外伝その221『勇壮8』


――連合艦隊とリベリオン艦隊の艦隊決戦は扶桑とブリタニア連合艦隊の優位になりつつあった。ブリタニアが突撃戦法で撹乱に成功し、そこに20インチ級砲弾をぶっこむというものだが、戦艦同士の砲撃戦というのはミサイルが飛び交うと想定された21世紀の戦よりは悠長である。しかし、当たればイージス艦などまっ二つになる砲弾が飛び交うのは事実である。しかも速射で――

「砲術長、敵5番艦を黙らせろ!」

「了解!」

富士のCICから遠隔コントロールされた砲塔が敵戦艦に指向し、砲弾を打ち込む。未来技術で自動追尾も完璧なので、25キロの遠距離でも高命中率である。しかも史上最強の56cm砲はその距離で大和のバイタルパートを撃ち抜けるため、ある意味、連合艦隊最強の戦艦かつ、移動司令部の役目を果たしている。だが、その一方で空母機動部隊は史実でも決定されていた『海軍は主力戦力を基地航空隊とする』事が撤回され、空軍設立内定で基地で訓練中だった601空さえ動員不能となり、空母機動部隊のパイロットを元日本軍義勇兵で八割を賄う羽目となった。そのため、編成時に自己完結で空母機動部隊を賄えた最後という表現は間違っていないが、人員的意味では全く賄えず、日本軍の経験者を募る有様であった。これが空軍に601空を引き抜いた事の弊害であり、黒江達の負担が大きく増した理由である。日本軍経験者をまとめ上げるには、前線で功を上げ、それなりに年齢がいっている者が必要であったため、当時に20代であったレイブンズが必要とされた。黒江が呼び出されたのは、そのためであった。義勇兵は現役時代、それなりに功を挙げた者も多いため、なまじっかな実績では舐められるため、最高の英雄の一人である黒江が必要とされた。黒江のスコア訂正はこういう時に役に立った。撃墜数100オーバーは日本軍では岩本徹三と西沢広義(彼の戦死時の告示『戦闘機隊の中堅幹部として終始勇戦敢闘し敵機に対する協同戦果429機…』とあったのが批判に利用された事が扶桑海軍に撃墜王制度の創設を迫ったのは確実である)しか達成していないため、義勇兵を従わせるのにスコアは効果てきめんであった。黒江は撃墜スコアそのものは重視していないが、こうした状況では、大いに活用する。江藤が前線司令部で恨み節を吐きまくっている頃、黒江はすっかり義勇兵たちにも一目置かれていた。扶桑で最高の英雄とされ、なおかつそれらの泊が通じない世界でも功を挙げた。それが黒江の武器であった。江藤が世渡りが下手とされるのは、自分の武器になるであろう経歴を持つのに関わず、それらを結果的に活用しようとしなかったためだ。――

「これがこの艦のCIC…」

「23世紀型なので、21世紀型よりだいぶ洗練されてますが」

「信じられない。我々より先に23世紀と接触していたのなら」

「言ったでしょ、構成技術に差がありすぎると」

富士は実質的に将来的な宇宙戦艦化を念頭に作られたため、スクリューを宇宙戦艦のエンジン噴射口に換装すれば、すぐにも宇宙戦艦となれる。戦艦の砲塔をリモートコントロールできるのに、バックアップで砲塔各個にコントロール機構を持つ有人仕様にしているのは、ヤマトに準じた設計だ。海自の連絡員は驚く。

「この艦は波動エンジンを載せられる設計です。また、宇宙戦艦化に備え、気密構造になっていますので、潜水も可能です」

「23世紀が作ったのですね」

「そもそも、『魚雷20発と2トン爆弾30発に無傷で耐える構造の戦艦』など、我々の技術では不可能ですよ」

「おっしゃる通りだ」

政治家は『史実の損害をくぐり抜けられなければ、保有は許さない』という空気があるが、アイオワ級、モンタナ級であろうが、単艦で雷撃20本、高性能爆弾17発、至近弾20発以上を受けて沈まないはずはない。そもそも、史実の用兵こそが設計屋からすればありえないのだが、結果から政治家はモノを言うため、扶桑は23世紀に大和型以降の戦艦を改装、あるいは新造してもらった。40年代の如何なる武器を以ても傷つかない装甲、絶対的攻撃力、絶対的防空・対潜能力と、日本が戦艦に見ているイメージをそのまま投影したと言えるのが三笠と播磨だ。海自の連絡員(幹部自衛官)はその超兵器ぶりに驚く。

「宇宙戦艦ヤマトの技術で作られていますので、主砲にはショックカノンモードもあります。波動エンジンに換装すれば、波動砲も撃てますよ」

「財務省の連中が聞いたら腰抜かしますよ」

「連中は我々最大の敵ですからな」

扶桑軍・自衛隊の共通認識は『最大の敵は財務省』である。日本連邦樹立後は扶桑軍に費やされている軍事費をカットし、福祉関連の財源に当てたいという思惑を隠さず、あの手この手で難癖をつけてくる。扶桑軍はクーデター後のウィッチ組織そのものの解散と兵科消滅を防ぐため、Gウィッチにあらゆる特権を与えている。つまり、特権の付与は『ウィッチ運用の費用対効果が出てます!』とアピールする意図も含まれているのである。ウィッチクーデターが徹底的に潰されるのは、財務省にウィッチを軍に在籍させるための財源そのものを潰されるのを防ぐためなのだ。また、ウィッチ特有の措置である『階級の早期昇進とそれに伴う高い給与』もジェンダーフリー団体から難癖をつけられており、この時期はまさしく、軍ウィッチ冬の時代かつ、Gウィッチ依存の時代である。黒江達は『莫大な給与と異例の高待遇と引き換えに、一騎当千で、なおかつあらゆる分野での有能さを求められる』過酷な勤務をせざるを得なくなっているのだ。

「統括官も大変なのですよ。参謀、一戦士、現場指揮、折衝。軍隊の考えられるだけの分野を自分でしている」

「まったく、あなた方は准将の苦労を分かっておいでか?」

「申し訳無い。財務省や野党連中はウィッチの立場を分かっていないので」

「パイロット、レンジャー資格、それに医師免許、危険物取扱者免状……20年間で資格を取りまくったというではありませんか」

「ええ。彼女には将の階級で報いております。自衛隊の最高位であり、統括官として高度な権限も持っているのです」


黒江はコネをフル活用し、統括官となるまでに、軍事に関係があるあらゆる資格を取得している。自衛隊初のウィッチである事もあり、あらゆる資格を取得して有能さをアピールしなければ、訴訟を抱えているのを理由に肩たたきされると考えた黒江は医師免許を含めた資格を取りまくることを2005年に決意、芳佳が21世紀で医師免許を取った数年後、救急救命士資格を取得。その後に航空救難員(メディック)資格を取っているなど、努力を重ねた。レンジャー資格も21世紀で得ているため、空挺訓練も受けている。それを扶桑が知ったのは、准将昇進に当たっての通達であった。当時は空軍が組織として設立前で、書類上はまだ陸軍軍人であったため、陸軍挺進連隊が教官としての出向を願い出るほどだった。(陸戦ウィッチは爆撃ウィッチによって空輸されての空挺作戦も多いため、多くが挺進連隊で訓練される)また、黒江のこの努力は後輩達、とりわけ速成教育開始後の世代からは『自分たちの立場がなくなる』という一方的な反発を受け、結局、軍ウィッチは何かかしらの特技を持つ事がクーデター後の採用条件になる。また、この時に連合軍そのものの人事規則そのものが改定。サーシャがしたような『素行不良が理由の降格人事』はできなくなる。その直前に、サーシャが過去の人事、サーニャの亡命が発端になる彼女自身の極度のヒステリーを理由に、『501の邪魔者』と判断されたのは、解散の圧力を避けるためだ。また、伯爵の降格が軍法会議を経ていないものだったため、これが不当にあたるため、面倒を避けるため、エイラが怒っているので追放されたと言える。無論、サーシャはアイゼンハワーに『懲罰で勤務階級を下げたのです!なぜ、私が軍法会議を!?』と釈明したが、『サーニャ中尉のことで、ユーティライネン中尉を君は怒らせた。亡命した者を君はヒステリックに罵ったそうだね?報告がなされている』とアイゼンハワーは一蹴した。この軍法会議が自国のこれ以上の軍事的発言力低下を嫌ったオラーシャの若き新皇帝の怒りを買う理由で、彼女はこの追放で心を病み、結局、腫れ物に触るように扱われ、結局、5年以上も国境の僻地で全ての名誉を剥奪された閑職の扱いに甘んじる。歴史の表舞台に『アレクサンドラ・I・ポクルイーシキン』の名が再び登場するのは、黒江達の上申による手引きでのジューコフ元帥による具申で名誉回復がなされた後のベトナム戦争を待つこととなる。

「そちらはなぜオラーシャへ不信があるので?」

「そもそもは日露戦争、ひいてはソ連邦時代の不可侵条約破棄が理由です。学園都市が鬱憤を話してくれなければ、北方領土は戻らなかったでしょうな」


21世紀では、学園都市が極東ロシア三軍を『綺麗さっぱり』駆逐したため、ロシアは極東方面の領土維持が困難に陥り、ウラジオストクまでを放棄せざるを得なくなった。アメリカは国連による信託統治を演出し、地理的に近い日本に現地を治めさせる。中国は米国との衝突回避のため、これにはとやかく言わなかった。結果的に、旧日本軍が目指した『大陸への楔』はアメリカの後援で70年越しに実現した事になる。そのため、ウラジオストクの市民達は2019年までには殆どが日本国籍取得を選んでいる。ロシアは結果的に第二次大戦時の蛮行の報いを学園都市という抗えないほどの暴力で受ける事になり、極東への影響力を殆ど失う。帝政時代から膨大な血と努力で得た極東領土を学園都市の理不尽な軍事力で失い、独ソ戦ほどでないにしろ、膨大な犠牲が生じたことで、独ソ戦と大粛清で負っていた古傷を刳り、これで統合戦争で反統合同盟の盟主になる道を確定させた。学園都市の力がまさに絶頂にあった2010年代前半に奮われた圧倒的な力は、ロシアの衰退期を招来させたと言える。

「オラーシャには悪いですが、ソ連の対日参戦で決定的に、ロシア人は狡猾なイメージができております。アレクサンドラ・I・ポクルイーシキン大尉には恨みはありませんが、人柱になってもらうしか」

日本の介入でオラーシャ帝国は連合軍の重要ポストを喪失した。サーシャの追放はその象徴とされ、それでうら若い新皇帝の不興を買い、危うく銃殺刑寸前であった。フーベルタの招聘はサーシャの人的補償という事になっているが、政治的には見せしめも入っている。503司令『ブロニスラヴァ・F・サフォーノフ』がティターンズの手で強化人間にされ、狂戦士とされたことの。

「見せしめ、ですか?」

「そうとっていいと、上は。サフォーノフ中佐が狂戦士にされた事への見せしめという事ですが、体のいいロシア人嫌いですよ」

彼は、日本側がサーシャの追放を煽ったのを認めた。黒江達は人的補償になる人材の選定をラルとガランドに一任。当時、救出間もないフーベルタ・フォン・ボニンを充てた。フーベルタは当時、503壊滅の責任を負わされ、名誉挽回を願っていたため、ラルの誘いを受けた。着任時に大佐になっている(戦死判定で二階級特進していたため)他、過酷な体験でG化を起こしており、その点でもうってつけの人選だった。

「それでアレクサンドラ大尉の後任をカールスラントのJG52出身者に?」

「ええ。ドイツ人のほうが信用できると、上も認めたそうです」

フーベルタはスコアを実力の指標として定着させた張本人なので、扶桑海軍航空関係からは不興を買っている。フーベルタはコンドル軍団出身の古参かつ、徹底した実力主義で、『僚機が最下級軍曹であっても、撃墜数が多ければ(=実力が上であれば)空では命令に従う』と公言しており、そこも扶桑海軍航空の対抗心を煽ったが、彼女自身は『自分のポリシーで言っただけなのに、扶桑でクーデターの遠因って責められるのは困る』とガランドへ泣きついている。実際、フーベルタはラルやミーナよりも先任であり、レイブンズの実力を新兵時代に見ていた。レイブンズにすぐに恭順したのは、その実力を見ていた世代なためだ。ラルとは親友であり、なおかつハルトマン、マルセイユ、バルクホルンの元同僚で、503の生き残り。また、同時期にヨハンナ・ウィーゼも招聘されたので、最終的には隊員の殆どが扶桑64とカールスラントJV44の出身という状態になる。最終的に確定した幹部はそれらカールスラントと扶桑の古参を更に赤松が束ねているという状態であり、赤松は501で一番強く、なおかつレイブンズ含む古参を諌められるとんでもない立場となる。



――501駐留駐屯地

「まっつぁん、機材要求こんなんでいい〜?」

「ハルトマン、どうせならボウズの子供達にも持ってこさせろ。どうせ正規の補給でストライカーはあまり来ないだろう」

「はーい」

黒江がボウズと渾名されていることはこの頃には知れ渡っており、ハルトマンも普通に応対する。二代目レイブンズと調からは大先生と呼ばれている赤松、特務士官でありながら、実質的には坂本に代わって部隊の父性を担っており、海保の指摘は赤松の事例ですでに違っていることの証明であった。この時期、二代目レイブンズは赤松と圭子の指令で非正規ルートで機材を調達する役目も負っており、F-15J改を調達し、供給していた。

「でもさ、ウルスラの孫ってさ、タイフーン使ってるんだよなー。なんとか持ってこれないのかな?」

「贅沢じゃぞ。あれはボウズの子供達の時代でも新し目だし、調達は不可能じゃ」

赤松が指摘するように、二代目レイブンズの頃には、F-15は旧式に属する。二代目レイブンズが入隊した頃には『F-22』、『ユーロファイター・タイフーン』などの新鋭機が実用化されていたからだが、それらは確保不可能である。

「待て、確か、子供らの時代にトーネード ADVが保管されてるはずじゃ。聞いてみ」

「あ、返事が来た。第三格納庫にあったから、澪に運ばせるって、美奈子から」

「僥倖じゃ」

「でもさ、よく残ってたね」

「遠征部隊用に確保していたものじゃ。ブリタニアで退役したから、予備機材に回されていたんじゃ。たしかボウズの子らも新兵の頃に経験があるはずじゃ。カールスラントはあの子らの頃には独自開発を放棄しとるからのぉ。ウルスラが憤慨しておったぞ」

ウルスラが憤慨したのは、軍備規制の新京条約が結局、1990年代まで更新されつづけた結果、この時代に隆盛していたカールスラント航空業界は自由リベリオンに立場を奪われる未来を思い出したからだ。結局、新京条約の縛りで自由に開発できなくなった技師たちは戦争で青天井の予算を与える日本連邦、キングス・ユニオンへ移住し、そこで設計をしたため、航空業界の中心がその三カ国に確定した。ガリアは頑張ったほうだ。

「しゃーないやん。バダンへの流出も警戒されて結ばれる条約なんだよー、あれ。実際、あーやの敵のあいつはバダンにいったし」

「バダンが暴れたのがあの条約ができた理由だからのー。H43に他国は怯えておるが、フリードリヒ・デア・グロッセなど見てみぃ。最もと思うぞい」

ラ級『フリードリヒ・デア・グロッセ』。バダンの最大最強の戦艦であり、元祖ラ級戦艦である。第二次大戦では使用されなかった(デーニッツが葬ったとも)が、艦は健在であり、バダンが改装をし、53cm砲を持つ化物となっている。黒江達の諜報活動で戦時中の写真は流出しており、その威容に地球連邦でさえも顔面蒼白となった。カールスラントの軍備を制限させるに大義名分を与えるだけのドイツ海軍の技術の結晶である。

「あれさ、空飛ぶからって、キール運河通す気ないっしょ」

「あるわけがない。ドイツ海軍にはそれを考える余裕はできる時に無かったろうし」

かの艦は53cm砲を積み、更に波動エンジンに強化されているのは想像に難くないので、ラ號最大最強の敵になるのは間違いない。ラ號が51cm砲に変わったのも、全てはグロッセ対策である。元々、51cm砲はグロッセの砲のデータをヒトラーから提供され、試作していたのである。ところがミッドウェー海戦の敗北で井上成美が中止させたのだが、マリアナ沖海戦の敗北で復活している。そのため、ラ號は井上成美にはちょっとした因縁があるといえる。

「ラ號を使ってる事は?」

「連邦が日本に知らせた。ものすごく泣いたそうだよ、防衛省とか」

「なぜ泣く」

「2000年代に接収しようとして失敗してるのよね、連中。完全な状態で波動エンジン積んでさ、旭日旗と地球連邦の軍旗掲げて飛んでるの見りゃね」

70年代の出撃はイナズマンと昭和天皇しかはっきりと目撃しておらず、昭和天皇が誰にも言わず、侍従も口外しなかった事もあり、都市伝説になった。そのために21世紀の防衛省関係者は『ラ號が完成状態で23世紀まで健在であり、宇宙戦艦ヤマトの準同型艦扱いで地球連邦軍籍を持つ』ことに愕然となった。元々、ラ號は書類上、大和型五番艦の扱いであるが、軍に献納されなかったので、公的な姉妹艦はまほろばで打ち止めである。まほろばも戦後に葬られたため、111号艦はまほろばを指すのか、ラ號を指すのかで議論が続いていた。23世紀に発掘された資料によれば、『まほろばは111号の継続、ラ號は797号母体で建造すべき』とする極秘の訓示がなされているのが確認された。しかし、まほろばは間に合ったが、ラ號は船体と上部構造物パーツの完成で終戦であったのは周知の事実。防衛省が愕然としたのは、完成そのものよりも、自分達には使わせず、地球連邦軍に使わせたという事実である。

「ずいぶんと身勝手じゃな」

「だって、財団が日本に渡さなかったのは神宮寺大佐の遺言だもん。戦後日本嫌ってるので鳴らしてたし」

神宮寺大佐はラ號が日本の国益になる事を生涯望んだが、戦後日本では、『大日本帝国海軍の忘れ形見』のラ號は居場所がない。その事が神宮寺大佐を頑なさせたのは事実だが、彼等とて『当時の連合軍の指令で『旧軍の装備は解体』ってなってるだろ』というのを拠り所にしているだけである。しかし、その指令は21世紀になれば効力はないし、ラ號は国連としても利益となる。そのため、政府による接収の試みは国連管理下になるのを避けようとしてのものであり、再武装して用いる試みのもとでもあった。しかし、財団は大佐の遺言を守り、『旧軍の物であれば政府が引き取りたいのですが、武装が有るようなら所持していると銃刀法違反などて刑事訴追の可能性も有りますが』との問いに、『武装などしておりません。なんならドックの隅から隅まで調べてくれても構いませんが?』とし、実際に痕跡は無かった事から諦めていたのが、完成状態で飛んでいるのであるから、防衛省は今頃、影山財団に猛抗議しているだろう。自分達はだめで、地球連邦が用いる分には構わないのかと。財団も『そこまで責任は取れません。宇宙戦艦ヤマトの姉妹艦として戦っているなら、いいでしょうが』と返すのは容易に想像できる。実際には『“ウチの施設内”にはそのような物品は在りません、お調べになったでしょう?大体武装は軍に納入したあとに軍の持つドックで行う予定でしたので』と返しており、再武装が実際になされたのはその後で、日本連邦時代になされたのは確実だ。

「日本の左翼、ラ號見て発狂しそうだけど、静かだね」

「ここ数年で、連中はこの世界にいって国家騒乱罪とかで逮捕されとる。左翼政党だって文句言えんよ。特に大和型と同じ姿を持つ軍艦は人気者だからのぉ」

扶桑の軍艦に大和型があるのは当然の帰路だが、接触時にはすでにFARMされていたし、米軍が湾岸戦争でアイオワ級を使った実例があるが、野党は2000年代半ばの頃、扶桑に大和のみを残して解体せよと迫ろうとした事もあるし、連邦化交渉が暗礁に乗り上げかけたのはユキヲ政権時にこの事を艦政本部長の面前で言ったからともされる。だが、FARMで新鋭イージス艦以上の能力がある事がわかり、三河が大和型五番艦である事を通達されたことで、政権再交代寸前の頃には方針が転換されていた頃は有名だ。これは日本側が三河を大和型の姉妹艦というので、信濃の次の姉妹と考えていた事に由来し、2000年代の半ばに三河が初めて現れた際のマスコミの憶測は概ね、『史実では完成しなかった戦艦信濃に当たるのでは』、軍事系雑誌は『完成した111号ではないか』と憶測したが、10数年後の日本連邦化の後、甲斐と交代が発表されると、どよめきがおこった。甲斐こそが111号であり、三河は797号だったのだ。観艦式に出た旧式戦艦は『退役前のご奉公』だったことも公表された。『大和、武蔵、信濃、甲斐、三河』この五隻で大和型は構成されると公表されたのは、播磨がデビューした直後である。また、播磨型二番艦が『越後』であるとも公表され、超大和型戦艦が就役し始めている事を印象づけた。大和型は甲斐で打ち止めの予定であったが、量産決議の際に『5番目作って部品交換に使えるようにしておこう』ということになったと、軍事系雑誌に艦政本部長のインタビュー記事が載ったのは2018年のことだ。実際、扶桑の戦艦は二隻のローテーションを組む意図で四隻だが、大和型に関しては、M動乱での三隻の集中運用が評価され、紀伊のあえない最期により、定数が増えたのである。以後、扶桑の戦艦は一隻を予備で持つという意図で5隻体制となり、三河はその初の例であった。なお、武士時代で織田体制であるのに関わず、徳川家縁の三河をつけたのかとする疑問への回答は『徳川家は家康公以来、代々が家老の職位であり、吉宗公など、何代かの将軍後継としての養子を出しているからである』と回答しており、織田体制でも、徳川吉宗は将軍になれるらしいということで、変にフィーバーが起こったとも。織田体制下でも豊臣家からは将軍後継の養子は出ていないが、徳川家からは出ているので、徳川家は歓喜したという。豊臣家は秀吉・秀長亡き後、秀頼の子以降はあまりぱっとしない人物が続き、最近は秀次系統が血脈をどうにか守っている状態である。ただし、これは男系子孫で、女系では繁栄し、大奥の歴代重役は豊臣家出身の者である。だが、史実では親類縁者を皆殺しにされた秀次の血脈が保たれた事は、豊臣家へのクレームを終息させるに充分であった。秀長が長命を保って、秀吉も『太閤』とは言われる地位には登り詰めたが、年老いた孤独な独裁者にはならなかったため、史実での負の面は扶桑では見せていない。織田宗家が将軍家と別に存在していた事、徳川吉宗のような他家出身者でも養子にして、征夷大将軍に取り立てる風潮が織田家にあったため、江戸幕府のような腐敗は少なかった。怪異という脅威があり、信長時代から世界情勢を見ていたなどの事もあり、大政奉還の後に混乱は起きず、新選組も史実ほどの功績は残していない。そのため、黒江は史実通りに修羅場を潜り抜けた斎藤一と戦った際に大敗北したのである。黒江が敗北を認めた数少ない人物が斎藤一、比古清十郎、緋村剣心などの剣客だ。

「あーや、斎藤一に負け通しでさ。まっつぁんなら行ける?」

「儂なら互角だろう。ボウズは青いからのぉ」

斎藤一に黒江が降参を言った事は冗談交じりに赤松が言うレベルで語られている。黒江を青二才と扱えるのは母親代わりの赤松くらいなものだ。

「ボウズは元々が示現流だ。最初に全力だから、幕末を潜り抜けた斎藤一に見切られやすいのじゃ。ボウズもそこは自覚しておる」

「飛天御剣流を勉強しだしたのは」

「前史で斎藤一に犬娘と言われ、ムキになって三本挑んで、どれも負けて、その後に抜刀斎とのすさまじい打ち合いを見たからじゃ」

赤松は斎藤一、比古清十郎とも互角に戦えると自負するように、赤松はそれだけの剣を持つが、黒江と智子は青二才と彼等から扱われている。それほど史実幕末は動乱だったのだ。ただし、黒江と智子でも、志々雄真実となら戦え、剣心達に『若いが、戦力にはなる』と言われ、戦力とは見なされていたため、剣技では志々雄となんとか戦闘になるレベルだが、緋村剣心らの領域ではない事がわかる。(二人共、着衣が戦闘でほぼ完全になくなり、包帯を巻いているだけの状態で立ててはいる)ハルトマンは剣技だけは剣心以上だが、小柄であるので、そこだけが不利である。

「志々雄と今回も戦いそうだなあ、お二人さん」

「サポートしてやれ。特に、お嬢は頭に血が上るからな」

赤松は智子を『頭に血が上る』と称する。実際、智子は黒江がレイブンズに武子と入れ違いで加わりたいと言い出した転生前、頭に血が上り、果たし合いをしたほどだ。今では姉代わりを自負する智子も、転生前は武子のポジションを奪うと宣言したに等しい黒江に剣を向けた事があるのだ。緋村剣心と出会ったのは転生後であるので、一時は黒江は智子より年下と思われていたりする。智子は転生後は黒江より精神年齢は上だが、煽られやすいのは残り、志々雄に煽られて、血気に逸り、ボコボコにされていたりする。斉藤には『このド阿呆の狐娘が』と呆れられるほど無様だったという。なお、智子は使い魔が狐であるので、斉藤からは狐娘が呼び名。『狐娘、狐なら化かしあいを覚えろ』と言われるなど、子供扱いである。(ケイとは会っていないため、使い魔が北狐である事への反応は予測するしかない)

――ちなみに、ケイが今回の転生で転生前の智子と黒江の最初の模擬戦を文字に起こしていて、青年のび太にしか見せてない。その様子によれば。

「お前とバディ組みたい!」

「私のバディは、本国では武子だけよ!あとはビューリングだけなんだからね!」

「ははん?さては武子と組まないと自信が無いんだな?解った、一人で飛ぶぜ」

「なに人聞きの悪い事言って帰ろうとしてるのよ!良いわ私の実力を見せれば良いのね!?模擬戦で見せてあげるわ!!」

「じゃ、遠慮無く!」

という具合で始まり、黒江が一撃離脱戦法では経験の差で優勢。智子は巴戦に持ち込むが、黒江の気迫に圧され、一瞬の隙を見せた。そこを突かれて負けている。黒江が武子を名前呼びしたのはこの時が初めてであるが、智子は気づいていない。剣技では黒江が上回る事はこの時点で明らかであった

『今の勝負は初見潰しだから気にすんな、普段の戦いぶりから『相棒にするならお前だ!』って思ったから声をかけたんだが、気をわるくしたかな?』

黒江は智子の肩にそっとを手かけてそう声をかけた。智子はこれでコロッと黒江を認めたが、一度目の転生は黒江を図らずしも利用しており、三度目である今回は圭子との大喧嘩で情が移ったのを自覚し、今では姉代わりを事変から自負し、公言している。それは坂本同様、黒江が持ってしまった陰の面である幼さを目の当たりにしたことでの罪悪感も混じったものだが、あーやの天真爛漫さにほだされた面も二人にはあったので、智子は坂本と今回は親友である。あーやの天真爛漫さは黒江の深層心理の発露でもあるため、可愛いものに弱い智子は一発ノックアウト、坂本でも保護欲が刺激され、目の当たりにした際に菅野に殴られぱなしだったのは、あまりの落差で罪悪感を感じたのもある。黒江の声質は坂本の事件で決定的に変わり、現在の調と同質のものになった。これは坂本という友を失ったことで黒江の精神バランスが一時的に崩れた事の名残りでもあり、坂本はこの声質と態度の変化で、その罪悪感を決定的にし、今回でも引きずっている。黒江の『クール系の見かけと釣り合わない、可愛い系な高めボイス』は坂本の事件で完全に発現したと言えるので、それが坂本の罪悪感を煽ったのだけは確実だった。ただし、圭子曰く、『あーやになってた時の声が表に出て定着しただけだ』と楽観的であったのが坂本との見方の違いだったという。圭子は黒江の深層心理を赤松を除けば。、一番理解していたため、その分析からの確信であった。実際、現在の声色になった後は、以前より天真爛漫なところを見せているので、調との感応もけして偶然ではないことの証左だった。圭子の分析通り、調の声は幼少期の黒江と瓜二つであり、現在の声色はあーやの声色の定着と、調との感応の結果によるものだと見抜いており、楽観的である。なお、元の姿での戦闘や仕事では転生前の声色に戻っているため、黒江自身は『オンオフがはっきり出せるようになっただけ。それにいつもおんなじ声でもつまんね〜!』という意識であり、坂本の思っている事よりは楽観的だったのだが。元々のクール系の声色は近寄り難さを醸し出すため、素の容姿を使う機会が減ったためにあまり用いず、調の声をとっつきやすさの演出のため、自らの後継者との聞き分けのために使う。幼少期の声色と同一である偶然の一致もあり、黒江は普段をそれで通す。ダイ・アナザー・デイで声を高い声色で固定しているのは自身の後継である義娘の翼が同じ戦場にいるからで、その点はのび太とドラえもんを含めての暗黙の了解だったのだ。なお、調は綾香と翼の聞き分けかたを『私を姐様と呼ぶかの違いですよ』と語る。その事から黒江翼は母の弟子である調を姉代わりと見ており、調自身も『全員のおむつをとっかえてやった』ということで、二代目レイブンズに目上として接する事が示されたという。なお、智子が一番、大姪の名付け方がテキトーかついい加減だったのも知っており、表向きは女優の名が由来だが、実際は漫画を読んでいて、姪の出産を聞いたためにそこから取ったというのは調のみぞ知ることで、けっこう智子を強請っていたりする強かなところを持ったのである。また、二代目レイブンズの幼少期にベビーシッターのような事もしており、そこも智子が調に意外に弱い面であり、圭子にネタにされていたのである。また、圭子は子煩悩であるが、兄達が早世してしまったという苦労もあるし、黒江も甥にドラ息子率が高く、次兄の息子が白銀聖闘士となったのは稀有であった。三兄の系統が最も優秀で、翼はその出である。基本的に黒江家は三男や末娘の系統が優秀で、翼が綾香の才能を受け継いだだのは当然のことであり、綾香の曾祖母からの法則は次代でも生きていたのだった。綾香は翼が聖闘士になったあと、亡き祖母と曾祖母の仏前に『ばーちゃん達の言ったことは本当だったよ』と言い、後日、冥界にいる曾祖母と祖母に報告しに行ったという。(黒江の曾祖母と祖母は二代連続で才能が受け継がれた唯一の例であるため、曾祖母はひ孫に『生きたまま冥界に来るとは思わんかったわい』と大笑し、その容姿もそっくりであるが、曾祖母はアホ毛の生え方がひ孫と逆だったとか。曾祖母は残っている写真が引退後の晩年期のもので、絶頂の頃の容姿は推測でしかないが、冥界では祖母も曾祖母も絶頂の容姿であるので、綾香とほぼ瓜二つ。違うのは巫女服が日清戦争や日露戦争当時の古いものである事くらいで、二人は孫にへそくりなどを教えたとも。ただし、曾祖母の時代になると、年数の都合もあり、へそくりを隠したものが残っているかは半分諦めており、祖母のものは探したという。曾祖母は曾孫を『綾香さん』と呼び、硬い口調であるが、祖母はラフな口調であり、綾香の口調は祖母の遺伝らしい。武士時代に子供だった曾祖母はお硬く、明治に入ってからの祖母はラフな口調。安土時代生まれと明治生まれの差が出てるとは綾香の談。)



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