外伝その131『連邦軍の残党狩り』


――黒江達は休憩を終え、主戦場になっているヒスパニアへ飛んだ。そこでは、MSやMA、スーパーロボットが乱舞するギガントマキアとも言える光景が繰り広げられていた――


――ヒスパニア――

戦場の主役はここでは23世紀型兵器群で、ウィッチたちは主に観測役・偵察役だった。連邦軍は機体数の確保のため、旧型の改修機も少数ながら投入しており、ジム・スナイパーUの残存機の近代化改修機が狙撃兵として稼働していた。

「あれが連邦軍の『狙撃兵』なの?定ちゃん」

「一年戦争の最末期に生産されたエース専用のジム。ジムスナイパーカスタムの上位機で、元から初代ガンダムより強いジムだよ」

迷彩色に塗られ、狙撃態勢を取るジムスナイパーUを上空から見る下原とジョゼ。ジムスナイパーUの狙撃用ライフルは『75mmスナイパー・ライフル』。Kar98kをMS用に再設計した実弾ライフルである。モデル元を忠実に再現したので、ボルトアクション式である。彼らの射程距離に入った量産MSの多くはメインカメラと脚部、バックパックを狙い打たれ、擱座して放棄されたりして鹵獲されている。


――比較的静かな発砲音と共に放たれた弾丸が、ティターンズ制式採用の機体では最旧式の一つであるジムUの脚部を打ち抜き、転倒させる。また、その護衛部隊の機体は『RX-81ST』と『RX-81LA』であるなど、比較的年式は古いが、基礎ポテンシャルが高い機体が駆り出されている。それらは大型MSの完成形であるジェガン系列のパーツに駆動系が入れ替えられており、ジムスナイパーUには即席の増加装甲も施されており、黒褐色の増加装甲と機体の濃淡灰色のカラーリングもあって『ポリスメン』と呼ばれている。連邦軍が比較的新しい時期に採用した市街地迷彩である――

「護衛部隊の機体もなんだかカッコイイ造形だし、なんだか、本当に兵器?って言いたくなるよ」

「連邦系は初代ガンダムが技術的な祖だからね。角ばった形のが多いんだよ」

「なんだか、ウルスラ中尉が見たら憤慨しそうな造形の多いね」

「仕方がないよ。ジオン系のデザインのも多いんだけど、ティターンズは元は連邦軍の憲兵が誇大化した組織だから」

連邦系MSは兵器とは思えないほどにスタイリッシュなデザインが多いからか、ウルスラが苦言を呈していたのを下原に伝えるジョゼ。しかし、ティターンズはジムU/ジム・クゥエルの旧式化後の主力機はジオン系と連邦系のハイブリッドデザインなり、ジオン系のデザインなのが多い(ハイザック、マラサイ)。カールスラント人は兵器にデザイン性をあまり求めないためだが、連邦系MSの量産機はジェガンに至るまでに、無骨なデザインを持つものも多く存在したのは事実だ。

「ジェガンの前の段階だと、無骨なのも多いんだけどねぇ。初代ジムなんて、カッコイイのとはおおよそ無縁の機能優先デザインだよ?」

「うーん。それ、ウルスラ中尉に言ってやってよ。この間、ハインリーケ少佐に屈曲銃身を見せて、駄目だしされてたし…」

アルトリアはその変わりように驚かれつつも、物腰が柔らかいため、評判も良好である。しかし、ハッキリとモノを言うため、ウルスラは意外にダメージを与えられていた。屈曲銃身は45年当時の冶金技術では、曲げた銃身が多くの弾の発射に耐えられず、150発ほどで交換になるという実用性の低い代物。それを丁寧な物腰でとは言え、ハッキリ言われたので、ウルスラは落ち込んだわけだ。

「少佐、なんだか変わったよね?以前は我儘で世間知らずって言われてたのに、今は物腰が柔らかくて、それでいて凛々しくて……なんだか憧れちゃうなぁ」

「あ、やっぱり?」

ジョゼは下原にいつもくっついているが、ハインリーケが『アルトリアになった』事はまだ知らなかった。彼女の改名もまだ公にされていないからだ。アルトリアはハインリーケとしての姿と態度を公の場では見せて来たが、作戦中からは『本来の姿』に戻り、エクスカリバーも使用した。この事で、日本の自衛隊から応援に来ていた隊員らが狂喜乱舞している。なお、この時に、青い騎士服が自衛隊の有志一同から送られたのは言うまでもない。(後日、アルトリア当人は苦笑したというが、悪い気はしないので、それも使用したという)

「あ、定ちゃん。私達以外のウィッチ部隊が敵の無人機に挑んで、全員が未帰還に終わったなんて知らせが」

「ゴーストにふつーのウィッチが?なんて無謀な!死ぬために出てきたの、その人達。どこの阿呆?」

「ヒスパニア空軍だって」

「極超音速で高機動できる無人戦闘機に普通の装備で挑むなんて、恐竜に丸太で挑むようなものだよ。ヒスパニアの指揮官の顔が見たいよ…」

『どー考えてもキチガイ沙汰です、有難うございましたーだぜ。ったく』

「あ、先輩。プルトニウス取ってきたんですね。それとそのゼッツーは誰が?」

『ああ。Gのお前には知らせておく。こちら、ジャンヌ・ダルクさん。モノホンの』

「ほえ?」

『ど、どうも。転生したもので……』

「は、はぁ。ジョゼがいるので、それはちょっと……」

『いえ、それはもう遅いみたいですよ?」

「?」

『下原、うしろうしろ』

「どうわぁ!?」

下原が振り返ると、ジャンヌ・ダルクという単語に反応したか、ジョゼがくっついていた。ジャンヌ・ダルクという名が効いたらしい。黒江が笑いつつ紹介する。

『ジョゼ。こちら、元ザフトのルナマリア・ホークさんと混じってるけど、かの聖人のジャンヌ・ダルクさんだ。Gウィッチの派生系のFウィッチになる』

『ええ。私は紹介の通り、ジャンヌ・ダルクです。ですが、今更、聖人とか言われても困るし、もう神様に振り回されるの勘弁してって言いたいわ……というのが本音ですが。もう数百年は昔の事ですし』

一時的にオルタであった名残りと、ルナマリアとしての性格が入ったり、黄金聖闘士らに説教されたため、生前よりかなりぶっちゃけている。

『紛いなりにも神様なんだけどな、私は』

『貴方は黄金聖闘士でもあるじゃないですかぁ!!なんですか、あの豪華なラインナップ!私を口説き落とすのに、あんなに呼び出します!?』

『ゼウスのおっちゃんに言ってくれ、それは。私の管轄外だっつーの』

「あの、中佐?」

『こっちの話だ。さて、スナイパー連中を守るぞ。ジョゼ、お前は偵察、下原は観測、私が前衛。ジャンヌは後衛だ。ジャンヌ、いざとなったら、整備班が意気揚々と追加で持たせた手持ち式ビームフラッグを媒介に、『我が神はここにありて』を使え』

『了解』

黒江が指示を飛ばし、一同は上空で待機したり、戦闘を行う。ドダイ改を使い、スナイパー潰しに来る敵機は多く、数のあるマラサイが中心であった。マラサイはハイザックよりは高性能、トータルバランスは良いが、重量が重い難点がある。宇宙では百式にも肉薄する機動力だが、地上での立体戦では短時間の飛翔もできるが、MS形態でも飛行ができる正規軍の新鋭機に比すると、旧式化は否めない。また、相手にしたのが新鋭のガンダムタイプである不運もあり、火力差は歴然であった。

「くそ、くそ、くそ!!ビームが通じねぇ!!それに、空中をなんであんなに、身軽に動ける!?」

ティターンズ兵らはZプルトニウスにビームライフルを撃ちまくるが、プルトニウスのフィールドに阻まれ、全く効かない。これぞ24世紀相当技術で強化された機体の威力である。

『んじゃ、義経で行くか!』

黒江は、機体をMS形態でドダイの上を敵機を蹴落としながら八艘飛びで駆け回る。源義経さながらの動きで。蹴落とした機体はバックパックだけを撃ち抜き地上に叩きつけている。憤慨した一機のマラサイはスラスターも併用して押し返そうとするが。

「馬鹿な、華奢なゼータにパワー負けだとぉ!?」

逆にパワー負けし、持ち上げられて、ぶん投げられて落とされ、そこを狙われて落ちていった。

『へっ、ゼータ系列は出力とトルクはやたら太いんだ。旧式のマラサイなんぞ目じゃない』

勝ち誇る黒江。プルトニウスのパワーはZ系列では最強クラスの出力とトルクを誇り、尚且つ機体構造もやたら頑丈であるので、黒江の好む戦法にも耐える。その証明だった。その援護を行うジャンヌ。元々がザフトのエースだったルナマリアのそれを引き継いでいるので、射撃戦もそれなりにこなしてみせる。生前は旗を振って鼓舞したり、槍で突撃するのが役目だったが、今回は銃を使う役目である。ただし、たまに微妙に外しているところも受け継いでいるらしく、接近戦に持ち込まれる局面も多い。

「あ、やっぱ外したか。ビームサーベルでっと」

ジャンヌはMS戦時には、ルナマリアの特徴や思考が出るらしく、割と接近戦を好む。サーベルの扱いに長けており、むしろこっちのほうが適正があるのではないか?な勢いだった。ある意味では、彼女の伝承とイメージはMS戦では合っていた。

「一撃で止めようと狙うと読まれて回避されちゃうのよねー」

ぶつくさ言いつつも、格闘戦に入る。ジャンヌは接近戦では槍に近い取り回しのツインブレードを好むため、多分にルナマリアの名残りを感じさせる。黒江から伝授された戦技『アークインパルス』も使用し、空を駆ける。

「よぉし、とっかぁぁん〜!」

メガビームライフルをランス代わりに突撃するジャンヌ。射撃寄りの機体で接近戦をやらかし、吶喊という単語を口にする辺りは、連邦軍での教育が伺えると言える。黒江とジャンヌの活躍に見とれてしまうジョゼ。今回は裏方だが、まさかジャンヌに会えるとは思ってなかったらしく、すっかり舞い上がっている。

「あ、でも、そうなると、ド・ゴール将軍のプロパガンダどうなるんだろう」

『ああ、それなら、ド・ゴールがペリーヌに説得されて、あいつがしょげて終わったよ。それとチャーチル卿のダメ押しもされたそうだ』

「あ、中佐、うしろ!」

『大丈夫だ、任せろ。はぁっ!』

平成ライダー張りの回し蹴りで地面に叩き落とす。MSで行うあたり、黒江はガチンコ格闘戦ではめっぽう強いのが分かる。

『あ、言っとくが、大佐に上がってるからな?』

「本当ですか?」

『作戦中に辞令来たんだよ、作戦中に』

「なんでまた」

『前に上層部の査問があったろ?あれで、ミーナより上位にすべきってなって、私達の階級が上がったんだよ。ミーナも上がったんだが、ある兵士が通報して、査問がまた控えてるから、留学の時の再教育じゃ大尉待遇だそうだ』

「大変ですね」

『まぁ、今度のは形式上のものだけど、ミーナの人事評価はだだ下がりなんだぞ?』

「まぁ、二回も短期間に査問じゃあ…」

『通報した奴、多分、若い整備兵かなんかだから、こっちも対応が遅れてな。善意でしただろうから、査問は止められないし。仕方がないから、これが終わったら留学させて、なんとか穏便に済ませようって奴だ。多分、訓告程度になるが、人事評価は落ちまくってるから、対応策が『志願しての留学』しかなくてな』

敵機を落としつつ、黒江とジョゼは会話をする。ミーナは今回、坂本や竹井のおかげで、黒江らとのトラブルは回避できたが、別の方面で思わぬトラブルに巻き込まれ、部下の統制に苦労していた。それはGウィッチと通常ウィッチの相克の処理であり、通常ウィッチはGウィッチを敵視し、Gウィッチと無用の対立を起こす。今回におけるミーナの頭痛の種であった。また、サーニャの亡命の意思表明がされたので、怒ったサーシャがサーニャと口論になったので、レヴィとしての姿を公の場で始めて見せた圭子が場を治めている。

『あ、お前には言わないと。サーニャ、亡命すんだって』

「本当ですか!?」

『ほら、オラーシャで革命騒ぎあったろ?その時に士官学校時代の親友の『カーチャ』とかいうのが惨たらしく殺されてたらしーんだ。それでサーニャの奴、亡命するとか言い出して』

『ああ、それは私も聞きました。連邦軍の介入がなかったら、史実同様にソ連の樹立間違い無しなくらいに追い詰められてたそうですね?』

『しかし、共産主義者共が内乱を煽ってやがったから、カチンの森事件さながらの虐殺やら、血で血を洗う殺し合いが数週間吹き荒れて、結果、貴族や軍人とかの支配層の殆どは亡命だそうだ』

ロシア革命(オラーシャ革命)は成就こそ阻止はしたが、革命側がやたらめったに疑心暗鬼と憎悪を煽った結果、カチンの森事件もかわいいくらいの虐殺事件が数週間の間に数回も起き、その結果、ロシア帝国より国土が小さいオラーシャ帝国は軍・政府・治安機関の中央の統制が不可能となり、これ幸いと、ベラルーシ、ウクライナが独立(喪失)してしまう。軍隊の高級士官もほとんどが土の下か、亡命で、サーシャも帰国と同時にいきなり大佐に任ぜられると内示されている。サーニャも少佐昇進の内示が出たが、亡命する意思を伝えたので、共に国の再建をしようと考えていたサーシャの逆鱗に触れてしまったが、レヴィがその場を収めている。

『作戦中に揉めてる場合か?全ては敵をぶっ飛ばしてからにしろ、バカヤロウが』

レヴィはこの時は『リベリオン軍の情報将校』という触れ込みで姿を見せたが、サーニャは圭子であることを知っているので、ぬけぬけと第三者として振る舞うレヴィに、後で突っ込んだ。

「あの、大佐。それ、地ですよね?」

「『今回』はな。あのガキ、意外にヒステリックなところあるんだな。驚いたぜ」

「わざわざリベリオン軍の軍服まで着込んでくるなんて、思ってませんでした」

「そういうことにアイクのおっちゃんがしたからな。情報部のウィッチなんぞ、現場の大尉が調べたくらいじゃ情報開示されねーしな」

「でも、貴方が扶桑最狂って言われていた理由が分かりました。アウロラさんが尊敬してるっていっていたのは、貴方のそのところだったんですね」

「今回はこの性格で扶桑海ん時は通したからなー。だから、アフリカにいる時の性格は裏で猫かぶってるとか言われてたもんだ。アフリカでしっかりパットン親父達の世話焼き確りしといて良かったぜ」

「でも、まさかサーシャ大尉があんな……」

「気にすんな。色々降りかかり過ぎてヒステリックになってただけだ。少し頭を冷やせばいいだろ」

とは言うものの、サーシャの精神はこの革命騒ぎに纏わる事柄のせいで不安定化し、最終的にレヴィはもう一度ぶっ飛ばすハメになる。圭子がレヴィとしての活動を本格化させたのは、その方が無用なトラブルを避けられるからである。(色々と突き抜けているので、むしろトラブルを周囲が避けるからである)なお、機動兵器に乗る時はケイの姿に戻るので、『レヴィ』は普段の生活と生身での戦闘用としている。なお、扶桑海でレヴィの性格にしていたので、ケイであっても、性格はレヴィのそれになっている事も多くなる。(扶桑海で、ケイの姿でも、レヴィの性格や口調であったため、猫かぶりと、ケイとしてのキャラが評判になっていた事も大きいが)



『――ってなわけだ。レヴィのことは作戦後に閣下が公にする。それまでは機密事項だ。わかったな?』

「はいっ」

「先輩、あの光は?」

『ああ、私のガキがカプリコーンを纏ったんだろ。あいつは草薙の力があるかんな。呼んどいて良かったぜ』

「って、先輩、聖衣貸してるんですか?」

『後継者だし、そういう場合は貸し借りできるんだよ。私はサジタリアスでも使うさ』

「何気に贅沢してますね」

『黄金だしな。あ、アルトリアは休養に行かせたから、エクスカリバーは調の奴が放てる。これがまた受けがいいらしい。智子の息がかかった連中に動画をこっそり撮ってもらったが、意外に絵になってる』

「撮ってたんですね……」

『動画サイトにアップすると、小遣い稼ぎにはなるぞ。あいつがシンフォギア姿でエクスカリバー撃ってみろ。異色の組み合わせで受けるんだ、これが』

黒江は戦闘中でも、小遣い稼ぎは手を回して、手筈を整えていたようだ。呆れる下原。調もエクスカリバーの使い手であり、エクスカリバーをアルトリア同様に両手で天に掲げ、『エクス!!カリバァアアアアッ!!』と振り下ろして、極太の斬撃の光を放つその姿は、ストロンガーとRXも感心するほどの威力であり、装者たちは全員が茫然自失状態になった程だ。シンフォギア姿で行ってみせたのも、衝撃であり、剣使いである翼とマリアが『!!エクスカリバーって!!思い切りずるいぞ!!(わよ!)とすごく悔しそうに泣くほどで、ストロンガーとRXも『っち、巻き込まれちゃたまんねぇな』『リボルケイン顔負けだな。流石だ』とコメントしている姿が入っているので、アップ直後から視聴数はうなぎ登りだ。また、調自身の剣術も、黒江からのフィードバックと古代ベルカでの実戦経験が合わさり、黒江の義理の娘『黒江翼』(綾香の未来での大姪)に匹敵するレベルに飛躍しているので、ギアに頼らずとも、アルトリアに肉薄する動きが可能となっている。

『どうした?響。こっちも戦闘中だ』

「いや、その。エクスカリバーを調ちゃんが使えるなんて。何したんですか?」

『聖域で聖剣をもらっただけさ。あいつ、古代ベルカでそれなりの剣士になってたみたいでよ。だから、エクスカリバーが使えるんだよ』

「いやいやいや!?なんか違うような!?」

『調に聞いてみろ。アーサー王ご本人と対面ずみだぞ』

通信でそう答える黒江。黒江のアップした動画は大受けで、後で振り込まれていた広告収入に目が飛び出たというが、それは別の話。



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