外伝その196『海援隊の苦難と日連邦海軍』


――海援隊は結局、30年代末に大規模改修を行ったばかりの三笠を手放す事になってしまった。手が入れられていた箇所の殆どをできるだけオリジナルに戻す事を条件にされたため、日本側のエゴで膨大な改修費用をパーにされる事に反発があったため、日本は海援隊の有していた前弩級戦艦と準弩級戦艦の代替として自衛隊の古めの護衛艦『はつゆき型護衛艦』、『あさぎり型護衛艦』などを供与した。船の年式がいきなり半世紀くらいは有にぶっ飛ぶため、海援隊は海上自衛隊への研修に多くの人員を割かねばならなかった。また、前弩級戦艦は日本にある三笠の代替物と見なされていたが、機関が10年代以降はタービン機関に換装されていた(40年代には更に換装されていた)ため、今更、オリジナルの機関には戻せないため、保管していたオリジナルのレシプロ機関を海上自衛隊に寄付し、主砲が稼働するオリジナルであることで我慢してもらう事にしたという。三笠は改修で手が入れられていた箇所は多かったが、日露戦争当時の姿には全ては戻せないため、記念艦になる際に、改装で設置された電探はこれまた骨董品と見なされ、取り外された。タービン機関は仕方がないのでそのままとされたが、1930年代後半時のものなので、元のレシプロ機関より小型高性能なので、そこは不満がられたという――






――扶桑皇国海軍は日本連邦海軍としての再編の過程で、M動乱で失われし艦艇の補填は旧来型でなく、護衛艦型(ただし、近接砲撃戦に対応するため、バイタルパートに軽巡洋艦レベルの装甲が張られた)で賄われたため、多くの旧来型はスクラップにされたが、海援隊の手に渡った駆逐艦もあるにはあった。そのため、ダイ・アナザー・デイに従軍した艦艇の少なからずは護衛艦を基本にしたもので、防空能力はフレッチャー級やダイドー級、秋月型駆逐艦の比ではない。そのため、攻撃ウィッチを陳腐化させ、バスターウィッチ誕生の要因になった。21世紀の海軍関係者は『最新の艦艇が時代かかった戦艦や重巡洋艦を護衛する』光景に唸った。90年代前半期のイージス艦が出始めた頃で終焉したと思われた戦艦の時代。潜水艦に戦争抑止力としての存在意義すら奪われたはずの遺物が戦闘の中心にいる。潜水艦隊が戦場を支配する存在に育っていないとされつつも、XXT型が設計されているため、潜水艦の存在意義を『潜水空母』と履き違えている(扶桑は自動的に潜水空母から攻撃潜水艦に切り替えられたが、他国は遅れていた)世界と見なされたため、潜水艦が海の支配者となれなかった(というより、本当であれば、潜水艦隊の激突という出来事が起き得ない世界であったためでもある)はずが、それに至らなくとも、花形に登りつめた(カールスラントが潜水艦に傾倒し、数年で潜水艦大国になったのは、デーニッツの地道な研究の賜物)のである。その立役者が、本来であれば、連合国の優れた対潜技術の前に敗北していったはずの伊号潜水艦を持っていた日本の戦後型潜水艦であるのは、次元を超えた皮肉な光景であった。


――扶桑に供与されたそうりゅう型潜水艦――

「艦長、敵輸送空母を発見しました」

「よし、深度50で攻撃だ。どうせこの時代の駆逐艦では本艦は探知できないし、どの船も追尾魚雷から逃れられんさ」

日本連邦海軍は潜水艦を用いての補給妨害にも手をつけ始め、そうりゅう型潜水艦を用いての第二次大戦型艦艇いじめと揶揄されてはいたが、膨大な物量を少しでも減らすため、こうした通商破壊は推奨されている。彼等は海上自衛隊で訓練を受けた元伊号潜水艦乗りの精鋭であり、史実と違い、彼等は一方的に艦艇を狩っていた。しかも追尾魚雷。第二次大戦で使われた原始的なものでなく、21世紀の技術での追尾魚雷だ。第二次大戦型装備の艦艇に逃れる術はない。第二次大戦型潜水艦は200mも潜れない艦があった上、静粛性は戦後型と比べるべくもないため、その点もそうりゅう型潜水艦の絶対優位なところであった。(因みにこの頃のリベリオンの主力であるガトー級は91mが安全限界深度である)そうりゅう型潜水艦が撃った追尾魚雷は見事、航空輸送に使用されていたサイパン級軽空母に命中、その威力で同艦を転覆させ、撃沈する。

「敵サイパン級、撃沈」

「あっけないものだな」

「これで敵の航空機とストライカーを合計50機は海の藻屑にしましたな」

「機体はいくらでも用意してくるが、ストライカーはそうはいかん。リベリオンは新興国。ウィッチ資源は我が国の半分もないだろうな」

「残っているインディペンデンス級は如何なされます」

「ハープーンミサイルで料理する。発射準備」

「ハッ」

戦艦には効かないが、軽空母程度なら撃沈は容易なハープーンミサイル。日本の政治家はミサイルで戦艦が堕ちない事にヒステリックになったが、元々、重装甲を持つ戦艦は想定外なのだ。重巡洋艦もデモインでない限りはハープーンミサイルで大損害は確実であるため、日本連邦の戦艦は『戦艦を倒す』ために運用されていると言っていい。

「僚艦がハープーンを撃ち、空母を炎上させました。露天駐機中の戦闘機にミサイルが当たった模様です。艦長、何故、僚艦はハープーンミサイルを?」

「政治屋共がハープーンミサイルの実効性を示せとうるさいのだ。戦艦が撃沈できんと分かった時、野党のある議員が海上幕僚長を恫喝したとかしないとか」

「ああ、スクラップにする前の陸奥や武蔵を使っての実験ですか」

「うむ。おかげで防衛予算が減らされそうになったらしい。この隙に本艦は輸送艦をやる。別次元で散々にやられたお礼だ」

彼等はこの後、輸送艦4隻を海の藻屑とし、艦隊の旗艦らしき軽巡洋艦を撃沈して引き上げた。リベリオン軍はこの作戦の開始と共に少しづつ航空機補充が難しくなり始める。また、前線を困らせたのが、『モンタナかアイオワを一隻か二隻鹵獲して欲しい』。自由リベリオンの要請である。これは人は増えつつあったが、艦艇不足である自由リベリオンの切なる要望であり、無下にもできなかったが、大型艦の鹵獲は昨今、極めて珍しい事例だ。ドラえもんが増やす手もあるが、自由リベリオンの造船会社が『俺達に仕事をくれ〜』というので、扶桑も困り果てた。そこで美遊、クロにアイオワ級、モンタナ級の各一隻の拿捕を小沢治三郎が直々に指令した。

「え〜?戦艦を拿捕しろぉ?小沢さん、いきなり何言ってんのよ」

「自由リベリオンがいきなり泣きついてきたのだ。我々としても、今すぐにコマンド部隊は編成できん。そこで君らが無防備なアイオワかモンタナを空から見つけて拿捕しろ。機関部員は殺すな。艦長と副長は殺っていいが」

「できるだけやってみるわ。モンタナとアイオワって2600人くらいだったわね?」

「そうだ。運行に関わる連中には手をつけるなよ?」

「了解。……切歌、美遊。予定変更よ。敵戦艦を拿捕しろと指令が出たわ」

「え!?船を海賊みたいに乗っ取るんデスカ!?」

「そうよ。司令部直々のお仕事ってやつ。艦長と副長は海に放りだしていいそうだから、抵抗してきた連中は黙らせること」

「どこでもドア使えばいいんじゃない?」

「あいにく、どこでもドア貸してもらえなかったのよ。ドラえもんが鍵忘れたんですって」

美遊の指摘に、凄い残念な返しをするクロ。ドラえもんが貸そうとしたら、家に鍵を忘れたというポカをやらかしたらしい。ドラえもんらしいドジだ。

「ドラえもんらしいといえば、らしいなぁ」

「とりあえず、この辺りを航行中のアイオワ級がいるはずだから、高度を下げましょう」


三人(切歌は試しに、小宇宙を燃やしたらギアのリミッターが外れ、エクスドライブ状態になったため、飛行能力を得た)は高度を下げる。すると、フレッチャー級に護衛された回航中のアイオワが見えた。どうやら補充として回航されている新造艦のようだ。

「新しいわね」

「増産された艦かな?」

「旧式を退役させて、その分を新造艦に充てがったのかもね」

アイオワ級はモンタナが『低速戦艦』であるのに比して速度がある『高速戦艦』であり、用兵側の要望で増産される事は充分にあり得る。艦名もモンタナが竣工すれば、当時の48州の半分近くを使っているはずなので、旧式を退役させた可能性が高い。戦艦の名が州名とされている時期の風習である。

「でも、モンタナがあるのに、アイオワを増産するかな?」

「空母の弾除けに使うつもりで増産したんじゃない?切歌、艦名は分かる?」

「待ってください。えーと……艦名はコネチカットって書いてあるデス」

「コネチカット級を退役させたわね」


どうやら、アイオワで準弩級戦艦を代替したようだ。この時点で、軍縮条約の内容が違うのが分かる。つまり旧式艦がかなり生き残っており、リベリオンも新世代に入れ替えるのに、かなり長期的なタイムスケジュールを本来は組んでいたのが分かる。最も、第一次大戦で同艦級は戦没していたが、クロはそれを知らなかったのである。つまり、リベリオンは前弩級戦艦と弩級戦艦の分も戦艦枠を要求していた事になる。扶桑への数的優位を占めようとしたのだろう。

「降下するわよ!護衛艦の対空砲に構わないで!」

「分かった!」

「あわわ……こんなの始めてデスよぉ!?」

切歌はフレッチャー級とアイオワの発するエリコン20ミリやボフォース40ミリ、Mk12 5インチ砲の弾幕に臆するところを見せた。日本と違い、主砲を対空射撃に使わないので、それはまだ良い。いくらシンフォギアで防げると言っても、普通に当たれば即死レベルの弾丸が放たれる状況に怯えてしまったようだ。

「VT信管が配備されてないっつーに、このレベルとはね!日本が特攻やりだす理由がわかったわ!」

槍衾のような弾幕が三人に浴びせられる。幸いにも時限信管であるため、高射砲命中率は低いし、機銃程度なら防げる。とはいうものの、槍衾のような弾幕を突っ切るのは、ビームと違う恐怖がある。そうクロは考えた。

「クロ、私が両用砲を斬って止める!」

「ゲイ・ボルグでぶち抜けない?」

「召喚する暇ないって!」

美遊は降下速度を早め、アイオワの甲板に着地すると、両用砲の破壊に打って出た。風王結界で気づいた敵兵を吹き飛ばし、エクスカリバーを振るい、両用砲を斬っていく。また、クロも降下しながら『偽・螺旋剣』を使い、放って一基を破壊する。切歌も破れかぶれでイガリマを投擲し、ダブルハーケンのようにして沈黙させる。

「よし、片側の弾幕密度が下がった!降りるわよ!」

クロたちは右舷の両用砲を破壊し尽くして降り立った。既に美遊はエクスカリバーで敵兵を黙らせているようで、M1ガーランドを乱射する兵士の銃撃を掻い潜り、銃を吹き飛ばして戦意を喪失させる光景が切歌のいるところから見える。エクスカリバーは自分がやられると相性が悪く、黒江や調に食らっているが、味方にする分には頼りになる。そこに通信が入る。

「やあ。クロちゃん。ドラえもんがやっと鍵を見つけた。僕たちは後ろの指揮所制圧するから、前を頼む。あ、ドラえもん。エージェント活動用の人間タイプの着ぐるみ来たから、外見がジ○ン・レノだよ」

「どういうチョイスよ、それぇ?!」

「ト○タのCMさ。ドラえもん、やってる事がレオンの時のジャン・レノだから、残酷だぜ」

「そうさ。エージェントとしては冷徹にしないとな」

「なによ、その渋い声!どこのセ○ール!?」

「ジ○ン・レノの吹き替え担当してたろ?」

「そりゃそうだけど…DVD版でしょう…って何撃ってんの?」

「デザートイーグルだ」

ドラえもんはエージェント活動時はジ○ン・レノの姿に扮して、意外にエージェントとして冷徹な仕事を遂行する。壮年の頃のジ○ン・レノを模しているため、レオンの主要人物をオマージュしているらしきドラえもんのこだわりがあるらしい。

「レオン見てないのか?」

「ニキータは見たわよ」

「今度、DVDを貸す」

「ドラえもんのやつ、レオンを見て感動しちゃってさ。デザートイーグル使ってんだ」

「なるほどね。で、あたし達は前の戦闘指揮所ね?」

「後部は僕たちがやる。君達は前を抑えてくれ。できるだけ暴れて、兵士惹きつける」

「お願い。2600人を相手してたら体力保たないから」

「大丈夫、少なくとも500人以上は部署から離れられないから」

クロは甲板を走り、前部戦闘指揮所の制圧を行おうとする。美遊と切歌も続く。中に入ると、意外に狭く、イガリマは振り回せない事に気づく。

「意外に狭いデスネ…」

「軍艦だもの。それにイガリマの鎌は室内だと刺すしかないから、別の得物使う?」

「うーん。そう言われても」

「美遊みたいに剣使う?干将・莫耶とか」

「なんデス、それ」

「中国の夫婦剣よ。使ってみる?」

クロは『アーチャー』だが、とある英霊が好んで使用していたため、当然ながらクロも使用可能である。クロの力では精度は落ちるが、シンフォギアのアームドギアより強力ではある。そのため、劣化コピーではあるが、イガリマの鎌より強力というシンフォギア涙目の状況になる。

「うわわっっと……!調はエクスカリバーやシュルシャガナの原典を使ってみせた。ワタシも鍛えていけば、イガリマの原典を使えるようになれるデスカ?」

「英雄王に認められる必要があるわね。原典のイガリマは英雄王の持ち物だし」

クロは切歌にアドバイスを送る。それは元のフランチェスカ・ルッキーニとしても、大人になってから見せるようになった面倒見のよい面で、その面倒見のよさは実孫のトリエラからの尊敬を得るほどだ。また、クロとしてのスバルと更識楯無の中間程度の声色は、フランチェスカ・ルッキーニとしても、前史の10代後半以降に獲得していたものだ。そのため、ある意味では『声色の先取り』とも言える。

「干将・莫耶。悪くない剣よ。とりあえずイガリマ依存から抜け出しなさいな。綾香も愚痴ってたわよ?貴方、綾香のエクスカリバー(手刀)に防がれたくらいで泣いたそうね」

「うぅ。だって、お化けだって斬れたし、神様だってそうのはずデス。なのにあの人は手刀で…」

「ま、鎌でも突いてから刈れば良いし、刃の背で殴っても良いんだけど、イガリマの原典にたどり着くためのトレーニングと思いなさいな」

クロは剣を劣化とは言えコピーできるため、別の剣を使う。切歌に莫耶を渡して。切歌は鎌での戦闘訓練しか積んでいないが、マリアや黒江の見よう見まねではあるものの、剣を振るえないわけではない。調が既に一端の騎士として、おそらく同時代に活動していたために会った事があるだろうシグナムも認める腕を持つのに比べれば稚拙ではあった。だが、生来の調への愛が為せる業か、力押しとクロと美遊に評される程度には頑張っている。クロや美遊は英霊の力と身体能力を得ているので、一般兵士をねじ伏せるのは当たり前だが、切歌はギアのブースト以外はド素人に近い(シンフォギア前提で戦闘訓練を受けたため、素の戦闘能力自体は低い)ため、破れかぶれであった。

「ハァ!」

「フッ!」

美遊とクロの華麗な剣技に比べれば、切歌はシンフォギアのブースト頼りなのと、鎌ではない得物のためか、感覚の違いに難儀している。美遊は弾幕を潜り抜け、銃を払う事を簡単にこなし、『無益な殺生はしません。指揮所はどこですか?』と脅してもいる。美遊はイリヤと芳佳への強い愛の賜物、前史でリネット・ビショップとしてできなかった事を進んでしようとしているため、敵に冷徹な顔も見せる。リネット・ビショップとしてできなかった『脅し』も美遊としてならやれるという事だろう。

「二人共、戦闘指揮所はここからそう遠くない。いくよ」

「ミユさん、凄い。銃だけをぶっ飛ばすなんて」

「あの子はアーサー王の身体能力を得ているわ。そのくらい簡単なことよ」

三人は戦闘指揮所へ向かう。のび太が後部でNTW-20を撃ってハッチをぶっ飛ばし、ドラえもんがデザートイーグルを撃ちまくる阿鼻叫喚の光景が繰り広げられているのに比べれば天国のような光景だ。ドラえもんはエージェントとしては情け容赦がないため、元々が子守用とは思えない血で血を洗う光景が繰り広げられており、そちらに人員が割かれているため、三人側に向かう兵士は比較的少数であった。だが、当然ながら、三人に対抗可能な超人もいるにはいる(元・最悪の悪役プロレスラーなどを更に鍛えたなど)。そのため、三人は思わぬ苦戦を余儀なくされるのだ。『リングの殺人犯』、『リベリオンの恥』、『人間起重機』などの異名を持つ下士官が待ち構えていたのだ。

「邪魔よ!」

クロは突進し、待ち構えていた大男の下士官へ剣を振り下ろすが、その下士官は魔力で身体能力にブーストがかかっているはずの一撃を軽く受け止め、それどころか、クロに強烈なビンタをかまし、クロを壁に叩きつける。続いて、切歌が斬りかかるが、斬りかかる前に蹴りを入れられて吹き飛ぶ。最後に美遊が行くが、なんとセイバーとしての疾さに彼は反応してみせ、そのままラリアットで美遊に強烈な一撃を見舞う。

「フン。ウィッチのようだが、それだけでこの俺に立ち向かえると思っているのか」

彼はヒールのトップレスラーとして鳴らしていた。それが更に鍛えられたため、ウィッチを逆にねじ伏せられるほどのパワーを得た。努力は時として、磨かれない才能を凌駕するという事だ。

「そんな、この疾さに反応できる人間がいるなんて…!?」

「へぇ。面白いやつがいるじゃないの。こっちもただのウィッチじゃないわよ」

「ほう。まだ生きているか」

「何を驚いてんの、美遊。こんくらいは想定内よ?」

「どうだ、怖かろう?元・ヒールレスラーのトップだったこの俺に勝てるものか」

「やってみる?こちとら英霊よ」

クロは起き上がり、どこかの映画で見たような会話を交わす。

「怖さ語る時点でアンタは三流よ。映画で言えば、細マッチョのイケメンヒーローに軽く倒されるくらいのね!」

「ぬかせ!」

「クロ、どこかの映画で見たネタしないの。切歌が置いていかれてる」

「こういうやつにはうってつけじゃないの。こういうこれ見よがしに筋肉アピールのオツム馬鹿には」

「ガキ共め!言わせておけば!!」

「テンプレみたいなキレ方じゃない!こういうアホにはいい薬よ!」

クロは飛び蹴りをかまし、美遊は膝蹴りを入れる。怯んだ隙に美遊が前史で芳佳が護身術としていた『八極拳』を使った。この世界においては現存しているか怪しいが、ともかく美遊はとっさに使った。響は映画を真似た見よう見まねだが、美遊の場合は芳佳が沖一也から教わった本式のものだ。芳佳が護身術に用いている(今回も、覚醒後に使用。未覚醒当時のミーナを驚かせた)ので、リーネもその様子を見ていたのだ。美遊は突進し、そこから見事な鉄山靠をかます。騎士服姿でやるとシュールさもあるが。東洋の拳法であり、なおかつ滅びた国の拳法なので、彼はその技を知らず、驚く。

「久しぶりにやってみたけど、存外上手く入った」

「なんだ今の技は!?」

「その昔、東洋で編み出された技。貴方には知らなくていいことだよ」

構えを取る美遊。格闘技の教育を受けたわけでないが、前史の芳佳との記憶で再現したので、サマになる。響も同系統の技を使うため、切歌はその類似性に驚くが、美遊のものは正式なものである。殆どモーションがなく、無駄のない動きからの一撃。芳佳が沖一也のツテで前史に習得し、その記憶から、今回、美遊が使用した。タフなレスラーも食らったことのない重い一撃に顔を顰める。

「東洋の拳法を甘く見ないことね」

西洋の騎士の格好で東洋的な拳法を繰り出すアンバランスさ、その華奢なボディのどこにあるのかと疑うような威力の突き。切歌は目を奪われる。中国の神秘はたとえ中国が滅びた世界でも健在ということだろうか。

「東洋系の動きは西洋のボクシングより打撃に適してるのよね。相撲のつっぱりも似たようなものね」

クロは解説しつつ、自分も中国拳法を思わせる蹴りを入れる。意外に楽しんでいるようだった。黒江がそうであったように、中国拳法は格闘では有効な選択肢だろうか。切歌は二人の華麗な動きを見て、そう思うのであった。



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