外伝その175『不埒事件の序曲』


――ダイ・アナザー・デイでは、レイブンズのかつての戦績が公的に直された事による影響が各所に生じ始めた。撃墜スコアが一気に250機以上の加算がなされた事で、江藤は真意が何にしろ、人物評価が疑問に持たれ、空軍司令への就任時期が戦争もあり、大きく伸びる(当初予定より5年以内だが)こととなり、レイブンズを侮ったり、冷遇していた元同僚や上官達は『天皇陛下のお気に入りならば、彼女らの一言で出世どころか、扶桑で生きる道が閉ざされかねない』と恐怖を懐き、それがクーデターの大規模化に繋がるのである。扶桑の村意識から来る、『他国での高評価が自分たちの利権を壊す事』への反発。それは加藤武子や竹井醇子がどうやっても、未然に防げない必然と言えた――

「美緒ちゃん、どうしてこうなっちゃうの?」

「醇子、お前。そうか、若返ったんだったな。諦めろ。もう、『あれ』はお前や加藤さんの力では止められん流れだ。黒江もそこは元から諦めている」

「昔のセーラー服引っ張り出して来たけど、どうかな?」

「普段遣いにはいいが、飛行の時は特注してやるから、士官服にしろよ?」

「ありがとう〜!でも、若返ると、疲れが吹き飛んじゃった感じだよ」

「子供の頃に戻ると、気分が楽になるからなー。口調はわざとだろ」

「まぁ、仕事の時は大人の時の口調にするけど、非番の時は、ね?」

「うーん。お前、苦労してたんだな」

「ドッリオ隊長が自由人だから、隊を纏めてたの私だもん」

「うん、その、ご苦労さん」

Gウィッチ化済みの竹井だが、表向きはR化処理という事で、11歳当時の姿に戻った。口調はバランスを取ったのか、当時よりは現在の口調に近いが、声のトーンは高い。坂本は作戦後の引退を表明したこともあり、普段通りだ。

「でも、なんで黒江さん達は非番にならないの?」

「あいつらは戦線に必要不可欠だし、聖闘士でもある。当分は非番は来ない。下手な英霊より強いしな」

竹井の疑問に答える坂本。黒江たちはその『規格外』の強さ故、休暇が取れないのだ。

「あいつらは中将待遇の准将って、ややこしい身分に出世した上に勲功華族だ。最前線の最前線にいることもあって、作戦中扱いで交代要員がいないってことだ」

「つまり?」

「正式な階級は准将だが、自衛隊で最高階級になってるから、中将として遇されるって事だよ。妥協の産物だ」

「妥協?」

「お上が将官にするって約束したんだが、軍の高官達の一部が反発したんだ。で、お上が怒り心頭でな。陸自の幕僚長の上奏でバランス取りが行われ、三人は准将の第一号になった」

自衛隊で最高の階級『将』になるほうが先になった黒江は、扶桑では『ウィッチ出身』将校ということもあり、扶桑軍内部に将官への昇進反対論がまかり通ったが、天皇陛下の叱責と陸上幕僚長の上奏で准将の階級が創設され、その第一号に任ぜられた。続いて、圭子と智子と任ぜられ、階級としては、『功績がある若手の放り込み先』としても機能する事になる。日本側にとっては、師団長級の一佐の正式待遇の確定ができることもあり、むしろこれは歓迎された。ただし、黒江の場合は自衛隊で最高階級になっていて、統括官の任についている事を勘案した上での勤務階級が中将となっているため、階級の上では、扶桑ウィッチの最高位に位置する。但し、扶桑はウィッチの世代交代が本来ならば促進されるべき時期であり、その事がクーデターの大義名分に利用された節もある。日本がウィッチ軍人の粛清人事を敢行したことで、従来の意味でのウィッチ閥は決定的に発言力を失い、ウィッチそのものの改革派である『親Gウィッチ派』が主導権を握る事になり、その派閥が太平洋戦争を支える原動力となっていくのである。

「クーデターはもはや防げん。今は如何に、被害を最小限度に抑え、日本の過度な介入を防ぐか、だ。ウィッチの粛清が大規模になれば、空母機動部隊の形骸化では収まらくなり、下手すれば、太平洋戦線で南洋は確実に落ちる。それは避けないといかん」

ウィッチ装備の内、航空ウィッチの装備が技術革新でレシプロからジェットへ世代が移り変わる時期かつ、ウィッチの世代が1940年代以降の志願組へ入れ替わる時代のはずであったのが作戦の時期に当たるため、メンコの数が古参より少ないが、ちょうど成熟してきた『中堅世代』がレイブンズの影響力を脱しようとし、クーデターを主導するのである。これは黒江たちの公式スコアの爆上げを『他国向けのプロパガンダ』と見た事で起こった事なので、江藤はこの事を『自分がクーデターの芽を巻いてしまった』と気に病み、この作戦で戦線に立つ原動力になっている。(江藤は戦線に立つことで、若松やレイブンズへの贖罪をしようとしている。そのため、黒江達のスコア訂正の折には、天皇陛下に詫び、自分の職責もかけたが、陸奥や摩耶の執り成しもあり、ダイ・アナザー・デイの戦線に立つ事を条件に、責任を問わない事になった)

「江藤さんはクーデターの遠因が自分の行為にある事を気に病んでな。摩耶や陸奥の執り成しもあって、前線で戦っている。だから、記者会見でも自分から当時の行為の趣旨を説明している。非難を覚悟でな」

「あの人が…」

「ああ。軍人生活に戻るのは不本意のはずだが、お国の一大事が控えると分かれば、あの世代はすぐに滅私奉公さ」

坂本は江藤や北郷(将来は自分の娘の義理の伯母になる間柄となる)の世代は滅私奉公教育が濃厚になされたため、太平洋戦争をちらつかせれば軍務に戻しやすいと言う。自分たちの代になると、滅私奉公の傾向が薄れているからだ。江藤も若松達が『お国の一大事が迫っておるのだ』と示唆した事が現役復帰の理由なのだ。

「で、どうするの?これから」

「私は空母のエアボスに転職するさ。空軍ができたら、海軍の陸に上がってる連中は根こそぎ引き抜かれるからな。空軍の連中を空母に載せる時の事務処理も重要な仕事さ」

「そっか、陸の連中はみんな空軍に引き抜かれるから……」

「601も間違いなく引き抜かれるだろうから、空母機動部隊は独立した洋上作戦能力を失う。そうなれば空軍に頼らざるを得ないし、武功章や技能特優章も設けないと、日本からの苛烈なメディアスクラムを食らう。海軍はそれを一番恐れている。特攻隊を始めたのは海軍だからな」

海軍がエースパイロットを優遇し始める背景には、日本のメディアスクラムからの組織防衛が第一である当たり、自己保身の面が強く、これから設立される空軍の失笑を買う事になる。海軍航空隊は日本からの特攻隊関連の白眼視や、水上艦隊軽視による海戦の連敗での自らへの予算削減を恐れており、太平洋戦争開戦時には、クーデターを経た後の再建が間に合わず、更に、褒章の常設とエースパイロット制度の導入に部内の反対を押し切らなければならず、恐れていたメディアスクラムを受けてしまう。志賀はその事で軍への居心地が悪くなり、家の勧めもあり、大戦終結時に退役、実業家へ転身する。

「志賀を知ってるか?」

「ああ、黒江さんと喧嘩して、343空を出ていった……」

「あいつだが、私に本心を明かしたよ。奴は『メディアを使ったプロパガンダに利用される事が嫌だっただけで、部内で感状や軍刀を貰える分には構わなかったんです……。若い子らが天狗になるから……』と。あいつ、それを言えば、出ていくような真似をせずに済んだろうに」

志賀淑子は撃墜スコアを誇る文化は『扶桑海軍のものではない』としながらも、国民の戦意高揚のため、部内の士気高揚のための褒章自体には理解を示していた。(事実、この頃には功労章を受賞している)その真意を黒江に上手く説明出来なかった事、343空が64Fに取り込まれる事が『規定事項』であった事への彼女の反発が黒江とに溝を作ってしまい、志賀は引っ込みがつかなくなった結果、横須賀航空隊へ逃げるように異動していった。だが、震電焼却事件が志賀に罪悪感を決定的に植え付け、軍から去る決意を固める。だが、宮藤芳佳への罪悪感が彼女を震電改二の完成へ突き動かす事になり、資料の復元などに尽力し、それを黒江と芳佳への禊とする形で、軍生活を終えていく。

「あの子はレイブンズのプロパガンダに反発して育ってきた世代だもの。それもあったんだろうね。でも、約束された勝利の剣を見れば、否応無しに認めざるを得ない。江藤さんのミスだよね、あればかりは」

「うむ。あの方には悪いが、完全にミスだよ。部内の闘争を招いてしまった。しかも連合軍全体を巻き込んでの、な」

言い終えると、坂本は圭子から勧められた、喉の薬(タバコ型)を服用する。『タバコを吸わないと、大人と見なされない』欧州の風潮に合わせた習慣らしい。

「美緒ちゃん。それ、いつから?」

「加東に勧められてな。欧州だと吸わんと大人扱いされんだろ?しかし、前史では晩年には止めていたから、悩んでてな」

「ミーナ中佐が覚醒前に見てたら、喚いてたよ」

「まぁ、この時代には大人のステップアップみたいなステータスだが、黒江や穴拭は吸わんからな。私も晩年には止めていた。今の体だから吸えるのさ。それと、あいつは覚醒前は精神的に大人になりきれず、幼馴染兼恋人の死をずっと引きずっていた。それが我々とのトラブルに繋がっていた。それは同情するが、『未来』に目を向けて欲しかったな」

ミーナの自我が実質的に西住まほ化した今となっては遅い気がするが、坂本はそう振り返った。覚醒すると、自我意識が大きく変わる場合も多いため、それ以前の心境は推測するしかないからだ。

「坂本、久しぶりだな」

「フーベルタか。リバウ以来だな」

「正確には数十年ぶりか?グンドュラから話は聞いたぞ」

「お前、覚醒したのか?」

「ぼんやりとだから、兆候が出始めたと言うべきだな。竹井大尉、ずいぶんと可愛くなったな」

「まぁ、色々あって」

「わかった。サーシャ大尉の後任として着任した。よろしく頼む。あ、バルクホルンから連絡が入った。ヨハンナも来てくれる」

「上は64Fへのカウンターで、JV44を結成させたいらしいな」

「いや、次の戦線への布石だ。どの道、私達は呼ばれているんでな」

フーベルタ・フォン・ボニン。真501の二代目戦闘隊長の一人として呼び寄せられたカールスラントのエースパイロット。元503副司令であるが、先任将校が大勢いるため、一中隊長の地位で落ち着いた。前任者『アレクサンドラ・I・ポクルイーシキン』が事実上の追放処分になった後を受けて、ラルが呼び寄せたのである。

「お前、いつからメイド服を」

「捕虜収容所でやらされていてな、そのまま慣れてしまった」

フーベルタは俗にいう、メイド服姿であった。非番であるのと、私服が今やこれしかないから、らしい。眼帯もファッションでしている事から、癖になってしまったらしい。

「お前、なんだか……日本のどこかの美少女バトル漫画で見たような姿だぞ」

「それは言われたよ。マニアックだから、一般人はわからんと思うがな」

「まぁな。階級は二階級特進で中佐になっていた事に驚いたぞ」

「仕方ないさ。お前は行方不明で処理されていたし、家族にも伝わっていただろうからな」

「家族には電話で無事を伝えたよ。ただ、サフォーノフ中佐は……強化されてしまったようだから、最悪の場合……人格破綻者だ」

「……なんとか連邦の技術で、人格の修復ができればな。黒江の主治医にいい先生がいる。よければ、後で相談してみろ」

「恩に着る」

ティターンズはウィッチにニュータイプ能力を与え、洗脳する事で使い捨ての強化人間を作り出すという非人道的研究にも手を染めていた。限られた自前の兵力を温存し、ウィッチ同士で殺し合いをさせるために。あくまでグリプス戦役当時の技術レベルであるので、作り出せるのは、よくてフォウ・ムラサメ、悪くて、ロザミア・バダムレベルの強化人間で、ロザミア・バダムレベルだと、使い物にならないと言わざるを得ない。この研究を行い、何人もの廃人ウィッチを生み出した事が、Gウィッチの逆鱗に触れ、ティターンズとの戦争が激しくなる要因ともなる。

「……それが向こうの世界の戦争の闇なのか…」

「そうだ。サフォーノフ中佐は良くてフォウ・ムラサメのレベル、最悪の場合はロザミア・バダムのような……」

「未熟な技術で強化した代償なのか…?」

「そうだ。ギュネイ・ガスのような安定性はネオ・ジオンがプルシリーズを経た上で得たものだよ」


この頃には、ギュネイ・ガス、フォウ・ムラサメ、ロザミア・バダムの存在はGウィッチとその協力者の間では知られており、坂本も引き合いに出すほどだった。フーベルタは未来世界で生み出され、戦争の道具にされて散った強化人間達の存在を知ることで、未来世界の戦争の闇を実感し、息を呑む。

「フーベルタ。ティターンズはアースノイドには概ね、公平中立に振る舞うが、スペースノイドにはナチスレベルの蛮行を正当化するような連中だ。最悪、リベリオン軍を全滅させてでも、ティターンズは地獄へ叩き落とさねばならん。そのためには、大陸打通作戦もやむを得ん」

「大陸打通作戦だと?」

「うむ。これは悪手というが、リベリオン全土の占領の維持など我が国の国力を超えているし、反抗を考慮すると、焦土作戦をされる前に電光石火、陸軍の大群の打通を囮に、空軍の得る宇宙戦艦と機動兵器でワシントンDCとニューヨークなどの東海岸を強襲、これを占領するしか方法はない。戦争を終らせる最終手段だがな」

「お前、ニューヨークとワシントンDCをどう落とすつもりだ?」

「未来兵器を使いまくって現地のリベリオン軍を殲滅し、ティターンズの戦力を削る。そうすればリベリオンの傀儡政権は折れるよ。所詮、ティターンズが恐怖で縛ってるも同然の政権など、脆いものだよ」

坂本の言う通り、ティターンズの傀儡となっているリベリオンの現政権は、ティターンズの力さえ叩けば脆い。だが、ティターンズもそれは悟っており、当時からすれば公平中立の人種雇用を推進させており、リベリオン本土の有色人種の支持を取り付け、それが自由リベリオンの誤算となり、なんだかんだで冷戦体制が確立し、そのまま1990年代初頭までは惰性で維持される。つまり、この時代の人種差別思想が息絶えるであろう半世紀ほどの歳月は東西冷戦相当の時代が訪れる事をリベリオンの有色人種の人々は望んだのだ。特に南部に進出していた移民の有色人種達が。

「しかしだ。坂本。いくら64Fに宇宙戦艦があろうと、今は一隻だろ?」

「今後、続々と増やす予定だ。アンドロメダがほしいとか黒江は言っとる」

「おいおい、アンドロメダ級と言ったら」

「アースフリートの旗艦だ。が、ガイアのヤマトクルーが文句言ってきてな。政治的理由で貰えそうらしい」

「何故だ?」

「向こうで思い切り似てるA級ができそうでな。古代さんが『イスカンダルの思いを無視してる』と怒り心頭なんだと。その流れでこっちがとばっちり受けたんだ。向こうの次元波動爆縮放射器と、こっちが使う『タキオン波動収束砲』は似てるが、違うと言うのに、だ。向こうにとってのイスカンダルは赤っ恥だそうだ」

未来世界のアースはタキオン粒子文明を誇るアケーリアスの正統後継者であるが、ガイアは異なる文明になっている。坂本の言うように、サレザー・イスカンダルはサンザー・イスカンダルの平行世界での姿である上、アースの古代は古代守を通し、イスカンダル王家と姻戚関係である。サンザー・イスカンダルは自らは滅んだ星、滅んだ文明として、波動砲の権利に至るまで、地球に委ね、ガミラス帝国を滅亡させている。静かに消えゆく文明最後の善行が地球への技術供与なのだ。しかも、ガミラス帝国を遥かに上回る白色彗星帝国と死闘を展開し、波動砲すら有効打となりえない強大な敵と対峙し、古代(アース)は特攻を決意し、『違うっ!!断じて違う!!宇宙は母なのだ。そこで生まれた生命は、全て平等でなければならない!それが宇宙の真理であり、宇宙の愛だっ!お前は間違っている!それでは、宇宙の自由と平和を、消してしまうものなのだ!俺たちは戦う!断固として戦うっ!!』と宣言するほど追い詰められている。これはガイアのヤマトクルーに衝撃を与えた。アースの古代は艦が戦闘不能になり、コスモタイガー隊も壊滅した絶望的な状況下でも、敢然とズォーダー大帝に啖呵を切った。この映像に、ガイアの古代は『なぜだ、何故そこまで戦うんだ!?』と叫んだという。アースの古代が生き残った面々に『世の中には、現実の世界に生きて、熱い血潮の通う幸せを作り出すものもいなければならん。君たちは、生き抜いて地球へ帰ってくれ。そして俺たちの戦いを、永遠に語り継ぎ、明日の素晴らしい地球を作ってくれ。生き残ることは、時として死を選ぶより辛いこともある。だが、命ある限り、生きて、生きて、生き抜くこともまた、人間の道じゃないのか』と解き、自らはヤマトと共に特攻し、散華しようとする事を示すシーンもまた、ガイアのヤマトクルーを唸らせた。そこへテレサが飛来し、『負けて生き残ることも勇気がいることなのですよ』と解き、テレサが地球連邦政府を動かし、当時に稼働状態だった内惑星艦隊や地上のスーパーロボット、はたまた各移民船団から派遣されたバトル級戦闘空母をヤマトのもとへ導き、総力戦になったシーン。この時に帰還したレビル将軍は自ら陣頭で指揮を取り、ズォーダー大帝と死闘を展開。ズォーダーも超巨大戦艦の全力で応戦し、最後はバトル級の一斉マクロスキャノンで足止めに成功し、テレサが島大介への想いを胸に特攻し、散華するシーンはガイア、サレザーイスカンダルに衝撃を与えた。(この時に失われた戦力は当時のアンドロメダ、主力戦艦のほぼ全て、バトルキャリアの九割、内惑星艦艇が100隻以上、万単位のMSと戦闘機、優秀な将兵多数と、地球連邦軍にとっては、負けたも同然の損害であった)だが、幸運にもタイムスリップしてきたレビル将軍のカリスマ性で軍部の建て直しは政府の方針見直しと共に行われ、ダイ・アナザー・デイ時点ではガトランティス戦役当時以上の規模に波動砲搭載艦隊は飛躍している。レビル将軍はこの戦功と一年戦争の戦功で元帥に任ぜられ、地球連邦軍を建て直す大役を仰せつかり、アースフリートの結成に尽力した。戦死した土方竜の後継者として、山南修に期待する一方、沖田十三が脳死に至っていない事により、ガトランティスから接収した医療技術で蘇生を試みるなどの施策も行った。そのため、23世紀初頭の連邦軍はレビル将軍を筆頭に、ガトランティス戦を生き延びた提督、将軍が元帥府で力を奮う時代なのだ。(後世からは、地球連邦軍が最も実戦的な時代とも言われ、理想視されている。ハーロックとトチローが歴代アースフリートの中でも人的に最強である時代と評価するほどである)

「キャプテン・ハーロックと会ってきたが、向こうの30世紀の人間は限定戦争に慣れきって、覇気をほとんど無くしている。ハーロックのような者は異端視されるそうだ。だが、23世紀の人間の心意気はハーロック、クイーンエメラルダス、星野鉄郎……トチローさんらが受け継いでいる」

「彼に会ったのか」

「彼は男の中の男だよ、フーベルタ。お前に見せてやりたいくらいだよ、あの海賊旗を」

キャプテン・ハーロックの掲げる海賊旗は、23世紀の人間が持っていた心を受け継ぎ、30世紀の堕落した地球連邦の統制下に入らずに生きるという意思の表明であり、トチローとの友情の証でもある。23世紀にも現れ、Gウィッチたちを支援するのは、Gウィッチが彼の時を超えた同志だからであろう。

「いっぺんでいいから、宇宙の海は俺の海だ、なんて言ってみたいよ」

キャプテン・ハーロックの生き様は時を越えて、坂本から憧れを持たれたようだ。アルカディア号の威容もあり、坂本は故郷を離れる時期になったら、宇宙海賊になりたいらしい。

「お前、宇宙海賊って柄か?」

「まぁ、軍人からは離れられんし、そういう願望は持ったっていいだろー?」

「まー、ミーナは戦車道やるとか言い出したしな」

ミーナは覚醒後はみほの元に行きたいらしい事を漏らし、ラルとフーベルタを爆笑させている。それはミーナの自我意識が西住まほ化した良い証拠でもある。その際にラルは『どうせ黒江さんが事情話すから、留学中に宮藤と一緒に行けばいいだろー?』と大笑いしながら言っている。その際に『笑うな!アハト・アハトぶち込むぞ、グンドュラ!』と顔を真赤にしながら返したので、西住まほとミーナ・ディートリンデ・ヴィルケが融合した自我になったのが覚醒後のミーナであると確定した。シスコンであるまほの気質が反映されており、みほによく似た声のイオナに頼んで、目覚まし時計の音声を録音してもらうなど、バルクホルンと同じ方向性に進んでいる。エーリカは『あ〜、もうアタシの知ってるミーナじゃない〜…』と呆れている。無論、それは黒江と芳佳が電話でみほに伝えている。

『え!?お姉ちゃんが別の世界の人になってるって!?』

『いやー、ややこしいからあたしも説明しにくいんだよ、西住ちゃん』

芳佳やミーナの事例は当事者としても説明が困難極まりない事で、芳佳が角谷杏化し、事情を知る仲間の前では角谷杏としてのフランクで飄々とした口調と態度を見せることは当人でさえ説明が困難だ。

『どういう事ですか、会長……いえ、元・会長』

『そっちにはあたしとは別に『角谷杏』がいるけどさ、気にしないでいいよ、西住ちゃん。時間軸や輪廻転生的意味でややこし過ぎて、あたしたち同士も笑い合ってることだしさー』

『なんですか、それー!』

『あたしもそういう状況なんだってー!こっちじゃ海軍にいるしさー』

『え?陸軍じゃないんですか?』

『こっちじゃ空中勤務者なんだ。試しに、まほさんの護衛で陸のを履いたら、同僚連中に腰抜かされたしね』

芳佳は角谷杏として、みほと話す。その飄々として、普段より大人びて、人を煙に巻くような喋り方はまさしく、角谷杏だ。容姿は変えていないが、バルクホルンが困惑するのに配慮したか、声色だけ変えている。

『会長、そちらでの姿の本当の声は使わないんですか?』

『上官で、あたしに入れ込んでる人がパニックになるから、パス。前、うっかりそれしたら、その人がパニクってねー』

芳佳は覚醒後に普段の声色で杏としての振る舞いをしたら、バルクホルンがパニックに陥ったため、やれなくなった事を苦笑交じりに告白した。

『苦労されたんですね』

『大まかに言えば、西住ちゃんが姿を消した時、まほさんが練習に気が入らなかったような感じさ』

『お姉ちゃん、私の居場所を学校に作ろうと必死だったんです。後で、お手伝いさんが教えてくれたんです。ウチの犬に『私はみほに居場所を作ってやれなかった…!どうすればいい!?』って縋ったのも』

まほは誰も見ていない場所では、本来の優しい姉としての振る舞いを表に出す。飼っている犬に母の冷徹さへの反発や反感をこぼすなど、エリカでさえ知らない人間性がある。それを西住家のお手伝いの『井手上菊代』(西住しほの学生時代のクラスメートであり、部活での後輩。卒業後は西住家に仕えている)によれば、それは一歳下のみほを大事に思っている証拠であるとのことで、エリカが反感を口にした時は、エリカが部員でなければ『叱責したかった』ほどで、芳佳(杏)は『目に入れても痛くないほど可愛がってる』と評価している。実際、現在のミーナも『みほに会いたいなぁ……』とこぼしており、エーリカが『駄目だこりゃ』と、ため息になるほどシスコン要素が出ている。もともと、みほを守るためなら、家で課された責務すら放り投げるのが本質であるため、覚醒後のミーナがみほを恋しがるのも当然である。

『黒江さんが偉くなったから、今なら、西住ちゃんをまほさん――こっちだと、ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケってドイツ人だけど――を会わせられる。会いたがっててさー』

『お姉ちゃん、生まれ変わっても私の事を……』

『それだけ、西住ちゃんへの想いが強かったのさ。まほさんが休暇取れれば、黒江さんが送るそうだよ』

それは西住まほが転生し、ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケとなっても抱いた心と絆だった。みほと関連性があった戦車関連のピンナップを見る事であっさり覚醒した。それを聞いた黒江がシリアスな笑い状態に陥ったほどに。しかも今や、自我意識は芳佳と違い、『ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ』を基本としていない。その事情は芳佳が伝達し、黒江は『おい…マジかよ……』とシリアスな笑い状態に陥ったという。

『えーと…。こっちのお姉ちゃんとは別の存在になるんですよね、会長』

『そうだよー。ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケってドイツ人だけど、自我意識はまほさんになってるよ。ティーガーの車体番号を黒森峰女学園で西住ちゃんが使ってた番号にするくらいにね』

『お母さんが聞いたら腰抜かしますよ』

『たぶんねー。まぁ、信じないと思うけど、もしかしたら……』


『え?』

『心当たりがあるんだ、それらしい人物。西住ちゃんのお母さんらしい記憶のフラッシュバックが起きたらしい人の心当たりがある』

『か、会長!?』

『ケイさんに頼んで調べてもらってるんだけどね、多分……あの人だと思う』

『だ、誰ですか!?』

『確証はないんだけど、多分、西住ちゃんがこれから呼ばれる別の世界の未来にいる人』。

『焦らさないでください!』

『確証がないんだ。だけど……名前は分かってる。セシリー・フェアチャイルドって人なんだ。話半分で聞いといて』

芳佳もそういう事しか出来ない、西住しほの記憶を持つと思われる人物。セシリー・フェアチャイルド。シーブック・アノーの恋人であり、本名はベラ・ロナ。クロスボーン・バンガードの創始者『マイッツァー・ロナ』の孫娘という出自と、セシリー・フェアチャイルドという別名を持つ人物。ニュータイプであり、今でもガンダムタイプを手足のごとく動かせる腕前を誇るエースパイロット。いくら出自がマイッツァー・ロナの孫娘でも、パン屋の娘でしか無かったはずの彼女が何故、一時でも、クロスボーン・バンガードのアイドル的役目をいきなり果たせたのか?血筋の業ではない。ロナ家はもともとはブッホという名前のジャンク屋上がりの家系でしかない。もし、西住しほとしての記憶が奥底にあるのなら、その片鱗が覚醒め、彼女を女王らしい振る舞いにさせ、機動兵器操縦に高い適正を示したのではないか?圭子はそう推測し、シーブックも『もしそうなら、師範や家元としてしか接してやれず、夫に子どもたちの養育を押し付けた事への負い目が心の奥底にあるはずだ』と話している。セシリー・フェアチャイルドと西住しほには人物像の共通点は少ない。だが、もし、(意思)を受け継いだのなら、心から求める何かに従って動いているのではないか。そう思わせるところがセシリー・フェアチャイルドにはある。セシリー・フェアチャイルドは総じて『できた人物』であり、温厚な性格だが、やる時はやる性格である。また、昨今の複雑化したガンダムタイプすら容易に乗りこなす腕はニュータイプというだけでは説明がつかない面が強い。もし、西住しほの戦車乗りとしての才能がMSに形を変えて発現したとしたら?その推測が芳佳や圭子のみならず、シーブック・アノーをも唸らせている。あくまで、この時点では圭子の推理でしかないが、それを裏付ける要素が多く、シーブックもけして軽視できない状況となっている。それは今、しほの次女のみほをも巻き込もうとしていた。



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