外伝その240『心はサムライ3』


――地球連邦軍は基本的にはRX-78とRX-77、RGM-79を基本フォーマットにしてMSを発達させていった。RX-78からそれほど年月が経たないうちに、RX-0やFシリーズにまで異常な進化を遂げた背景には戦乱による開発競争があった。ジオンが離散集合を繰り返している内にアクシズ時代で新規開発がほぼ止まり、ギラ・ドーガでも、アクシズ時代最末期の次世代試作機をベースにブラッシュアップしたモノにすぎないのとは対照的である。連邦は大型MSに回帰しつつあるが、主力機はミドルサイズになりつつあり、ビームシールド装備だが、ジオン系は基本的に機動力重視なため、出力を食うビームシールドは信頼されていない。その証明がナイチンゲールで、宇宙用にほぼ特化したワンオフの同機でも、ビームシールドは持たない。ビームシールドのノウハウを持つアナハイム・エレクトロニクス社であるが、ネオ・ジオン御用達のグラナダ支社は基本的に元ジオンの工廠やジオニック社出身が多く、新興技術のビームシールドよりIフィールドへ信を置く者が多いのが原因である。ダイ・アナザー・デイ当時には、ビームシールドやビームバズーカの普及でジオン系MSは機動性を武器にするしか無くなっていた。しかも、小型機やミドルサイズの登場でその機動性すら危うくなってきており、それがジオンが一騎当千のワンオフ機に金を使う理由であった。――



――ダイ・アナザー・デイ当時、地球連邦軍はRGMシリーズ最新鋭のジェイブスが実用化されてはいたが、整備ノウハウの不足を理由にダイ・アナザー・デイではあまり用いられず、主力は相変わらずジェガンであった。とは言え、R型とM型で統一はされており、予備パーツが豊富ということで使われているにすぎない。また、ジェガンは意外なことだが、空軍の持つミデアのコンテナの規格に合うという点もあり、小型機がガルダ級で輸送する方法が取られている事に比べれば、利便性が高い。これはミデアのMS用コンテナは一年戦争の時に制定された規格のままであり、大型化した可変MSや小型MSは規格に合わず、運べないという難点があり、空軍の財政的にミデアを世代交代させるよりも、ガルダを揃える事に傾倒したからでもある。ガルダ級はペイロードが人類史上最高レベルであり、米軍のC-5ギャラクシーなどお呼びでないレベルである。もちろん、第二次世界大戦中の輸送機を1000機集めても敵うものではない。そのため、アウドムラが連合軍指定輸送艦扱いで駆り出されていた。当時の連合軍標準の大型輸送艦以上に物資や兵器を輸送できる事から、ガルダ級は沿岸に着水する形で物資を運んでいた。(ガルダ級を運用できる飛行場を用意するにも、広大な滑走路が必要なため、短時間に整備ができないのだ)ミデアに熱核タービンを載せる近代化改装の計画の予算がダイ・アナザー・デイまでに通らなかったので、ガルダ級のローテーションで輸送任務が行われていた――




――またしても、戦艦部隊の撃滅は成らなかった連合艦隊。ブリタニア艦隊が予想以上に消耗していたので、追撃は断念したものの、H41級一隻は鹵獲に成功していた。その修理部品の輸送も担っていた。

――戦線で多数が用意された浮きドック――

「なんとか一隻は鹵獲できたか」

「統括官、よくこの浮きドックに入りましたね、このビスマルクのマイナーチェンジ型」

「三笠を整備するために作った特注品だ。その半分以下のサイズの船は軽いもんだ」

三笠型は宇宙戦艦規格で造られているため、浮きドックもバトル級が入るほど大きい。H41級戦艦などは三隻くらい余裕で同時に置ける。その中で修理改装が行われている艦の名は『クルフュルスト・フリードリヒ・ヴィルヘルム』という長ったらしい名前の艦である。ドイツらしいが、どうやら戦争に勝った世界で造られた艦のようで、最古の艦日誌が1946年とある。捕虜は下船させてあるので、修理して使用を希望しているカールスラント海軍と現場責任者の黒江とその部下が作業を見守っている。全体的に基本フォーマットがバイエルンのマイナーチェンジであるビスマルクであり、それをどうにかして改善しようと試行錯誤が見え隠れする艦容である。状態は砲が一個、播磨の51cm砲で砲身がへし折られている以外は良好で、砲を修理すれば、カールスラントに回航できるだろう。

「これがビスマルクの改良型か…やはりあれを改善しなければならんのか」

「あんたらも分かってるだろ?大洋艦隊の時の設計陣はこの世の人で無いし、バイエルンを基本にしないと設計も覚束ないこたぁ」

当時、幸いにも、H42相当の43cm砲までは試験装備としてカールスラントでも実用化されており、修理部品として増産される。また、エーリヒ・レーダーの後継者『カール・デーニッツ』が大型水上艦の新規建造を嫌う潜水艦男だったためもあり、鹵獲品を直すのがカールスラントの方針であり、愛鷹の返還も彼の主導だ。この異常までの潜水艦への傾倒はM動乱でのナチス海軍のXXTの華々しい戦果も理由である。潜水艦発展が停滞していたウィッチ世界では潜水空母こそが花形とされ、攻撃潜水艦はおざなりにされていたため、それを大義名分に愛鷹の再整備を潰しても、XXT型潜水艦に傾倒した。また、ノイエカールスラントの立地条件として、大型水上艦の艦隊を揃えるのは資源的に困難という現実的理由もあった。しかし、当時は日本連邦軍がそうりゅう型潜水艦の増産を開始しており、カールスラントの潜水艦大国のブランドも危うくなっていた時期である。デーニッツはそうりゅう型潜水艦の存在に愕然となり、更に米軍の原子力潜水艦、地球連邦軍のM型潜水母艦という潜水艦の発達を見せつけられ、しばし落ち込んで執務を休んだという。

「しかし、何故、我々の提供したダメージコントロールを新造艦で廃したのか?」

「あんたらのダメコン技術はガリアの20年前のレベルと変わり映えしねぇからだそうだ」

「どういうことか」

「紀伊型であんたらのダメコンは古臭い理論の塊だってのが実証されて、大和型も改修されたし、新造艦はリベリオン式の発達型ダメコンが基本だ」

基本的に改装大和以降の艦はアメリカ/日本のダメコン技術を基に発達した技術を用いており、在来艦も改装予定である。また、ぼったくり問題で日本連邦は米国やキングス・ユニオン製の戦闘機を輸入したりする方針に切り替えており、カールスラントはゲーリングの失策により、大口顧客になり得る国を失ったことになる。

「空軍をなんとかしろよ。あのモルヒネデブ野郎のおかげで、ウチの海軍も陸軍もカンカンだ」

「ゲーリング元帥は陛下に叱ってもらうから、許してくれ。陛下に奏上して、空軍のエースをそちらの戦線に貸し出すように手配させるから…」

この時、カールスラントは新京条約の内容が通達され、意気消沈していた。さらに、日本連邦は英米に傾斜し、ドイツ領邦連邦との関係は事務連絡レベルにまで冷え込んだ(史実親独派の失脚)ため、その修復に躍起になっていた。松岡洋右の失脚で外交的パイプが少なからず潰されたからだ。広田弘毅も軍部大臣現役武官制の是非で危うく失脚しそうになるなど、扶桑とカールスラントは外交的パイプの維持に苦心した。また、ぼったくり問題で自国製ジェット機が風評被害で売れなくなる事を危惧したカールスラント空軍は扶桑に慌てて、自国でも配備されていない改良型メッサーシュミットMe262を提案した。当時としては先進的な構造に改良された第二世代型であった。だが、根本的に次の世代のジェット機である旭光や栄光が既に生産準備段階であったり、サンプルでF-4EJやF-14が輸入されていた扶桑には魅力に欠けた。後に黒江はファントムでノイエカールスラントを訪問。カールスラントの心をへし折る寸前に追い詰めたという。また、この時の密約が義勇兵の発想に発展し、カールスラント空軍の罪滅ぼしとして、彼女たちを極秘裏に扶桑の太平洋戦争に従軍させたという。

「頼むぜ?メンバーはこちらで選ぶから、なんとか方弁作るようにG機関に言え」

カールスラント海軍が協力したことで、太平洋戦争勃発前、要職についたラルを除くメンバーは一旦、『予備役に退いた』と偽装され、勃発前に南洋へ渡り、そのまま扶桑軍の義勇兵扱いで従軍する。その密約はこの場で交わされたのだ。

「この艦をもらうためなら、皇帝陛下は何でもすると仰られている。それでいいか」

「それと、イリヤスフィール・フォン・アインツベルン、クロエ・フォン・アインツベルンに名跡を継いだ真実性を持たせるために戸籍を作っておいてくれるように言ってくれ」

黒江が言うのは、イリヤとクロにカールスラントの戸籍を本当に作ってやるように根回ししろというもので、皇帝の口約束を真実にするためのバーター取引である。そのサーニャは亡命で名を変えることでサーシャと揉めてしまい、流石に最後はブチ切れ、夢幻召喚でセイバーの力を発動させて、エクスカリバーを構え、圭子がすんでで止める事態になった。エイラもブチ切れ、ISのデストロイモードを発動状態であり、圭子でなければ止められなかった。正式にサーシャが追放になる日のことだ。サーシャは故郷にいる家族が革命で散り散りになり、最愛の祖母が惨殺されたと知らされ、情緒不安定に陥っており、サーニャと故郷を再建すると思い込むようになるなど、精神状態が悪化していたことなどが引き金になり、その出来事は起こった。



『やめろテメーら!』

圭子の一喝が飛び、なんとか難を逃れたサーシャだが、圭子が駆けつけた時にはあまりの恐怖で失禁寸前の状態で、顔から出すもの全部が出ている有様だった。エイラはバルクホルンから借りたバンシィのVNを発動させており、サーシャの執務室の机を破壊しており、サーニャもイリヤの姿かつ、セイバー状態でエクスカリバーを突きつけていた。

『自分の望みのためにサーニャの家族との再会と新生活を潰すのかよぉ!それじゃ革命運動の連中と一緒じゃんかぁ!』

激高し、VNでサーシャの執務室の調度品を粉砕するエイラ。相当にカッカしているらしく、完全に憤怒の表情だ。

『大尉!貴方って人は……!』

サーニャはイリヤの姿になっているので本当の姿より幼い姿だが、ストレートに感情を出している。エクスカリバーの切っ先を首元に突きつけているのは極めて異例のことで、圭子も事の異常さをすぐに悟った。

圭子が怒鳴ることで剣を収めたり、VNの作動を止める二人。エイラは武器を使ったらしく、部屋はかなり荒れており、ビームマグナムで壁に大穴を開けたらしき跡もあった。

『戦友思いなのは結構だ。……だがな、一応は味方の基地内なんだ、隊で納めといてやるから罰直で隊舎清掃、一週間な』

『り、了解』

『あ、サーニャ、いや、イリヤもだぞ』

『了解です、准将』

『大尉の心を完全にへし折ったな?お前ら。見ろ、これじゃジューコフ元帥が腰抜かすぞ』

サーシャは完全に錯乱状態であり、意味不明な言葉を喚いている。

『しゃーねー。お隣のベースまでの連絡列車に無理矢理乗せて、しばらく面会謝絶だな』

圭子は空中元素固定で強い鎮静剤を作り、それを即座に投与し、サーシャを眠らす。そして、執務室の中にあるスイッチを押し、お隣の基地までの秘密連絡列車の乗り場に行き、列車に乗せて、自分と二人を乗せて、隣の海底基地へ向かった。(サーシャは眠らせて乗せた)

「全く、ヒスパニアから一旦戻ったら、とんだトラブルだぜ。日本に知られたら大事にされんぞ」

「す、すみません」

「隊内で済ませておくが、聞いておくぞ。こいつは何を言ったんだ?」

「それがさ…」

サーシャが何を言ったのか?それは『家族が無事なら良かったけど、自分を手伝ってほしい』という趣旨のもので、サーニャの意思を無視したものであった事がエイラから示唆される。そして、亡命の意思を伝えると、『祖国を裏切るのか』という話にこじれ、エイラがISを起動させたと同時に、サーニャはイリヤになり、夢幻召喚を発動させた。

『―――告げる!汝の身は我に!汝の剣は我が手に!聖杯のよるべに従い、この意この理に従うならば応えよ!誓いを此処に!我は常世総ての善と成る者! 我は常世総ての悪を敷く者!汝、 三大の言霊を纏う七天!抑止の輪より来たれ 天秤の守り手!夢幻召喚(インストール)!』

イリヤになった上で、正式な手順を踏んで夢幻召喚を実行したサーニャ。元の姿よりも幼い少女騎士のような姿になったのは、サーシャを驚かせた。

「見た目に惑わされない事ね、魔力を感じてみなさい?」

風が奔り、その腕に約束された勝利の剣が召喚される。更にエイラは。

「一角獣の対になる百獣の王の力、その身で味わってみっか?」

と、ビームマグナムを構える。Eパックの落ちる音が壁の煮え立つ音の中、ただ重く響く。石壁すら溶け煮え立つ威力のビームがサーシャの横を通過した。怪異のビームの数倍ものエネルギーを持つビームだ。それを人サイズで扱えるなど、オーバーテクノロジー過ぎる。

「わるいねー。これ、未来のガンダムのダウンサイジング版強化服なんだナ。大尉のシールドでも防御はムリなんだナ」

「が、ガンダムの……!?」

「私が持っているこの剣は……聖剣『エクスカリバー』。それを持つ英霊の力を借りている状態です。大尉、私が言っている事の意味がわかりますか?」

「い、いったい貴方たちは……」

「大尉、貴方もオラーシャの軍人なら、覚悟を決めたらどうですか?私の家族との思いの侮辱、今すぐに取り消してください」

イリヤとして、サーニャは言う。姿は違えど、家族は家族。何物にも代えがたいのだと。

「ま、待って!そういう意味で言ったのでは……」

「それじゃ、どういう意味だというんですか!」

イリヤの手に握られるエクスカリバーが風王結界を纏う。それを開放すれば、サーシャは暴風に体を切り裂かれ、見るも無残な様相になるだろう。

「言ってもわかんないんダロ。こういう時は……」

バンシィのVNを作動させ、手頃な調度品を超振動で粉砕する。

「今のはこの強化服の基になったガンダムの力なんダナ。ああなりたくなきゃ……」

「待って!私はただ、一緒に祖国の復興を……」

「そんなの、自分の望みのためダロ!?自分の望みのためにサーニャの家族との再会と新生活を潰すのかよぉ!それじゃ革命運動の連中と一緒じゃんかぁ!」

VNが別の調度品を粉砕する。

「大尉、家族を失って、動揺するのはわかります。でも、自分の望みを、いくら部下だからって、他人に押し付けるんですか!?大尉、貴方って人は…!風王……」

イリヤが風王結界を開放しようとしたタイミングで圭子が来たわけだ。サーシャは敬愛する祖母を失い、母親も重傷を負ったところを運良く革命派の掃討に入った地球連邦軍に保護された。祖母は地球連邦軍の軍人が目をそむけるほど惨たらしい殺され方であり、母親も暴徒に強姦された後だったり、凄惨な出来事が起こった事が示唆されていた。それを知ってしまい、祖母を失ったショックを愛国心で誤魔化そうとし、また、サーニャを失いたくないがために遺留しようとしたが、見るも無残な結果を招いた。革命派はモスクワに迫ったが、地球連邦軍が掃討に入ったことで一気に敗北していったが、疑心暗鬼に陥った人々の凄惨な殺し合いが頻発した。その結果、目を覆うばかりの大損害がもたらされた。ロシア連邦はこの凄惨な事態にも関わらず、無関心であり、米国の憤激を買ったという。

この国(オラーシャ)はウィッチの居るべき理由の無い国に思えるの。だから私は家族の下へ行くの、裏切るも何も信じる物が無いのよ、オラーシャには」

それがサーシャにイリヤスフィール・フォン・アインツベルンとして言った言葉であり、それがサーシャと袂を分かつ言葉でもあった。

「あなたはいったい『誰になる』というの!!?」

「私は扶桑人であって、カールスラント人でもある。それだけよ。九条しのぶとして、イリヤスフィール・フォン・アインツベルンとして、私は生きる」

いずれも華族であり、貴族である。カールスラントの絶えた伯爵家の名跡を受け継ぎ、九条家の跡継ぎになる。サーニャはこれ以後、二つの姿の内、名跡を継いだとは言え、比較的動きやすいイリヤスフィール・フォン・アインツベルンの姿を普段遣いにしていく。また、九条しのぶとしての姿は公の場で使用するようになり、使い分けていく。また、統合戦闘航空団用の身分と姿はイリヤスフィール・フォン・アインツベルンとなり、元より二階級高い少佐待遇でカールスラント軍人と見なされるのである。

「でも、どうします、准将。大尉のこと」

「ジューコフ元帥に三週間待ってもらう。それまで隔離するしかねぇな。錯乱状態じゃ、表に出せねぇよ」

喋っているうちにバルカンベースまでの行程の四分の一に差し掛かる。機密のため、海底深くに潜水しているベースの最下部に行くので、一時間以上はかかる。これは機密保持のため、わざと迂回ルートでトンネルを築いたためである。

「敵にばれないためって言っても、一時間も乗るのは退屈ダナ…」

「しゃーねーだろ。ヒーローの基地なんだぞ。バレたら大事だ。ルートを定期的に変えてるから、時間かかるんだ」

「たしか、暇つぶし用の動画が見られるはずだよ、エイラ。日によっては映画一本見られちゃうらしいから」

「今日は短いほうだ。そんなに暇ならそこのタブレットで動画でもゲームでも好きにしろよ」

「あんたに言われると、納得ダナ…」

圭子は映画を見、イリヤはゲームをし始める。エイラは暇つぶしに、日本で放映されたアニメを見てみる。それはフィンランド生まれのカバに似た妖精が主人公のアニメであった。彗星がぶつかりそうになるという筋書きであり、エイラは見始めるなり、なんとなく惹きつけられる。因みに圭子は『ド○ゴン危機一発』を見ていたりする。それらで暇つぶしをしつつ、時間を潰す一行であった。



――ダイ・アナザー・デイが長引くにつれ、絶頂に向かいつつあった頃の米軍の物量に改めて注目が集まった。20世紀半ばの時点では、米国は紛れもなく世界最大の物量を容易に用意できる国であり、当時の世界最高水準の兵器を容易く量産できる。その米国相当の国の攻撃を如何にして凌ぐか。日本が導き出した結論は時代を超えた兵器でとにかくキルレシオを良くし、相手の戦意を折る事であった。これは多少の人的被害ですぐにマスコミが怠慢と叩くため、時代を超えた兵器で第二次世界大戦の兵器をぐうの音も出ないほど叩きのめす事しか選択肢が事実上、存在しない自衛隊の悲哀でもある。日本連邦に反対論が存在したのも、『向こうの都合で戦争に巻き込まれる』というトンチンカンな主張が一定の支持を持っていたからでもある。日本としては憲法をウラジオストクなどの極東ロシアを統治するようになったこともあり、改正せねばならなくなったが、2010年代当時の自衛隊は日本列島を防衛する最小限の軍備しか持っていないため、自分達の軍備を増やさず、外征軍隊の扶桑軍を合法的に動員できるということで、急速に日本連邦への支持が広まったのである。また、大陸の地理に詳しい軍人を扶桑の経費で動員すれば、自衛隊員を増やさずにすむ。そのメリットが日本の軍事アレルギーに合致したのである。財務省は扶桑の膨大な予算と人的資源を使い、死に体とされる日本経済を1980年代頃の状態に戻すため、防衛において、積極的に扶桑軍を使うことを提言する。また、防衛省の背広組も経費削減の意図から、扶桑海軍をこき使うのを容認していた。仕方がないが、広大な極東ロシアを統治し、治安維持をするのには、扶桑軍を使うしかない。こういう時に1000万近くの軍人を有する事は大いに有利に働いた。扶桑軍に自衛隊の装備を与え、訓練する。それだけで必要な任務をこなせる事は重要なので、元・ユーラシア大陸方面軍出身の軍人が用いられた。また、学園都市が力を失う前に、ウラジオストクの港を再整備していたため、港の安全が確保され、扶桑海軍のウラジオ鎮守府所属艦のいくつかが転属し、自衛隊も艦艇を置いた。扶桑が完成させた最新鋭艦『播磨型戦艦/美濃』が示威目的で配備され、残留したロシア系の人々に日本の完全復活を示した。また、ウラジオストクの統治権が日本へ移った事の象徴としても美濃は使われ、20インチ砲と大和の系譜たる塔型艦橋は日本の中興を国際社会に知らしめる役目を果たした。財政難でキーロフ級ミサイル巡洋艦をまともに動かすこともままならなかったロシアは、日本が大艦巨砲主義を近代兵器で蘇らせ、海軍のシンボル的役目を果たしている事に激しく嫉妬した。播磨型は大和型戦艦を二回りも大きくしたような威容であり、『核兵器にも耐える』重装甲を持つ。表向き、『扶桑が作っていた超大和型戦艦を日本が近代化した』という風に広報がなされていたためもある。無論、扶桑で最初に計画された時はここまでの規模では無く、280m級であった。だが、計画が復活した後、三笠型のダウンサイジングでありつつ、51cm三連装砲を少なくとも四基積む事による船体強度の確保や船体安定性の確保、近代武器の搭載スペースの都合で大型になり、350m級で完成した。21世紀の原子力空母をも凌ぐ巨体と、大和以上の巨砲はこれ以上ないアピールであった。また、実は船体はモジュール構造であるので、艦尾を波動エンジンに変えれば、宇宙戦艦に生まれ変わる。これは極秘であったが、実用化された艦砲のギネス記録を塗り替えたという広報は大きな効果をもたらした。因みに、宇宙戦艦ヤマトの構造が適応されたために、煙突は偽装も兼ねたVLSである。美濃は予算上は戦艦長門の代替艦である事も軍艦史研究家の注目を浴びた。改大和型戦艦は扶桑型と伊勢型の代替という名目で整備されたので、その後継の超大和型戦艦は当然、長門型の代替と思われたからだ。これは長門型が退役したので、予算計上がしやすい(人気艦であったので、その代わりが国民に求められるため)事情からである。また、忘れられがちだが、八八艦隊の整備が長期スケジュールになれば、扶桑型や伊勢型の就役期間も延びる。紀伊型戦艦ができた後、一三号型巡洋戦艦が大和型戦艦に切り替えられた段階で八八艦隊計画は終焉している。また、八八艦隊の立案当時、『18年が軍艦の寿命』と見なされていたので、こんごう型護衛艦やニミッツ級の初期艦のように20年以上使うのは信じられないことであった。そのため、艦の運用スケジュールが長期化することに扶桑造船界は困惑している。その代わりに海援隊用になる大型巡視船(初代三笠や筑波などの代替艦)の大規模建造が許可された。海援隊は旧式戦艦を改装して使用していたが、『初代三笠をオリジナルの状態にできるだけ戻して、自走する記念艦にする』日本の世論が理不尽に奪ったため、海援隊を宥めるための新造艦を必要としたのだ。しかし、装備はあくまで海自護衛艦に準ずるものであるので、海援隊が安全保障業務を担当する太平洋共和国が不満を漏らしたため、結局、クーデター後に放置された紀伊型『近江』を旗艦として与えることになる。また、改装後の土佐も海援隊に割り振られたため、海援隊は近代化に成功。黒江とのコネクションで代艦の確保に成功したということで、海援隊はこの後の時代、黒江家と深い関係となる。更に、後の時代、黒江家の次男の息子の一人が婿入りし、縁戚関係になったという。(その時代、才谷家に跡継ぎがいないため、黒江が気を使い、甥の一人をお見合いさせて名跡を継がせた。晩年を迎えた才谷美樹を安心させるためであった。その数年後に美樹は静かに生涯を閉じ、後事を娘と婿に託したという)――


――ダイ・アナザー・デイは『その時代』に至るまでの過程が始まる区切りでもあり、黒江は作戦中に実家に帰省中の長兄から、『近い内に家督を譲る』という連絡を受けているなど、戦後の時代への布石が敷かれ始めた頃であった。それは扶桑という国も同じで、太平洋戦争、引いては更に後の戦争に備える意味も込めて、緊急用の地下都市をドラえもんに築いてもらったり、オリンピックなどを大義名分に、各種インフラを急ピッチで整備する。また、急速な兵器の近代化の波の中、どうやってウィッチを腐らせる事無く、軍務に励むように仕向けるか。そのプロパガンダに『Gウィッチ』を使うことを、彼女たちの後援者であった山本五十六や源田実が主導する形で決定する。これは事変以来のプロパガンダ政策の大転換であると同時に、山本五十六なりのGウィッチたちへの『償い』であった。しかし、その急転換が反対派の先鋭化を加速させたのも事実なので、それを主導した山本五十六の方針に反発した者たちのクーデターを招いたこともあり、直後に賛否両論を呼んだのも事実である。日本連邦が連合国内でその主導権を次第に握っていく時代を迎えるにあたり、かつて、Gウィッチが起こした『奇跡』を肯定する方針に転換した扶桑は内乱と戦争を経て、ウィッチ世界で、人類の歴史で史実アメリカ合衆国が演じた役目を演ずる事になり、次第に超大国に変貌していくのだった――



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