外伝その176『西住まほの本心』


――ダイ・アナザー・デイで黒江達が前線で死闘を繰り広げているのとは対照的に、後方で待機していたミーナはセンチュリオン一両をヒスパニアに届けた後は功績もあり、一週間の休暇を取れる事になり、智子がシンフォギア世界から通信をかけ、取り計らったおかげもあり、転生前における実の妹に当る、みほとの『再会』を果たした。姿はミーナだが、精神は間違いなく、西住まほとなっている身である。階級は留学前であるので、大佐である。黒森峰女学園のパンツァージャケットにカールスラント軍のあれこれ(略綬)などをつけ、校章を取り払ったパンツァージャケットを身に着け、みほの世界にやってきた。やってきた時期は、ちょうどまほ自身は黒森峰女学園の卒業を控え、国内から出国し、しほも多忙になり、家を開けるようになって、芳佳が電話で話した事を大っぴらに話せるようになっている。お手伝いの菊代も時期的に、戦車道関連の仕事で不在であり、その点から言えば、安心だった――

「お姉ちゃん…だよね?」

「みほ…。姿は変わったが、私だよ。今は何かの縁か、ドイツ空軍にいるが」

「生まれ変わって、ドイツ人に?」

「そういう事になるな。パイロットだから、階級はもう大佐だし、それなりの地位にある」

ミーナはみほには『まほ』として接する。自我意識はまほそのものになったため、振る舞いは完全にまほだ。服は黒森峰女学園のパンツァージャケットにカールスラント軍の略綬などをつけ、校章を外す改造がなされたものである。髪の色と瞳の色、ロングヘアの容姿以外に違いはほとんどない。身長も同じなので、みほは『容姿が変わった姉』という不思議な感覚を覚えた。この変化は実は坂本には歓迎されていたりする。前史でレイブンズと無駄に衝突を起こし、坂本の胃をキリキリ言わせたからだ。今回はむしろ前より冷静沈着になり、指揮官として、より優秀になり、公平な人柄になっているので、坂本は胸を撫で下ろしている。そのため、エーリカには『スマンが、前史のこともあるから、シスコンになるくらいは諦めてくれ』と言ったそうな。

「お姉ちゃん、なんだか変わったね。昔に戻ったみたい」

「西住の責務から開放されたから、かもしれないな。今となっては西住流の伝統に縛られる事など、馬鹿らしく思える。お前には……つらい思いをさせた。あの時はかばえなくてすまない…」

「お姉ちゃん……」

「物心ついてからは、母様への立場上、お前をかばえなかった。あの時もそうだ。生まれ変わって、記憶が覚醒めた時、お前が一番に早く浮かんだんだ、お前に会いたいと」

ミーナはまほとして、みほに立場上言えなかったことや愛情を吐露した。抑え込んでいたものが転生で無くなったこともあり、ストレートな表現だった。

「気にしないで、お姉ちゃん。私は大洗で私の戦車道を見つけられた。お姉ちゃんが昔と変わらないなのがわかって、嬉しい」

「みほ…。あ!とりあえず、この話は今の時点の『私』には内緒にしててくれ。実質的に別の存在になるし、説明がな…」

「そうだね、エリカさんに見られたらどうするの?」

「それは問題ない。容姿は変わってるから、ドイツにいる従姉妹とでも言えば、エリカは誤魔化せる。とりあえず、ソウルシスターが増えたとでも思え!」

「お姉ちゃん、ずいぶんはっちゃけたね?」

「大佐に出世するとな、気苦労も多いんだ…戦車道どころじゃないぞ…」

「お姉ちゃん、パイロットになったのなら、戦車乗れないんじゃ」

「第一降下装甲師団があるだろ。そこで戦車兵の資格取るから大丈夫だ!」

「ゲーリングの配下だよ?そこ」

「大丈夫、ケッセルリンクの管轄になるから、あのモルヒネ男とはおさらばだ!」

みほも戦車道を極めし者なので、ミーナが言った師団が誰の配下か記憶していた。また、ゲーリングがモルヒネ中毒患者である事を知っており、げんなりした顔を見せた。ヘルマン・ゲーリングも後世の評価を聞けば、号泣間違いなしだろう。ただし、ミーナは知らなかったが、ゲーリングはこの時期にはモルヒネを抜くために療養に入り、治療が軌道に乗って、往年の英雄であった頃の精悍さを取り戻しつつあったりする。また、古傷の完治に希望が見えたこともあり、広報部長になろうとしており、カールスラントに曲芸飛行隊を作ろうとするなど、源田実に似た行動を取り始めている。

「ドイツ空軍って不思議だよね、空軍が機甲師団持ってるなんて」

「陸軍が止むに止まれぬ事情で潜水艇を持ったり、船舶部隊を持ってた日本の私達が笑えるものでもないがな」

この世界においては、年頃の少女がこうした会話をするのは珍しい事でもない。みほはドイツ系戦車を主に扱う学校にいたこともあり、日独の第二次世界大戦における軍事事情には精通しているらしい。

「そっちの世界での日本ってどうなの?」

「戦前と戦後のキメラと言いたいが、徳川幕府が織田幕府で、ムー大陸の残骸らしい陸地があって、そのおかげでチトとチリの完成が1944年に間に合ってた。今は必要上、61式のコピーと74式の解析が終わりつつある」

「事情は会長から聞いたけど、急ぎすぎじゃ?いくら相手がアメリカでも、いきなりパットン戦車が出るわけじゃないのに」

「政治的事情だ。また別の世界の今頃の日本と連邦を組んだが、そこが旧軍式装備の廃棄を半ば強要するそうでな…」

ミーナもいうように、21世紀日本は旧軍型装備を嫌悪し、陸軍の装備を陸自式に統一したがる声があり、財務省も経費削減の対象に旧軍式装備の削減を狙い撃ちしたこともあり、旧軍式装備の前線引き上げは半ば強要に近いと批判されていた。その中には旧軍で一番マシな戦車のチト、チリも対象に入っていた。この官僚的手法が後の太平洋戦争で前線の塹壕戦化を招き、チトにチリの長所を取り入れた改良が施された『チト改』が前線の要望で急遽、採用される状況を作り出す事になる。つまり、日本側の先入観が扶桑軍機甲師団を大パニックに陥らせた事となる。

「おかしいよ、それ。世界が違うんなら、チトやチリがあるはずだよ?チハ改やチヌは場繋ぎのだから…」

「日本はチハが限界だったと誰もが思ってる。外地にチヘすらも送り込めなかったからな。だから、そんな行き違いが起きるんだ。多分、事の次第が知れ渡れば、財務省も防衛省も非難されるだろうな」

「時代が違うと、そんな行き違いが起きるんだね」

「戦後日本は劣等感をバネに、戦後世界に居場所を作ったからな。文化的優越感に浸りたいのさ。それが過去の自分達によく似た国だと、な」

「でも、そっちの背後って」

「その世界の数百年後の世界がバックに居る。それはその世界の要請で伏せているが…」

ミーナは21世紀世界の日本の高慢さに呆れている。ウィッチ世界はすでに、23世紀世界に文化的、軍事的に敗北を喫し、そのショックから立ち直ろうとしているからだ。21世紀がした事は結果的にその混乱を助長しただけだ。

「その世界が抑えられないの?」

「やってはいるが、限界がある。戦争でシドニーやパリは吹き飛び、最終的に日本が世界をまとめる……そんな未来、欧州やアメリカ、それに中国などは認めんだろう?」

「確かに……」

「その世界では、ここから数百年後には、海千山千の宇宙の荒海に地球人類は漕ぎ出す。いくつかの運命の矢をきっかけに」

運命の矢。地球連邦軍が形容するいくつかの決定的出来事。マクロスの落下、統合戦争、ガミラスから始まる宇宙人の襲来、イスカンダルからの使者。それらを総称した後世(30世紀ごろ)の歴史用語として『運命の矢』は知られる。そして……。

「その世界は色々な出来事がここ数百年で起こり、滅亡の淵に立たされた事で宇宙へ進出していく。だが、今の時代にそれを言っても信じはすまい?アニメのロボットが実現している世界と言っても、現実味は感じないだろう?」

「その世界に年表はあるの?」

「それはあるが、戦争がありすぎて、細かい記録が、ある時代に限り、無いそうだ。向こうではその時代をミッシング・リンクと呼んでいた」

「ミッシング・リンク?」

「ある事件がきっかけで記録が失われた時代の通称だ。今はだいぶ復元が進んだそうだが。おっと、本屋でムック本でも買わんと」

「お姉ちゃん、戦車のなら、うちにあらかた」

「アニメのロボットはないだろう?それが実現してる世界だから、実機に触れようとしても、細かいデータは軍事機密とかで触れられないこともあるからな…」

本屋を見かけると、中に入り、『グレートメカニ○ク』なるムック本のジム系MSとZ系、RX-78系特集号をいっぺんに買うミーナ。休暇が終われば、それらを実際に指揮せねばならないが、黒江達と違い、MSに関する知識がほぼない状態でのG化であるので、最低限度の知識がないと、未来兵器の指揮はできないと考えたらしい。

「お姉ちゃん、買いすぎじゃ?」

「金ならあるさ。それよりも、帰ったら、こいつらが本当に跋扈する戦場だからな。アニメと実際は違うかもしれんが、知識は身に着けんと、指揮が取れない。切実な問題だぞー?」

黒江達は未来で訓練を受け、パイロット資格も(黒江は一級整備士資格も)得ているが、ミーナには、そのアドバンテージがない状態である。よほど前史のVFの動力に無知であった事件が効いていたようだ。

「水泳部系は買わないの?」

「それは、これから実機を見ることになるからな。むしろこいつらを見たい」

「会長が言ってたアレ?」

「うむ。お前はその時に呼ばれる事になるから、今会うのは迷ったんだ。それに、この時点での私はそんな事は知る由もない。お母様の事は聞いたな?」

「うん。まだ確証はないって言うけど、お母さんもお姉ちゃんと同じように?」

「恐らくな。奇妙な確信がある。血が繋がっていた故かもしれんが…」

前史での経験や、しほの転生の確信を語るミーナ。しほがセシリー・フェアチャイルドに転生しているのではないかとする憶測。シーブック・アノーも困惑する可能性だが、子であったミーナにはわかるのだろう。奇妙な確信として。

「わかるの…?」

「感覚的に、だが……。私がこうしている以上、お母様にも同じことが起きていてもおかしくはない…」

「それがこの『セシリー・フェアチャイルド』って人……」

「恐らくな……現実的に考えてもありえん話でもないだろう。みほ、お金は払うから、そのDVDを買え!」

「帰って、映像見たほうが…」

「連邦軍が恥をさらす場面多いから、閲覧できない映像多いんだ!」

「え〜!?」

ミーナの言う通り、コスモ・バビロニア紛争劈頭の守備隊の体たらくぶりは連邦軍本部を憤慨させるほどの情けなさで、当時の主力艦隊であり、アースフリートの前身『本星防衛艦隊』が本腰を入れなければ、戦闘にもならなかった有様である。(DVDでは、やられていく連邦軍のMSはジェガンだが、未来世界ではその前の世代のジムVである。これはDVDと違い、ジェガンはその当時の最新鋭機だったからだ)そのため、現在の時点では『訓練不足の良い見本』の教材に、デナン・ゲーに頭を蹴飛ばされるジムVが使われている。つまりジェガンとクロスボーン・バンガードのMSの性能差はアニメと違い、ほぼ無い事になる。が、2300年代、24世紀にドキュメント映画が造られ、その時にやられ役になったのが、当時の稼働ジム系で最古であったジェガンであり、そのチャネルの結果が過去のアニメ版だったりする。

「何それー!」

「逃げ出す算段を相談してる守備隊なんて、赤っ恥もいいところだろ?そいつら、あとで軍法会議だそうな」

コスモ・バビロニア紛争では、ネオ・ジオンとの戦争を勝ち抜いてきた猛者揃いの主力艦隊がクロスボーン・バンガードを次第にジリ貧に追い込んだが、ジェガンであっても、損傷機が多いことから、小型機に傾倒した要因ともなる。(ただし、後継機種の遅れで、ジェガンの改良型が造られ続け、最終型のR型に熟練兵が乗ればベルガ・ギロスを倒せるものの、損傷機が出やすいのを嫌う上層部は小型MSを急がせたが、失敗が続いた。しかし、それでもより強力なザンスカール帝国には、ジャベリンでも苦戦するため、リガ・ミリティアの高性能機を使う部隊も出た)

「うん、それは当然だね」

「レジで精算してくれ。金は渡す」

「お姉ちゃん、換金できたの?」

「出かける時に給金を換金してもらったよ。ちゃんと、日本円に」

「マルクでしょ?そっちだと」

「戦時中だから、ドルで出てた」

連合軍は45年では、21世紀世界との政治的理由で、各軍の軍票の発行が避けられたこともあり、『扶桑円』で各国の軍の給金を統一していた。ドラえもんがいなければ、軍の給金制度は崩壊していたところだ。これは軍票の調達が21世紀世界の要請で止まった事や、扶桑で軍票の無効宣言が日本側主体で出された事の代替でもあった。そのため、ドラえもんは扶桑円を擦り、地球連邦軍財務局が換金の際の価値のすり合わせを担当するなど、大掛かりな仕事であり、各戦線では現地通貨での支給が要請されるほど、換金に手間がかかるからだ。基地内では電子マネーカードの導入も検討されるが、未知の技術に各国軍が不安視したために導入は先送りされ、結局、23世紀のATMが基地に設置され、必要に応じて、時代と地域ごとの価値の通貨に換金する場しのぎ策でお茶を濁した。(扶桑は軍票が山のように流通していたので、官民問わずのパニックになった。結局、パニックの収拾のため、換金期限を三年後の1948年とし、戦時中まで回収に勤しむ事になる。また、軍票が使えなくなった事で、戦地での支払いどうするんだ!とする軍のちょっとしたパニックもあり、扶桑銀行が紙幣発行数を倍にする対応をしたという。また、もともと、現金が用意できない前線での部隊予算で発行されていたので、前線で現金を用意できない部隊への対応にも悩む事になる)

「よく現金用意できたね。軍票でも渡されるかと思ったよ」

「円で給料は払われてたが、時代的に価値が違うから、今の価値の値段に換金しただけだが、現地の部隊が苦情だしてな。結局、三年の期限で軍票の回収を行うとさ。…みほ、どの道、違う世界の軍票など使えないだろう?」

「言えてる」

こうして、ミーナはみほに本を買ってもらう。流石に実家までは遠いため、タクシーを拾う。

「二号戦車を家から持ってくればよかったかな?」

「いや、戦車は戦場でも乗るから、たまにはこういうのも悪くはないさ。この世界だから、できるんだぞ?あれ。他の世界じゃ不可能だ。」

「えー!」

「そういう風に道路ができてないし、戦車道がない世界のほうが当たり前なんだぞ、次元世界では」

当たり前だが、公道を旧式でも、無許可で戦車が走る事はできない。大抵の世界での決まりごとであるが、この世界においては戦車道の兼ね合いで可能であるし、戦車免許なるものまである。

「この世界はな、みほ。チョコボールの金のエンゼル並にレアなんだぞ。戦車が普通に公道を走れるなんて、他の世界ではないぞ。あ、未来ではそうでもないな。MSやバルキリーが普通に闊歩してるからな…」

「凄いね、それ」

「時代が変われば、戦場の主役も変わる。だが、戦車は意外に消えないんだな」

「あー!あの時の155ミリ砲の大きい戦車!」

「ロクイチはあれで古いそうだ。今はその改良型が造られだしたらしいが。あれのことは語ると長いぞ?戦場の主役から降りても使われ続けてるし」

連邦はガンタンクなどを開発しているが、ジオンからはバカにされている。しかし地上では陸戦強襲型ガンタンクのように、戦車ならばの戦術で圧倒したり、ガミラス軍が地球や月侵攻を諦めた例もある。地球連邦軍61式も一時のMS万能論が打破されると、補助戦力や警察の装甲車両代わりに使われるなどの二次的利用も増えてきている。しかし老朽化も進んだため、残っていた生産ラインを改良し、天蓋装甲や主砲の強化を図った22式戦車が開発されるという奇跡も達成した。ガンタンクは高額なので、どの機種も生産数が少ないが、戦車であれば、デストロイドよりも安価であるので、主役ではないが、それなりの価値をまた見出された。地球連邦軍がジオンやザフトなどの様々な軍隊に比べ、バランスに優れているのは、MSに頼っていない軍編成と有史以来の軍事ノウハウを全て持つという点だ。

「あの時にお前も片鱗は見ただろうが、未来には155ミリ砲でも力不足気味になるから恐ろしいんだ。あー、帰ったら、曲芸飛行をマスコミの前でせねばならん」

「あれ、お姉ちゃん。今は実戦部隊だよね」

「そうなんだが、40年代に曲芸飛行部隊はないからな」

「そうなの?」

「ブルーインパルスだって、出来たの戦後だ。だから、エースパイロットがやらなければな」

――ウィッチ世界の1945年当時、専門の曲芸飛行隊は戦時という時勢もあり、どこにも存在しておらず、(非公式でサンダーバーズの前身『スカイブレイサーズ』があったが…)エースパイロットが臨時で行うデモフライトのような扱いであった。これに圭子は参加せず(転生前の経験から、曲芸飛行を避けている)、その代わりに黒江によって指名されているが、思ったより激戦になっているので、予定が延び延びになっているが、ヒーロー達が掃討をしてくれているので、その目処がようやく立ったらしい。この曲芸飛行は日本向けの曲芸飛行であるので、扶桑系メンバーだけを動員する予定であったが、圭子が転生前の経験から固辞したので、予定を変更して各国混成になり、駆り出されることになったらしい――

「日本はあれこれうるさいと愚痴ってるよ、黒江さん。彼女、別世界出身とは言え、ガチガチの職業軍人だからという理由だけで訴訟を起こされてた時期もあるんだ。それ以来、マスメディア嫌いで通ってる。ストイックだって陰口もされてるが、その昔はマスメディアによく顔出ししてたそうだ」

ミーナの言う通り、黒江はダイ・アナザー・デイ時点では『マスメディア嫌いのストイックなパイロット』として日本に知られているが、その原因が自らの左派勢力の誹謗中傷がきっかけという皮肉がある。そのため、扶桑軍広報部は武子や圭子頼りで、日本へ恨み節である。日本(防衛省)は黒江に基地祭で羽目を外す事を許す事で、その禊代わりにしている。自由行動も許容しているので、自衛官としては破格の待遇だ。扶桑軍人出身者の待遇は日本防衛省が連邦化で安堵した分野であり、それまでは生え抜き自衛官組と派閥抗争すらあったからだ。黒江はマスメディアへの顔出しをしないと愚痴られるが、マスメディアの自業自得の面もあるので、ダイ・アナザー・デイのミーナが休暇でみほの世界に来れる頃には、黒江は賠償金で一財産出来ていたりする。扶桑軍広報部から散々に怒られたためか、日本防衛省は、黒江に自由行動権を空将昇進と共に与えることで、扶桑軍広報部をなんとか宥めたという。実際、黒江と智子は武子や圭子を通さないと、広報部の仕事を受けなくなっており、広報部は日本に苦情を公式に入れるほど怒っている。国策でレイブンズのプロパガンダに取り組んでいる彼らだが、以前は冷淡だったため、アイドルを気取っていた智子の不信を買っている。そのため、黒江に縋ったのだが…。

「向こうの日本(扶桑)は完全にその辺りのプロパガンダに失敗してな。エースパイロットを祭り上げるのさえ、部内で権力闘争だ。だから、ここしばらくは黒江さんたちに縋るしかない」

「えーと、お姉ちゃんが学校でよくやってたような事に失敗したって事?」

「向こうの日本は陸海で別々に航空部隊がいた上、海軍はエースパイロットを公式には認めてこなかった。それが仇になってな」

「つまり?」

「世界大戦の時代だから、撃墜数の多さが実力の指標になっている。その辺りを読みきれなかった海軍上層部のミスだ。慌てて武功章などの褒章を作ろうかという話だ」

「グダグダだね」

「戦国時代でさえ、感状とか、褒美をもらえたんだ。海軍は自分達の文化じゃないからと、クーデターまで考えている。馬鹿げた話だが」

ミーナはこの時期、ドイツ連邦の介入で撃墜数にマイナス補正が働き、150機に落ちていた。(エーリカやバルクホルンも例外でなく、平均でマイナス50)ため、200機撃墜記念の騎士十字章は無かった事にされている。その代わりに、第一次現役時の公式スコアに未確認戦果の全てが追加されたレイブンズが一気に270機撃墜王となっている。その事が扶桑でのクーデターに繋がるという皮肉がある。陸軍の武功章のシステムはかなり柔軟で、そのまま空軍でも運用されるほど優れていたが、海軍は部隊長推薦のものしかない上、ちょうど、智子が引退した1943年ごろから部隊戦果のみを記録してきたため、空軍設立直後、海軍出身者にエースパイロットの名誉を与えられる根拠がなく、日本は自己申告を認めない意向であったこともあり、認定撃墜数が劣る傾向になってしまう。また、個人を称えることもクロウズで最後になっていた(便宜上、統合戦闘航空団派遣者には自己申告スコアを認めていたが)事が、クーデターの引き金になるのである。武子と竹井は後輩らの融和を図ってきたが、レイブンズの復活に根本的に反感がある世代が中堅になった時代故、押さえ込みが不可能となった。かつてなら、レイブンズは神様であり、聞いただけで『畏れ多い』と畏まるのだが、この時代になると、伝説化していた事が仇になっており、坂本が押さえ込みに悲観的になる理由であった。しかし、竹井が古参教官であったこともあり、だいぶ若手へ睨みが効いたとは述べている。竹井は『あたしが着任する前の世代は保証できないよ。だって、反レイブンズの教育がされてた時期だもの』と伝えているが。

ちょうど竹井が本国で教官に転じる、1943年までの時期に、今回は『前任者』になっている西沢の教育を受けた者たち以外は、クーデター派と見なされていた。しかし、今回は芳佳が早期に台頭した事により、だいぶ潜在的人数を減らせている。問題はキ99の不採用で燻る陸軍の不満や横空、それを監視する役目を負う厚木航空隊である。

(キ99のコンペの情報は見たが、御大の漫画をそのまま実現させたスペックは驚嘆に値するが、ジェットまでの繋ぎにするには、あまりに高価すぎる。18気筒エンジンをタンデムだと?扶桑の整備力で維持できるものか)

ミーナは長島が試作していたキ99のスペックを盛りすぎと呆れ返っていた。18気筒2列空冷星型エンジンをタンデム2基搭載、排気タービン、4翅の二重反転プロペラを装備、コクピットは予圧式、専用の電熱服が必要と、明らかに実験機じみた代物であった。レシプロの極限ではあるが、エンジンをタンデムで搭載という時点で、前線の整備兵の手に余るというのが目に見えている。そのため、軍部もスペックは褒めつつも、前線の整備兵の整備力を理由に採用しなかった。コンペに参加していた黒江は、キ99を『御大の漫画から飛び出たみたいなの作りやがったな。戦闘機はM.C.72じゃねーぞ』と酷評したという。量産型の案は『タンデム配置されたハ45特ル型(2600hp)2基』だが、『整備のマンアワーが40超えちまうぞ!』と一喝した事で採用が覆っている。黒江はキ99の採用覆しの主導者であったので、開発主任『山越技師』はこれを不服とし、ジェットの不確実性や加速力の無さを振りかざした彼と口論になっており、彼の親友の台場大尉にジェットへの傾倒を非難されている。黒江はキ99の整備マンアワーを58と瞬時に算定し、『スクランブル任務に対応出来ねぇぞ!』と山越技師に反論している。黒江は見た瞬間、『ザ・コクピットやんけ!!』とツッコんでおり、前方視界の悪さから、黒江はコクピットに入るも、飛ばずに降りたほどで、これもコンペの落選の理由であった。実際に台場大尉が空中分解で散華する瞬間の笑みと敬礼を心に刻み、台場大尉の慰霊碑を立てる発起人になるなど、彼の死に報いている。レシプロの限界の証明ではあったが、日本の『衝撃降下90度』という漫画の題名を黒江が無電で呟いた事から、後世の扶桑でも知られる出来事となった。山越技師は64Fへの投降時、『台場は……音速を超えたか?』と延べ、その場に居合わせ、目撃した黒江は頷いたという。予定された量産型では前方視界を改善し、一部機能を簡略化したモデルになったはずだと彼は述べた。コンペに出したのは『夢の戦闘機』であり、採用時に装備の簡略化は行う予定だったとも延べ、彼はクーデター事件を期に業界を去る。彼が構想していた量産型は後に『幻の六式戦闘機』として知られ、実際に試作されたともいう。また、後にエアレース界に入り、そのレーサーのチューナーとして生計を立てている姿が目撃されたという。また、黒江は彼の才能を惜しんでもおり、戦後、『どうせならレシプロの限界をとことん追及してみないか』と、当時に盛んになりだしたエアレース業界に引き込み、台場大尉の供養を兼ね、彼は業界入りし、その後は黒江の友人になったという。


「もうじき家だよ、お姉ちゃん」

「分かってるさ。エリカとかはいないよな?」

「大丈夫。黒森峰は遠征でプラウダ高校と練習試合だよ」

「そ、そうか…、良かった」

ミーナ(自我意識は西住まほ)は、黒森峰女学園の面々との接触を面倒臭がっていたようだ。従姉妹とその場では誤魔化しが聞くが、『自分』に否定されても面倒であるし、今の自分に『説明』することははばかられる。(今の容姿がドイツ人である上、西沢家にはドイツにいる親戚はいない)しかし、ミーナとして転生しても、依然として容姿端麗、黒森峰女学園のものがベースのパンツァージャケットを着ていた事もあり、タクシーの運転手には黒森峰女学園の子と思われていたりするが。(カールスラントの略綬がついていたりする改造はされていたが)

(久しぶりに我が家か。何十年かぶりだな……感覚として。お父様の顔くらいは見ていきたいな)

ミーナはGとしての覚醒後は前世での父親への思いを持つ『お父さんっ子』である。自我意識が西住まほになっている上、ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケとしての両親は混乱のうちに行方知れずになっている事もあり、その思いは強い。これはしほが生真面目であった(しほの容姿は智子をアラフォーに加齢させたような姿である)のと、彼女の母親(姉妹の祖母)から教えを受け継ぐ事に邁進するあまり、家庭を顧みず、夫に子育てを投げていた事も理由で、姉妹が母親と距離を感じる原因だ。しほの夫(西住姉妹の父)はまほに『お母さんは本当は親バカなんだぞ』と述べていたものの、その真の姿(若かりし頃の振る舞い)は智子とよく似たものと知るのは、学生時代の後輩かつお手伝いの菊代のみ。みほが智子との初対面時に驚いたのは、容貌がしほによく似ていたからだ。

「驚いたのは、智子さんがお母さんによく似てた事だなぁ……。初めて会った時は心臓がバクバク言っちゃって」

「それは私も思うよ。後で既視感の正体に気づいたのは、昔、お父さんに見せてもらった若かりし頃のお母様の写真と瓜二つなんだ」

西住しほは2010年代半ばで30代後半であることから、黒森峰女学園在籍時は1990年代後半期と推測されるが、その時期の写真は目つきを除けば、智子にほぼ瓜二つだった。智子もそれを言われると、『うっそぉ!?そんな似てんの、アンタのお母さんとあたし!』とコメントしている。智子としほは大変よく似た容貌を持っており、智子が前髪の切り揃えかたを変えようとするほど、西住姉妹すら見分けがつかない。智子は『……前髪の切り揃えかた変えよう……』と落ち込んだとも言い、よほどショックであったらしい。これはしほが若々しい容姿であるとは言え、その実年齢はアラフォーであるためだろう…。智子は肉体年齢はおおよそミドルティーンで固定されているため、アラフォー女性に似ていると言われたのがショックであったのだろう。黒江は『親子の似てるレベルじゃん』と大笑いだが、一時はアイドル気取りであった性分故か、智子は精神的ダメージを被ったらしく、この時期は真剣に前髪の切り揃え方を変えようと模索していた。



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