外伝2『太平洋戦争編』
第二十六話


――さて、太平洋戦争が激烈になってきた1947年の初夏。ウィッチ達は急速に近代化した戦闘システムに組み込まれていった。そのため、苦労している者がいた。当時には空母機動部隊の指揮管制の道に進んだ坂本であった。連邦軍のおかげで、『あがり後』でも出撃する機会には恵まれたものの、本職が変わったため、一からの勉強のし直しであった。

「う〜む」

「あ、美緒ちゃんじゃないの」

「あ―――、あなたはあの時の!えーと……」

「そっか、10年ぶりくらいだものね。瑞鶴よ。今となっちゃ実艦も竣工してるけど」

「あの時はお世話になりました。お変りありませんねぇ。流石に船の化身と言おうか……」

当時、坂本は22歳。ウィッチを引退し、空母機動部隊の指揮管制官に任ぜられたのだが、戦闘システムの急激な近代化により、戸惑う事が多かった。それを聞いた瑞鶴は……。

「おっし。小沢っちに連絡取ってと…。あ?小沢っち?私。実はさ〜」

携帯電話を使い、小沢治三郎に連絡を取る瑞鶴。瑞鶴は小沢治三郎が史実において、空母機動部隊を率いた際の最後の旗艦でもあった都合、小沢の秘書官であり、彼が連合艦隊司令長官を辞した後も彼に尽くしていたのだ。(小沢が未来世界における過去の彼自身よりも振る舞いが穏やかになった背景には、『1945年8月15日』以後も軍隊が存続したり、瑞鶴の献身があった)


「よし……っと。さて、行くわよ〜」

「へ?ど、どこへ?」

「決まってるじゃないの。ウチが連邦軍から大枚はたいて買った超大型空母よ。こういうジェット戦闘機時代を見越して買ったんだから」

「ちょっとデカすぎじゃないですか?あれ」

「未来世界のマクロス級、知らないの?あれはキロ単位だし、ヱルトリウムなんて、70キロよ?」

「……」

呆気にとられ、言葉も無い坂本だが、瑞鶴に引っ張られ、連邦軍から購入され、この時期には正式に第一機動艦隊の旗艦になった『龍鶴』に赴いた。





――こちらは艦娘の戦艦大和。彼女は予てからの黒江の要請で、百鬼帝国のブライ大帝が造り上げた、デザリウム戦役で猛威を振るった『ウザーラ』の残骸を回収し、現在の技術で大幅に改造したゲッターマシーンの事を調べていた。クローン技術の応用で蘇った、恐竜帝国の『帝王ゴール』、次元世界征服の野心を持ったゲッター線研究者『プロフェッサー・ランドウ』がミケーネ闇の帝王、ブライ大帝と手を組んだという凶報が舞い込んだのは、デザリウム戦役終結直後のことである。

(この男……プロフェッサーランドウ。次元世界征服の野心を持って、ウザーラを失った百鬼帝国に取り入り、今や幹部として振舞っている……。ブライ大帝は知っていて泳がせているのだろう。竜馬さんに恨みがあるから、奴は)

大和は、ゲッターロボGが進化を遂げた『真ゲッターロボG』が百鬼帝国の攻勢を退けた後、プロフェッサーランドウの野心に気づいた神隼人の要請で、彼の計画を破綻させるため、彼と共に、ランドウの秘密工場に潜入し、壊滅させた事がある。その際に、持ちあわせた艤装を喪失してしまったため、現在は地球連邦軍が新造した艤装に変わっていて、主砲・副砲共に全面的に51cm連装、48cm三連装ショックカノンに強化され、対空砲もパルスレーザー砲にパワーアップしている。それに伴い、彼女の宇宙戦艦ヤマトとしてのパーソナリティが強まり、足が早くなった。大和がそこまでされるほど、ランドウ軍は強大だったのだ。だが、へこたれないランドウは百鬼帝国に取り入り、幹部にまで上りつめたのだ。

(アイツらは私を追い詰めた……みんなに迷惑をかけないように、もっと強くならないと……!)

大和は追い詰められた事をきっかけとして、宇宙戦艦ヤマトとしてのパーソナリティ分が増大した。そのためか、以前よりも勇猛果敢と言える振る舞いを見せることが多くなり、長門が『それは私の台詞だぁ〜!」と大いに嘆く発言をしたとか。また、気質の変化は地味に表れており、艦娘の飲み会の帰り、長門の邸宅で(山本五十六が与えた)インディアンポーカーをした時のこと。

――長門の邸宅

(な、なんだ……大和の奴のこの自信は……!?)

長門は大いに狼狽えていた。大和との一騎打ちとなったのだが、大和は以前ならば、自分との勝負に乗ってこなかったのに、今回は受けて立ったのだ。しかも大和のカードは弱いカードなのだ。

(お、お、おい陸奥!冷や汗タラタラでこっちを見ないでくれ〜!川内もそんな顔するなぁ〜!)

長門は大いに冷や汗をかき、カードを持つ手が震えてきていた。動揺していることに気がついたのだ。

(ば、ば、バカな……!?この長門が、この長門が……動揺しているというのか!?)

「どうしたんですか?長門さん。まさか私とやるのが怖いんですか?」

「そ、そんな訳……あ、あ、あるか!私はビック7の長門だぞ!20年も連合艦隊に君臨していたのだぞ!怖くなど……」

「過ぎ去った栄光に縋るのは、見苦しいですよ長門さん」

大和はこれまでにない態度を見せる。不敵な笑みを見せたのだ。しかも長門を言葉巧みに煽ってみせる。

「やるんだな、大和!この私と!」

「ええ!今の海軍最強はこの私です!さあ長門さん。いざ勝負!!いざ、いざ、いざ!!」

大和は闘志をむき出しにし、ズイッと迫る。その迫力に気圧された長門は勝負を降りる。だが、自分のカードが最強に近かった事が分かり……。絶望し、拗ねた。

「ふーんだ。どーせ私は20年選手のロートル7ですよーだ〜……」

長門は拗ねていた。半分酔っ払っているせいか、普段の凛々しい声ではなく、川内と瓜二つと言っていい声だった。そのため、川内も『あ〜ん!私に激似の声で、そんな事言わないでよ〜!』と涙目だ。

「今回は勝たせてもらいましたよ、長門さん」

「くっそ〜〜!覚えてろ〜!つ、次こそは勝ってやるからな〜!」

長門が先程から川内の声色で言うため、川内は川内でしょげている。長門にも子供っぽい面があるのだ。

「あらあら、長門ったら。風邪引くわよ?」

長門は疲れたか、酔いが回ったか、寝てしまった。

「みてろぉ……今度こそぉ……」

譫言をいいつつ、ちょっぴり泣いている。そこに陸奥が上着をかぶせてやる。どっちが姉だかわからない。大和はちょっぴり申し訳ななさそうだったが、長門を打ち負かした事で、瑞鶴や矢矧らから歓声が漏れている。大和はそんな長門に声をかける。自前のアイスを用意して。

「長門さん、長門さん。ここにアイスが有りますよ」

「何、アイスだと!?どこだどこ!」

ガバッと飛び起き、大和が置いたアイスの存在に気づく。

「一緒に食べましょう、長門さん」

「う、うん〜!」

「やっぱりアイスは最高だよね〜」

今度は島風や那珂同様の高めの声で返事する長門。アイスを食べて即刻、ご機嫌になるあたり、甘党なのが分かる。


――長門はこの一件以後、連合艦隊旗艦という厳格なイメージで見ていた後輩らから、『人となりが分かればとっつきやすい人』という評をもらい、それを聞いた山本五十六が大笑したとの事。大和はここで、性格が徐々に変化してきているのを自覚し、以後はそれを表に出してゆく。そのため、以前は波動砲の使用の敷居が高かったのが、ランドウ軍との死闘を経た後は波動砲のモード切り替えの拡散・収束・拡大・プラズマ・トランジッションなどを任意で行え、使用する際の隙もグンと少なくなった。それは大和の必死の想いが、宇宙戦艦ヤマトとしての自らの根幹に目覚めさせたからだ。また、波動砲には更なる力が隠されているが、それを大和はまだ知らない。






――エーリカ・ハルトマンは、意外な事にこの頃には剣術を完全にマスターしていた。その剣術が『飛天御剣流』だったので、その詳細を知るシャーリーは驚いた。

「どっひゃ〜。お、お前。そんなの覚えてどーすんだ……?」

「万が一のためさ。ミーナはガランドの腰巾着だって、反対派の憤激を買ってるんだ。暗殺を止めるためさ」

日本刀で薪を居合い斬りしながら言うハルトマン。ハルトマンは意外にも、軍内の反ガランド派を警戒しており、新501にいる間に黒江に相談したのだ。そこからスカイライダー経由で、『マルセイユが戸隠流忍法と飛天御剣流を覚えている』という報を耳にし、ハルトマンのほうが始めたのが遅いのに関わらず、この時点ではなんと、飛天御剣流と戸隠流忍法の双方のほぼ全ての技と技術を習得していた。

「私は中佐たちも到達してない領域に達してるんだ、実は。ホレっ!」

ハルトマンは薪を放り投げ、刀を構え、突進する。そこからある技を見せた。

「飛天御剣流『九頭龍閃』!!」

それは一瞬の事だった。薪は吹き飛ぶと共にバラバラとなる。突進・乱撃の双方の属性を持つ『九頭龍閃』だ。現時点で独学の飛天御剣流でここまでの領域に至った者はハルトマンのみで、同門の黒江・智子・フェイト・箒・マルセイユはこの領域には達していない。

「お前、医者志望だろ?殺人剣なんて身につけてどうするんだよ。親父さんが聞いたら腰抜かすぞ?」

「確かに、私はお父さまの稼業と相反する『殺す術』を極めちゃってる。でも、こんな考え方もあるんじゃない?殺すことを極める事で、人を生かす術があるって。私はそれを知りたいって思ってるんだ」

「なるほどな、お前にしては真面目な理由だなっと。坂本少佐が知ったら腰抜かすと想うぜ?あの人、北郷大佐のもとで講道館剣術を仕込まれて、最近にやっと、師範代になったとか言ってたし」

「少佐のはスポーツ系に近い剣術だからなぁ。土俵が違うよ、土俵が。こっちは実戦本位の殺人剣、向こうは武道。ルールの上でやりゃ坂本少佐が有利だと思うよ」

ものの例えが日本人じみてきたハルトマン。郷に入れば郷に従えの要領で、南洋島に邸宅を構えた事、剣鉄也や兜甲児と親しい事を考えれば当然と言えた。

「お前も日本に毒されてきたなぁ。ま、私もだけど」

「日本は宗教の縛りが無きに等しいから、宗教の面を理解すりゃ『住めば都』さ。漢字は難しいけど」

そう。二人は漢字を苦労しつつも覚えていた。のび太の世界に行くために必須のスキルだからだ。

「トゥルーデはどうしてるって?」

「なんか昨日、ビスマルクを助けたそうな。艦娘のほうの。それでリンデマン提督が血の涙流したとか、流さないとか」

「あのおっさん、軍艦は男って言ってたな。そいや。ま、私の知ったこっちゃないけど」

と、軍艦は男と持論を展開していた自国海軍の提督にそれほど関心がないハルトマン。ハルトマンは自宅の風呂を作りに行く……。




――こちらはミーナ。ガランドの呼び出しであった。

「閣下、なんでしょう」

「うむ。先日、ビスマルクが現れたのは知っているな?」

「救出したのは我々ですので」

「それだが、面白いことになった。入り給え」

「失礼致します」

ガランドの執務室に一人の艦娘が入ってくる。それは……。

「航空母艦、Graf Zeppelinであります。本日を以て、カールスラント海軍に着任いたしました」

「ご苦労。楽にし給え」

「ハッ」

グラーフ・ツェッペリンだった。この世界においては、とうに戦没しているが、艦娘として蘇ったのだ。

「ぐ、グラーフ・ツェッペリン!?まさか撤退戦の際に沈んだあの……?」

「いかにも。まぁ、大抵の世界では、我が国の技術で初めて造る空母だからドイツ艦、この世界では、出自はアマギとアカギの姉妹艦になりますが。」

グラーフ・ツェッペリンとペーター・シュトラッサーは、ウィッチ世界では『天城型空母』の姉妹艦の船体をカールスラント軍が肉付けした艦だ。もっとも、その場合でも載せる艦載機もウィッチもなく、輸送艦扱いで航行中に撃沈されたが。グラーフ・ツェッペリンは双方のパーソナリティが反映されたか、艤装の所々が日本艦の意匠である。

「彼女を海軍にすんなり渡したいところだが、ウチの空戦ウィッチ閥の連中が黙ってはいまい。特にグレーテ・M・ゴロプ少佐がな」

「しかし、グレーテ少佐は元々、オストマルクでは?」

「向こう側が泣きついてきて、カールスラントに合流したんだ。しかも先日だ」

「なぜそんな事を……?」

「自国の復興を自国だけで賄えないからだろう。あそこは元々、国力が弱っていたからな……。それに、カールスラント系住人の保護もあそこには荷が重い。そこで、連合帝国となる方法で決着したわけだ。未来世界のユーゴスラビアのように、バラバラとなった挙句の果ての血みどろの争いをする訳にもいかんだろうという結論を、皇帝陛下がなされたのだ」

――皮肉にも、カールスラント(ドイツ)とオストマルク(オーストリア=ハンガリー)は連合帝国として生き延びる道を選び、ここにカールスラントは復興の暁には旧オストマルクの領域を含めた『大カールスラント主義』の具現となった。以後のカールスラントは『カールスラント=オストマルク連合帝国』とも、『帝政カールスラント連合国』とも呼称される連合国家体制に移行し、以後はそれを指すようになる。これはカールスラント側がオストマルク側の立場を尊重した末の決断で、1947年頭から実行に移され、先日に正式に連合国としてスタートしたのだ。

「なるほど。そのような理由ですね?閣下が私を呼ばれたのは」

「そういうことだ。双方の海軍閥がうるさいから、グラーフ・ツェッペリンは当面の間、空軍で預かることにした」

「いいんですか!?それ!?」

「派閥抗争に振り回される位なら、こちらで保護したほうが何倍もマシだ。私も本当に危なかったんだぞ。椅子に爆弾は仕掛けられてた、ケーキ食べてたら、ケーキが狙撃されたわ、自動車爆弾やら自爆テロされるわ……」

うんざりした様子のガランド。命を短期間に狙われまくり、命からがら、と言った疲れを見せた。

「ウチの『娘や孫』がいなけりゃ、とっくのとうにお陀仏になってた。ケーキ食ってたら目の前に着弾したんだぞ?顔色変わったぞ、全く」

ガランドが言う娘と孫とは、クイント・ナカジマ親子の事である。クイントがガランドの義理の娘となったため、自動的にスバルとギンガはガランドの義理の孫になったのである。そのため、時たま会っているのだ。

「大変でしたね」

「娘達に命じて、狙撃者はボコボコにしてやったが、どうにも腹の虫が収まらん。貴官も気をつけろ。私の腰巾着と周囲は見ているからな」

「分かっています」

ミーナはガランドに恩義はあるが、必ずしもガランドに盲従というわけでもない関係であり、『大まかに言えばガランド閥ではあるが、独自行動を許されている』関係である。だが、周囲はガランドの腰巾着と思っており、ミーナも暗殺対象に揚げられているかも知れないのだ。特に、501に世界トップ20に挙げられる者らを集結させた事は、ミーナの知らないところで恨みを買っているのだ。無論これは、ガランドよりも更に上の者達の所業だが、ガランドの人事裁量権が大きい事から、そこからミーナに繋げる事が考えられ、ガランドは暗殺の危険を警告した。と、次の瞬間。

「おわっ!」

「きゃ!?」

「わっ!?」

窓ガラスが割れ、弾丸がガランドの机に命中する。

「クソ、またか!いい加減にしろ!!」

うんざりした様子のガランド。ここでグラーフ・ツェッペリンが動く。

「攻撃隊、出撃!……Vorwarts!」

グラーフ・ツェッペリンはタロットカードを用いて、艦載機を出現させ、使役した。空母なので当然の能力だが、土地柄相応の召喚方法であった。グラーフ・ツェッペリンの艦載機はこれまた宇宙艦がいるため、コスモタイガーなどだ。コスモタイガーらは撤収中の狙撃者を空爆し……轟音と爆発が起こる。

「こんなものか。Na, gut(まぁいいだろう)」

艦載機で吹き飛ばすという、派手な方法で暗殺者を吹き飛ばすグラーフ・ツェッペリン。ミーナは呆然としてしまい、口も聞けない。しかしガランドはご満悦で、『ハッハー、見たか野郎共め!」とガッツポーズだ。ガランドがグラーフ・ツェッペリンを抱えた事は海軍閥、空戦ウィッチ閥から反発を受けるが、ガランドは持ち前の負けん気で黙らしていくのだった。



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