外伝その208『つかの間の行間3』


――黒江はキャラ崩しをするのがお約束になっていたので、キャラに扮する必要がない局面では、変身していても地を出していた。綾波レイの容姿を取っていても同様である。いつもの江戸弁は健在であったため、そこも黒江らしいと言えば、らしかった。ダイ・アナザー・デイの作戦予定日が通達された段階では2018年にいた黒江。この時期にはコスプレが大衆化してきていたため、黒のプラグスーツ姿と綾波レイの容姿で普通に買い出しに出れるようになっていた。(白だとフライトジャケットで隠していても目立つので、黒に変えた)。

「黒江さん、最近は綾波レイの姿を使うこと増えてません?」

「アニメスタッフを煽っていくスタイルだよ。第三作から何年待ってると思ってんだ」

「何年でしたっけ」

「『Q』から7年以上だ。これじゃ士の奴の映画のほうがマシだぜ」

「そう言えば、オールライダー対ショッカーの後のMOVIE大戦に文句言ってましたね」

「だってよー」

のび太は当時には29歳。一児の父であった。ノビスケも4歳とやんちゃざかりであり、黒江は幼いノビスケが幼稚園に行っている内に、こうした会話を行う。黒江は2018年では統括官であるので、基地に通勤する事が減った。統括官になったためと、日本連邦樹立で書類仕事が楽になったため、一週間の内、三日は休めるほど楽になっていたのだ。黒江は、映画は生まれた時代的に見に行く派だが、この時代は1800円も取られるので、ホームシアターで見ることも多い。再開発で名画座が減ってしまった事もあり、スネ夫にホームシアターを設置させたのである。また、Vマシーンに乗るため、わざわざ『あの胸にもういちど』(マリ○ンヌ・フェイスフル出演)を参考映像として見るほど、映画を見ている。そのため、のび太がこの時期には私室に置いているDVDラックには、のび太ご執心のマカロニ・ウエスタンドル箱三部作や『ウエスタン』、名作『勇気ある追跡』、『捜索者』、『駅馬車』、『リオ・ブラボー』などの西部劇、黒江ご執心の昭和仮面ライダーのDVD、自分たち(のび太たち自身)の映画などが並んでいた。のび太たち自身の映画は普通にアニメとして存在しているため、それを自分でネタにして楽しむなど、意外にメタ的なところも多い。ただし、のび太たち自身の経験した冒険はアニメで言うところの10数作までであることは述べているので、のび太たち自身の冒険の経験と記憶そのものは十数回ほどであることが分かる。ただし、実戦を潜り抜けた事は本当で、鉄人兵団との最初の戦いなど、硫黄島かペリリューに立てこもる日本陸軍さながらの孤軍奮闘を経験している。また、ピリカ星のレジスタンスに協力し、危うく銃殺されかかったりしてもいるので、場慣れしている。また、船乗りシンドバッドの冒険が本当にあった事も確認している。彼が7回目の航海を終えて隠居した時代が790年代なので、イスラム世界が絶頂の時代を目にした生き証人である。

「でもさ、お前、会ったとか言う船乗りシンドバッドはいくつくらいだったんだ?」

「えーと、794年でもう白髪のおじいさんだったから、活躍していた時代はもう数十年前になリますね」

「と、なると60代くらいかぁ。でもよ、お前、ハールーン・アッ=ラシード王に謁見したんだろ?歴史家が聞いたら、よだれたらして、羨ましがるぞ?」

「いい王って感じでしたよ。王にしては善良で正義漢でしたし」

ハールーン・アッ=ラシード。アッバース朝絶頂の頃のカリフであり、のび太がいうように、彼の治世でアッバース朝はこの世の春を謳歌したとされ、同じ時期に絶頂を迎えた唐と対峙する世界帝国であった。首都のバグダッドもある意味では文化的に華やかな時代で、790年代では世界第一の都であったし、国際色豊かであった。当時の日本の都『平安京』の人口が20万であったのに比して圧倒的である。のび太はその賑わいを見た生き証人で、歴史家が聞いたら興奮間違いなしだ。

「映画でもあったけど、砂漠で死にかけましたからね、僕。熱射病にかかって」

「ドラえもんがポケット盗られちゃなぁ。ただの中古ロボだし」

「で、シンドバッドの剣さばきは見れたし、美味しい食事にありつけたし、最高でしたよ。あれで、カミさんが僕を見直してですね」

「あいつ、その時に奴隷商人に買われてえらい目にあったからか、活動的なんだよな」

しずかは790年代の奴隷の待遇を身を以て味わったので、大人になると活動的になった。メンバーの紅一点として、人質になる事も多かったので、そのあたりは断固たる態度を見せるべき、というのがしずかの意見だ。

「僕がノンビリしてる分、カミさんがシャキシャキしてるのはちょうど良いんですよ。倅はカミさんに似たし」

「しっかし、お前。ドラえもんが壊れたのが二回、恐竜ハンターに狙われて、宇宙でスーパーマン扱いと、波乱万丈だよなぁ」

「傍観者に徹したのが一回、キー坊にどうにかしてもらったのが一回、アニマル惑星でニムゲと戦って、ギガゾンビ、牛魔王、竜の騎士…」

「子育ても普段から居ない事が多い僕が甘やかして、カミさんが先に叱るって分担でいじけて育たない様にしてるけど、カミさんに嫌われ役押し付けてるみたいで申し訳ないんだよなぁ…」

「お前も両親がそうだったろ」

「のびるおじいさんの代からですよ」

のび太の祖父『のびる』は思春期に入る頃に太平洋戦争終戦を迎えた世代だからか、野比家には珍しく厳格な人物であり、彼は野比家共通の子煩悩の所を表に出さず、妻に代行させた唯一無二のケースだ。玉子は競争社会では義母のやり方では無理だというし、のび太少年期は厳格に育てていた。無理があるのでは、とする自覚はあったらしく、要所要所で優しい母親の顔を見せるが、普段の時におけるそういった『優しさ』はドラえもんや黒江達に代行させていた節があり、黒江達もそれに感づいていたので、それをしていたが。

「おじいさんの代は逆だろ?」

「ええ。おばあちゃんが優しいから。おじいさんは優しい所をおばあちゃんに代行させていました。で、ばあちゃんが死んだ後は親父が優しさを引き受けたんですけど、親も人間ですからね」

「12歳くらいの頃だったっけ?あれ」

「ええ。僕が生まれた日を見に行って、調ちゃんと菅野大尉が親父とおふくろに抗議してくれたのは、今でも感謝してます」

「しかし、そのお前が今年で30かぁ。ほんと、世の中、変わったよ。99年ん時は、ガラケーが最新電気機器って感じだったしな」

「その格好で出歩けるようになりましたしね」

「まーな。フライトジャケットを羽織れば、コスプレOff大会にいく途中って言い訳が言えるようになったから、2007年頃に比べりゃ楽だよ。」

「この半径10キロ圏内は白のプラグスーツで出歩いても大丈夫ですよ」

「マジィ!?そうか、ドラえもんのおかげだ、いやったー!」

黒江はダイ・アナザー・デイ直前の時期、小遣い稼ぎでハルトマンと結託していたので、綾波レイの容姿とプラグスーツを使う事も多かった。2010年代に入り、コスプレが大衆化した事でハードルが下がり、この後はノビスケのために、調との見分けをつける目的もあって、時と場合で様々な容姿を『七変化』ということで用いていくことになる。

「エーリカさんと組んでの小遣い稼ぎですけど、僕の同僚にも流せません?防衛省から聞きつけた連中が群がってですね」

「物販を作戦のどさくさ紛れにやるから、その時に売っておくさ。しかし、キャラ崩ししてんのに、よく売れるよな」

「無機質で無口ってのは、あれ以来、巷に氾濫しちゃってますからね。その元祖と言えるキャラが設定上ありえない事をやるってのがミソなんですよ」

「わざとだらけたり、くつろいでる光景を多めにしてるけど、いいのか?」

「それがいいそうですよ。そこが胸キュンだとか、萌えだとか、『ムハー』なポイントらしくて」

「これぞ、アニメ文化バンザイって奴だな。この時期には、美琴と上条さんのおかげで学園都市も大人しくなったし、この姿で10キロ圏内は出歩けるようになったってことか。さて、プラグスーツのデザインを白に戻すか」

ジャケットの下のスーツの色を変える黒江。空中元素固定はGウィッチの能力であるが、イメージソースになるものは、かのキューティーハニーだろう。未来にはデビルマン=不動明がTVアニメ+原作のエッセンス持ちで存在している事を考えれば、彼女も『造られた』(キューティーハニーはアンドロイドである)というのが自然だろう。ただし、キューティーハニーのものと違い、複雑な物体を作るには、目当ての物の構造を把握している必要があるという制約がある。黒江は元々、機械好きであった事もあって、機体の製造も想いのままだが、智子は黒江ほど機械には詳しくないので、変身と武器の生成に留まっているなどの個人差がある。変身は覚醒しているGウィッチであれば、誰でも可能になることであるので、Gウィッチはこの能力を活用して、別人としての身分を得られている。黒江はそれを一番使用し、熟練していると言って良いため、日本で2010年代からは『扶桑のキューティーハニー』と渾名されている。黒江は基本的に素の姿、調の容姿、箒の容姿を主にしつつ、そこに任意の容姿を使う順に加えるため、2007年以降は綾波レイの容姿を遊び用として加えるなど、遊び心もたっぷりである。

「でも、遊び心ありますよね。前にIS学園に行った時は箒さんの外見と声使ったでしょ?」

「ああ、あれか。あん時は箒が直前にインフルエンザで高熱出して寝込んで、仕方ねぇからそのまま代わってやったのさ。今回は千冬にはいきなりバレたけど。曰く、歩き方と立ち姿が違うってさ。んで、いざって時のためにアガートラームを持ち込んでおいたから、進化した赤椿の調査と調整を依頼していた時に敵の襲来があったから使った。当然、正体はバレたけど、無双してやったから、セシリアと鈴に、思いっきり文句言われたぜ」

「聖衣には劣るけど、一応は聖遺物の力を媒介にしてますからね。黒江さんなら無人ISなんて、赤子の手を捻るようでしょう」

「いや、虫を潰すのに近かった。アクセルフォームの加速を使えば、軽くなぎ倒せたしな」

「ISで視認できます?あれ」

「一応、元々は宇宙開発用ってなってたから、視認できたらしい。反応して動けるのとは別だけどな。その後の赤椿の受領の時に、ケイが箒のねーちんを脅して吐かせた。あの中二病坊主と千冬はコズミック・イラのキラ・ヤマトによく似た生まれ方のコーディネーターだったわ」

「ああ、コズミック・イラ世界にいる遺伝子操作された人間」

「ああ。千冬はその中でも、『数多の兄弟の犠牲の果てに生み出された成功体って奴だった。坊主はその対になり、なおかつ量産試作の男性体として生み出された個体で、遺伝子的には同一に近い存在。ったく、中二病臭いのは生まれもだったから、乾いた笑いが出たぜ」

スーパーコーディネイター。遺伝子操作で以て、最高の人間を作ろうとする試みはIS世界では、織斑姉弟という結果で存在が判明した。黒江達はキラ・ヤマトの存在を知っているので、コーディネーターという単語を使用し、それがIS世界でも定着した。千冬は当然ながら、理論上は並び立つ者はいないはずが、天然でそれに匹敵する篠ノ之束が確認されたので、計画が放棄されたという。それが織斑姉弟のポテンシャルの高さの証明であったが、キラ・ヤマトがそうであるように、素養はあっても、それを開花できるかは本人次第で、亡国機業にいる織斑マドカという人物は、千冬の製造ラインで予備個体として生まれた『妹』だ。彼女の戦闘能力は高いが、千冬には及ばないし、篠ノ之束には相手にもされていない。その束も『現在』は人智を超えし先代黄金聖闘士達がかわりばんこで監視している。束は両親からでも味わったことのない初めての『精神的屈伏』を根本的に人を超えた聖闘士により、これ以上なく味わってしまったため、その行動の方向性が否応なしに矯正されていくことになる。念の為(光速に対応できる新型機で叛乱されると、鎮圧が面倒くさいので、束が如何な手段を講じても、それを真正面からねじ伏せられる力が必要になった)に、乙女座のシャカや双子座のサガなどの強者が監視についている。


「ゼウスのおっちゃんに頼んで、シャカやサガを監視要員に送り込んでもらった。彼らなら、あの兎野郎がどんな手段を講じようと、真正面からねじ伏せられるからな」

「宇宙を創造できたり、銀河破壊できるのが監視についてるんなら、叛乱考えませんよ。シャカに六道輪廻されたら、死にたくなりますよ、普通」

「サガは『人の物差しなど聖闘士には通用せぬ、人から聖闘士には努力次第で成れるが人として折れる事を知ってからの話だ』とか決めて、あいつの動きを三日くらい封じてたからなー。あいつの便とか尿意がどうなったかは察してくれ」

黒江は一度、篠ノ之束が脱走を目論み、騒ぎを起こしたが、ゼウスの送り込んだ『乙女座のシャカ』や『双子座のサガ』の神の如き力の前に屈伏した事を束の名誉のため、どんな様子だったかは明言を避けつつも語った。のび太が言うように、彼らは黒江達が転生を重ね、黄金聖闘士として同じ立場になることでようやく並び称される事が許されるほどの存在である。その力はジャンヌ・ダルクの宝具である『我が神はここにありて』すらも更にねじ伏せるものである。シャカは実際に、ジャンヌ・ダルクに仏教の『輪廻転生』を説き、英霊としての自らに縛られずに『新たな生を見い出せ』と促した。ジャンヌはその言葉の意味を見出し、黄泉返りの素体になった人物『ルナマリア・ホーク』と最終的に混じり合うことで新たなアイデンティティを持った。生前と違って、『かなりはっちゃけつつ、現代っ子』な面が強いのはルナマリアが持っていた現代っ子な側面の反映であり、ほぼ生前そのままの性格のアルトリア・ペンドラゴンと異なるところだ。生前と違い、『軍人』として、高度な諸々の知識を持つが、戦略については、生前同様にダメダメなのは変わりない。これは一国の王であったアルトリアと違い、ルナマリアとしても『一軍人』でしかなかったためだ。ダイ・アナザー・デイのヒーロー達との戦略会議はアルトリアが英霊代表で出ているのも、アストルフォはおバカキャラ、モードレッドは性格的に自分で行動してしまうので、体の持ち主であるペリーヌと合わない点があるからである。


「うん、なんとなく」

「だろ?あ、英霊の現界はゼウスのおっちゃんの仕込みだが、アルトリアは『ハインリーケが肉体を渡す』って言うから、今度の旅行が最後の思い出だな」

「英霊の依代になりますからね。あ、子供の僕に宜しく言っといてください」

「おう。お前は子供のお前自身とバトンタッチで参戦予定だろ?」

「ええ。連絡は受けてます。あの時は不完全燃焼だったから、今回で見せますよ、Mr.東郷も認める僕の実力を」

のび太は微笑う。青年期を迎え、子持ちになったものの、肉体・精神ポテンシャルがまさに絶頂であるので、戦闘力の観点から言えば、青年時代が最も高いと言える。壮年期以降は『刑事コロ○ボ』のような老獪さと口八丁、計算高さを見せるようになるので、青年期は『ロ○ャー・ムーアのスレスレに命のやり取りをする、ショーン・コ○リーのボンド』ともされ、のび太の生涯では『最も戦闘的な』時代である。のび太はタイムマシンに乗っていたために、肉体の加齢に変化が生じ、最終的に老化が遅い体質になったので、青年期が長い。彼の肉体年齢は戸籍上の年齢よりかなり若い。2010年代終わりに30代に入っても、10代後半から20代前半期のポテンシャルを維持できている事がその証明であった。










――のび太が30代を迎えようとしていた2010年代末の頃は日本が『日本連邦』時代を迎え、日本の軍事的復権が他国の意思も絡んで、否応なしに行われた時代であった。平和国家を国是にしてきた戦後の人間達はこの扶桑皇国との連合に伴う『変革』を受け入れる層、ウィッチ世界を混乱に陥れてでも、自国のアイデンティティを守ろうとする層、扶桑の歴史を尊重しつつ、自国の路線を堅持しようとした層などに世論は分かれた。そのうちのウィッチ世界を自分たちの望む方向へ変えようとした層の人間達が一旗揚げようとしてオラーシャに共産主義革命をもたらし、オラーシャ帝国の四肢を引き裂く事となった。また、共産主義や民主主義の名の下に『平等主義』を掲げ、『ノブリス・オブリージュ』を否定したことで、ノーブルウィッチーズの消滅などの政治的混乱が引き起こされたし、華族制度も揺らいだ。だが、日本の記録にある『過去の華族制度』とは異なり、欧州式の『高い社会的地位にある者はそれなりの責任を置い、民衆の範たるベし』という考えの下、『嫡子は男女問わず、一度は軍役に就く事』という暗黙のルールがあり、それを指摘することでどうにか生き永らえた。魔力の素養がない『黒田風香』が父親から疎んじられたのもその暗黙のルールに発端があった。それについては、邦佳が代わりに軍役についていたので、周囲からお咎めはなかった。しかし、世間体を気にした父親が疎んじたので、それに激怒した現当主が邦佳への当主継承を廃嫡と同時に、天皇陛下の介入を大義名分にして強引に行おうとしている。これはウィッチ世界では上手く機能している『華族制度』への日本の政治的介入を懸念した昭和天皇の意思でもあり、邦佳は結局、黒田侯爵家当主の座を継承する事になり、転生で得た財テクを駆使し、黒田家を回すことになった。これはその一例だが、扶桑は日本との連合でかなりの介入を受けたのは事実だ。警察は組織形態と管理部署の時代的違い(内務省と警察庁の差)をいっぺんに克服できず、この時期は連絡組織の設置に留まっていた。海保は扶桑軍と相互補完的組織であった海援隊を敵視した挙句の果てに予算を減らされ、巡視船の更新に悩む日々であった。軍隊は懸念された条項であったため、日本の人々の『旧軍と自衛隊の呉越同舟』の揶揄とは裏腹に、最初に最も統合された部署であった。日本で自衛隊が合憲化されたのを皮切りに統合が進み、『日本連邦軍初代司令長官』には自衛隊統合幕僚長が充てられている。陸海空軍を有し、海軍力のシンボルが近代化されし戦艦大和であるという双方のミックス的な状況だ――








――その戦艦大和は大まかな構造物配置しかその原型が残っておらず、老朽化が進んだ晩年のアイオワ級戦艦がおもちゃに見えるほどの近代化が施され、21世紀でも通用する艦艇になっている。更に、戦艦らしい生存性を未だに有する事が示されたことで、21世紀には高額化しきっていた空母機動部隊、また、政治的要因で使用が難しい原子力潜水艦より相対的に安価になっていたため、オートメーション化が進めば、大艦巨砲主義は生き返るとした認識を持った各国は、識者の提唱をよそに、大艦巨砲主義を事実上蘇らせてゆく。『日本が戦艦大和とその発展型を持つのなら、政治的に使えない核兵器よりも、高額な空母機動部隊よりも、原子力潜水艦よりも直接的な抑止力を持つべし』とする世論が煽られ、その風潮が世界各国に生じ、戦艦を『日本への抑止力』と言わんばかりに貸与という手段で持つ国が多く出現する。アメリカ以外には自前で用意できるノウハウが無くなっていたからである。日本とて、扶桑との連合で得たので、自前で用意してはいない。しかし、核兵器を持てない日本では、戦艦は原子力潜水艦や自前の空母に代わり得る存在と見做されたため、戦前同様に艦隊単位で維持している。その数は2018年/1945年時点で二桁であり、戦艦という存在が消え去った時代では、紛れもなく世界最大にして唯一無二の規模であった。ただし、この数は紀伊型戦艦、加賀型戦艦などの旧型を含めたもので、額面ほどの脅威ではない。ただし、質は史実では完成は愚か、起工すらされずに終わった超大和型戦艦が含まれているので、戦艦の歴史上最高の質である。特に播磨型の51cm砲、三笠型の56cm砲は日本すら驚愕の口径を誇り、56cm砲は改装前の大和型戦艦に使われし410ミリVT装甲板を距離30000の距離ながら、一発で撃ち抜く。この脅威は各国海軍を震え上がらせ、アメリカが新・モンタナ級戦艦の整備に躍起になったり、原子力空母に施した直接防御を強化するのを皮切りに、ウィッチ世界に同位国があり、戦艦を持つ国から乗員ごと貸与を受ける行為が多くなる。そのきっかけが日本自身が『大艦巨砲主義の極致にして、時代の徒花』と嘲笑していたはずの『大和型戦艦』とその後継者であるのを指して、米国の軍事アナリスト達は『日本が自ら否定しつつも執着した大艦巨砲主義は21世紀の現在、空母機動部隊の高額化を要因に、今や完全に甦った』と、日本連合艦隊の復活に慄いたし、大艦巨砲主義の黄泉返りと評した。新戦艦世代になる大和型戦艦とその一族達が徹底した近代化のおかげで、30ノット台を常に出せる速力を出せると言うことは、晩年のアイオワ級戦艦が老朽化で30ノット程度しか発揮できなくなっていた事を勘案すると、それを上回り、現代艦艇として通用する水準であることは確実である。これは皮肉にも、『連合艦隊旗艦は戦線の先頭に立つべき』とする日本人の一般人が『旗艦』に持つ時代錯誤な思考と合致しており、ダイ・アナザー・デイで三笠型が戦闘で戦果を挙げる事が求められる根源であった。そのため、21世紀世界の海軍関係者の全てが、『映像や本の中の伝説』となった、造船技術の粋を集めた主力艦が勝負し合う『古典的海戦』の戦場に注目することになる。それにブリタニアが満を持して送り込む新戦艦がちょっとした話題であった。英国などから得た技術で新戦艦の艦首をウェーブ・ピアサー型にしてしまった事が各国で物笑いの種になったので、大和型戦艦の発展型なので、オーソドックスな形状の播磨型が『堅実』とされる一幕もあった。ブリタニアは高速と航続距離の両立を図るのと、正面砲戦を重視したため、試験的に新戦艦をウェーブ・ピアサー型の艦首にした。クイーンエリザベスU級の少なくとも一隻の艦首はかつての衝角のように大きく突き出ている形状のため、クイーンエリザベスUは『試験艦』としての側面があると言えよう。クイーンエリザベスUは一隻が空母に転用されたので、戦艦としては三隻の建造に留まった。その内の一つがその艦容であるため、ブリタニア連邦は『珍兵器を生み出した』と物笑いの種にされた。駅に置いてあるスポーツ紙に『ブリタニアはなぜ、国運をかけた軍艦を珍奇な外観にしたか?』と書かれるほどだ。英国系国家は時たま『紳士の発想』なるもので珍兵器を大真面目に作ってしまうので、その一つと見なされたのだ。戦艦は保守的な船体設計の多い英国系にしては冒険していたので、物笑いの種にされたのだ。最も、ヴァンガードのようなリサイクルが最後の戦艦となった英国よりはマシである。完全新規なぶん。ブリタニアでこれであるので、鉱物資源が減っていたガリアは旧式艦を資材にする提案が出されていた。既に美術品の多くが自衛隊に回収され、日本で修復されていた上、各地に散らばるガリア海軍の艦艇は年式がバラバラである上、怪異による鉄の採集を恐れ、自沈させた艦も複数あったので、新式に入れ替えると、今のガリアではその費用が賄えない。そのため、現有艦の復帰に血道を挙げるガリアだが、皮肉にも1947年からの太平洋戦争が扶桑との海軍力差を決定的に隔絶したものへ変えてしまう。当時のガリア最新最強の『1935年型 正38cm(45口径)砲』も、23世紀最新技術で造られた波動カートリッジ弾使用可能なショックカノン砲塔に比すれば、旧態依然としたものでしかない。ガリアは国力消耗で戦艦の研究が事実上止まったのが仇になり、超大和型戦艦すら現れる『ネオ・大艦巨砲主義』時代に乗ることがままならなかったが、当時、活動中のリシュリュー級戦艦をフランスへ貸与することで外貨を稼ぐ。しかし、リシュリュー級は前大和型戦艦であり、性能的に見劣りするのは否めなかった。それがフランスの財政援助でアルザス級の残された艦体を完成させることに繋がるが、ペリーヌを中心にした反対勢力が復興を最優先させたことで工程が伸びに伸び、太平洋戦争後の『アルジェリア戦争』などには間に合わず、また、間に合ったとしても『超大和型戦艦には無力であろう』と評される。『遅れてきた新戦艦』と評され、投入されたとしても、仮想敵国は遥かに格上の戦艦を以て圧倒できる。それがガリアの屈辱感に繋がり、ド・ゴールの制御も彼の老いと共に効力が薄れ、次第に受け付けなくなる。英霊であるジャンヌ・ダルクによる制止がかかるまで、ガリアは軍事的に明後日の方向に突っ走ることになる。










――ダイ・アナザー・デイを境に示されし、他国に比しての扶桑の圧倒的海軍力は日本による21世紀式艦艇や23世紀式艦艇への入れ替えと近代化が要因であり、その代価が『史実アメリカ海軍の役目を演ずる』事であるのはいうまでもないが、肝心要の空母機動部隊の形骸化を隠すためもあり、空軍の精鋭部隊は空母機動部隊の運用時に動員されるという暗黙の了解が生じ、空軍の育成カリキュラムに『洋上飛行』が入るなど、空軍部隊の艦上運用は公然と行われていく。これは日本側の事務処理ミスと『航空は一元管理』とする思惑が絡んでのことで、結局、空自がタッチアンドゴー訓練をせざるを得なくなる事態が招来する事を恐れた航空幕僚長などの提言で空母航空団そのものは維持された。だが、ジェット化に伴う一からの再訓練、空母への発着艦訓練、それらが可能と見做される人員の安定供給の是非で日本側が懸念したため、大戦後期まで空母航空団の投入は見送られてしまう。それに伴う64の最前線行きも当然であり、本格活動前に離隊した志賀に強い罪悪感を植えつけた。志賀は横須賀航空隊へ異動したが、空軍設立とクーデターへの隊の同調、日本によるウィッチの粛清人事を目の当たりにし、自らの海軍軍人としての信念に疑念が生じてゆき、彼女を退役後に傭兵へと駆り立てていく。扶桑の変革の歪みを一身に引き受けた形の彼女はある意味では、『変革を受け入れ切れなかった』ウィッチの代名詞だろう。こうした例はレイブンズが第一次現役時代の末期に新兵から中堅世代を迎えた年代の海軍ウィッチに多く見られ、この世代のウィッチは両極端な道を歩み、軍のみならず、連邦そのものを牛耳るフィクサーへの道を歩むもの、軍を去りつつも傭兵として戦い、最終的に傭兵として名を馳せた者とに分かれていく。それも日本連邦の誕生が齎した結果であり、撃墜王文化を部内で奨励しなかった海軍のツケとも言える。






――2018年の野比家でそれらの新聞記事を読む黒江。黒江はハルトマンが時間的にブロマイドとピンナップの撮影に来るらしく、フライトジャケットを脱いで、白のプラグスーツ姿で待機している。そこはきっちり小遣い稼ぎをするところだ。黒江が新聞を読んでいると、のび太の机の引き出しが開き、ハルトマンがカメラを持ってやってきた。この時代のカメラであるが、圭子が選んだらしく、本格的なものだ。


「おーい、あーや。今日も撮りに来たよ〜」

「手短に済ませてくれよ?ノビスケの幼稚園がもうじき終わるから、調を迎えに行かせたところだ」

「今日はピンナップが4枚とブロマイドが5枚。みんな空自からの注文だよ」

「あの愚連隊連中か?」

「うん」

「あいつら、意外な感じだな…」

黒江の知り合いが頼んだ注文の処理らしい。内容は『綾波レイが派生作品でないとやらななさそうな事と、スーツ姿でのくつろぎ』で、黒江達の小遣い稼ぎとしてはかなり上質なのが分かる。のび太が万能舞台装置で背景を用意し、ピンナップを取ったり、お好みの想定場面でのくつろぎを題材にした写真が手短に撮影されていく。ハルトマンは圭子から写真のイロハを教わり、小遣い稼ぎに使用している。バルクホルンは気質的に誘えなかったので、ハルトマンになったのだが、JG52疑惑で鬱憤が溜まっていたハルトマンは願ったり叶ったりと言わんばかりに乗っかった。圭子、黒江と組み、こうした小遣い稼ぎを行なっていたのはそういうわけだ。

「これでよしっと。あーや、注文主に4日位で送るってメールだしといて」

「OK!」

「こいつからだろ、日本で無機質・無口系流行ったの?」

「ええ。綾波系って言葉がいつしか生まれましたからね。エポックメイキングだったんですよ。ただ、氾濫してる感は最近あるから、派生作品とかでキャラを変化させてきてますが」

のび太は世代的に90年代半ばからのアニメヒロインの系譜を見ているので、そこは批評してみせる。実際、黒江の目指す『キャラ崩し』は上手く行っており、自衛隊でかなり高値で高官らに至るまで取引されている。黒江は意図的に無機質系キャラを確立させた綾波レイの類型を壊す方向性を取っており、未来世界で言うところのタカヤ・ノリコのような熱血系の表情を撮らせている。地下から持ってきたモスピーダに跨る、プラグスーツの上から自衛隊のフライトジャケットを羽織るなど、黒江好みの方向性のショット揃いである。また、のび太とのゲームプレイ動画を配信するなど、『2018年のネットライフ』を愉しむ。青年のび太の意外な一面だが、父親が麻雀を趣味にしていたので、その面が引き継がれたとも言える。そのため、黒江の綾波レイ姿は主に私的な用途で使用されるといっていいものであるが、広報の要請で仕事で使った事もあり、その際のポスターは高値で取引されたとか。黒江は成り代わり時以外は容姿の変更を任意に行えるため、七変化の女とも評判が立つ。モモレンジャーから脈々と受け継がれる七変化の遺伝子の後継者ともされ、地味に変身ヒロイン扱いになっていく。ノリがいい気質でありつつも、意外にピュアでシャイな性格であるのも事実だが、理解されればとっつき易いが、そうでなければ経歴で敬遠されるため、ダイ・アナザー・デイまでにお見合いを20回し、いずれも破談であるという地味に屈辱的な経歴も持つ。なお、ルーデルはGウィッチでありつつも、ダイ・アナザー・デイまでに単独行動中にグレーテ・ゴロプの奇襲を受け、片足を失い、現在持つ肉体が瀕死に追い込まれたため、ルーデルは『空中元素固定で作り直すのメンドーだ、いっそサイボーグにしてほしい』と言うことで、サイボーグ化した。欺瞞の意図もあり、脚部は任意に換装できる構造になっており、表向きは義足で通している。そのため、Gウィッチでありつつも、改造人間になったのは彼女だけであり、そのウォーモンガーぶりが分かる。(Gウィッチは肉体を作り直せるが、ルーデルのように改造人間になるのは物好きの部類であり、表向きは敵高射砲の攻撃で義足になったと説明されている)ルーデルはグレーテ・ゴロプを『悪魔に魂を売り渡した』と表現し、ゴロプは黒江を初見では退けるほどの強さを見せる。そして、彼女は今回においてはアルファ星ドゥベの神闘士になっており、それがルーデルを圧倒し、黒江すらも初見では退けられた理由だ。ルーデルの片足切断の理由は今回、ユニットが闘技『オーディーンソード』で切り裂かれ、足が強制排出された瞬間に、刃と化した破片を当てられて切断している。そのため、後に黒江はゴロプを倒すため、エヌマ・エリシュの封印を解くことになる。また、アッパー技である『ドラゴン・ブレーヴェスト・ブリザード』の攻略法をジークフリートと戦った事がある紫龍に聞きに行くなど、血道を挙げ、黒江は前史以来の因縁にケリをつけようとする。意外に少年バトル漫画の王道的因縁も持つので、ヒロインという表現は的を射ていた。そして、調も師がその状況であるのを座視するような人柄では無くなっており、ダイ・アナザー・デイまでの期間で『雷凰』の技を粗方身につける。



――シンフォギア世界で謎とされし二人の感応には理由がある。一つは魂魄に共通性があった事、シンフォギア世界でのムー大陸跡の海底に眠っていた山羊座の黄金聖衣のオリハルコンの欠片が黒江の宇宙に反応した事、聖衣とシンフォギアの共鳴暴走で装着者の入れ換えという現象が起こった際にエネルギー総量の大きい聖衣がシンフォギアでコントロールできない装着者を黒江が調査していた古代ベルカの遺跡の安全装置を起動させ、過去へ次元跳躍させてしまったというのが真相であった。それが調が入れ替わって古代ベルカに送られた理由で、黒江の小宇宙はシンフォギアでは抑えられない。シンフォギア世界が安全のために、調を別次元の過去に追いやったのである。黒江が調査していた遺跡に気≒小宇宙の増幅術式が書き込まれていたのもあり、黒江は共鳴したシンフォギア世界に『月読調』(黒江が月詠に変えたが)の代替として転移し、調は黒江が本来送られる目的地へ送られた。黒江は切歌を苦手にするが、切歌が精神バランスを狂わせ、それを聞いた響が『調ちゃんの居場所を守る気があるんですか!』と迫ったという理由がある。もちろん、これは半ば切歌への善意を建前にした強制に近いが、響が押し通した。響の『誰も傷ついてほしくない』という願望が歪んだ形で表れていると言え、黒江も断れる空気ではなく、渋々了承している。そのため、黒江は小日向未来と仲がいい。(この事が黒江がダイ・アナザー・デイ中に出した指示に繋がり、なのはがやりすぎるのである)黒江が入れ替わったことは切歌は途中から悟っていた。だが、調が『居なくなる』のを恐れ、狂乱状態を演じていたのもあり、黒江にとって肩が凝る期間であったと言える。シンフォギア世界ではいい思い出も多いが、気苦労した思い出も多い。それが黒江の心境であった。黒江は野球で言うところのピンチヒッターの感覚ながら、『月詠調』(名字を変え、定着させた)として学園生活を送ったが、それが帰ってきた当人が居づらさを感じ、野比家に転がり込む原因となった。そのため、調は黒江が築いた居場所にはいられないと感じ、野比家のメイド兼ヴィヴィオの従者などに転ずることを決意したのだ。当人は立ち去る前、『ここは私の名前が有るけど、それは私が得た場所じゃ無いから』と響に言い、リディアンに退学届(黒江が根回しし、通信課程に切り替えられたので、籍は残った)を出してシンフォギア世界を去り、野比家に転がりこんだ。シンフォギアを未来世界のサウンドエナジーの権威『Dr.チバ』が分析し、真田志郎や当代のトチローが改良を加えたのはその頃だ。小宇宙を燃やさなくと日常生活で纏っても何ら負担がかからなくなり、シンフォギア世界で実験がされている『心象で形状を変化させる』実験の必要性も薄れたため、箒と調はノーマルのシンフォギアで野比家での日常生活を送っている。なので、箒などはアガートラームのギアの上にエプロンをつけて料理しているし、調も脚部ローラーを買い物で活用しているのが日常茶飯事だ。(心象の反映という点では、のび太への情景と、戸隠流に打ち込んだために、本気を出すと、マフラーが首に巻かれている姿になる点が反映されている)それが2018年時点では10数年続いていたことになるため、のび太のいるマンションから半径10キロ圏内はシンフォギアで闊歩しようが、ISで買い物しようが、黒江が綾波レイ姿でプラグスーツ姿でブラブラしようと平気になっていた。慣れというのはかくも恐ろしい。表向きは『学園都市の独立が事実上解消されたので、その独自文化を受け入れる空間が必要となったため』で、日本連邦公認である。また、新・野比家は再開発地域にあるので、公園となった元自宅跡地からは離れている。地下格納庫も移設されており、そこには一年戦争時代の連邦陸軍の遺産も格納されていた。

「そいや、昨日、連邦から運ばれてきた『秘匿機材G・P』ってのはなんだ?」

「一年戦争で連邦陸軍最強を謳われたガンダム・ピクシーの残存個体ですよ」

「残ってたのか!?」

「持ってきた担当者は三号機じゃないかって言ってました。近代化を施してあると言ってましたから、ムーバブルフレームになってるかも」


「どうしてピクシーを?」

「単にギアナ高地の改修工事だそうです。それでアトラスガンダムと同じところに安置されていたと」

「でた〜、ニッチな需要のガンダム。パーフェクトガンダムは前史だと相模原に放置されてたけど、今回は?」

「同じところに置かれてたそうです」

「連邦軍、管理いい加減じゃね…」

「アレックスは今回はブッホ・コンツェルンに渡ってたから、それに比べればマシですよ」

連邦軍は多くのガンダムを開発したが、マークUのようにアナハイム社に渡ったもの、NT-1のように、サナリィに払下げされ、その後にブッホ・コンツェルンに渡ったものも存在する。最近は原則的に連邦軍はガンダムの管理に厳しいが、以前は秘匿こそが正義とされた。秘匿の関係で多くが所在不明であった。アトラスガンダム、パーフェクトガンダム、ピクシーは戦後に存在が怪しまれている機体であったが、実在の確認がなされた。ピクシーは野比家に運ばれたが、ガンダムマックスターに似たフェイスを持つのは有名だ。

「でも、パーフェクトガンダムの方を運んでほしいぜ。ピクシーは当たったら死ねるし…」

「ヘビーガンダムは30機くらいが用意されてたそうですよ。宇宙軍がジオン本土決戦用に用意していたようです」

「誰がそんな事を?」

「コーウェン提督だそうです。対キマイラ隊用に用意していたそうで…」

「ああ、キマイラか。あのジョニー・ライデンんとこ。引き合いに出されたから、軍令部も参謀本部も狼狽えたよ」

日本の防衛省のある若い役人がキマイラ隊を引き合いに出して、扶桑航空戦力の『精鋭部隊』不在を叩いたらしいことを黒江は示唆する。

「え?」

「いや、これはケイから聞いた話なんだけど、2009年か2010年の革新政権時代の頃、精鋭部隊不在を叩かれたらしいんだ、ウチの航空隊」

「そりゃ地球連邦軍も新型機は大隊規模以上が適すると判断したとかいいますけど?」

「ほら、革新政党にいたろ?襟立ての女議員」

「あー」

「あいつにウチの航空隊、かなり叩かれたらしいんだよ。だから、武子がお冠だったんだ。あいつ、昔から一つの部隊が突出して強いの嫌ってたしな」

「そういうのアメリカ的ですね、お武さん」

「あいつは江藤隊長の流れ汲んでるからな。だから、覚醒してから、すごく慌ててスコア増やしてたんだ」

「50はないと野党に叩かれますからね」

「だから、あいつさ。持論と違う部隊の隊長になりたくないとか言ってたが、まっつぁんにボディランゲージされて引き受けた」

「あの人、同位体が加藤隼戦闘隊の隊長ですからねー。お武さん、そこが誤算だな」

日本は航空部隊の練度が後期になると、開戦時から見る影もないほど低下していた過去があり、そのトラウマから、エース部隊の存在を343空の存在を大義名分に引き合いに出し、恫喝する者が革新政党時代に見受けられた。しかし、343空の実体はエースが多めにいたが、新人主体の部隊であり、44戦闘団とは趣を異にすることは知られていない。源田自身がその説明を諦めていた事からも、戦後のイメージは当事者でさえ口出しできなくなっていると言える。また、日本より人材豊富であり、科学力があるとされしドイツが『第44戦闘団』を持っていた事や後世の漫画のせいなので、憤慨する武子を源田がなだめたという。源田は『ならば、第44戦闘団を超える集団を作ってご覧にいれましょう』とやけくそになり、Gウィッチが名うてに集中した幸運もあり、64を復活させたという経緯がある。それに猛反対したのが志賀であり、隊の主導権を陸軍出身であるレイブンズに盗られると早合点したのが始まりであるが、実際には343空の組織に旧64を取り込んだ編成であったため、自分の行為の虚しさに気づき、大きく落胆したという。(中隊名も343空のモノが使用され続けたのもショックだったとも)

「64って、343空の組織がそのままでしょ?」

「第一中隊が新選組、第二中隊が維新隊、第三中隊が天誅組な時点でな。志賀の野郎め」

「喧嘩したんですか」

「ああ。あいつ、親父さんの指名で配属されたのに、俺等を異物扱いしてなー。それで揉めたんだ」

黒江は時たま、一人前がオレになることがある。のび太らの前でしか見せない面である。

「そう言えば、珍しいですね、オレっていうの」

「菅野と被るからなー、これ」

綾波レイの姿のままで『俺』というのも、なんとも言えないギャップがあるが、仕事では私で通しているが、プライベートではオレも使用する。菅野とキャラが被ると心配しているのか、あまり見せない。菅野だけでなく、若本とも被るためもあり、仕事では使わない一人称なのだ。

「海軍にオレっ娘多くてな。だから、これ、プライベートじゃないと使わないようにしてんだよ。菅野や若本に文句言われるし」

「だから、オレをあまり使わないんですね」

「ガキンチョの頃、兄貴達の影響で使ってたからな。その名残りだよ。逆にケイが怖がられてるんだよ。アフリカで覚醒してからというものの、粗野な口ぶりで三将軍もブルってるみたいで」

「あれが今回の地ですよね」

「ゲッターの使者だし、その上、オレと智子のお守りに飽き飽きしてたみたいでさ。今回はあれが地だ。マイルズが初めて見た時に泣いたとか?」

「それなら江藤さん、ブルってたんじゃ?」

「武子も未覚醒だった時期、オレに『頭打ったのかしら』とか真顔で言ってよ。今はネタにしてるけど」

「あれじゃねぇ。ベレッタを二丁拳銃と、あの不敵な笑いじゃ、耐性のないウィッチは怯えますよ」

圭子は素の容姿でもレヴィの粗野な口調を使い、二丁拳銃を好む事が年を追うごとに増加、今では確固たる地位を築いている。そのため、アフリカ戦線勢の間では、圭子の往年の神通力が甦ったら『性格まで変わりやがった』とネタになっている。その変貌ぶりに、マルセイユも素直に言うことを聞くようになったからだ。黒江も基本的に刀と拳を使うが、水準よりは上の銃の腕はある。しかし、最近は銃は圭子に任せている。欧州赴任後はマルセイユと共に基地のバーにいる事が多い圭子だが、意外に面倒見は良く、真美には『姐様』と慕われたりする。また、比較的年長のウィッチからも銃主体の立ち回りについて聞かれたり、漫才的やり取りを芳佳や黒江と見せるコミカルさを見せるので、意外に501で慕われている。また、空中元素固定を武器の生成に活かし、あまり変身に使わないのも圭子の特徴で、偶々、漫画のレヴィと体格が似通っていたため、空中元素固定はタトゥーと顔を変えるのが主な使い道だ。黒江のように日常茶飯事のレベルで使うのは異例である。黒江はキューティーハニー宜しく、体格も作り変えるため、そこも成り代わりの名残りと言え、のび太とのやり取りで胡座をかきつつも姿はまだ変えてあるあたり、空中元素固定能力を一番喜んでいた証であった。空中元素固定については、英霊などはベースとなった肉体の元の容姿を取る時などに使用しているが、黒江は小遣い稼ぎでも使用しているため、英霊よりも使用頻度が高く、仲間内でネタにされたという。黒江は当初、日本自衛隊に身分を隠して入った。その『真の身分』を明かしたことで訴訟を起こされまくり、精神的ストレスを紛らわすために始めたことなので、のび太も咎めることはしない。黒江への訴訟理由の大半が無茶苦茶だったのはのび太もよく知っていたからだ。その無茶苦茶さは日本政府高官が呆れるほどの拙いものであることでも証明されており、黒江は革新政権時代のブルーインパルス行きの真の理由も悟っていたりする。しかし、ブルーインパルスでも黒江の技能は際立っており、パートナーを必要にするレベルであった。そのため、教導群が何度も引き抜こうとし、ブルーインパルスを去ってからスカウトしようとしたら、統括準備室室長の任になってしまったが、彼等の働きかけで統括準備室長のうちは教導群にも属していた。現在は統括官であるため、本来は事務方だが、扶桑で現在進行系の現場指揮官である都合もあり、『現場主義』である。この手のポストは疎んじられがちだが、黒江自身が本質的に戦士であることなどから、逆に『ダイレクトに上層部に話を伝えてくれる』と自衛隊で好評である。また、教導群に出向は継続しており、空将でありながら戦闘機乗りであるとして、この時代でも人気である。空将は対外的に中将なので、逆に扶桑が困ったが、勲功華族の件で日本も取り扱いに困っていた。しかし、『有事にはとびっきり優秀』とする共通の人事評価を持っていた。そのため、レイブンズなどの功ある若手の放り込み先として『准将』が新たに設けられた。その階級の創設準備は既に水面下で進められていた。黒江が空将に任ぜられる(この時期はまだ空将補)事の内定が伝えられ、少将昇進を天皇陛下が公言し、それに参謀本部と軍令部が反対し、それに陛下が不快感を顕にし、それを聞いた自衛隊が『スキャンダルは困る』と申し入れしたことで、話が結果として大きくなる。陸海軍、自衛隊、共に『財務省に付け込まれて、予算削減は困る』という点では一致してはいたため、陸上幕僚長が上奏して准将の階級が設けられ、帳尻合わせに旅団長級少将なども再定義される。また、陛下がレイブンズに『騎士爵』(後に子爵)の爵位を与えたいといい、これについては作戦中に叙爵の運びとなったが、今度は逆に日本が取り扱いに困る事になったという。



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