外伝その212『大空中戦19』


――空中元素固定。元は如月博士が具現化された理論であり、Gウィッチはキューティーハニーの存在を知っているが故に、原子を制御する力を応用して同等の現象を起こすことが可能なのだ。武器は現地で生成する事も多いのもそのためだ。調も黒江との感応でGウィッチ化を引き起こしたため、シンフォギアのスペックに頼る必要が薄れ、実銃やMSの武装の製造も行って、数への対処としている。また、この戦いで、索敵機器が重要な役目を果たしている事から、個人差がある『索敵魔法』が急速に『フェーズドアレイレーダー』などの後世の優れた電子技術に主役の座を奪われていく。無論、当時は電探の使用が進行してきていた時代なので、それとの併用だったが、空自、海自、米軍が持ち込んだ3次元レーダーの威力は未来に行っていないが、自尊心の高いウィッチには凄まじいパンチとなった。無論、ウィッチの索敵魔法をある程度普遍化するための努力はなされていたものの、時空管理局の魔導師のエリアサーチや後世の電子技術がなし得たレーダー網には精度で及ばない上、ミノフスキー粒子と魔術的索敵阻害を併用するティターンズ/バダン連合軍に遅れを取る場面も多く、それにウィッチが対抗するには、二代目レイブンズが持ち込んだ後世のジェットストライカーしかなかった。



――連合艦隊・機動艦隊旗艦『龍鶴』(元・プロメテウス級『アトラス』)

プロメテウス級の2番艦であり、一年戦争後に建造された同艦は本来、連邦軍再建計画の一環であったが、軍縮時代に無用の長物とされ、モスボール保存されていたものである。それをメカトピア戦争後、大型航空母艦を欲した扶桑に安値で売却した経緯を持つ。状態は良好で、23世紀式空母であるために電磁カタパルトが何機もあり、コスモタイガーやVFを難なく運用できる。フィンスタビライザー標準装備であり、巨体とフィンスタビライザーの相乗効果で(21世紀の巨大空母の1.5倍以上)あまり横に揺れない(仕方がないが、どんな巨艦でも縦には『揺れる』)のもあり、洋上空母としてはこの上ない性能である。扶桑本土より急派された同艦は、大鳳に代わる形で機動艦隊旗艦を拝命。ジェット戦闘機とウィッチの洋上基地としての役目を負っていた。

「山口提督、トモコ達の様子は?」

「ビューリング大尉か。死闘の真っ只中だよ」

エリザベス・F・ビューリング。智子の復帰に伴い、ブリタニア空軍から選抜されたベテランで、智子のスオムス時代の副官にして、戦友である。今回の歴史では、20になっても退役を選ばずにいらん子中隊に在籍し続け、(智子の言動に『変化が生じた事』の謎を解くため、退役を取りやめた)その流れでR化後にGウィッチへ『覚醒』を遂げ、智子の僚機を黒江と分担する仲に至った。現役を続けたために大尉へ昇進している。智子の不遇の時期を支えた功績もあり、ビクトリア十字勲章の授与に至っているため、友人が用意したモデルの道を捨て、職業軍人で居続けることを選んだ。智子の選んだ道を知ったため、自分が支えてやらないといけないと判断したのだ。

「君も覚醒めたそうだな、大尉?」

「ハッ。智子のことにもっと早く気づいてやればよかったと猛省しております。智子が敢えて、スオムスに来た理由にも勘付きまして」

「君らと出会うためか」

「はい。何度も転生しても、スオムスを選んでいたことは嬉しく思います。智子の奴、今回は事変の頃からぶっ飛んでいたのですね」

「智子くん曰く、『今回はかっ飛んで行きます』と言っとった。俺も乾いた笑いが出たがね」

ビューリングは補給しに空母に着艦していた。隊の若手を率いて戦うなど、かつての智子の副官らしい働きを見せていた。この時は智子の副官特権で、当時の新鋭機『シーフューリー』ストライカーを使用している。当時のレシプロストライカーの集大成的機体であるため、スペックは文字通りの最高峰に近く、レシプロ震電とほぼ同等の速度性能、扶桑陸軍機並の航続距離を持つ。パワーウェイトレシオはハリケーンやテンペストよりは良好であり、その関係で、戦闘ウィッチ(前衛ポジション)としては重武装を可能としていた、

「よく試作段階のシーフューリーを回せましたね」

「赤城の件で先方を脅してな。その一環で提供された。我が軍は既にジェットの開発に成功しつつあるから、研究用名目で死蔵しているのももったいないので、君に回した」

赤城はウォーロックの暴走で今回も失われ、真ゲッターロボが鎮圧した。このように、キングス・ユニオンは日本連邦に大きな借りがあるため、実質的に日本連邦の意向に従う。このように、日本連邦は否応なしにウィッチ世界の覇者になりつつあった。リベリオンが半ば分裂状態に陥り、ブリタニアがキングス・ユニオン体制になったとは言え、ブリタニアそのものの緩やかな退潮が始まっていた以上、相対的に国力の温存がなされた極東の大国が超大国にならねばならない。それはチャーチルも自覚しており、クイーン・エリザベスU級戦艦は今後の空母の布石を兼ねている。また、ビューリングがテンペストからシーフューリーに機種変更した理由は、同機のセイバーエンジンがメーカーの杜撰な工程管理により、史実誉を笑えない水準の稼働率であったので、当時にウィッチの要請で早められたシーフューリーの扶桑研究分が『ウチ、ジェットにすんから』という理由で死蔵されたものを提供されたという、ブリタニア涙目の状況が理由だ。レシプロ機の性能限界が時速800キロということを知る日本連邦はレシプロ機の性能向上はターボプロップエンジン化一本になり、従来の『馬力向上』などには興味は無くなっていたためである。その事が川滝の山越技師のクーデターへの加担に繋がるが、彼が出した『キ99』はあまりにもレシプロの限界技術への依存で、実用性皆無な機体であったのも事実だ。

「君はテンペストを嫌っていたそうだね」

「エンジンが直ぐに逝くんです。この間なんて、エンジン内部に切削屑が残ったままだったんですよ?」

「誉以上に無理がある設計だと言うが…」

史実で言うネイピア・セイバー。H型エンジン方式で、24気筒を持つ。通常は高い信頼性のH型エンジンだが、ネイピア社の異常に先鋭的な設計、設計に追いつかない工作精度で悪評で名を馳せた。同じスリーブバルブ方式でも、『ブリストル セントーラス』に遥かに及ばない稼働率で、テンペストのサブタイプを一個潰している。実際にビューリングもテンペストに見切りをつけ、シーフューリーに乗り換えている。

「凄まじいな、それは」

「液冷エンジン大国、ブリタニアも堕ちたもんですよ。シーフューリーは空冷ですからね」

この時代、水冷エンジンそのものが扶桑で軍用として退潮にあった。大衆車などには積まれる予定があるが、航空機用としては、ジェット化もあり、飛燕の生産中止が検討されている。当時、川滝はお家芸とされた液冷エンジンに尽くダメ出しをくらい、空冷型の間に合わせとされた『百舌鳥』が主力に登りつめる珍事に遭遇していた。当時、扶桑軍が日本軍よりマシな整備・部品供給であることを加味しても、平均稼働率は40%、内地で60%という数字であった。当時の扶桑軍としては、外地で40%というのも良好な部類ではある。飛燕のマ40はこわれやすいため、圭子はライセンス元のエンジンに載せ替えて性能を安定させていたが、まさにそれは川滝には屈辱だった。アフリカにメーカーの技術者が行ったら、マ40は格納庫で埃かぶってましたーなのだ。『アフリカ』は優秀な整備兵を抱えているが、それでマ40を使わないので、問題になったが、圭子が半ギレで『触ったら壊れるガラス工芸みてーなの前線に送るんじゃねぇ!』と一喝したという逸話もある。実際、アフリカに飛燕を送るのは無謀な選択である。圭子は優秀な整備班にオリジナルの精度がいい個体を載っけさせて使っていたが、無理なチューンでオーバーヒートを起こし、マルセイユが墜落した事故も起こっている。圭子は覚醒後は空冷エンジン好みになり、現在はキ100を愛用しているが、その事故も絡んでいるのは言うまでもない。

「幸い、民間人は富士の一室にある模型の欧州に避難させたから、いくらでもイタリア半島は戦場にできる。遺跡の類にはバリアーポイントも置いてあるし、近づいたら無敵砲台だ」


遺跡は日本などがうるさいため、ドラえもんに動いてもらい、ひみつ道具のバリアーポイントと防衛用の無敵砲台を設置して守備するという手法で保護しているのが山口多聞から語られる。戦場がイタリア半島から拡大されたための緊急措置だ。また、マジンガーZEROが出現していた地域は結界が引かれていた。デロス島のことでエディタ・ノイマンが鬱病に追い込まれたのを憂慮した連合軍の逆転の秘策である。

「富士の使っていない講堂に1/500万くらいの大きさで欧州を模型で再現して、民間人はそこでしばし生活してもらっている。600mくらいあるから、講堂の一個や二個くらいに模型置いても問題ない」

「模型で欧州を?」

「ドラえもん君のポラロイド・ミニチュア製造カメラで欧州をまるごと再現した。スケールは念のために小さくしたが、戦場が広まった以上は緊急だよ」

「顕微鏡必要になりません?」

「様子が確認できるから、500万分の1と言っても、そこまでは小さくならんよ。未来のビックサイトまるごとに設置した模型を空間圧縮でエリアごとに収めたが、カールスラントなどの地域は戦前基準だ」

戦場が欧州まるごとになることが濃厚になったため、当初はイタリア半島のみであった避難が欧州全土に波及した。ただし、現在に怪異に占領されている地域は戦前基準で再現されている。現在、本物の欧州は地球連邦軍以外に人はいなくなっているが、それはティターンズの本隊への警戒の意図もある。模型とは言え、ドラえもんの模型であるので、インフラなどはきちんと稼働する。言わば、戦場と民間人を切り離したわけだ。

「しかし、信じられませんな。それでいて、戦場では血みどろの戦闘など」

「こうでないと、日本を納得させられなかったのだ。戦争に犠牲はつきものなのだがな」

日本は戦争で一般人の犠牲が出るのを極端に忌避するため、連合軍は対応に苦慮し、未来技術を使ってのウルトラCで戦争と一般人を切り離した。日本人のワガママで連合軍は振り回されているわけで、日本は未来の時間軸であることから、噂を流して高官の首を飛ばす行為もすることが予想されており、日本との付き合いはかなり慎重である。日本の左派はオラーシャ革命以降は鳴りを潜めつつあるが、水面下での動きが警戒されていた。サーシャの追放は日本がソ連参戦時の行為が原因でロシアの軍人に偏見があるため、それから守るためというのが上層部にはあった。実際、サーシャは伯爵の階級を素行不良を理由に統合戦闘航空団では降格させており、そこが叩かれそうになったため、誹謗中傷を未然に防ぐためでもあった。個人としては落ち度はないはずの江藤でさえ、鬼の首を取ったように罵倒され、野党からは二階級降格を提案されるほどであったため、実際に『本国で大尉の人間を現地で中尉に落とした』サーシャは格好の標的にされかねない。既に上級者がたんまりいるので、大尉に戻しても問題ないということで、伯爵は大尉に復している。また、レイブンズが奔放な素行を自分達から行う性質であるため、素行は自動的にほぼ不問にされ、結果的に伯爵は大尉に戻ったし、ハルトマンに至っては大佐になった。これは規則や作戦に厳しいノイマンが遺跡よりも人類生存圏確保を重視した作戦を提案したら、全ての勲章剥奪、大尉への降格、飛行禁止、軍籍剥奪、銃殺などまで俎上に載ってしまい、そのショックで心療内科行きになってしまったための連合軍のショック人事であった。マルセイユが中佐、ハルトマンが大佐に特進した理由は、彼女の穴埋めであるが、この時に『戦果さえあげれば、素行は大目に見る』という風潮が生まれたのも事実である。これは地球連邦軍のファントム・F・ハーロックX世少佐(後に大佐。キャプテンハーロックの先祖で、ドイツ空軍エースのファントム・ハーロック二世の末裔である。古代守と真田志郎の同期)の『任務中、勤務中でなければ積極的に気を抜くべき』という言葉を引き合いに出し、レイブンズは非番中は自由奔放に振る舞った。ミーナも覚醒前は苦言を呈していたが、後はイオナにのろけ、みほに連絡を取りたがるシスコンぶりで周囲を爆笑させている。ただし、レイブンズはこうも訓示している。『2秒で戦闘体制に頭を切り換える能力は訓練するべきだがな。貴様たちもプライベートと仕事は二秒で切り替えるようにしろ』と。実際、レイブンズは戦闘では一騎当千を体現するが、プライベートでは茶目っ気たっぷりである。

「智子は本来、ああいう茶目っ気たっぷりの性格なので?」

「准将は本来、茶目っ気たっぷりだ。人格単位で封印されていたから、生真面目系のキャラだったのだ。43年頃に封印が解かれたので、元の人格に戻ったがね」

「どうりで…」

「事変の頃、江藤くんが胃を痛めておったよ。何せ、当時は調達できないはずのペプシコーラをガボガボ飲んでたからな」

「な!?」

「人格の封印時は大人ぶって珈琲を飲んでいたが、本来は炭酸飲料好きなのだ。黒田大尉の影響だな」

智子は封印時は大人ぶっていたが、覚醒後は基本的に14歳当時と大差ない若々しいキャラに戻っているため、炭酸飲料をガボガボ飲んでいる。後に、珈琲についてはベトナムコーヒーにハマり、豆から挽く本格派の武子に呆れられたという。とはいうものの、珈琲道を説くほどハマっている武子は、黒江がカフェオレやコーヒー牛乳しか飲まないことに不満があるが、黒江の策略で『銭湯の風呂上がりにコーヒー牛乳を飲むこと』を覚えさせられるのである。

「智子が1943年を境に変わったのは、そういうことですか」

「今のほうが強いと思う。あの黒江くんの相棒を務めていたこともあるほどのインファイターだ。君が見た初期段階の智子くんは前史の同時代の水準そのままだが、スオムスの防衛戦で見せたのが本気だ」

「多聞丸、お茶の差し入れ持ってきたよ」

「おお、すまんな、飛龍」

「あなたは?」

「ああ、私は艦の化身で、空母飛龍の化身なんです。表向きは提督の義理の娘で、秘書ですけど」

「…というわけだ、大尉。どうだね、俺の自慢の娘は」

「は、はぁ」

ビューリングは驚きがある反面、山口多聞の親バカぶりを見てしまったため、回答に窮した。山口多聞は妻子がいるため、義理の娘ということで、通している。これは山本五十六の長門と陸奥と同様だ。小沢治三郎に瑞鶴がいるのと同じ理由だ。

「大尉もどうです?大尉は紅茶のほうが良かったかな?」

「いや、私はコーヒーを頼む。どうもティータイムというのは苦手でなぁ」

ビューリングはティータイムを苦手とし、コーヒー大好きっ子と、アメリカ人に近い性質で生まれた。また、未来世界での『あの胸にもういちど』のマリアンヌ・フェ○スフル宜しく、黒いライダースジャケットを着て、バイクを転ばす趣味もある。黒江からは『峰不二子か』と笑われているが、自身も似たようなことをしている。

「智子くんが言っとったが、作戦が終わったら、仮面ライダーのマシンの試し乗りに参加しないかとことづけを頼まれている。確か、時速550キロ出せるとか?」

「なんですか、その飛行機の速度」

「ネオサイクロン。仮面ライダー一号がマシンを新調するそうでな。そのテストドライバーを探しとるそうでな」

ブースターを入れると、テンペストより早くなるが、あくまで緊急出力であるので、最高時速は550キロと控えめだ。しかし、ネオサイクロンは歴代のサイクロンがスポーディなフォルムであるのに対し、ネオサイクロンはゴツいフォルムで、『おっさんの乗るツーリングバイク』とも言われそうだが、戦闘面の性能重視と言える。立花藤兵衛は晩年、スポーディなフォルムの歴代のサイクロンより戦闘面の性能に優れしマシンが本郷猛に必要になるという構想のもと、ネオサイクロンを設計したが、病魔はその完成を待ってはくれなかった。1996年頃のことだ。大まかな製造資材そのものは立花藤兵衛の遺族から本郷猛に託されたが、製造機会がなく、23世紀での復活時に脚光を浴び、城茂の店で資材を集め、改造サイクロンのエンジンをチューンナップするなどの節約も行った。歴代サイクロンより装甲が強化されたので、最高時速は新サイクロンと顕著な違いはないが、エンジントルクは倍以上ある。そのため、試乗に誘われていたらしい。

「時速500キロ以上をこのフォルムでねぇ。信じられませんな」

「まあ、仮面ライダーのバイクは原子力エンジンで動くからな」

ネオサイクロンの写真を渡されたビューリングの感想は『ゴツい』であった。この時代から見れば空力性能が気になるらしい。仮面ライダーのバイクはライダーマン・マシーンを除き、平均で400キロオーバーの速度を持つが、ネオサイクロンは際立って早いわけではない。速度を重視せず、機動性第一のカブトロー、空力性能はどう考えても最悪のクルーザーに比べればマシだ。

「と、言っても、一般的なウラン炉心ではないがな。人類では制御すら難しいバイクだが、チャレンジしてみるかね」

「戦闘中にいうのは憚れますが、智子に宜しく言ってください。面白そうだ」

「ああ、仮面ライダーS1のVマシーンは音速超えとるよー」

「どこで出すんですかぁ!」

Vマシーンとスカイターボは音速を超えて走れるので、パワーとトルクはその2つが頂点に立つ。旧サイクロンはベース車両が非力だったため、改造サイクロンに直ぐに切り替えられた経緯もある。改造サイクロンは旧サイクロンと明らかに別車種がベースなのは、サイクロンの部品を他のバイクに移植、改造して生み出したからである。

「安心したまえ。400キロ超えると、飛行に切り換わるから」

「どういうシステムなんですかぁ!」

「ウイリーの要領だ。ウイリーさせた瞬間にブースターに点火して、飛行する。歴代仮面ライダーのお家芸だよ、これは」

地面の上で400キロを超えると、タイヤが保たないため、歴代仮面ライダーのマシーンはある一定の速度で飛行できるようになっている。

「うーむ。オフロードタイプってめったに運転しないからなぁ。軍隊いると側車付きだし」

「黒江くんに頼んで、城茂氏のオートバイショップのバイトでもするかね?」

「いいんですか?」

「彼、ちょうど未来世界で掻き入れ時時でな。なんでも、人が減ったオーストラリアをかっ飛ばすとかで売れてるそうだ」

「なんでオーストラリアを?」

「シドニーとキャンベラがまるごとえぐられて湖になったんだが、最近の地殻変動でニュージランドの端とオーストラリアが繋がったそうだ」

太平洋は地下都市がある日本などを除き、甚大な被害を受けたため、かつてキャンベラやシドニーと呼ばれたところの周りはほぼ無人である。宇宙移民が促進されたため、オセアニアは僻地というのが似合う田舎になっていたが、アデレードはかつてのシドニーと同等の賑わいを持つ。西部の大都市は生き残ったが、それを除くと、僻地というのが似合う田舎であり、連邦軍では『この世の果てだ』と揶揄されている。コスモリバースシステムで自然は戻ったので、オゾン層の心配は無くなったが、アデレードへ一極集中が進んでいるので、それをどうするかが課題のオセアニア地区だ。最近の地殻変動で海底の隆起が起き、ニュージーランドとオーストラリア大陸の端がくっついたとのことなので、コロニーの衝撃は地球にかなり影響を与えたのだ。23世紀のオセアニアはかなり地殻変動で地形が変化している。ジオンが打ち込んだ衝撃は地殻変動を促し、シドニーとキャンベラの代替の土地を用意はしたが、いかんせん、これまで海底だったのが隆起したばかりで、調査が済んでいない。元々、オセアニア付近では、ジーランディア大陸という古大陸が沈んだ事が21世紀に実証されており、コスモリバースシステムの重力異常でその大陸が隆起して、海面から飛び出たというのが正しいだろう。

「23世紀までに分かったらしいが、向こうで言うところのニュージーランドは大陸移動で海面に没した大陸の残り滓で、その大陸とその周辺の海面が隆起したらしい」

「なんでですか?」

「環境再生にコスモリバースシステムを使った際の重力異常で海面が隆起したせいらしい。隆起した大陸は、シドニーとキャンベラが消えた代替にする予定らしい」

23世紀世界はコスモリバースシステムの重力異常で海面の隆起が起き、ジーランディア大陸+αを現代に復活せしめた。これがウィッチ世界で言う南洋島に当たる大陸であろう。大陸の増加はアースノイドには好ましいことだが、スイートウォーターやサイド3の元ジオン系のスペースノイドからすれば、凶報だろう。宇宙大航海時代には、ジオン系のスペースノイドの持つ過度な反地球連邦政府的思想は時代遅れと見做され始めている。そもそも、本物の宇宙人と宇宙戦争を経験した地球連邦軍からはスペースノイドへの差別意識が自然と薄らぎ、ティターンズ系の派閥が反連邦軍閥のレッテル貼りを受けたように、次第に同志のはずのスペースノイドからも見放されつつあった。しかし、反連邦思想の『反統合同盟』に代わる受け皿としての歴史的役目だけは立派に果たしている。これは反統合同盟構成諸国の残滓がすっかり薄らいだ時代では、かつての『ジオン公国』はうってつけの反連邦思想の拠り所である証でもある。銀河規模の宇宙移民計画が実行されたため、ティターンズやジオンの掲げた理想はそもそも時代遅れとなった。シャアもそのあたりは理解しており、『父・ジオンの理想を実現する』とだけしか言及しなくなったし、シャアがそもそも父の理想に興味がないという致命的欠点がある。シャアは本来、『地球連邦軍大尉、クワトロ・バジーナ』として生きることを、心のどこかで望んでいたが、カミーユ・ビダンの崩壊で自暴自棄になり、ネオ・ジオンに走ったのが真相である。しかし、シャア(キャスバル・レム・ダイクン)がそもそも、『シャア・アズナブル』という人物が別にいたのを成り代わったり、ジオン軍大佐としての地位をなんだかんだで利用しているので、大尉という階級は不満がったのも事実だ。

「……しかし、シャア・アズナブルというのは難儀な男だ。クワトロ・バジーナに戻りたいのなら、ジオン軍の総帥という立場を捨てればいいものを。」

「ハ?」

「ああ、その大陸を隆起させる要因を作ったのが、ジオン軍というスペースノイド国家の軍隊でな。地球各地に甚大な損害を与えている」

山口多聞の言う通り、ジオン軍はコロニー落としでシドニーとキャンベラ、欧州のパリ、北米穀倉地帯をぶっ飛ばしている。パリについては、コロニーの破片が偶然、パリに落っこちたためで、これについては予想外であるが、結果的にジャミトフ・ハイマンがスペースノイドへ憎悪を顕にし始める要因にもなった(彼はフランス系だった)。本当はパリをジオン領にしたいと、マ・クベがキシリア・ザビに具申していたように、政治利用しようとしていた。しかし、不運にもパリはぶっ飛んでしまい、ジャミトフ・ハイマンをティターンズ結成に走らせる遠因を作ってしまった。パリが失われたことは、旧フランスには『ナポレオンの敗北以上の屈辱』であり、ティターンズの中枢部にいた士官の少なからずは仏系である。もっとも、ジャミトフ・ハイマンは自分が権力を握る口実に利用しただけだが、バスク・オムを重用したあたり、人を見る目がなかったと言える。ティターンズ残党もジャミトフの理念は正確に理解していないので、ジャミトフは指導者として落第と言わざるを得ない。しかし、思想家としてはシャア・アズナブルよりは上の次元にいたのは確かだ。(シャアはジャミトフ・ハイマンのように、世直しの目的でネオ・ジオンをまとめたのではないため、レビルに『ジオン・ダイクンの思想を理解していない不肖の小倅』と評されてもいる。つまり、指導者としては小物扱いである。つまり、現代の大物であったギレンと矛を交えあったレビルからすれば、シャアは『ダイクンの倅』扱いなのだ。)

「一年戦争で指導者のギレン・ザビが死亡した後は、精神的支柱であった思想家『ジオン・ダイクン』の息子(正確に言えば、正妻のローゼルシアに子ができず、愛人であったアストライアに子を産ませたので、キャスバル・レム・ダイクンは20世紀以前のアジア考えで言えば、『側室の子』にあたるが)のキャスバル・レム・ダイクン、今は数ある通り名の内、シャア・アズナブルを名乗っている男が指導者だが、ジオンという組織は根本的に、やることが非人道的な側面があるのだ、大尉」

「非人道的とは?」

「傷痍軍人を戦場に戻すために、義手や義足などを通して脳の思考によるMSの操作を可能にするリユース・サイコ・デバイス。今は医療用に研究が転用されたが、元々はモビルスーツ用の技術だ。たとえ健全な兵士でも、ガンダムタイプを倒すために四肢の切断を強いられるような狂気の産物だったそうだ」

一年戦争中盤に出現したガンダムタイプはジオンには『悪魔』そのものであり、いつしか『ガンダムタイプを屈伏させるための手段』が目的化していった末に、リユース・サイコ・デバイスのMSへの転用が行われ、実際にフルアーマーガンダムタイプの一体を倒した。だが、費用対効果の割が合わないのと、倫理的問題で、流石のギレン・ザビも推奨していない。また、ジオン系MSは常にどんなエースが乗っても、最終的にガンダムタイプに膝を屈する事が証明されているのも、ジオン系の人々には屈辱だろう。(アナベル・ガトーはガンダムタイプの搭乗経験があるので、内心では悔しがったとも)

「連邦軍は贅を尽くしたガンダムタイプに超人的パイロットを乗せて一騎当千させた上で、『常人用の量産型』にデータをフィードバックさせるのがお約束だが、ジオンに比べればまともだ。我々からすれば奇異な文化だがね」

実際に、ウルスラ・ハルトマンやフレデリカ・ポルシェなどの技術者は『贅を尽くしたスペシャルチューン機を少数のエースに与え、一般兵士は普及機というダウングレード版を使う』という兵器開発が常態の地球連邦軍に疑義を呈している。しかし、エースにスペシャルチューン機を与えるという文化はウィッチ世界にも存在し、マルセイユの事故の要因になった機体がそれにあたる。日本の一般層はその文化をアニメやSFの影響で押し進めている。言わば、『エースパイロットは優遇すべき』という考えを扶桑に結果的に馴染ませたのは、21世紀日本なのだ。突出した戦果を個人として持つ事を『教育上よくない』とした江藤が記者会見で日本のマスコミに叩かれた衝撃が扶桑軍航空にあったその流れを断ち切ったと言える。江藤は渡欧前、酔った勢いで陸奥に愚痴りまくったが、ある意味、広報部の思惑と他国への外聞の都合で多量撃墜者を対外的に持ち上げてきた扶桑軍航空の矛盾が突かれた結果、歪みが一気に暴発してしまうのだ。アムロ・レイは長門からの要請で、ダイ・アナザー・デイ中に『エースパイロットってのは有る機材でなんとか戦えてしまう人間が本来なるものなんだ。俺は機体に助けられなきゃ生き残ってさえいないよ。ただ、俺で無きゃまともに動かせない機体が有るのもそれで勝つのもまたエースの達成の条件かもしれないな』と声明を発表するが、江藤の間接的擁護の意味も含まれている。この声明は江藤が『エースパイロットを軽視しておらず、部下をきちんと評価している』とする事を間接的に示す意図を込めてほしいと、長門が言ったのを受けて、アムロがひねり出した声明である。江藤は確かにスコアの調整などで、後から考えれば失点を犯したが、部下たちの叙勲はきちんと推薦文を書いているように、部下の努力を讃える軍人である。アムロも黒江や智子が冷遇された理由を『現場が転属者の経歴を調べないのが悪い』としており、黒江達の経歴そのものが現場に共有されていなかった扶桑軍の人事システムを酷評しているように、アムロは江藤に不満がある二人を諌めている。江藤の不幸は、元部下たちが転属し、その前歴を調べようとしなかった転属先の人間たちの傲慢にあったのは事実だ。黒江は前歴が『天皇陛下の寵愛を受けた撃墜王』と分かった途端に厄介払いされ、智子はスオムスでの戦果が秘匿されたせいもあって、本国でお局様扱いだったが、それは江藤のせいではない。黒江の場合は転属先でグレーテ・ゴロプに蔑まれ、遂には悲劇を味わったが、それはゴロプの傲慢が招いたことだ。智子は黒江よりも、お局様扱いで江藤に不満がある。ある意味、モントゴメリーの『選択ミス』が招いた悲劇である。それと同時に、智子に『生きることは戦いである』事を再認識させた出来事である。智子はかつての功績が再度知れ渡った途端に、周囲が掌返しをするのを体験したために自分の評判に不信感を持っているため、人気がありながらも『メディア露出が少なすぎる』と広報部に愚痴られることになるが、智子は実質的な変身である『覚醒』を有するため、割合、写真は多めに撮られている。前史であったリスクが気にならなくなったので、使用回数は増えており、自身の後継者『穴拭麗子』と見分けをつけるためもあって、変身していた。

「お。見給え。智子くんの固有魔法だ」

「やはりアレが……」

「智子君の真の力だよ。幾度かの転生で得られし力らしいがね」

映像に映し出された智子の様子。固有魔法『覚醒』の究極とも言うべき姿を見せており、ある意味、黒江よりは『ウィッチの本懐』を遂げている姿だ。智子は青い髪と炎のようなオーラと銀の瞳の姿こそが全力全開の状態であるが、今回でも事変最終決戦とスオムス防衛戦以外には見せていなかった。若本のお株を奪う上、事変当時のストライカーユニットでは、負荷に耐えられずに分解したからだ。しかしながら、フルポテンシャルを出せる状態であるため、クロックアップ(ハイパークロックアップ)やアクセルフォームと同等の物理的加速も可能となる。ナインセンシズに達した事も考えれば、実質的に加速限界は存在しない。智子がアクセルフォームと同等の物理的加速を起こすと、それと同等の加速を起こさなければ、視認すらできないので、シンフォギアを展開していたはずのクリスすら置いてけぼりになる。

――戦場――


「智子のばーちゃんが消えたぁ!?」

「あー、智子さん。アクセルしたな?10秒くらいで見えるようになりますよ」

「お前は見えてんのかよ!?」

「同じ次元に到達しましたし」

「お前、シュルシャガナ使う意義あんのかよ」

「今となっては普段着みたいなものですからね。私も足のローラーはあまり使わなくなりました」

「ったく、お前といい、綾香のばーちゃんといい……シンフォギアいらねーじゃねぇか」

愚痴るクリス。黒江と敵として戦った際、黒江に容易く背後を取られた思い出があるからだろう。仕方がないが、シンフォギアは身体能力向上と保護目的のプロテクターとしての性能はISを超えるが、聖衣には及ばない。

「師匠曰く『良いウェイト』ですって、シンフォギア」

「っぁー!なんだよそれぇ!」

「だって、普通に走っても光速出せますし、シンフォギアのバーニアやローラーより早くなりますし」

「嘘だろ!?」

「最近は天の鎖の使用権を交渉してるみたいだし、アレ使うと、響さんがイグナイトモジュール状態の出力限界でスラスターを全開にしても微動だにしないと思います」

「天の鎖?」

「英雄王が持つ『神を律する鎖』ですよ。アレで拘束されたら、たとえイグナイトモジュールでも押さえつけられます」

調が言及した天の鎖。英雄王が用いる宝具であり、それを用いた場合、シンフォギアのイグナイトモジュールを用いたとしても、為す術無く拘束されると。実際に数年後、使用権をネゴシエーションで得た黒江が使用したところ、イグナイトモジュールを発動し、推力全開の響Bと切歌Bを瞬時に押さえつけ、二人がスラスターを全開にしても脱出どころか、逆に締め付けられる結果になるのだ。

「嘘だろ!?」

「打ち破るには神を超え、悪魔も倒せる豪腕が必要ですし、先輩たちにそこまでの力出せます?」

「……」

答えに詰まるクリス。言い方は悪いが、天の鎖はたとえ神格であろうと拘束する宝具。打ち破るには神レベルの豪腕が必要であるため、シンフォギアでそこまでの出力が出せると言うと、わからない。響が奇跡を起こせば可能かもしれないが、シンフォギアが自壊する危険もつきまとう。宝具の力をシンフォギアとして制御しきれなくなるからだ。黒江が全力をシンフォギア姿で出さなかったのは、黄金聖闘士としての全力を出すと、シンフォギアの媒介に使われし宝具の力が開放され、シンフォギアとしてのカタチを保てなくなる危険を考えたからだ。調も聖闘士候補生(当時)になった以上、その危険は認識しており、攻撃宝具を用いる時の身体保護目的に纏っているにすぎなくなっている。

「私と師匠が覚醒めた『小宇宙』は神を守護し、敵対する神々を滅ぼせる『神と同質の力』です。そして、師匠や私が持った力は『外部からシンフォギアのリミッターを外せる』諸刃の剣でもあるんです」

実際に、黒江はサウンドエナジーを高める方法で簡単に三億を超えるシンフォギアのリミッターを外しているので、小宇宙を燃やせば、シンフォギアの限界にすぐに達する。宝具がシンフォギアとして再構成されているのを『あるべき姿』へ戻してしまうこと。小宇宙の開放はシンフォギアには諸刃の剣になり得る。実際に、邪神エリスが放ったゲイ・ボルグのパワーに響のガングニールが刺激され、ガングニールとも、ロンギヌスともつかぬシンフォギア世界での構成要素のため、ゲイ・ボルグの直撃は避けたものの、ゲイ・ボルグに押し負けている。

「小宇宙は……あいつのガングニールでも同じなのか?」

「ただ、響さんは話に聞く限りは奇跡ですよ。ゲイ・ボルグの因果を捻じ曲げられたんですから」

「ゲイ・ボルグ…?」

「ケルトの大英雄だったクー・フーリンの持っていた槍です。貫く因果を先に造る宝具なんで、響さんの特性が相性良かったんでしょうね」

調は黒江から伝え聞いたため、推測になるが、この時期には宝具についても知識を持つのが分かる。

「アイルランドの大英雄ですからね、彼は」

「アンタと肩を並べる存在ってことか?アルトリアさん」

「アイルランドにいるなら、私より強いですよ、多分」

アルトリアはブリテン、クー・フーリンはアイルランドと、故郷では加護により戦闘力にブーストがかかる場合がある。アルトリアも、戦場が欧州であるが故、エクスカリバーのインターバルが通常より短いという恩恵を得ている。

「私は後世で言えば、一介のイングランド王ですからね。失敗だらけの」

「自虐的ですね」

「息子と相打ちになれば、ねぇ」

アルトリアは自虐的な面を多く見せるが、基本的には王としての風格を自然と見せられる。ハインリーケが融合を選択したのも、アルトリアの姿に憧れたからである。アルトリアが生前より俗っぽくなったところがあるのは、ハインリーケの要素が入った証であった。当人の意識した振る舞いもあるだろうが、一介の少女としての素は意外に歳相応なのだ。

「おかげでヒスパニアに大きな顔させましたが…数百年くらい」

「いいじゃないですか、カスティーリャ継承戦争が終わったの、ペドロ一世の100年後くらいの話だし、無敵艦隊はネルソン提督の奮戦で海の藻屑だし」

「なんだよ、カスティーリャって」

「後で、青○保子のアルカサル-王城-でも貸します」

調は青年のび太の勧めで『アルカサル-王城-』という漫画を買い、その関係でヒスパニアに詳しくなったらしい。

「ネットでwiki見てもいいかも知れませんね」

「相互補完でいいかも」

と、アルトリアも同意する。イングランド王がヒスパニアのカスティーリャ継承戦争の下りが舞台の漫画を読むのもシュールだ。アルトリアは同じ漫画家の『トラファルガー』、『七つの海七つの空』を読破済みであったので、調と話が弾む。漫画だと脚色も入るので、インターネットで相互補完を行うのがのび太成人後の歴史漫画の楽しみ方らしく、直伝されたらしい。

「なんかシュールだな…」

「仕方ありません。私が生きていた時代は5世紀くらいですからね」

アルトリアのぶっちゃけに閑古鳥が鳴くクリスだった。英霊も人間であるので、時代相応に生を愉しむ。それがクリスには新鮮だった。生前の超然とした振る舞いを、ある世界で『臣下を救おうとしなかった』と『征服王』に指摘された反省か、相応に少女としての姿を見せるアルトリアだった。



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