外伝その239『心はサムライ2』


――扶桑皇国はミッドチルダ動乱を経験した結果、中戦車にも強力な戦闘力を求めるようになった。しかしそのレベルが戦後世代のレベルに飛躍してしまったための悲劇があちらこちらで生じ、前線将兵は次々に繰り出される強力な敵戦車に苦闘した。その結果、チトやチリなど、M4と渡り合えるレベルがある比較的大型で年式が新しい戦車は前線への代替車両の確保が難しいという理由で使用され続けた。それらでさえ『単に敵が強いからって作った場当たり的な車両』と揶揄されるが、扶桑にとっては『M4中戦車よりは強い戦車を目指したのに』である。また、数年後に採用されるチト改良型はチリ系のネガを潰し、砲塔バスケットとトーションバーを採用した車体を持つ、実質的な『戦後第一世代MBT』である。74式戦車よりは廉価であり、性能的にも当時のウィッチ世界の主要国が五年頑張っても追いつけない総合性能を備えていた。(カールスラントの当時のほぼ全ての戦車を陳腐化させる火力を備えていたとも)この時期には試作がなされており、チリよりは小型である事から好評であり、細かい手直しや砲塔の製造ラインの調整をするため、この時期には量産されなかった。そのため、自衛隊が持ち込んだ74式や10式が奮闘したのである――



――前線――

「騎兵隊だ〜!二次大戦中の車両で74の砲は防げないぜ!」

援護に駆けつけた74式戦車の連隊が一斉に砲を放ち、M4中戦車をアウトレンジで撃破する。戦後の戦車を撃破するための武器で攻撃すれば、第二次大戦中の中戦車などはブリキ箱同然である。キルレートが日本軍事史上最高をマークしたのもこの時だ。リベリオン軍は対戦車戦闘教義が戦前からほとんど更新されておらず、その点も自衛隊が格段に優位であった点であり、戦車駆逐隊に連絡が行く前に、M4中戦車20両はものの10分ほどで壊滅した。

「穴拭閣下、敵戦車隊を撃滅致しました。私達は統括官よりあなた方の護衛を命令されております」

「ご苦労。周囲の警戒を怠らないように」

「ハッ」

なんともシュールな光景だが、自衛隊の戦車部隊は各地にいて、装備入れ替えが予定されていた部隊がその中心であり、体のいい装備入れ替えの口実とされていたが、実際のところ、新鋭装備の秘密をバラされたくない派閥と、相手の背後にティターンズがいる事で『秘密も何も…』な実務閥の衝突があり、その折衷策で『10式と74式の混合編成』がなされた。年式が違いすぎるので、部隊としては別々の連隊を組んでの編成であり、実地テストを望む実務者と情報漏洩を危惧する官僚との論戦の末の産物であった。また、数キロ以内であれば必中である陸自は、火力については地球連邦軍に次ぐものであり、カールスラントの面子を潰していたりする。当時、カールスラントは往時の装甲師団規模の派遣は船の問題で困難となり、前線展開部隊は消耗していた。史実ドイツ軍のような熟練戦車兵が多いわけでもないので、張子の虎感が否めないのも事実である。また、領邦連邦を組んだことでケーニッヒティーガーやパンターの製造ラインの製造ラインの存廃が危ぶまれたため、機材の消耗による稼働率低下で恥を晒していた。そのために陸自の稼働率は話題になっていた。また、機材の消耗如何で予算削減に話が行ってしまう陸自の技能発揮もあり、カールスラント軍の三倍ものキルレートを記録した。

「カールスラントの連中が泣いてるわよ。展開と転換が早すぎって」

「我々は訓練しか平時にはやることないですし、その成果ですよ。それにカールスラントは徴兵制でしょう?」

「時代の差を考えても、貴方達は異常な速さよ」

「五分もあれば我々は特科にしろ、機甲科にしろ、全力射撃できますからね。弾が少ないのが玉に瑕ですが」

「自衛隊、弾の備蓄ないんでしょ?補給は?」

「米軍の部隊が持ってきます。こういう時にNATO規格だと得です」

74式戦車の連隊長は言う。退役間近の老戦車の最後のご奉公ながら、更に旧式の戦車相手なら、温泉街の射的も同然だと。実際、細かい部材の更新がなされた74式であれば、マウス重戦車だろうと怖くない。そこもカールスラント装甲部隊を一夜で旧式化させた威力である。

「リベリオンはいいとこM46。それが出てきてもいちころでしょう?」

「ええ。M48だろうと問題ないです」

「M46もまだ一部の師団にしか出回ってないから、当分はシャーマン狩りよ」

「くれぐれも航空支援は頼みます。側面や背面はペラペラですし」

「ウチの若い連中にやらせましょう」

智子は黒江が陸自に指令して送り込んだ戦車連隊を配下に加え、勇躍、進撃する。智子は調、その御守り役の下原に航空観測と援護を指令し、自身は74式の指揮車に鎧擬亜姿で乗り込んで、進撃する。また、連隊には87式偵察警戒車、軽装甲機動車なども当然ながら配備されており、機械化は40年代から見れば最高水準と言える。陸自はこの派遣が実戦能力の証明になることをよく知っており、高練度兵で固めてもいた。それは当時のカールスラントからすれば信じられないほどの機械化部隊でもあった。

「カールスラントの将軍たちが羨ましがるわね。戦車は強くできても、周りの機材が追いついてないもの、あの国」

当時、カールスラントは年代を考えれば、機械化が進んでいたが、戦車の更新中心の整備であったので、それ以外の機材は遅れ気味であった。しかし、陸自も16式機動戦闘車の大量配備が頓挫し、同車の生産も停滞した影響で74式戦車の退役速度が緩められた。また、扶桑向けに現地で新規生産が開始された事、装輪戦車というカテゴリに政治側が無理解なこともあり、機動戦闘車隊構想が見直されたため、急遽、改編予定の戦車部隊が復活する珍事が発生するに至った。機動戦闘車の配備数はその後に元には戻るが、戦車の代替にならないことで政治的理由で、その使用は陸自出身部隊のみになり、扶桑軍部隊への配備は頓挫する。また、ウィッチ部隊の奮戦により、意外に撃破数が多かった事も理由に含まれた。配備が強行されたのは、『機動砲や待ち伏せ用自走砲として師団特科用でも良いから配備を!』という声が大きかったからで、装輪戦車としての運用は断念される。その結果、『機動戦闘車』から『機動戦闘砲』への名称変更すら検討された(予算対策)という。

「我々も機動戦闘車の生産が停滞したんで、そちらにナナヨンを造らせて、定数を維持するのが精一杯でして」

『大規模な着上陸侵攻への備えを最小限に保持し効率化・合理化』という16式機動戦闘車の開発目的そのものが連邦軍化によるなし崩し的な外征軍隊化で薄れたのも、皮肉なものであった。太平洋戦争が勃発すれば、機甲部隊同士の戦闘は日常茶飯事に起こる。待ち伏せ自走砲な同車は出番が減るし、第二次世界大戦型の戦場では重戦車が歩兵の援護に来る事も当たり前であったし、航空支援も起こる。防御が薄い以上は犠牲は避けられない。小回りが効くウィッチ部隊に撃破されているのは、財務省にとっては良い予算削減の大義名分であった。

「定数減らされたとか聞いたわよ?」

「そちらのおかげで定数が増えたので、なんとか900両以上に『戻りました』。」

扶桑軍は国連の重要な役目を担うため、陸軍もそれなりに機甲部隊を維持しなければならないため、日本連邦軍としての戦車定数は冷戦期の水準の数で落ち着いた。自衛隊も機動戦闘車構想の頓挫で戦車の更新が進むという皮肉とも取れる事態により、戦車定数を増加させざるを得なかった。これは数が多い扶桑軍出身部隊との発言力の均衡を保つという名目で成立した。日本の政治家の中には旧軍相当の暴走を自衛隊が抑えるべしとする考えを持つ者も相当数いる。そのために自衛隊の装備数を増やすというのは本末転倒気味である。

「政治屋はそちらの暴発が起こったら、一日で鎮圧できるように、私達の装備数を増やしたようでして」

「本末転倒じゃないの」

「ええ。政治屋はそちらの軍閥を潰そうと躍起になってるみたいでしてね。前線の私達のことなど二の次ですよ」

日本の政治家は扶桑の軍閥を潰すことしか考えていないと嘆く連隊長。扶桑の軍閥を潰しても、自分達の派閥抗争を棚に上げている感があるし、前線の労苦を顧みない点で、大本営を笑えない。

「偵察隊を先行させて。このあたりには戦車駆逐隊がいるって情報が入ってるのよ」

「付近にいる機動戦闘車部隊にも応援を頼みます。航空支援はよろしく」


こうした三次元的な索敵はこの当時では先進的なものである。山が多いヒスパニアでは遮蔽物も多いため、空陸の偵察が重要であった。装甲車らの陸からの索敵、それの後詰めにヒーローたちが控え、空をGウィッチが抑える。なんとも豪華な布陣である。ヒスパニアが主戦場になりつつある状況なのに、肝心のヒスパニア軍は機能不全である。フランコ政権の崩壊による悪影響が大きすぎたのだ。ブリタニア軍と扶桑軍を主力に、米軍部隊や自衛隊、イギリス軍も少数いるのが現在のヒスパニアの兵力分布である。それにリベリオン軍が対峙する構図である。山あいの地形が多い地なので、機甲部隊は進撃速度が遅くなっている。散発的な戦闘が起こりつつも、にらみ合いという状況である。

「ヒスパニア軍はてんで駄目ね。政権崩壊前はそれなりの軍隊が控えてたはずなんだけど。やっぱフランス将軍頼りの烏合の衆ってことか」

ヒスパニアは自国領土が侵される事態にも関わらず、暫定政権発足すら覚束ない有様であり、智子をして『烏合の衆』と揶揄させた。軍隊も民族間の対立が表面化し、まともに動かない有様だった。せっかくの装備も宝の持ち腐れであり、既に猛烈な空爆でヒスパニア空軍主力は戦わずして壊滅している。バスク地方はティターンズ/リベリオン支持に回り、カタルーニャは元々の意識から、連合軍支持であるなど、中世の頃のようにバラバラである。彼の地の防戦はほとんど扶桑とブリタニアが負担している有様で、チャーチルをして激昂させる事態であった。ブリタニア軍は最新鋭戦車『センチュリオン』を投入し、その性能により、最も活躍している英戦車の称号を得ている。素体はこの時代の戦車だが、パワーアップを重ねた後の性能であれば、20年は戦える。(エンジンパワーは流石に改良されたらしい)イギリス軍はデモンストレーション用に後継のチャレンジャー2戦車を持ち込んで来ていたが、センチュリオンの速度改善をアドバイスし、チーフテン程度の速度は得る事に成功したらしい。なんだかんだでセンチュリオンはそれだけの余裕があった事の証明であろう。

「そう言えば、イギリス軍、センチュリオンを改良させたようだけど、あれ、どうやって改良すんのよ」

「あれは英国の突然変異のような傑作です。基本設計はジェガンのように優秀なんですよ。改良して20年使われましたし」

「ブラックプリンスを改良したいって話出てるけど」

「ハハ、あれをどう改良すると?歩兵戦車の生き残りじゃないですか」

「センチュリオンの部品使って、砲塔を載せ替えるとか」

「どん亀作る気ですかね?」

当時、ブリタニアは史実で確実な兵器以外の兵器も国策で造らせ続けていた。これは予算と政治的都合で史実の兵器以外を作る自由度が低すぎると揶揄される日本連邦との違いであった。日本連邦は軍事に政治家が無理解である事が多いため、戦艦も当時最新の大和型以外の艦型の開発に消極的であったり、MBTに戦車を発達させようと躍起になるなど、現地メーカーの混乱も招いていた。それと対照的にキングス・ユニオンは現地メーカーの開発環境維持に熱心であり、プロジェクトを中止させなかった。そのため、日本連邦が『開発機の強引な整理と戦車開発の方向指針を頭ごなしに決めた』ことでクーデターを招いたのは失敗例として語られるだろう。

「日本連邦とは偉い違いよ、あれ。上は特攻機と同じ名前の機体のプロジェクトは即日解散を決めたでしょう?横空が怒り心頭よ」

橘花、梅花、桜花。史実の特攻機だが、ウィッチ世界では戦闘爆撃機であったり、迎撃機として開発されていた機種である。しかし、桜花は史実と同じ姿だったことで開発提唱者が闇討ちにあうなどの被害が生じ、梅花はエンジンの取り付け位置が悪いのを理由に、橘花は低性能を理由に中止された。

「どっちにしても、花の名前は死んでこいって言われてるみたいで縁起も悪そうって意見が納得出来ちゃうから、複雑なのよね。あいつらにしてみれば、開花を願ったのに、だそうだけど」

クーデターで試作機が実際に使用された機種もあるが、旭光や栄光に歯が立たないで落とされた機体も多い。当時のドクトリンとして、ジェット機を制空権確保に供すること自体、ガランドが提唱する理論に過ぎず、運動性が劣るので、迎撃機専用というのが標準である。扶桑海軍は高速爆撃機にしようとし、後に乙戦に転用した。だが、旭光がそのドクトリンを変えてしまったのである。旭光の原型はF-86であり、この時期には亡命リベリオンの工廠で試作中の機体である。ウルスラ・ハルトマンは『G化してなければ、自殺を考えた』というほど、その性能に瞠目した。

「そう言えば、ウルスラ中尉に見せたんですか?F-2」

「向こうのテストに乱入してね。綾香が主犯。メッサーシュミット社が泣いてたわ」

「あれはミサイルガン積みして、高度な空戦機動できますしねぇ」

「あの子、操縦桿のコツに手間取ったとか言ってね。機種転換訓練は受けてるらしいけど、乗らないのよね」

F-2は操縦桿が電子的な接続で作動する事からか、あまり乗らないが、機動性の高さから、使用する機会も増えてきている。統括官になったからか、機種転換訓練をついに受けたらしいと智子は言う。

「チャーマーになったけど、操縦桿の感覚が…とか言ったわ。なんでなの?」

「あれはフライバイワイヤで、操縦桿を大きく動かす必要が無くなってますから、イーグルに慣れた統括官が戸惑うのは当然ですよ」

「あの子、機体のほうが音を上げそうなもんだけど、F-2だと聞いてないわね」

黒江はマシンの限界を引き出せるものの、マシンがついていけない事も多く、T-4中等練習機一機を使い潰してしまった事が訓練中にある。これは黒江がうっかり可変戦闘機の感覚で無茶な操縦をしたせいである。20世紀の練習機は23世紀の型落ち可変戦闘機以下の強度なのだ。若手自衛官時代に訓練で当時の教官をビビらせたエピソードに事欠かないのも黒江の特徴だ。また、F-15DJを破損させた事も多く、始末書を書いた事も多い。15への機種転換訓練を受けていた当時の事、オーバーGで機体を破損させて、大目玉を食らい、始末書を書いたのがはじめての始末書であった。また、教官を壊した(レッドアウト)事もあるなど、若手時代は問題児扱いであった。ただし、旧軍撃墜王である事をカミングアウトしてからは教官も頑健で鳴らす人材が割り当てられる様になったとも。黒江が若手自衛官時代に『潰した』教官がおり、その彼が出したレポートで、上層部から出自をカミングアウトをするように通達が出たのである。旧軍トップエースの一人であると。それ以後は頑健な肉体を持つ者が教官になる事が増えた。F-15も頑丈であるが、黒江はそれも破損させており、空自では『教官潰し』と、一時は問題児扱いとされていた。旧軍トップエースの一角を担う俊英と判明すると、大目に見られるようになった。同位体が空将補であった事も効いたのである。また、操縦技能そのものは教導群が教官に欲しがるレベルであり、米軍トップガンも目じゃないため、大目に見られた。

「統括官の操縦に応えられる強度あったんですよ、あれ。15は近代化改修の名目で補修も行われたんで…」

黒江の操縦は鋭敏であるため、20世紀後半のジェット機では機体を破損させることがあった。そのため、F-2の量産が軌道に乗り始めた時期、機体強度の引き上げが部材レベルで行われたり、F-15の改修が早められた。また、10式戦車の研究が具体化し、扶桑で将来的に造らせるという思惑が出たのは2002年頃とされる。

「なるほどね。で、コイツ(74式)の完全退役が伸びたってのは?」

「あなた方がコピーを試みている事がわかって、弾薬共用ができると言うことで、最後のご奉公でペースが遅くされたんですよ」

「つまり小判鮫みたいにくっつくつもりだったのね」

「そういうことです。機動戦闘車の調達が駄目になりそうだった、というのもありますね」

彼の言うように、16式機動戦闘車の前途は多難であり、政治家に不興を買ったために調達が頓挫しかけていた。更に扶桑軍の都合で戦車の定数を根本的に増やさなければならなくなったため、数の確保の名目で74式の退役が無理矢理延ばされたのである。しかし、日本に存在する74式戦車は足回りにガタが来ており、これ以上の運用は困難であった。そこに扶桑が自分達の出したスクラップ扱いの用途廃止車両を解析し、コピーを試みているという情報が入り、防衛省は公式なライセンスを出しての公的な開発にさせる見返りに、10式の将来的な生産権の授与を約束した。日本では、学園都市が極東ロシアからロシア軍やロシア警察を綺麗さっぱり排除した事により、彼の地の統治をなし崩し的に行わざるを得なくなったという政治的事情により、それまで邪魔者扱いしていた扶桑陸軍の『数』の活用が始められていた。その事も陸自の戦車定数が増えた理由である。74式の新規生産を扶桑にさせて、定数確保のための場繋ぎをさせて、自分達は10式を増強しつつ、次期T-Xを構想する。それが陸自の戦力構想である。2020年には10式も部隊使用許可の認可から10年が経過するため、開発環境維持のための新型が必要とされた事もあるだろう。また、扶桑の在来式装甲戦闘車両の多くを政治的理由で前線から引き上げさせた詫びも、七式中戦車には含まれていた。

「政治のお偉方、特に野党は史実のイメージで物を言う。チリやチトは必要十分な性能があったというのに」

彼は日本の政治的理由での装甲戦闘車両の回収を揶揄した。扶桑が有した装甲戦闘車両の多くは生産数が多い九五式軽戦車だったり、九七式中戦車、一式中戦車、三式中戦車などが大半で、四式中戦車と五式中戦車、特に五式は地球連邦軍のテコ入れで改良されて生産が開始されて間もなかった。そこに日本の横槍が更に入り、三式以前は原則、回収という指令が強引に出された。扶桑機甲部隊は直ちに混乱し、ラインが無事であるチリ改を増産せねばならなくなり、チトの生産ラインも保守整備を名目になんとか維持された。しかし、実際はチヌにチト砲塔を乗っけた現地改修車がかなり製造されていたり、チハやチヘも公然と使用され続けた。戦線では貴重な機甲装備であったからで、公然の秘密のようなものである。扶桑戦車兵は火力よりも機動力を尊ぶ傾向があったからだ。扶桑戦車兵は騎兵の気風が色濃く残っており、チリ車やチト車すら『大きい!』と嫌う声があったのも事実だ。しかし、ミッドチルダ動乱でのドイツ戦車群、更にリベリオンの最新鋭戦車『M26』を目の当たりにした者は『打撃力と装甲が欲しい』とする方向に転換した者も多い。この当時、陸自内部で、74式の派遣すら渋る声があったが、『61式はもう稼働車両がない』ことで送られた経緯がある。74式の火力はM60迄であれば一撃で撃破し得るためもあるが、M1戦車の登場が警戒されたので、10式が派遣された。最も、地球連邦軍61式が来れば、火力差で10式もガラクタ同然なのだが。第二次世界大戦中の時代にそこまでの戦車は作れない。せいぜい、M48が限度である。M60相当は技術の進歩がそれなりに必要なのだ。M4が数の上で主力を張る時代に120ミリ砲自体、オーバーなのである。

「それに、お偉方はソ連のIS戦車を恐れていますが、この世界にそんな戦車、ないでしょ?」

「あるわきゃないでしょ。ヨシフおじさんがいない世界なんだし」

「JSとして出るかもしれませんが、当分先でしょうね、国がそれどころじゃないし」

ウィッチ世界では、T-34ですら試作中、IS重戦車に至っては影も形もない。日本の防衛省の官僚の少なからずはロシア戦車に一種の幻想を抱いていた。技術進歩的な意味で。そのため、IS-3やIS-4重戦車が影も形もないのに警戒されていた。それが装甲戦闘車両の性急な更新の理由だが、当時の世界水準からすれば、61式戦車(日本)の90ミリ砲で大火力とされる時代である。そこにもっと大口径砲かつ、次世代の徹甲弾を使えば、この時代の如何な重戦車もブリキ缶同然に破壊できる。また、自走榴弾砲と合わせての全力射撃は当時のカールスラント軍やリベリオン軍の飽和射撃以上の制圧効果を発揮できる。そこは自衛隊の強みであり、同時に参戦している米軍と英軍よりも優れた点である。自衛隊は日本人が『戦争ごっこ』と思うよりずっと練度が高いのだ。

「特科のMLRS持って来てる?」

「上が実戦テストのつもりで持ってきています。要請があれば、制圧射撃可能だそうで」

自衛隊はあらかたの装備を持ち込んでおり、要請があれば、いつでも展開できるらしい。米軍の弾薬供与もあり、訓練が嘘のような射撃が可能であるとのことで、この当時としてはありえないほどの制圧力だ。既に実用化されていた『BM-13カチューシャ』があるものの、より正確な攻撃が可能で、強大な火力を叩きつけられる点で驚愕される存在である。

「デモンストレーションで敵の陣地を発見次第、全力射撃を行うように要請出して、展開させて。第二次世界大戦中の駐屯地なら、あれが三両あれば事足りるでしょ」

パンツァーヴェルファーなども開発されていたが、オラーシャのカチューシャが最も使われている多連装ロケット砲であった。それを遥かに凌ぐレベルで行うのがMLRSであり、智子の言う通り、この当時では破格の制圧力である。後継の装備が23世紀でも普通に存在しており、ザクやグフの思わぬ強敵ともされている。実際、白色彗星帝国相手でも類似装備が威力を発揮しているので、有効性は宇宙時代でも健在である。

「今は単弾頭なんで、五両用意させます。それと同時に自走榴弾砲でも叩き込みましょう。史実でも10cmカノン砲でハラスメント攻撃は成功してましたし」

「連絡を頼むわ。逃げてきた兵隊は捕虜にするわ。撫で斬りにしたら問題だし」

「伊達政宗や織田信長じゃないんですから」

「まぁ、あれの制圧力で生き延びられる兵隊はウィッチだけでしょうけど」

自衛隊部隊を扶桑軍准将(黒江と違い、自衛隊では将補相当)の権限で動かす智子。黒江が任ぜられたので、それに合わせての昇進であり、叙爵もセットであった。そのため、レイブンズは派遣自衛隊を実質的に指揮可能な職責を担っていることになる。

「大型目標をMLRSに、兵舎や車輌類は榴弾砲の時限統制発火で破片攻撃すれば良い」

「了解です。偵察でそこを発見次第、友軍と合流しましょう」

「そうね。あたしと調で最悪、駐屯地を制圧できるけど、撫で斬りしまくると、後で面倒な事になりそうだし」

二人で普通に駐屯地を制圧できるが、あまりに一方的になり、『虐殺』と批判される危険があるため、駐屯地制圧には一工夫必要であった。いくら聖闘士とサムライトルーパーの力を持つ智子であっても、気を使う必要があるのは、21世紀のマスコミ対策が重要だからだ。

「あまりに一方的だと、マスコミはすぐに虐殺と騒ぎ立てますからな」

「戦国時代みたいな事を将校に求めるくせに、あんまり一方的だと虐殺だって言うんだから、呆れちゃうわよ」

これもGウィッチが抱えた悩みの一つである。一騎当千の力の全力を出すと、今度は虐殺と騒ぎ立てるマスメディアが存在する。そのため、部隊を率いて戦う事も増えるが、既に多くが佐官や将官になっている彼女たちを前線に立たせるのには、連合軍の扶桑以外の国の軍人達の間で反対論があるのも事実だ。指揮官先頭の文化はこの時代においてはあまり見なくなった文化であり、ロンメルや山本五十六にしろ、十字砲火の只中で指揮するわけではない。しかし、Gウィッチ達は先陣を切って戦う立場に身を置いている。佐官や将官であっても、前線にいることは珍しくないが、扶桑では戦国時代以来の伝統で『指揮官先頭』の文化が色濃く残っている。また、日本の一般人も『陣頭で指揮を取ってこそ指揮官である』とする認識が強く、そこも参謀を当てにしない世論がある理由だろう。現に、参謀らしい参謀の職務を果たしている者を扶桑の派遣部隊で探すほうが難しい状況である。そのため、自衛隊は軍と軍の折衝業務に苦労し、黒江があちらこちら駆けずり回る始末である。

「本当、統括官も大変ですよ。連合艦隊参謀、広報業務やらを兼務して、それで戦闘もこなしている。慰労金は高額になると噂です」

「あの子、光速で動けるから、記者会見が終わってすぐに戻ることもできるし、口八丁手八丁で予算取れるから、忙しいのよね。だから、あんな遊び考えるのよ」

「統括官もオフでは羽目を外しておられるようですな」

「あの子、コ○ケに行ってるし、小遣い稼ぎのアルバイトで変身するのよ。確か、息がかかってる部下を通して、写真を裏で売ってるわよ」

黒江は変身能力を小遣い稼ぎに使用するようになっているが、ダイ・アナザー・デイ時になると、陸自にも知れ渡っていた。黒江は二次創作物や一次創作でも地味に才能があり、2018年くらいには、コ○ケでもそれなりに知名度があるサークルとして知られていた。また、自分のコスプレ写真や同人誌を艦娘・秋雲などを巻き込んで売ったり、現地でコスプレと称して変身した姿で自衛隊の友人のサークルの売り子もしていた。基本的に冬に売り子、夏にサークルで参加するスタイルらしく、曰く『冬は寒いし…』との事。また、自分で地球連邦軍・火星方面軍から入手した『モスピーダ』を『自分で作ったモデル』と称して客寄せパンダにしたり、その方面でも有名である。『コスプレ写真』は売れ筋商品で、モスピーダに綾波レイのプラグスーツでまたがる写真などが売れている。アルトリアのアーチャー姿の写真、水着姿の写真は『本人の写真』なので、更に売れるらしい。ジャンヌも対抗して、『ザフトの軍服姿でどうでしょう。どうせ着ることは今後、無くなりそうですし』と言い、黒江も『うーん…どういう層に受けるか…』と困惑したという話も伝わっている。ジャンヌは転生の素体がルナマリアであるので、ルナマリアの私物は融合先である彼女が今は管理している。今では用無しであるザフトの軍服もその一つであり、ジャンヌは黒江に誘われた際に、それを羽織って売り子をすると言い出し、黒江を困惑させていた。また、『2018年の夏』では、シンフォギアを展開して売り子をしようと、その姿で入場しようとし、スタッフに叱られる一幕もあった。しかしながら、注目を浴びる効果もあり、黒江が自衛隊の著名な女性の高官である事もあり、世間の注目を浴びたという。また、この年はザフトの赤服をサーコート代わりに羽織って売り子をするジャンヌ、仲良く談笑するアルトリア/モードレッド親子の写真を引っさげて参加したこともあり、例年以上の売上であった。その日のネット掲示板に『青セイバーとモーさん、まさかの和解か!?』というスレッドが立てられたとも。ジャンヌとしても、連邦軍人になっているため、今後は地球連邦軍の軍服は着ても、ザフトの軍服は着る機会がないと思っていたらしく、意外に楽しんでいたという。また、ルナマリアとしての記憶から、虐殺などの戦争犯罪に平然と組織的に手を染める傾向があったザフトへの嫌悪感は持ちつつも、ルナマリアのザフト所属時の記憶は『いい思い出』と割り切っている。自分達は曲がりなりにもエリートコースであったから、きちんと規律が取れていたのだろうと回想しており、ザフトは義勇軍がそのまま実質的な軍事組織になった故の問題点も認識している。お互いの身分がはっきりしている地球連邦軍と違い、ザフトははっきりとした身分が存在しない。それ故にザラ派が暴走していた時期は規律はあってないようなものだったし、地球連邦軍が介入しなければ、際限ない殺戮がヤキン・ドゥーエ戦役で起きていただろうし、地球連邦軍がいなくなった事をいいことに、世界が混沌を選んだのは残念なことだと、もう『戻る』ことはないだろうコズミック・イラ世界を想ったという。地球連邦軍もコズミック・イラの世界がヤキン・ドゥーエ戦役からたった数年で戦争にひた走ったのを嘆き、『見せしめに、拡散波動砲をワシントンDCに撃ち込むべきだったか…?』とぼやいたという。最も、ギルバート・デュランダルはデスティニー・プラン遂行のため、地球の国家を焼き払う腹積もりであったらしい事から、『バトル級のマクロスキャノンを彼らのコロニーをかすめるコースで脅すべきだったのか』ともぼやいたとも。ジャンヌとシンから状況を聞かされた地球連邦軍は後に、コズミック・イラの次元座標を特定に成功、再介入を決意。今度は手加減なしの大盤振る舞いで、コズミック・イラの第二の戦争を調停することになる。その時に旗艦となったのがしゅんらんの次代にあたる地球連邦軍総旗艦『ブルーノア』だったという。また、ガイアもちゃっかり、その艦隊に戦力を派遣。連合艦隊を組んで参陣。色々と凄まじい圧倒的光景が繰り広げられたという。また、この戦でも第三勢力だったラクス・クラインらは地球連邦軍に早期に恭順の意を示すことになり、ラクスはヤキン・ドゥーエ戦役の戦後処理を怠った事を咎められ、その禊のため、彼らの後ろ盾を得てプラント最高評議会議長に就任することとなったという。また、その戦争は地球連邦軍とガイアの地球連邦防衛軍の連合艦隊の圧倒的軍事力が席巻する形で双方の好戦派を殲滅。オーブ首長国連邦は反地球連邦の首長と親地球連邦派の首長で内乱が起き、それも鎮圧。一括して地球連邦政府(アース)が主体となる形で戦後処理が行われたという。結果として、ラクス・クラインは地球連邦政府の保護国として国家存続を模索する道を選び、地球連合は地球連邦の占領下に置かれ、核分裂に代わる核融合エネルギーを与えられ、エネルギー問題を解決する(ニュートロンジャマーは核分裂を阻害する装置であるので、核融合炉はその影響外である)事になり、地球連邦の移民統治領としての道を歩む。オーブ首長国連邦はカガリ・ユラ・アスハが主導権を奪い返し、宣言を行う形で国家復興を誓った。


『閉じ籠った中立は結局戦乱に巻き込まれるだけだ、侵略は行わないにしても手を取り合えたり交流のある国を戦争から救う手助けを出来ないなら国家に何の誇りが持てよう! だからここに宣言する! 我らオーブの旗のもと、仁義を通し礼を払い、それでも武を持って対するものを手を取り合えるもの達と共に打ち砕く事をこれからの国是とし、まずは領土に野心の無い勢力、アースフェデレーションと相互防衛協定を締結する!』

アースフェデレーション。つまり、地球連邦政府のことだ。地球連邦政府はこの時には既に名称を地球星間連邦政府に変えていたが、対外的には『アースフェデレーション』を通した。戦後処理が終わったのはコズミック・イラ74年の冬。条約発行は75年であるが、それまでに散発的にザラ派残党、地球連邦への恭順に不満を持つクライン派右派などのテロ行為も起き、地球連邦軍による掃討は続いたという。因みに、その時に地球連邦のMSとしての象徴に使われたのはMSZ-010系(ZZ系)であったという。コズミック・イラ世界では、性能的に似た特徴の機体も多いために、機体の性能自体はあまり注目されなかったが、構造的には注目を浴びた。複数の核融合炉を体内に収納しておきながら、通常サイズに収めた上に合体分離機構を持つ構造は技術屋の興味を引いたという。



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