外伝その198『GET WILD4』


――地球連邦軍は小型MSに見切りをつけ、ミドルサイズから20m級がまたも主流になりつつあった。これは外宇宙では、質量も武器にする事、実体弾への耐性が小型MSではガンダムタイプでもなければ低かった事から、再度の大型化の波が起こった。これは小型MSが熟成してゆくにつれ、正規軍が正規の運用法で運用するMSの整備時間が長くなり、ゲリラ的運用を想定されたV系以外は整備に手間がむしろかかる事が分かったのと、大型MSのほうがペイロードで優位な事が再認識されたからだ。そのため、当初は退役予定のジェガンのさらなる近代化が模索され、別機として改造され、新造扱いにされたのがフリーダムに当たる。ビームシールドのエネルギー効率が改善され、大型機でも3000kwあれば稼働させられるようになったため、フリーダムのジェネレーター出力は3980kwと控えめである。また、ガンダムタイプでも搭載しない機種も多いので、ビームシールドには一長一短があるが、量産機には積まれやすい。特にジム系はジェガンの初期配備当時に『打たれ弱い』という批判があったため、ジム系はビームシールドをガンダムタイプよりも積むことが重要視されている。パイロットに一定の腕があれば、ビームシールドはむしろいらないとされ、特務用のジェスタやグスタフ・カールは積んでいないが、これは熟練兵が乗ることを想定した機種だからだ――



――ラー・カイラムが着陸している連邦軍臨時基地――

「ジェスタを二個小隊分配備?」

「ええ。評価試験ということで」

「整備はジェガンと同じ?」

「殆どは汎用品を使ってますから、楽ですよ」

武子はラー・カイラムに積まれていて、使い込まれていたジェガンR型の代替機が搬入されると聞き、その様子を見に、格納庫に来ていた。ジェガンの代替機が同系統の特務用であるジェスタであり、リ・ガズィ系の新型『リ・ガズィ・カスタム』がテストのために搬入されていくのを確認する。ジェガンの代替機としては豪華だ。元々はアムロ用に開発されていたが、νガンダム系が開発されたために一時凍結扱いだった。しかし、Zプラスの初期調達機が老朽化したため、第二世代Zの一環としてプランが再起動したのである。アナハイム・エレクトロニクス社は小型MSは苦手だが、既存ノウハウを使えるTMSに関しては一級であり、リ・ガズィの欠点を是正したカスタム機を量産機として提案してきたのだ。

「で、リ・ガズィのカスタム機と…。確かに受領したわ」

「ご苦労さまです。大佐、噂なんですが、そちらの審査部の古参が懺悔したいと部内で言ってきてると」

「もしかして、綾香のこと?」

「ええ」

「あの問題はお上の裁可が下って、解決済みのはずよ?」

「当時に新人だった層が懺悔したいと言ってきてるそうです。彼女は今や英雄ですからね」

「あー…なるほど」

一年後に社会問題になるが、扶桑陸軍航空審査部内部でのイジメ問題が白日の下にさらされ、扶桑ウィッチ社会を大きく揺るがす。当時、既に当事者の多くは軍を去っていたが、事件当時に新人だった世代が古参になっており、黒江がレイブンズの一員であった事、現在進行系で戦っている事を要因に、懺悔したいと言ってきたのだ。当時、黒江のいじめ問題は1940年前後に天皇陛下が自ら裁きを下すことで解決扱いにされていたが、ひょんなことから日本連邦初のスキャンダルに発展してしまう。それは懺悔したいというのを週刊誌が嗅ぎつけ、記事にしてしまったことで白日の下にさらされる事になり、かつての英雄を疎んじたというスキャンダラスな題材に野党が食いついたことで、大事に発展してしまう。一年後、扶桑のウィッチ社会を揺るがしたこの事件は、双方の総理の声明で収束に向かうが、それまでに起こった扶桑の社会的影響は大きかった。当時の責任者、元ウィッチとその社会へのメディア・スクラムが起こったことで再就職先の海援隊を辞さざるを得なくなった元ウィッチ達は複数人に登ったし、当時の責任者達は二階級降格が本当に検討された。それほどにメディアが煽っていたからだ。一年後(日本では2019年度に出回った)週刊誌の記事は『扶桑軍の闇』、『扶桑陸軍は出る杭を打つ』などのセンセーショナルを強調する見出しであり、野党は『このような問題が有る組織に国防を任せて良いのか?!』と叩いた。扶桑陸軍は逆に困惑し、梅津美治郎参謀総長が日本の国会に証人喚問されるに至る。当時の責任者は1940年度に天皇陛下自ら沙汰を下しての処罰がされており、蒸し返すのかとも述べ、野党はシビリアンコントロールの観点からもう一度然るべき罰を与えるべきであると言い、梅津美治郎の失笑を買った。当事者の殆どは事件後に軍を辞し、海援隊に再就職しており、そこからも追放するのかと。野党議員は『日付を遡り、軍人として裁けばいい』とし、与党議員の失笑を買った。魔女裁判さながらである。

「軍法も法律、法に従い処された者を結審後に再度裁くつもりなら何かそうすべき証拠をお持ちですかな?」

「天皇が超法規的に下した事に、意味などありません!」

「天皇陛下は我々にとっては国家元首であり、その国家元首が法に則って沙汰を下したのですよ?あなた方は何を求めるので?東京裁判のように巣鴨プリズンに入れて、絞首刑でもお望みか」

梅津美治郎は同位体が戦後、東京裁判で終身刑を受け、癌になって獄死している。その経緯を知っている故か、野党をそう皮肉った。梅津美治郎は史実では戦犯だが、ウィッチ世界では単なる一大将に過ぎない。その事実は野党の人気を更に急降下させた。梅津美治郎のその回答で日本での批判ムードは冷却に向かったが、扶桑国内の批判ムードのほうが厄介ですらあった。声明が出されるまでに元加害者達が被った被害は再就職先の海援隊からの事実上の追放、家族の離職などで、こちらのほうが影響が大きかった。また、海援隊からも追放され、家族からも厄介者扱いされたことで自殺を図った者が生じていた。後に、彼女達は事態を重く見た黒江がその救済を天皇陛下に申し出たことで、秘密部隊に再就職できたが、社会的にはウィッチ社会の特殊性が批判の的になったのは事実である。そのため、G/Rウィッチがここから太平洋戦争の流れで現役ウィッチの上位に位置するという社会的階層が生じ、戦争でその認識が定着する。これは太平洋戦争で中心的な役割を果たすのがG/Rの両ウィッチであり、現役世代が10代であることから、『大人』としてのウィッチが必要とされたことも背景にある。黒江のイジメ問題の蒸し返しは意図はないものの、結果としては現役ウィッチの肩身を狭くしたとして、太平洋戦争後の時代において語られる事になる。(現役ウィッチが下位の階層になる事になるため、後世で飛ぶ世代は現役のうちに出世し難い世の中を嘆いたという。)

「現役世代の肩身は狭くなるわね」

「はっ?」

「私達が次の戦争で重宝されれば、今の現役世代は実績のないままあがりを迎えるか、一線を退くし、後世の世代からは一生謗られる事になる。私はそれを避けたかったけど、どうやら、それも無理そうね…」

武子はクーデターの阻止が不可能になった事をその会話で悟ったようだった。

「おそらくだけど、事態がこのまま悪化して、日本側の介入があれば、ウィッチ組織はズタボロになる。今のうちに優秀なウィッチを保護しておかないと、次の戦争は戦えない。だから、司令は主だった連中を集めているのかもね」

武子の言う通り、MATが急速にウィッチ部隊を吸収してゆくこの時期、軍ウィッチ組織の形骸化が懸念され、扶桑に残された軍航空ウィッチ部隊はもはや数える程度になりつつあり、教官としての行き場を無くした古参とエース達が続々と64Fに送られていき、64の組織は源田の思惑通りと言うべき状況により、加速度的に巨大化してゆく。そのため、太平洋戦争開戦時には指で数えられる程度しか航空部隊が維持されておらず、組織の生き残りのため、パイロットや空挺部隊を兼任するのが当たり前となりつつあった。それがMATとの差別化戦略であり、高度な再教育を受けた証でもある。無論、これに意義を唱えるものもいたが、ダイ・アナザー・デイを経験することで死生観に変化が生ずる者が続出した。例えば、元506部隊のマリアン・E・カール。自由リベリオンに流れで加入したものの、対人戦への忌避感があった。それがハインリーケの急変(覚醒)や、黒田の本性が明らかになり、戦友がガリア王党派への内通で銃殺刑に処された(表向き)事で否応なしに戦場の変化に向き合うことを強いられた。黒田がかつての七勇士として、バトルマシーンに立ち還ってゆく事を恐れた一人であり、ハインリーケの急変に疑念を抱いた一人でもある。マリアンは竹井の親友の一人であったし、シャーリーに憧れていたウィッチであったため、クロウズのことは知っていた。だが、七勇士のことはプロパガンダと思っていたクチである。Gウィッチの面々に近しい立場でありながら、その真実の姿に気づけなかったという点では、上官のジーナ・プレディ(声が摩耶に似ている)に『青二才』と評される理由だ。ジーナ・プレディはアルトリアの現界や黒田のお気楽極楽の仮面の下のバトルマシーンぶりを知ったため、Gウィッチの協力者となり、後に自分も立場をGへと転じた。それ以後は黒江達の後輩としての中間管理職に専念しており、サーシャの事実上の追放を圭子や赤松に具申したのは彼女である。赤松が最終決定を下したため、真501の事実上の統率者は赤松であると言え、マリアンは必然的に佐官級の士官を顎で使う赤松貞子という存在に興味を抱いた。そのため、武子の従卒的役目を引き受けながら、調べていた。

「おう、何をしておる、加藤の娘っ子」

「大先輩、頼むからTシャツ一枚で格納庫に来ないでください…」

赤松は智子を『お嬢』と呼び、武子は『加藤の娘っ子』と呼ぶ。これは武子の死んだ姉を見て知っている世代なため、姉との区別のために赤松が用いている。扶桑では伝統的に特務士官が偉いため、武子も赤松には敬語を使う。階級では特務中尉と大佐なのだが、扶桑では年功章の多さがモノを言うため、武子も赤松には敬語を使って接している。

「別にいいじゃろ。わしゃ今日は非番じゃ」

「そ、そうですか、ハハハ…」

武子は完全に、取引先の偉い人に会っているサラリーマンのような様相である。

「ん、マリアンを副官にしておるのか?」

「形式上、いないと舐められると、ジーナ中佐からアドバイスもらったんですよ」

副官にするには、マリアンは位が高い嫌いがあるが、武子の功績から言えば、現役世代の大尉程度では及ばないため、副官にした。これも七勇士の特権であった。これは副官を持つことが連合軍幹部のステータスであった当時の事情も絡んだ選択であり、501へ隊員を供給している一番の部隊が64Fであるために許容されていた。

「大佐、この方は?」

「赤松貞子特務中尉。今じゃ見なくなった兵卒上がりのウィッチの最後の生き残りの一人。敬意を払いなさい?」

「は、はい」

赤松の志願した時代は初期階級が兵卒だったため、そこから特務士官になったのは、黒江達が大佐になるのに匹敵する偉業であった。扶桑は日本帝国と違い、特務士官が将校を育成する文化が明治以来、強固に存在しており、江藤/北郷からレイブンズまでのの世代は赤松/若松の指導を受けて育っている。結果的にレイブンズ世代までの将校が太平洋戦争の現場将校の中枢を担ったため、江藤/北郷〜レイブンズ世代の将校が扶桑軍で絶大な権力を握り、その権勢が太平洋戦争からレイブンズの退役までの数十年と長かった事から、二代目レイブンズは『名家の出かつ、かつての英雄の子』として、少なからずの苦労をしてきているのである。

「娘っ子、ボウズの子供たちから話を聞いたが、やはり、クーデターは止められんそうだ」

「美奈子にも確認させましたが、やっぱり阻止はできなかったのですね」

「ただ、お前や坂本の努力で、規模がだいぶ小さくなっとる。ただ、日本の介入を招いて、海軍ウィッチが死に体になるが」

「まぁ、前史を思えば、それくらいで済むならマシですよ」

赤松は二代目レイブンズに確認させたところ、クーデターの規模はだいぶ縮小されたが、政治的には扶桑が大きな痛手を被った事が記録されていた。そのため、海軍の指揮下に入って、空軍が洋上作戦を遂行する程度の事は些細なことである。海軍はこの後、政治的には辛酸を舐めるものの、華々しく艦隊決戦の主役になれるため、主力の軍事行動が陽動扱いされる陸軍よりはマシな立場である。

「話は聞きましたが、前史で私はどうなったのです?」

「それを調べるのは簡単じゃが、今回とは関係ないことだぞ、大尉。今回は今回ということで、新しい未来を選べ」

マリアンはこの一言に納得する。記憶を引き継いでいる黒江達は当然、マリアンが前史でどのような死に様だったのかを知っている。だが、今回の歴史で彼女がどうなるか。それは彼女が決めることだ。(なお、リベリオンとの戦争が未来世界の介入無しで起こった場合は竹井をドッグファイトにて下して戦死させたが、仇討ちに燃える下原が仇を討ち、敗死しているという。その世界では、戦争にはリベリオンが勝ち、扶桑の領域を室町期のそれに逆戻りさせたが、旧扶桑領の統治が上手く行かず、更に怪異の脅威に人材不足のリベリオン軍ウィッチ隊では守備が追いつかず、戦勝国でありながら国際的非難を浴びた。その結果、扶桑の場当たり的再軍備、旧扶桑領を委任統治として、扶桑に丸投げし、実質的に返還するなどの行為を働き、結果、10年とリベリオン主導体制は保たず、崩壊後はリベリオン自体の国威が大きく損なわれ、残されたのは、戦前より却って縮小された人類生存圏という散々な結果であったという。)

「それに、リベリオンと扶桑が未来世界の介入なしに戦争し、そちらが勝っても、後で非難されるような暗い未来が待っている世界も観測されとるしの」

「え!?」

「未来世界の介入がなければ、そちらが勝つじゃろう?じゃが、それは結果として人類の前途が暗くなる事だ」

自由リベリオンがあまり行動を起こさないのは、リベリオンが扶桑に勝つも、結局、旧扶桑領の統治の難しさ、ウィッチ隊の不足で守備しきれず、結局は扶桑を再軍備させ、旧領を投げ出し、扶桑に憎まれ、世界的に反感を買った世界の存在を知った事による自主規制も絡んでいたのだ。

「……たしかに、扶桑の海外領を分捕っても、全部を守備できるとは…」

(未来世界でもそうだが、軍事組織を解体する事にはリスクがつきもので、結局は地球連邦軍もガトランティスの脅威への対応のため、『解体』が差止められた後、正式に組織の維持が決定されている。その場合、反動で軍出身の大統領が就任しやすい土壌を整えてしまう。地球連邦もユングに至るまでの数代が軍出身である。その世界のリベリオンも扶桑の軍備を解体したことで、旧扶桑海外領の守備に却って苦労し、10年と経たずに投げ出したことで国際的非難を浴びた反動でタカ派大統領が誕生した結果、自滅に等しい道を辿り、1960年代初頭に人類が敗北した)

「その世界の人類は自滅したそうだ。だから、下手に相手の軍備を解体するな、という事じゃよ」

未来世界は現地の治安が却って悪化し、テロの温床になった歴史があるので、軍事力の解体は避けてきたが、ピースクラフト政権は『再編』の題目に既存軍事組織の解体を題目にしたことが結果的に裏目に出たが、腐敗の一掃という真の目的そのものは一定の成功を収めている。実際、アメリカの衰退は日本での成功経験を忘れられず、中東などで失敗を繰り返したことでイメージの悪化を招いた事から始まったというのが23世紀世界での記録である。自由リベリオンはその記録に怯え、軍事行動を控えている。扶桑も橘花や火龍の投入が頓挫し、結果として、国産ジェットの投入が一からの構築になったため、ジェットの主流が米軍機のライセンス生産になる、自衛隊同様の道筋を辿る。これはライセンス生産機が後世の高性能機であったため、必然的にそれに合わせての空母の運用が求められたからである。

「扶桑などいいほうじゃ。未来世界から多額の援助が入り、兵器まで提供される。そちらは土地や兵器はなんとかなっても、人が足りん。そうじゃろ?」

赤松の言う通り、自由リベリオンは人が足りない。扶桑の空母機動部隊は日本側があ号作戦や捷号作戦の戦訓と称し、空母機動部隊のパイロットは空母専任、基地航空隊は原則的に空軍移籍を提言し、そのまま決議されたことで、母艦航空隊が形骸化。仕方がないので空軍部隊を作戦行動の度に載せるという運用がなされる。これは批判を浴びたが、『海軍出身者が乗艦を仲介しているし、母艦航空隊の再建までの一時的措置である』とし、批判を躱している。(結果としては、その措置がずっとなされる。ジェットパイロットとウィッチの戦線への安定供給が不安視されたからだ)海軍はせっかく育てた人材を国家指令で剥ぎ取られ、訓練として空母に置いていた若手を主体に再建を命じられ、戦争で航空戦の主役となるチャンスを失う事になる。空軍が華々しい空中戦の主役となり、撃墜王としての公的な名誉を得れる事もあり、空軍はウィッチの安定供給を事実上約束されたが、海軍は政治的に締め上げられたことで多くの熟練兵を理不尽に失い、『撃墜王』を部内で公的に認めて来なかった事を政治的な責め苦にされたことで、自身の鏡に映る存在である大日本帝国海軍の影に怯える事になる。(元・日本海軍搭乗員たちも国民の戦意高揚のための多量撃墜者表彰には理解を示したのも不幸だった)艦艇関係が華々しい主役を演じたのと対照的に、海軍航空隊は空軍の『影』になる事が太平洋戦争での運命であった。

「ええ。前線に展開してる部隊全部が自由リベリオンに肯定的じゃないですからね…」

この当時、自由リベリオンに参画する部隊は各戦線のリベリオン兵の自主的に任せていた事もあり、陸海空、海兵と兵種は問題ないものの、数が少なく、本土軍の一個任務部隊に毛が生えた程度の海軍、質はいいが、数が足りない空軍(旧陸軍航空軍)、数が足りずに質に切り替えた陸軍と、内情は貧弱であった。

「まあ、機材が加速度的に更新されるのは救いじゃな。下手すれば、戦車は5年でM1エイブラムスになるかも知れん」

「21世紀の米軍戦車に?まさかそんな……」

「21世紀の機材が輸入されれば、この世界に生産させるのは目に見えておる。自衛隊も10式をこちらで生産させて、自分らはその次に作るのに変えるつもりだしの」

赤松は陸自が10式戦車を扶桑に生産させるのは時間の問題と踏んでいる。これは日本連邦化で軍事予算が増えたことで、戦車の更なる更新が可能になったが、気取られないよう、10式を扶桑に採用、生産させて頭数を増やす事が模索されている。扶桑軍の戦車を戦後型に統一することは、財務省の思惑にも適うからだ。無論、この思惑通りにはいかず、この混乱がウィッチ用破砕砲の開発に繋がり、扶桑のロー相当の戦車が90ミリ砲と、他国からすれば信じられない火力に飛躍する。これは重装甲傾向の米軍戦車を何が何でもぶちのめすという強い意志の表れでもある。そのため、ダイ・アナザー・デイ参加の扶桑軍戦車の少なからずはAPFSDSを装備しており、ある車両はM46の砲塔正面装甲を一撃でぶち抜いている。これによりカールスラントは自国戦車の防御力陳腐化に異常に怯え、レオパルト2戦車の輸入に繋がる。理論上、この徹甲弾であれば、マウス重戦車も一撃で貫かれるからだ。もっとも、それすら容易く弾くのが61式(地球連邦軍)戦車であるのだが。

「中尉殿は何をお考えで?」

「今の戦は未来人の壮大なウォーゲームに近いと考えておるよ、儂は。実際、兵器が通常では考えられない速度で更新され、音速の壁などは遠い昔の単語になり、ついには宇宙じゃ。まぁ、熱核兵器の相互破壊確証が起きないのは僥倖じゃが」

当時、扶桑皇国はジェット化が急激に進展し、超音速機が出回ったため、性能向上に限界が見えているレシプロ機は既存機の改善で済ます方向に傾き、震電/天雷などの調達中止に繋がった。この試作機受領後の追加生産機完成と同時の調達中止が横須賀航空隊の震電焼却事件に繋がり、震電改二の性能飛躍と引き換えに登場時期を年単位で遅れさせ、その繋ぎの意図もあり、コスモタイガーやVFが調達され、使用される。実際は航空自衛隊で言うところのF-2戦闘機のような地位が期待されていた震電改二はその分野の性能で当時、世界最高水準であり、旧式化した双発陸攻に替わる対艦攻撃要員となる。空母搭載型も検討されたが、米軍機系で統一される空母には邪魔だと判断された財務省の横槍で本格生産には至らなかったが、元々が海軍機なので、空母運用に必要な着艦フックなどの装備はレシプロ機の段階から艦上型採用を見込んで、予め開発されており、それは更に改良されて改二にも装備され、臨時という形で実質的には艦上機としても運用され、F-4EJ改より小回りが効くという日本系の特徴を受け継ぐ特性から、F-8と並び、現場で好まれる戦闘機となる。(そのため、実際は艦上戦闘機としても使用される)

「今や、レシプロ機が檜舞台から降りろうとしとる時代じゃ。疾風はウィッチ支援に特化した性能特性が災いし、紫電改と烈風、キ100に駆逐されようとしとるが、それも近い内にジェットが全てを駆逐するじゃろ。現に儂らとて、レシプロ機は殆ど使っておらん」

「ジェット……」

「コスモタイガーを見てみろ。惑星間をひとっ走りとか言って飛べる飛行機じゃぞ」

宇宙戦争で航続距離が短いとされ、改良されしコスモタイガーでさえ、タイタンからフェーベまでの長距離をひとっ走り感覚で飛び、それで戦闘までこなす航続距離があり、1940年代では『超戦闘機』そのものだ。

「あれらは23世紀の技術の賜物じゃが、戦闘機としてのレシプロ機の寿命は近いという事じゃ。疾風は改良すると、日本側の記録と代わり映えしなくなるしのぉ」

疾風はウィッチ支援機としての運用想定で設計され、航続距離が史実より長かったが、時流が対人戦になると、その航続距離は過剰とされ、戦闘機としての本分を要求され、それに対応した。しかし、エンジンの換装によるエンジン重量増加、弾薬を多く積める構造の翼に換装を余儀なくされた事による機体重量増加により、速度性能が従来型と代わり映え(史実の最良数値よりも速いが)しない結果となったが、鍾馗の老朽化という観点から、一応の採用はなされ、本来の想定である鍾馗の後継は務めたが、五式戦闘機に比すれば生産数は少数であり、そこも一式と二式の関係を引き継いだ(元々が液冷機である飛燕の空冷型が好評なのは川滝も想定外であり、母体の液冷型を評価してくれない事には憤りを見せたという)と言える。奇しくも、主力になりそこねた三式の単なる空冷型が複雑な新式空冷大馬力エンジンを積み、空冷戦闘機の大家が心血を注いで作った最新作を駆逐してしまうという光景は、烈風という宮藤博士の遺作の一つを形にした戦闘機が、瓢箪から駒で生まれし紫電改に制空戦闘機としての華を掻っ攫われる光景と同じ構図であり、疾風の設計の対人戦での『不備』(そもそも、本格制空戦闘はウィッチに任せる意図があったからで、念のために機銃弾薬を増加できるように設計はしたが、機銃弾の規格変更で無駄となった)もあったが、誉エンジンからハ43への換装、燃料タンクを一部弾薬庫に変え、防弾を強化した事による重量バランス変化などの不確定要素で、誉より200HPほど馬力があるハ43での試験結果は史実の米軍テスト時の数と(誉エンジン)と代わり映えがそれほどしないものだったため、日本側は『ベアキャットには追いつけるが、シーフューリーには到底及ばない』として、不採用の意向だったが、鍾馗の後継を欲しがった現場の強い支持で、一応の採用はされた。シーフューリーは烈風/紫電改/疾風よりも格上のエンジンを積んでいるため、その速度差は仕方がないが、日本の仮想敵であるベアキャットは超える事に成功している。そして、740キロのシーフューリーを超えるには、ターボプロップエンジンを積むしかないので、レシプロ機の極限に近い高性能は確保されているというわけだ。ただし、『史実とそれほど代わり映えしない』事がマイナスとされ、史実の半分以下の生産数となる。日本側の関心は国産ジェット機であり、レシプロ機を戦闘用途で使う事に意義を見いだせなかったのだ。黎明期の1940年代の段階では、ジェット機はカールスラントでさえ、高速爆撃機としての使用を考えていたので、後世のような制空戦闘機としての使用は考えられておらず、それを鬼畜生の如く吊し上げられた横須賀航空隊が反乱に同調するのも無理からぬ事だ。(無論、未来戦闘機が制空戦闘を行うのを見て、慌てて戦闘機型を作ったメッサーシュミット、その更に後追いの橘花もあるが、橘花はメッサーシュミットme262の提供された初期設計を元にした機体であるため、抜本的改良が困難だったのが運の尽きであった。これがもとでカールスラントは危うく、ふんだくったライセンス料の違約金を『二乗』で請求されるところであったためと、同機自体の陳腐化が早々に起き、予定していた改良案を扶桑へ流す事を提案したが、扶桑は根本的な次世代機を得ていたため、改良案は拒否され、当時の折衝担当者を左遷させることで責任を取らせるなどの対応でカールスラントは世界貿易機関の制裁は逃れたが、実際はそれを受けるに等しい政治的打撃を被った。また、人的にも、エディタ・ノイマン大佐が中央から事実上の追放処分と言える、中佐への降格、辺境の地の航空隊司令への任命という人事を被ったことで、悪童と名高いグンドュラ・ラルを次期空軍総監にせざるを得なくなったりする損害をこうむる上、新京条約で全ての軍備に制限をかけられるのは確実視されており、カールスラントはナチスの影と、ドイツ連邦共和国の軍縮政策に振り回されたと言える)

「大尉。そちらの国が将来に作るはずの機体がこれから戦場の主役になる分、リベリオンは恵まれておる。我々の作る機体はシーフューリーやベアキャットと常に比較され、『国産品』は烈風、疾風、紫電改が最後になる事に比べれば、な」

赤松は国産軍用機が実質、現在の新鋭機で事実上の終わりを迎える事に一抹の寂しさを見せる。震電改二はもはや、再設計で原型機の面影は無くなるので、その点から言って、戦前の開発で、という点での扶桑機は烈風が実質的に最後の戦闘機になる。震電が失われた事は結果的にその事実を補強する事となる

「しかし、中尉。同じ機体が造られるとは」

「そういう流れになるのじゃよ。アメリカとつるんだ以上は、近いうちに大尉はF/A-18E/Fに乗ることになる」

赤松はそう予言する。技術が加速を起こした以上、20世紀末期程度のジェットには、マリアンは近いうちに乗ることになると。

「ボウズたちは既に乗っとるからな」

「あれは異常ですよ!時代が半世紀ほど違う飛行機なんて、計器もまるっきり違うし、エンジンもジェットなんですよ!?」

「複葉機に乗ってたのが今の最新機に乗るようなもんじゃろ」

「いやいやいや?!」

スピードを求めているマリアンも、当時最新技術であったジェットへ抵抗感がある事の表れであり、黒江達が軽々とそれを乗りこなす姿に羨望を感じている事に感情が入り乱れている複雑さを覗かせた。当時のジェット機が如何に奇天烈な乗り物扱いであったかが分かる。しかし、明確にわかりやすい次世代の動力であり、黎明期の飛行機がそうであったように、テストパイロットは羨望を集める存在。黒江はテストパイロットの経験があり、かつては如何な戦闘機(戦闘脚)も乗りこなすと謳われたほどの評判があったので、それを特別視する節があるマリアン。テストパイロット経験があり、ジェット機すら軽々と乗りこなす姿も、後輩世代の羨望のみならず妬みも買う理由だ。

「くそぉ、あの人はなんでジェット機を軽々乗りこなすんだー!?」

「ボウズは空自で働いてもいるし、正規の訓練を受けとる。良ければ、大尉も訓練受講の手続きを取ってみるか?」

「いいんですか?」

「地球連邦軍が義勇兵用の訓練課程を開いとるが、ウィッチも志願すれば操縦訓練を受けられる。ワシも教員じゃ」

「それじゃ中尉……」

「それなら話は早い。次の月曜に講義があるから、そこを見学して、次の期の講義の受講手続きを考えるといい」

「あ、ありがとうございます」

ダイ・アナザー・デイはかなり長期戦になっており、この日で既に、開始から二週間が経過していた。隊員が休暇を取っても許されるのは、戦況が膠着状態であるからでもある。ただし、最前線にいる黒江達はもちろん取れないので、46年に数ヶ月分をまとめて取る事になる。

「さて、シミュレーターは艦に用意してあるから、やってみるか?」

「お願いします」

赤松は大尉であるマリアンに目上として接するが、赤松はそれが許されるほどの古株である。この時代ではまず希少となった『入隊時に兵卒だった』世代の生き残り。黒江達が新兵だった時の古参、北郷の従卒経験がある特務士官。それだけで、扶桑では『ウィッチ元帥』と評される。45年当時のウィッチ界では間違い無しにウィッチの生き字引とされ、外国軍士官からも敬意を表される存在だったのだ。



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