外伝その163『英傑の力』


――シンフォギア世界への中継により、転生を遂げたアルトリア(アルトリア・ペンドラゴン)、モードレッド、ジャンヌ・ダルクの三英傑の存在も自動的に知られる事になった。彼女らは錬金術による記憶のバックアップによる復元という形でなく、輪廻転生を遂げた上で生前の姿と能力、人格を再び得た自然な『転生』を遂げた存在だ――


――シンフォギア世界――

「この三人がアーサー王、モードレッド卿、それにジャンヌ・ダルクだって…!?」

「嘘……、いくら三人が歴史に伝説を残した存在と言っても、錬金術でも使わないと、人の蘇生は不可能なはず……」

S.O.N.Gのオペレーターである、藤尭朔也と友里あおいは中継されている戦闘の様子に驚愕している。歴史上の英傑達が転生して、戦争に参加している事も凄いのだが、面子が実は女性だった?(アルトリアは可能性の一つであるが)アーサー王、その子のモードレッド。更に悲劇のヒロインでその名を遺したジャンヌ・ダルク。英仏の三英傑、特に円卓の騎士とジャンヌが轡を並べているのは、生まれた時代を超越した光景である。驚くべき事に、アルトリアは白い騎士服姿であるが、胸部をジャンヌ同様のプレートアーマーで防護している。円卓の騎士の存在した時代は、金属精錬技術の精度などの問題で、鎖帷子、良くてラメラーアーマーがある程度であるはずだ。もちろん、史実でも胸を防護する装甲はあったはずだが、後世の目から見ると、それがラメラーアーマーかプレートアーマーかの見分けは困難である。アルトリアの服装が王位についていた時期の青い騎士服ではなく、少女騎士時代の白を主体にした騎士服であるのもあり、威厳というよりは可憐な印象を与える。

「何を驚いてるのかしら?」

「君は穴拭智子くん……!?どうしてここに?」

「武子からの手紙を渡すために来たのよ。こっちも色々と忙しくてね」

智子は時空管理局にいちいち要請するのが面倒なのか、仮面ライダーディケイドを呼び出し、彼の力を借りる形で、手っ取り早くシンフォギア世界を訪れた。変身は一旦、解除しているので、いつもの戦闘服姿だ。

「全く、君らは我々の常識を覆してくれるな」

「今回は友達に頼んだけどね」

門矢士を待たせ、風鳴弦十郎と対等な会話を行う智子。生年月日が彼の祖母(1922年生まれ)とほぼ同じこともあり、智子は対等な口の利き方をしている。また、この時点で風鳴弦十郎も、智子が旧軍の大尉である事は知っており、時に智子に敬語を使う様子すら見られる。

「君は同位体とは所属部隊の経歴に差異があるようだね」

「経歴的には誤差みたいなもんよ。今は貴方も軍歌で知ってる加藤隼戦闘隊の先任中隊長の一人よ」

智子は数度の転生で、生え抜きの士官学校出の将校ではなく、少年飛行兵制度出身の叩き上げという事に経歴が変化している。経歴の変化は黒江よりも激しく、現在の時点では、『教官経験もあるが、一戦士として飛んでいるほうが向いている』という評価である。黒江が『なんでもこなす便利屋だが、下手な人事をすると、もれなく聖上のお怒りに触れるので、最前線で使い倒しちまえ』という、ある意味では厄介者扱いの評価とは好対照だ。これは事件への昭和天皇の直接介入で、参謀本部のメンツ丸つぶれの格好になったため、参謀本部から『厄介者』と見做されたためだ。そのため、黒江の将官への出世は現役復帰後の戦功で成し得たと言える。(元々、戦間期の際の教官任務で得点を溜めており、現役復帰後は一貫して最前線に居続けた事が昭和天皇の『事変以来の忠義に報いる』という意思に繋がり、准将の地位を勝ち得た)智子もスオムスでの暴れ方が原因で、参謀本部に危険視され、50Fの教官に押し込められたが、現役復帰後は一時の冷遇からの手のひら返しで英雄扱いを受けている。この手のひら返しこそ、広報が困る原因なのだが、自業自得の面も大きい。陸軍参謀本部はまさか、レイブンズが現役復帰し、しかも未だに多くの現役者より強いままである事が示されることなど、想像だにしなかっただろう。そのため、現役者の反発もG覚醒前のミーナがそうであるように、相当に根強かった。智子はそれらの相克を経たため、広報に冷淡になっている面が多分にある。クールな人物に見える容貌もあり、智子は実際の人物像とイメージされる人物像にかなり乖離がある。圭子曰く、『主人公属性を作ってるヘタレだぞ?このバカは』との事。圭子は黒江より智子と付き合いが長いので、遠慮無し。口が荒くなったので、悪友というのが正しい間柄となった。最も、マフラーが無いと、いざという時にヘタれる率が高いので、義理の娘である麗子は『母さんはヘタレなのよ、綾香おばさま』と評し、子孫からもそう見られている。そのため、『黒江の面倒を見るために水瓶座の黄金聖闘士になった』と公言しているが、実際は勇気を持ちたいからではないか?と麗子に推測されている。実際、智子の父親は『私達が過保護気味に育てましたから、あの子は本当は臆病なんですよ。子供の頃は人見知り激しくて…』と、圭子にこっそり教えている。智子は軍志願後は強気な性格なように装っているが、実際は黒江の素よりもかなり弱気である。黒江の素が分かったので、それを黒江の手前、表に出せなくなったのもあるが、訓練生時代に当時の友人を自分の弱気で危機に陥らせた経験があり、それから現在の性格になっていった。前史で黒江の素を知ったのもプラスされ、強くあろうとした結果が今の性格である。つまり、自分より強いと思っていた黒江の身に起こった悲劇が、本来は弱気な少女だった智子を律する役目を果たしたと言えよう。

「穴振大尉。君は綾香くんの親友といったね?」

「若い頃からの悪友よ。出会ってから、通算で数百年かしら…」

「数百年…だと…!?」

「私や綾香は既に何回も転生を重ねているもの。それまでの人生を全部入れたら、有に500年近い年月を生きたわ」

聖闘士に初めてなった前史を含めた場合、人としては老師・童虎や教皇シオンとほぼ同程度の寿命であったので、前々史からの通算では500年に近い。そのため、今回のレイブンズは精神年齢相応に老成した面も加わっているため、江藤が当初、『あいつらの性格が読めない』と北郷に愚痴ったほどだ。

「それだけ生きたら、成し遂げたことも多いから、神になれたのよ」

智子達は長い年月を生き、英霊となる資格を得た後も世界を守り、やがて信仰の対象となった事で人を超え、神に至った。それでいて、現世で行動するための肉体を維持している。これは機械のボディとなっているZ神と同じ方向性である。

「神……」

「アルトリア王やジャンヌのように、生前の行為や戦いの記録が信仰を集め、英霊になった者もいれば、モードレッドみたいな『行った行為』そのものが英霊と見做された例もあるしね」

智子も英霊の座に列せられる資格が『生前』にあったが、今はそれも超えてしまったので、ちょっと残念そうであった。

「今は阿頼耶識も超えたナインセンシズに目覚めているもの。ビッグバンに匹敵するエネルギーを制御できるのよね、あたしたち」

「ビッグバンに匹敵するエネルギー……!?」

「神だもの。銀河の一つや二つは軽いものよ」

サラッと凄いことを言ってのける智子。黄金聖闘士でありながら、神となった今では、並の神よりも強いと明言する。銀河の一つや二つは闘技一つで吹き飛ぶと。

「それと、綾香やアルトリアたちの力は哲学兵装なんて概念を超えるもの、『概念武器』よ」

「概念武器?」

「そうね、伝説を形にした『物質化した奇跡』っていったほうがわかりやすいかしら。生前に築き上げた伝説を基盤にしたり、生前に使用していた武具が進化した結果、概念化したものよ。アルトリア王の約束された勝利の剣はエクスカリバーの伝説の力を具象化した代物。錬金術の哲学で干渉は出来ないわ」

「それでは、切歌君のイガリマを防げたのもそうなのか?」

「ええ。あの子のイガリマは本来の宝具としての姿からはだいぶ変質しているから、弱体化してるわ、大きく。イガリマの本来の力は『千山斬り拓く翠の地平』…。英雄王のコレクションにある斬山剣。だから、あの子の鎌は、その本質から大きく変質した何かにすぎないわ」

ここで智子ははっきり、切歌のイガリマは宝具とは別の何かに変質したものと明言した。

「調もそのことに気づいたわ。シュルシャガナの本質は『万海灼き祓う暁の水平』。あの子はそれにたどり着き、その片鱗をエクスカリバーに加えたわ」

「つまり、切歌君の力では、もはや調君の足手まといだと?」

「要は小宇宙よ。小宇宙に目覚めれば、その心配はなくなるわ。誰でも素養はあるもの」

「それが君達が辿り着いた、神の力だと…?」

「ええ。それさえ目覚めれば、シンフォギアの色々な問題は一切合切、チャラになるわ。聖遺物と人との間にある存在の位の差を埋める事になるもの。翼が怒ったというのも無理はないわ」

風鳴翼は、黒江が生きたまま冥界に行けるほどの存在であることを隠していた事に怒ったことがある。黒江にそれだけの力があるなら、天羽奏やマリアの妹『セレナ』の蘇生も可能だからだ。

「蘇生は神様の力なら容易だけど、おいそれと出来ない事は理解して欲しいわね、あの子達には。綾香からの伝言よ。『んー、そっちの世界の冥界はそっちの守護者が居て、行けても、誰かを探しだして話したり連れてきたりは出来ねぇな、仁義的に』よ。私達の世界はハーデスがおっ死んだ影響でゼウスが権限持ったから、可能だけど、ここの冥界はそこの守護者の機嫌一つで魂が無限地獄に落ちる可能性があるからね」

「そうか。世界が違う以上は仕方あるまい。翼やマリアくんには俺から言って聞かせる」

「頼むわ。それと、これが私達の友人で、部隊長の加藤武子からの手紙よ」

「確かに受け取った。電話で絞られたよ。子供の頃、兄貴達に怒られてる時に戻ったような気分だ」

武子はかなり風鳴弦十郎を絞ったようで、彼が電話口でペコペコ謝る姿はシュールですらあった。武子はこの時点で既に大佐の地位にあり、加藤隼戦闘隊を束める将校。なのは達にも非があるとは言え、響を上手く導いているとは言い難い状況を鑑み、武子は彼を叱ったわけだ。

「響、綾香にかなりの借りがあるのに、それを当然と思ってたから、そこはあの子の非ね。のび太もかなり苦い顔してたけど」

のび太はなのはにかなりの苦言を呈したが、黒江が苦労させられた経緯は知っており、そこは納得していた。なのはも軍隊流の鍛え方を無思慮に実行したことでの非は黒江が叱った事で自覚したとの事。のび太はなのはや調の行き過ぎを諌め、優しく諭す役目を担っており、なのはたちのような年少者相手だと、自分自身の父親のような立ち回りをしていた。青年期以降の性格の片鱗は小学高学年を迎えた当時に芽生え始めたと言うべきだろう。のび太は意外に面倒見が良い面があり、そこもジャイアンと思春期以降も以前と変わらぬ仲でいられた理由だろう。(例として挙げるなら、台風の子のフー子やフタバスズキリュウの子供のピー助の面倒を見た事や、原始時代のペガ、グリ、ドラコだろう)

「野比のび太君か。調君が彼のもとに出奔していたのは驚きだが、クリス君がかなり不満でな。綾香くんに相当の八つ当たりをしていたよ」

「仕方ないわ。あの子は綾香が好き勝手してた後に学園に紛れ込んだもの。息が詰まる思いだったのよ。それでのび太の家へ行ったんでしょうね。クリスのことはこっちでなんとかしとくわ」

「頼む。それと、エルフナイン君からの伝言だが、調君がシンフォギアを恒常的に維持したまま、そちらで生活できているのは何故か、と」

「小宇宙に目覚めれば、誰でもできるわ。そちらでの適合者でない子も黄金聖闘士になった後でアガートラームを纏っているわ」

「なんだとッ!?」

「こっちのG種別のウィッチなら、やろうと思えばシンフォギアの複製どころか基になった聖遺物を完全に再現だって出来る…けど危なすぎてやらないからね?」


智子の言う通り、野比家(2000年以降)では、調がシュルシャガナのギアを恒常的な展開を維持して普段の生活を送っているし、箒がそれに付き合って、アガートラームを纏っている。送られた写真はかなりのシュールさがある。小宇宙の力はシンフォギアの制御にかなりの恩恵をもたらす。概ね、素で白銀聖闘士以上の実力か、聖闘士になれるほどの素養があれば、聖遺物と人の隔たりを埋め、シンフォギアの展開時間に制限はなくなる。また、聖遺物の力を自然に引き出すため、メンテナンスの頻度は以前よりグンと少なくなっている。(エルフナインの強い提言もあり、小宇宙の力の調査も兼ねて、2002年以降は数ヶ月にいっぺんは定期メンテナンスを行っている)

「それが神の力よ、弦十郎司令」

「神の力、か……。君たちはそれに至り、そしてそれそのものになった……信じられん」

「そういうもんよ、神様になるなんてのは」

「それと、ウチの海軍からの要請だけど、ちょっとこの船を見てくれる?」

「?」

「未来世界の全面援助で生み出した超大和型戦艦。この艦の日本向けの説明をひねり出してくれない?」

「君たちの世界は別世界と連合を組んだのだったな。しかし、何故このような艦を作るように要請し、そして得る必要があったんだ?」

「平行世界を股にかける、ナチス・ドイツの生み出したバケモノ戦艦に対抗するためよ。そして、喧しい日本の無知な連中を黙らせるため、10万どころか、50万トン級にしたのがあれよ。名前は名前のバリエーション切れが心配されたから、富士になったけど、大和の後継よ」

「50万トン?」

「大正の頃に金田中佐が考えてた奴の現代版よ。アイデア元からだいぶ直したって聞いてるわ。主砲は56cm砲を三連装四基。現代、未来兵装を持った上で、スーパーロボットの超金属の装甲を使った装甲で守られ、それを31ノットで走らすエンジンを持つ『不沈戦艦』よ」

智子が移動本部の機器を操作し、三笠型を映し出す。三笠型は超大和型に分類されているが、アイデア元は『金田中佐の50万トン級戦艦』になる事が智子の口から語られた。つまり、金田中佐(最終階級は中将だが、後世には中佐時代のエピソードで名が残った)のアイデアを未来技術で実現させちまえという思想で、三笠型は用意されたのだ。これには50口径46cm砲に平然と耐えるヒンデンブルクの出現に窮した扶桑軍が後世の航空兵力の高価格化とジェット化による絶対的物量の低下を理由に、大艦巨砲主義者らが宇宙戦艦の技術で海上要塞を作るという目的を押し通したという政治的背景があり、『戦艦を歴史の影に追いやった核兵器と、ミサイル搭載潜水艦』がない世界であることも三笠型の誕生に追い風となった。つまり、ミサイルはM粒子などの影響で当たりにくくなり、(21世紀型ミサイルも多少の命中率低下はある)『ミサイルの追尾機能を強化してゆくと、マイクロミサイルがない限りは高価格化に歯止めがかからない』事が伝わったこと、海自の優れたソナーやレーダーなどが扶桑に配備され、対潜能力が2010年代の水準に飛躍したことでの敵潜水艦の脅威の低下も戦艦の地位回復の要因である。防空力が超音速ジェット機とミサイルを想定したものとなり、対潜兵器も21世紀水準に飛躍した事が、大艦巨砲主義が息を吹き返す理由となったのだ。

「とにかく湯船のごとく金を払ったら、とんでもないウルトラ戦艦が出来上がったんだけど、日本は海防艦と空母以外の水上艦艇は巡洋艦にすら興味ないって感じでね。日本はミサイルとイージス艦を盲信してて、それを指摘して、海軍戦備を整えてるのよね」

日本は駆逐艦や海防艦、それと空母以外の水上艦艇には殆ど興味を示さず、重巡/軽巡の更新はイージス駆逐艦で済ませという方針であったが、デモインやウースター、ファーゴ級の存在により、適切なカウンターパートを考えなくてはならない状況が扶桑に提示されると、しどろもどろになる始末であり、旧軍系巡洋艦の改良を考える事になった。そのため、高雄型重巡洋艦の改良型と利根型重巡洋艦、阿賀野型軽巡の改良型の開発が俎上に乗った。超甲巡は実質的に巡洋戦艦であり、戦艦や空母の護衛艦や中規模艦隊旗艦に使うにはいいが、巡洋艦の掃討にいちいち駆り出すのは大仰すぎるという指摘が扶桑海軍、海上自衛隊の双方から出たので、巡洋艦の代艦を計画せざるを得なくなったのだ。そのため、日本側の有識者会議が出したのは『巡洋艦といえど、デモイン以上の火力と重装甲にしろ』という無茶苦茶な要求であった。日本は雷装を船体装甲を重視した設計だが、条約の枷が外れたデモインはまさに艦政本部には予想外の怪物であり、日本連邦は『和製デモイン級』を高雄型重巡洋艦ベースに作る羽目となったと言える。これは日本が戦前の巡洋艦という兵器に無理解な者が有識者の大半であり、日本海軍(扶桑海軍)巡洋艦の悲劇的結末を大義名分に、『デモインより大きく、強く、硬い船を作れ』と提示し、扶桑はこれまた地球連邦軍に泣きつき、地球連邦軍が宇宙巡洋艦の技術で生み出したのが『改高雄型重巡洋艦』である。高雄型重巡洋艦の最終形態の一つである『摩耶』の姿を参考に、地球連邦軍が高雄型重巡洋艦の姿を持つ230m級の船体を持ち、デモインを更に上回る性能を以て与えし艦。M動乱で消耗した在来艦の補填という形で、ダイ・アナザー・デイでも試作艦が参陣している。そのため、扶桑では潜水艦に至るまでの艦艇サイズ規格の相対的大型化により、戦艦の定義が『250mを超える全長を持ち、なおかつ30000トン超えの軍艦』と再定義されたほどだ。また、正規空母の定義も『50000トン以上の排水量でジェット戦闘機の通常離着陸に耐えうるもの』と定義されてしまった事で、大鳳などの改装済み三空母も排水量の問題で『軽空母』と扱われている。そのため、本土から地球連邦軍が扶桑に貸与したプロメテウス級空母の第二陣にして、実戦運用が前提とされた初の艦『龍鳳』(先に竣工していた在来型軽空母を退役させて引き継がせた)を回航させ、機動部隊の増援とした。この艦は可変戦闘機やブラックタイガーの運用を前提にした空母であり、水上艦艇の開発が低調になった時代を鑑みれば、史上最大の洋上空母であった。地球連邦海軍の大規模軍縮で、就役済みの多くが余剰扱いとしてモスボール保存されていた。その再利用方法が扶桑への貸与(後に譲渡/購入扱い)というのも、地球連邦政府が洋上海軍の存在意義を『本土の沿岸警備隊』としてしか見ていないという悲しい現実が理由だが、全長512mの巨体は可変戦闘機やコスモタイガーを150機も積める容積を持つ証であり、扶桑海軍の主要軍港の多くの機能が南洋島に事実上移された(超大和やそれらをドック入りさせられるほどの設備は本土では大神工廠を以ても不可能であることから、南洋島の軍事拠点化はダイ・アナザー・デイを契機に急速に進み、1948年度に完全に軍事拠点化を終え、地上のダミー都市とを併せて、『日本列島の防波堤』としての役目を果たす事になる)のだ。

「これと護衛の普通サイズの超大和の維持費や費用対効果が疑問視されてる上、財務省は戦時が迫ってるのに、軍事予算を福利厚生に回すから四割削減!とか言うから、脅してるとこよ」

「普通に考えれば、大艦巨砲主義の極致である船より、汎用性のある空母に費やすべきだというんだろう。最も、今となっては空母は戦艦より金食い虫だが」

日本の財務省は扶桑の財務省(大蔵省より改編)と一つになった事で扶桑の軍事予算にも影響力を及ぼせるようになったので、扶桑の福利厚生を重視し、軍事予算を減らすことをあれこれ考えているが、扶桑は必要上、軍事費は多めになるのが安土時代から続いているため、国民は『お国の一大事に、個人の贅沢は抑制すべし』という倫理観があった。そこに水と油に等しい戦後日本人の倫理観が出てきたらどうなるか。戦時に向かいつつも、国民の生活を抑制する事を合法的に止められ、戦時体制の構築に半分は失敗した状態で開戦を迎える羽目に陥る。クーデター後の海軍ウィッチの粛清人事による前線の人手不足、在来型兵器の不足による、一部戦線の崩壊、難民保護などの予算の発生により、結局は前の6倍の予算が臨時予算の名目で認められるのだった。






――Gウィッチとレイブンズは通常ウィッチとの間に相互理解に至るには、『壁』がそもそも存在した。Gウィッチやレイブンズは『軍人』として完成され、その後もなにかかしらの理由で戦いの場に身を置き続けたりした。そのあまりの強さと、軍人としての有能さが原因で、周りのウィッチからは異端視され、謂れなき迫害を受けた経験を持つ場合が多い。転生した経験から、レイブンズとGウィッチは人同士の戦争で抜群の戦功を立てている事が通常ウィッチからは異端と見做されている。その認識はこの戦闘で覆されつつあり、通常ウィッチは『軍部から放逐されてしまう!』という恐怖からの先入観や恐怖で、ウィッチが必要とされたはずの肝心要の戦を前にして、日本国自衛隊の害獣駆除部門『MAT』に大量に移籍してしまったり、扶桑海軍ウィッチ達の傲慢でクーデターが画策される状況にあり、通常ウィッチの構築した社会が、ウィッチから偶発的に生じたGウィッチを異端視したことで、国家や軍上層部が『育成費用をチャラにできる上に、通常より遥かに強い』Gの重宝を進めたことも、通常ウィッチとGウィッチたちとの間の大きな溝となってしまったのは否めなかった――


「あなた達は何故、彼女達を敵視していたの?」

アルトリアの勧めで退役届を出したロザリー・ド・エムリコート・ド・グリュンネは、退役届を一時保留にされ、アイゼンハワーの勅命で『大佐』に名誉的に昇進した上で、『司令部付の査察官』の任務についた。これはGウィッチを重宝し、強大な権力を与えている事で必ず生じるGウィッチへの反発を抑えるためのアイゼンハワー達の策謀であり、苦闘を続ける、戦線にいる数少ない通常ウィッチの意見を上層部へ汲み上げるための施策であった。

「大佐、私達は許せなかったんです。黒江大佐、いえ、中将閣下達は、事変からの長いブランクがあるのに、ぽっと出で戻ってきて、私達が積み上げて来た全てを軽々と超えていく……。そんな事があっていいんですか!?」

「貴方達の言う事は分かるけれど、あの方たちは未来世界で相応に努力した上で、往年のカンを戻して帰還してきているのよ?貴方達の努力はいったい何?怪異を倒せても、敵兵は倒せないってことかしら」

ロザリーは現役ウィッチへは羨望と嫉妬、それとGウィッチにウィッチの行く末を見守る事を託す感情が入り乱れているが、現役ウィッチの単なる愚痴を『嫉妬』と切り捨てるだけの冷徹さは見せた。Gウィッチ達は最前線中の最前線で今、まさに文字通りの死闘を展開している。いくらヒーロー達の手助けはあるとは言え、圧倒的多数の敵に怯まずに戦っている。その事実も、現役世代の通常ウィッチには不利に働いていた。

「大佐、それは……」

「貴方達の努力は認めるわ。けれど、現実を受け入れなさい。彼女たち無しには、軍のウィッチは今の立場すらも危ういという、ね」

実際、各国に流れた後世の技術より、世界各国で科学技術の加速が起こった事で、レイブンズのおかげで影を潜めていたはずの反ウィッチ論が徐々に息を吹き返しつつある時勢であった。それを利用される形でオラーシャの悲劇が起こり、扶桑は海軍ウィッチによるクーデター一歩手前の状況であった。その事実への良識派軍人達の焦りが、Gウィッチの台頭を手助けした面もある。黒江たちはこの時期、現役ウィッチを見下すような発言も多いが、実のところ半分は、『かつての自らが先輩らから受けた発奮のための追加儀礼を自分が行う』という発想での演技であり、その点は昭和仮面ライダーの体育会系的発想の影響が強く出ている。(ただし、黒江のように、現役世代のあまりの不甲斐なさから発した本音もあるが)

「しかし、大佐!」

「じゃあ、貴方達は今すぐに、ジェット戦闘機に乗れる?MSに乗れる?生身で改造人間とやりあえる?」

「……」

「あの方たちだって相応に涙を流し、血を流して、今の力を得たのよ。あの方達がウィッチの存在意義を証明してくれなければ、今頃は私達は失職よ?」

ロザリーは黒江達がウィッチの存在意義を示し、伝説を残してくれなければ、ウィッチは今頃、軍から放逐されてもおかしくないと考えていた。黒江は現役ウィッチに聞こえるよう、自分がスカウトした零部隊元隊員たちとの会話で『これだけ言われても今までの場所に座り続けようってのは崖っぷちに座ってる場所が有るのに気が付かない位にゃ馬鹿だろ?』と煽っている。つまり、現役ウィッチはGの優遇に反対し、その力の永続性を敵視したら、自分たちが薄氷を踏むような立場に追いやられていたのである。更にGウィッチの中でも、過去の英霊の黄泉がえりの器となった者達も出現している。そうなれば、通常のウィッチに『できること』を探すしかないのだ。芳佳は言った。『私にできることをやらなきゃ』と。芳佳はG化で陸戦でも活躍し、同じく、G化し、芳佳への友情を取り戻そうとしたリネット・ビショップは『美遊・エーデルフェルト』となり、芳佳が自分を友達と言ってくれた事を拠り所に戦いの場に出た。曰く、『はじめて……だったんだ…わたしを……『友達』って……言ってくれた人だから。理由はそれだけでいい』とのこと。そのため、この場では、魂魄に刻まれた記憶を頼りに、『セイバー』のクラスカードを多用している。元々、お互いに似た性格であったので、親和性はトップレベルである。

「貴方達は『私にできること』を見つけなさい。私達には、Gウィッチ達のように、英霊に列せられる力はないわ。かと言って、日本の義勇兵たちみたいな『死も恐れないほどの蛮勇』もない。私達は自分で見つけ出すしかないわ、自分だからできることを」

ロザリーはエクスウィッチとなった自らも指して、『私達にできること』と言った。Gウィッチのように英霊になれるほどの武勇も、日本軍将兵だった義勇兵達のような『死に場所を得られた』ことの喜びに打ち震えるような戦闘向きの気質でもない。そんな通常ウィッチ達は『自分たちにできること』をすることで『何かを為せる』のだ。

「私にできること……」

「そう。できることを成すこと。それが過酷な時代で私達に示された光であり、道。守りたい物があるのなら――」











――守りたいものがあるのなら、それが君たちの戦う理由になる――

黒江達へ別の戦場で戦っているカミーユ・ビダンからニュータイプ能力でのメッセージが届く。彼はヒスパニアでZガンダムを駆って、地球連邦軍の象徴として戦っている。そして、戦場にいるウィッチ達へメッセージを発する。


――力を求めるならレイブンズの(もと)へ行けば、目指すべき力へ導いてもらえる、彼女らの門を叩くと良いだろう――

カミーユなりの黒江達への友情であった。最高のニュータイプ能力を誇るカミーユは復活後は医者を志しているが、地球の危機であるので、エゥーゴ時代の軍籍を使って連邦軍に復帰。リビルドされたZガンダムを駆る。(リビルドされたZは三号機仕様に強化されており、小型MSやミドルMSの出現後の水準の性能に強化されている。系列機からのスピンオフも多分に貢献しており、武装はオリジナルのものの他、ビーム・スマートガンなども装備可能になっている。『Plus以降の技術で再構築されたオリジナル』というほうが正しいだろう。ZガンダムはRX-78に変わる地球連邦軍の技術の象徴とされており、その人気も高い。ルナマリアと融合後のジャンヌが自分のネームバリューを使って、ダブルゼッツーをもらったのもその人気の表れだろう。黒江がプルトニウスを受領していることでも分かるが、TMSは空軍や宇宙軍では空挺任務に適する。特に宇宙軍では、かつてのジム・ナイトシーカーの代替機種とされている。(宇宙軍も一部は地上に展開しているため)また、可変形態による一撃離脱戦法から、老朽化したライトアーマーやフェロウブースター装備のインターセプト(一年戦争時の機種)の代替で配備されているのが各種TMSだ。特にエゥーゴ系部隊では経験上、好まれている。但し、政治的理由でティターンズ系であった部隊やガルダ級の護衛部隊はウェーブライダーより低速での運動性などが高い事を理由に『アンクシャ』(アッシマーの後継機)を使用している。そのため、エゥーゴ系やメディアへの顔出しが多い部隊はZの血統を、ティターンズの影響下にあったが、終戦後に恭順した部隊はティターンズ系を独自発展させた機種を使用している点で、TMSはエゥーゴ系とティターンズ系に大別され、それぞれが使用されたことになる)








――黒田は黒江とレヴィ(圭子)から怒られたが、なんとか当初の目的は達成し、サーニャを『イリヤスフィール・フォン・アインツベルン』に、ルッキーニをクロエ・フォン・アインツベルンに変身させた。ルッキーニは精神年齢が上がった影響か、声色がスバル・ナカジマに近づいていた。なお、フォンは本来、貴族階級が使う形容詞であるが、ガランドがもう手筈を整えていたので、カールスラントで19世紀前半に絶えた『アインツベルン』伯爵家の名跡をカールスラント皇帝が二人に与えた。これはガランドが『G機関のエージェントとしての活動の後ろ楯』が必要と皇帝に奏上したら、昔に絶えた貴族の名跡を与えちゃお!とノリノリでサーニャとルッキーニへ与えた。それが偶然にも『アインツベルン』伯爵家だったのだ。そのため、二人は文字通りにもう一つの名前を得た事(サーニャは三つ目の名になるが)になる。

「サーシャ大尉はどうなります、黒田大尉」

「わからないが、多分、パットン親父が口から泡吹いて怒ってるから、一階級の格下げと隊からの離脱からの本国送還だろうな」

パットンは本国送還も辞さないと、サーシャのサーニャへの罵倒について怒り狂っている。レヴィのぶっ飛ばしもあり、ラルはサーシャを離隊させる手続きを整えている。(代替に、元503戦闘隊長のフーベルタ・フォン・ボニンを呼び寄せている。捕虜収容所からの救出後はブリタニアで療養し、R化している)

「フーベルタ大尉が少佐になった上で、代替で赴任するから、オラーシャはサーシャを責めると思うよ。これまでの功績で相殺できるかどうか」

ラルはサーシャをフーベルタで代替することをサーニャとの喧嘩別れを待たずに決断し、既にフーベルタの着任の辞令は出ている。これはオラーシャの悲劇が原因で情緒不安定に陥り、黒江達すら抑えられない『ヒステリー』を発症。黒江が作戦で副官にしなかったのはそこに原因があり、ジャンヌが来たのを渡りに船とし、ジャンヌを副官にしている。黒江達と相談したラルは、サーシャにわからないように、日本語で話しつつ、美琴に近い若々しい口調でこう言っている。

『レイブンズからの要請として、未来世界で研修行かせて再教育受けて、前線にとっとと戻らせろってオラーシャの総司令と皇帝に手紙出しときます?」

『新見先生に連絡とっとけ。サーニャを泣かせた以上、あいつはもうウチにはいられねぇ』

黒江もサーシャのヒステリーにお手上げなようで、怒るエイラを抑えられないとぼやく。

『オラーシャは冷遇しますか?』

『功績でどうにか相殺できるだろう。あいつは実力はある。前史の最終階級が元帥だから、ベトナムの時までにゃ落ち着くさ』

サーシャは前史の最終階級が元帥である事に触れ、サーシャの未来は希望があると、ラルへ告げる。


『一応、私達の連名で請願書は念押しに出しとく。それとアルトリアとアストルフォ、ジャンヌにもオラーシャ新皇帝に話してもらうさ』

『うまくいきます?」

『それはオラーシャの新皇帝と、ジューコフ将軍次第だな』

英霊達にも協力してもらい、人間不信に陥り、譲位した前皇帝、その後を受けて即位した新皇帝に話してもらうと告げる。新皇帝はオラーシャの愛国者であるが、衰退した自国に頭を悩ませている。前皇帝の嫡子で、昔年のピョートル1世やエカチェリーナ2世の持っていた才覚はないが、愛国者ではある。その点で言えば純粋無垢であり、彼のもとでオラーシャは完全なる立憲君主制に移行することとなる。うら若く、この時、弱冠16歳ほどのオラーシャ新皇帝は日本からすれば『ありえない存在』であった。彼はニコライ二世の孫にあたる。血統はニコライ二世の嫡男『アレクセイ』が長じ、皇位を就いだ際に設けた嫡子で、皇帝としては祖父のものを継ぐ『ニコライ三世』となる。父親が人間不信に陥って譲位したため、若いうちに帝位が転がり込んだ事、国の衰退期に皇帝になった事で、周りの大臣にまともな人材がいるかどうかが心配されたが、彼自身が政治に興味があまりない事、衰退期になった事で、逆に有能な人材の発掘が進み、立憲君主制への移行へ舵を切ることに成功するのだった。





――マルセイユが使用しているクスィーガンダムは、他の平行世界でハサウェイ・ノアが『マフティー・ナビーユ・エリン』として搭乗した個体と細かい違いがある個体だ。試作機の予備パーツを組み上げ、その上で装甲とコックピットの間を空け、電撃などからのコックピットの保護機能を改善したり、装甲厚を強化した所謂、二号機。アナハイムが本格的に追加生産を行う前に用意された個体でもある。マルセイユにニュータイプの素養があったために与えられた。そのため、正式なガンダムパイロットとなった初のGウィッチである。カラーリングはオリジナルと同色に戻されているが、今は亡きストームウィッチーズのエンブレムをパーソナルエンブレムとして使用していたり、マルセイユのトリッキーな格闘戦のセンスを活かすため、OSがかなり設定変更されている、サイコミュシステムは機体制御に全振りで、ファンネルは自分の能力をサイコフレームで増幅させて使用するなど、専用機扱いである。なお、『黄色の14』と恐れられた同位体同様、クスィーの右肩に14のマーキングが施されており、マルセイユはプロパガンタ要員として活用されていた――




「ガンダム、ねぇ。強いのは認めるけど、地球連邦はワンオフの機体を重視して、量産機を揃えるのを怠ってるような?」

「フレデリカ、文句言うな。お前の同位体のティーガー(P)も量産考えてるかわからないモデルだろー?」

「そりゃそうだけど、ここまでデカイと置き場所が」

「グレートマジンガーやνガンダムとサイズは同じだぞ。幅があるだけだ。そうだ、前史で坂本少佐が言ってた事を思い出した。『兵器は強ければいいって事ではないんだがなぁ』と。あの人は前史で地球連邦軍の高性能試作機偏重の行政に苦言を呈していたなぁ」

マルセイユが言及するが、坂本は前史で地球連邦軍がガンダムに傾倒している開発状況に苦言を呈していた。仕方ないが、地球連邦軍はどうしても標準量産機の性能がジム系である以上、可も不可もない平凡な特性になる傾向があり、尖った性能があるジオンの高級機と高練度パイロットの組み合わせに圧倒される事が多い。ガンダムに一騎当千の強さが要求されるのは、一年戦争後期以来の伝統だ。言わば、ガンダムは『試作機』の名を借りたフルチューンのWRCマシンレースカーと言える。

「本当なら、量産機が試作機のネガを潰した改良型になるはずよ?わかってるけど、ゼータクね」

「まぁ、地球連邦軍は量産機の平凡さに定評があるしな。プロパガンダの意味合いも多分にあるんだよ、ガンダムは。ジオンはザクVでMSの基本を忘れたから、次のギラ・ドーガがマラサイとザクの子孫になったんだし」

連邦軍はジェガンの後継で長らく迷走し、ジオンもザクVが高コストになった反省で、その次の主力のギラ・ドーガはオーソドックスな歩兵的MSに回帰している。地球連邦軍はガンダムとその系列機、もしくはジム系をハイスペックモデルにした機種を標準機と別に用意し、生産する余力があるので、ガトランティス戦役の後はそういうドクトリンとなった。ジオンは『高性能』に地球連邦軍より傾倒しているが、ビームシールドなどの新技術にほぼ無関心であり、実のところ、今は地球連邦軍に技術の優位を逆転されている。最も、地球連邦軍もビームシールドの運用実績から、実体式のシールドをステルス性の観点から使用し続けているので、そこは『ホイホイ新技術に飛びついてはいないところ』だろう。

「ジム系だって、ジェガンが改装されまくって、個体によっちゃ、ジェネレータのパワーは遂に、4000kwの大台だぞ?改造しすぎだ」

地球連邦軍はジェガンを星の数ほど作ったため、使用が継続されている最終型を更に現地で強化し、後継機のジャベリンよりパワーがある個体も出ている。また、既存の旧型機の兵装もそのま使用可能なため、武装バリエーションもジム系の全てに及ぶ。また、その最終型をベースに特務用に仕上げたジェスタは更に上で、最終形態のνガンダムと同等の性能と凄まじい性能である。ジェガンが地球連邦軍のザクと言えるほどの普及率であるための芸当だ。

「おまけに、テスト中のジェスタとグスタフ・カールはνガンダムと互角だぞ?性能がインフレしてるぞ?」

「でも、本格量産機ではないでしょ?」

「建前は量産機だぞ、あれ」

「ジェスタやグスタフ・カールは一応、ジェガンの近代化に貢献できるさ」

「アムロさん、補給ですか?」

「ああ。ミサイルやバルカンの弾、シールドキャノンの砲身取っ替えもあるからね」

「アムロさん、貢献できるとは?」

「ジェスタもグスタフ・カールも、ジェガンの高級バージョンを求められて造られたんだが、ジェスタはユニコーンの護衛目的も含まれたから、グスタフ・カールよりパーツ精度がいいそうだ」

「見かけはそれほど差がないのは?」

「元々、ジェガンの特務部隊用モデルというのがコンセプトだから、外観は否応なしに似るさ」

グスタフ・カールとジェスタはスペックはほぼ同等だが、ジェスタのほうが動作が軽快である(見かけも精悍)という長所がある。これはグスタフ・カールは元々、地上の治安部隊などに配備予定の上位機種であり、ジェスタは宇宙軍のフラッグシップモデルであるユニコーンの護衛機としてのハイパフォーマンスを求められていたという違いが大きいための差だ。

「ただし、グスタフ・カールは地上用の体裁が強いから、ウチはジェスタを受領したけどね」

ロンド・ベルなどは汎用性や動作の軽快さなどから、ジェスタを受領している。元々の開発目的はともかく、ヤクト・ドーガなどに対抗できるスペックだからだ。最も、上層部は『グスタフは拠点防衛タイプ、ジェスタはコマンド作戦や護衛戦闘用』と位置づけてはいるが、ジェガンの初期から中期型の老朽化も重くのしかかっていたので、特務部隊で事実上、その代替にされた。その違いが両機種の差と言える。

「最も、グスタフは拠点防衛用だから、ウチには向いてないさ。コマンド作戦とかがウチの主任務だしね」

「シナノはジェスタを?」

「フォン・ブラウンに今月分の生産分の半分を回してもらったからね。ジェイブスも少数だがある」

ジェイブス。この当時の地球連邦軍では最新鋭のミドルMSであり、ミッションパックを前提にしたジム系初のMSである。サイズは16m前後。見かけはジェムズガンとジャベリンの間の子だが、『V.S.B.R.パック』の存在により、F9シリーズの簡易生産機に等しい特性を持つ。だが、そのV.S.B.R.パックが高コスト化の原因と議会から問題視されているし、実際、調達費はジャベリンとジェガンより高価であった。政府の指摘によれば、ミッションパックでジェガンが買えるお値段、本体はジェガン1.4機分の価格で、政府が性能はいいとしつつ、些か高コストと難色を示すのには充分である。これが後に、ジェガンの直接改修での強化が『フリーダム』として採用される伏線となる。ジェイブスは政府に性能の長所と整備性の難点が釣り合わないとされ、後々、フリーダムが穴埋めに採用されるのは、F-14とF/A-18にも似ていた。

「ただ、ジェイブスは生産が低調でね。ミッションパックも生産しないと使えないというのが受けない原因だ。サナリィを意識しすぎだよ、あれは」

ミッションパックはサナリィ、更に鹵獲したインパルスのシルエットシステム、データにあったストライクのストライカーパックを意識した上で用意されたが、地球連邦軍の現場では整備コストの増大のため、熟練整備員を揃えたロンド・ベルなどの特務部隊でもウケが悪い。また、ウェスバーをミッションパックにした事はアストナージも『コスト増大の原因だ』と苦言を呈するほどである。いっその事、F91、V2アサルトと同形式にするが、携行火器にGバードを入れるほうが安上がりだったとも言っている。実際、ロンド・ベルでさえも、格納庫が大きいシナノでなければ、ミッションパックの置き場所に困るほどである。

「まぁ、あれは鹵獲した別の世界の奴のデータも参考にしたらしいし、そのせいでコストがかかったーとか」

「うーむ。そこまで意識せんでもなぁ。携行火器を増やせばいいんだし、アナハイムにしては悪手だな。オールラウンダーを目指すべきで、F90のは単なる実験用だ。別の世界の奴を意識するあまり、機能を絞れなかったな」

アムロは初代ガンダムのような汎用性を機体単独で目指すべきであるとし、ミッションパックで対応する事は好んでいない。実験用にはいいが、実戦に使うにはハンガーのスペースを食う事を指摘した上だ。実際、ミッションパックはあくまで実験用であり、サナリィはミッションパックの機能に特化させた機種、より強化した機能の新型を用意している。そのため、ジェイブスは『秘めた性能は評価されたが、運用面のデメリットがクローズアップされる機体』としての知名度を持ってしまうのだ。そこがジェイブスの不幸であった。アムロはνガンダム系の基礎設計を担当しているので、インパルスやストライクの華々しい活躍を目にし、『ミッションパック』に傾倒してしまった同機を辛辣に評価するのだった。



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