外伝その193『アルトリアの覚醒め3』


――ハインリーケがアルトリアとして、覚醒を遂げた。この事実は黒田の判断で、とりあえず、その場に居合わせた『カーラ・J・ルクシック』には告げられた。口止め料はペプシコーラだ――

「クニカ、どーして口止めするんだよー、凄いことじゃんー、アーサー王の転生がハインリーケ少佐なんて」

「ストロング5.0GVゼロの味はどーです?」

「うめーに決まってるだろ!こんな美味いペ○シ始めてだ!」

「これ、ウチが独自ルートで調達した極秘の新製品なんですよ。一年後位に回す予定の」

この一年後、本当にペプシコーラはこのコーラをウィッチ世界で販売するため、嘘では無くなる。空中元素固定でパッケージごと作ったペットボトルであるが、一年後に本当に未来世界からの輸入品が売られるため、嘘から出た真となった。扶桑海事変では黒江がこっそり空中元素固定で、当時には調達不可能なコカ・コーラを作り、飲んでいたこともあるので、Gウィッチは見えないところで空中元素固定を活用している。

「クニカ、お前の家、侯爵だっけ?ペプシコーラの株でも持ってるのか?」

「ま、まぁ…」

数年後、黒田が当主就任後に黒田家として、ウィッチ世界のコカ・コーラとペプシコーラの株を買い、この時の嘘を真にするのである。こういうところは黒田なりの帳尻合わせではあるが、両社としても、扶桑の英雄が愛飲してくれている事は扶桑でのシェア獲得に繋がるため、後にGウィッチたちを起用したcmを流すのであった。

「私の事はしばし伏せておいてください。ロザリー名誉隊長が知れば、間違いなく、前世が円卓の騎士である『私』に隊長職を譲ろうとするでしょうが、どの道、ノーブルウィッチーズは長くは保たないでしょう」

「どうしてだ?円卓の騎士なら、ウチの部隊に箔がつきそうなものだけど」

「カーラ。事は単純では無いのですよ。私が円卓の騎士を統率していた『アーサー王』であったことを知れば、ロザリー隊長の立場は無いし、カールスラントとブリタニアが喧嘩初めますよ?大体、裏切り者や自分勝手の巣窟の円卓の騎士なんて、なんの箔にも成りませんよ。我が息子は裏切り者なんですよ?」

「そ、そうか…」

アルトリアの言う通り、ロザリーはペリーヌ・クロステルマンという第一候補が固辞した事での代打で選ばれた第二候補であり、一応はガリア伯爵家、ベルギカ伯爵家の跡取りかつ、下位ながらブリタニアの王位継承権を持つという理由で隊長職に推されたが、ペリーヌ・クロステルマンの固辞により、結局は引き受けた経緯があり、アルトリアのことを知れば、そのネームバリューで100%混乱するだろう。

「それに、あたしも転生者だけど、生き返ったようなもんなんで、言わなかったんです。説明できないでしょ?生き返ったなんて」

「生き返ったぁ!?」

「私やレイブンズの皆さんはこれまでに二回以上人生を繰り返して、生き返ってるんですよ。オフレコですよ、これ?先輩がやりすぎて疎まれたし」

黒江は記憶の封印が繰り返しで緩くなっているが、人格などは封印されているため、前線送りにされた理由がわからずに混乱して鬱病になりかけており、その時に檜を負傷させている。人格が元に戻った後に檜に詫びているように、鬱になりかけた事は本当なので、その時に自分の心が脆いことを再認識し、その事が調との同調の遠因である。その黒江はもうじき、ターニングポイントを経て、前史の人格を取り戻すはずである。

「あたしらは割り込みに近い転生だから、元の人格と転生以前の人格が噛み合うのに時間がかかるんですよ。黒江先輩は元から我が強いから、いつも遅れるんだよな」

黒江は自我が強いのが災いし、ティターンズによる介入で精神が大打撃を受けない限りはGになれない点があり、黒田は今回、そんな黒江を『出遅れ』と言った。智子と圭子が既に覚醒していたが、智子はいらん子中隊を辞し、本国で事務職にいる時期であり、黒江は505教官と、二人は半ば軍では閑職に近いポジションにおり、華々しい地位をいの一番に取り戻した圭子とは対照的だ。黒江は『エクスウィッチの閑職』からいきなり『国家英雄』に返り咲いた事も、後輩の反発を招いた原因と言え、そこも親Gウィッチ閥の誤算であった。

「いいじゃないですか、その分、幸せな時間があって」

「先輩の場合、そうとも限らないんですよ、アルトリア。ケイ先輩からの連絡によれば、鬱病気味らしくて」

「あー……なるほど」

「先輩、事変時に政治的に動きまくって、おまけに200以上落としたのに、江藤隊長のせいで未確認にされてですね…」

江藤は過去の行いのおかげで、黒田の不況を買ったのが分かる。江藤は、『まさかここまでの大事になるとは思わなかった』と釈明しているが、黒田、智子の不況を買ってしまっていた。江藤は若松に殺されかけているため、覚醒した先輩後輩達に睨まれたと言っても過言ではなく、翌年のダイ・アナザー・デイからしばらくの間、Gウィッチ達に焼き肉を一週間にいっぺん奢る羽目になったという。

「まぁまぁ。事情を知れば、協力してくれると思いますよ?江藤大佐は」

「本当、はた迷惑なんですよ、江藤隊長のやった事!おかげで、来年以降は政治的にドンパチ確実だぁ〜!」

「なぁ、話聞いてると、やっぱ、ジーナ中佐が言ってたレイブンズ伝説ってマジ?」

「カーラさん、直接仕えてた生き証人ですよ、あたしは」

他国では、レイブンズの伝説は扶桑よりも神聖視されていたらしい。リベリオンは黒江のエクスカリバーをカラー映像で撮影していた偶然から、余計にそうなったらしい。

「でも、本当かって言われると半分、良いところで六割位?」

「ホッ(それなら常識的範疇か…)」

「伝わってる分が」

「!!★※!?(伝わってる1.5倍だってぇ!?)」

「いーや、三倍か四倍?」

「何ィィ!?」

「あたしや黒江先輩、智子先輩は転生前にオリンポス十二神に仕える闘士も副業でしてたから、その技能をそのまま持ってるんですよ。だから、今の現役が束になっても『指先一つでダウン』ですよ」

「オリンポス十二神って、マジかよ!?」

「ええ。今でも資格は持ってますよ。その気になれば、アンドロメダ星雲くらいは破壊できますね」

サラッという黒田。前史で蠍座の黄金聖闘士に中継ぎでなった時期があるため、黄金聖闘士級の小宇宙を持つのである。これは黒江に付き合う必要から得た技能で、今回においても大いに役に立っている。

「さっきのサンダーブレークは序の口。もっと凄いの出せますよ」

「すんげー!まるでスーパーマンだぜ〜」

「先輩はアーク放電できるから、手加減しないと地形変わりますよ。あたしは普通の放電くらいがせいぜいで」

黒江は雷撃系攻撃に適正があるため、アーク放電を操り、ライトニングプラズマとライトニングボルトの究極を極めたため、その点では先代の獅子座の黄金聖闘士『アイオリア』を凌ぐ。智子も黒田も、ライトニングプラズマとボルトはできるが、その上位技は黒江の専売特許だ。元々、アーク放電は電圧で差ができるだけだが、黒江はナインセンシズで練る神殺し級の力で放電を起こすため、神殺しを可能とする。同時に、超合金ニューZすら融解させる超高温の焔をも起こすため、事変中はエア共々封印していた。

「お前の先輩、どんだけバケモンなんだよ!」

「曰く、戦神アレスとサシでやり合って倒せるくらいだと」

「オリンポス十二神倒せるのかよ!?」

「アレスは十二神では雑魚レベルですよ?」

「なんだよそれぇ〜!」

「エクスカリバー使ってましたよ、先輩」

「なっ!?私の宝具を!?」

「エクスカリバーって、貴方が使ったのを皮切りに、聖域で継承されてきた聖剣の力の通称にもなっていたんです。その力を継承した先輩は、貴方のエクスカリバーの形を具現化する事に成功した」

「すごいですね、それは」

「何言ってるんですか、どこかの世界で、貴方の力を使ってる子達がいたんですよ」

「それは初耳ですよ!?」

「なんて言えばいいんだろうな、こういう場合」

クラスカードは英霊当人の伺い知れないところで力を借りる行為であるので、黒田は説明に苦心する。最も、翌年には同じ部隊の部下がそれを使用するのだが。

「まぁ、どこかの世界でそういう戦いがあったとだけは知っておいてください。なんか近い内にそれ見そうな気がしますし」

「なんですか、それ」

「これ以上はあたしもわかんないんで……」

カンであったが、それは翌年に的中することになる。三人は基地に帰還後、事の次第を現在、指揮序列で最先任になる『B部隊』のジーナ・プレディ中佐に報告した。ジーナはこの時にハインリーケがアーサー王の転生であることを知らされたが、ロザリーへ配慮し、『然るべき時まで』伏せる事にした。

「臣下の礼を取るべきですかな、アルトリア王」

「今は王ではありませんよ。それに、軍の序列では、貴方が上官でしょう?遠慮なさずに、ご命令を」

「いえ、貴方があの円卓の騎士と分かった以上、相応には扱います。仮にも一国の王位経験者だ。それくらいはさせていただきます、騎士王」

「皆にどう説明するのですか?」

「カーラはマリアンやアドリアーナ大尉には漏らすでしょうし、連中が知りたがれば、個別に教えましょう。混乱のもとになる」

「キーラさんはどう尋問します?」

「どうせ並の尋問では口を割るまい」

「何なら、中枢神経系へ直接ダメージを与える、私の秘闘技で悲鳴をあげて、のたうち回るようにしますか、ジーナ中佐」

「黒田中尉、それでは拷問だぞ」

黒田はスカーレットニードルで拷問する意思を見せ、ジーナを引かせる。スカーレットニードルは拷問に応用できるため、一年後には竹井や黒江、フェイトが敵を拷問する用途で使用しているし、事変中には、黒江がクーデター事件の黒幕に使用して拷問している。大日本帝国軍と特高警察の凄惨な拷問よりはよほど慈悲深い技だが、ジーナは中枢神経系を侵すという点から、技の趣旨を見抜き、諌める。

「暴れたので制裁、という理屈で、一発は撃ちますよ?アンタレス――心臓――に当てない限りは死にませんから、あたしの技は」

「中枢神経にだけダメージとか人間に出来るわけ無いだろう、冗談は止せ」

「冗談に見えます?」

「レイブンズに仕えていた貴官ならできそうなのは怖いが、拷問はよせ。ジュネーブ条約に反する」

「冗談という事にしておいて下さい、記録にはどうせ残せないでしょうし。それと、もう一つの手段で、強力な自白剤でも使わないと、あの手のは折れませんよ」

「自白剤の使用は許可するが、なるべく避けろ。立場的に奴も追い詰められているはずだ」

ジーナは尋問へ注文をつける。黒田が拷問しそうなので、それを抑止するため、自らが監督するとも言う。結局、圧迫面接の体裁になり、黒田が黄金のオーラを発しながら、後ろに控えるだけだが、キーラには恐怖以外の何物でもなかった。

「吐いたら守ってあげますよ?」

「し、しゃべるから堪忍してくれぇえええー!」


小宇宙をこれ見よがしに出しながらの圧迫面接は成功し、キーラは直ぐに自白した。この尋問でガリアの反ド・ゴール派(失脚したペタンを支持していた派閥、失墜したボナパルト家の復興を目論む勢力、王党派など)の暗躍が明らかになり、その報告が正式になされた頃には、地球連邦と日本の介入が始まっており、ノーブルウィッチーズは『古い封建社会の風習を示すためのプロパガンダ』と日本に見なされた事で、国際連盟のガリアへの制裁として、正式な結成前に解散となってしまう。ド・ゴールは必死に反論したが、流れは止められなかった。ここにガリアは506の権利を失った。だが、B部隊隊員はリベリオン本国が扱いあぐねている内に祖国が分裂してしまい、本国帰国が不可能となってしまう。A部隊隊員も現地で遊兵化してしまったが、黒田が吉田茂に要請していた通り、黒田自身が復帰した黒江の秘書(後に正式な隊員へ)として501へ転属になったのを期に、旧ノーブルウィッチーズそのものが501に統合される。そのため、ペリーヌは覚醒後もそのことを気に病み続け、後に第二次ノーブルウィッチーズの結成に奔走する。第二次ノーブルウィッチーズは書類上の存在ではあったが、ペリーヌの肩の荷を降ろすには必要であった。ペリーヌはノーブルウィッチーズの空中分解の責任が自分にあり、501の一員でいたいがためのわがまま、ガリア復興事業への熱の入れようがノーブルウィッチーズを空中分解に至らしめたという負い目が精神的に追い込み、それがモードレッドの覚醒に繋がった。ペリーヌはジャンヌ・ダルクの現界が起こった事もあり、政治家へ転身する意図を持つが、ガリアの状況がそれを許さず、軍籍は太平洋戦争までは維持する。第二次ノーブルウィッチーズの活動期間はその間になる。最終階級は中佐。軍出身議員として、ド・ゴールの抑え役として、ド・ゴールの死までその役目を担う事になる。









――1945年――

45年になると、日本からの横槍をかなり受けた扶桑軍は、戦備の不足を公言しだした。旧式艦艇や旧式機、旧式戦車を強引に退役させられだしたからだ。特に問題視されたのは、長門の退役であった。長門型戦艦は当時、陸奥がM動乱で大損害を負い、その後に廃棄処分された事、扶桑の海軍力のシンボルと見做されてきた経緯から、予備艦として維持されていた。当時には大和型ファミリーの増強や、改良型の紀伊の戦没で、第一線戦力として見なされなくなったが、1934年に行った大規模改装の元を取るため、練習艦兼予備艦扱いとされていた。陸奥という姉妹艦が失われ、海軍は呉で姉妹艦の半数が戦没済みの金剛型共々、退役させるつもりだった。扶桑の国民には海軍力の象徴と扱われる都合、嘆願で何度か先送りにされてきていたが、日本連邦は正式に長門の退役を決定した。これは伊勢と日向の復帰工事の目処がついた事、紀伊の戦没で長門を持つ必要性が薄れたからでもあった。

「扶桑と山城は引き上げられんのか?」

「地球連邦軍がMSで沈没海域を調査してくれたが、老朽化した箇所にスーパーキャピネーション魚雷が当たり、扶桑は海底でキレイにへし折れていたそうだ。あれでは直せんよ」

「伊勢と日向は?」

「着底していたが、思ったより損傷が少ないから、航空戦艦のテストに使用できる。来年か再来年にはできるだろう」

「武蔵を航空戦艦に転用するって?」

「アメリカが試案を提出してな。武蔵で試すことになった。なんでも垂直離着陸機を乗せたいんだと」

「主砲はどうするんだ?」

「他の大和型の載せ替え検討用に提供された45口径51cm砲に前にある砲塔を換装して補うそうだ」

この時に成された航空戦艦化は、アメリカがリスタートバトルシップで目論んだ航空戦艦への試金石も兼ねていた。また、試案段階ではハリアーUが艦上機に予定されたが、その後継であるF-35Bが実際には搭載された。アメリカはアイオワの最終形態をそのライバルたる大和型で試行しようとしたが、日本側から懐疑論が出たため、後部飛行甲板を設ける事で生ずる投射重量の低下を『一発の威力をアップさせる』事で補うため、前部主砲を強化することとされた。結局、飛行甲板の設置方法が変えられる事となり、日本側が練り直す事になった。幸い、大和型は地球連邦軍のFARMで艦そのものが大型化しており、余裕はあった。そのため、47年までに間に合わせることを条件に練り直される事になった。また、この時に換装された51cm砲は播磨を作る過程で試作されたもので、その評判はあまり良くなく、大和型の他艦が60口径への換装になる要因になった。(砲身命数が少ないなど)また、51cm砲の反動は大和型を数m広くした程度では動揺を抑えきれないほどであり、51cm砲は当初より想定されて幅が広い新型艦で運用すべきという所見が得られたため、武蔵のみの装備とされた(大和型では)。だが、ハッタリが効くため、そのままの状態で留め置かれ、駿河と尾張の改装に重要なデータを残し、開戦後はまとめて運用される。

「で、新型艦はどうするんだ?長門を退役させるバーターになれるのか」

「とりあえず、欧州ででかい戦が起きそうだから、完成済みの艦は第一戦隊と第二戦隊に編入するそうだ。大和型は本来、移動司令部のはずが、まさか紀伊型が担うはずの軍馬の役目を果たそうとはな」

「未来の宇宙戦艦ヤマトが英雄視されてる以上は当然だと思うだろうが、我々としては想定外もいいところだ」

「だな。紀伊型を酷使して、大和型はいざという時の決戦兵器にするはずが、より強力な艦を決戦兵器に、大和型を軍馬にせざるを得なかった。これは予想外であり、想定外だ」

「他国がこんな躍起になって戦艦を作るとは思ってなかった。しかも、空母はもっと大型を作んないと、早晩役立たず。我が海軍の構想は根底から覆ったと言わざるを得ない」


「しかも、空母が大型化すると、その費用だけで、従来型六隻を維持するより金がかかるなんて……」

彼等は扶桑海軍参謀であった。彼等は当時に直面していた『艦艇の大型化による維持費の高騰』に悩んでいた。特に空母でそれは顕著であった。大型空母の維持費は一隻で雲龍型六隻分の費用を有に上回る。これは日本側が雲龍型を廃棄、あるいは他用途に使えと言ってきた要因である。また、後に表面化するが、空軍設立と大量引き抜きに伴う海軍航空の形骸化の問題は海軍を戦中に悩まし続け、戦後も海軍航空隊の建て直しに長い時間を要する問題として、扶桑海軍の頭痛の種となる。しかし、陸軍も暁部隊を根こそぎ海軍に転出させられた上、観測機やヘリコプター以外は空軍に航空戦力を奪われたため、必然的に近代化に予算が注ぎ込まれていく。陸軍も暁部隊の抽出には反対したが、『陸軍が空母を持つ必要はない!』との一喝で強引に暁部隊を海軍に移籍させられた他、旧式兵器を強引に廃棄させられた影響で、太平洋戦争開戦からしばらく機甲戦力の不足に悩み、逆襲に出れる戦力を持てるほどの頭数に回復するのに年単位で時間がかかってしまう。戦備不足で開戦に至り、陸軍も海軍も空軍の行動なしに、まともに作戦行動が取れなくなっていた事が、後世に至るまでの空軍の高い発言力の理由となっていく。また、空軍がMSを運用する『宇宙艦隊』の保有に至り、事実上の海軍の役目も果たすようになってからは肩身の狭い想いをしたが、それでも華々しい艦隊決戦を行えたため、陸軍よりは恵まれていた。陸軍は太平洋戦争開戦に至るまで、単独で陸上決戦を行える戦場に巡り会えず、自分たちの鏡に写った存在と言える『大日本帝国陸軍』の影に怯える羽目となる。

「カールスラントからペーター・シュトラッサー、いや、愛鷹の違約金と復帰工事費をぶっかけていいか?」

「ああ。そうりゅう型潜水艦を実物ごともらったんだ、連中がUボートのノウハウをあげると言っても構うもんか。愛鷹をいじめた罰だ。たっぷりボッてやる」

扶桑海軍の資金そのものはこの違約金と復帰工事費の支払いで潤沢になったが、決定的な人手不足は金ではどうにもならず、船も飛行機もストライカーもあるのに、パイロット/ウィッチがいないという悲劇に直面する。空軍からの人材供給は必然であったが、日本がゲーリングの史実での横槍を引き合いに出し、『海軍の指揮下にないと〜』と一部官僚が喚いたため、海軍の指揮下に入ることを約束しつつ、レイブンズに宇宙戦艦を揃えさせていく。防衛省(国防省)、もしくは防衛装備庁の管轄に航空機の管理を移す案もあったが、航空自衛隊補給本部と扶桑軍の補給関連部署の間で縄張り争いが懸念されたため、結局、それらの後身かつ、上位組織(未来での)たる地球連邦軍が暫定的に管理し、日本連邦航空管理本部の設立と同時に権限を移譲するという回りくどい妥協案が採択された。これは黒江達が空自と地球連邦軍の軍籍を持つことから、縄張り争いに関係ない第三者の介在が必要と判断した源田実が編み出したウルトラCである。これはMSやVFの扱いが空自/空軍では難しい事も考慮しての事だ。そのため、日本連邦空軍としての機材管理は戦時中は地球連邦軍が担当する事になる。扶桑はMS、VFを空軍の『空挺軍』に便宜上所属させたが、日本が『空軍の機材なんだし、空軍でいいやん』と意見を述べたが、扶桑は『空挺部隊をウィッチ部隊に兼任させるから、いいの!』と押し通して、64Fに空挺部隊を兼任させる。この決定を受け、黒江は陸自第一空挺団に隊員を研修に行かせたという。また、空挺部隊である以上、高い陸戦能力も要求されたため、隊員はレンジャー資格の習得が必要になり、第一線の三つの部隊の隊員はレンジャー資格を全員が授与されたという。(黒江は前々から持っていたが、圭子や智子は自衛官としての籍を得たのがダイ・アナザー・デイ中と遅いため、第一空挺団で研修を受けた。圭子はガンクレイジーぶりが評判になり、第一空挺団からも『トゥーハンドねーちん』と呼ばれたという)









――時は遡って、1944年の501統合戦闘航空団――

芳佳が赴任する前、覚醒済みの四人(ハルトマン、バルクホルン、坂本、シャーリー)は当時のミーナの手綱をどう握るか、に腐心していた。当時、覚醒していたのは僅か四人。初期メンバーは上層部の都合などで入れ替わりが激しく、また、ミーナが整備兵を冷遇しがちであったため、四人は神経をすり減らしていた。

「ケイに連絡取ったけど、整備の連中とコミュニケーションどう取る〜?」

「今のミーナは昔のままだから、今の私たちにはめんどくさい子供でしかない。ああ、宮藤よ、早く来てくれ〜!」

「トゥルーデ、愚痴は後にしな」

ハルトマンのほうが大人びている雰囲気だが、これは人格が前史でのF-104の教導官をした後の鬼教官になったハルトマンと、晩年の人格者としてのものになったバルクホルンとの差である。

「ラルさんが今頃、下原を引き抜いてるはずだから、宮藤の入隊は近くなってはいるはずだぜ?」

「酒飲ましたら相変わらず怖くなるし、あいつ、どれだけ溜め込んでるんだ?」

「アレは前史からのお約束だから、諦めなって。話しちゃいけないってんだから手紙でコミニュケーションとるしか無いじゃん?」

「それを去年に意見具申してみたが、ヒステリー起こされたんだよ。それで今まで延び延びに」

「なんとかしてよ、坂本少佐。整備の連中が暴発しかねない」

「ハルトマン、なにかいいアイデアないか」

「もー、すぐこれだ。あたしはドラえもんじゃないんだからね?とりあえず、今のミーナには業務日報だって言っておけば良いよ、ユニットの不調は知らせなきゃいけないしね、それを伝えるための早急な通知手段とだけ言っておけば、個々に何が書いてあるかなんてチェックしないでしょ」

「それしかねぇな。燃料タンクに砂糖入れられてエンジン止められるのは勘弁だし。もうじき、エイラとサーニャが赴任してくるし、それまでに目処つけて置こうぜ」

四人はこうした会合をミーナに知られないように行っていた。当時は使っていない部屋(後に芳佳の部屋になる空き部屋)で行い、圭子からアドバイスをもらうのが43年以降のお約束であった。

「どうやったらあいつを目覚めさせられる?」

「ミーナに声が似てたのは、えーと…」

「コズミック・イラ世界の歌姫のラクス・クライン」

「それと、連邦軍にいた山本玲」

「あとは、黒森峰女学園の西住まほだぜ」

それぞれ、ミーナと何らかの関連性があると思われる人物の名を挙げる。ラクス・クラインは関連性が薄いが、山本玲と西住まほについては、声色がよく似ていたので、有力と見なされていた。(正解はまほだったが)

「ミーナは前史でGになるのを怖がってたから、それで覚醒が抑え込まれている可能性が高い。このままでは、また黒江とぶつかるな…」

「リバウん時に刷り込んだ?」

「やっては見た。だが、クルトへの愛が深いゆえにアレな様子でな…」

「どこの聖帝様だよ、まったく」

ため息のシャーリー。

「前史の宮藤の件があるから、とりあえず、戦車グッズ並べてみる?」

「ヴィットマンのピンナップポスターとか、カリウスのサインとか?」

「パットン大戦車軍団のポスターとか」

「バルジ大作戦のポスターとか」

皆、アイデアを思いつくかぎり言ってみる。空中元素固定で造れる範囲のものだ。

「いいのか、それって」

「いいんだよ、そんなもんで。バルクホルン、お前さ、こういう時のアイデア、相変わらずでねーのな」

「仕方ないだろ!甥も姪もアレがあってから腫れ物に触るように私との会話を避けたんだぞ〜!あれはショックだったがな」

バルクホルンは前史の晩年、甥が起こした自動車事故で下半身が不自由になったため、甥と姪に腫れ物に触るように扱われていた事を転生しても気にしているようだ。

「まぁ、今回に起きるとは限らんだろう?黒江だって、今回は審査部を厄介払いされてるしな」

「黒江さん、今どこにいんの?」

「ウラルで教官だ。ただ、前史で上官のゴロプ大佐が裏切ってるから、今回もティターンズやバダンに通じているだろう。黒江はそのショックがなければ、いつもの人格には戻らん。あいつには可哀想だが、そこだけは経験してもらおう」

坂本も、黒江の覚醒のきっかけのフラグだけは成立させるしかないという事は分かっているため、それにだけは冷淡である。坂本の言う通り、今回も505壊滅で人格が転生前のそれに戻るが、『今回』は前史で『あーや』の表層化を経ているため、前史より精神年齢が幼くなっており、前史を17歳程度とするなら、今回は15歳程度になっている。

「でも、黒江さん、だんだんと子供っぽくなってねぇか?」

「仕方ない。私のせいでもあるからな」

転生を挟むごとに、黒江の精神状態が幼くなってきているのは自分のせいであると、坂本は気にしていた。黒江は精神崩壊を経て、人格を再構築してきている事もあるが、前史の喧嘩別れのショックで落ち着いていたはずのあーやの出現を促してしまったのを、坂本は前史の後半生、ずっと気にしていた。

「あの時、菅野に失せろと言われたのもショックだったが、黒江の声や口調が急に変わったもんだから、全く対応できなくてな…」

前史の1970年代、兼ねてからの計画として、黒江の『友人への依存』をどうにかしたいという親心から喧嘩をしたが、黒江が泣き崩れてしまって、坂本自身がパニックに陥っている内に、激昂した菅野に殴打され、吐き捨てられ、居心地が悪くなってしまい、釈明もできぬままに退役になったことを、自虐的に語る坂本。そのため、リバウ時代から、部下への訓示には『友人を大事にしろ』という内容の訓示を繰り返し、覚醒した下原から『菅野さんも黒江先輩の事を大事に思ってるから、ああしたと思います』と声をかけられている。黒江は事変中に『あの時の事は気にすんな』と言っているが、坂本としては死ぬ間際まで気にかけた一件であるため、『今回はお前を裏切らない。それだけは眼帯に誓ってもいい』と返し、今回においては黒江の味方であろうと努力している。

「あの時の事は我ながら馬鹿だと思う。近くのことが見えてなかった。私を友と思ってくれていた身近な人を裏切っていた。魔眼で遠くは見通せてても、近くのことは見えていなかった。だから、転生できた事は嬉しいんだ。しかも、今回は今の姿をずっと保てるからな」

黒江達は現在の若さを保っていたが、自分はしわくちゃの老婆になっていた前史の最期の恥ずかしさからか、転生できた事で得た若さに肯定的な坂本。前史で、年頃になった娘に『いつまで軍にいるのよ』と愚痴られていた事も関係しているのは間違いない。

「少佐、もしかして、あのガキに言われてたことを気にしてるのか?」

「ああ。私は緩やかに容姿が老いていったから、いつまでも若いあいつらと同じ気でいるのを、娘に愚痴られた事があるのさ」

坂本は育児に失敗した記憶が自分の自虐的思考の根源だと言うことは自覚している。そのため、今回はどうしようかと考えている。

「今回はあいつと一緒にいる時間を増やすよ。あいつが歪んだ原因は、ちょうどベトナムの時があいつの幼少期にぶつかったことだからな」

坂本は母親として、娘と向き合う時間がどうしても取れなかった事で、自分の後半生と、娘のその後に多大な悪影響を残したことを悔いている。そこもGウィッチで一番に前史を引きずっている坂本の本心だろう。

「でも、小学校にあっちよりの教師がいたら、曲がっちまうぜ」

「軍は嫌っても、軍人の心と行為だけは否定させんさ。私も旦那も軍人だし、あいつの義理の伯母になる北郷先生もだ。私の意思はあいつではなく、百合香が継いでくれたしな」

坂本は娘を『不肖の娘』としつつ、娘が産む孫に期待をかけている。そのため、孫の名を出す。

「あのお嬢ちゃんか。坂本少佐と北郷さんのハイブリッドみたいな風貌だよなぁ」

「サラブレッドだぞ?北郷先生と私の遺伝子を継いでるんだから。黒江の子に聞いてみたが、2006年の時点で若手のホープだそうだ」

「良かったじゃん」

「娘も、今回は子供のうちから仕事場に連れて行くさ。避けられんとしても、黒江に悪態つくのは止めさせたいからな」

「それがいいだろうね」

「芳佳も今回は早めに覚醒させようよ、少佐」

「それはそうだが、リーネをどうする?」

「あいつなー…。黒田に心当たりがあるか聞いてみるか?」

「バルクホルン、後で黒田に電話してくれ。それと、心当たりがあったら、いつでもいい。私かケイ、もしくは元締めの大先輩に連絡をとれ」

「了解」

坂本も、今回は圭子を『ケイ』と呼び、親しい友人の間柄であるので、こういう時はケイと呼んでいる。

「あ、前にお武さんの前でそれ言って、問い詰められたとか言ってなかったっけ?」

シャーリーが言う。Gウィッチの間で武子は『お武さん』と呼ばれているのだ。

「事変の時だよ。加藤さんにケイを呼び止めるのを見られてなー。言い訳に苦労した」

事変の時、未覚醒時代の武子にそれを見られてしまった。当時は下士官だったため、士官の圭子にタメ口を聞くのを咎められ、圭子が助け舟を出してくれた(レヴィの口調で武子を嗜めた)。武子は口調が荒い圭子に驚いていたが、圭子のキャラが周知されるきっかけの一つでもある。当時は圭子のほうが背が高かった(当時、18の圭子と12の坂本では当然だが)ので、頭を撫でられた事もいい思い出だ。

『海軍じゃ朝の挨拶以外は基地内や艦内での敬礼は無し、あだ名か敬称付けないのがお約束なんだよ、それは知っといたほうがいいぜ、お武さん?』

これが当時の圭子が言った一言だ。坂本の頭をナデナデしつつ、武子が見たこともない口調で嗜める圭子。

「『お武さん』って何よー!私、まだ14よ!」

武子も年相応に若さを見せ、膨れる。圭子は年長者であるが、やんちゃ盛りと言ったような感じを受ける低めの声色である。

「おお、そだ。綾香がお前の机から切手取ってたぜ?たぶん何かの懸賞にだすんだろうな?」

「あの子ったら!あの切手は、私がコンタックスのカメラ当てるのに使おうとしてるのにー!」

「お前、コンタックス好きなー?」


「――って事があってな」

「あの人、コンタックス好きなー?」

「覚醒して始めての一言が『あー、コンタックスが―!』だったよ、加藤さん」

「カメラ小僧だねー、お武さん」

「そうなんだよ。コンタックスがブランドとして消えてることを思い出して、その場でシュンとなるし、ああ見えて可愛いんだよ、加藤さん」

坂本たちのこの日の会合はこうして終わる。44年前半期の事だ。会合は芳佳の赴任と地球連邦軍の介入まで続けられ、成果を挙げたという。



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