外伝2『太平洋戦争編』
第二十話


――1946年中はティターンズも軍備整備に全力を傾けていたため、散発的な空襲と衝突が起きるだけだったが、1947年を迎えると、各地への本格的な空襲が頻発し、南洋島から本土に『疎開』する人々も出てくるようになった。そんな中、黒江は敵の陸軍部隊を聖闘士としての力で圧倒していた。だが、遂にそれに対抗しうる存在が敵側にいることを知る。

――1947年 4月初旬

「唸れ、聖剣『カリバーン!!』」

衝撃波がM47とM48パットンの部隊を真っ二つに両断し、蹴散らす。最近はこの作業がルーチンワークになっているため、辟易していた黒江。上空援護のウィッチ達も安心しきっていたのだが……。


「行け!魔剣『ミスティルテイン』!」

と、どこからか声が響き、黒江と同等の衝撃波が走る。咄嗟に芳佳が射線上にいたウィッチのカバーに入ったが、それでも武器を破壊される。

「きゃああっ!」

「宮藤!……クソ、 ミスティルテインだと!?確かその剣は……!?」

「そう、北欧神話でオーディンの子『バルドル』を屠った魔剣ですよ。黒江先輩」

「テメーは……確か、穴拭の同僚だったっていう佐々木勇子!その姿……神闘士になっていたのか!」

「そういうことです」

佐々木は二年前、智子と死闘を繰り広げた後に姿を消したが、二年の間にオーディンの闘士『神闘士』になっていた。それを示すかのように、その証である『神闘衣』を身に纏っていた。神闘衣はかつて、デルタ星メグレスのアルベリッヒが纏った、『デルタローブ』であり、彼女独自の力として、新たにミスティルテインを与えられたのである。

「だが、ミスティルテインはオーディンにとっちゃ、子を殺した剣だ!それを配下に与えるはずがない!」

「北欧神話はややこしいですからね。俺も全ては知らないし、剣を与えたのがオーディンだろうが、ロキだろうが、どうでもいい事です。俺は力が得られれば良かったんでね」

佐々木は主神に忠誠を誓っているわけではない様子を垣間見せ、力を欲した故に、誘いに乗った事を示唆する。ミスティルテインを宿す腕を振るい、黒江を除くウィッチ達を追い散らす。

「雑魚どもには下がってもらいましょう、先輩」

威嚇も兼ね、周囲のウィッチ達を手刀の衝撃波で吹き飛ばす佐々木。その実力を悟った黒江は黄金聖衣を召喚、そのまま纏う。

「フジ!みんなを退避させろ!こいつは私でなきゃ食い止められん!」

「わ、わかったわ!」

黒江は武子にそう通信を残すと、戦闘に入った。徒手空拳でも、優子は黒江と概ね互角であり、拳のぶつかり合いだけで鋭い衝撃波が飛び、蹴りのぶつかり合いでは、爆発すら起こる。

「でぃぃぃや!」

黒江は回し蹴りを入れ、更にそのまま蹴り上げの追撃を入れ、カリバーンに繋げるが、発展途上の剣ではミスティルテインには及ばず、手刀を受け止められる。

「何ィ!?」

「そんな未熟な剣では、我がミスティルテインに届かん!剣の鍛え具合の差を見せてくれる!!」

優子の右碗が紫の輝きを発し、剣の形のオーラとなり、そのまま振り降ろされる。黒江は黄金聖衣を纏っていたが、それを突き抜けるかのように、体に切り傷を刻む。黒江は思わず、吐血する。

「ぐっふ……!バカな、聖衣を突き抜けて攻撃ができるだと!?」

「これぞ、我が魔剣の力ですよ、先輩。伊達に神の子を殺したわけじゃない」

優子は悠然と構え、更なる追撃を加えていく。黒江は体に直接、傷を瞬く間に入れられていく。その負傷で、聖衣の隙間から血が溢れ出てくる。

「綾香!?」

上空に退避した武子が悲鳴を挙げる。それを制し、黒江は乾坤一擲の一撃を放つのだが……。

「……な…に…!?」

手刀はまたも受け止められ、しかも聖衣に罅が入っている。

「やはりな。あんたは聖闘士としての経験は浅い!それが俺との差だ」

黒江の足元に、紫の結晶が出現し、瞬く間に飲み込んでいく。これぞ優子の神闘士としての闘技が一つ『アメジストシールド』である。

『紫水晶の中で眠れ!……アメジストシールド!!』

紫の水晶に飲み込まれた黒江。武子は思わず助けに入ろうとするが、芳佳が制止する。逆転の手立てがあるのを知っているからだ。

「離して芳佳!このままじゃ……綾香が!!」

「落ち着いてください!黒江さんは黄金聖闘士です!まだ逆転の手立てを残してるはずですから」

「逆転の手立てって……」

芳佳は『それ』を知っていた。山羊座の黄金聖闘士の真の力が目覚めれば、あのようなアメジストなど目ではない事を。そのため、敢えて傍観しているのだ。芳佳の意図を図りかねる武子は、芳佳の言葉に呆然と立ち尽くすのみであった。

(これが……老師・童虎が生前に戦った神闘士が使ったという技か……!くそ、生気が吸い取られる……)

黒江は全身が石化したかのような感覚を覚えつつも、なんとしても脱出すべく頭を動かす。やがて、生気の吸い取られ方が激しさを増した時だった。

『我が山羊座を継ぐ者よ……』

『あんたは先代……『山羊座のシュラ』…!」

『お前はこのようなところで力尽きるような真似は望まんはずであろう?』

『そりゃそうだけど、体が動かないんですよ……!』

『その2つの腕には、アテナが与えし聖剣が宿っているのを忘れたか』

『そ、そうだけど、どうやって!?』

『お前の小宇宙で聖剣を鍛えよ、研ぎあげろ、お前の剣に仕上げ、天にかざすのだ!!さすれば奇跡は起きる!』

『わ、分かりました!』

黒江はシュラの残留思念の導きに従い、小宇宙を極限まで燃え上がらせる。そのパワーでアメジストシールドは崩れ去る。

「うおおおおおおおおおおおおおっ!!!」

そして、そのまま極限まで燃え上がった小宇宙が聖衣をある領域に進化させる。そう。幻の形態であり、神の衣『神衣』に限りなく近い最強最後の聖衣『神聖衣』である。

黄金聖衣の意匠を引き継ぎつつ、神々しい装飾が追加され、翼が形成されていく。そしてヘッドギアも新たに追加される。

「あれは……神聖衣!ついにやったんですね、黒江さん!」

芳佳の顔がパアッと破顔する。神聖衣の事を知っていたのだ。黄金聖衣でも一撃で破壊するような相手に対抗できる、最後にして最強の聖衣。それが神聖衣だ。

「知ってるの、芳佳!?」

「あれは神聖衣(ゴッドクロス)。人が生身で神に対抗し得る上での最後の手段です!」

「なんですって!?」

驚愕する武子。地上で起きた奇跡が何であるか飲み込めていないようだったが、黒江が攻撃態勢に入ると同時に、暴風が吹き上がるのを実感した。

「何があの子に起こったの……!?」


――黒江は神聖衣を纏った瞬間、更なる残留思念を感じた。シュラではない。その更に先代の山羊座の黄金聖闘士『山羊座の以蔵』のそれだ。その以蔵の残留思念がシュラに続き、黒江に力を貸したのだ。その影響か、口調が時代かかったものになっていた。


「戦女神の名において、我ここに敵(かたき)を滅す。 我が左手に勝利約する聖剣(しょうりやくするひじりつるぎ)、右手に有るは天地開く神剣(てんちひらくかむつるぎ)。 我が名は綾香、黄金聖闘士・『山羊座の綾香!』」

左手を掲げ、右手を払い、見栄を切りながら名乗りを挙げ、攻撃態勢に入る。それは神闘士である優子でも、認識すら不可能な速度だった。


『我が二剣を以て、邪(よこしま)を裂く!何者も斬り裂き、勝利を約定せし聖剣(しょうりをやくじょうせしひじりつるぎ)!!エクスカリバー―――ッ!!』

その瞬間、黒江独自の聖剣となった証として、剣の幻影が浮かび上がる。暴風を纏った剣は優子のゴッドローブを斬り裂き、その周囲の地面を切り裂いていく。更に右腕を構える。

『天地開く神剣(あめちひらくかむつるぎ)!!エア!!』

その瞬間、大地を穿つ『衝撃波』を超えた何かが走り、周囲の次元すら斬り裂く。黒江はこの時、以蔵の残留思念と半ば一体化している状態であったが、エアの一撃で精根尽き果て、神聖衣が解除され、倒れこむ。だが、黒江の顔はどことなく嬉しそうだった。

「くっ……さすがは神聖衣……だが、俺は穴拭と決着をつけるまでは倒れるわけにはいかん…!」

優子はズタボロの状態ながらも立ち上がり、その場を立ち去る。芳佳は黒江を回収し、皆と共に基地に戻った。



――3日後  基地

「……あっ…!?こ、ここは……」

「うちの基地ですよ」

「み、宮藤……そうか、私はアメジストシールドをぶち破って、神聖衣を発現させて……くそ、記憶が飛んでやがる……」

「黒江さん、三日も寝てたんですよ」

「三日も!?くそ、神聖衣っつーのはスタミナ使うんだな……皆にはなんて説明した?」

「説明大変でしたよ。黒江さんの部屋にあった本で説明したんですけど、老師って、自費出版してたんですね?」

「紫龍からもらったものさ。この世界にはない出版社から出してたから、目が点になったけどな」

「あーーーやっと起きた!」

「おー、穴拭。やっとだよ」

「動けるようになったら武子に報告入れなさいよ?あの子、オロオロしちゃって大変だったんだから。芳佳がブドウ糖注射したら落ち着いたけど」

「そ、そうか。それであいつはどうしてる?」

「真田さんのコスモタイガーを受け取りに向こうに行ったわ。貴方の本を持って行って、ね」

「えーーー!私もまだ全部は読んでねーんだぞ、フジの奴め」

憮然とするが、神聖衣発動でスタミナを限界まで使った反動で、芳佳の診察で『まだ動いちゃだめです!』と言われ、もう一日は安静であった。



――この時、圭子は何をしていたかというと……。

――格納庫の外

「敵が使うMS『ハイザック』はザク系とジム系のハイブリッド機で、双方が交じり合った設計の機体よ。性能ははっきりいって中途半端だけど、扱い易いから製造台数は多い。ネオ・ジオンも一年戦争の旧型の後継機扱いで使ってるわ」

圭子は部隊配属になった新兵達へ講義を行っていた。武子が所用で留守の間、隊長業務を智子が代行し、黒江がぶっ倒れたので、次席の圭子が臨時で講義を行っていた。圭子はアフリカで慣れたか、このような講義は得意で、新兵にも好評だった。新兵世代は当時14、5以上の年齢層で、そこのところは義務教育の変革を表している。

「次にその後継機『マラサイ』。これはハイザックとは比較にならない高性能で、友軍のリックディアスや百式にも引けをとらないくらいの性能バランスを持っている。また、極一部だけど、近代化で別形式を与えられた機体もあって、そっちはグリフォンって別名があるわ。そいつにあったら、友軍に連絡して、助けを待つこと!いいわね?」

講義はMSの特徴や名を一致させる事から始まり、敵味方の戦闘機の特徴、模擬戦闘訓練にも及び、朝から始まり、終わるのは夕方5時であった。

「はぁ〜〜……、もうクタクタ」

圭子は自室に入ると、どべーっとへばりこむ。実年齢は27歳に達するためか、若い連中の元気についていけない時があると実感する。

「何してるんですか、ケイさん」

「て、ティア!?」

カーっと赤面する圭子。服をはだけさせ、あられもない格好でへばったのを見られたからだろう。

「あー―…分かります分かります」

「って、勝手に納得しないでよ!説明するから〜!」

と、涙声だ。マルセイユの全裸を見慣れてるせいか、ティアナは普通に応対するが、それが圭子にはチクリと刺さり、痛かった。

「……あー。なるほど。分かります。マルセイユ中佐も全裸でしたし」

「うぅ〜……それでな何の用で来たの?」

「あ、源田司令からの連絡で、明日、空母『瑞鶴』艦上でファントムの離着艦試験を行うからそうで、それに参加してくれと」

「もう完成したの?F-4Eの艦載型」

「ノックダウン生産で、思いの外早く組み立てられたそうです。米軍と違って、E型の改良で済みますから」

「司令に了解と返信しといて。テストは何時から?」

「朝の6時だそうですよ」

「うへ!急いで風呂入って、寝ないと休めないじゃない!?」

慌てて浴場へ向かう圭子。ティアナは「やれやれ」と溜息をつくのであった。




――この時、扶桑はF-4ファントムの改良型であり、史実空自が採用したE型をそのまま艦載型としても採用していた。これはミサイル万能論の盲点に早期に気づいた事で、ミサイルが宛にされていない証とも言えるが、機銃がある事が当たり前だった時代の人間達はずばりとミサイル万能論の矛盾点を突いたのだ。その為、扶桑はE型のバルカン砲の弾数を増やし、機動性を強化した改良を望み、連邦はそれを実現させた。これにリベリオン軍も追随した事で、史実における海軍型は採用されない事になった。(雷電や鍾馗が多めだった事で、着陸時の狭めの視界に慣れていたためでもある)結果として、ミサイルキャリアーであったはずのF-4戦闘機は『格闘戦闘機』として使われる事になり、元来の設計とは真逆の運命をウィッチ世界で歩んでいくのであった。



――その三日後、黒江は報告書を書き上げた。『緊急』と但し書きされたそれは、オーディンの闘士『神闘士』が敵方にいること、その力は概ね、黄金聖闘士と渡り合える者が多いこと、同時に北欧神話の邪神がティターンズの残党を唆した可能性を示唆した。黒江は神聖衣を発現させた後は無我夢中であったが、自身の聖剣がエクスカリバーとエアへ昇華された事は自覚しており、『真に聖闘士になった』と公言し、二刀を以て闘いぬく事になり、『二拳二刀の綾香』と畏れられるようになるのである。また、射手座の黄金聖闘士となっていた箒、アイオリアの遺志に従い、一時でも獅子座の黄金聖闘士としての活動をする事になったフェイトと合流し、ティターンズ残党の神闘士らとの激闘を繰り広げていく。また、かつて、アイオリアら先代黄金聖闘士らが封印したティターン神族の復活の気配もあり、この世界においても、『神々の熱き戦いが戦争の影で起き得る』と確信している節があった。

『神々の熱き戦いねぇ。ティターン神族とか、オーディンなんて、神話かじってないと理解できないわよ』

『私達だって、アテナの片棒担いでるんだし、バダン大首領はスサノオノミコトだぜ?神々の熱き戦いはもう始まってるんだと思う。世界を股ににかけてな』

『上層部はこんなこと信じるのかしらね』

『ウィッチだって、神の力を使い魔を通して行使させるって考えがあるだろ。上はそれを知ってるだろうし、神の加護が得られるのなら、オーディンだろーが、月夜見尊だろーが、オリンポス十二神だろーが、お釈迦様だろーが、もっと古い太古の神々だろーが、縋るだろう』

『カトリック信者とかが聞いたら怒るわね』

『人間の宗教や神話なんてのは、神々にとっちゃ、戯言に行って作らせたものに過ぎないとは、大首領の談だ。救いがあるのなら、誰にでも縋りたい。私にも経験があるからな』

黒江は自身の経験から、宗教に縋りたい人間達の心理を理解している。それは教え子たちの事があってからだ。

『これで伝説上の聖剣とか魔剣の実在性が証明されたけど、そのうち槍も出てくるんじゃない?』

『あり得る。ゲイ・ボルグとかは有力だろう。星矢から聞いた話だと、バルムンクはあるそうだし、デュランダルとかもあるのは確実だろうしな』

『援軍は?』

『今、呼べる箒とフェイトを呼んだ。アテナにも助力を乞うたけど、星矢たち次第だろう。私達が黄金聖闘士とは言え、三人では心許ないからな』

『よくOKしてくれたわね、沙織さん』

『何せ、飛び入り参加の私や箒達を任ずるほどの人材不足だからな。特に内乱があった後だ。高い忠誠心がある人材は欲しいだろうしな』

智子と話し、聖域からの援軍も頼んだという黒江。黄金聖闘士となった都合、かなりの権限があるのが窺える。同時に、将来の黄金聖闘士である星矢達を鍛えたい城戸沙織の思惑に乗っかったのがわかる。

『この戦で軍は史実の太平洋戦争と同じで、170万くらいの人間を失うだろう。果たして、それまでに神々が手出しをしてくるかどうかだな。神闘士を尖兵にしてきたんじゃ、一個旅団や師団の全滅なんて日常的になるだろうし』

黒江は神闘士が敵になる以上、一瞬で歩兵一個旅団や師団が消滅する事は日常的になると踏んだが、その後、一個師団が一人の敵に全滅させられたという報が伝わると、聖闘士である黒江達が対応する事になり、そこで死闘が展開されることになるのだった。



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