外伝2『太平洋戦争編』
第五話


――太平洋戦争開始時には政府・軍部高官の多くが未来人によって粛清された状態であった扶桑は事実上、山本五十六を首魁にする改革派の思うがままであった。その結果が良い方に作用し、扶桑陸海空軍のドクトリンはミッドチルダ動乱を経た事もあり、史実戦後世界における日本国防陸海空軍と最盛期米陸海空軍のキメラ的なものとなっていた。緒戦は練度不足と兵器の性能差で泣きを見ているが、逆転勝利の為の秘策が山本五十六にはあった。それは……。

「いざとなればこいつにデーンと鎮座してもらう」

「富士ですか?」

「そうだ。折角完成したのだ、使わない手はない」

三笠型戦艦二番艦『富士』である。昨今では異例の山の名前を持つ戦艦である。かつて、金田中佐(金田秀太郎)が考案していた50万トン戦艦を具現化したその巨体。大和型戦艦をそのまま巨大化した代物で、核爆弾でも沈められない防御力を誇る。ミッドチルダ動乱では、ネームシップの三笠が大戦果を挙げた。56cm砲という巨砲の破壊力はドイツ軍艦のどのような防御も貫いた。それよりも防御力に優れるリベリオン製軍艦であろうとも同様の結果に終わる。それを理解していたからこそ、わざわざ本土から回航させたのだ。

「移動砲台と考えても有効ですからな」

「あの巨体では機動性は望めん。だからこそ突っ込ませて撃ちまくる戦術をやらせるのだ。今の時代の如何な矛もあれの装甲には傷を入れられんからな」

「大和型に対抗し得る艦を警戒しておられるのですか?」

「そうだ。兵達の間では無敵戦艦だの評判が立っているが、無敵の船というのはおおよそ存在しない。向こう側でのヤマトにしてもそうだ。あのヤマトをしても、さすがに次元潜行艇にはしてやられたそうだ。それと同じだ。大和型戦艦は改装して基礎ポテンシャルは高めているが、初期建造艦の船体構造自体は補強こそしたが、米艦に比べると脆い。武蔵や大和の船体構造は艦首と艦尾に改装後も弱点がある。そこをモンタナ級のSHSにやられたら大損害は確実だ。紀伊型の残りであれば沈没も有り得る。敵がSHSを量産しとらん事を祈るしかないな」

――山本五十六はリベリオン軍が採用したSHS(Super Heavy Shell)砲弾を警戒していた。海底に眠る紀伊の残骸を調査した結果、甲板装甲をそれが一発貫通し、紀伊の戦闘能力を奪う一端を担った事が判明したからだ。


「外が賑やかだが?」

「紀伊の慰霊祭だそうですよ。元乗員の家族などが企画したようで」

――この時、紀伊は『戦運無き新鋭艦』として知られるようになっていた。栄えあるネームシップとして完成しながら、ネウロイが初めて放ったビーム(智子が放ったハイペリオンスマッシャーないしはディバインバスターであるが、上層部は隠蔽した)により上部構造部を喪失し、それから復帰してそれほど経たないうちに、今度はモンタナに完膚なきまでに敗北したという悲惨な艦歴は一般人からの同情を買っていた。初期の乗員が扶桑海事変後に懲罰人事でアリューシャン諸島へ島流しされたという経緯と、対照的な尾張の華やかな戦歴(紀伊型は航空戦艦への改造後は書類上、尾張型へ改訂されている)がその由来である。沈没後は乗員の遺族らにより慰霊碑が立てられたようで、この日は慰霊祭であるようだ。

「そもそも指令とは言え、彼らが行った事の因果応報が示されたのだ。乗員には悪いが、自業自得だよ」

「堀井派閥は大体は粛清しました。ですが、海防艦や駆逐艦、潜水艦、空母、強襲揚陸艦を重視する今の建艦計画に異を唱える勢力はまだ多くおります」

「言わせておけ。制空権のない状況での大抵の戦艦など、単なる動く的にすぎん。現に向こう側の世界では、戦艦はこの時期、主力装備では無くなっているのだからな」

――山本五十六は戦艦建造を打ち止めにし、空母を始めとする艦種の整備を重視していた。これはリベリオンが量産している大型正規空母『エセックス級航空母艦』とその上位艦種『ミッドウェイ級航空母艦』への対抗で、扶桑国産空母の全てを凌駕する性能を誇る両艦の登場は扶桑航空関係者を顔面蒼白にさせた。そのために大鳳や翔鶴型という比較的新しい大型空母をジェット機対応空母に改造する一方、陳腐化した雲龍型航空母艦や旧式化した加賀と土佐、天城の代替となる45000トン級量産型空母の整備が決議され、80000トン級超大型空母の計画が『仮称・G20』として検討されていた。(F-4Eの採用を見越してのもの)ウィッチ運用は専用の強襲揚陸艦で行う方針が決定され、地球連邦軍との共同で新造艦の建造も開始され、『白龍型強襲揚陸艦』として、ネームシップから三番艦までが建造開始された(〜丸では海軍の船ではないだろうという提言から、空母同様のネーミングが採用された)。だが、戦前同様の建造計画を志向する勢力も存在し、山本五十六らと激しく対立していた。潜水艦は伊四〇〇型潜水空母(ウィッチ用に改造された艦が大半になっていたが)の調達中止、おやしお型潜水艦(初代。要するにガトー級潜水艦である)相当の攻撃型潜水艦の調達が最優先事項となったが、潜水艦をウィッチ運搬艦と考えるエクスウィッチ閥などからの反対がある。だが、山本五十六にしてみれば『ユーコン級やマッドアングラー級にでも乗ってみろ』と言いたくなった。

「潜水艦はカールスラントでも大量生産態勢に入ったようです」

「ミッドチルダ動乱で嫌というほど、XXI型の有効性を実証されたんだ。そうもなるさ。彼らバダンは潜水艦の特性を一番良く理解しているからな」


潜水艦はノイエカールスラントでも同様に攻撃型潜水艦の整備が推し進められ、建造中止状態のXXI型が急遽、大量生産(地球連邦政府の助言により、カールスラントはとにかく潜水艦を作る方針になった。原因はミッドチルダ動乱でバダンのXXI型が獅子奮迅の活躍を見せた事によるもの)されていた。潜水艦の本分を思い知らされたからだ。皮肉にも、残党軍であるバダンが扶桑やカールスラントよりも潜水艦を巧みに運用し、痛撃を与えたことがウィッチ世界に衝撃を与えたのが分かる。山本五十六が国産潜水艦の高性能化に走ったのも無理かしらぬことである。

――このような動きが結実するのは、翌年の48年の事である。扶桑がリベリオン本国軍と互角に渡り合える潜水艦隊を手に入れたのは、1950年代に入ってからであり、その苦労が忍ばれた。







――さて、坂本と黒江を送り出した飛行64戦隊では、近い将来に扶桑海軍が航空戦艦化した尾張、駿河、武蔵の新艦載機に目論む機体『AV-8BハリアーU』は当面は生産不能な機体である事が話し合われていた。

「はあ!?ハリアーを買うだって!?航空本部も気の早い事だな……垂直離着陸機だぞ、こいつは」

執務室に呼ばれた圭子は海軍航空本部が目論む整備計画に頭を抱える。確かに航空戦艦化された3艦は将来的に垂直離着陸機を載せる前提で改修されている。だが、今の扶桑の航空技術はここ数年の飛躍を鑑みても、精々1950年代相当。垂直離着陸機を作るには、最低でも第3世代機を作れる技術が必要で、相当なハードルがいるのだ。

「気が早いのよ。もう艦載機にする契約結んじゃってるっていうし」

「……嘘だろ?」

「本当よ」

「本当か?全く、子供かつーの……」

新しい玩具を欲しがる子供のような動きを見せる海軍航空本部に呆れる圭子。普段の落ち着いた態度とは打って変わってのフランクさだが、これはその場に二人しかいない故に、若き日同様の振る舞いができる故でもあった。

「今は連邦軍がハリアーのサンプル持ち込んで、耐熱処理に問題ないか確認してるとこ。だから扶桑が生産技術を得るまでは実戦には出さないみたいよ」

「ハリアーか。シ○ワちゃんの映画でも見たのか?海軍航空本部の奴ら。ハリアーの弱点は速力とペイロードにあるんだけど。その辺解ってるのか?」

「まあ、それはマッハ2級の戦闘機が跳梁跋扈してる状況での事だし。時速1085kmなら、今の状況じゃ必要十分と思ったんでしょう」

「確かにそれはそうだけど、あれは操縦難しいんだぞ?シミュレーターで何回か動かしたが、四回事故った」

「確かに垂直着陸って難しいものね。ホバリング自体は私達が扶桑海事変以前からしてたけど、垂直着陸はできないし」

そう。ホバリング自体は扶桑海事変などの前哨戦時にその実効性が判明し、大戦勃発時にはどこの国の空・海軍も行う飛行技術になっている。だが、垂直離着陸はさすがに未開拓の分野であった。ISなどのパワードスーツを持つものは経験済みだが、戦闘機を通してとなると、話が違ってくるのだ。

「ああ……。それで、ここに私を呼んだ理由は?」

「上からF-104の評価試験をしてくれと通達が来てるの。内定はしたみたいだけど、実際の運用がどんなもんか見たいんだと。それで私達にお鉢が回ってきたの。工場からライセンス生産1号機を受け取って来て」

「了解。ちょうどライダー一号さんから鹵獲したショッカーサイクロンが送られて来たからそれで工場に行く。あとで静夏にでもバイクの回収に行かせてくれ」

「了解」

車庫に行くと、ショッカーライダー用として、ひいては計画のみがあった対一号二号用の第三の仮面ライダー用に、かつてのゲルショッカーが用意した新サイクロン複製品『ショッカーサイクロン』が整備されていた。それを起動させ、工場に向かった。



――圭子は本郷猛と一文字隼人から、手紙で『かつてのゲルショッカーアジト跡から当時に処理しきれなかった機密書類を回収したが、そこではV3の前段階なのか、俺達を倒すために、ショッカー製仮面ライダー第三号の計画がゲルショッカー末期に存在した事が分かった』と知らされていた。その改造人間用に先行して制作された新サイクロン号の複製がショッカーサイクロンなのだ。その残存車両を回収し、塗装とエンブレムを変えて送ってきたのが飛行64戦隊に譲渡されたのである。


――俗に言うショッカー製仮面ライダーは『ショッカーライダー』という形で知られているが、ショッカーライダーは本郷猛や一文字隼人を改造したA級科学者チームは関わっておらず、ゲルショッカーにおいて将来有望とされた若手科学者が悪人に改造を施したもので、新一号の設計図を基に生み出された量産型改造人間と言えるもので、贅を尽くして生み出された一号と二号に敵わぬのも無理かしらぬ話であった。手紙によれば、『ショッカーライダーは雑兵の代替候補として計画された改造人間で、それらを統率するワンオフの改造人間、つまり俺達の体の設計を発展させた仮面ライダーが別に設計されていた』との事である。二案が首領に出され、完全新規設計案と新一号の改良発展型が提出された。前者は後に仮面ライダーV3の土台作りに利用され、後者は本郷猛と一文字隼人に対抗し得る人材がゲルショッカー健在時に探しだせなかった(壊滅直前の日付の書類では、風見志郎や神敬介など、後に本当に仮面ライダーとなった人物がリストアップされていたらしい。また、子供を改造する案もあったとの事)のだ。

「この馬力、魔力を発動させないと制御するのに骨が折れるな……。さすが原子力ジェットエンジン搭載バイクだ」

圭子は市街地に建設されたばかりの高速道路を、ショッカーサイクロン(仮面ライダー側に渡った以上、新サイクロン三号車と言うべきか)でかっ飛ばす。

「車が富裕層にしか出回ってないから、向こうでの首都高速や東名高速が嘘みたいに空いてる。これなら2時間で中央部に行けそうね」

時速は280km、タコメーターは3を指している。計器類は本郷猛が新サイクロン号のそれを改良して追加(回収時には全自動制御だったらしく、計器類はほぼなかった)したものである。最高速は時速550km、零戦五二型に匹敵する速度だ。一号と二号の新サイクロン号よりも50キロほど速度向上されているあたり、その生まれなかった『仮面ライダー三号』に起死回生をかけていたかが分かる。高速道路をエンジンを唸らせ、より高速の走行に備えて、ゴーグルをしてからかっ飛ばした。


――太平洋戦争に備えての緊急滑走路の確保も兼ねて建設されたこの高速道路の交通量は少ない。これはモーターリゼーションが始まったばかりの扶桑皇国では、自動車の流通が少ない上に高額なので(国産車でも、この当時の大卒初任給の数倍の値段であったために本格普及は史実のス○ル360やサ○ー、カ○ーラ相当の大衆車の登場を待つ必要があった)、高速道路はガラガラ(時より、財閥系の人間が乗る高級車と軍用車が通る程度)である。新サイクロン号の速度を以てすれば、大陸沿岸部から中央部の軍需工場地帯までは数時間程度で着く。未来世界の高速道路を参考にして、建設段階で追加されたサービスエリアやパーキングエリアで小休止を挟みつつ、出発から二時間後には宮菱重工業の航空機工場についた。


――宮菱重工業 航空機工場

工場の製造ラインから出たばかりのそれは真新しかった。鋭いラインの機首、小型の台形翼はその機体の特徴をよく表していた。当時の最新兵器であるサイドワインダーミサイル(第一世代型)も付けられている。機銃はM61バルカンを二門(門数・弾数の少なさを不安に思った現場から要望が出され、史実より増やされている)と史実より機銃重視なのが分かる。

「中佐、どうですこの機体は」

「宮菱鉛筆だな、これは。ん?バルカンが二門?」

「ミサイルが当たるとは限らないんで。それと現場から機銃が一門だけだと怖いとの声が出まして」

「予備代わりに積んだということか。内部構造は変えたのか?」

「配置を原設計から弄くりましたので。航続距離は燃料消費効率の強化で多少伸びてます」

「電子機器は真空管か?」

「ええ。将来的には半導体に変えたいですが。ではこの書類にサインを」

圭子は重役に促され、サインする。これでこの機体は受領した事になる。国籍識別標識は従来の『白地に太陽と月』ではなく、1944年度から新たに制定された『日の丸』となっている。海軍旗も旭日旗に、艦首紋章も菊花紋章に変わっているので、奇しくも一連のマークは『扶桑皇国の新時代のシンボル』として知られるようになる。

「よし。エンジン始動」

ジェットエンジンの吹き上がりは良好である。計器はグラスコクピット化されている、より後世の機体に比べるとゴチャゴチャしているが、どこか安心もする懐かしさを覚える。

『駐車場に止めたバイクはあとで部下が回収に来るから、置いといてくれ』

『分かりました』

『それじゃ、離陸するぞ!』

操縦桿を引き、機体を離陸させる。ウィッチの中には、飛行機での飛行を『重い』とぼやく者も多い。だが、むしろこちらの方で戦う軍人のほうが圧倒的多数なのだ。それを理解しなければ軋轢を生むだけなのだ。アフターバーナーを炊き、空へ消えていくF-104Jは、新時代の戦闘機という雰囲気をまとっていた。



――余談

「きゃあああああ〜!何なのこのオートバイ〜!!」

新サイクロン号を回収しに派遣された服部静夏は、その圧倒的馬力に振り回され、殆ど涙目であった。魔力を発動しないと運転もままならない馬力のバイクを運転しなければならなくなった彼女の運命やいかに。



押して頂けると作者の励みになりますm(__)m


<<前話 目次 次話>>

作品を投稿する感想掲示板トップページに戻る

Copyright(c)2004 SILUFENIA All rights reserved.