外伝2『太平洋戦争編』
第七話


――太平洋戦争での技術発展は急激なもので、一気に扶桑皇国の技術レベルは史実1950年代半ばと同等に進捗した。同時に、戦術的にも、戦略的にも戦後の水準に達した扶桑軍は、軍備の近代化に血道を挙げていた。最新鋭駆逐艦『有明型駆逐艦』はギアリング級駆逐艦をタイプシップにして設計されており、生存性は陽炎型駆逐艦までの旧来型を凌駕する。塗装その他は旧来の扶桑駆逐艦に準じるが、武装その他はギアリング級に準じている。同級はミサイル駆逐艦の登場が1950年代以降になると見積もられた事や、陽炎型駆逐艦や夕雲型駆逐艦をミッドチルダ動乱で大量に喪失した事の埋め合わせとして、場繋ぎ的に量産配備され、1947年1月現在では4個駆逐隊が稼働状態にあった。




――南洋島 北部工廠

扶桑皇国の南洋島工廠で最も古い歴史を持つ、北部工廠は今や駆逐艦・海防艦整備用の工廠として、連日連夜、フル稼働状態にあった。有明型が次々と起工され、5ヶ月から半年の工期での完成が予定されていた。

「駆逐艦の第二陣の完成は半年後か。と、なると、それまでは旧来型をやりくりせんといかんな」

艦隊司令長官に任命され、すっかり板にについた山口多聞大将は工廠を視察していた。工廠の設備は更新されつつあるが、立地的に大型戦闘艦艇の建造に向かないこの工廠は、補助艦艇をその建造艦艇の中心にしていた。陽炎型駆逐艦の後期建造艦のいくつかもここで竣工したが、大半はミッドチルダで戦没した。

「しかし、ブリタニアを範にしていた我々がまさかリベリオンの船を範にとるとは」

「時代の流れだ。ブリタニアは衰退しつつあり、昔年の栄光も去りつつある。現在、最も軍事技術で抜けて進歩している国はリベリオンだ。『戦後世界の皇国』はそれを模倣することで海軍を復興させたが、これからはリベリオン式の船体構造を範にするのがいいだろう」

参謀に、山口多聞はこう言った。暗にブリタニアが斜陽を迎えつつある事も示唆して。今次大戦はブリタニアの経済に大打撃を与えている。幸いにも戦いの主舞台は大西洋から、太平洋に移った。ネウロイは歴代スーパー戦隊の奮戦により、カールスラント本土へ侵入に成功し、ベルリン奪還も夢では無くなっている故、ブリタニアはこれ以上の惨禍を免れ、未来世界のような急激な衰退は起きないのは分かってはいるが、それでも衰退は避けられないというのが、扶桑上層部の見方だった。扶桑こそがいよいよもって、太平洋に覇を唱えるべきという意見が出始めていた。リベリオンが本来担うべき役目を自分たちが担うべきだという現実に気を良くした右派の意見だ。あながち間違いではない。

「ブリタニアからは、もはやヴィクトリア時代は愚か、戦前の活気は失われた。今の軍事力を遅かれ早かれ支えきれなくなるのは自明の理だ。我々に本来ならリベリオンが担うはずだった『次代の世界の盟主』の座が転がり込んできたのは瓢箪から駒だよ」

「瓢箪から駒、ですか?」

「そうだ。大抵の場合、我々は南洋島が無ければ、リベリオンと戦争に敗北し、政治的植民地に甘んじる結末が確定している。未来世界で日本が軍事的復興に100年もの歳月を要した歴史がそれを証明している。この世界でもどのうち、リベリオンが遅かれ早かれ、軍事的にも物質的にも突出したであろうことは、目に見えて明らかだからな。図らずしもティターンズはそれを阻止し、結果的に我々が矢面に立たされるを得なくなったのだ。これからの大戦後の半世紀ほどは、リベリオンと扶桑がにらみ合いを続ける冷戦期に入るだろう。世界は再構築され、富は我らに集まるだろう」

山口多聞は、東西冷戦の時代が大戦後に訪れるであろう事を予測していた。違うのは、双方が資本主義で経済が回る陣営である事、片方の盟主は扶桑皇国になるだろう事だ。これは先も山口多聞が言った通り、同盟の主導権は1950年代には、ブリタニアの経済的衰退により扶桑に移る事は政府の想定内であり、1950年に控える同盟条約の更新もそれを想定している。

「何故です?」

「チャーチル閣下がいくら息巻こうが、ブリタニアの経済力は限界に達している。戦時経済があと数年も続けば、ブリタニアは連邦の維持さえ覚束ないほど、青色吐息ぶりを露呈する。だから、太平洋戦線は事実上は我々で戦い抜かなくてはならぬのだよ」

「ブリタニアは宛にできないということですな?」

「そうだ。せいぜい、東洋艦隊をなけなしの船で編成し、送ってくることしかできぬだろうからな」

ブリタニアの経済は1947年時には、もはや風前の灯火であった。長引く戦乱による人的被害・物的被害の大きさは看破できぬものであり、太平洋の戦乱に艦隊でも送り込めば、それだけでロンドンの株価に悪影響が生じる。だが、ブリタニアは世界の盟主たらんとする世論やその種の持論を持つチャーチルに、ブリタニア大蔵省は涙目続きで、特にチャーチル肝いりでセントジョージ級戦艦が海軍に量産配備されると、維持費の都合もあり、海軍予算は増大の一途を辿っている。なので、ブリタニア庶民院は当初、太平洋への海軍派遣を国家財政の問題で渋り、それを貴族院が外交上の不都合が生じるとして、反対に海軍派遣を決議し、それを受けて、庶民院も海軍派遣を決議しようかというのが、最新のブリタニア政治情勢だ。ただ、派遣される東洋艦隊と言っても、その規模は小さいものと予測される。それ故に、山口多聞は『宛にしない』と参謀に言ったのだ。だが、扶桑の冷淡さとは裏腹に、ブリタニア海軍は逆に乗り気であった。

――ブリタニア 海軍省

この当時の第一海軍卿は史実とは多少、人選が違っており、サー・アンドリュー・カニンガムが遅めに選ばれていた。彼は1945年、501も参加した大海戦にブリタニア海軍部隊の司令として参加、ライオン級のテメレーアを操艦し、アイオワ級『ウィスコンシン』を退けた実績が評価されたのである。

「セントジョージ級の『セントパトリック』、『セントデイヴィッド』の状況は?」

「いつでも遠洋航海可能であります、閣下。護衛艦も準備万端です」

「手隙の空母やクラウン・コロニー級、エディンバラ級を複数入れ給え。ミッドチルダ動乱に続く、我軍の晴れ舞台だ。国王陛下に恥をかかせんように」

彼は、健康が悪化していたブリタニア国王『ジョージ六世』のことを心配していた。ジョージ六世はこの当時、肺がんなどの病気を患っており、ヘビースモーカーである事も相成って、もはや未来医療を持ってしても余命宣告を受けるだけの身であった。遅かれ早かれ、彼の長女のエリザベスが次期女王になると、国民の誰もが思っており、海軍としては、『人類の勝利』を望み、それを見届けられぬままに死に行くジョージ六世への手向けが必要であった。今次の太平洋における海軍派遣が、恐らくは彼が見届けられる最期の海軍関連行事であるのは確実。それ故、彼に海軍の勇姿を見せ、冥土の土産にしてもらうように、意図的に本国艦隊所属の有力艦が多く選ばれ、大蔵省を泣かせる事態となったという。(財務省とも訳されるが、大蔵省との事)



では、ここでこの時期に完成し、本国艦隊などの旗艦に任じられた改ライオン級戦艦といえる『セント・ジョージ』級戦艦はどんなものか解説しよう。

――セント・ジョージ級戦艦――

全長、295m。全幅、39m。50口径46cm砲×12門、QF 3.7インチ高射砲20基、ボフォース40mm6連装機銃50基、速力、29.5ノット

……と、英戦艦としては圧倒的なスペックを有する同級。扶桑から得た水中防御ノウハウが適応されており、建造費はライオン級戦艦をも上回った。更にキングジョージX世級の反省で、司令部には大和型と同等の装甲厚が与えられており、防御上の死角は無くなった。排水量100000トンに達する巨艦となったため、多大な設備投資が必要で、その結果、一時的にロンドンの株価は上がったという。元々、チャーチルは1939年から『大和型戦艦』への対抗心から、65000トン級から85000トン級の整備を見込んではいたが、改大和型と超大和の登場で一気に計画は具現化、悪ノリして更に排水量が増大して、100000トン級になってしまった。1939年からの長期計画とは言え、その間に大戦が勃発するなどのアクシデントも起こった。紆余曲折の後に、生まれた同級は英戦艦の歴史上、久しぶりに世界第一級の座に舞い戻ったと、用兵側を満足させたという。だが、高性能と引き換えに運用費用は従来型より高額になり、その費用捻出のため、旧型戦艦と空母をいくつか手放す必要に迫られたという。(陸軍師団と空軍の重爆調達数も減らされたらしい)しかしながら攻防力で飛躍的高性能化を果たした同級は、概ね大和型と互角の能力を持つと判定され、ブリタニア海軍力健在のシンボルとして、政治的にも活用されていく。








――セント・ジョージ級の登場にも狼狽えることなく、リベリオン本国はモンタナ級戦艦の近代化改修と、次期戦艦(核兵器の更なる開発には膨大な費用がかかり、打撃を受けたリベリオンを統治するティターンズは非現実的と判定した)の開発を始める。スペックはモンタナ級戦艦の更なる強化型と言えるもので、皮肉にも、核兵器への恐怖が開発を抑制し、その代わりに大艦巨砲主義が息を吹き返したのだ。史実とは異なる方向性で進化する兵器、そして有り得ないはずの『18インチ砲登載戦艦時代』の到来に、復興途上のガリアはついてこれなかった。これは次期戦艦となるはずのアルザス級を根こそぎ強奪された事、国力の消耗が激しい故、国土復興が最優先事項とされた事によるもので、ガリアの戦艦戦力は一気に陳腐化してしまった嫌いがある。アフリカの植民地も奪われたガリアは昔年の威容を失い、軍事強国の座から滑り落ちてしまったと言っても過言ではない。その代わりに扶桑が一気に世界第三位に躍り出、リベリオンも事実上の世界一位になったので、図らずしも日米英の三大国が海軍力のトップ3の座についたことになる。リベリオン国防総省はティターンズの指令を受け、次期戦艦の要領を固めてゆく。その艦名は……。








――扶桑皇国はF-104Jの生産を開始、旧式化した旧世代レシプロ機を代替し始めた。圭子はその生産一号機を基地に持ち帰り、格納庫に駐機する。

「これが次期戦闘機?ずいぶんと細長いデザインね?」

「向こうの世界じゃ三菱鉛筆なんて言われてたほどだからな。マッハ2級の速度を持って、世代的には良好な機動性だ。次のF-4までのつなぎにゃ、ちょうどいいさ」

「F-4の導入はいつになる見通し?」

「少なくとも、1952年以降になる。今の技術レベルでコピーできる中じゃ、こいつが最高だからな。ドラケンとの二本柱で、当面は凌ぐ事になる」

圭子は機体から降りて、ヘルメットを取って、武子と話す。F-104とドラケンでここ数年を持ちこたえるのが空軍の戦略であると。

「要職は双方で取り合いしてるし、まさに『勇猛果敢、支離滅裂』ね」

「そうだな……空自も黎明期は陸海軍の派閥抗争が激しかったが、ウチも同じようなもんだからな。その言葉は正しいな」



扶桑空軍は海軍基地航空隊と陸軍飛行戦隊の寄り合い所帯感が強く、要職を陸海軍閥が取り合う状況である。奇しくもこれは航空自衛隊の黎明期と同様であり、アメリカ空軍という監督する者がいないのもあって、空自より激しく派閥抗争が起こっている。陸軍出身者のほうが三羽烏のおかげもあって、優位にある現状を快く思わない海軍出身者も多い。なので、内部は支離滅裂と言っても過言ではない。しかしながら気質は陸海軍双方の気質が空自のアメリカナイズされたのと交じり合ったもので、ハンバーガーを食う機会が増したとは、智子の談。

「それと、静夏が泣いてたわよ?仮面ライダーも凄いの送って来たわね」

「しょうがない。彼らのバイクは戦闘用サイボークが扱うのが前提の性能なんだ、私達が扱えるのは偶然の産物なんだ。静夏にゃ悪いが、慣れてもらうしかないな」

新サイクロン号の超性能に振り回された服部静夏は、インターチェンジで息も絶え絶えである事が武子の口から語られた。圭子はやれやれといった感じだが、当の静夏は息も絶え絶えで、インターチェンジで伸びていた。新サイクロン号の超性能を制御するのに骨を折ったのが伺える。武子は静夏に同情したが、シャーリーの例を見ると分かるが、要は慣れである。シャーリーは速いものならスーパーロボットに至るまで、乗りこなせないと気がすまない性質で、ゲッターライガーに始まり、ゲッターキリクを、最近では、高速戦隊ターボレンジャーに頼み込んで、ターボGTに乗せて貰ったり、鳥人戦隊ジェットマンのジェットガルーダに乗せてもらったらしく、嬉しがってる写真が芳佳に送られてきた。

「あとで静夏に飯をおごってあげなさいよ?あの子、息も絶え絶えなんだから」

「わ、わかった」

「私は上に、F-104の部隊配備要領を提出する仕事があるから、執務室に戻るわ。ちゃんとおごってやりなさいよ?」

「へいへい」

と、圭子に静夏をねぎらうように言い、自身はF-104の配備計画を立案するため、執務室に戻っていった。圭子はこの後、バテバテで帰ってきた静夏にハンバーグランチをおごる事になり、バイクに振り回され、すっかり不機嫌な静夏をなだめるのに骨を折り、圭子自身が静夏よりもバテたとか。









――扶桑陸軍はこの時期、次期主力戦車として、六式中戦車(史実74式戦車相当)の開発を始め、これが事実上、開発段階で『中戦車』の識別を冠する最後の戦車となった。同時に新型徹甲弾に当たる『APDS』(装弾筒付徹甲弾)、APFSDS(装弾筒付翼安定徹甲弾)の開発も始められ、未だ残置する三式中戦車以前の旧世代車を全面的に置き換える目的での配備が開始されていた。同時に歩兵の機械化も進められ、歩兵戦闘車などの配備も進められた。南洋島最前線部隊の装備については、1947年1月時点で更新され、扶桑陸軍では最も先進装備を備える軍団の一つとなっていた。戦線では、M46パットンと五式中戦車改がにらみ合いを日夜行い、全面攻勢は行われているものの、全体的に戦線は硬直状態である。だが、M48などを正面切って打ち砕ける戦車は五式改のみだが、それも攻撃力&防御力の性能バランスであり、防御面での不安はつきまとっていた。六式計画の開始は用兵側の不安解消がその主要因であったのだ。こうして、着々と新兵器が双方で用意されていき、『帳尻合わせ』の科学戦争の様相も強まっていく。凄惨な戦争の殺戮と破壊は、ここから始まっていくのだ。太平洋戦争の名において……。それは大抵の場合で300万人が死亡した、凄惨な殺戮劇である、太平洋戦争への帳尻合わせかもしれなかった。



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