達の存在意義を奪われてゆく現状に不満であったが、現実問題、ゴースト無人戦闘機には蹂躙される、接敵すらままならないという問題がある――

――富士 艦内――

「各地のウィッチ閥はクーデターを企んでいるようだが、情けないかぎりだ。数百年単位で未来の兵器に今の装備で対抗しようなど。それに、現時点の最高性能機にも相手が覚束ないというのに」

ラルは、F8Fやシーフューリー、テンペストと言った現有技術の粋を集めた機体にすら対抗がままならないのに、未来世界最高峰に近いゴーストに対抗できないと嘆くのは不相応とだと示唆する。ウィッチは軽装備を好むのが災いし、対超重爆迎撃などの任務では火力不足に陥る場合が多く、それ専門の部隊でさえも20ミリ砲すらも持ってない事も多く、B-29や36の箱型方陣には無力だった。それを踏まえ、ラル達は最低でも20ミリ、できればリボルバーカノンかガトリング砲が欲しいのである。その理由は『怪異と違って、爆撃機は装甲の弱体化が起きるわけでもないから、大火力でねじ伏せるだけだ』というモノである。当時、扶桑では刀剣持ちが、欧州では斧槍(ハルバート)を振り回す近接系の技能持ちのウィッチが大物担当になるが、負傷率も上がってどうにもならない。それでラルは二代目レイブンズの持ってきたガトリング砲を好んだ。レシプロストライカーを扱うウィッチでは、15ミリ銃が大火力と言われるほど、携行する火器の口径が小口径であり、対人戦には無力ぶりを露呈した。紫電改の20ミリ4門の火力にも耐えられるほど頑丈な爆撃機やら戦闘機が次々と登場し、P-47に至っては、20ミリ砲を200発撃ちまくっても平然と飛んでいる頑丈さである。ルーデルのように、ジェット機も落とす37ミリ砲を撃てる者は一握りの超人のみ。これを解消する手段はジェットストライカーの普及あるのみ。だが、当時のジェットストライカーは機動性がとても制空戦闘に向かないため、オーバーテクノロジーである、第4世代ジェットストライカーを用いている。偶然、ジェットストライカーと武装の試作品を届けに、ウルスラがやってきたのだが……。

「中尉、悪いんだが、ジェット機はもう間に合っておるのだ」

「ど、どういうことですか?扶桑かブリタニアの試作機が?」

「そういう次元のものではないのだ。見給え」

ラルは、富士の格納庫(元は水偵用だが、現在はヘリコプター用)に置かれているそれを見せる。自分が持ってきた試作品が霞むほど洗練されたフォルムの機体、バックパック方式での固定武装、携行火器と思われる大口径ガトリング砲、誘導ミサイル。どれも試作品が古めかしく見えるほどのものだ。ウルスラは目が点になる。

「あ、あ、あの、少佐。こ、こ、この機体は
?」

「そう目をパチクリさせるな、中尉。この機体は数十年ほど未来の扶桑の主力機だ」

「す、数十年!?」

「元は、亡命リベリオンが1960年代の戦争の戦局逆転の切り札として作ったもので、それをライセンス生産した機体の改修型だ。レイブンズの人脈で前借り出来たんでな」

F-15は、黒江たちも現役の後期から終期にかけて使用している機体で三人の現役最終時にはF-4EJ/F-104Jからの更新途上にあった。二代目レイブンズの時代では次世代機への更新が始まり、『型落ちモデル』の立場になっていた。もちろん、全ての性能は自衛隊の有する実機と同等で、試作品との性能差は明らかだ。

「魔導ターボファンエンジンは高度30000mまで到達可能、火力もM134ミニガンと誘導ミサイルで申し分なし、この時代の課題である機動性も改善されている」

「この時代では過剰性能では…?」

「何、これでも23世紀の可変戦闘機に比べれば可愛いほうだ。あれらは衛星軌道に一分で出られる」

「……穴拭大尉が乗っていた機体ですね?」

「そうだ。あれらは宇宙でも使えるからな。君が持ってきた機体は『ハルプ』でテストでもしたまえ。我が隊に持って来られても、扱いに困るのでな」

第4世代ジェットストライカーを配備した部隊に取って、第一世代機は『何の冗談だ?』と言われるほど性能差がありすぎる。ウルスラは落胆したような表情だった。

「黒江大佐ですか?実はこういう理由でして…」

流石に気の毒と思ったのか、ラルは黒江に連絡を取り、真田志郎を紹介してもらうように手配する。それがラルなりの詫びだった。――







――ドラえもんズやのび太の警護についていた調は、出会った赤松からのアドバイスで、『ボウズからのフィードバックでエクスカリバーを得たのなら、既にギアに戦闘方法を縛られる道理は無くなっているぞ』と言われたのを期に、得意なヨーヨーの他、黒江からののフィードバックや、ベルカ時代の騎士としての記憶から、剣技に手を出すことを考えた。が、得物が西洋剣や日本刀では、師や翼とかぶるため、思いついたのが、自分もプレイ経験があり、黒江からのフィードバックでも、その形状を鮮明に覚えている『龍王破山剣』を作ってしまえというモノだった。幸いにも、ベルカ時代に戦乱を生き抜くため、日本系の移民が持ち込んだと思われる法術を習得していたのもあり、意外と簡単に出来た。『巨大な符が現れて炎上し、そこから生成する』剣。使用時は大まかには柳葉刀のような形状であるが、続編では相方に譲り、虎王斬神陸甲剣となっているが、それ以前の龍王破山剣としての姿を再現した。剣技では黒江以上の達人である赤松が側にいるため、赤松が手取り足取り指導し、即席で覚えさせた。ベルカ時代にある一定の水準には覚えるしか生活の糧にならなかったのもあり、基礎はできており、実戦での呼吸を覚えるだけである。そのため、武器としてはその頃に使っていたデバイスのレプリカも選択肢になるが、今回はテストも兼ねて、龍王破山剣を使うことにした。

「で、できた……まさか本当に」

「まぁ、エクスカリバーを得た以上、ギアには縛られなくなっておる証拠じゃよ」

黒江がギアの力に縛られないのは、昇神もあるが、エクスカリバーという聖剣を得たおかげである。その恩恵が調にも及んだのだ。ギアの力をエクスカリバーの聖剣としての力が上回り、自由意志で武器を形成できる。調の場合は法術を習っていたおかげもあり、複合効果で龍王破山剣を形成できたのだ。

「剣を持つ時の決めポーズは、パースを効かせんといかんぞ?ボウズは日夜、その研究をしている」

「な、なんでですか?」

「個人的趣味もあるが、ボウズは有名人だから、何かと広報にも起用されるのだよ。構えは相手への威圧の意味があるしな」

「こ、広報って……」

「軍隊というのは、一般受けするように、色々と工夫を凝らす必要がある組織なのだよ」

「一般受け、ですか?」

「そうだ。そうでなければ、志願者数は確保できんからの。新人を常に確保しておかんと、何があるか分からんしな」

赤松はぶっちゃける。軍隊は志願者を常に一定の水準に保たないと、組織の循環がままならない組織の典型である。

「行進とかで見映えを気にするのは、身体のコントロールが確り出来るほど訓練が行き届いている事を示したり、一糸乱れぬ統一行動で部隊の絆を示す意味もあるからな」

「そうなんですか」

「お嬢ちゃんの世界のアメリカ軍がそうだ。なんだかんだで、我々は大日本帝国陸海軍の同位組織だ。ドラえもんの世界の日本が嫌悪感を示そうがな」

大日本帝国陸海軍。調から見れば、100年近く前に滅んだ軍隊である。彼らも、その事には気を使っていた。末期の体たらくぶりばかりが有名だが、日露戦争時代や太平洋戦争開戦前は間違いなく、アジア最高峰の軍隊であったことは疑いの余地はない。扶桑皇国軍は、大日本帝国陸海軍ととても良く似ており、それが日本の一部勢力が『自衛隊化』(軍備縮小とアメリカナイズ化)を企んでいる要因でもある。特に、前世紀のカールスラント軍の影響が大きい軍関連の法令や陸軍組織を排除し、史実米軍のそれに塗り替えようとしていることは強引であり、内政干渉もいいところだ。そのため、レイブンズや源田達は『緩やかな移行』を志向しているが、日本左派は『関東軍は排除!』というトンチンカンな勘違いで動いているところがあり、扶桑陸軍から関東軍に在籍していた事が知られている人材の排除を目論んでいた。

「我々は何せ、この作戦が終わったら、本国のクーデターを鎮圧せねばならん立場なのでな。内政干渉まがいの圧力への不満が暴発寸前に来ているのでな」

「ドラえもんからそれは聞きましたけど、私が知る歴史みたいな『過激な青年将校達のクーデターではないんですね?」

「もっと根が深いところの問題だ。青年将校どころではないよ。こちらでは中国大陸も朝鮮半島も明朝と李氏朝鮮の時代に一緒くたに滅んでいる。我々がウラル山脈付近まで領土を拡大したのは、オラーシャから合法的に購入してのもので、戦争で分捕ったわけではないし、関東軍の関東そのものが成立し得ない」

「それが問題に?」

「うむ。奴らはどうも怪異のことをよく知らず、我々が侵略戦争でロマノフ朝から領土を分捕ったと勘違いしておるらしくてな」

「なんでロマノフ朝は領土を売ったんですか?」

「当時の皇帝が『国土を広げすぎても防衛できないのでは、意味がないではないか』という財政重視の考えを持っていて、当時、織田幕府が拡大志向だったのに目をつけて、ウラジオストクからウラル山脈近くまでの領土を売却したのだ。アラスカのようなものだな」

織田幕府は合法的に大陸領土を得て、それは政府が近代化したこの時代でも国際的に承認を受けている。将来的な奪還も予定しているが、日本左派の勘違いによる圧力は南洋島の『委任統治をやめよ!』という、まさにアホウドリが鳴くところに来ており、大陸領土の放棄を迫っていた。日本政府も扶桑への内政干渉に対し、重い腰を上げ始め、野党は活動の大義名分を失い始めていた。(南洋島は委任統治領ではなく、正当な扶桑領である事、大陸領土もオラーシャから合法的に購入したものであることの公表から始まった)

「日本は民主主義を勘違いした者が多すぎるからの。同位国とは言え、我らは彼らの過去の姿である大日本帝国ではない。そこも分からぬ者が政治家に多い。ややこしいが、23世紀が21世紀に圧力をかける事態になりおったよ」

「??」

「先に23世紀のほうが接触してきて、我々の都合で、21世紀と接触したのだ。そのおかげで日本政府は地球連邦が将来的にできるのを知ったわけだ」

「タイムパラドックスじゃ?」

「そうだ。22世紀の頃に世界大戦が起きて記録が失われ、以後は23世紀に『再発見』されるまで接触が途絶えていたことになる。外務省もそれは愚痴ってたな。『いくら同位平行世界だからって、ウィッチの居ない世界がウィッチの勝ち取った領域についてあれこれ調べもせずに好き放題言うことが不遜だと言うことに気が付かないのだろうか?』と。だから、地球連邦が日本政府に直接圧力をかける事態になったのだ」

「ややこしいと言おうか……」

「仕方あるまい。21世紀の連中に、23世紀のお前らが先に来てました、なんて言っても信じるわけがないからの。おっと、敵さんがきおったか。その剣の良い試し斬り相手になるじゃろう。やってみせい」

敵モビルドールが現れた。巨大だが、龍王破山剣なら問題なく斬れる。そう促す赤松。調は龍王破山剣を思い切って構えてみる。すると。黒江同様、ギアが龍王破山剣の力に反応し、ギアが限定解除された。

「嘘……ギアがエクスドライブになってる…?」

「ボウズと同じく、腕のエクスカリバーの力がその剣を持つ事で開放され、シンフォギアのロックを物理的に解除させたのだろう。ベルカで基礎はできとるのなら、あれを斬ってみせい」

「こ、こいつ、ガンダニュウム合金製じゃないいですかぁ!」

「問題ない。必殺技というのはそういうものだ」

「こ、こうなったら一か八か、やってみるしかない!!」

『雷火の顎よ、敵を討て!!』

思い出しながら剣を振るい、ビルゴに龍王破山剣を突き刺す。その際に剣の切っ先が龍の顎を形どり、そこから一気に振り下ろす。

『龍王破山剣!!逆鱗だぁ――ん!!』

曖昧な記憶からの叫びだが、意外と良い感じのシャウトだった。調は内心、『翼先輩や切ちゃんが見てたら大事になるかも、これ』と嘆息したが、感触は悪くない。ベルカで騎士だったせいもあるだろう。だが、別の問題もある。

「師匠、姉弟子たちにアガートラームと天羽々斬を渡したとか言ってたな…。先輩達、どういう顔するだろう」

「お前の友達から電話が入ってる。通信は規制しているから、ギアへの直接通信は控えるように言ってあるから、スピーカーにしてある」

「え、切ちゃんたちから!?」

電話に出ると、切歌の怒鳴り声から始まり、そこから残りの装者全員との会話になった。会話の内容は『調だけがどうして、戦闘への直接参加が許可されたのか』、『黒江が言っていたギアのコピーの詳細を教えてくれ』、『なんでユニゾンが許可されなかったのか』と言った切歌の不満などだった。切歌は調と共に戦場を戦いたいという気持ちに変わりはないのだが、実力に差が開いた、小宇宙の開放ができないと最低条件を満たせないという事を伝えた。赤松も『鎌のお嬢ちゃん、そこは仕方あるまい。今のお前では足手まといになるだけだ。他の者もそうだ。ギアに頼っているだけのお前らなど、儂らなら瞬きする一瞬で皆殺しにできる』とはっきり告げた。今、現在の実力差ははっきりとそうだった。赤松や黒江の実力なら、本気を出せば、エクスドライブ状態の装者らであろうと、一瞬で皆殺しにできるほどの差がある。

『調が遠くに行っちゃうデス……。なのに私は……弱いままデス……。なんでデスか……』

『ならば、強くなれ。思いがあれば、人はどこまでも強くなれる。最下層の戦士でも、オリンポス十二神を殺めるほどに強くなった男を、儂は知っている』

オリンポス十二神を殺めるほどに強くなる。それが考えられる究極点。神殺しである。星矢はそれに至った。赤松が示唆したのは、その彼のことだ。星矢は聖闘士として、もはや並ぶ者がない強さを手に入れた。恐らく、神を殺した一瞬、星矢はナインセンシズに到達していたと思われる。ハーデスに決定打を与えたという点で、神殺しの属性を得た星矢は、黒江らが支えるようになった時間軸の聖域では、紛れもなく『最強』と呼ぶに相応しい。赤松も残りの三人も、『神殺し』を起こしてみせた星矢を尊敬しており、その戦友である紫龍ら4人にも敬意を払っている。

『神殺し……』

『そうだ。それは人の手でなされて来た。だから、そう悲観的になるな』

『そっか、そうデスよね……えーと、あなたは?』

『ボウズの保護者だよ。ワシは赤松貞子、軍隊階級は特務少尉。以後よろしく頼む。ガッハッハ』

赤松は持ち前の豪快さで、切歌を圧倒した。黒江の保護者を公言するあたり、黒江らの保護者代わりとして派遣されたことは自覚しているらしい。一人称が儂、笑い方も『ガッハッハ』であるなど、おおよそ女子とは思えない特徴に、受話器の向こうで装者達が呆気にとられているのは、子どもでも容易に分かることだ。

『と、言うわけだから、切ちゃん。まだ仕事があるから』

『調、帰って来るデス……。死なないで……』

『分かってる。私は……ベルカの騎士として、恩を返すだけだよ、切ちゃん』

ベルカの騎士。調は10年ほど、『最後のゆりかごの女王』オリヴィエ・ゼーゲブレヒトに黒江の姿で仕えていた。その経歴と経験からか、すっかりベルカ騎士としての誇りに目覚めたようで、西洋的な騎士道精神に目覚めたらしき言動を見せた。調の精神年齢が『25歳』ほどに成長した状態になっている事、10年間の古代ベルカ生活が濃厚な体験を齎した示唆だが、そのため、切歌は一抹の寂しさを滲ませる。『どうして、自分も巻き込まれなかったのか』、『フィーネの器が調だったり、黒江が調の姿を使っていた事に納得がいかなかった自分は傲慢から世界を危機に晒した』という負い目もあり、切歌は調とともに有ることを渇望するようになっていくのだった。



押して頂けると作者の励みになりますm(__)m


<<前話 目次 次話>>

作品を投稿する感想掲示板トップページに戻る

Copyright(c)2004 SILUFENIA All rights reserved.