外伝その220『勇壮7』


――グレンダイザー、マジンカイザーと共に戦うことになったシャーリー。一定時間、ほんもの図鑑から取り出した紅蓮聖天八極式を使用してその構造などを解析し、ほんもの図鑑のセーフティ時間が来ると、一旦、機体を降りて構造などを解析して、自分で機体ごと作った。Gウィッチの能力はこうした事にも応用できるが、キューティーハニーと違い、機動兵器の製造はかなりの精神集中を要するため、聖闘士になったメンバーほどは多用できないという弱点がある。(逆に言えば、聖闘士になった者は空中元素固定の一日の使用回数に制限がない)

「ふう。ほんもの図鑑に戻してっと。シャーリーちゃん。そっちはどうだ?」

「OK。だいたい、こんなもんだろ」

「のび太とドラえもんから預かっておいて正解だったぜ。時間制限があるなんて」

「おおよそ24時間ごとらしいけど、壊すとそのままだっていうし、めんどくさいからね。大介さん、機械獣は?」

「スペースサンダーで蹴散らしたら撤退していった。数時間は稼げるだろう。その間に休憩を取っておこう。コックピットに入って仮眠を取るんだ」

「了解」

デューク・フリード、兜甲児、シャーリーの三人はそれぞれの機体のコックピットで仮眠を取る。このスーパーロボットの大乱舞は逆に言えば、『彼等に頼らなければ戦線を維持できない』という事実の表れであり、一部の急進的ウィッチにはこれを屈辱と捉える動きがあった。しかし、マジンエンペラーGなどの有する超絶パワーが『地形を変える破壊力』で示されると、戦場でウィッチの出る幕が殆ど無い事に気づいていく。人型機動兵器が乱舞する戦場では、ウィッチは有象無象に過ぎないという事だろうか。

「大介さん。若い連中が堰を切ったようにMATに行ってるけど、これ、説明できる?」

「事は単純だ。MATは従来の常識を適応できる。つまり、10代の内にやめるのも自由で、年齢が一定になれば、後方に下がる。その常識が生きている世界に逃げたくなるのさ。そのうち、軍歴に準ずる扱いの職歴になるだろうしな」

デューク・フリード(宇門大介)は、MATが近い招来に軍歴に相当する扱いの職歴として処理されるであろうとする。実際、二代レイブンズの時代には『軍に行かない場合の代替服務』として扱われているMAT。その頃にはベトナム戦争後である事もあって、組織としては衰退期に入っているMATだが、この時期は黎明期かつ勃興期であり、前途有望とされた軍の中堅層が部隊ごと移籍した例も多い。それがGウィッチの強大すぎるまでの特権が許された理由であり、扶桑軍部に残った古参航空ウィッチの八割が64Fに集中された真の理由の一端である。古参を教官として分散して派遣できるほど部隊が存在しなくなり、東二号作戦の頓挫で人員の一部は明野飛行学校などの教育部署にも戻れなくなったため、編成凍結が解除される64に残された古参兵をぶっこむ事。そういう軍の切実な事情も64の強大化の容認の理由であった。東二号作戦の頓挫は扶桑軍もクーデター抑止の手段と見込んでいたため、大きく落胆する羽目となる。しかし、ウィッチらを代替するどころか、それ以上の働きをするスーパーヒーロー達が日本から有志で続々と参加してくれたのは、日本にとっては胸を撫で下ろす事柄であった。日本警察も23世紀で機動刑事ジバンが復活している事を知らされ、彼は地球連邦警察に所属しているために地球連邦に出動を依頼するなど、動きを見せる。警察系勢力の名誉挽回に『機動刑事ジバン』を利用するというのも虫のいい話だが、かつての『レスキューポリス』を解散させて久しい日本には、もはや、ジバンしか頼れるヒーローがいない。90年代前半に現れた『特捜ロボジャンパーソン』は日本警察が廃棄した戦闘用ロボを出自にするが、基本はアウトローに近い立ち位置のヒーローであるので、機動刑事ジバンこそが日本警察に残された、唯一のスーパーヒーローであると言え、日本警察に残された、扶桑への贖罪の手段であった。




――機動刑事ジバンとはかつて、日本が好景気に沸いていた時代、超人機メタルダーなどの旧日本軍の最終兵器の技術と組織から得られた改造人間の技術を組み合わせて立案されていた『ジバンプロジェクト』の産物であり、日本警察史上最強のワンマンアーミー。当時の日本は犯罪の高度化が危惧されており、その鎮圧のために求められた。だが、サイボーグ化という点が警察内部で議論を呼び、プロジェクトは中断された。この時にプロジェクトの賛成者には正木俊介警視正(当時。後に警視監)がいたりする。中断された際には、ジバンのサポートドロイド三体の人型ボディの設計図が完成しており、一番設計が遅れていた個体の外装をパワードスーツの外装に使用した。それがウインスペクターのファイヤーである。ウインスペクターの装備にどう見ても武器なものが多いのは、元はジバンのパワーアップ用に開発中だったモノが横滑りでウインスペクターの装備として完成したからである。ジバンの素体になったのは殉職した刑事で、死人を改造した点で『エイト○ン』の東八郎を想起させる。人間としては死んだが、機動刑事ジバンとして甦った田村直人警部(ジバンになった後は警視正)。彼はドクターキバという人が作り出した廃棄物に意思が宿り、ドクターキバと名乗った生命率いる犯罪組織と戦い、犠牲を払いつつも、これを殲滅した。戦いが終わった後、行方を眩ませていたが、これは施術を施した五十嵐博士の死亡により、ジバンとしての調整は完全には受けられず、機能停止が危ぶまれた事も関係していた。彼が23世紀にいる理由は銀河連邦警察にあり、ジバンの存在を掴み、銀河連邦警察にスカウトし、バード星の技術で修理されていたからである。その際にさらなるパワーアップが施され、コム長官は『ストロングジバンだ!』と述べている。日本警察の記録によれば『平成の初頭に行方を眩ませた』とあったので、1989年に銀河連邦警察にスカウトされ、それ以降は三大宇宙刑事の同僚となり、宇宙全体を守っていた事になる。また、銀河連邦警察は戦士シャイダーの終焉の地であるためもあって地球を聖地と見ている。ウィンダミアが手を出そうものなら、銀河連邦警察までも敵になるということだ。最低でも、ジャスピオン、スピルバン、ギャバン、シャイダーが攻め込んでくるという凄まじい光景だ。ウィンダミアの穏健派はゲッターエンペラーの存在を恐れる一方、地球が戦士シャイダーの終焉の地であり、銀河連邦警察が聖地として崇めている事から、強硬派を抑えこもうとしている。銀河連邦警察はその中枢部に地球人がかなり入り込んでおり、コム長官からして、親地球派である。ウィンダミアの血気に逸る強硬派を国王が抑えているのは『地球が本気になれば、銀河連邦警察と連合し、ウィンダミアを星団ごと消すか、物理的に握りつぶす』事を王が恐れているからだ。地球の軍事力をガトランティス戦役で過大評価した現在のウィンダミア王は『同空域の連邦軍には恨みはあるが、地球本星の人間には罪はないし、アースフリートは強大すぎる』という冷静な判断で戦争を避けていた。地球本星の人間は最近の宇宙侵略の連続で、医学が飛躍。たいていの宇宙病を克服してしまい、宇宙放射線病も脳死に至る前であれば治癒可能になった。それが地球連邦が銀河連邦の理事国に短期間で登りつめた理由である――











――黒江の強さは成り代わっていた期間、敵対していた全てのシンフォギア装者を寄せ付けないことで、響たちへ示されていた。黒江は山羊座の黄金聖闘士。いくらシンフォギア装者が奇跡を起こせると言っても、根本的な速度などが上がるわけではない。黒江はナインセンシズで超光速に達しているため、根本的なスペックは他の装者を問題にしない。その事は事が終わった後も語り草である――

――戦場――

「智子のばーちゃん」

「何、クリス」

「綾香ばーちゃんがいた時の事話していいか?」

「いいわよ。夜は暇だし」

クリスは語り始めた。黒江はまだ自分達の側についていない頃、自分たち二人、マリア、切歌の三人を向こうに回しての立ち回りを見せ、それが切歌を図らずしも絶望に追い込んでいた事を。

「ありゃ、綾香ばーちゃんが来て、ちょうどあたしらが追ってた頃かな。ばーちゃんが山羊座の聖衣呼び出しやがって。あれであいつ(切歌)がパニクったんだ」

黒江は自身の聖衣を呼び出したこともある。ちょうど、射手座の聖衣を纏う頃よりは前の時間軸、切歌が気が触れたらしき『イッてる』言動で襲いかかった事があり、イガリマの絶唱をその時に初めて防いだという。

「で、その頃はあのバカが体に宿ってたガングニールを失った直後だから、先輩とあたし、それとマリアとあいつの四人が別々の事情でばーちゃんに立ち向かった。どうなったと思う?」

「瞬殺でしょ?」

「いくらなんでもそれはねぇよ。それなりに戦えたぜ。手加減されてたと後で分かったから、先輩は凄く不満気だったぜ」

「あの子、妙に『武士』を気取ってんのよね、翼。こっちは曾祖母さんくらいの代に本物の武士だったけど、あそこまで仰々しくないわ」

「なんかさ、ばーちゃんが物凄い形相で大上段から刀を振り下ろす一瞬、先輩、青ざめてたんだよ」

「綾香は示現流皆伝よ。いきなり全力だから、すごい殺気を感じたんでしょう」

黒江は示現流皆伝の腕前であるため、最初から本気で斬りかかる。黒江はわざと照準をずらしたが、振り下ろされた際の鎌鼬のような衝撃波で天羽々斬のギアを損傷させている。風王結界を纏わせた斬艦刀で斬ったため、空を切っても、衝撃波で地面に大穴が開くのだ。」

「で、先輩はそれで打ち合ったんだけど、炎を纏わせた必殺技をその場から微動だにしないで躱された時は目が点になって、青ざめてた」

「あの子は光速を超える動きができるわ。零コンマでも時間があれば躱せるわ。白刃取りも思いのままよ」

「で、先輩が二撃目に入ろうとしたその時、指二本の白刃取りで天羽々斬のアームドギアを止めてた。先輩は足のスラスターを吹かして押したけど、びくともしないで、逆に自分が刀を払われた」

黒江は黄金聖闘士である。その気になれば、全力で突っ込むタンクローリー車を腕一本で強引にストップ(氷河は乗用車を止めた事がある)させたり、特急列車さえも止められる。翼がホバー代わりに使う足のスラスター程度の推力では力の足しにならない。。そのため、スラスターは虚しく噴射炎を上げるだけであり、シンフォギアの身体強化の全力を加えても黒江をひるませることすらできなかった。

『斬艦刀を開くまでも無いか。意気込みは買ってやる。それに免じて、あるヒーローの技を手向けにしよう』

黒江は白刃取りしていた腕を動かし、翼の刀を払うと、斬艦刀の刀形態で新・飛羽返し使用した。太陽の光が煌めく一瞬、十文字に斬られる翼。この時にアームドギアを吹き飛ばされ、コンバーターを外しての胸部をアンダースーツごと斬られた。場所が場所なので、黒江は完全に狙った。

「綾香のばーちゃん、器用に斬りやがってさ、先輩、妙にスースーする事に気づいて、見たら…。剣の腕がいいからってなぁ…」

「あら、服だけ切ることこそ、剣技の極意よ。あたしもできるわよ。剣技で売ってたんだし、あたしと綾香」

「で、マリアが槍で来て、ビームを撃ったら、ビームの軌道を拳を払うだけで変えて、なんか電気をバチバチさせてなんか撃ったんだよな」

「超電磁砲ね」

「マリア、数mは吹き飛んだかな。当たった箇所が黒焦げになって、マリアの体を余った電気がバチバチ走っててよ…」

「シンフォギア着てなかったら即死するわよ、それ」

「マジかよ」

「最低で10億Vの電圧だもの。超音速で金属プラズマをばらまくようなものよ」

「それであいつがなんかこう、口で言いにくい状態になって、絶唱を使ったんだ。ありゃ完全に殺る気だったと思う」

「それで調が記憶の感応でドン引きしたのね」

クリスが言うように、その時の切歌の心理状態は思い込みが取り返しがつかないレベルに到達していた。歴史上の人物で言えば、伊達政宗の母であった義姫の政宗小田原参陣直前の際の追い詰められた精神状態に似ている。『フィーネに乗っ取られた』。その思い込みが切歌を狂乱に走らせた。黒江が面と向かって否定してさえ、この始末だったため、黒江はうんざりし、山羊座の聖衣を呼び出して撃退しにかかった。切歌の全力の一撃は魂も切り裂き、物理的防御を一切無効化するという触れ込みだったが、より上位の宝具を概念武器として有する黒江には通じなかった。

山羊座(カプリコーン)黄金聖衣(ゴールドクロス)、神の垂れし恩寵と人の技術の混じり合う神の力分けたる神器、朽ちた遺物の欠片に遅れをとる物かよ!』

一瞬で黄金聖衣を纏い、それに覆われた右腕はイガリマの鎌の切っ先を完全に防いでいた。切歌の絶唱は乗れるほど大型化したイガリマの切っ先で相手を一閃するはずだったが、イガリマの刃の方が黄金聖衣に負けてへし折れるほどだった。これが明確にイガリマがエクスカリバーに押し負けた初の例だった。

『なんで……なんでデスカ!?イガリマは絶対鋭利の鎌…。魂でも切り裂けるはずなのに!?』

『イガリマだぁ?イガリマは斬山剣で鎌なんかじゃねぇよ。あいにく、俺の右腕は聖剣だ。そんな宝具の変異物くらいで、対軍・対城宝具の聖剣に立ち向かえるかよ』

ここで黒江は初めて、一人称を俺とした。調の容姿かつ、同じ声色でいうものだから、インパクトがあった。切歌はイガリマが通じないショックと、『俺』という黒江の発言で完全に夢遊病者のような状態になっており、それが元で理性を失うが、暴走を危惧する翼とクリスを制し、黒江はこの技でその場の切歌を黙らせた。

『ファルコン・ブレイク!!』

超獣戦隊ライブマンのレッドファルコンの必殺斬撃『ファルコンブレイク』だ。この技は黒江より先に、レッドファルコンこと天宮勇介と親交がある武子が覚醒後の最大技にしている。事変中の覚醒こそ逃したが、覚醒後はこの技を愛用している。自分の好きな鳥が隼である事も関係している。

「――ファルコンブレイクって、もしかして……」

「ええ。超獣戦隊ライブマンのレッドファルコンの技よ。綾香、彼等の技を真似して覚えるの得意なのよね」

「ばーちゃん達、ヒーローの技を完コピできるのかよぉ!」

「ええ。ケイは光戦隊マスクマンや五星戦隊ダイレンジャーとかに、あたしや綾香はオーソドックスなほうよ」

智子のいうように、ケイは銃撃の他に空手や中国拳法などを光戦隊マスクマンや五星戦隊ダイレンジャーなどに教えを請い、素手での格闘術も一流になっていた。黒江、調が赤心少林拳であるのとは別系統になるが、鉄拳オーラギャラクシーを放つ事ができるのが圭子の成果である。四人は遠近に隙がないが、その更に上位互換の赤松には敵わない。

「姉御にはそれでも敵わねぇよ。姉御が本気になりゃ、一瞬で13万の軍勢を消せる」

「圭子、あんたも赤松先輩の前じゃねぇ」

「まぁな。あの御仁には敵わねぇよ」

圭子がやってきた。容姿は素に戻しているが、キャラは変えている。赤松が単純な戦闘力で言えば、Gウィッチでも最強レベルである事を言う。少なくとも圭子を有に上回る領域にあるのは確かだ。


「あたしらの次元じゃ、0コンマの違いでも優劣のつくレベルだ。クリス、テメェのようなガキでもわかるだろう?お前たちは戦闘状況下で綾香に指を触れられたか?」

「……誰も無理だった。シンフォギア纏ってるのに、全然見えねぇ攻撃、尽く上をいかれる読み…。赤松って御仁はよ、あんた達の上を行くのかよ」

「言うなら、超サ○ヤ人の1と2くらいの差だ」

「わかりにくいぞ、それ」

「なんだよ、せっかく少年ジャ○プで例えてやったんだぞ。空条承○郎と東○仗助よりはわかりやすいだろー」

「なんか例えるのがズレてるような」

「お前、北○の拳の世代じゃねぇだろ」

「あんただってそうだろー」

「つーか、ジ○ジョだって読者層、男子多いだろー?それも三部や四部なんて、もう昔のことだし」

「2010年代後半にアニメ化されてると思ったけど」

「マジかよ!?」

妙な会話だが、クリスは少女漫画とバトル系漫画が好きという相反するような趣味を持つようだ。圭子は性格が性格であるものの、漫画に関してはバトル系やガンアクション好きであるため、合うところはあるようだ。

「でもさ、あんたらの時代はの○くろが流行ってた時代だろ?よく戦後の漫画に適応できたよな」

「あたしらの時代は硬派軟派の意味も違ってるからな。漫画読んでるだけで軟派に入る」

「……時代が違うって恐ろしいな」

「この時代は倫理観も180度違って、滅私奉公、七生報国なんていう単語が当たり前に言われてるかんな。観光に来てる日本人がクリスマスとかやろうとしたら議論が起こるような風潮だし、ある意味じゃ息苦しいかもな」

日本連邦になり、だいぶ戦後の自由な空気が入ってきたが、扶桑は元々、武士時代の雰囲気がまだ残っていた国であるため、戦後の自由主義的風土へに反対する声も根強い。ただし、クリスマスなどの風習は大日本帝国よりだいぶ根付いていたため、一部の者以外は反対していない。むしろ、経済を回せるので、国が推奨している。

「あたしの家はお袋が反対してたけど、親父がやらせたらそのまま根付いたんだよな、クリスマス。お袋は熱心な仏教徒だけど、親父がクリスチャンっていう不思議な夫婦なんだよ」

圭子は母親が仏教徒、父親がクリスチャンという面白い家庭らしい。クリスマスが扶桑で完全に根付いたのは、事変のクーデター後にできた第一次吉田内閣の際の内務大臣が『祭り名目で騒いでくれれば、戦争への不満のガス抜きになるだろう。締め付ければ良いと言うものでも無いからな』ということでクリスマスを推奨しにかかった結果である。ここが扶桑が大日本帝国より開明的である証明だった。日本が戦後に国家統制に反対する世論が強固にあるのは、戦中に締め付けすぎ、そこまでしてボロ負けしたトラウマであるため、扶桑はその点、精神的余裕がある。

「で、あたしらがクリスマスを基地でしたら、一般人もやり始めた。メディアは影響力あるからな。特にラジオ」

「ラジオぉ?」

「テレビはまだ出たての頃だしな」

「1940年代って、そんな時代なのか」

「飛行機だって、まだ富裕層専用みたいな風潮あるし、豪華列車も一般人が安々と乗れる時代でもねぇしな」

扶桑は大日本帝国より国民の平均生活レベルは高めで、史実戦後の高度成長期に入る頃の日本に相当する。日本よりは国民の階層がはっきりと存在すると言えるが、日本は扶桑の生活レベルを向上させようとしている。戦時体制構築が半ば頓挫したのは、戦時であっても、普通の暮らしをさせようとする圧力があったからで、扶桑の商工省(経済産業省と統合し、日本連邦・経済産業省となる)は窮している。しかし、日本企業が後世の効率的手法で生産性と品質を上げていくため、結果的にかつてのハ40や誉のような事態は起きなくなり、軍事用レーションも日本式に統一される。ダイ・アナザー・デイはその黎明期と言える状況であるが、パイロットや戦車兵は日本軍/自衛隊出身義勇兵で賄っているところが大きく、原型通りのチトが使われた唯一無二の戦場でもある。皮肉な事に、戦場からの回収が内定したその日に、M4シャーマン10両を撃破したという戦果を挙げたという。いくら相手が初期型とは言え、史実で見込んだ性能は発揮したというので、日本側で議論が起こったのだ。日本側の安全保障会議で起こった様子を見てみよう。


――2019年の正月明け――

「今日は現地に残置するこの戦車についてでです」

「旧軍式戦車ですな」

「四式中戦車。戦中では一番マシな、完成した戦車です」

「なんだ、ただの屑鉄か」

「カタログスペックはチハやチヌの比ではなく、M4中戦車には充分に対抗可能な水準です。あなた方はこれも回収してしまったのですよ」

「所詮は旧軍の屑鉄ではないか!トーションバーも砲塔バスケットもない!」

「当時の技術水準を考えて発言してもらいたいものですな」

「なんだと!」

「砲塔バスケットも、トーションバーも当時の最新技術。陸軍後進国の日本相当の国が使っているとでも?」

当時、トーションバーはカールスラントで採用されていたが、リベリオンでもまだこの時期は大々的に採用されていない。M26でようやく採用されたという技術であり、サスペンションに独自手法を用いていた扶桑が採用していないのも当然であった。砲塔バスケットもチトには採用せず、チリで採用していた。そこに日本が横槍を入れたが、仮想敵は扶桑の現場にとってはピンとこない戦車である。特に『T-34-85』や『IS重戦車』など影も形もない。逆にM動乱で飛躍的に強化された機甲師団にオラーシャ帝国のほうが戦々恐々になり、T-34のリバースエンジニアリングを行おうとしていたほどだ。

「現地の状況下では、T-34後期型すら開発段階にも達していないのですよ。前期型がようやく出始めたというし、75ミリ砲に高性能砲弾を使えばいい話だ」

「そうやってあぐらをかいていたら、M26が出たではないか」

「それは通常兵器が主体のこちらでの話ですよ。ウィッチ装備を主体にする、かの世界では通常兵器など二の次だ。航空機で数年遅れなのですよ」

日本側が主張する重戦車はウィッチがいる世界では、その重要性が疑問視される。潜水艦のXXT型が軽視されていたのも、『怪異との戦いにそんな性能はいらない』とウィッチ閥が主張したからだ。彼等の議論は扶桑軍人から見れば馬鹿らしく見えるものである。しかし、日本側にも難点はある。『最新の機甲兵器は数を用意できない』という点だ。大戦のような消耗戦は起きえないとされているため、自衛隊式最新兵器は大量調達がほぼ不可能である。

「それに我々の現用兵器は大戦のような消耗戦に投入することなど想定外なのです。いたずらに旧式と回収しても、現場にそれを代替する装備を送れるのですか?」

陸上幕僚長が言う。実際、戦後の進歩した装備は少数精鋭が志向されているため、大戦のような大規模投入による消耗戦は想定されていない。大戦中はそれこそ一回の戦闘で数十両は破壊されるのが常だ。

「現地の雇用を守ること、現地軍需産業の不満を逸らすため、また、現地の装備調達の利便性を考えますと、現地で生産するか、旧軍式戦車をどうにかしてアップデートしなければ、太平洋戦争は戦えません」

この指摘が顧みられるのは、結局、太平洋戦争開戦後の駒不足が顕著になってからであった。結局、宮菱重工業に『トーションバー&砲塔バスケット完備のチト改』を廉価な戦車として生産させる羽目となる。強力だが、高価な七式中戦車(74式戦車の独自改良型)だけでは機甲戦力の数を揃えられなかったからだ。当時は戦力の近代化を志向していた事務方が優勢であった。扶桑に74式を生産させて近代化させ、重戦車・旧来型中戦車を駆逐する思惑があった考えには、一定の説得力があった。しかし、『戦いは数である』と、未来世界でドズル・ザビが述べたように、数を揃えなければならない局面も多い。そのため、チト改は一挙に具現化するが、黒江が憤慨したように、『90ミリ砲搭載になってしまった』ので、従来式よりは高価となってしまったりする。このチト改良計画はダイ・アナザー・デイの最中には立ち上がっていた。その習作として、自衛隊61式戦車を『砲戦車』名目で60両調達し、三式砲戦車の代替として緊急配備している。この運用データが伝わった結果、90ミリ砲戦車に変わったのである。日本の三菱重工業の厚意であるが、扶桑の統合参謀本部にはありがた迷惑でもあった。75ミリ砲弾が30万発ほど余ったからだ。その処理で生み出される兵器がバスターウィッチ用の破砕砲であり、砲弾のラインはそれ用になり、以後、時代と共に一世代前の戦車砲を母体にする手法が定着したという。


「――でもさ、あいつらってなんなんだ?ナチスの残党って……」

「正確に言えば、日本神話の神の一柱がナチスを操っていて、その神のための軍団に変容したのがあいつら『組織』だ」

「なんだって!?」

「スサノオノミコトが組織の首領で、アドルフ・ヒトラーってちょび髭は奴の傀儡だ。パーキンソン病で見放されたようだがな」

ここで圭子はクリスに『アドルフ・ヒトラーはジュド(スサノオノミコト)の傀儡であり、ナチスはスサノオノミコトの思想を実現させるために変容し、現在はその思想のもとに動く第三帝国や大日本帝国の生き残りらである』事実を告げた。旧枢軸国の二大国の軍隊の怨念をジュドは自ら統率し、連合国が作った世界秩序に挑んだ。そう考えると、第二次大戦はまだ終わっていないとも言える。

「つまり、昔のドイツと日本の怨念は死んでないってのか!?」

「ヒトラーは死んだし、日本帝国はこの世から消えた。だけどな、戦前からの手のひら返しで困窮した軍人は負けた側に多い。その手のひら返しを恨んでた軍人も日独には多い」

「それだけでかよ!?」

「ランボーも言ってたろ?100万ドルの兵器使えても、故郷ではガソリンスタンド店員にもなれないって。日本の場合は特に穀潰しみてぇに扱われたしな」

日本が地球連邦時代に至るまで軍人の扱いに慎重になり、ピースクラフト政権下でも防衛力の必要性を説いていたのは、日本軍解体後に結局、自衛隊を作った経験からである。軍事教育を受けた人材は警察官を充てがっただけでは代替できない。この事実を日本は経験で知っていた。自衛隊を慌てて作ったのは、当時の吉田茂首相がイスラエルのモーシェ・ダヤンに『元日本軍人のナチス残党への合流を止めろ』と嫌味を言われた事も関係していたらしいとの事。これに窮した吉田茂が旧軍人の復権を始めたのだけは確実で、ダヤンは社会不適合者のレッテルを貼られた日本軍人達がナチス残党へ続々と合流していた事を知っており、当時の日本の責任者である吉田茂を責めた。だが、吉田茂としても心外ではあった。日本軍解体当時は一介の大臣であり、また、軍部に弾圧された経験もある自分がなぜ、戦中には存在していなかった国に鬼の首を取ったように責められるのか。これは吉田も怒り、口論となったが、職にあぶれ、大量の失業軍人が極道になるなどの誤算が生じていた当時の状況下では、吉田も治安悪化を懸念していたのは確かなので、警察官に軍事も担わせる思想が頓挫したためもあり、旧軍人の復権を認めざるを得なくなった。扶桑の吉田茂は同位体の『変節』をこう統轄している。『俺ぁ当事者のようで当事者じゃねえから言い切れやしねえけど必要だから割り切ってやった事だし、不都合だとなったらてめぇらで変えりゃ良いんだ。大体どっかの国に国防丸投げなんて属国だからな。そっちの俺は戦争に負けて復興するまでは壊した連中に責任もって守らせようと考えてたんだろうな、俺でもそうするが、将来的に憲法改正と安保条約の改定で最低限の防衛力復旧で良いんじゃないかと考えるしな』と。実際にその当人でさえ、自分の敷いたレールを敷き直す事ができぬじまいであったという日本の政治的状況を属国と言い切る辺り、戦前人である吉田。日本は自衛隊が自衛隊であるのを望む一方、経済規模に比例して、質がもはや世界一流の軍事組織になっている事の矛盾で国民が割れていた。アメリカが斜陽になった一方、軍事的負担をしろと言われるのに嫌気が差していた政府が2000年代初頭に考え出したのが『日本連邦』である。日本連邦としての派遣なら日本国としての軍事行動にはならないし、扶桑軍が数的主力になることでのメリットもあったからこそ、与党の歴代政権は実現に邁進してきた。しかし、実際にできたらできたで、数の少ない自衛官を優位にするためにローカルルールを作ろうとしたり、野党が扶桑の方針を変えようとするなど、シッチャカメッチャカな実情を露呈している。扶桑がマスメディア向けに『元帥の階級を運用再開』したり、自衛隊が退官間近の将官を遺留するなど、人的混乱も招いている。(元帥は日本では称号であり、大将との優劣は特にないはずだが、日本側に理解してもらえず、当時に元帥である者たちが精神的に疲弊していた事もあり、結果的に運用再開をせざるを得なかった)扶桑には大将も大量にいたため、自衛隊も均衡的意味で将を増加させざるを得なくなり、黒江の将への昇任はその意味もある。扶桑も、黒江のその昇任こそが予想外で、軍部が准将を認めたのも、『自衛隊の最高位を佐官扱いすると、日本政府に自分達の首が飛ばされる』と恐れた事も作用したとも。黒江の昇任は急激であり、扶桑は暗黙の了解として、『たとえ功があろうと、若い内に将官にはしない』事が大正天皇の時代までに確立されていた。それは北郷が復帰前は中佐が最終階級であった事で証明されていたが、昭和天皇は黒江に入れ込んでおり、将官昇進をはっきりと約束していた。江藤がスコアの訂正の上奏を行った際にも強い調子で真意を問い、江藤があまりの緊張で震え声になったほどである。江藤はその時に黒江が天皇の寵愛を受けており、それが戦間期のいじめにつながったとようやく悟った。皮肉な事に、ダイ・アナザー・デイ当時には現場でエクスウィッチと見なされていたため、昭和天皇の、黒江の復帰の歓喜とは裏腹に扶桑ウィッチ全体を割る内乱になり、結果的に軍部はGウィッチにその命運を託す事になる。かつては秘匿したはずの約束された勝利の剣を大々的に押し出して宣伝を作り、軍隊がウィッチを急募するのは歴史の皮肉であり、MATと割れたことでのGウィッチ依存になった扶桑軍ウィッチの現場の裏返しであった。



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