外伝2『太平洋戦争編』
第二十一話


――ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケは情報を収集していた。それは太平洋戦争の情報。太平洋戦争はもはや人間同士の戦いを呈していながら、人間を超えた次元の戦いが起こっていることも悟っていた。

「聖闘士……オリンポス十二神が実在しているのが驚きなのに、それを守護する軍団がいるなんて」

「しかし、黒江中佐がその腕に『エクスカリバー』を宿したなどとは……信じられん。確か……エクスカリバーはブリタリアの王権に纏わる剣だろう?」

「正確に言えば、アーサー王伝説に出てくる剣よ。持ったものに必ず勝利をもたらす剣である事から、『約束された勝利の剣』とも言われてる。ギリシアにその伝説が伝わった故に、アテナが授けた聖剣にその名が冠されたと思うわ」

「そういえば、昨日、電話でペリーヌが憤慨していたな。『なんで、デュランダルがないんですの!?』とか」

「しょうがないわ。デュランダルはマイナーな部類だし、まだジョワユーズのほうが可能性あるわ。『約束された勝利の剣』、か……ウィッチの力で成し得ぬ事を聖闘士は成せる……人は願いを思えば奇跡を起こせる。羨しいわ」

ウィッチとて、歴史の流れや時には抗えない。だが、聖闘士は神に抗い、打ち勝つことを使命とする。『人間は神にだけは勝てない』とは、誰かが言った言葉だが、神に打ち勝った人間達の存在を知っては、ミーナは『未来を阻むものはない』と信じたくなったらしい。


「ハルトマンから手紙が届いたそうだ。取りに行ってくる」

「行ってらっしゃい」

軍隊では電話の私信は難しい(リベリオンは別)ので、連絡は手紙が基本だった。なので、情報に遅れが生じるのは仕方がない事であった。この時代では交換手が取り次ぎを行っていた事もあって、多少の手間がかかる。そこで連邦軍がリアルタイム通信を時々行っているが、あいにく、その日ではなかった。

「ミーナ大佐。海軍がミッド動乱で鹵獲した敵のティルピッツを連邦軍から購入したそうです」

「は?ティルピッツ?もうあるじゃない?」

従卒からの報告に、ミーナは怪訝そうな顔をした。ティルピッツは既にあるのに、なぜ同じものを買うのか、と。

「どうも海軍は、オラーシャに話が持ち込まれたのに腹が立ったようです」

「まるで子供ね」

「子供と同じですよ。それで一隻の新規建造枠を妥協したとか」

「はぁ。全く、ウチの海軍は大洋艦隊の夢よもう一度なんだから」

スカパ・フローで大半が失われたカールスラント帝国海軍艦艇はその再生を目指したものの、ウィッチ運搬艦としての潜水艦整備で、XX1型の建造が中止されるなどの弊害もあり、まともな海軍足り得なかった。だが、ナチ海軍との戦闘の教訓は、一気にカールスラント海軍を潜水艦隊に傾倒させたが、水上艦隊再建を諦めたわけではない。強引にティルピッツを購入し、オラーシャに連邦への注文枠を譲ったのである。

「本国は何を考えているのかしら……」

溜息をつくミーナ。軍備整備計画に唐突感を感じ、肩を落とすのであった。





――南洋島

64Fはこの頃もMS運用部門を保有しており、第3格納庫には、ミッド動乱で使用したZ系が多数、鎮座していた。その中に真新しい機体があった。第二世代型Zプラスと言える、ZプラスP型(Zプロンプト)、新規設計の『Zプルトニウス』である。

「これがZプルトニウス?」

「そうだ。一からの新規設計は久しぶりだったから、冥王星から名を取ったそうだ。フレームを大型化する事で強度を持たせたんだと」

「へえ……。あの時の試作機が完成すると、こうなるのね」

その機体は一見して、従来型とフェイスデザインが異なる事もあり、関連性を見出すのは困難だ。だが、Z系にありがちの『格闘戦が苦手』というネガを潰した機体である事から、好評である。連邦軍は軍備更新の費用が地球圏の復興費に匹敵するほどに膨れ上がっており、保守派からは文句が出ているが、白色彗星帝国戦以後、『恒久的軍縮』という考えがタブー視されるようになったため、軍のストレッチに『警察組織への払い下げ』が活用され、一年戦争後に警察組織が結成した『スペースパトロール』にZプラスA1型、C1型などが払い下げされ始めていた。その旧式化し始めた同機群の更新を兼ねてのマイナーチェンジの名目での予算調達で計画、そうして完成したのがプルトニウスである。デザリウム戦役の際に試作機が完成していたのが、正式に完成したのである。

「うちに回されてきたのは、アムロ少佐達が骨を折ってくれて配備してくれた、量産第一ロットだよ。試作機で搭載してなかったりした『防御フィールド』が標準装備で、バズーカやメガランチャーも物ともしないそうだ」

「すごいわね」

「高出力のジェネレーターを積んだ賜物だよ。出力はV2並だしな」


Zプルトニウスは量産機として破格の性能である。これはC1の後継機にするべく、デルタガンダム(ひいては百式)の開発チームがウイングガンダムを参考にして、生み出したためである。防御力はRX系のガンダムに引けをとらないどころか、むしろ上回る勢いである。

「こんなの、量産の予算降りるの?」

「降りたって。軍縮が結果として、マイナスに作用しちまったから、緩やかな現状維持が好まれるようになった産物だよ」

「軍縮か……なんで定期的に軍縮の話が出てきた途端に戦争なの?」

「軍縮は実のところ、連邦の事例を見ると、有事への対応力や、経済にも悪影響を生じさせるんだ。それが分かったから、ある一定の規模の維持は仕方がないのさ。政治家の野郎共はそれが分かんなかったから『報い』を受けたのさ」

結果として、政治家の思惑と裏腹に、有事への対応力が削がれた事で、本土に甚大な被害を受けた地球連邦では、ハト派の最右翼的な政治家の多くが失脚し、暴徒化した民衆からの凄惨なリンチで惨殺された者も多い。その為、ハト派の中で比較的右派扱いされていた者達は完全平和の風潮では言えなかった、『軍備は必要最低限の維持をする』という主張を表に出すことで命脈を保った。黒江が言及したのは、それだ。

「それと、戦争はやんないほうがいいが、起こったら断固として対応すべきだというのが、連邦の考えだ。戦争は災害みたいに『予測不可能』なんだし」

「確かに」

「さて、テストしに行ってくる。量産機だが、高級機だし、ティターンズへの抑止力になるだろう」

「いってらっしゃい。僚機は圭子に連絡取るわ」

「分かった」

黒江はプルトニウスのテストのため、南洋島上空を一回りする。途中、ZプラスC4型の慣らし運転をしていた圭子と合流し、編隊飛行を行う。

「お、お前はC4型か?」

「資源衛星からの物資輸送を叩いたついでよ。一撃離脱で3隻の輸送船を撃沈したとこ」

「ご苦労さん。ティターンズの野郎どもはMSをどこから補充してるんだ。一昨年に剣がグレートマジンガーで相当に叩いたはずだぞ?」

「アナハイム・エレクトロニクスか、連邦内部の地球至上主義者共じゃない?ネオ・ジオンのせいで、スペースノイドへの憎悪は北米を中心にくすぶってるって聞いてるから」

「スペースノイドの過激派は馬鹿なのか?地球をダメにしたら、弾圧を強めるだけだぞ?」

「地球を故郷と思わない世代が主流になれば、違うんだろうけど、まだ移民三世とかだしね。移民二世や三世はジオンにシンパシー感じた連中が多いし、連邦の怠慢に不満覚えてるのの事実だし」

ジオン公国は滅亡後も地球圏に決定的な影響を残した。それがティターンズの勃興を招いた。ティターンズは『ジオニズムに恐怖した人々が生み出したモノ』であるが、ジャミトフはそれとは別の目的で作ったのであって、アレクセイもそれを理解している。連邦は自らが生み出したティターンズを『反連邦運動』とのレッテルを貼ったものの、ウィッチ世界へ極秘に物資を送って支援するものは後を絶たず、結果として、リベリオンのティターンズ政権を40年以上も行き永らえさせる要因となるのである。

「ティターンズの奴らも、グリプスで負けたって自覚してんのかねえ。ティターンズの残存戦力はネオ・ジオンに迎合したのだって、相当に多いんだぞ?」

「それは聞いてるだろうけど、どうなんだろう」

そんなことを言い合いながら、南洋島の中央部まで来た時だった。

「ん?レーダーに反応。上よ!」

「何だって!?」

二人は慌てて回避する。すると、ごく太いビームが中央の山間部にあった中規模の都市を吹き飛ばす。

「何ぃ!?衛星軌道上からのビーム!?」

「そんな事ができるMSは、ザンスカールのザンネックくらいのはず……!」

二人が上昇し、目撃したのは、ザンスカール系のMSだった。だが、それはザンスカール系でも、ガンダムに近い印象の機体だった。

「あれは……まさか……ザンスカールの最強MSで、ガンダムタイプにする予定があった『ザンスパイン』!?ティターンズの奴らに横流しされてたのか!?」

都市を破壊したのは、本来、ティターンズとは相容れない国が造ったMSだった。だが、ザンスカールが自然消滅する過程で、過激派がティターンズ残党へ後を託す時に、ガンダムタイプとしてのフェイスラインへ改造した上で提供したのか、フェイスラインはガンダムタイプのそれになっている。

「来るぞ!」

光の翼を煌めさせ、ザンスパインが動きを見せる。ガンダムタイプへの改造を受け、ティターンズブルーに彩られた機体色もあり、原型とは全く違う印象を受ける。二人は咄嗟にMS形態となるが、ミノフスキードライブの高出力に舌打ちされた疾さに苦戦する。

「うぉ、疾いッ!」

ザンスパインが繰り出すサーベルの攻撃に反応するが、ミノフスキードライブ機の高速は、新型機であるプルトニウスにとっても脅威であった。

「プルトニウス乗ってて良かったぜ、他のZ系は殴り合いに不向きだからな……。だが、向こうはミノフスキードライブ機だ。さて、どうするか」

ミノフスキードライブ機は、従来型の核融合炉機に比して、圧倒的な加速力と機動性を誇る。黄金聖闘士となっている都合上、その動きを追えるものの、どう抑えるかが問題だ。(黄金聖闘士はニュータイプや強化人間よりも探知力が上である)

「そうだ、コイツには試作機に乗せられていない、新しいシステムのアンチファンネルシステムがあるんだ。起動してみよう!」

黒江は急ぎOSで機体機能を検索し、そのシステムを起動させる。すると、敵のミノフスキードライブの出力が下がり、動きが鈍くなる。更に肩部のティンクル・ビットが制御できなくなったか、射出されようとしていたのが止まる。

「おお、さすがアンチファンネルシステム!これならC4でもどーにかできそうだぞ、ヒガシ!」

「おっしゃ!」

――連邦軍が編み出した対オールレンジ攻撃対策の究極『アンチファンネルシステム』である。これは長年、オールレンジ攻撃に悩んできた連邦軍が『ニュータイプ用武器をそんなに用意できないから、その働きを阻害するシステム造っちゃえ!』という発想で生み出した。その効果は絶大で、クイン・マンサやキュベレイ級のサイコミュシステム前提の機をほぼ無力化するほどである。これはプルトニウスの試作機には積まれていないが、量産機には追加されている。元はジオン残党のものであったシステムだが、その残党が投降した際に吸収し、連邦軍がリバースエンジニアリングで構築したのだ。ミノフスキー粒子によるサイコミュやIフィールドを阻害するため、ミノフスキードライブにも効果があるのだ。


――アンチファンネルシステムによって、頼りの機動性を封じられたザンスパインであるが、熟練者が搭乗しているのか、二機のZを相手にしても、一歩も引かない戦闘を披露する。

「危ねっ!」

サーベルの横薙ぎをどうにか避けるプルトニウス。格闘戦に持ち込んだはいいが、サーベルでの格闘戦はMSの性能だけでなく、パイロットの経験がモノを言うため、ザンスパインは圭子と黒江をまとめて相手にしても、互角の攻防を展開する。

「ヒガシ、どけ!あれをやってみる!ビームサーベル越しだけどな!」

「できるの、黒江ちゃん!?」

「何も、手刀だけで発動させられる力じゃないだろうしな!」

プルトニウスのビームサーベルが緑色の輝きを発し、それが実体剣の形を取る。左腕に持つビームサーベルから起こしているため、圭子は『エクスカリバー』と悟った。

『何者も斬り裂き、勝利を約定せし聖剣(しょうりをやくじょうせしひじりつるぎ)!!エクスカリバー―――ッ!!』

黄金聖闘士の力を纏わせたビームサーベルを媒介にして、エクスカリバーを放つ黒江。暴風と共に放つエクスカリバーは、ザンスパインの片腕を見事に切り裂いてみせ、各部を破壊し、敵を撤退に追い込む。

「どーだ!伊達に山羊座の黄金聖闘士の座についてるんじゃねーぜ!」

「でも、エクスカリバーを打てるんなら、エアも使えない?」

「エアは無理だろう。次元も斬り裂くんだ、MS越しじゃ、たぶん機体のほうが音を上げるな。よほど頑丈なフレームがないと。本当、プルトニウスで良かったよ。ZZじゃ、腕がへし折れてる所さ」

エクスカリバーの発動には、フレームが頑丈である事が条件とし、ZZにはいささか重荷であると分析する。Z系では、変形との兼ね合いもあるため、特別に頑丈であるプルトニウスでなければ、フレームがへし折れると推測した。

「しかし、アンチファンネルシステム。意外に有効だぞ。後でアナハイムにレポートを出すわ」

「PCが武子の執務室にあったと思うから、それを拝借したら?」

言い合いながら、高度を7000まで落とすと、芳佳がいた。

『あれ?宮藤じゃないか。訓練か?』

「はい。ちょうど震電改二のエンジンを工場でオーバーホールしてもらったんで、そのついでに飛んでるんです」

「んじゃ帰りは一緒だな。こっちはちょうど敵を撃退したんだが、山間部がやられちまって、かなり犠牲者が出てる。今、ヒガシのやつがフジに伝えてるとこだよ」

「そうなんですか……。被害は?」

『衛星軌道上からのビームの一撃で、都市区間の殆どを飲み込んだ。直撃した箇所の生存者は絶望的かもしれない。救援隊を送ってはみるけど……』


その次の日、その中規模都市は、中心部が消滅しただけで、外縁部は無傷である事が判明。64Fを安堵させた。ビームで地面がクレーター化した中心部はその後、『慰霊公園』として整備される事になる。芳佳に取っては朗報であった。


「そうですか、良かった……」

「かなり犠牲者は出たが、外縁部は無事で良かったよ。親父さんが街へ慰問に行くそうだ」

「でも、衛星軌道上からMSで狙えるんですか?」

「未来世界でも、MSでつい最近に可能になったばかりの行為だ。よほどの高性能機じゃないと狙えない。連邦からの通達も来たから、後で読んでおけよ」

「はいっ。でもウチの部隊に、PCってあるんですか?」

「フジの執務室に置いてある。連邦からの連絡事項やアナハイムへの運用レポートを出すのに必要だから、私とシャーリーで組んだよ」

「へぇ。あれ?そういえば坂本さんはどうしたんですか?こっちに来てるって聞いるんですけど?」

「あいつは今、海軍の空母の指揮管制官としての研修中だよ。当分はこっちに来れないだろう」

「大変ですねぇ、坂本さん」

「あいつは海軍に残ったからな。オマケに今はジェットや電探前提の時代だ。あいつが若いころに習った常識は全部は通用しないから、今頃、教科書片手に悪戦苦闘してるんじゃね?」

と、最後は冗談半分で話す。しかしながら、坂本には努力家の側面があるため、あながち間違ってもいない。坂本が空軍への誘いを断り、敢えて海軍に残った理由の一つは『北郷への恩返し』なのだ。義理堅い性格なので、海軍からの移籍は『恩師への裏切り』と思ったのだろう。皮肉にも、坂本はその実直な性格が災いし、海軍上層部からも『扱いにくい奴』とされてしまい、この戦争の終結後はあまり出世はしなくなるが、元501所属という泊がついているため、一般ウィッチと比べれば華々しい経歴を辿る。最終的には空母の艦長職に落ち着き、図らずも実戦部隊に近い立場に身を置き続ける事になる。



「この先、どうなっちゃうんでしょうか、黒江さん」

「さーな。だけど、どんな事にあっても、めげずに戦うしかねーさ。それがアテナの導きだと私は思う。その導きのままに生き、戦うだけさ。おっと、フジは今いないな?PCを拝借して、レポート仕上げてくる」

――この都市への狙撃は扶桑軍に多大な衝撃を与え、64Fのみが有するMS運用部門を、他部隊にも設立させる事が緊急で決議され、アナハイム・エレクトロニクスはZ系MSの商機とし、連邦軍へのデモンストレーションも兼ねて、Zプラスの次世代型プラン『Ζプラス戦爆連合』を売り込み、64F、50F、47Fからの発注を得る事に成功する。同時に、Zプルトニウスの量産枠がデザリウム戦役終結間もない2203年度の予算内に、120機分が確保された。アナハイム・エレクトロニクスは大口注文の確保に成功し、ウハウハ。最近はサナリィに連邦軍の試作機の注文を奪われていたため、扶桑軍の需要が生じた事で、兵器部門の財政再建に成功したと言えた。また、財政的都合で、戦爆連合プランを様子見していた連邦軍も2203年度に思い切って採用し、それらは既存機に繋がる形式番号を割り振られ、それらの更新・あるいは後継機という形で、各部隊へ配備されていくのであった。



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