外伝その241『狙撃のG』


――さて、偵察に出た調と下原だったが、そこで驚くべき人物と出くわす――

「Mr.東郷……何故、貴方がここに?」

「……俺は依頼を受けて、この世界にやってきただけのことだ……」

デューク東郷。正確に言えば、代替わり間もない三代目デューク東郷である。二代目から全ての記憶と技能を継承し、仕事を引き継いだばかりの頃で、若々しい肉体を持っていた。そのため、二代目の晩年期に見られた顔の皺が無く、若々しい顔立ちになっている。

「野比のび太と目的は一致した、ということだ。俺は何の予備知識も無しに、依頼人に会うような自信家じゃないんでな……調べさせてもらった。悪く思わんでくれ…」

東郷は依頼を受けるに当たり、背景を入念に調査した事を明言する。のび太が裏で絡んでいる依頼である事、バダンが絡む依頼である事から、特定の顧客を持たない彼にしては極めて異例である。最も、初代がイギリスの元MI6部長のヒューム卿とある種の信頼関係を築いていたので、けして珍しいことでもない。

「それじゃ、この先の駐屯地は貴方が?」

「火力で派手に叩くのは簡単だが、それでは敵の注目を浴び、すぐに増派されるだけだ……。あくまで事故に見せかける必要がある……」

ゴルゴは智子が指示した派手な制圧を愚策とし、破壊工作に切り替えさせた。ヒスパニアの親ティターンズ派の地域の住人になりすましており、扶桑系ヒスパニア人にしか見えない。二人を着替えさせ、如何にも『浮浪者』と言った雰囲気の服装に変えさせた。

「これで大丈夫ですかね、Mr.東郷」

「軍隊の歩哨というのは、見てないところではサボる仕事だ。君たちほどの容貌があれば、下っ端の兵士はすぐにちょっかいを出してくるものだ…」

ゴルゴは世界各地でそのような事を嫌という程見てきたので、歩哨の目を誤魔化す手段は『車のバッテリーが上がった』、『ツレが病気』、あるいは賄賂というのは心得ている。トラックに二人を乗せ、道中、智子に事情を説明した東郷はお得意の破壊工作に打って出た。


――駐屯地――

「すみませんが、私の連れが病気になりまして……」

歩哨にいくぶんかの金を握らせ、中に入る。病人役の調と共に『医務室へ案内』され、それらしく見せる。夜になり、電話を借りるフリをした東郷が駐屯地の構造を把握するため、駐屯地の案内図を作る担当の士官を拉致し、脅して情報を入手する。調も忍術を駆使し、看護婦や軍医に強力な睡眠薬を盛った深夜に行動を開始する。こういう時に戸隠流のスキルが役に立った。

「Mr.東郷、配置図は?」

「手に入れた。弾薬庫……兵舎、車庫、燃料庫と続いている。これでは連鎖爆発で危険だから、普通はこうしないものだ…」

ウィッチ世界では、他世界ではありえない建物配置や部屋配置が当たり前である。だが、燃料庫がガソリンスタンドの構造を持つ駐屯地は割合、よく見るものである。敷地の広さによる。この場合はガソリンスタンド構造を取らないという稚拙な構造なので、東郷が指摘したのだろう。

「通常はガソリンスタンド構造を取るものだ。震度6強の地震にも耐えるからだが、それでも恒常的に車両は置かん…。この世界は兵器は発達しても、用兵は未成熟なようだな…」

「この世界は普仏戦争が最後の『戦争』だったみたいで、用兵理論はほとんど実践されてこなかったんです。だから、実戦慣れしてない部隊は戦列歩兵陣なんてしてくるんです」

「信じられんな…。前時代の異物を20世紀も半ばに入って、戦車もある時代に使うとは…」

さすがの東郷もびっくりな内情だが、この世界では対人戦術が机上でしか試されておらず、海戦すら熱心な理論家達の研究の末に成り立っているのだ。史実と同等の機動戦など、アフリカ軍団とグデーリアン配下の軍団しか経験がなく、それも自衛隊が面白いように敵を圧倒する要因なのだ。海戦も輪形陣が発達しても、それ以外の隊形が戦列艦の時代から進歩しておらず、史実第一次大戦時のような海戦ができるのは、未来の情報を持つ軍隊だけだ。

「爆薬はどうするんです?」

「彼らは時たま、戦車の給油をする。その時に戦車を誘爆させれば、火が導火線の役目をしてくれる…」

この時代の戦車は成形炸薬弾の防御はほとんど想定外である。M4程度は21世紀の成形炸薬弾を叩き込めばスクラップである。発射音も比較的しない事から、破壊工作にはうってつけである。

「RPG-22?用意が良いですね…」

「無駄口はいい……始めるぞ」

東郷は確実なる誘爆を期して、21世紀でも使用されているRPG-22を用意していたようだ。米国製兵器を好む傾向のある彼にしては珍しいが、短い期間で用意できたのがそれであったのだろう。彼らは作業が始まるのを待って、行動を開始する。安全のため、有効最大射程で放つ。東郷の腕なら多少遠くとも当てられるからだ。発射後、直ちに二人はその場を離れる。十数秒して、命中した戦車が爆発し、その火が燃料庫に引火し、大爆発の閃光が辺りを照らす。戦後の戦車を想定した兵器は二次大戦の戦車にはオーバーキルであった。


「流石に気づいたようだな…」

「ジープとか来ますよ!?」

「……問題はない。君が寝てる間に、燃料を抜いて、タイヤもパンクさせてある」

東郷は抜かりはないようである。ややあって、基地の敷地が次々と爆発する。智子の命令で駆けつけた MLRSと自走榴弾砲の援護射撃が始まったのだ。

「あ、智子さんが援護射撃を命令したんだ!」

「……いいタイミングだ。君の仲間に、車のエンジンを温めておくように言ってある。今のうちにここを離れるぞ」

二人が滑走路を通って出口に行こうとしたところ、空中から機銃掃射をされる。ナイトウィッチが緊急で飛び、二人を捕捉したのだ。

「機銃掃射!?……敵のウィッチが出てきたんだ!って、Mr.東郷、何を!?」

「敵はこちらが反撃の手段はないと、高を括っている。だが、その驕りは命取りになるのだ…」

東郷は夜間用の暗視スコープをつけたお馴染みのM16A2を携行してきているが、いくら彼と言えど、夜間の高速移動する空中目標の狙撃はこの状況では困難に見える。だが、それは使わず、代わりに持ち出した銃と弾丸が……。

「ろ、600ニトロ・エクスプレス!?それ、どうやって撃つんですか!?」

マグナム弾でも最大級の弾をデイブ・マッカートニーに拵えられさせた特注のライフル(しかもカービン化している)で撃つ東郷。空中に届かないと高を括っていたナイトウィッチはその油断を突かれ、一撃で片方のエンジン部をぶち抜かれ、バランスを崩して墜落した。東郷の胆力と弾丸が敵の使用したP-51Dを破壊したのだが、これは有り体に言えば、強力なマグナム弾を隙を狙って放てば、防弾装備が外されていた当時のストライカー程度は容易に破壊できる証明である。(当時の多くのストライカーは機動力重視で、現場でデッドウェイトとされた防弾装甲を外す例が主要国で横行していたが、ミサイルの破片で損傷する事から、見直され始めた頃である。その方向性は第三世代宮藤理論の甲冑式で決着するのだ)


「す、すごい…落とした……」

「念のためにニトロ・エクスプレスを使ったが、その必要はなかったようだな」

薬莢が落ちる音が響く。ややあって、射撃体勢を解く東郷。当時としては凄まじい快挙であると同時に、対怪異に特化した航空ウィッチは通常兵科との戦闘には使いにくいという事の証明だった。

「……脆いな。第一次世界大戦の戦闘機より落ちやすい」

第一次世界大戦のフォッカーやソッピース・キャメル以下というのが彼の感想だった。Gウィッチはきちんと納入時の仕様を使うので、実機と同じ防弾装甲があるが、それ以外のウィッチはそうではない。元々、航空ストライカーは内部が機械で一杯であり、最悪、拳銃弾でさえも致命傷になる。そこにニトロ・エクスプレス弾を使われれば、一発でお釈迦、下手をすれば誘爆が起こる。それを防ぐため、防弾装甲が施されていたが、怪異の武器が実弾からビームになる時代を迎え、役にたたないと防弾装甲を外し始め、この時期には普遍的なカスタマイズだった。だが、ミサイルが現れると、それが仇となるケースが頻発した。今回はニトロ・エクスプレスという想定外のマグナムを使用されたための出来事だが、象すら殺せると言われるニトロ・エクスプレスの前では、ストライカーの外板など、あってないようなものだ。

「すごい……これがニトロ・エクスプレスの威力……」

「第一次世界大戦の飛行機は布張りだから逆に落としにくいものだが、先程の標的は脆かった。おそらく、あの落ち方では、打ちどころが良くて半身不随だろう」

「想像したくないです…」

「あの子はそのような状況に陥った場合に備えて、緊急排除装備の常備と落下傘の常備を提唱しているそうだが」

「師匠はパイロット兼任ですから」

航空ストライカーの生存率はウィッチに対人戦争の心構えができていない事もあり、タイムふろしき治療がフル回転し、心療内科も満杯である。これに至り、ストライカーが重大な損傷をした場合に備え、緊急排除装置の常備化と落下傘の装備を義務付けようかと議論がなされている。東郷も言及するあたり、黒江の行動的な側面は彼にも一目置かれているのが分かる。この後、二人は無事に脱出に成功。東郷との合流で連合軍は最高の攻撃オプションを全て手中に収めたわけである。扶桑本土の作戦本部はデューク東郷の来訪に狂喜乱舞し、『これで敵の攻撃力がこちらを上回る事はけして起きない』と確信するに至る。それほどの権威と威力が彼のネームバリューにはあったのだ。その彼を支える影の功労者がガンスミス『デイブ・マッカートニー』であり、Gウィッチとのび太御用達でもある。彼は2010年代には白髪交じりの初老男性だが、その腕は確かであり、若き日の東西冷戦時代には、東郷の人工衛星狙撃用のライフルをこさえるなど、『公的な功績』も残っている。調はその名コンビぶりの一端を東郷の狙撃で垣間見たのである。なお、落下傘は空挺訓練を受けたGウィッチならともかく、その他のウィッチが反発したので、箒をバックアップに使う事を坂本と芳佳が提案し、採用される。忘れがちであったが、ウィッチの全てがレンジャー課程に合格するとは限らないのだ。最も、パラシュート技能は別の資格であったが、ウィッチ達は重ねての受講がパイロット兼務が増えるために推奨されたのも要因であった。その折衷案が箒での飛行を帰還の最終手段にすることであった。黒江はその任務の性質と自分の凝り性と政治的思惑もあり、粗方の資格を取っていたが、これは物好きに入る。坂本と芳佳は通常ウィッチの意見と黒江の意見を折衷しての提言をしたのも、作戦中の事である。太平洋戦争までには必須アイテムとして、非常用箒の携帯が普及する。ある意味、パラシュートの代替物が箒というのも、ウィッチらしかった。


(これがMr.東郷……20世紀の東西冷戦時代から一貫して裏世界ナンバーワンを欲しいままにしてきた男…。飛行するウィッチを叩き落とせるなんて。のび太くんが肝を冷やしたとか言ってたのが分かる…)

のび太が全力で当たって、それで互角というデューク東郷。のび太とは友情を持ちつつも、いくつかの依頼で相対した。のび太以外の暗殺者は始末され、のび太のみが彼の攻撃を躱すというのがお約束。のび太を『銃の腕がいいロ○ャー・ムーア』とするなら、デューク東郷は身体的には完璧超人に近い。のび太がナンバー2に登りつめられたのは、見切りの技能を鍛えたからであり、そこもデューク東郷と互角とされる理由だ。東郷と調は下原がエンジンを温めていた車に乗り、基地を離れる。

「追って来ませんね」

「先程の狙撃と、基地の消火で基地はそれどころではあるまい…。破壊工作というのはこういうものだ…」

「これからどうなされるんです、Mr.東郷」

「俺は依頼を果たすだけだ……。俺が行きそうなところは野比のび太に聞くと良い…」

東郷は調と下原を送り届ける途中、のび太には連絡を取ると言い残す。彼としては異例だが、のび太と目的が一致しているからだろう。三代目は二代目と多少気質が違い、肉体的な若さに起因する血気盛んさが多少滲み出ている。これも代替わり初期特有の現象と言えた。因みにのび太と東郷の友情の始まりだが、のび太が間違った情報で的になったが、命中した所が良くて生き残り、東郷を嵌めた依頼主を共闘して潰した縁で知り合いになり、別の依頼で東郷を治療した事で友人関係となったという。










――作戦中、航空ストライカーの生存率の意外な低さが露呈した事から、黒江や坂本が提言するまでもなく、帰還の確実性向上は議論されていた。黒江の提言は高度な技能を必要にすると見なされた事から、現場の反発が予想された。そこに坂本と芳佳の提言である。通常ウィッチの主張と黒江の主張の折衷である『非常用箒の携帯』案は緊急性の高さもあり、直ちに採用された。とりあえずの黒江の面目を立てつつ、通常ウィッチに配慮した政治的決定だった。箒の飛行訓練の必要が別個にある事から、完全な実施は遅れるものの、64Fでは即刻、義務付けられていた。箒で基礎訓練を受けた世代が主力であるが故である。また、501の中枢を担う部隊でもある事から、その精強さはプロパガンダに使われていた。この時から、日本連邦軍『統合幕僚会議』の広報部は色々な都合と政治的理由で、若手受けが悪くなっていた智子に代わり、その弟子筋であり、肉体の年齢的に若手とされる調をプロパガンダに起用し始める。智子も後輩から世代交代のことでせっつかれるのを気にしていたため、若手に配慮した。その結果、一応の『若手の台頭』を題材にしたプロパガンダを作る目的は果たした軍部。調はレイブンズの直接の配下かつ、愛弟子である事、レイブンズの事実上の師である赤松貞子の孫弟子に当たる『出自』も条件をクリアしていた。芳佳の後輩に当たる事もあり、芳佳と一緒くたにされている(後に、雁渕ひかりも加わる)が、智子と黒江の次に当たるウィッチが出てきていない(黒田は同世代なので、除外)陸軍飛行戦隊系のウィッチ部隊には一応の朗報と言える。芳佳やひかりは海軍系のウィッチであり、レイブンズの直接の後継と言えるウィッチは出てきていなかったからだ。また、当時に任官前の静夏も年齢的に近いことから、プロパガンダに使われ、『扶桑海後第二世代』とされたという。――




――同日 立花響が療養している駐屯地――

「えぇ!?し、調ちゃん、軍隊にやっぱり入ったんだ……」

プロパガンダのCMが駐屯地のTVで見られた事から、調が正式に入隊した事を知った響。切歌に何も言わずに決めた事は容易に推察できるので、やはり自分の事が二人の関係に暗い影を落としたのかと気に病む。それが響の苦しみの一つであった。それを緩和させるため、ドラえもんが打った手が……。

「気にしないでいいデス、響さん」

「え、切歌ちゃん!?そ、その格好は!?」

「あたしは今、戦ってるあたし自身の未来の姿。『小山羊座の切歌』。駆け出しの聖闘士デス」

別の時間軸の切歌が小山羊座の聖衣を着用した姿で響の見舞いに現れた。5年は聖闘士世界で修行を積んだためか、口調こそ同じだが、雰囲気は落ち着いたものに変わっていた。

「え!?そ、それじゃ!?」

「精神的には20代になってるデスよ。調に5年遅れて聖闘士になったって事デス。素養はそれ以前に目覚めていたんデスけど、正式な叙任が遅れて」

「それじゃ、切歌ちゃんも後を追ったの!?」

「これからそういう事になるのデス。その前にもっと別の世界の別の惑星に行ったりするし」

聖闘士になった切歌は、調との仲がこじれていた事を『自分の勘違いが招いた事』と述懐し、自分自身を鼓舞するのも来訪の目的の一つであると教える。

「道は違えたけど、同じ方向に向くことはできる。赤松大先生が言ったように、同じ道を行くことだけが友情じゃないデス。あたしはそれを自分自身に教えるために来たのデス」

聖闘士としての実力は発展途上であり、黒江から技能を継承した調とはまだ差があるが、将来的な黄金聖闘士への道も開けているという切歌。それも元は近縁の聖遺物を持つ故の感応の恩恵だろう。

「未来を示すことで、昔の自分を立ち直らせるのと、調の援護が目的デス。子供のあたしじゃ、足手まといなだけデスし」

「それじゃ、綾香さんや智子さんと同じ力を?」

「イガリマの本質にたどりついたし、聖剣もアテナから別に与えられています」

山羊座系の聖闘士はその身に聖剣を宿す。切歌はイガリマとは別に概念武装を得たとはっきりと言った。

「それはガングニールを超えるか、匹敵するモノです。それだけは言います」

「聖遺物の概念って、そんなに簡単に与えられるものなの?」

「オリンポス十二神なら、聖遺物の概念を見込んだ人に与えられるのデス。山羊座系統の聖闘士はその宿命を負っているんデス」

切歌は元々、鎌を得物にしていた縁で、聖剣の一対はハルパーであるらしい。

「ハルパーが右腕に宿ってるんデス、今のあたしには。多分、概念武装としてはガングニールと同じくらいかも」

神々にも効く+抱くイメージが鎌だった縁でハルパーが与えられた切歌。イガリマに抱いていたイメージとの共通点は大いにある。元になる神話が違うだけだ。

「まあ、エクスカリバーやエアに比べればチャチですけどね」

「切歌ちゃん、調ちゃんは許してくれるのかな?」

「大丈夫デス。調も分かってくれますって。そうデスよね、闘破さん」

「すまないが、お邪魔させてもらうよ」

「あなたは?」

「俺は山地闘破。戸隠流忍法正統、第35代宗家で、調ちゃんと綾香ちゃんの忍術の師匠だ」

20代前半の青年が道着姿で現れた。彼は戸隠流正統・磁雷矢こと、山地闘破。戸隠流忍法を継ぐ宗家の35代目だ。彼は1988年に活躍していた忍者であるので、それから数年経って、宗家を継承したばかりの90年代前半の時代から呼ばれた事が分かる。黒江や調とは時を超えた師弟関係であり、調は野比家に行く前、磁光真空剣を彼の元に届ける役目を負い、出奔前に『磁光真空剣・真っ向両断』を使用した事がある。

「磁光真空剣は彼の武器で、調はそれを届ける役目を負っていたのデス」

「そうだ。だけど、君のところの子になんか対抗心持たれたと言っていたな」

「翼さん、剣になるとうるさいから、だいたい想像つきます」

調が出奔する前、老師・童虎の許可をもらい、磁光真空剣を発動させ、真っ向両断で敵を屠った事がある。その時に風鳴翼がぶーたれた場に立ち合ったので、響も苦笑いだ。剣の道に幼少から邁進してきた翼は妙にこだわる面があり、調がいきなり戸隠流忍法の印を結び、真っ向両断を綺麗さっぱり決めたことで、ほとんどいちゃもんをつけた。

「翼さんがいきなりいちゃもんつけたから驚いたけど、妙に拘ってたなぁ」

「仕方がない。転移していた時にきっちりと剣技を身に着けていたっていうのは眉唾ものだし、いくら綾香ちゃんの技能を継承したと言っても、そう易々とできるものではないと考えてたんだろう」

調はエクスキャリバーを転移時に用いていたが、西洋の両刃剣の形状である上、東洋の剣術は西洋剣術とは違う。その事が念頭にあったためか、忍者刀の磁光真空剣で十文字斬りをキレイに決めた。それに納得がいかなかったのである。闘破も苦笑交じりだ。その時の翼のぶーたれはキャラが崩れかけるほどのもので、黒江からの継承技能『雷光斬』でノックアウトしたとは、調の談。

「その子には悪いが、コツさえ掴めば、西洋剣術も東洋剣術も覚えられるものだ。現にスーパー戦隊の戦士達は両刃剣に剣道を応用している」

「なのはさんに弟子入りしてみます?」

「うぇ、あの可愛い声だけど、怖そうな人に?」

「なのはちゃんが聞いたら落ち込むな」

なのはへの第一印象が怖い人なので、二人は笑う。なのはは成人後は多少トーンが低くなったが、その気になれば、子供時代のトーンを出せる。成人後は怖いとする印象、似た声の篠ノ之束のせいで『腹黒うさぎ』とさえ印象づけられていて、部内でも『白い悪魔』と呼ばれる。なのは曰く『風評被害なのー!』とのこと。

「確かに怖い面有るけどいい人だよー、怒ると怖いけどな」

山地闘破もなのはは怒ると怖いと認識しているので、この調子だ。なのははその風評被害もあり、映画撮影を大義名分に、子供の姿に戻るのである。この時点で、響の一軒の責任を問われて、黒江に絞られたなのははかなり悩んでおり、作戦中に若返る事も考えるに至る。


――しかし、はやて(G化)からの電話で『タイムふろしき使うんなら、映画撮影の時にしなさい』と言われ、ぶーたれるなのは。実際、映画撮影の日日は急に決まったため、とりあえずははやての出演シーンから撮ることで時間稼ぎするということだ。フェイトは『私は子供の頃の姿に戻ろうが関係なく、敵を打ち倒すだけだが』と、アイオリアの憑依の影響が残る一言で片付けた。実際、フェイトは前史の影響で覚醒後はアイオリアの口調になっており、一人称が俺になる事もある。しかも、年齢操作法をなのはに先立って覚えており、この時点では11歳当時の容姿を使っている。バリアジャケットは映画用の白いマントであるのも練習ということで、その姿で獅子座の技を惜しげもなく披露するため、自衛隊から『かわいい子ライオン』と呼ばれている。獅子の大鎌も習得しており、その戦闘力は子供になっても落ちていない。なのははGウィッチでありながら、多忙のために師達から年齢操作を習っていなかったのだ。なんとも情けない話で、なのはがちょうど子供姿のフェイトにそれを教えられ、愕然として崩れ落ちており、レッドターボ(高速戦隊ターボレンジャー)に慰められているというギャグ的構図が発生していた。響にそんな印象を抱かれているのが知らされると、ますます落ち込んだのであった――



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