外伝2『太平洋戦争編』
第一話


――1946年、遂にティターンズは南洋島へ侵攻。同時に扶桑皇国へ宣戦布告。扶桑は久しぶりに戦闘状態へ入った。この頃の扶桑海軍は任務部隊編成へ移行していたため、かつてと違い、編成は流動的であった。その内の水上艦戦力は大きく様変わりしていた。




――1945年度に長門型以前の旧型戦艦を退役させた扶桑は一線級戦艦を紀伊型戦艦以後の世代で固めていた。ただし、紀伊型戦艦は数年間の動乱で形態を大きく変えていた。これは竣工後数年で大和型に対抗出来うる新鋭艦が竣工してきたために、紀伊型戦艦の性能は陳腐化してしまったためである。しかもネームシップの紀伊がモンタナに軽くノックアウトされたことで、10年未満で早くも近代化が必要とされたのは予定外であった。しかも1944年から1945年までは装備購入と駆逐艦や巡洋艦の損失補填、航空隊拡充に予算を回されたためだ。、紀伊型戦艦、いやそう呼ぶのは今やふさわしくない。『尾張型』と言うべきだろう。紀伊の損失と近江の反乱でイメージが悪化したからだ。1946年時には尾張がネームシップ扱いとなっていた。その尾張は大きく姿を変えていた。長門型同様の艦橋は大和型世代の塔型艦橋へ、煙突やマストも大和型と同デザインとなった。これは大和型が扶桑海軍にとっての最新世代の基準だからで、尾張の主砲は新造された45口径46cm連装砲へ換装された。同時に旧世代設計の副砲が撤去されている。大和型のように見違えるほどの近代化はされていないが、これは当年度予算内での限界によるものだ。試験的に後部甲板が垂直離着陸機の発着甲板化されており、航空戦艦となっていた。


黒江は戦場に向かう途中に、改装を終え、処女航海途上の尾張を目撃した。

「あれが尾張か……航空戦艦にしちまったのか。アイオワ級の晩年の検討プランを当てはめたな。しかも艦橋その他は大和と同デザインか。考えたな」

「どういう事?」

「紀伊型の全長は初期の大和型とそんなに差がない。そこで近代化のついでに上部構造の殆どを大和とデザインを同じにすることで、誤認と偽装を兼ねたんだろう。そういうところはクイーンエリザベス級とコロラド級の例に習ったな」

――一般人が遠目から見れば大和と誤認するであろうデザインの上部構造物に変えられている事を智子に説明する。一隻のみで改装を受けるはずはないので、恐らくは駿河も同様に改装されているはずだと踏む。

「尾張がこれだと駿河もああなってるな……純粋な水上戦闘は大和以降に任す方針か」

「航空戦艦は純粋な対艦戦闘には不利だもんね」

大和型以降の戦艦群は水上戦闘での優位を期待されている。なので、その用途で一線級とは言いがたかった尾張と駿河を実験に回したのであると推測する。最も大和型も武蔵が実験艦に回されたので、そうとは限らなかったが。





――リベリオン合衆国から接収した戦艦を運用するティターンズはその性能別に篩分け、近代艦艇の弾除けとして使うクラス、第一線戦力として使えるクラスとを分類した。その内、弾除けとされたクラスに分類される戦力には、史実では艦隊の疫病神と言われた『サウスダコタ』の姿があった。

――ティターンズ残党海軍艦隊旗艦 戦艦メイン(モンタナ級三番艦)

「閣下、サウスダコタを弾除けに使うのはもったいないような?」

「艦隊の疫病神と言われていたのだ。縁起を担ぐためにも、大和と武蔵らへの弾除けになってもらう」

「は、はぁ」


アレクセイは意外に験を担ぐ性質らしく、史実で疫病神との評判を頂くサウスダコタを弾除けに使うのは当然といえば当然だが、もったいないように副官には思えた。サウスダコタ級は一応は『新戦艦の傑作』と評されるクラスで、現に二番艦『インディアナ』以降は先鋒の第一線級戦力と分類しているので、これは験を担ぐ彼の厄介払いとも言える。

「閣下、第一任務部隊が日本海軍の巡洋艦部隊を捕捉、戦闘に突入しました」

「ふむ、デモイン級を配置した戦隊がいたな?」

「ハッ、敵はアオバ、キヌガサを基幹としている模様ですが、まあすぐに殲滅するでしょう」

「ウム。皮肉だな。史上最後の重巡洋艦の称号を戴く艦が活躍するとは」

――デモイン級重巡洋艦は歴史では、史上最後にして最強の重巡洋艦である。高度な自動装填装置付き55口径8インチ自動砲は日本海軍系の如何なる重巡洋艦をも屠れる命中精度と威力を持つとされた。それが今、証明されていた。







――とある海域

敵艦の砲撃が直撃して炎上し、後部艦砲を無残に破壊される重巡洋艦「衣笠」。砲塔そのものを粉砕され、更には航空燃料の引火が起こる。

「敵甲巡に我が主砲は効果がありません!!敵機の機銃掃射で対空装備もほぼ破壊されました!」

「進退窮まっ……」

その瞬間、55口径8インチ自動砲Mk16のSHS弾が衣笠の艦橋に飛び込んだ。かつて名を馳せた扶桑海軍水雷戦隊の艦艇が旧世代の遺物として葬り去られた瞬間であった。重巡洋艦として最高峰の主砲弾は見事に艦橋に一発、舷側76mm装甲を貫いて一発が主砲弾薬庫に飛び込び、衣笠を引き裂き、海上から葬り去った。青葉も抵抗したが、敵艦の圧倒的性能には抗する事叶わず、こちらも戦没。僚艦等も航空攻撃で一隻残らず殲滅され、言わば『南洋島沖の虐殺』と後世に綴られる無残な海戦として記録された。


――この戦いはエアカバーのない古来の水雷戦隊の概念が過去の遺物として葬り去られた瞬間でもあった。ティターンズは史実日本海軍の戦訓から、水上打撃艦隊といえども軽空母が航空護衛艦としてついており、艦載機編成によっては小規模な空母機動部隊にもなりうる。その有効性を示した訳だ。二線級の戦力とは言え、甲巡を含む水雷戦隊をたった30分未満で殲滅された扶桑海軍は震撼した。新体制が発足し、その最高司令官に任命されたばかりの山口多聞大将(昇進した)は「デモイン級か…!」とだけ驚いた声を出し、頭を抱えたという。デモイン級重巡洋艦は装甲厚は高雄型重巡洋艦の倍にも達する。特に砲塔装甲は203.2mmに達する。装甲材質の品質向上も考慮に入れれば、高雄型など比較にもならない。それと相対するには最低でも超甲巡を用意しなければならないという用兵上の不都合に、山口多聞は悩んだ。

「旧二水雷戦の連中は?」

「すっかり腰を抜かして喧々諤々であります。弩級戦艦級の排水量を持つのを重巡洋艦と言い張るのに怯えておりまして……」

「まぁ高雄型の倍だものな。これで高雄型以前の巡洋艦は陳腐化した。どうしたものか」

「エアカバーをつけたくても、我々は空母の数がそもそも足りませんし、軽空母連中は第一線機の運用に不都合が多々あります。雲龍型を『軽空母』に分類しましょうか?」

「そうするしかないだろう。あれらはジェット機は勿論、烈風や紫電改に流星の運用にゃ小さすぎる」


――そう。扶桑皇国海軍は艦載機の急激な大型化とジェット化で、保有空母が陳腐化してしまい、第一線を張れる在来型空母は大鳳、翔鶴型、加賀型航空母艦、天城のみ。他は烈風、流星の多数機運用がカタパルトを使っても困難であると判定され、他用途へ転用されたり、戦闘機と旧型爆撃機を積み込んでの護衛空母として運用されている。そのため攻撃空母としての任に耐えられるのは数合わせを除いた、自国製第一線空母は指で数える方が早いという有様である。購入した超大型空母はまだ連邦軍が派遣しているインストラクターの補助がなければ運用がままならないのも山口多聞の頭痛の種であった。その代わりに艦載機は強力なジェット機を積んでいるので、唯一、敵の平均的艦載機に対し圧倒可能である。そこが救いであった。




――黒江と智子は坂本の管制誘導で芳佳、菅野、フェル率いる赤ズボン隊、シャーリー&ルッキーニ、ハルトマン、ドミニカにジェーンと合流した。坂本曰く、ミーナやサーニャ達は急遽、東部戦線へ回されてしまったらしい。

「みんな坂本に呼ばれてきたの?」

「そうなんスよ。それでここに。バルクホルン大尉は来れないことに泣いてるらしいですけど」

「は、ハハ……あの子らしいわね」

智子は思わず苦笑する。バルクホルンのシスコンぶりは凄まじいモノがあり、芳佳のためなら外国に食べ物を買いに行くほどである。智子は関心しているが、同時にちょっと引いていたりしている。

「で、今度の敵はどういう爆撃機なのよ、大尉」

「リベリオンの生み出したB-29よ。飛行高度10000m、自動銃座付きの高性能機で、ジェット履いてないと追いすがるのも甚だ困難な代物よ」

「ふぇ〜10000mかぁ。人が乗ってるんだよね……あまりいい感じはしないなぁ」

「私達自体、本当の戦争に駆り出されるなんて思ってもなかったからな。倫理感的に受け入れがたいのはある」



――ドミニカのいう通り、ウィッチの多くは血で血を洗う『本当の戦争』に抵抗感がある。耐えられない多くの者が軍を去るのも分からないわけではない。だが、自分達がやらなければ誰がやるのだという気持ちで戦線に立っている。それが彼女の偽らざる気持ちだった。それは芳佳も同意する。一同は護衛のP-51を無視し、高度11000mから一気に急降下でB-29に襲いかかった。


「全機、攻撃開始!!奴らを生かして帰すな!!」

黒江の号令と共に全員がジェットストライカーで逆落とし戦法で襲いかかる。防御機銃の弾幕の間隙を縫う形で一撃離脱、大火力を以って粉砕する一方で各々の空戦戦術でB-29編隊を崩していく。


「三番機が被弾したぞ!!」

「全機、高度を下げるな!下げたら扶桑のポンコツ高射砲でも落とされかねんぞ!!」

「了解!」

「敵編隊長は手練だな。戦略目的を達成するために護衛を無視するとは」

ウィッチ勢に編隊を切りこまれたB-29部隊は対応に苦慮した。如何にB-29と言えども、ジェットの前では旧世代設計の代物でしかないからだ。しかも敵は機動性を大きく増した第二世代型ジェットストライカーを履いている。護衛のP-51を無視して完全に爆撃機だけを落としに来ていることから、敵は戦略目的の達成を至上とする手練の指揮官と見た。扶桑のウィッチの多くは戦功に逸るあまり、戦略目的を達成できない事がままあるからだ。

「機長、どうします!?」

「全機、突撃してくる野郎に弾幕を集中せよ!!陽動の他の連中に構うな!こいつの防御力であればそう簡単には落ちん!」

一番機の機長は無線で指示を飛ばす。ウィッチを近づけさせないために、全機で言わば『弾の壁を作るように指令した。これはB-29の防御機銃の数の多さで圧倒する戦法で、史実でもその弾幕防御で疾風、紫電改を含む相当数の日本機を返り討ちにしている。ウィッチに取ってもこの濃密な弾幕は初の脅威として立ち塞がった。




「おおおおお!?なんだよこの弾幕は!?ネウロイの連中とはちげぇぞ!?」

シャーリーは自国製爆撃機を侮っていたらしく、自身の周りを通過するM2重機関銃とHS.404機関砲の曳光弾と徹甲弾に思わず肝を冷やす。シールドを貫通でもされれば間違いなく胴体まっ二つ間違いなしの弾丸が目の前を通過するというのは嫌なものである。ジェットでなければ集中砲火で貫通されていただろうと考えつつ、新たに用意されたM39リヴォルバーカノン(手持ち火器に改装したモデル。ウィッチ用に作動機構内蔵とボックスマガジンによる補充を可能とした。銃身は戦闘機搭載用よりもある程度切り詰められている)を撃ち、B-29の胴体に大穴を開けて撃墜する。亡命リベリオン軍が『F-86』共々、決戦兵器と称して大量生産しているかが理解できた。


「これが新型の武器かぁ……すげえ威力だぜ」

「そりゃMG213のコピーだからな。ちょっとかさばるが、威力は旧来の数倍だ。M61が出るまではこいつが主流になるだろう」

黒江はシャーリーに言う。彼女はより威力に優れるM61が実用化されるには少し間があるだろうという推測から、M39が少しの間主流になると告げる。M61はその系列がMSの時代でもMSの頭部火器として現役運用されているほどの超ベストセラーであるので、黒江は未来での訓練でコツを掴んでいるそちらを使いたいのが伺えた。

「M61、使いたいんでしょ」

「あれなら未来で散々撃ってるから感覚覚えてんだよ。こいつはシミュレータでもあまり使ってないからどうも馴染みがなぁ」

「確かに」

シャーリーも同意の模様だ。未来ではガトリング砲であるM61系が23世紀でも生き残って頭部バルカン砲として活用されている。それ故、二人はM61を欲しがっているのだ。

「よし、援護してくれ。あいつを落伍させる」

「OK!」

黒江はシャーリーに援護してもらい、B-29の一機を狙う。弾幕を掻い潜り、エンジン部を狙う。如何に消化装置がついていても、さすがに初速1,030m/s以上の20ミリ徹甲弾を浴びせられれば破壊できる。四発のエンジンの内、一基から煙を吹いて、速度が落ちる。

「今だ穴拭、トドメを刺せ!!」

「了解!」

智子が更に追い打ちをかけ、刀で右主翼を斬り裂く。これで智子は今次大戦における初の共同撃墜スコアを挙げた事になる。

「宮藤は?」

「直枝の奴と一緒に護衛機を追い散らしてるわ。あの子はやると決めたら凄いから」

「確かに。坂本、戦況はどうなっている?」

『お前らのおかげでB-29は完全に散り散りになった。あとは各個撃破していけ。B-52はドラケンが迎撃に上がった』

「了解」


――坂本の言葉から、扶桑皇国空軍主力要撃機の座にドラケンが収まった事が分かる。戦後日本ほど予算に制約がなく、また、有事に道路を滑走路に使う事が扶桑では許されたためとコンパクトさが受けたらしく、ドラケンが改良の上で採用されたのである。空軍がF-104とドラケンの二本柱で1950年代をくぐり抜けようと考えたのが伺える。当時はまだノックダウン生産機と有償軍事援助による取得機がそれぞれ重要拠点防空のために少数配備されて間がなかったが、既に旧来の乙戦を代替する重要戦力として稼働していた。これで開戦劈頭の南洋島への一撃は避けられた事になる。空軍は初勝利である。しかし、海軍は散々たる有様であった。ひとまずの戦略目的は果たした空軍と、手もなく捻られた海軍水雷戦隊。2つの明暗が分かれた格好だった。









――こうして、太平洋戦争は開始された。アルザス級やモンタナ級戦艦などの米仏装備を以って侵攻するティターンズ。対する扶桑は各国製装備を以って相対する。双方の造船科学が生み出し海獣達は静かに『その時を持つ』。殆どの世界で成し得なかった『ユトランド沖海戦』、『日本海海戦』の再来を……戦艦が戦艦足る本来の役目を果たすための神のいたずらは果たされようとしていた。



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