外伝その209『大空中戦16』


――ウィッチ世界は言うなれば、世界秩序が第一次世界大戦前で止まったままの世界である。そのため、時計の針を第二次世界大戦後にまで進めようとした日本の左派は一気に白眼視された。それほどにオラーシャ帝国の分裂による弱体化は衝撃だったのだ。特に、優秀なウィッチを輩出してきたウクライナの分裂はオラーシャ帝国の軍事力に恒久的打撃を与えるに充分で、その埋め合わせになる軍事力を扶桑皇国(ひいては日本連邦)に求められるのは当然の帰路であった。陸軍の旧式兵器廃棄を推進していた財務省や防衛省の一部勢力はこの連合国としての要請に窮し、結局、廃棄予定であった九七式中戦車(史実の旧砲塔)を新砲塔型に改修してアジア地域で生き残ったシャム(タイ)に供与するなどの行動を取らざるを得なくなった。扶桑陸軍自身は『重戦車はいらないのに』と現場が言ったら、ウォーカー・ブルドックの写真が送られて来て、自信喪失する機甲部隊が続出していたので、結果としてチトベースの改良型の登場が促された。最強の軽戦車『ウォーカー・ブルドッグ』は当時、本国でまだ試案段階であったが、攻撃力はM4を超えており、それを突きつけられた扶桑陸軍機甲本部は戦々恐々であった。日本が戦車砲を90ミリ砲から120ミリ砲へ格上げを声高に叫ぶのは直ぐに理解され、日本の厚意によるチト改良型の90ミリ砲搭載も抵抗なく受け入れられ、ウィッチ用に破砕砲が作られ始めた。ダイ・アナザー・デイでルーデルが整備班にでっち上げてもらった75ミリ砲を使い、対艦攻撃に参加するが、正式な破砕砲はその運用データを元にして正式型が流通する。山本五十六は日本の若い防衛省の役人が『時期的に作ってくるだろ、常考』と言ったのに対し、『ネットスラングで言われたら説得力ねーよ、まぁ、作ってくるだろうが』と返しつつも、登場は予期しており、ダイ・アナザー・デイでM46パットンが登場し、ティーガーTを破壊する様を見た事もあり、兵器更新を急がせる。また、ティーガーを撃破可能なM46の登場は扶桑皇国陸軍にかなりの衝撃を与えたが、カールスラントは当時の機甲師団のブランド力喪失に繋がってしまう事態でもあるので、余計に顔面蒼白だった。しかし、当時最新鋭のケーニッヒティーガーは製造ラインが整ってきたばかりで、早くも実効性に疑問符がついてしまった。日本がパンツァーファウスト3などを大量に流通させたせいだ。そのためにカールスラントは自国の意地として、当時、ケーニッヒティーガーのさらなる強化型として構想中の『レーヴェ重戦車』の構想を推し進め始めた。政権交代したドイツが混乱のお詫びとして、自国で旧式化したレオパルト2戦車を供与しても、自国産業保護の観点から開発を続けた。これはブリタニアのスパイトフルと同じ理由だ。だが、日本連邦においては、扶桑の産業を自国の産業の肥やしにし、新たな自国製品の市場にするという見方が強かったため、そうしたことは太平洋戦争のトラウマもあって、極めて少数であった。震電改計画が認められたのは異例中の異例で、英雄である山本五十六の強い要請であることで、その点で言えば、後のクーデター失敗時に実機を燃やした横須賀航空隊が断罪されたのも無理からぬことだ。ジェット震電は結局、ボディのみが完成していた二号機をベースに開発が続けられ、太平洋戦争半ばに原型が殆ど無くなった姿で完成を見る。根本的な再設計でほぼ別物になったものの、計画の上では継続開発扱い理由は震電の不採用前後、日本の民間企業が『どうせ軍用機は米軍機に統一される』とし、筑柴航空機から権利を買い取り、スポーツ機として売り出す動きをしており、扶桑の航空産業の重鎮『長島知久平』(史実の中島知久平)がその阻止を軍部に要請したのがきっかけである。レシプロとして完成済みの1号機はその企業に提供される予定であったが、クーデター失敗を悲観し、保有機材を見境なく焼却した横須賀航空隊中堅ウィッチ達は親たちの助命嘆願でなんとか命は助かったものの、結果として専任テスト部隊の命脈を断った元凶として白眼視され、大半はアリューシャンで戦死する。焼却された機材には旭光までの繋ぎとして、小園大佐が目をつけていた震電ストライカーも含まれており、志賀が出張から帰隊した時には燃やされており、志賀は犯人たちを咎めた。犯人たちは事の重大さに気づき、泣き崩れてしまうが、自業自得であった。特に焼却された個体は他世界で芳佳が使用した仕様であったので、小園大佐の逆鱗に触れ、彼女達は怒りに任せて殴打されてしまったという。結果として、芳佳は今回において、正式にオリジナルの震電を使用する機会が訪れることは無かった。数年後に次元転移してきたB世界の面々に『震電の予備パーツが用意できない』と坂本が言ったのも、この時の混乱に由来する。そのため、B世界の面々にとっては、ジェット化が進んでいる現状に戸惑い、ハルトマンBに至っては、乗機にしているAに詰め寄るほどだったという。



――野比家――

「ねー、のび太。タイムテレビない?数年後のパニックに備えておきたいんだ」

「確か、スペアポケットに…あ、あった。再生しますね」

45年の数年後に起こる次元震パニックに備えることも、この時期のGウィッチの任務である。タイムテレビを再生すると、数年後の次元震パニックで自分が平行世界の自分に詰め寄られている様子が移り、エーリカはげんなりした。会話はどうもB世界で起こり、A世界では起こらない出来事が理由である。

「…なにこれ」

「ああ、バルクホルンさんのことですね」

「えー、トゥルーデ、向こうだと欠陥で落っこちてたの?」

「こっちじゃ、時空管理局と地球連邦軍の技術供与で安定化できましたからね、魔導ジェット」

A世界では魔導ジェット理論が時空管理局や地球連邦軍の技術供与とメタ情報で安定化に成功したが、B世界では使用者の魔力を際限なく吸い尽くすという欠陥があった。そのため、B世界の面々がA世界のジェットの使用を固辞する事態が起こるただし、お互いの年代が数年ズレているため、数年で根本的に改良されている事が示されると、流石に気まずくなったか、バルクホルンBがテストする事となる。

「うわぁ、自分に詰め寄られてるって妙な気分〜」

「向こうのエーリカさん、なんか強情ですね、ジェットに」

「まぁ、トゥルーデが落ちればねぇ。ただ、これはガキっぽいなぁ…」

ハルトマンAはGである分、精神的には大人であるので、Bの強情ぶりにため息のようであった。で、場面は変わり、シャーリーが挑発するところが映った。シャーリーAはボイストレーニングを終えたところか、美雲・ギンヌメールと同じ衣装を着ている。美雲・ギンヌメールがライブで着るドレスと同じ格好なので、シャーリーAとBの違いを際立たせている。会話は以下の通り。

『あら、怖いなら、怖いって言えばいいのよ?』

『おい、シャーリー。あまりからかうなよ。しかも言う瞬間に美雲の姿にしてよ。強いて言うなら、言えるわけ無いんダナ、一応は軍人のつもりダロ?』

『なんだよ〜シャーリー!トゥルーデが落っこちたんだぞ!止めるのが普通だろ〜?」

シャーリーAはわざとからかう。空中元素固定で容姿を美雲・ギンヌメールのものへ変えて。Aは正規の歌唱訓練で美雲と酷似した歌声と歌唱力を得ていたため、時たま使うらしい。そのため、美雲の影武者としてのバイトも小遣い稼ぎにしているという。

『え!?姿が変わったぁ!?』

『悪いな、これがあたしのこっちでの能力なんだ。歌唱力はそっちのあたし自身の10倍上だぜ』

シャーリーは姿を美雲・ギンヌメールに変える。彼女自身がプロトカルチャー時代の『星の歌い手』とされた誰かのクローンであるため、シャーリーが容姿を使っても問題にはならないらしい。元々の容姿よりミステリアスな雰囲気を纏っており、声質も大人びたものになっているので、まるっきり別人である。

『バイトで別世界の歌姫の影武者してるんだ。この容姿はその人のものさ。許可は得てるよ』

微笑むシャーリー。美雲の容姿を使っているので、受ける印象もまったく異なる。

『その能力って、シャーリーだけが?』

『いや、ある程度の人数がいるぜ。ルッキーニとサーニャなんて、原型が残ってないぜ』

『あら、呼んだかしら、シャーリー』

『お、ルッキーニか。お前も変身してきたな」

『あたし自身がいるし、変身しないと見分けつかないでしょ?』

クロへ変身した状態で現れるルッキーニA。ちょうどカールスラント皇帝に謁見し、カールスラント軍人としてアイアンクロスを授与された帰りらしい。

『え、お、お、お前…ルッキーニか!?』

『この姿だと、クロエ・フォン・アインツベルンって名前よ、シャーリー。カールスラントの伯爵家の名跡を継いだカールスラント人、ってね』

Bより幾分か大人びた声で『クロエ・フォン・アインツベルン』という別名を持つ事を教える。しかもその名前でカールスラント国籍と軍籍を持ち、しかもロマーニャ軍での階級より高い位の階級らしいことがわかる軍装だった。

『カールスラントの貴族!?お、おい、そりゃどういう…』

『公式には別人扱いよ。そうでないと2つの国の軍籍なんて持てないもの。ま、サーニャのほうがもっとややこしいわ。今は扶桑に住んでるもの』

『そうそう。今は私、公式には扶桑人とカールスラント人ってことになってるんですよー』

元々の自分とは雰囲気が違う、明るいトーンの声で現れるサーニャA。容姿はイリヤにしており、クラスカード『セイバー』の力を使っている状態である。甲冑を纏い、エクスカリバーを携えての登場であった。

『えー!?さ、サーニャ?!』

『公式には九条家に養子に入ったから、九条しのぶって名前になってます。別名はイリヤスフィール・フォン・アインツベルン。カールスラント伯爵家の名跡を継いだ当主ってことになってて』

『坂本少佐に伝えたか?』

『驚かれましたよ。扶桑の名家に養子に行って、カールスラントの名跡も継いでるってのは前代未聞ですから』

『なんで甲冑姿なんだ?』

『坂本少佐に見せてたんですよ、違いを。エイラ、恍惚の表情で気絶しまして…」

『あ、ああー…。で、その剣は?」

『エクスカリバーですよー』

『ハハ、ジョーダンだろ?』

『冗談じゃないですってー。ほら』

その瞬間、凄まじい風が走る。風王結界の開放である。そして。

『カリバーンもありますよ、ほら』

もう片方の腕にカリバーンを召喚するイリヤ。坂本Bが興味本位で打ち合ったら、当然ながら打ち勝った事も伝える。英霊の力を借りているので、坂本Bの実力では及ばないのだ。

『坂本少佐、烈風斬使おうとしたんで、約束された勝利の剣でねじ伏せました』

『お前、何気に心へし折ってないか?』

『烈風丸もへし折ってきました、テヘ』

『お前、Sだなぁ…意外に』

『まー、あたしもバルクホルンにハルバードで喧嘩売って勝って来たけどよ』

『で、坂本少佐はどんな顔だった?」

『今にも泣きそうな感じで、気まずくなりましたよ、流石に。だけど、あれは妖刀なんで、へし折って正解でしたけど』

『お前、剣なんて使えたのか?』

『英霊の力を借りてる状態なので、それくらいは。黒江さんやハルトマンさんにボコされるよりは穏やかにしたつもりですよー』

『え、ここのあたし、得物が剣なの?』

『扶桑の剣術で最強の古剣術の真技開眼者ですよ。東洋の刀持たせたら、黒江さん以上です』

イリヤの言う通り、剣術に関しては、英霊であるアルトリアを除くと、ハルトマンAは天才であり、黒江をも凌駕する踏み込みの速さと居合の速度を持つ。本気を出せば、黒江も凌駕する才覚で敵を斬り捨てられる。それがハルトマンAの実力だ。

『坂本少佐、それ信じたか?』

『本人が平突きで切っ先を突き立てるまで、一笑に付してました。対空まで対応できるんで、私のよりショックだったみたいです』

ハルトマンAが牙突を披露し、烈風丸を抜かせなかった事を教えるイリヤ。アルトリアでさえ、反応が遅れるほどの速度の平突き。通称、牙突。黒江は斬艦刀で衝撃を与えているので、どっちもどっちという感じだが、不真面目なはずのエーリカが自分以上に剣術を極めたという事実にショックを受けたと、イリヤを通して伝えられる。坂本Bは黒江Bの肝を冷やさせていたため、Aも似たような実力だろうと思ったら、斬艦刀を見せつけられて腰を抜かしたし、牙突をやられ、約束された勝利の剣でトドメだと。

『黒江さんの実力も数段上だし、ハルトマン大佐もそっちの坂本少佐より強いから、多分、私の約束された勝利の剣で心、粉々かもー』

『お前ら、どんだけガチなんだよぉ!』

『まー、こっちは根本的に修羅になんないと生き残れないしねー』


そのような会話が飛び交う。事実上、先取りで映像を見たハルトマンAは苦笑いしつつも、気楽に構える。

「うーん、やっぱりシャーリーに訓練させて正解だな」

「あーや。前史みたいなことはやめてよ?」

「わーってるって。ありゃ血が昇っちまっただけだってば」

黒江は前史で失敗しているので、そこは釘を刺される。今回は圭子が前史でのBと融合しているので、その代替存在が作られている事が予測されており、黒江もその役目を一部担っているだろうとは、赤松に予測されている。また、黒江と智子、芳佳はもっとも差異があるだろうとも予測している。因みに、智子は黒江にばれないように腐心している事が一つだけある。それは前史で第一次現役時代の後半の功績を機密扱いされ、お局様扱いされたことへの反発が黒江を利用するという下衆い行動として表れてしまっていた事だ。それを知った若松と赤松の制裁により、Gウィッチ内での序列が黒田より下になっているのも、その贖罪をするように言われていたためだ。また、今回は純粋に黒江を『妹』扱いしていたため、未覚醒時の江藤や武子を不思議がらせたのは言うまでもない。

「そいや、智子さんのことだけど、どうしてサイレントウィッチーズの初代司令って記録されてたのさ」

「事務処理と、ハッセが赴任を拒否してたんだよ。部隊の後輩が気がかりらしくてよ」

智子は書類上、サイレントウィッチーズ(507)の初代隊長とされている。後継を目されていたスオムスのハンナ・ウィンドが赴任を固辞していたため、帰国済みの智子を便宜上、隊長にしていたためだ。その関係で、智子はサイレントウィッチーズのエンブレムの使用権を与えられているが、勤務実績がないのを理由に使用していない。(ハルカが代わりに使っている)黒江も、ミラージュウィッチーズのエンブレムはゴロプとの敵対関係がある関係と、いい思い出がないために使用していないので、広報部は困っている。その代わりに使用されるのが、メタ情報での64Fのエンブレムである。隼をモチーフにしていたので見栄えが良く、ブリタニア語で『扶桑皇国空軍第64特別編成航空師団』と書かれた文字が入っているため、結果的に先行プロパガンダになった。これは真501としての統一エンブレムがアレクサンドラ・I・ポクルイーシキンやフェルナンディア・マルヴェッツィ、アドリアーナ・ヴィスコンティなどの反対で決められなかったことでの代替措置でもある。レイブンズは原則的に新64の制式エンブレムを使用し、広報部をとりあえず安心させている。寄り合い所帯感が強まっていたのは、ティターンズの攻勢に対抗するという目的だけで残存する全ての統合戦闘航空団をミーナ(覚醒前)、サーシャ、フレデリカなどの幹部の反対を押し切って強引にまとめたためもあった。また、サーシャはサーニャの亡命でエイラを激昂させた一件でジーナ・プレディが『相応しくない』と進言し、赤松が最終判断を下して、追放している。フーベルタが赴任したのは、その代替と、ティターンズの収容所からの生存者というのをプロパガンダするためでもあった。(そのため、サーシャは作戦前の時点でラルからも疎んじられ、ジーナからは『子供』扱いされるなど、実質的に部隊で居場所を無くしていた。それが彼女の苦難の始まりでもあった)なお、制式エンブレム自体はアフリカ出身のライーサ・ペットゲンの発案で『逆三角形に五つのシェブロンとそれを囲む円形と内接する五芒星』と定められ、作戦に間に合ったという。

「サーシャ、追放するの?」

「まっつぁんが決定した。今頃、ラルが人事を伝えてるだろう。皇帝がかなりお冠だから、サーシャは僻地送りだろうな」

「代替は?」

「フーベルタ・フォン・ボニンだそうだ」

「ああ、フーベルタか。元・同僚。ガランドも考えるなぁ」

「今頃、芳佳が日本でもらったCVW5のエンブレムの翻案をライーサが考えてる。そこでオレが連中に顔効くから、今、許可をもらえるように連絡入れた。返事は明日にもくるだろうさ」

「あれ?自衛隊の演習でぶつかったの?」

「今は岩国にいるから、顔が利くんだよ。それに第七艦隊の空母航空団だし」

「あーやって、自衛隊で腕利きって通ってるよね?噂聞いたよ」

「F-22の生産に悪影響与えたから、空軍のほうが恐れてるよ」

「え?」

「演習で目視で撃墜判定出したんだよ、15で。だから、当時の大統領に嫌われたとか…」

黒江と赤松の無頼ぶりは空自でも有名で、21世紀序盤で最高のスペックと謳われた『F-22』を前型『F-15』で撃墜判定を目視で叩き出したのは語り草になっており、米空軍に恨まれたとも言う。黒江と赤松はアビオニクス差を物ともしない目視での索敵が可能である上、機体性能を知り尽くしていたが故の芸当だが、当時の米大統領の予算削減の名目に使用された。これがF-22の未来世界の記録による生産終了の理由だが、黒江と赤松だからこそ可能な芸当なので、空軍は猛反対したのは言うまでもない。後輩の空自パイロット達は『黒江さん、T-4でACM訓練飛び込んでイーグルのケツに付けてくるんだぜ?もうバスターで逃げるしか無いんだぜ?』と口を揃える。最も、旧型で新型を撃墜したことは革新政党当時の防衛相も驚きであり、それが当時の空自の次期F-X選定の遅延に繋がったのも事実だ。そのため、その10数年後にあたる2018年前後でさえ、F-4がまだ飛んでいたりする。黒江や赤松などの扶桑軍出身の自衛官は空中での些細なミスが生死に関わる環境に身を置いているため、生え抜き自衛官より空中での判断力が高い上、元から格闘戦技に優れているため、教導群も想定外の機動を取る。彼女らが強すぎたため、革新政党政権の時代には、教導群の存続の可否の問題に発展したことさえあった。黒江が教導群に欲しがられてきたのも、コーチングの上手さ、空戦機動の巧みさが評価され、部隊練度を高める天才であった事も彼等を唸らせてきたからだ。2000年代後半のこの騒動は教導群の存続に関わるため、各飛行隊の幹部が抗議の意も込めて、一斉に『一つのアクシデントで左遷されたり、頸にされるようなら、辞めた方がマシなので』と辞職願を出したことでも知られる。当時の防衛相は黒江と赤松に勝てない教導群幹部を罵り、人事に圧力をかけて左遷させたが、それを発に、空自全体のサボタージュに発展した。黒江や赤松は同位体が旧軍指折りの撃墜王であり、空自の名うてパイロット達も師と仰ぐような腕利きなことは部内では有名である。しかし、革新政党の議員たちは『ゼロ戦の時代のパイロットに、何故最新の航空力学などを高い金払って覚えさせた君達が手も足も出ないのか?』と見下しており、それがサボタージュに繋がった。パイロットの多くが幹部自衛官である空自にとっては対応を間違うと、組織の瓦解に繋がるため、保守政党や防衛族議員は当時の革新政権を攻め立てた。革新政権はきな臭くなってきた極東情勢に対応できないのを示され、政権の瓦解に繋がるのを恐れ、防衛相に全ての責任を押し付けて更迭し、黒江たちを一纏めの航空隊として集め、冷遇する選択を取った。だが、直ぐに学園都市がロシアと戦争をおっ初め、学園都市の統制が取れないと内外から批判を浴びた革新政権は、大震災で被ったダメージから立ち直れずに崩壊する。黒江が対外任務統括準備室長に任じられたのもその前後だ。

「それから5年近く、事実上の無役でしたね」

「名誉職与えて、窓際族やらせようとしたのさ。で、政権交代で統括官になるが、反対があったからな」

「なんでです?」

「オレが旧軍の大佐だから、そうだ」

黒江は2012年の時点では佐官であり、統括官として然るべき階級ではないとする反対があった。そこで空自が将官にして、統括官として相応しい階級にする方法を取った。そして、将補、将へと昇任したが、今度は扶桑軍側が困惑したのである。ウィッチの役職として、将官の就くような役職が想定されていなかったのもあるが、扶桑ではウィッチは大佐で退役するのが最高であり、将官になることは皆無であったし、まして、黒江のように一度引退した人物が舞い戻って、また往時のように出世するのも想定外であった。ウィッチの既既成概念を思いっきりぶっ飛ばしているため、扶桑軍は佐官で据え置くことに拘ったが、自衛官として最高位になることが内定していると言われ、大いに困惑し、天皇陛下の強い要望で遂に折れ、准将の階級を置くことになった。しかし、実際は中将勤務とされたため、レイブンズは爵位を得た上、中将待遇となったのだ。そのため、准将というのは書類上で、実際には中将として扱われ、高度な部隊指揮権を行使するのである。

「それと、智子がぶーたれた、いらん子の機密指定だが、日本のラノベで思いっきり知られたんで、マンネルヘイム元帥が折れたそうな」

「マンネルヘイム元帥が?」

「あの人の要請だったし、結局、自分がフィンランドに嫌味言われたり、日本のネットで炎上するのが怖かったからだって」

スオムスいらん子中隊の機密が思わぬところから漏れたマンネルヘイムは、フィンランドからの抗議や日本連邦からの経済制裁を恐れ、結局、連合軍機密から解除せざるを得なくなった。また、かの部隊の戦果を機密指定していたために、自国がマスメディアに鬼の首を取ったように責められることを恐れたスオムスは、智子への白バラ勲章の授与やいらん子中隊を改編していた事を矢継ぎ早に公表した。だが、遅きに失した感は否めず、日本連邦が抗議するに至る。スオムスは扶桑からの援助打ち切りは自国の死を意味することを理解していたので必死に弁解し、智子に宝飾・剣付スオムス白薔薇勲章頸飾を授与すると、マンネルヘイムは安倍シンゾーと吉田茂に通達した。これはスオムスにとって最高位の勲章であり、レイブンズの神通力を取り戻した智子へのせめてのスオムスとしての詫びであった。その代り、政治的制裁として、新生サイレントウィッチーズからは新501に参加させない(ビューリングとハルカは前身時代の人員としての参加)措置は課せられた。そのため、参加させないサイレントウィッチーズの次世代の隊員は智子後任のハッセ含めての全員であり、スオムスの政治的失態と評された。また、連合軍でいらん子中隊の運用に制限を課すのを進言した参謀たちを一斉に罷免しようかという話にもなったため、当時の責任者である智子に与えられるだけの名誉を与えて黙ってもらうという場当たり的対応に終止するマンネルヘイム。彼にしてば場当たり的すぎるが、日本連邦に経済制裁でもされて、部隊引き上げにされたが最後、陸空のエースが上がりを迎えつつあるスオムスは瞬く間に崩壊する。その恐怖が彼の頭脳を鈍らせていたと言える。智子の不満はその点にあったため、智子は結局、部隊ごとマンネルヘイムに利用されたので、その報いが彼に降り掛かったというべきだろう。智子はこれで前史からの懸案があっさり解決したことになり、扶桑国内での評判も往時のものに戻る。智子はこれですっかりマスメディア嫌いになったと公言し、広報部を困らせることにもなるが、かつて、スオムス地域にいた502に戦果を挙げさせるように便宜を図り、物資や人員の横取りも黙認していたのは、智子たちへの仕打ちに後ろめたさを連合軍が持っていたことでもある。しかし、ティターンズという自分らを超越した科学力をもつ敵に対し、ウィッチ兵科そのものの有効性が疑問視され初め、結局はレイブンズの奇跡に縋った。そこが今回における連合軍の手のひら返しと黒江に評される点だが、それは扶桑陸軍参謀本部に原因があるため、連合軍内で扶桑陸軍の参謀らはかなり肩身の狭い想いを当分する羽目になる。(特に、江藤は事変当時の行為をかなりメディアに叩かれているため、覚醒後に拗ねてしまった)

「江藤さん、大丈夫ですかね?」

「拗ねるだろうなー。もし、覚醒すれば、合計二回はハブにしたのわかるし。しかも、今回はもれなく日本のマスメディアに叩かれる要素持っちまってるからなー」

黒江は江藤が拗ねる事をある程度は予測していた。江藤はこの後、G化に伴う『スコア=発言力』の世界に放り出されたため、参謀職ながら、現役時代のスコアを更新し、とりあえず、上位の撃墜王と対外的に認知される50機を超えるのである。カールスラントの撃墜王の認定スコアが地盤沈下を起こしたため、結果的には江藤は対外的に誇れる必要最小限のスコアを得ることになる。レイブンズは1938年前後でウルトラエースであった事が江藤の『スコア追加申請』でなされたので、江藤は日本のマスメディアにここぞとばかりに叩かれるのは確実である。何せ、自分が公認スコアを矮小化したと叩かれる要素を持っているのだ。しかもそのまま現場を退いていたからだ。扶桑では事変時から『教育の一環で、若いウィッチの認定スコアを調整する』ことは公認されていたが、日本連邦の下では思いっきり問題になる行為である。北郷から『認定作業は作戦部の仕事だから報告書上げた後の処理は向こうの責任としてしらばっくれろ。そうすれば作戦部に責任が行く』とアドバイスを受け、そうしらばっくれた。突然、矛先を向けられた参謀本部作戦課はパニックに陥り、結局は現・責任者の給料の自主返納で矛を収めることになった。当時の担当者は既に退官していたので、年月を遡って処分を下すことは扶桑軍としてはやりたくなかったのだ。結果、レイブンズのスコア追加は現役世代の反発を招き、クーデターへの伏線になっていく。

「多分、クーデターの理由になるだろうな。オレらの認定スコア追加。いきなり250以上追加じゃ、ガキどもには現実味ないだろうしなー」

「だからガランドさんが見せたんでしょ?エクスカリバーの映像」

「あれでアルトリアにがぶり寄りされたけどな。『何故、貴方が約束された勝利の剣を!?』みたいなー?」

「で、なんて?」

「黄金聖闘士だからーって答えた。かなりぐぬぬって顔だった。ハインリーケの姿使ってたけど」

「エヌマ・エリシュ持ってることは?」

「伝えた。そうしたら、かなり不満気な顔された。まー、どこかの世界で英雄王にかなり粘着されていたみたいだし。で、そん時、『あれ、技だから!現物じゃ無いから!』ってちゃんと言ったぞ?そうしたら、『何か美味しいモノを所望します!なんだかとても悔しいので!』って、ごはん奢らされた」

「そりゃ傑作だ」

「笑いごとじゃねーって。あいつ、かなり食うから、宮藤に頼んで追加してもらったんだぞ?」

「いいじゃないですか。芳佳さん、アニメの通りのキャラでもないんで、人気ですよ?」

「狸だしなー」

「なんかムカついてよー。ココ一の9辛カレー食わせてみた、悶絶しかけてたけど涙流しながら食って、おかわりしてたのは根性だよなぁ」

「流石に騎士王」

作戦中にGウィッチは増加し、イリヤ、美遊とエクスカリバーの使い手が増えるので、アイデンティティの危機を感じ、日本のメディアにお馴染みの青い騎士服姿で露出をし始めるが、それはまた別の話。また、ジャンヌといい友人になり、ハインリーケの立ち位置を受け継いだ事もあって、日本で人気を博すのであった。



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