外伝その282『プリキュアの転生の意味とは?』


――出現し始めたプリキュア関係者。のぞみのお目付け役として、2019年に同行を志願し、許されたのが夏木りんであった。2019年は彼女達が26歳ほどになった時代であり、りんの世界では、その頃には、のぞみは地球を離れていた。彼女も転生者であるが、『2018年以降は新規のプリキュアが出現しなかった』世界線の住人であったために、のぞみが知る『2018年のプリキュア』を知らないというコンプレックスを持っていた。逆に言えば、プリキュアが使命を終えた世界線の住人であるがため、のぞみが戦いを望んでしまう心境に複雑であった。同時に、23世紀までに起こる戦乱の世界の可能性も知った。そして、その過程で、地球連邦政府は死後の世界をサイコフレームの研究の過程で知り、そのために輪廻転生が現実に起きうることをメカトピア戦争の折に確信に至ったからこそ、本来は排除対象にされかねないはずの転生者に地球連邦軍の抵抗感がなくなったのだと言うことを知った。つまり、生前と同じ人物として転生した者は肉体の死後に神々の意志で魂魄が保管され、彼らの意思によって、生前のままの人格と肉体で生まれ変わらせた存在である事を知ったのだ。(別人を経て、以前の存在に還るケースが大半であるが)――



(神々はどうしてあたし達を選んだの?そりゃプリキュアだったけど…不老不死にまでして生まれ変わらせた理由って……?あの子…、のぞみはこれを望んだの?どうして?)

りんはのぞみが転生者になり、戦うために不老不死を与えられても、すんなりと受け入れた理由を考える。のぞみは教諭という職業の現実に打ちのめされ、青春時代の拠り所であった『プリキュア』の力を取り戻す事、後半生で見失った自分の存在意義を見出す事を何よりも望んだと、りんに言った。

『私は夢を叶えた!叶えたよ!だけど、その先に待ってた事は――!』

楽天家で、青春時代に夢に向けて邁進していたはずののぞみが味わった教師生活の現実。りんの世界と違い、ある時点で決定的に挫折してしまったと思われる一言。のぞみの世界の自分は何をしていたのかと考えてしまう。

(これが平行世界なのね。あの子はあたしの知らない人生を辿って、どこかで挫折した。……そう思うと複雑ね。あの時に戻れた事が嬉しいなんて)

りんは若かりし頃に戻れたことは嬉しいが、戦いの日々に戻る事には複雑な心境ではあった。だが、幼馴染がそう望んでしまった世界がある。それは別世界の自分が気づかなかった点であると結論した。

(輪廻転生が解明されて、神々に選ばれし者だけが生前の魂と肉体を持って蘇る事が許される……。多分、この世界の22世紀の半ばに起こった世界大戦の真の開戦理由は――)

統合戦争の本当の開戦理由は技術的特異点に日本が至るのを止めるための世界各国の密約。りんは『第三者』であるが故に、すぐにそれに気づいた。日本が第二次世界大戦まで持っていた激昂心を復活させたのが誤算で、統合戦争は敵対した国々の軍隊を尽く壊滅せしめるほどの苛烈な戦争になり、地球連邦軍が設立当初に多めの人員を抱えた理由は『各地域の軍関係者の雇用維持』なのだ。それが終わった後に、一年戦争からの戦乱期が訪れるのだ。

(一年戦争、グリプス戦役、ネオ・ジオン戦争……。人間って結局、同じようなことを繰り返すのね)

りんは22世紀末期からの戦乱期に至った場合の世界線においての人類に悲観しつつ、のぞみが求めている『存在意義』が戦士としての自分である事を憂い、それを強く望むほど歪な人生になってしまったのを正すことをしなかった別の自分を罵りたい気持ちだった。しかし、その自分はのぞみが定年退職するまで存命だったのだろうか。その疑問もある。のぞみが語らないところを鑑みるに……。

(あたし達がなにかかしらの理由で離れ離れになって、のぞみは縋れる人を失った。それがあの子を『歪ませた』っていうの…?そんな…!)

「調べ物か?」

「は、はい、綾香さん」

「のぞみの事なら、あいつから語らんかぎりは分からん。足跡を辿れるのは、基本的にキュアドリームとして戦ってた時代までだしな。多分、一番楽しかった時代こそが、お前達と一緒にいられた時代なんだろうな。そうでないと、14歳の外見で転生しない」

「貴方の世界にいた『中島錦』って子はあの子の…?」

「来生だろうな、輪廻転生に則って考えりゃ。みゆきや響よりは単純だ。あの二人はもう一人か二人くらいの人生を挟んでるからな」

「うーん……。響の前世の内の一つが紅月カレンって、どうしてわかったんです?」

「あいつの中にある紅月カレンの因子が輻射波動を撃てる能力を与えたからだ。それと、性格がガサツだから、かな?」

「あの子が聞いたら怒りますよ?」

「北条響としての生前の性格からは、かなり乖離してるのは事実だ。それと、これからは少なくとも、3つの時代を行き交う事になる。プリキュアとして戦うのは覚悟しとけ」

「それはわかってます。だけど、なんで地球連邦政府ができても、どうして戦争が?」

「地球連邦政府も年月と共に腐敗する。サイド3に対する重税や住民への蔑視がザビ家を生み出し、ジオン・ダイクンも表向きは聖人君子って事になっちゃいるが、裏では妾にガキを産ませてっからな」

「それが、シャア・アズナブルとセイラ・マス?」

「そうだ。シャア・アズナブルは日本の理屈ならなんとか家を継げるが、欧州の理屈じゃ庶子扱いされるだけの身分さ。シャアも分かってると思うぜ?」

シャアはジオン・ダイクンの妾が生んだ倅。それはザビ家も把握していたが、国の祖の血を受け継ぐ存在としての利用価値をキシリア・ザビは見い出していたものの、同時に仇なす危険性を察知していた。かのキマイラ隊を『自分の警護部隊として濫用していたのでは?という説がまことしやかに囁かれるほどの恐怖をシャア・アズナブルへ抱いていた。皮肉なことだが、キマイラ隊の『エース部隊』という発想は後年に地球連邦軍が取り入れ、ロンド・ベルに繋がっている。ロンド・ベルの機材優遇は彼らの前例あっての事だ。

「デキン・ザビは戦争にさえ勝てば、シャア・アズナブル、本名はキャスバル・レム・ダイクンに公王位を譲位するはずだったっていうけどな。その息子のギレンは天才だったけど、イレギュラーに弱くて、南極条約の締結の時にポカやらかしてるし。あれ、本当は降伏勧告だったそうだ」

「南極条約で早期終結、か。一年戦争って何の因果か、太平洋戦争に似てないですか」

「あの戦争を一年に圧縮したような戦争だよ、一年戦争は。歴史学者は一年戦争を『宇宙移民時代の太平洋戦争』って評してるくらい、よく似てる」

「ザクで圧倒してたら、ガンダムに圧倒され返されて、その量産型の普及でジリ貧、ですもんね」

ジオンの誤算は指導層の内輪もめとコロニー落としをした事による『正義の消失』である。荒野の迅雷と異名を取った『ヴィッシュ・ドナヒュー』は生前、『ザビ家がコロニー落としをした時点でジオンに正義は無くなった』と述べており、ザビ家を崇拝するアナベル・ガトーやエギーユ・デラーズなどは一線を画していた。そして、いつしかスペースノイドの穏健派からも疎まれる存在へ堕ちつつあるのが狂信的ジオニスト達なのだ。生粋のジオニスト達は数を減らし、ネオ・ジオン戦争時代以降の若年層が増え、元は彼らを狩る立場のティターンズがジオン残党軍に与するなど、もはやジオン公国軍の風土の名残りも薄れている。地球連邦軍が仮想敵に外宇宙の国家群を念頭に置き始めていた時代にあっては、国内の反連邦世論の受け皿でしかないジオンは『時代遅れのアナクロな連中』との風評さえ頂き始めている。かつて、マイッツァー・ロナやカロッゾ・ロナはジオンの存在をそう評したというが、別世界の住人から見ても、ジオニズムは一年戦争後の時勢では、『魅力を失いつつある思想』と見なされているのが分かる。


「アニメと違って、その辺は体制側が正しいんですね」

「いつも体制側が正しいとは限らないが、アムロさんも言ってるように、世の中に絶望したインテリがいつも革命を起こすが、過激な事しかやらないし、たとえ、事をなし得ても、官僚主義に理想が飲み込まれるのを嫌って世捨て人になるだけだ。革命で成功したのは、明治維新とか、ナポレオンとか少ないほうだしな。しかもフランス革命なんて、革命政府が恐怖政治やりだしたから、コルシカの小男の台頭を許したんだぜ?」


「ジオンは思想的には影響与えたけど、国を回すシステムとしては破綻してたってことですか?」

「ギレン・ザビ、あるいはジオン・ダイクンのカリスマに縋ってる以上、年月での思想の風化は避けられん。シャアもその辺は分かってるよ。ネオ・ジオンはいずれ自然消滅するだけの存在だって。それを周りが許さないんだよ。反連邦の宇宙移民はわんさかいる。その受け皿に後発のコロニー国家はなり得なかったからな。それはそれでいいんだが、お前の心配事はのぞみの心にある闇、それとかれんとこまちの存在だろ?そいつらは全部の平行世界でプリキュアをし続けたわけじゃない事は分かってる。大抵の場合はナイトメアの攻撃で学園そのものが一時的に休園を余儀なくされて、その特別措置で二年間、プリキュア5をし続けたが、中にはかれんとこまちの卒業が普通に起こって、メンバーが変動せざるを得なくなった世界も存在する」

「嘘!?」

「それが真実だ。普通に考えれば、中学三年生は普通に一年で卒業せざるを得ないはずだからな」

「よくよく考えてみれば…。」

「色々な兼ね合いの前代未聞の措置だと思うぜ?カリキュラムを消化しない内に高校に進学もさせらんないだろ?公立じゃそうはいかんよ、私立だからこその強引な措置だろう」

歴代プリキュアで中学生を『四年』したのは、のぞみ達のみである。当時は深く考えていなかったが、成人後の精神状態で考えてみると、色々とおかしい点があると、りんも気づいた。その点はツッコミ役の特権だろう。

「どうしてなんですか?」

「のぞみの願いが世界の摂理そのものを一時的に捻じ曲げた相乗効果とかで、違和感を抱かないようになっていたんだろうな。そうでないと、周囲が同じ学年のままってことに違和感を持つはずだ。はーちゃんがお前らの助けを得るために、無意識の内に行使していたってことも考えられる。それに、現役時代にプリキュアとしての正体を隠してたお前らの親が、いくら特別措置って言っても、留年でもないのに、同じ学年をもう一度繰り返すってのに異議を唱えるはずだからな」

「そっか、はーちゃん……あの子ならあり得る…」

「お前らプリキュアはメタ的に言えば、仮面ライダーとかのようなヒーローになりたい女子の願いが形になった存在だからな。古典的な魔女っ子アニメとは一線を画するし、お前らのジャンルの先駆者の某セーラー戦士たちを発達させたようなもんだ。時代の差だな。80年代までの魔女っ子達は戦闘になっても、呪文で解決するし、アイドルしてた魔女っ子もいるしな。メグちゃんくらいだな、明確に魔女っ子で戦闘要素あったの」

「もしかして、見てます?」

「某セーラー戦士は新旧両方を満見たし、古典的なものもサラッとはな」

「わーお」

「自衛隊に潜り込む時に勉強でな。一応、見やすいモノは見たよ。あ、キューティーハニーは23世紀に実際にいるが、ドワオ要素強めだ]

「うーん…リメイク版しか見てないんですよ、昔、お母さんが借りてきたレンタルビデオで」

「ああ、Fか。あれはだいぶ抑えられてるかんなー。お前も転生の特典で得てると思うぞ?空中元素固定能力。のぞみは使ってるし」

「空中元素固定?」

「キューティーハニーの力の根源だ。異能の力を使ってた者の転生で発現しやすい能力だ」

「化学とかは苦手だったんですよ。つまり?」

「空間にある元素を操って、モノを造れる能力の事だ。傷の治癒とかにも応用が効く。科学的に言えば、『空中に分子の形で存在する元素を選り分けて随意に結合させて、望む物質を生成する』。」

空中元素固定能力はキューティーハニーの空中元素固定装置を『能力』という形で持ったようなものだが、キューティーハニーと違い、武器やメカを造る時は『内部構造まで熟知していないと望む性能のモノが作れない』というもっともな『制約』がある。黒江が整備士資格を取ったり、オートバイのオーバーホールを見学していたのは、オートバイの修理のためである。

「制約があるとすれば、機械類とか武器は構造を覚えてないと、ロクなモンが作れないってとこだ。俺もバイクを作りたいからって、知り合いの仮面ライダーがやってるバイクショップの見学とかしたしな」

「便利だか、便利じゃないのかわかりませんよ、それ」

「生活必需品に金をかける必要がないくらいの認識でいいさ。テレビくらいは普通に造れれるしな。ただ、武器を覚えておけば、現地調達の武器の弾とかの補充ができるから、便利といえば、便利だな」

「構造さえ覚えておけば、剣とか銃を?」

「そういう事だ。キュアフルーレをドリームが自分で出せたのは、その応用だ。本当なら、妖精の力を借りないと無理だろ?」

「そう言えば…」

「ただし、刃の部分の構造を変えれば、立派に武器になる。元々、フルーレは刃を潰して、刀身を細くした練習用サーベルの事だしな」

「詳しいんですね」

「日頃から日本刀を武器にしてるからな。日本刀は構造が単純だから、鉄より硬度の高い合金に刀身を変えることは簡単だ」

日本刀であっても、近代の怪異は普通は斬れず、叩き割る形で倒していた。だが、転生後の黒江や智子は空中元素固定で鉄より遥かに強い合金に愛刀の刀身部を作り変えており、それに微弱な小宇宙を魔力と複合させて纏うことで、ボルテスVの天空剣のように、分子結合を破壊することで敵の装甲を切り裂く。斬れないものは自己再生能力を持つ真ゲッターロボの変異型合成鋼Gか、そもそも物理的に分子構造が光子力でガードされている、最上位の超合金であるニューZαと、物理的に強化された分子構造を持つゴッドZのみだ。

「おりゃ、ボルテスの天空剣みたいな芸当で斬ってたしな。分子構造を超パワーで破壊するやり方だ。魔力値は元々、取り立てて高いわけでもなかったしな」

「個人差、ですか」

「みゆきの素体になった奴みたいに、馬鹿みたいに強いのもいれば、俺みたいに減衰が遅いが、魔力値自体は平均よりはいい程度までいるんだ。俺はこれで三度目の転生だから、それで応用し始めた。怪異っていう怪物は普通の剣じゃ斬れないからな。……ま、それで疎んじられたけどな。普通は魔女(ウィッチ)であっても、装甲を鈍器みたいに叩き割る形で倒してたしな」

黒江は今回の転生では、腕に聖剣を宿す事もあり、『天空剣』と同じような原理を日本刀に適応させて戦果を挙げていた。怪異が強化されようとも、だ。黒江らの世代は『怪異がビームを撃つ様になったのを知らない』と、直近の後輩世代はいう。しかし、実際はその時に指揮官級の世代だったため、正式には第一世代にあたる。イチャモンに近いが、世代間対立の根源の一つはこの認識に由来する。もう一つはエクスウィッチへの現役世代からの見下しに由来する侮蔑意識、もう一個は恐怖だ。年々、人材の質が小粒になると上層部に陰口を叩かれる現役世代は『黄金世代』を超えることに躍起になっていた。だが、戦果を挙げるのはいつも、レイブンズの弟子筋にあたるウィッチという思い込み(錦はレイブンズの後輩だったが、直接的影響下にはなかった)から、本来は無用な対立を選んでいく。Gウィッチは陸空合わせて、扶桑だけで1000人以上はいる軍ウィッチの中では『少数派』に位置するため、1945年の夏の時点では、多数派の通常ウィッチに疎んじられ、他部隊の支援が殆ど得られない状況になっていた。それは自衛隊や米軍が統制面から憂慮し、地球連邦軍も機材や補給物資を融通している。

「だから、軍のお偉方は他部隊の助けがいらないくらいに、うちに人材を集中させて、機材も優遇する選択を取った。一騎当千の力であらゆる敵をとにかく倒しまくる。お前らプリキュアを巻き込んじまって、すまない」

「いいんです。のぞみがそう望んだのなら、あたしはそれを尊重します。はーちゃんの願いでもありますし。今更、元の生活にも戻れないですし、こまちさんやかれんさん、うららの事も気になりますから」

「三人を仮面ライダーディケイドに探させている。多分、また別の平行世界の住人になるとは思う」

「記憶は統合されるんですか?」

「お前たちと会ったらな。のぞみはそれでお前の世界の記憶を得ている。お前も少しづつだけど、記憶が宿るはずだ」

「うーん…」

「考えても始まないし、それなりに軍事知識覚えておかないと、マスコミの餌食にされんから、今日の講座を始めんぞ」

「今日はなんです?」

「空母についてだ。一応、お前ら、ウィッチ世界への表向きは空戦ウィッチだしな」

――黒江はプリキュア勢のウィッチ世界向けの説明を『空戦ウィッチ』としているため、プリキュア達にスーパープリキュアとして得られる飛行能力の制御のトレーニングをさせつつ、航空兵として必要な知識を覚えさせていた。また、黒江は陸軍飛行部隊出身であるため、ある程度の整備知識を身に着けさせており、その点が日本防衛省に疎んじられた海軍航空隊(海軍航空隊では、パイロットは一種の特権階級であった)と一線を画する点であった。無論、専門の整備士がいるジェット時代には、パイロットが整備に口出しすることは整備士に嫌われやすい要素であるが、黒江は専門の整備士と同等級のジェットエンジンの専門知識を得ており、その点もあり、空自で人望を得ている。黒江は整備士を労うことを事変中から行っており、自分の配下にあった後輩達にも徹底させている。旧日本軍では、整備をいじめたら、エンジントラブルを起こすように細工し、邪魔なパイロットを合法的に始末したという話もチラホラ残されているため、整備を丁重に扱えと教えこみ、ミーナが恋人のことで整備兵に冷淡に接することを危惧し、転生してきた坂本に教え、坂本は更に圭子に、ミーナのG化を促すように命令され、それを実行した。結果、ミーナの基本人格は西住まほになった。プリキュアの転生に当たっては、専門知識を教え込む責任者に任じられた。その補佐が圭子である。休暇中でも一日あたり、50分の割合で講座を開いていた。りんやラブはそのまま転生、転移してきたため、軍人としては一から知識を教え込む必要があった。(のぞみや北条響、星空みゆきは転生先が元からの職業軍人であるため、その必要はない)りんの軍隊階級が少尉なのは、のぞみの補佐としての役目を期待された事、翌年度の統合士官学校入学の一号生になる手はずになっていた故の特別措置だ。この日の講座は空母についてで、設立準備中の扶桑空軍は『当面の間、空母機動部隊の維持に必要な人材を提供する』という事で、日本側が事務方の勘違いと過剰な統一意識、それと不手際で移籍させてしまった海軍第601航空隊の穴埋めを否応なしに行う事になっており、その関係で空母に関する知識が空軍軍人であろうとも必要とされたたらだ。――

「でも、なんで空軍が海軍航空隊の仕事まで?」

「21世紀日本の防衛省背広組のせいだ。連中が『航空関係の一括管理』を理由に、海軍航空隊を解体しようとしたんだよ。空自が猛反発して頓挫したけど、その時には空母航空団の母体として、地上訓練中の部隊を空軍に移籍の処理をしてやがった。連中、メンツ論とかで手続きの取り消しを渋ったから、ドイツ海軍まがいの方法で維持せざるを得なくなったんだ。作戦時は海軍の指揮下に入るっていう但し書き付きだ。専門部署の空母航空団の再建は時間かかるから、1950年代の後半までかかるだろうさ」

「時間かかり過ぎじゃ?」

「日本の意向だよ。ジェットパイロットを戦線に安定供給できるまで空母航空団の投入はしないっていう」

黒江の予測は悲観的であったが、実際、日本側が『人材供給体制の完全な整備完了まで空母航空団の投入はしないほうがいい』としたため、海軍空母航空団の再建と実戦参加は1950年代までずれ込む。その後も『実戦経験が豊富』なことを理由に、空軍部隊が空母航空団の任務を代行することが慣例化するため、後に勃発するウィッチ・クーデターは海軍航空隊の自縄自縛を地で行く結果となり、汚点を残す事になる。ただし、そのクーデターに厳罰を以て臨んだことがウィッチの親達を萎縮させ、その後の数年のウィッチ新規志願数を『壊滅的に』落ち込ませ、45年時に一線にいた大戦世代からの世代交代の新陳代謝が停滞し、中々、第一線勤務のウィッチを構成する世代が次世代に入れ替わらなくなるという悪影響を残してしまったのである。



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