外伝その141『二挺拳銃』


―ー扶桑と日本は別の歩みを進んでおり、対外戦争は幕政期にも経験し、海外進出で今の地位を築いた。が、日本の一部勢力からはその傾向を殊更に危険視され、史実の大敗北の模様を啓蒙しようと躍起になっていた。非軍事化も説こうとしたが、当然、生存競争が身近である扶桑では相手にされず、彼らは扶桑でのネガティブキャンペーンに全力を注いだ。これにより『良心的兵役拒否』を増やすことに成功し、一定の効果はあげた。当局は摘発に血道を上げたが、憲法が変わり、以前のような強引な手口はできなくなり、21世紀社会からの目もあるため、社会奉仕を良心的兵役拒否者に課すことで、国内の不満を抑える手法になった。逆に、扶桑での生存競争の実態がレイブンズ人気で知れ渡ると、日本で危険分子と見られていた者の子息や令嬢が兵卒になるなどの現象が起こった。また、扶桑華族の扱いは最終的に、『名誉に敬意を払っても、身分としての優遇はない』というイギリス式の手法で落ち着いた。皇族はさほど日本と差がない状態であった(ただし、自活する習慣があり、ある宮家は自動車レースや競馬レースの主催で稼いでいた)ので、皇族軍人の軍籍保有中の政治活動禁止、優遇措置廃止などの小さな改正で終わった。(国家緊急権として、皇族による調停権の残置を扶桑海事変の教訓で、軍部が特に希望したためである。江藤はそれの強い賛同者であり、黒江、赤松、若松から散々に釘を刺されたのは、この事で軍国主義と危険視されることを避けるためだ。これは黒江達を制御出来る参謀格の江藤が事変の経験から、議会や会議よりも、皇族の鶴の一声に従うという、些か前時代的な思考回路になってしまっていたためでもある。そこが若松を切れさせてしまった一番の理由で、あの赤松が薄情な態度を取った理由でもある。圭子はその話を聞き、ダイ・アナザー・デイ作戦の際に前線視察に来た江藤に『全てを一人に押し付ける様な責任構造は無責任で不敬ですぜ』と、江藤へ始めて明確にレヴィとしての粗野な態度で接し、脅している。江藤はまたも『殺意スレスレの三白眼』で脅されたため、基本は温厚とされた圭子にまで、その目をされた事に衝撃を受けた。しかも仲間内では粗野だが、自分の前では従順そうに振る舞っていた圭子がここまで脅しにくる事自体、江藤には予想外であった。――


――後方の司令部――

「隊長、アンタに下手な事を喋られても困るンスよ。今は昔みたいに皇族に忠誠誓ってればいいってもんでもねぇんだ。そこんところ、姉御達に仕込まれたはずッスよね」

圭子はこの時、服装はレヴィとしてのものに着替え、タトゥーも出現させていたので、口調はレヴィとしての粗野なものにしていた。江藤は扶桑海の際に時たま仲間内での態度を目にしたが、圭子が自分に向けて、その態度を取ったのは始めてであった。声もトーンを低くし、ドスの効いた声に変えており、凄まじいギャップを感じさせる。

「か、加東……、お、お前!?」

「隊長、世の中はもう、『昔の常識なんて、ゴミ箱行きになっちまってる』血で血を洗う時代なんスよ?それを理解しねぇと、味方から鉛弾喰らいますぜ?」

おおよそ、大佐(当時)に出世した軍人の言葉づかいとは思えない粗野でガサツな口調であった。かつての温厚な態度も素だが、今ではこちらの方が常態である。また、レヴィとしてのラフな服装で江藤の前に姿を見せたのは、これが始めてである。そのため、圭子がレヴィの服装をしているという、アンバランスな絵面だが、圭子の身長と等身が『漫画のレヴィ』と全く同じであった偶然もあり、妙にフィットしている。

「隊長、あたしはやることがあるんで、ちょっと失礼」

「うっ!、お前、何を?」

「こういうことですぜ」

ここで完全にレヴィとなる。変身したが、黒江のように、身長や体躯に差がある者への変身ではないので、首から上を変えただけのような印象を与える。

「お前、首から上を変えたのか?」

「胸の方もいじってますぜ。一応、この姿だと、中華系のリベリオン人って事になってるんでね」

「ほ、本当だ……。レベッカ・リー?お前、リベリオン人の国籍をどうやって?」

「パットン親父にコネがありましてね。あいつに智子と綾香のブロマイド売っぱらったんですよ、高値でなるのを安く売っぱらって。代金の代わりに、ね」

レヴィとしての『国籍』と『軍籍』を得るに辺り、パットンの全面協力を得たと明言する圭子。

「アタシのも持ってってたっけか、あの親父。マルセイユにイタズラされたフィルムから焼いてみたら、案外いけるのがあったんだけど、無くしたと思ったらあの親父が持ってたとは……かーッ!あの親父、後でどうしてくれよう」

「加東、いや、その姿だとレベッカって呼べばいいのか?」

「レヴィ。綾香や智子はそう呼んでます。姉御たちもね」

「しかし、その姿になってまで成す用事とはなんだ?敵の暗殺か?」

「いや、今回はガキの躾ですよ、躾」

「躾だと?」

「ええ。元502のアレクサンドラ・イワーノヴナ・ポクルイーシキン、つまり、サーシャの野郎がヒステリー起こしましてね。サーニャに止せと言ったんですがね」

「ああ、彼女が申請した、ウチへの亡命の事か」

「アタシは作戦が終わるまで止せと言ったんですがね、あのガキ、どうしても言わないといけない事は後回しに出来ないと言って」

「なるほど。要するに、中尉の援軍か」

「そういうこと。サーシャの野郎、温厚な風に装っているくせに、いざサーニャに誘いを断られると、これだ。隊長もついていきます?」

「お前単独で行くと、血を見るからな。ついて行こう」

「んなこたねーですって、勘弁してくれねぇかなぁ」

「いーや、それ言って、4Fの連中をボコボコにしただろうが」

「覚えてたんすか」

「お前、それで広まったんだぞ?陸軍の狂気って渾名」

レヴィ(圭子)はいつものタンクトップの上に、リベリオン陸軍の軍服を羽織り、そのままジープで前線の待機所へ向かう。江藤がいうのは、今回における事変中、4Fとレイブンズがいざこざを起こし、4F側をボコボコにした事件の事だ。」三人は『売られた喧嘩は買う』の要領でボコボコにしたので、4F側が泣いて謝ってきたというのが顛末である。

「でも、殺したり再起不能にはしてねぇんだけどなぁ…」

「シェルショックで二人ほど戦線離脱したわ、バカモン」

「うーん。単に睨んだだけですぜ」

「やかましい、人間砲弾が」

「こりゃ、一本取られましたね」

江藤は今回においては、問題児であるが、戦闘では抜群に強いレイブンズの扱いに苦労していた。それでいて、自分より出世速度が早いことも愚痴った。

「お前ら、あんな奔放な態度だったくせに、よくまぁ聖上に気にいられたな?」

「お上はあたしらみたいなのを求めてたんですよ。東條さんは忠臣だけど、能力がないし、米内さんは策謀に向いていなかった。そこで若いあたしらですぜ、隊長」

江藤は尊皇教育を濃厚に受けた世代なので、聖上という表現を使った。昭和天皇に気に入られ、奔放な振る舞いを許され、遂には少将昇進も確実視されているのがレイブンズである。(結局、兵学校/陸士教官などの猛反対で少将への昇進は潰えたが、事を知った日本の防衛省や総理大臣から猛抗議が来たので、急いで准将を創設し、お茶を濁した。扶桑の公式記録では『日本が昇進を渋った』とあるが、実際は扶桑陸軍省のほうが昇進を露骨に渋ったのである。防衛省が腹案で『こうなったら間を取って、准将にしない?』と提案し、採用されたため、黒江達は作戦中に准将に任ぜられたのだ。その際に叙爵も行うとされたのもあり、黒江達は一夜にして騎士爵(後に子爵)となる。黒江が自衛隊で統括官になって初の仕事も、ちょうどこの作戦になる。時系列としては叙爵と准将昇進と同時に、自衛隊で空将となっている。自衛隊では幕僚監部には内規で入れないが、階級に見合う職責という事で、ウィッチ総監も兼ねている。それに合わせ、元旧・64Fの中心格であった残りのメンバーも順次の昇進が待っている。

「黒江なんて、私より先に将官になったんだぞ?あいつ、一時は停滞してたのに、今じゃ嘘みたいに出世している。なぜだ?」

「あいつは戦時になると出世するタイプになったんスよ。黒田から聞いてねーんすか?あの事件のこと」

黒江は公には、審査部での事件で厄介払いされてからのほうが輝かしい戦果を上げ、45年には『魔のクロエ』の渾名を不動にしている。そのため、テストパイロット間のいじめが問題視され、黒江が在籍した頃のテストパイロット達は殆どがその責任を問われ、自主的に退役している。黒江はG化もあり、その後はテストパイロットに専任する事は無かったが、前線でメーカーの要請という形でなら、テストパイロットを行ってゆく。そもそも、前線でテスト部隊を設立するという空自の案も、黒江の同位体の業績を鑑みた空自が根回しを行って実現させたものだ。黒江を前線から引き抜く案は当人が嫌がったのもあるが、前線の戦力維持に必須の人材であるからだ。当時はテストパイロット経験者がクーデター事件を経て大きく数が減っていたので、独立部署としての再設立は人員的にも不可能だった。そこで64F内部に新部署として設ける事でのやりくりに変更されたのだ。

「あの事件か。同期から聞いたよ。黒江の奴、固有魔法が原因でいじめを受け、鬱病になりかけたんだってな。おかげで聖上は激怒され、陸軍航空関係の高官は顔色を失い、現場は萎縮した。結局、私が坂川に頼んで、欧州に行かせたが、これで良かったのか?」

「良いんスよ。それがあいつのキーの一つだったし、あの連中はお上の脅しがなければ、やめなかったでしょうしね」

黒江がいじめられた事は昭和天皇の激怒を招き、陸軍航空関係の高官達は天皇陛下の叱責を受け、主犯格は不敬罪での処刑すら検討すると漏らした。異例中の異例の言動だが、昭和天皇は、軍部で信用できる忠臣であった東條英機が身を引いた後は、忠勇なる若き乙女達に信を置くようになったが、その中でも黒江は特にお気に入りであった。そのため、温厚な昭和天皇をして『朕の忠勇なる〜…』と陸軍航空の高官達を叱責するのは当然の流れだった。この流れで昭和天皇は専任のテスト部隊の存在意義に疑問を呈するようになり、第47独立飛行中隊を実戦部隊化させる案を押し通させた。それが47Fである。黒江はそこの増強分とされ、厄介払いされた。数年間の酷使の末に、505に送られたところでティターンズとの遭遇からの惨劇に直面し、そのタイミングでG化を起こしたのだ。

「黒江はあの惨劇を経る事が、扶桑海の記憶を戻す事のキーだったというのか?」

「そうです。あいつはそれが決定的になる。レイブンズの完全復活には、あいつの記憶を蘇らせる必要があったんでね、あいつには惨劇を体験してもらったわけです」

表向き、黒江達は『部分的な記憶喪失』としていたので、言い回しを工夫しながら江藤に告げる。江藤は『そうでないと、あいつの記憶を戻せなかったのか?』とレヴィに言う。レヴィは淡々と言う。この姿になっていると、身の上話をするのは嫌いになるからだ。

「アタシは今の状態だと、身の上話は嫌いなんスよ。あいつがどうして、仲間の血や遺体の惨状を見た事で、『戻った』のかは自分の目で確かめてくれよ、隊長?」

レヴィとしては身の上話は苦手である上、嫌いである事を明示する圭子。レヴィになっていると、完全に圭子としての理性は機能せず、レヴィとしての粗野さが彼女を支配する。それが圭子が三度目の人生で選択した振る舞いでもある。圭子としては、身近にヘビースモーカーがいたため、タバコは吸わないが、レヴィとしては、喉の薬にもなるモノを吸っているし、運転中にも咥えている。趣向からして、全くの別人になりきっているのに感心する江藤だが、素でも今回はあまり態度が変わらなかったりする。その粗野さが『狂気』とされる最大にして唯一無二の原因なのだが。




――こちらは黒江。あきつ丸事件の尻ぬぐいに追われ、思いっきりムシャクシャしていた。黒江は休憩中に電話がかかり、事の次第を知らされ、『だから、遅すぎたと言ってるんだッ!!』とキレている。キレた後なので、調の姿になっている――

「キレてますね」

「おう、ジャンヌか。容姿変えねぇと基地ぶっ壊しそうでよ、まいっちまう」

黒江は変身することで、ムシャクシャする気持ちを抑えているらしく、調の容姿になっていた。黒江は成り代わりを終えた後も度々、調の容姿を用いるが、声色が似ているので、箒などに変身する時の場合より楽だからという事情もある。

「貴方はよく容姿を変えますね」

「ケイと違って、私は決まった容姿で固定してはいないけど、あいつのが一番長くて、これでいる場合も多くなったよ」

「私もルナマリアの容姿はあまり使っていませんよ。月で療養しているレイの様子を見に行く時だけです」

ジャンヌは、依代となったルナマリアの容姿はあまり使っておらず、転移時に寿命が残りわずかであったレイ・ザ・バレルが入所した医療施設を訪れる時に用いる程度にしか用いていないが、ルナマリアになる理由がそもそもなく、メリットもないので、ジャンヌは生前の容姿をそのまま用いている。これは変身で追っかけを巻く場合が多い黒江と真逆だ。

「ふむ。アルトリアも、ハインリーケとしての容姿はあまり使っていないっていうし、お前ら英霊にとっては容姿を隠す理由もないもんな」

「ええ。生前の容姿のほうが、却ってネームバリューでどうにかなりますからね」

「お前。生前と違って、かなりぶっちゃけてるなぁ」

「まぁ、無学が原因で火あぶりですからね。今から考えれば、ねぇ」」

生前の最期に苦笑するジャンヌ。ルナマリア要素が入っているせいか、生前よりかなり俗っぽくなっている。現在は依代であるルナマリアのおかげで、常人以上の知識を手に入れたものの、戦略は相変わらずダメダメであるが、戦術面ではオールラウンダーに変貌している。戦術面での働きに期待されている点で生前と同じだが、生前と異なる技能として、剣技がそれなりの水準であるという点で、そこにインパルス搭乗時の名残りがある。

「お前、生前と違って、剣を扱えるんだろう?」

「ザフトでの訓練の名残りですよ。ジル・ド・レが聞いたら腰抜かしそうですが」

「やれやれ。お前の依代になったルナマリアに感謝しとけ?あいつはお前との融合を受け入れたんだからな」

「大丈夫ですよ、成分はルナの方が高いんでジャンヌとしては姿のみって感じに近いんですよ」

ルナマリアは最終的にジャンヌと融合する事で、ジャンヌに自分の要素を引き継がせた。ルナマリアの容姿でレイ・ザ・バレルと会うのは、ルナマリアへの感謝の証だろう。従って、アルトリアの場合と同様、ジャンヌは事実上、依代になった人物の肉体を得たが、互いに融合したため、ジャンヌの成分は薄れ、ルナマリア成分の方が濃くなった。そのため、存在としては『ジャンヌ・ダルクの姿になったルナマリア』のほうが適当だが、ジャンヌの生前そのままの言葉づかいも可能であるので、アルトリアが融合で主導権を握ったハインリーケの場合とは異なる。現代人としてエンジョイしつつも、英霊としての力を奮う事も厭わないルナマリアの思いに同調した結果のジャンヌであり、ルナマリアで有るという現状である。


「なるほどな〜。アルトリアはそのまま主導権を握ったみたいだけど」

「まあ、あの性格では、アルトリアの方が主導権を握るでしょうから」

「だよなぁ。黒田から聞く限り、我儘に育った上流階級の子供って感じだものな、ハインリーケ」

「アルトリアに憧れてたんでしょうね、ハインリーケ少佐。そうでないと、融合しませんって」

「確かに。覚醒したての時に、ハインリーケの姿のままで『勝利すべき黄金の剣』使ったら、黒田以外の連中が開いた口が塞がらなかったとか言ってたぞ?」

「まあ、それまで『なのじゃ』とか言ってた人が、いきなり『ここならば、周りを巻き込む憂いもない!』って、凛とした声で言って、潜水艦を勝利すべき黄金の剣で斬れば、ねぇ」

アルトリアは覚醒間もないころ、506の解散の原因となる事件を解決し、『選定の剣の騎士王』としての威容をガリア王党派ヘ示し、そのまま501への合流を決めている。また、生前のアルトリアと異なり、ハインリーケは酒に弱く、その時に限り、ハインリーケの要素が強まる。アホ毛を抜くとオルタ化するなど、色々と英霊にしてはギミックが多いとは、黒田の談。

「あの方はアホ毛抜くとオルタ化しますし、酒飲ますと、ハインリーケ少佐が主導権を取り戻すみたいで、ハインリーケ少佐、戸惑ってました」

「まー、ペリーヌみたいに、アルトリアの意思が肉体を動かしてる時に、自分の意思を反映できないっぽいって言ってたしな、黒田の奴。黒田もご苦労さんだ。色々と実験したんだろうし」

黒田が501移籍までに行った実験で、アルトリアとハインリーケは二心同体の状態になり、ハインリーケはアルトリアが泥酔している時間だけ、体の主導権を持てるという事が確かめられた。ハインリーケも悩んだ末、憧れの『選定の剣の騎士王』との共存を選んだと、黒田に伝えており、ハインリーケもアルトリアとの共存を選んだのが分かる。そのあたりはジャンヌとは明らかに違う融合の仕方である。(ペリーヌと違うのは、アルトリアへの干渉が出来ないという点だろう)そのため、アルトリアの成すことを『見ることしか出来ないのは歯がゆいものじゃ…』と嘆いていた。後に、Z神が明らかにしたところによると、魄の損傷が酷かった結果、アルトリアとモードレッドは融合した先の肉体の元々の意思が残ってしまったと説明した。生きていた頃の記憶や技術的な面などの記憶部分で、一部に欠けが有るため、生前そのままに復活は出来なかったからだと。また、新しい意思が欠けを埋めるから二つの心が共存出来るのだとも言った。つまり、アルトリアとモードレッドは相打ちの際に使った武器が強力な宝具であったがため、魂がそれで傷ついたのだとも語り、二人はそれを聞いて、お互いに苦笑したという。

「私は魂魄が無傷でしたから。でも、あのお二方は魂が傷ついた状態だったそうで、だからペリーヌさんやハインリーケさんの意思が残ったと思います」

ジャンヌの見解はこれである。ただし、アメリーやリーネ、ロザリーにとっては最善の結果ではあった。そのため、ハインリーケとペリーヌは自分の体の主導権を握った英霊たちを律するための行動で協力しあうことになっていく。それが英霊と共存することになった者の役目だと悟って。

「私の場合は引き合って融合しているので、記憶以外は魂魄が同じ作りで自然に一体化したのでしょう」

「うーむ。と、なると、箒とマリアが似ていたり、同じシンフォギアを扱えるのは、もしかして魂魄のどちらかが同じ作りなせいなのか?」

「かもしれません。まだ何とも言えませんが」

「やれやれ、あいつは天秤座で戦ってるようだし、私はシンフォギアでも使うか。子孫に山羊座貸しちまったし」

「ああ、姪御さん」

「ジェットストライカーを早めに造らせるために、未来から呼んで機材を技術部に提供させたんだよ。私達の軍人としての後継になったしな、あいつら」

「これで帰ると、21世紀にはセイバーフィッシュかコスモタイガーストライカーが量産されてたりな」

「ありえますね。あの方々は貴方達とは姪という事ですが、養子に?」

「ああ。前史と同じだから言うが、翼は私の直近の三兄の孫、澪はケイの次兄の、麗子は智子の姉さんの孫だ。私達は結婚相手がいなくてな。親類から養子もらったんだ」

「正確には大姪に当たると?」

「ああ。その頃も若い肉体年齢のままで生きてるから、向こうにゃそんな離れてるって感覚無かったけどな、あいつら。養子になる前はおねーさんって呼んでた時期もあった。だいぶ後で、それぞれの方法で子供は作るけどな、中には自分で生んでねーけど、実子ってのもいるし」

「!?」

「まー、神様になっちまうと、時間は無限にあるからな。5、60年位は一瞬くらいの感覚だぜ」

「だからって、反則ですよ、反則!私達も時間はいくらでもありますが、流石にそこまでは……」

「まー、故郷にいられる時間は人の寿命が尽きるまでだ。80年から100年くらいだろうから、あと、80年もすれば、ここから引っ越すよ」

黒江は自身が100歳を迎える2021年前後には、故郷から未来世界へ引っ越す事をジャンヌに明言した。故郷をいずれ子孫に託し、自身は未来世界で生きると。

「お前らと同じで、私達『G』はもう不滅になっちまってる。その分、どこかで故郷に別れを告げなきゃならねぇ。私達は2021年。そこをボーダーラインにしてる」

公には、そこで死亡したとする予定であるレイブンズ。これは生物学的には100年前後が人の寿命だからだろう。そこに配慮した上でのプランを立てるあたりは、転生者の特権だろう。

「あ、また防衛省から電話だ。はい……はい、はっ、はぁ。では」

「どうしました?」

「呼び戻せた連中のみならず、戻っていった連中にも参加賞代わりの従軍記章出すって。バカバカしい。つけるやついないよ、全く」

不機嫌なため、参加賞代わりに従軍記章を出すということが防衛省から通達されると、バカバカしいと言った。黒江にしては、珍しく荒れている、尻ぬぐいをやらされたのが腹立たしいのか、膨れている。これは防衛省背広組の不手際で、黒江達の交代要員が現地にいると思い込んだからで、事の次第が知れ渡ると、黒江に尻ぬぐいを押し付けたので、流石の黒江も電話口で怒鳴るほどキレた。また、交代要員に本土の教官級を選抜していた理由も判明し、防衛省背広組の失態はいよいよ大事になり、制服組がその収拾に努力しており、黒江の指名した人員に連絡を取っている。この時に安倍シンゾーは防衛事務次官などの事務系防衛官僚を呼びつけて叱責しており、彼らは総理大臣自ら、「罷免を覚悟するように」と告げられるという顛末だった。黒江とその派閥がなんとか奮闘し、ウィッチ達の全員の不参加は免れたが、何割かの戦闘不参加者はこれを恥辱と考え、着用もしなかった。しかし、戦闘不参加なれど、作戦に参加したのは事実なので、略授を一番下段に着ける様になり、とりあえずのトラブルは避けられ、全員への慰労金も予定額の三倍に膨れ上がったという。



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