外伝その269『イベリア半島攻防戦18』


――続々と現れ始めた、歴代のプリキュア。惑星エデンで再会したのぞみとりん。門矢士の口から次元世界共通の脅威たる『バダン』と『マジンガーZERO』の存在を知らされた夏木りんは再び戦う道を選び、たとえ、自分の知るのぞみと違う存在であろうと、友として接する事を明言し、のぞみも魂にが肉体と完全に馴染んだことで、りんの次元の自分の記憶を得たことで真の意味での再会を果たした。また、人格の統合で中島錦の名残りである、好戦的かつ強気な側面が表に出始め、生前と多少異なるキャラとなっている。

「りんちゃん、敵がどんなに強かろうがさ、やってやろうよ。それがわたし達の使命じゃん」

「あんた、前より強気になった?」

「この体の元の持ち主の影響かも。刀のスキルも得たし」

「あんた、昔にムシバーンとサシでやって、勝ったって言ってなかった?」

「あれは半分くらいは無我夢中だったし、シャイニングドリームのスペックでゴリ押しだったねぇ。サシでこの人達とやると、多分負けるよ」

「何よそれ」

「論より証拠だ、俺の実力を見せようか?二人がかりで構わないぞ?」

「なんですか、その自信!こうなったら、やってやろうじゃないの!」

――二人がかりでかかったが、ものの数分もあれば充分であった。二人がかりで同時にかかったが、黒江に攻撃は当たらず、必殺技は弾かれるか、無効化される。圧倒的を通り越すほどの力の差であった――

「嘘……何よこれ……」

「だから言ったろ。模擬戦になるかもあやしーって」

黒江の実力は既に歴代黄金聖闘士でもトップ10級のもので、キュアドリームとキュアルージュを全く寄せ付けない。そもそも攻撃が黒江にとっては、止まって見えるのだ。プリキュア・ファイヤーストライクだろうが、シューティングスターだろうが、黒江なら指一本で振り払えるのだ。

「俺は光より早く動けるんだ。お前らの動きなんぞスローリィだぜ」

「先輩、スローリィってどういう事ですかぁ!?」

「お前ら、マッハ2を超えると見えんだろうが」

「うぅ〜…。シャイニングドリームになれれば見えますよ、それくらい」

「もう一本やるか?」

「当たり前でしょ、こんなことで弱音吐いたら、プリキュアの名前に傷がつくってもんでしょーが!」

「ちょっと前に流行った少年ジャ○プのニンジャ漫画の主人公みたいな声しやがって、お前」

「そういうツッコミありー!?」

のぞみとりんは変身した状態で私服姿のラフな服装の黒江に手もなくひねられていた。黒江は珍しい、タンクトップとホットパンツ姿である。容姿は素の容姿ではないが、調と違い、ふてぶてしさが顔に出ている。

「お前らの攻撃なんざ、見てから飯食って食後のお茶してからでも避けられるわ」

「かぁ〜!なめた台詞言ってくれちゃって!」

「なら、これで!クリスタルフルーレ!」

「あ、合体攻撃用のフルーレを剣に使うか。んじゃ、こっちも…」

「え、光が……大剣の形に!?」

のぞみ(キュアドリーム)が本来、決め技・合体技を発動させるための専用アイテムであるフルーレを召喚したのに合わせ、黒江は空中元素固定でお得意の斬艦刀を作った。刀身展開済み状態で生成したので、インパクト充分である。

「あー!思い出した!黒江先輩は剣技で鳴らしたんだった!」

「そーだ。中島錦の記憶をよーく探ってみろ。俺の異名の一つは?」

「『魔のクロエ』……!」

「合格だ。俺は本来、大物食いで鳴らしてたんでな」

黒江は元々、大物食い専門なところがあり、その事からも『対重爆戦闘向け』と見られていた。今では対人戦闘スキルを鍛え、黒江を根本的に超える剣技の持ち主でないと、勝てないほど隙がないし、何よりも恐ろしいのが。

「ちぇーすとぉ!!」

…最初の一撃だ。黒江は示現流の使い手であったため、最初の一撃にとにかく全力を費やす。その威力は全力ではないにしろ、二人が本気で青ざめるほどのものだった。

「ひ、ひえぇ〜!振り下ろしただけでこの威力〜!?」

「当たったら死ねるじゃない!何よこの人!?」

「いくら先輩でも、あれだけ大きい剣ならモーションで隙があるはず…こっちは振り回しやすいフルーレなんだ……スピードで!」

「お、ちった考えたな」

「あたしも剣はドシロートだけど、フェンシング部の動きくらいは見てるわよっ!」

二人は黒江の斬艦刀が刀身の太さと大きさから、取り回ししにくい事を直感的に見抜き、攻勢に出る。アイデアとしては悪くない。だが、黒江はお見通しで、斬艦刀の刀身を収納、変形させて普通の太刀の形状にし、フルーレと打ち合う。

「ふふ、甘いな、ガキ共。大正生まれをなめんなよ。剣が斬るだけとは限らんぜ」

「……!な、何…この力…プリキュアになった状態で力負けしてるの…!?…くぅ…」

黒江の力は凄まじいもので、キュアドリームをつば競り合いで完全に圧している。そして、力負けしてガードが崩されたところに黒江の平突きが飛ぶ。牙突ほどの威力はないが、ドリームを吹き飛ばすには充分かつ、ドリームの視認不能な速さの突きだった。黒江は斎藤一の牙突に負けるまでは突きの名人と自負していたので、黒江の取り得る戦術である。

「ドリーム!」

「おっと、余所見する余裕は与えないぜ」

瞬時に滑り込みをし、飛び込んできたキュアルージュに蟹挟みをかけた。それでひっくり返した後に古い手だが、うつ伏せに倒してサソリ固めを思い切りかけた。馬鹿力でかけるので、ルージュは抜け出せず、思いっきりホールドされて悲鳴をあげるしかなかった。

「アイタタタ〜!や、やめてぇぇ……」

「こりゃ、一般人だと死ねるぞ。プリキュアになっててよかったな?窒息とかしないし」

「そーいう問題じ…あぎゃああ…!」

ルージュは完全に黒江の術中にはまり、サソリ固めでホールドされていた。こうなると、技も出せず、ただ甚振られるだけになる。

「このままSTFにしてもいいが、そうすると、お前が泡吹くからな。手加減してるんだ、これで」

と、黒江はサラッとプロレス知識も一定程度持つ事を示唆し、ルージュをホールドする。吹き飛ばされ、なんとか態勢を立て直したドリームがルージュの窮状を見かね、雄叫びを挙げながら、シューティングスターで逆襲に出たが、アトミックサンダーボルトに押し止められてしまう。

「ぐ、ぬぬぬ……ううう…っ!」

一秒間に億を超えるパンチの乱打が光弾のようなビジュアルで乱れ飛び、ドリームは推進力を光弾が帳消しにしている事に瞠目する。そして、そこからの。

「さて、出家大サービスだ!」


アトミックサンダーボルトでドリームのシューティングスターが解かれた一瞬のことであった。 動けなくなったルージュがその次の瞬間に見た光景は。脇を両足で掴まれ、攻撃の勢いを利用され、ドリームが蹴り飛ばされるものだった。

『ジャンピングストーン!』

山羊座の伝統闘技、ジャンピングストーン。これで吹き飛ばされた者はもれなく、頭から落下する。このように、圧倒的実力差を見せつけられ続けるが、二人はなおも諦めない。

「まだです、まだ…」

ドリームはジャンピングストーンのダメージでヨレヨレながらも、まだ闘志を見せ、ルージュもフルーレを杖代わりに、なんとか立つ。

「いい心意気だ。それに免じて、お前らに約束された勝利の剣を見せてやる。攻撃はせんが、これ見て目標にしろ」

「うっ、風…!?嘘、ここ、室内よね!?」

「あれが先輩がプロパガンダに使われてた本当の理由…?で、でも、あれは…!」

ドリームはそれがアルトリアの有する『物質化された奇跡』と同一のものだと、中島錦の記憶から察した。

「黄金の…剣…?」

「嘘、先輩が本当に……継承者だったなんて……」

「ドリーム、どういう事?」

「ルージュ、アーサー王の伝説って知ってる?」

「昔、かれんさんが読んでたような……って、なんで急に」

「そこに出てきた聖剣の名前、覚えてる?」

「エクスカリバー……まさか!?嘘でしょ!?」

「地球の人々がそうあってほしいって練り上げた聖剣だ。ただ、全力で撃つと、基地が吹っ飛ぶんでな。鞘に収めての一撃で勘弁な」

黒江はエクスカリバーをアヴァロンに収めた状態で振り下ろし、凄まじい衝撃波を放つ。それが直撃したドリームとルージュは壁に叩きつけられ、気を失う。

「よっと。こんなもんでいーか、士」

「いいんじゃないか?俺がクロックアップするよりは優しいもんだ、お前はな」

「ガキ共に、いい目標になったかな?」

「こいつらがプリキュアなら、初代へのコンプレックスは抱えてるはずだからな。お前に追いつこうとするだろう」

「美墨なぎさと雪城ほのかか?」

「そうだ。こいつらに取っての目標はその二人だろう」

初代プリキュアはプリキュア達にとっては偉大な存在である。ZEROの力も及ばないであろう唯一のプリキュアだろうと推測されている。ZEROは自分と同じ『原初の存在』には因果律操作ができないのだ。マジンガーZと同一個体のパワーアップであるマジンカイザーやゴッド・マジンガーが対抗できるのと同じ理屈だ。

「ZEROの因果律操作が及ばないと考えられる、唯一のプリキュア、か。こいつ(ドリーム)はやたら意識してるっぽいとケイから聞いたぞ?」

「だいたい分かった。現状で系譜を遡った上では、最古のプリキュアがこいつだからだ。気負っているんだろう。初代の代わりになれなくても、守りたいモノを守りたい、前世の未練を晴らしたいという一念が支えなんだろう」

門矢士の推測は当たっている。ZEROの強大さに怯えつつも、三代目プリキュアのリーダーとしての責務を多分に意識し、それ故に中島錦の家族のもとに、中島錦として帰る事も厭わない一途さを、のぞみは持つ。これは前世でパルミエ王国の王位継承者を愛してしまい、りんのいた世界では、彼の後を追ったほどの一途な思いの表れであった。初代にない明確な『恋人』の存在。彼との愛があった事実を守りたいというのも、のぞみが転生先が職業軍人であっても受け入れ、ZEROを敵とみなす理由だ。(明確に現役期間中、恋愛が絡んだのは後にも先にも、のぞみだけであったので、ZEROへ明確な敵意を持つ)

「むにゃむにゃ……絶対、ココやみんなとの思い出を守るんだもん…」

現役を退いた後の戦いで一度、敵に思い出を奪われ、赤子にされた事があるためか、思い出を奪ったり、因果律を手前勝手に変える行為に嫌悪感があるドリーム。そのため、今の所、プリキュアでは、ZEROへの怒りと敵意がある最初のプリキュアである。

「ああ、2018年の映画でそんな事あったっけ。現役退いた後の戦を夢にでも見たのかね?」

「さあな。とにかく、こいつらをベットに運んでやろう。マジンガーZEROに敵意を持ったところで、今の力では無力に等しいからな、お前の言うように、神を超え、悪魔も倒すしか方法はない」

「世界の破壊者であるお前の力を知れば、羨ましがられるぞ?ジオウと同じような存在だからか、ライドウォッチもあるかわからんし」

「俺には明確な物語ってのはなかったからな。そのおかげでジオウの力の影響下から外れているが」

「平成ライダーもジオウで終わりか?」

「ああ。ジオウが最後の平成ライダーだ。2018年には次の年号への改元が控えてるからな。それに、日本の皇室は次世代で嫁を取って存続させていくそうだが」

「旧宮家の復帰は国民がウンと言わないからの妥協策だそうだ。国民の言い分は『70年も一般人してる連中は絶対に醜聞を抱えてる』だそうだ。なので、扶桑から嫁を取って、存続させるそうだ」

日本の皇室は2018年時点で『先細り』が目に見えており、旧宮家の復帰は国民が認めない事から、日本連邦の恩恵から、扶桑の若年皇族を養子に取る事が実行された。扶桑は時代的に若年皇族が多く、皇位継承しない男子も多かった。そこで男女問わず養子を取り、日本の宮家の名跡を継がせるという決着を見た。日本では断絶した宮家の系統が扶桑では存続していたりするため、扶桑の莫大な皇室財産を日本皇室の維持費に使うという方法で同意した。2019年の1月のことである。皇室を維持するため、日本に残された最後の手段であった。これは旧宮家の復帰を国民が醜聞を理由に認めないために、扶桑で現在進行系で皇族である者を迎え入れるというウルトラCなアイデアが現実のものとなった。中には扶桑のしきたりで軍籍を有する者もいたため、日本への養子入りを以て退役させるべきという声も大きいが、扶桑のしきたりで軍役につく女性皇族も多いため、そうした論調は収まった。ディケイドの言う通り、23世紀でも、皇族は彼ら(彼女ら)の献身でなんとか維持された結果、存続している。

「日本はノブレス・オブリージュに無理解だったりするからな、特にアメリカに傾倒してた戦後は。だから、ガリアに恨み買って、アルジェリア戦争になったんだよ」

「ああ、ノーブルウィッチーズのことか」

「おう。あれは日米の圧力で『無かった事になった』から、ペリーヌが気に病んでるんだよ。アルジェリア戦争になれば、疲弊したガリアに勝ち目はないし、前大和型じゃ、超大和に勝てるわけないんだよな」

ペリーヌはモードレッドの人格に漏らしているが、未来で言うところのアルジェリアで、いずれ戦争が起こり、ガリアは敗北してしまう事を悟っていた。『1935年型 正38cm(45口径)砲』などは、モンタナや超モンタナ、H級戦艦を前提に強化された大和型とその後継者には通用しない。黒江が覚えている、アルジェリア戦争でのリシュリューの浮かべる廃材と化した姿。56cm砲の直撃で艦橋が破壊され、大炎上の果てに廃材となったリシュリュー。前史ではガリア敗北の象徴とされていた。ガリアは怪異に国土を蹂躙されたこともあり、金属資源の供給地を求めていた。それ故に外地を維持しようとし、日本連邦に敗北する。これは既定路線である。太平洋で化物のような戦艦の殴り合いを経る日本にとって、欧州戦艦は雑魚なのだ。

「フランスは高慢と偏見に満ちた国だからな。同位国が日本に負けることで反統合同盟入りする伏線もできる。あそこは厄介だろうさ」

「まだネオフランスのほうが良心的だよ。シャッフル同盟を二代続けて出したんだからな」

「あそこは王政だからな」

色々と政治的な話題に言及しつつ、ドリームとルージュを基地で黒江が充てがわれた部屋のベットに寝かす。二人が寝ている間に、圭子からのメールを確認し、キュアミューズが出現した事を知った。英霊がプリキュアになるという二重属性である事から、英霊の力と同時にプリキュアの力を行使できるという凄まじいことになっている事に驚く。

「何ぃぃ!?おい、響(この場合は北条響)〜!見てみろ、これ!」

「!?み、ミューズぅ!?何やってんだ、あいつ!?」

「キラッ☆してるねぇ。素体がノリの良い英霊なためだと思いますよ?」

「うーん…奏の奴が見たら卒倒するかもなぁ」

「なんか、風鳴翼さんが聞いたら絡んできそうな名前だよね」

「ああ。だから、プリキュアとしてのあたしの変身前の名前とか、奏の事言えないんだよな。反応しちゃうから」

北条響(シャーリー)の悩みは、自分の名が『響』であり、相方が『奏』である事から、立花響や天羽奏との被りのため、風鳴翼達の前ではうっかり、名前を言えないことである。もっとも、それは杞憂なのだが…。また、北条響は見かけは現役当時のままだが、中身が転生者である故か、圭子同様にタバコ状の喉の薬を咥えた姿を見せる。

「これ、奏には見せられないぜ」

「確かに」

「欧州じゃ、タバコ咥えねーと成人って見られねーからな。前世じゃ、喫煙自体してなかったけど、水商売に見られるのも嫌だけど」

「目的は果たしたけど、これからどうします?」

「ちょうどレキシントンの練習航海がある。それに乗せてもらって地球に戻る。帰路につくまで、まだ何日かあるから、観光はできるだろう」

黒江の言葉通り、VF-31の輸送も引き受けたため、なんだかんだで仕事と切り離せなかったものの、エデンの観光は出来た事になる。




――一日経って、一同は改めて、エデンの観光に打って出た。黒江が基地からジープ(似のエレカー)を拝借し、それで観光に行った。ニューエドワーズ基地から最寄りの市街地までは遠いが、エレカーの意外な速さもあり、一時間半ほどでついた。地球の影響下の移民惑星であることもあり、市街地は地球の市街地そのままであるし、服装も21世紀と変わらない。違うのは、スマートフォンがM粒子の影響で衰退したため、旧式と2010年代に見做されていた携帯電話が復活している(タブレットは対M粒子用回路の価格や大きさもあり、軍用にしか復活していない)ところだろう。概ね、2000年代後半のスマートフォン普及前の社会そのままである。大都市の郊外の市街地なので、日本で言う20万ほどの市民を抱える中規模都市である。エデンは月のフォン・ブラウン市を東京とするなら、横浜市に近い位置づけである。(イルミダスの侵攻の際は、主星に首都がない点で有効だった)その点で言うなら賑やかな星で、南洋島の外地振興の参考にもされている(扶桑は外地がスカスカではないか、という批判があるため、軍事予算を減らし、外地振興に充てろという批判が付きまとうが、実際は南洋島はかなり賑わっているし、旧大陸領からの疎開者が東北に疎開しているので、史実より東北は裕福である。しかしながら、外野(日本の野党)の批判がうるさいので、大地規模再開発事業に踏み切った。内地、外地を問わずである)。

「ここ、本当に地球じゃない星?どこから見てもアメリカにしか」

「アメリカ系が多く移民したからだ。地球人は宇宙戦争で地球に住み続ける事に危機感を覚えてな、『種を保つ』ために、宇宙船であちらこちらに移民していった。その成果の一つがこの星だ」

「あー!本当だ、CDショップもあるー!」

「こら、のぞみ。アンタ、お金あんの?」

「将校だから、お金なら札束で持ってるよ」

「えぇー!?」

「今月の給料、まだ使ってないし。ほら」

「嘘ぉ……」

日本人の性か、給料をもらって、紙幣にしてそのまま持ち歩く。この時代では意外に珍しい行為ではある。のぞみは中島錦として、扶桑皇国軍から大尉としての給料をもらっており、それを地球連邦の通貨に換金しておいたので、贅沢できる金額を持っている。生前は人付き合いなどの都合で、余裕があるとは言えなかったらしく、大金を持ち歩くのは実のところ初めてであるらしい。

「軍人ってのは高給取りじゃない事もあるけど、パイロットにもなると、危険手当とかつくから、給料いいんだよね、それに一応、大尉でエリートだしさ」

「あ、待ちなさいって!」

のぞみとりんが入っていったのはCDショップであった。当然、23世紀のアーティスト達のCDが並んでおり、リン・ミンメイ、ミュン・ファン・ローン、ミレーヌ・ジーナスなどの歴代の歌姫達の楽曲が店内に流れている。音楽そのものは21世紀でジャンルが出揃い、完成されているので、りんが聞いても違和感ないものである。

「おいおい、無駄使いすんなよ。俺は付き合いもあるから、何枚か買うけど」

「そう言えば、先輩、ミュン・ファン・ローンさんにシェリル・ノーム、ランカ・リー、それとミレーヌ・ジーナスさんと知り合いでしたね」

「イサムさんやガムリンさんのツテだよ。それとシェリルとランカは実際にメル友だしな」

黒江は付き合いも兼ねて、ミュン、ランカ、ミレーヌのシングルCDを籠に入れる。また、個人的趣味でFIRE BOMBERの『Re:FIRE』(FIRE BOMBERの最新アルバム)も手に取る。

「あれ、先輩。FIRE BOMBERって、オズマ・リー少佐から布教されて持ってるって言いませんでした?」

「馬鹿、最新アルバムだよ。お、シェリルとランカとのコラボレーションCDも出したか。買いだな」

「この人、ずいぶん買いっぷりいいわね」

「先輩、遊び人で趣味人だから」

のぞみはリン・ミンメイのアルバムを買うようであり、響はワルキューレのアルバムを三つである。バイトのトレーニングに使うらしい。黒江は『娘々FIRE!!』、『Re:FIRE』を始めとし、歴代三歌姫のシングルを買い込んだ。のぞみはリン・ミンメイのコンプリートアルバム(監修:Dr.チバ。ミレーヌ・ジーナス Sings リン・ミンメイも複数収録)を。響はバイトと密接に関係するワルキューレのアルバムを三つである。

「どうだ、りん。この世界の音楽は」

「200年経っても、音楽って変わんないのね。つか、アルバムを三つ?」

「バイトの資料代だよ。前世と違って、歌えんだ、あたし」

「あんた、前世はピアニストでしょ?」

「今回は歌手の才能もあるんだよ。軍隊で色々、歌ってのは用入りなんだ」

「あたしは友達にピアノ曲集だね」

「イリヤへの土産か?」

「エイラさんから昨日、念押しの電話がかかってきて」

「早くもメロメロだな、あのヤロ」

みゆきはイリヤへのお土産らしい。エイラはイリヤのタネを知るので、以前と変わらぬ純愛を貫いており、サーシャを追放に追いやるほどの一途さである。そのため、サーシャの後任のフーベルタの役目は半分以上はサーシャの尻ぬぐいであったりする。響は苦笑する。

「お前ら。これから映画館に連れて行ってやる」

「あー。オレノウタヲキケ!でしょ、黒江さん」

「この街のシネコンで上映してんだよ」

「映画ねぇ。まっ、暇つぶしにはなるかも」

「侮るなよ?この世界の人気アーティストの半ドキュメント仕立てだから」

時間は午前10時。黒江のお目当ては10時半。この街の列車駅の隣にあるシネコンで上映されるFIRE BOMBERの半ドキュメント仕立ての映画である。マクロス7船団が放出した映像を編集したものである。一同は二時間ほど、熱気バサラとFIRE BOMBER、マクロス7船団の熱気に包まれた。

――見終えた後のシネコンと同じ建物のレストラン――

「何よあれ!あの戦場で歌う奴!やることぶっ飛んでるけど、か、か、カッコいい…」

りんはファイヤーバルキリーで戦場を駆け抜ける熱気バサラの突撃ラブハート、サブマリンストリート、ホリー・ロンリー・ライト、トライアゲインなどの熱い楽曲に当てられてしまったようだ。

「あれが熱気バサラだ。本人に会った事あるけど、基本は気のいいあんちゃんだぜ」

「あたしはサブマリンストリートとリメンバー16かな?特にリメンバー16…あの場面で流れるのは反則だぜ…」

「あれな。のぞみはなんだ?」

「わたしはトライアゲインかな…。ちょっと昔を思い出しちゃって」

響はサブマリンストリートとリメンバー16、のぞみはトライアゲインが響いたようだ。

「アルバムのセブンス・ムーンとダイヤモンド・コーリングもいけるぞ?」

映画では使われていない楽曲もちゃっかり勧める黒江。食べているのは、それぞれファストフードだ。

「マイソウル・フォーユーや1・2・3・4・5・6・7NightSも個人的には勧めるぜ」

「あ、あの!CD、貸してくますか!?」

「帰ったら、いくらでも貸してやる。あ、あの赤いバルキリーだが、常人じゃ乗りこなせない高性能機だぜ」

「え、そうなんですか?」

「りん、あれはな。VF-19っていってな。映画でポコポコ撃墜されてたVF-11とはものが違う機体だ。エメラルドフォースも系列機を使ってたように、エリートかエース専用だ」

響が解説する。VF-19系列は機動性と引き換えに操縦性が低い『じゃじゃ馬』として知られ、ブレイザーバルキリーも生産数が少ないことで知られる。ただし、地球本星のような、戦乱の続く地では重宝され、地球連邦航空部隊の一種のシンボルと扱われている。特にリミッターが解除された『A型』、『E型』などは外郭独立部隊御用達の一品だ。

「黒江さんはその搭乗資格を持つ。帰ったら見せてもらえ」

「俺のはじゃじゃ馬だから、響とかしか使うのは許してねぇけどな」

「黒江さんのはA型ベースだからなー。しかもカリカリにチューンアップしてるし」

黒江はブレイザーバルキリーに乗った後、イサム・ダイソンと懇意になったのと、黒江が出世したことで、個人的にブレイザーバルキリーの上位機種『エクスカリバー』の調達が可能になり、エクスカリバーを調達した。この時期には二機目である。イサムも『アドバンスの時にお前と知り合えてたらなー』と冗談交じりに答えている。また、エクスカリバーはブレイザーバルキリーが嘘のようにじゃじゃ馬なので、『ブレイザーはガキのお遊びだぜ、俺の可愛い娘ちゃんはこんなもんじゃねぇぞ』と厳しく鍛えられた。その甲斐あって、黒江も今や、いっぱしの『19乗り』として、地球連邦軍でも一目置かれている。黒江は『Z乗り』、『19乗り』という地球連邦軍のステイタスを満たしていると言える。

「おかげで、俺もパイロットのステイタス満たしたぜ」

「この人、テストパイロット上がりでさ、なんでも乗りこなさないと気がすまないんだよ」

「車で言う、テストドライバーみたいなもん?」

「そうそう。先輩、ニュルでバイクかっ飛ばすとか言ってたし、スピード狂の気も」

「おいおい、スピード狂は響だぜ、この間、バイクでこいつの物資搬送用トラックをぶち抜いたら、なんて言ったと思う?あたしが遅い!?あたしがスローリィ!?じぉぉだんじゃねぇえええ!?だぜ?おかげで、そのトラックのエンジンを焼け付かせて、大目玉を食らってた」

トラックで黒江のチューンナップ済みのバイクに追いつこうとしたので、トラックは死んでしまい、ミーナ(覚醒後)に『馬鹿者、トラックでレース用バイクに追いつこうとする阿呆がいるか!』と大目玉を食らっている。

「響、常識でもの考えなさいよ。トラックでレース用にチューンナップされてるバイクに追いつこうなんて、無茶だから」

「なんだよ、りん!あたしが馬鹿しでかしたとか思ってるだろー!」

「いや、子供でもわかんでしょ、それ。オーバーヒートするでしょうが」

「ひでぇ!一応、冷却は改造しといたはずなんだけどなあ」

「形的に無理あるでしょ。クラウンでフェラーリに挑むくらいの愚行よ」

「お前、意外に詳しーな…」

「弟がそういうのに興味持っててね、付き合わされた事あるの」

りんは響に、自分の弟がレーサーを夢見ていた事を思い出し、懐かしそうに言った。弟の方面である程度の知識は持ってしまったようで、響(シャーリー)の行為を愚行と断じた。

「どうせなら、日野自動車からレーシング仕様でも買ったら?道楽者らしいあんたなら買えるでしょ?」

「ふむ…。考えてみるよ」

この時の一言が響こと、シャーリーをレースにのめり込ませる事となり、黒江は苦笑したという。言い出しっぺのりんもプリキュアのよしみでレースに参戦したという。また、黒江が自衛隊のカーレース同好会主催のミニクーパーの耐久レースに参加した際にも、りんは交代要員として参加したという。また、シャーリーはバンキッシュレースにも参加するなど、いよいよ以て本物であり、賞金稼ぎのようにレースに出る、自由リベリオントップエースとして名を馳せる事となった。また、黒江がバンキッシュレースの主催団体に顔が利く事もあり、シャーリーが出るのに不都合はなく、むしろ魔のクロエが送り込んだ新星として、バンキッシュレースを賑わすことになる。また、自家用機兼用のVF-9で出て、稼ぎまくったので、連邦軍にも同機の再生産を検討させたとも。相棒のクロエ・フォン・アインツベルンは『響はスピード狂だから』と明言し、肯定的に見ているので、美遊・エーデルフェルトに『クロ、正気なの?』と真顔で言われたとも。ともかくも、観光を楽しむ一行だった。



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