外伝その136『鋼鉄のDフォース』


――武子は、扶桑でラー・カイラムを受領し、即座に出港させた。前史の記憶を有するGウィッチと、チーフメカニックとして、アストナージ・メドッソに出向してもらい、欧州に向かった――



――前線司令部――

「はい。こちら前線司令部……。なんだ、お武さん?何か用?……何、ラー・カイラム借りてきたぁ!?」

ハルトマンが応対し、驚く。武子の事は『お武さん』と呼んでおり、前史では、ハルトマンが武子の子孫らの法的後見人になっていた縁もあり、意外と気心の知れた関係である。

「ええ。ロンド・ベルに言って、ラー・カイラムを融通してもらったから、綾香達にはラー・カイラムが母艦になると言っておいて頂戴。ダブルゼッツー用の予備パーツ一式も積み込んであるわ」

「わ、分かった!」

――外宇宙用の宇宙戦艦の前には霞むが、ラー・カイラムもかなりの巨艦であり、全長:487m/全幅:165mと連邦軍の艦艇でもかなりの大きさである。これはペガサス級の代替も兼ね、単艦で戦線を張れる性能を求めたが故で、機動戦艦という連邦軍独自のカテゴライズがされている所以である。格納庫も設計当時の大型MS絶頂期を前提に設計されているので、Sガンダムのオプションを置いても余裕があるほどで、ペズンの反乱がなければ、ゼク・ツヴァイの母艦とも噂された。従って、ロンド・ベルに回された理由もその能力にある。武子はライトニングZ(Zガンダムの増加試作機を改造し、非変形機に直した代わりに、MS単体としての性能をプロトニウスの水準に上げた)をアナハイムから受領し、自身が乗ることにしている。ロンド・ベルからの出向者の母艦にはラー・カイラムが指定され、黒江達は原則としてラー・カイラムが母艦となった。



――戦場――

「ん?ハルトマンから暗号通信だ。……武子の奴がラー・カイラム借りてきたのか。あいつもやるなぁ」

レシプロ戦闘機を『ハエを落とす要領で』撃墜しながら、黒江は通信内容を読む。バルクホルンからは『状況D』との通信も送られてきており、事はそれほど楽観視できない。モンタナがラ級として登場したとすれば、ルイジアナに随行している個体は別艦という事になる。従って、ラ號の出撃をさせなければならない。

「状況Dだと?……何、今回はソビエツキー・ソユーズじゃなくて、モンタナだとぉ!?連中、ラ級を1943年から造ってたのか!?」

「モンタナがラ級に!?」

「ああ。しかし、たった二年もない内にラ級が造れるものか。いくら既存艦の改造と言っても、ニューレインボープランの完遂は1951年の予定なんだぞ、こっちは。バダンめ。半完成品でも送ったのか?」

ラ級の存在は地球連邦軍には既に知らされており、世界各国の建造計画も公になっていた。第二次世界大戦当時、ラ級戦艦は日英仏伊独ソが切り札として、熱心に研究する一方で、米は関心は高くなかった。当時のルーズベルト大統領がマンハッタン計画に熱中した上、素体に予定されていたモンタナ級の計画がミッドウェイ級空母に切り替えられた事もあり、英国へのポーズとしてでっち上げていただけだった。その計画は巡り巡って、ティターンズがバダンと繋がりを得たウィッチ世界への転移後、バダンに要請し、ラ級戦艦を建造する決意を伝えたのだ。幸いにも、計画の素体に予定されたモンタナ級の入手も、バダンから波動エンジンと重力炉、ドリルの入手も叶ったので、リベリオン侵攻前の43年から、鹵獲したモンタナを素体に改造していたのだ。バダン側の技術者は『ドリルとエンジンを2セット持ち込んだらドリル二つをモンタナに付けやがった。何を考えてるんだヤンキーは?』と、その外観に呆れたという。そうした努力により、モンタナ級のラ級化は成功した。二番艦の『リバティー』の完成はそのために大幅に遅延するため、バダンの技術者は『リバティーを遅らせてまで、二個も付ける意味は……』と呆れ、リベリオン側造船官は『あんなデケェもんブン回したらカウンタートルクがスゲェだろうが?二つ逆回転させりゃ解決さ!』とアメリカンスマイルで答え、あのバダンすらも呆れさせたという。

「しかし、モンタナを間に合わせても、単艦でラ號に勝てる自信があるはずは?」

「そこだ。本来の計画だと、リバティーとモンタナで挟み撃ちして、ラ號を封殺する計画のはずだ」

黒江の言う事は1945年当時の英国の計画書に載っていた本当のことだ。英国が本気でラ級を建造し始めた事に慌てた当時のアメリカ軍がでっち上げたのがモンタナとリバティーだ。当時のルーズベルト大統領/トルーマン大統領は原爆の絶対性を信じて疑わなかったが、戦後の原爆実験で旧式の戦艦長門が耐えた事にショックを受け、ラ級の計画を詰めさせたが、空母機動部隊閥が妨害し、立ち消えとなった。ところが、英国のインビィンシブルが颯爽登場すると、空母機動部隊閥は大ピンチに陥った。海軍はトルーマン大統領の責め苦に窮し、朝鮮戦争を名目に、アイオワ級の復帰でお茶を濁した。最も、世界大戦の勝利で、アメリカ海軍と渡り合える海軍力が想定されていなかったので、インビィンシブルの登場にも米海軍は冷淡だったが。

「未来世界の過去の記録だとな、インビィンシブルの登場にも関わず、アメリカ軍は冷淡で、核兵器搭載艦載機の配備で葬り去った。原子力潜水艦閥も出てきたしな」

「完成はしてたんですか?」

「英国に『戦力化見送り』の極秘電がアイゼンハワーの時代にされてるから、ほぼ完成してたんだろうな」

「それをティターンズが?」

「当時の機密ドックは封鎖されていたが、施設自体はエリアなんちゃらのノリで維持されてたみたいだから、ティターンズが敗北前に持ち出していたとしても不思議じゃねぇが…」

「修理と改装だから、時間が短かったと?」

「モンタナがこんな早くに出てきたとなれば、それが正解だろうな。だが、リバティーはドリルついてない状態だったらしい噂があるが…?」

黒江の推測は、未来世界の過去の記録に基づいたものだ。未来世界の過去の関係国の記録によれば、日本はラ號とその姉妹艦用に購入していたが、ラ號のみが戦後に形となったし、英国もインビィンシブルのみが、ソ連もソビエツキー・ソユーズのみと、ローテーションを組めるほどの数は作れずじまいである。リバティーは正確に米国製かは怪しく、米国の命名規則に合致しない所もある。

「わかんねーな。リバティーじゃ命名規則にあたんねーし。当時の記録、殆ど残ってねぇから、どういう姿でリバティーが完成していたのかは」

「どの道、ラ級のデモンストレーションにはなりますよ。これで当時の優位性がわかるし、21世紀には」

「この戦は21世紀にも中継されてたな……。大艦巨砲主義バンザイだな、こりゃ」

ジャンヌにそういう黒江。大艦巨砲主義は核兵器を嫌う日本には悪い風潮ではなく、核兵器を作るよりは、戦艦を作るほうが政治的に揉めない。21世紀当時の日本には手っ取り早い選択肢だった。大和のみ残そうか?と、連邦化時の交渉でそう提案したのも、その証明だ。




――扶桑の戦艦は連邦化交渉時の懸案の一つで、2010年代に入った頃には、日本の国政選挙で保有の是非が議論された事もある。特に問題視されたのが、扶桑の戦艦の数が多いことでもあった。当時、扶桑軍解体が国際情勢的に不可能であると知れ渡っていたが、左派はめげずに『軍縮』を叫んでいた。そのため、無駄と思われた戦艦の存廃が議論された。当時、10隻以上の戦艦の存在が知れ渡っていたので、日本の国会では、『長門を記念艦にして、加賀型と紀伊型の解体、大和のみ客寄せパンダで保有する』という案が革新政党から出された。これは大和の能力の評価だと、革新政党は謳い上げた。史実なら、武蔵は年代的に沈んでおり、それを前提にしての事だったが、扶桑ではなんと、111号艦(大和型四番艦)までもが大和型戦艦として、無事に竣工し、全艦が健在なのが予定外だった。大和型が計画通りに完工しているのは、日本には信じがたい事実だった。しかも更なる次世代型たる『超大和』すらも就役し始めているし、対抗国家のリベリオンは大和と同等の大きさの大型戦艦をそれこそ『クルーザー』感覚で生産しているという国会答弁もなされた。正に大艦巨砲主義である。核兵器がなく、潜水艦も発達していなければ、戦艦は海の女王であり続ける事実に愕然とした日本の議員たち。潜水艦の発達を全力で阻害する『ウィッチ閥』の存在もあり、リベリオンはガトー級潜水艦の量産が覚束ない状態が続く。その間に、扶桑は後世の高性能潜水艦を量産し、史実太平洋戦争と立場が逆転した状態でリベリオン潜水艦隊は開戦を迎える事になる。ウィッチ閥は扶桑とカールスラントを皮切りに、衰退を起こし始める。これはG/Fウィッチ達が意図的に引き起こした流れでもあった。これは潜水艦の威力を知る者達がウィッチ派閥を黙らせてでも推進させた潜水艦量産が功を奏したためであり、作戦中の段階で、けんりゅうまでが旧式の伊号潜水艦を代替している。海自の協力により、伊号潜水艦で培われたノウハウが、海自現用潜水艦によって証明された事になる。攻撃型潜水艦の保有に否定的なウィッチ閥であるが、呉襲撃の際の対潜戦闘で醜態を晒したことをGの派閥に晒された事もあり、潜水艦建造計画に物申す事は不可能になった。そのため、派閥抗争は新たな局面に入っている。改革派かつ、ウィッチ至上主義に否定的なGウィッチ派閥と旧来の既得権益を重視し、全てはウィッチのためにあるとするウィッチ閥。しかしながら、旧来の派閥も通常兵器の異常な発達が理解できないわけではない。通常兵器分野でも、戦艦に旗艦任務を担わせるのを時代遅れとする改革派(それを後押しする海自&米軍)と、日本のマスコミや扶桑軍保守派提督ら(豊田副武や栗田健男など)の対立もある。これは大和型戦艦の建造目的にも由来する大きな問題だった。これは大和型戦艦を『軍馬』として使い倒したい改革派(と、艦娘:大和)と、代替の旗艦とされた軽巡洋艦大淀と仁淀が『乙巡』であるのを理由に、『戦死するなら、大和型のデッキで死にたい。こんな船の上ではいやだ!!』と述べ、それに憤った日本のある義勇兵に精神崩壊寸前の説教(皮肉にも、その義勇兵は彼の同位体に日吉で仕えていた者だった)を受け、豊田は軍病院で精神治療を受けるハメになる事件も起こっている。(その後、豊田副武は今回も大和型戦艦を率いて、殴り込み作戦の指揮を執る羽目となるが…)日本連邦の統治下の扶桑軍は大和型戦艦を軍馬扱いで使い倒すため、大和型戦艦を更に増やすという予定外の事をしなければならず、大和型戦艦五番艦『三河』と、超大和型戦艦五番艦(正確には、播磨型三番艦)の追加建造も行う事になってしまう(播磨型四番艦は後に、ラ級へ変更される)が、旧式戦艦が艦隊戦で『物の役に立たなくなった』という事情も絡んでいた。日本から見れば『物の役に立たなくなった』(モンタナやアイオワに勝てないから、戦艦として無意味)という認識だが、色々な事情もあり、造船から10年以内の紀伊型を早々に退役させるのは割に合わない選択で、扶桑では、『主力や決戦兵器として力不足になったのは否めない』という認識であった。そのため、別用途化、あるいは補助艦(航空戦艦や揚陸支援艦化)化を予てより予定していた。日本側は当初、『紀伊型は大正時代の造船なんだから、古いでしょ』の認識だったが、扶桑では昭和に入ってからの造船と知らされ、評議会で喧々諤々となった。これは天城型巡洋戦艦(赤城型空母)を挟んでいたがためで、設計は古いが、実際は昭和に入っての建艦なので、尾張の就役は32年、駿河は33年と新しめだった。大和型戦艦はそれを経ての建造なので、史実より性能がだいぶ上だったのだ。ワシントン軍縮条約の規定も史実とは違い、旧式艦の代替枠がかなり認められており、紀伊型は扶桑/伊勢の代替枠の名目で造船されていた。大和型戦艦に必要な技術を得るためだ。扶桑海が初実戦だったが、黒江がISで紀伊を半壊させてしまったので、即刻ドック入りの羽目となり、その修理よりも大和型戦艦の造船が急がれたので、紀伊も尾張も、後期二隻も連合艦隊旗艦の任は拝命せずじまいであった。その大和型戦艦も、黒江達が存在をリークしたおかげで、各国が対抗艦の建造に邁進したが、結果として形になったのは数ヶ国だけであるが、最有力国がまとまった数を揃えたのも、艦政本部を震撼させ、どさくさ紛れで超甲巡も復活したのだ。この調子なら、リベリオンもダニエルズプランが通りそうだが、世界恐慌の影響か、サウスダコタ(ダニエルズプラン型)もレキシントン級も殆ど完成しておらず、その代替が新戦艦の量産なのだろう。(段階が進んでいたものは空母になったと思われる)新戦艦がその分増えており、それをティターンズ主導で改モンタナに切り替えられるため、扶桑が10隻沈めても、二年で補充可能な生産力がある。それが国力の差である。扶桑軍が超大和型戦艦を必要としたのも、数の暴力を質で越えようとしたからだった――



――話は戻り、戦場――

「この戦で、ウィッチは今までの立場を失うだろう。『オレ』達が活躍しても、それはウィッチ本来の姿ではないし、お前達は英霊としての活躍だ。戦闘機部隊以下の戦果しか記録できねぇ部隊も出るだろうから、間違いなく、ウィッチ部隊は指で数えられる程度の数に落ち着く。前史より増えるだろうけどな」

『君の国はウィッチのおかげで栄えた。その分、ウィッチがいやすい国だ。だが、その他の国はそうもいかん。そこにいるG/Fはどうするんだ?』

「軍を辞めて、ヒトの平均寿命の年齢になったら、そっちに移住させますよ。不老不死になった以上、どこかで故郷を捨てて隠棲しなけりゃならないけど、オレ達の才能的にそうはいかないだろうし」

黒江は一人称がオレになると、前史を戦い抜いた聖闘士としての姿を垣間見せる。これは「私」を使用する機会が、前史の晩年は減っていた事も関係しており、菅野とキャラが被るため、人前ではあまり使用していなかった。だが、Gウィッチとしては『私』でなく、『オレ』がむしろ彼女の本質であった。

「オレって言うのは人前じゃ避けてたけど、今はお前らしかいねぇし、使うわ」

「それが、貴方の転生者としての本質なのですね」

「菅野とキャラ被るから避けてたんだ、これ。使ってたの、前史の晩年期だし」

『しかし、面白い事になったぞ。これでボクっ娘が増えた事になる。お前の世界、多すぎだぞ?』

「しゃーないですって、鉄也さん。軍隊に行ってボクっ娘になるのって多かったんですよ。オレを本格的に使い始めたのは、聖闘士を本格的に始めてからだし」

『君がオレというとはな。いやはや、意外な感じだよ』

「一人称、結構変わりますよ。覚醒で。『妾』が『私』になったり、『私』(わたくし)がオレになったり…」

『君らは色々な経験を引き継いでいるからだろうな』

実際、ペリーヌは丁寧なお嬢様言葉がモードレッドの覚醒後は『オレ』で通している(モードレッドも丁寧な口調はできないわけではない)。ハインリーケはアルトリア化で『妾』は殆ど用いなくなっている。

「任務じゃ、私を使いますからね。後、菅野や若本とのキャラ被りもありますね。扶桑海で若本にそれでちょっかいを出された事あるし」

『返り討ちにしたんだろう?』

「ええ。ライトニングプラズマで。あいつが覚醒の兆候出始めたのそれがきっかけらしいんで。個人差あるんで、オレに親しい連中は扶桑海で、そうでなかった連中はバラバラ。ただ、アルトリア達は連邦との接触以降に兆候が出て、ペリーヌみたいにいきなり覚醒のケースも」

「私達は貴方方とは別枠ですからね。気になりますね、その辺の事は」

ジャンヌもその辺は気になるようで、言い方がルナマリア寄りになっている。

「んー…、レシプロ機相手なら片手間だから、話してやるよ。あれは――」



――二回目のやり直し中の扶桑海事変初期――

「でよ、智子の奴にウラジオでコーラ調達に行かせたんだよ。私のほうが先任だしよ」

「あたしに言えば、ついでにあの諜報部員のツテで色々してやったんだが?」

圭子(口調はレヴィ)とプライベートな会話をしていた黒江。プライベートな会話だったので、二人共すっかり地を出しており、黒江は一人称がオレ、圭子もレヴィの調子(口調、声色共に)であった。圭子は今回、智子との喧嘩をきっかけに、レヴィの口調と声色で通しており、それから一週間もすると、『戦闘狂』、『扶桑陸軍の狂気』などと噂され、畏れられていた。部隊内でも武子(未覚醒)には正気を疑われる事にもなったり、江藤をビビらせたりと、やりたい放題であった。

「お前、今回はそれで行く気かよ」

「いいだろ?行儀の良いお母ちゃん面するのにもよ、三回目になるとウンザリしてんだよ」

圭子は二回の人生を品行方正、母性属性ありで過ごしたので、いい加減にウンザリしており、戦士としての側面を強く出したい願望でもあったのか、前史で見たブラックラ○ーンのヒーロー『レベッカ・リー』の口調などを真似ていた。そのため、黒江に呆れられたのだ。

「ま、オメーのやることだ。オレは口挟まねーよ」

二人がそうして話していると、二人がいるところへ若本がやってきた。当時はまだ子供なので、場の空気を読むことを知らない。覚醒していた竹井が止めたが、若本の性格的に乱入は止められず、竹井は内心で『どうなっても知らないわよ、徹子…』と、無事を祈っていた。

「これは、これは……。普段、小洒落た物言いの陸軍さンが随分荒れた物言いなさって珍しいですな?」

「あん?なんだ、ガキンチョ。大人の世界に首を突っ込みにでも来たのか?随分とマセてやがる」

圭子はこの調子である。目つきが悪いので、覚醒前の竹井なら完全に怯えているところだ。プライベートタイムを邪魔された黒江は思い切り虫の居所が悪くなり、半ギレであった。

「じゃかましい!!人のプライベートを邪魔しやがって、このマセガキが!!仲間内の会話に嫌らしい物言いで入ってんじゃねー!!ついでだ!!聞かせてやるぜ!!獅子の咆哮を!ライトニングプラズマぁぁ!!」

光が走る。若本は光の軌跡に翻弄され、部屋を跳ね回る。黒江の虫の居所が悪かったのだ。若本はこれで完全に昏倒し、圭子がソファに寝かせた。

「すみません、止めたんですが……」

竹井が入ってきた。Gへ覚醒済みなので、口調は青年期以降の落ち着いたものだ。これは黒江達の前にしか見せていない。

「竹井、若本を躾けておけよー。綾香がキレたら聖剣ブッパすんからなー」

「徹子は悪気はないんですよ。たぶん、貴方達をからかうつもりだったかと」

「冗談にしても言い方が気に食わねえ、修正だしゅうせー!ぶつかってもダメージ入らない様に飛ばしてるから、目を回してるのと電撃の痺れだから朝には治る」

「武子さんがいたら怒ってますよ」

「あいつはこの戦が終わんねーと覚醒しねーからなー。ケイ、お前の事で黄色い救急車呼ぼうとか…」

「おいおい、人をキ○ガイ扱いかよ、あいつ。あとでぶっ飛ばすかな」

「できれば、穏便にお願いしますよ」

「美奈子のことがあるから、手荒にはしねぇって。単に脅すだけだってぇの」

「ん?待ってください、黄色い救急車って、戦後の都市伝説ですよ?なんで武子さんがそれを」

「マジかよ!……ケイ、お前、例のボールペンはあるか?」

「智子に頼んでたから、今回も手元にある。これがあいつのキーだろうな」

「前史と違って、記憶の封印が厳格じゃねぇのかな?」

「Z神の差し金じゃねぇの?マジンガーZEROのこともあったし」

「そうかなあ。おかげで前史より早くから暴れられるけど」

「私達にも譲ってほしいですよ。私と美緒は折角、先生に最終的な技能を見せられる機会なんですから」

「スマンスマン。でも、お前ら。次のリバウでクロウズになるんだし」

「あれは義子とですよ」

「あ、そっか」

「――んな感じでさ。その日の出撃が撤退する友軍の援護で、任務は江藤隊長の直掩だった。もちろん、オレとケイはガン無視で地上を援護した」

黒江は話を続ける。その日の任務の事を。江藤は二人の独走に怒り、武子も咎めたが、黒江と圭子は意に介さず、介入した。

『ああ、ウチの部隊お得意の指示無視か』

「だって、あの時の隊長の指揮ぶり、模範的だけど、実戦のそれじゃなかったし。こっちは実戦経験豊富ですからね」

黒江は扶桑海初期の江藤の指揮へ『教則通りの指揮で、柔軟性に欠ける』と辛口であった。そして、それをカバーするため、二人で大暴れの一言。圭子は始めてトゥーハンドを披露、黒江も闘技全開で対応した。

「えーと、アトミックサンダーボルトとギャラクシアンエクスプロージョンに、オーロラエクスキューション、廬山百龍覇は使ったな。それと、聖剣も」

「聖剣も、ですか?」

「伊達に二振りを宿してねぇからな。エクスカリバーは見栄えもいいしな。さすがにエアは使ってねーぞ、あんなン、ウラルまでカチ割っちまう」

「どうせなら、私の『我が神はここにありて』を……」

「媒介に旗いるし、ウチの軍隊で旗を粗末に扱ったら始末書ものだぜ」

扶桑軍の事情として、軍旗は神聖視されていたので、ジャンヌの宝具『『我が神はここにありて』の発動はしたくともできなかったと言った。

「それに色々面倒な事になりそうだしな、一応自重してんのよ?」

「むむっ。騎士王の宝具優遇しすぎです!」

「仕方ねぇよ。あいつの宝具はコストパフォマンスいいんだよ」

膨れるジャンヌだが、仕方がない事情も絡んでいる。ジャンヌの宝具の発動には媒介となる旗が必要であるが、軍旗を媒介にしたら、地上部隊の指揮官が目を回すし、陸戦ウィッチから猛抗議されるのは目に見えていた。そのため、攻撃は最大の防御なりと、エクスカリバーを使用したのだ。エクスカリバーの媒介には量産品の軍刀は向かないので(自壊してしまう)、エクスカリバーを空中元素固定で生成して放っている。

「もちろん、証拠隠滅は瞬時にしたぜ?バレたら大事だし、アルトリアがまだいないのは分かってたからな。ただ、見てた隊長達には誤魔化せねーから、まっつぁんか、若の姉御に口止めを頼んだ」

「あ、先輩。その事なんですけど、その時の映像残ってます」

「下原、それはマジで?」

「大マジです。確か、ラル隊長がミーナ大佐を納得させるために見せてたような」

「あの連隊に記録班でもいたのか?」

「確か、私の遠い親戚の人曰く、その連隊にニュース映画取るための撮影班がいて」

「うっそだろ!」

正確に言えば、ニュース映画撮影班が随行しており、偶然にもその一瞬を捉えており、ニュース映画に使われるはずだった。もちろん当時の検閲で弾かれたが、日本連邦が樹立される前後には特秘事項から外されており、(黒江達が一度、現役から離れたせい)ラルの要請で貸し出され、黒江達を侮ることのないように、ミーナへの教材として使用された。アルトリアの登場した今では、隠す必要も無くなったので、エクスカリバーは気軽に使われている。調も使用しているので、エクスカリバーはもはや聖剣の代名詞である。

「先輩達。一度、現役離れたでしょう?その時に特秘から外されたんですよ。フィルムは残ってるし。それで、ラル隊長がミーナ大佐に見せてました」

「驚いた。それであいつ、今回は文句言わねぇのか」

「ええ。それと扶桑海の時の特秘文章を大先輩が見せてました。それもありますね」

「そうか、43年あたりに私らの関連事項の殆どが指定から外されていたのか」

「ええ。万が一の復帰はないと思われてましたし。その万が一が起こったけど」

「未来世界との接触がなけりゃ、審査部で飼い殺しだったろうから、こればかりは奴らに感謝だよ。今は戻る気ねぇし」

黒江は今回、審査部で陰湿ないじめを受け、鬱病に罹りかけたため、テスト部隊には戻らない事を明言した。テスト部隊の陰湿ないじめは戦間期、陸軍航空の大スキャンダルとして、天皇陛下が高官を叱責する事態になった事は、ある年代より上の扶桑ウィッチは誰もが知っている。空軍にテスト専門部隊が当初は置かれず、その設立が太平洋戦争の戦後にまでずれ込んだのは、旧横須賀航空隊の提言で雷電が少数生産に終わったのを日本マスコミにスキャンダラスに報じられたり、防空軽視や『教育軽視』(明野を戦闘態勢にした事)がスキャンダラスに報じられた上、過去の黒江への陰湿ないじめを掘り返されたためだ。結果として、ダイ・アナザー・デイに参加予定の明野航空師団は『存在しなかった』ことにされ、人員も殆ど参加できずじまいであった(強引に本土に帰還させられたため)。その混乱は大きく、ミッドチルダ動乱経験者のみでは作戦参加人員を満たせない事になり、義勇兵で穴埋めしたのである。東二号作戦は現場の士気高揚策だと、何度も扶桑陸軍は説明したのだが、単なる特攻隊化と勘違いされており、そのように流布されてしまい、天皇陛下にまで設問がなされる事態になった。義勇兵を日本側が認めた裏には、扶桑の軍事施策を潰し、現場に大きなパニックを引き起こした責任を取ったという、日本側の身勝手の償いがあったのだ。しかも、教官級の高練度ウィッチの殆どが本土から動けなくなったので、黒江達の負担が大きくなったのは事実だ。本来、黒江達の負担を軽くするため、明野の教官級を動員して作戦に従事させて、戦での負担を軽減させるのが作戦の真意だったが、それがオジャンになったため、黒江達はあちらこちらを守る羽目に陥っていた。

「でも、聞きました?日本側の勘違いで東二号作戦が駄目にされたって話」

「ああ、参謀たちが愚痴ってたからな。それで義勇兵が大量に来たんだよ。本当は私達の負担軽減と、私達だけ戦果上げてるのに不満ある教官級の連中に手柄立てさせてやりたい上の親心なんだが、日本に特攻隊と勘違いされたのが運の尽きだ」

「これで通常ウィッチから反感が増しますよ」

「文句言うところ違うぞオイ」

呆れる黒江だが、地上のジムスナイパーU隊からの通報が入る。

「モンタナが浮上しただと!?」

「あの図体だ、そちらからでも見えるはずだ!」

「みんな、あれを!」

『!』

遠目からでも視認できるほどの巨体であった。500m近いだろうか。三連装五基の主砲塔(改造で増加させた)を振りかざし、重力制御と波動エンジンで浮上するモンタナ。その艦首の二連ドリルを唸らせながら、その真の姿はまさしく超兵器そのものだ。

「あれがラ級戦艦……。あれに対抗できる戦艦があるの……?」

「ある!ラ級の元祖であるラ號!大日本帝国海軍最後の忘れ形見!!大和型戦艦五番艦がな!幸い、後方でGヤマトがお膳立てをしてくれている。ここからはあの化物同士の決闘だ」

下原の護衛であるジョゼに黒江は言う。ラ級戦艦にはラ級戦艦だと。その言葉の通り、衛星軌道の臨時基地からラ號が抜錨する。作戦に備え、オーバーホールの際に、主砲をアンドロメダ級規格の51cm砲12門(大改装で口径を上げた)に急ぎ換装したため、ある意味では当初の計画を達成した事になるラ號。装甲も強化され、当初の超大和型戦艦としての姿に立ち還ったラ號は、今、ウィッチ世界の衛星軌道からドリルを唸らせ、モンタナと雌雄を決するべく、急降下を敢行している。黒江達が急降下してくるラ號を目の当たりにするのは間もなくであり、ラ號とモンタナはある意味では引かれ合う関係にある。大和型戦艦とモンタナ級戦艦。大日本帝国海軍の忘れ形見とアメリカ海軍の遺した『遺産』。それらがウィッチ世界(鏡面世界に突入してだが)で死闘を展開しようとしていた。



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