外伝その205『つかの間の雑談』


――黒江達が怪人軍団と死闘を展開している頃、ミーナは扶桑で報じられる陸戦兵器の性急な入れ替えに苦言を呈していた――

「扶桑陸軍には同情するよ」

「ああ、旧型兵器の急激な入れ替えー?」

「前世で戦車道の家元継いでいた身だから言うが、そもそもだ。チハ車は歩兵直掩用戦車で、設計思想は一次大戦の延長でしかないんだぞ?それが対戦車用の戦車と戦えと言うのは無謀だ。それこそ、ザクでZZに挑むくらいの難易度だぞ」

扶桑陸軍は急激な戦車の要求仕様の飛躍に狼狽えている。43年までの輸送インフラはせいぜい15トンが限界だったのである。ミーナの言う通り、旧砲塔チハでM4を倒せというのは、モビルスーツで言えば、ザクでZZに挑むのと同程度の難易度と例える。そもそも、戦車戦というジャンルの戦闘が模索中の時代なので、戦車駆逐車、砲戦車といったジャンルが成立し得たのだ。

「リベリオンだって、戦車駆逐車なんてジャンルがあるから、M26の配備に手間取ったんだ。火力ならジャクソンでパーシングに並ぶからな。そもそも、パーシングだって、この世界じゃ怪異撃破用に予算が出たんだが…」

「まー、日本の連中は満州、フィリピン、サイパン、沖縄、ペリリューのトラウマがあるからねぇ。でも、この時代に105ミリ砲はオーバーだよなぁ」

日本は島嶼戦のトラウマが根深く、戦車の要求仕様を74式相当にしている。しかし、その性能は地球連邦軍のテコ入れがなければ、当時の技術では不可能である。砲はどうにかなっても、それを懸架できる足回りが扶桑単独ではほぼ不可能に近い。そのため、地球連邦軍が44年からテコ入れし、七式中戦車という名の74式戦車のコピーを造らせている。無論、それを知った陸自は10式の生産工場を扶桑に置きたいと打診している。携帯式対戦車火器の普及も促したいためか、パンツァーファウスト3も大量に輸出するため、間接的にカールスラント装甲師団を『陳腐化』させてしまったのである。この時点では高性能の成形炸薬弾を一兵士に与える発想はウィッチにしか無く、パンツァーファウストもパンツァーシュレックも対怪異用として造られた。パンツァーファウストの後継達を日本が扶桑に大量に供与した事も、日本側が戦車を戦後型に更新を促す理由である。これは後に扶桑陸軍を塹壕戦に引きずり込む理由にもなる。旧型戦車を弾除けに置くこと、数合わせに使う事ができなくなるからだ。これがチト改の開発理由になり、日本側の多数の国会議員が第二次大戦型の戦場をようやく理解する事に繋がる。チトとチリはカタログスペックでだが、M4に比肩していたからだ。ウィッチ世界では、T-34-85は開発されていなかったので、当時の世界水準であった。これはそもそも、戦車にそこまでの性能を求める必要が薄かったし、オラーシャに扶桑やカールスラントに対抗する理由がなかったからだ。そのため、財務省と防衛省背広組は『ウィッチ世界に存在すらしない戦車に怯えていた』失態を晒す事になっていく。また、彼らが史実の兵器更新速度を前提にしていた事は航空兵器や艦艇、陸戦兵器の更新を否応なしに促したため、カールスラントすら容易に追いつけないほどの技術力を扶桑に差をつける事となる。そのため、カールスラントは装甲師団の装備のいきなりの陳腐化(ブリタニアにコンカラー、センチュリオンが出現してしまったのも大きい)に直面し、更に航空機もメッサーシュミットme262のライセンス代ぼったくり問題やペーター・シュトラッサーの復帰工事費の負担が重くのしかかる事になった。日本が21世紀基準でモノを考え、次々に兵器を与えた事は、カールスラントの売りを完全に叩き潰す事になる。

「飛行機じゃさ、数年後にファントムU、戦中にトムキャットとライノにしたいそうだし、メッサーシュミットどころの話じゃないよー。カールスラントの科学者があれこれ試行錯誤してる時に、いきなりファントムUやトムキャット見せたら、心折れかねないね」

「過程を抜かして、いきなり最適解というのも、日本財務省の呆れるところだ。現地メーカーにチャンスを与えんのだからな」

「そりゃ日本はバブル弾けてから、散々、金が無い無い喚いてたし、軍事費より個人の福利厚生のほうが大事って奴だけど、この世界じゃ軍事費に力入れないと領土保全も怪しいからねぇ」

ハルトマンの言う通り、ウィッチ世界では、マジノ線に膨大な軍事費を費やしたガリア、装備の強化に力を入れていたカールスラント、失策で大陸領を浦塩以外、事実上失陥した扶桑がそうであるように、軍事費が優先されている。この時期、扶桑に大陸領奪還を強く望む世論が存在したし、軍内にも精鋭師団の温存を望む声が大きかったが、日本連邦化でその精鋭師団が優先的に投入される現状に不満があるし、航空部門の精鋭部隊の不在を叩かれている。その回答が64の活動再開であり、64の一中隊に新選組を名乗る権利の授与などに繋がる。

「それと、ほら、お武さんが64を活動再開させるけど、47Fが不満あるそうだよ」

「新選組の渾名のことか?」

「そそ」

「仕方ないだろう。調布にいたあいつらより、343空のほうが遥かに有名なんだぞ?」

ウィッチ世界では『高松飛行場』をホームグラウンドにはしておらず、『調布飛行場』にいた事がわかる飛行47戦隊。ウィッチ世界では、47Fは前身の独立中隊として著名であり、元々はテスト部隊の一つで、若き日の黒江が欧州派遣当時に在籍していたことで知られる。しかし、黒江の離籍後に昭和天皇がテスト部隊の活動を縮小する旨の勅を出したため、実戦部隊へ様変わりした経緯がある。欧州から呼び戻され、テスト部隊から防空部隊へ様変わりしたが、前身時代から『新選組』と通称されてきたので、64Fが新選組の名を持つことに反対した。だが、日本向けの宣伝で、『かわせみ部隊』の別名のほうが有名な47Fより、343空の実質的改変でもある新64Fが名乗ったほうが都合が良かった。そのため、64F主力である元343空・301飛行隊の改編が『新選組』の名を持つ事になった。基本的に新生・64Fは旧343空の組織を受け継ぐため、愛称もそのまま地滑り的に名乗る。

「だから、47はお冠だってさ」

「黒江さんも元々は旧64所属だ。仕方あるまい。343空は『紫電改のタカ』で日本側にも知られている。それを活用しない手はないからな」

日本最後の精鋭として知られた343空の名を活用し、確実に予算を確保する。その狙いが源田にはあった。日本は343空と加藤隼戦闘隊のMIXである新生64を優遇するように通達を出していたのが、その措置の証明だ。今回は44戦闘団張りの精鋭部隊になっているため、ひかりの配属は極めて異例であったりする。佐官が当たり前におり、黒江達は将官、しかもそれをも統括する赤松と若松といった最古参特務士官も抱えている部隊。この隊発足の人事発令はA級ウィッチの7割に相当するウィッチを一極集中させるため、クーデターの理由としても利用される。だが、独空軍44戦闘団という例がある事から、日本側は編成を歓迎し、最前線で使い倒す事になる。

「その代わりに最前線だよ?」

「そうだ。たいへんだろうが、これも歴史の流れだ。お前も閣下の指令に従って、今のうちに軍を予備役になったと偽装しろよ、エーリカ。次の戦線では身分を偽装して参加せんとならんからな」

「ガランドにその要望は出してあるよ。ここにいる連中はルーデルの配下になるよ」

「大佐殿の抑え役になれよ?あの方はいけどんタイプだからな」

「本当は非効率なんだけどな、エース部隊」

「仕方あるまい。日本は精鋭部隊が正義だと思ってる。それに各戦線でエースを分散配置しら、各戦線で各個撃破された記録もある。だから、転生した人間の集中管理も兼ねて、一箇所に集めるのさ。連合軍もメタ情報を持つ人間は扱いあぐねるしな」

「ま、異動も無くなって給料は高くなるけど、常に勝利を求められるってのもなぁ」

「それが王者に求められるものだろうな。血潮が燃える限り、フェニックスのように灰の中から蘇る。それがこれからの私達、転生者に求められる事だ」

「巨○の星か!」

「侍ジャイ○ンツのほうがいいか?」

「あれ、原作版は死ぬやん」

妙にマニアックなノリツッコミの二人だが、Gウィッチは言わば、不死鳥のような役目を担わされた存在であるので、常に戦闘の先陣を切ることが期待される。そして大戦果も。それは自覚しているため、二人はどこか自嘲的だ。実際、黒江は飛行機で戦った直後に戦線に戻り、陸戦を戦うという芸当をやってのけているが、黄金聖闘士だから可能な芸当だ。

「さて、これからどうなると思う」

「時たま、お遊びで漫画のキャラになってみるとか?」

「黒江さんがしてるだろ。私は前世の姿になれるようだから、みほの前では使い分けるさ」

「いいの?」

「今は厳密に言えば、『まほとは別の存在』だから、当人がいないところでするさ。黒江さんなんて、のび太くんの両親がいないところで『新世紀エ○ァンゲリオン』の綾波レイのプラグスーツ姿になってみた事があるそうだ。ネタで受けるらしいぞ、コスプレ扱いで」

「まー、あーやってさ。そういうの好きだしねぇ。まー、調のシンフォギア姿もコスプレに取られるけどさ」

黒江は自衛官としての仕事もしている分、地味にストレス溜まるようで、漫画のキャラの容姿になる事も多いことが第三者に明言されるが、最近は慣れている調の容姿を通しているのも事実だ。のび太達は黒江にとって、清涼剤のような役目も果たしていると言える。

「慣れているとか言っていたな」

「うん。成り代わってたからとかで。それに修行にもなるからって、調にもシンフォギア姿で生活するように言ってるんだよな」

調は心象変化をさせない通常のシンフォギアで普段の生活を送る送ることで、小宇宙の制御を覚え、黒江から受け継いだ才能を完全なに自家薬籠中の物にした。野比家で調が基本的にシンフォギア姿でいるのは、のび太との絆の証と見ているのだろう。

「ISをあの家で展開しても邪魔だしな」

「それは言える。前にセシリア・オルコットのISの派生タイプをまるごとコピーしてみたけど、室内じゃ派生タイプの方がコンパクトで楽とか言ってたけど、嵩張るしなぁ」

黒江は前史での記憶から、ブルー・ティアーズをコピーして、今回、稼働テストしてみた事があると語られる。ブルー・ティアーズは小型化しないと嵩張るため、地上戦では装備を変えないと難しいと言う。そもそもISは地上戦をあまり想定していないため、束もモビルスーツなどの論理で装甲部の小型化を考えついた真田志郎に舌を巻いた。束が他人に関心するのは、織斑姉弟、実妹を除けば、真田志郎が初である。最も、レヴィ(圭子)が脅したところ、織斑兄弟は所謂、コーディネーターに分類される人間で、両親たるべき存在は正確には不明である事などを明かした。また、箒には束が構築した世界で『王になるべき』能力が備わっていた事も。黄金聖闘士になれたのは、自己の能力を知らず知らずに聖闘士になれるレベルに強化していたからだと説明した。流石の束も、自分と同等以上の能力を持つ圭子が人格を変えた状態で迫れば、流石に話す気になったのである。

「箒のやつ、あのマッドサイエンティスト姉の妹だから、姉が作った世界で王者になれる能力を素で備えていたらしーんだよな。なんとも痛々しいが、他の世界じゃ、法則も違うから、その能力は自己の能力の強化程度にしか役に立たないそうだ。黄金聖闘士になれたのは、自覚がないブーストもあったんだろうな」

「あの姉にして、あの妹ありだな。で、赤椿は?」

「本来は別の姿だったそうだよ。第零世代機とも言うべきかな?で、織斑くんに破壊してもらう役目を本来は持っていたらしいけど、聖闘士化して、本来辿るはずの運命が変わったことで『浄化』されて『進化』したからね」

赤椿の真の名は『赤月』。第零世代機でありつつも、赤椿と同様の姿であり、他のISを制御し、弱体化する裏コードを持っていた事、箒が黄金聖闘士を担ったことで箒の存在が多くのベースラインとなる世界から分岐したことで、赤椿も平行世界と別の存在に進化した。それが聖衣とIS、双方の側面を持つ『赤椿・翼』である。姉の支配から逃れるための心象の反映と、聖闘士になった使命感と、仁義に溢れていた『射手座のアイオロス』への憧れがあったのか、射手座の聖衣を模した翼を持ち、なおかつセブンセンシズを使う時の箒の挙動に耐えられる『聖衣と鋼鉄聖衣の中間』とも言うべき存在となった。ハルトマンはそれを浄化と表現した。


「やれやれ。これもマッドサイエンティスト篠ノ之束氏の想定内か?」

「予想外だよ。流石に。聖闘士って存在も、オリンポス十二神もね。だから、箒に逆に脅されて、今は双子座候補だよ」

「やれやれ。聖闘士の力でようやく縛れるとはな。あの御仁は厄介な兎だ」

「下手な英霊はねじ伏せられるって豪語してるくらいの人間だよ。アストルフォくらいじゃ抑えられない。モードレッドでも難しいね、素で聖闘士級だしな、あの兎ヤロー」

束の力はその気になれば、自分が変えた世界を破滅させられるし、単純な身体スペックも、白銀聖闘士に匹敵しうる。そのため、英霊達すらも、下位の英霊では止められない存在とハルトマンは断言する。

「それは恐ろしいな」

「あの世界最高の人類だそうだし。レヴィが自分を抑え込んだ事に困惑して、泣きそうになってたそうだから、よほど抑え込まれた事が怖かったんだろうよ」

「あの人が本気になってようやく、か。織斑千冬が抑止力として機能していた理由が分かったよ。」

「身体スペックはあの兎博士は飛び抜けてる。ガンダムファイターになれるくらい頑丈で、聖闘士でも、大半の青銅くらいは素で倒せる。だから、本気にならないと抑えられないらしい」

「おお……だから、監視に黄金聖闘士級を張り付かせているのか」

「そうでないと脱走する危険があるからね」

束は身体スペックは飛び抜けているが、当然ながら人智を超えるセブンセンシズを持つ人間には及ばない。そのため、レイブンズは束の監視を先代黄金聖闘士達に頼んでいるのだ。束はトレーニングというものに無縁であったとされるため、そこが付け入るべき隙である。黄金聖闘士級の人間を監視につかせれば、束と言えど、脱走は物理的に不可能だ。

「……あの博士、腹黒いからな。聖闘士を越えようとして、自分が聖闘士になろうとすることはないのか?」

「そこは猛獣の要領で教えるしかないでしょ。いざとなれば、箒に脅してもらうさ」


ハルトマンは楽天家を装った現実主義者らしき側面を見せた。束を如何にして抑えこみ、制御するか。織斑千冬の協力もさる事ながら、黄金聖闘士の能力を絶対に必要とする事。その辺りはドライに判断している。箒も自分が姉の影響から逃れられたと自覚しており、なおかつ、感応したアイオロスの姿をアイオリア並に追っている節も見受けられる。ハルトマンは転生した故に持つ『成熟し、楽天家を装いつつ、その実は現実主義者になった』姿を、ミーナはまほとしての冷静な視線と西住流に求められる高い判断力を以て、篠ノ之束を分析し、なおかつ、自分達に課せられた戦いの宿命を悟る。『自分達は不死鳥のように蘇り、先陣を切る』と。つかの間の雑談は『織斑姉弟、篠ノ之姉妹の存在の根源、IS世界での箒に秘められた能力と赤椿の真の姿』に触れていく。箒はシンフォギア世界のマリア・カデンツァヴナ・イヴと共通の魂魄を持つ存在でありつつ、IS世界で王になり得る能力を持っていた。箒は『姉、篠ノ之束』の妹という『殻』を打ち破りたいがために、黒江が持ち込んだシンフォギア『アガートラーム』を手にし、マリア・カデンツァヴナ・イヴと似た凛々しさを持った。そして、前史で感応した『射手座のアイオロス』の背中を追っている。それら事実に触れるハルトマン。織斑姉弟が俗に言うコーディネーター(遺伝子操作されし人間である。言わば、人工的に遺伝子を操作して生み出された人造人間とも言える)であった事は圭子も驚きであった。その兄弟達の犠牲の果てに生み出された存在にあっさりと自然に生まれし存在が並んでしまう。才能を努力が凌駕する事はよくあるが、この場合はスーパーコーディネーターのキラ・ヤマトをMSで圧倒したラウ・ル・クルーゼの例に似ている。才能や血筋は必ずしも、その人物の成功を約束しない。アルトリア・ペンドラゴンが才覚に溢れながら、円卓の騎士たちが手前勝手に動くのを統制できなかったし、その興味がなかった結果、『承認欲求が暴走しした息子に叛乱された』事がそれを証明している。はたまた、ノーブルウィッチーズが死産に終わり、前史から引き継いだ才能に溺れず、なおも研鑽を続けるレイブンズが押しも押されもせぬ英雄に上り詰めてゆくことでも。また、箒は魂魄で結ばれた『姉妹』と言える、マリア・カデンツァヴナ・イヴを意識しつつ、アイオロスの背中を追う事になるのである…。



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