外伝2『太平洋戦争編』
第二十七話


――デザリウム戦役が終戦して間もない時期、ネオ・ジオン軍は百鬼帝国との激闘で、スーパーロボット軍団が傷ついたのを見計らって、遂に本格的に決起、デザリウム戦役で指揮系統がズタズタな地球連邦軍は、ロンド・ベル以外に動ける部隊が殆どおらず、事実上の孤軍奮闘を強いられていた。

「沈めぇ――ッ!」

『ソロモンの悪夢』アナベル・ガトー。彼はネオ・ジオン軍においては貴重な『旧軍のトップエース』である。専用カラーに彩られたギラ・ドーガで連邦軍艦艇を一瞬で屠る。階級はデラーズ・フリート時代から変わらず、少佐のままだが(さらに言えば、連邦軍の公式記録では大尉のまま)、その戦技は衰えておらず、ロンド・ベル以外の部隊では、彼の足止めすら出来ないという有様だった。

「少佐、この当たりの連邦軍は沈黙しました」

「なんと他愛のない。鎧袖一触とはこの事か」

「我々が何故、この世界の偵察に派遣されたのですか?」

「シャア大佐は、来るべき『地球降下作戦』に備え、資源の確保に血道を上げているが、如何せん、我々の世界の地球は鉱物資源も大昔より少なくなり、多くを移民星からの輸入に頼っている。その為、地球降下作戦は『連邦を屈服させた』シンボルとしての役目しかない。だが、この世界には、先進国が取り尽くす前の石油資源、鉱物資源がある。ティターンズがある程度の自給自足ができているのも、これが大きいのだ」

ネオ・ジオン軍はデザリウムとの戦争で、連邦軍の指揮系統がズタズタになったタイミングを待って、蜂起した。第三次ネオ・ジオン戦争とも言うべきそれは、ティターンズ残党がネオ・ジオンに与した事もあり、一年戦争以来の大戦になろうとしていた。

「アフリカ大陸とヨーロッパの一部をティターンズは我々に提供した。ロンド・ベルが出向かん限り、一年戦争からの古参が多い我々とは互角に渡り合えんので、そこは安全と言える」

ガトーは自らの率いる部隊のパイロット達はを古参を中心に選んでいた。腹心のオットー・カリウス以下、殆どが公国軍時代からの古参兵だ。

「さて、どう出るか、エイパー・シナプスは」

敵の総指揮官がデラーズ紛争で煮え湯を飲ませられたエイパー・シナプスであるのを知っているガトーは自分達の登場が連邦軍にどのような影響を与えるかを探っていた。




―― 東京 連邦軍ウィッチ世界駐留軍 司令部

この時期、地球連邦軍は扶桑皇国を間接統治中であったため、司令部は艦艇から、東京の第一生命館に移っていた。これは史実での連合軍総司令官総司令部が置かれたのと同じ場所、同じ建物であるため、扶桑皇国側の一部高官から、『我々への当て付けか』、『我々は属国か?』との批判もあった。総司令官がダグラス・マッカーサーか、エイパー・シナプスかという違いはあれど、扶桑皇国は今や、吉田茂という窓口を通して、事実上の地球連邦の支配に置かれていからだ。

「まさか、史実でのダグラス・マッカーサー元帥の役目を、私が演ずる事になろうとはな」

エイパー・シナプスは新司令部に苦笑する。場所、執務室の位置が史実のダグラス・マッカーサー元帥が史実で執務を行った場所とそっくりそのまま同じであるからだ。

「違うのは、我々が強権を振るわないことですがね。吉田茂公が従順で助かりましたよ」

「彼は硬直していたこの国を改革したかった一方で、日本民族が伝統を重んじる事も分かっていた。それ故、華族を廃止しなかったのだよ。廃止すれば皇族だけが維持されるのに反発する世論が生じる。それは尊皇家である彼には許せんことだ。」

――扶桑皇国の内部には、憲法改正を期に、急進的革新派からは『未来世界と同じように、華族を廃止すべきだ』という案も出たが、22世紀には『皇室維持のために、やむなく一部が復権せざるを得なかった』事、『華族廃止で、皇族の維持に関して色々な歪みが生じた』事が主流派から問題視された事、『皇族の政治的特権を内閣総理大臣に移管し、完全な立憲君主制になればいい』、軍部からも『五大国の一角である我々がノーブルウィッチーズの主要構成を担わなくてどうする!』と大反発が出た事で、検討された華族の廃止が撤回され、1946年以後も華族は存続した。これは扶桑が、史実で米被れになっていった戦後日本と異なる道を選んだ証でもあった。

「扶桑は大日本帝国ではない。それに我々はアメリカ軍のように、自分達の文化を押し付けているわけでもない。アメリカは自分達の文化が世界最高と信じ、それを押し付けたがため、中東諸国に波乱を残し、破滅した。我々はその轍を踏むわけにはいかん」

「分かっています」

23世紀には、アメリカ合衆国が21世紀以後、急激に、覇権に綻びを生じていった事を『自国文化の押し付けが各国の反発を招いたから』という見方が広まっていた。その教訓から、連邦軍は自分たちを信頼する者を育て上げた上での間接統治に血道を上げ、天皇陛下以下、吉田茂などの有力者を自分達のシンパに仕立てあげる事に成功し、彼らの手綱を引くことで間接統治を行っていた。

「閣下!」

「どうしたのかね、血相を変えて」

「ティターンズの暗号通信を解読した所、ネオ・ジオンと盟約を交わした模様です」

「やはり、な」

「やはり、とは?」

「彼ら単独で、この世界をカバーするのは不可能だ。そこで、本来は討つべき敵であったネオ・ジオン軍と手を結び、兵力の差を埋めようとしたのだろう。どの道、数十年もすれば、ティターンズの思想は消え去っていく定めだからな。旧ソ連のように」

そう。ティターンズはどの道、幹部級が死した後は滅ぶ運命である。だが、自分達を利用するだけ利用した地球連邦への怒りが、この世界のリベリオンの分裂を起こしたと言って良い。副官にその言葉をかけたシナプスは、予想以上に自分たちが出しゃばる必要があると悟った。

「空軍のジークフリートを増派するように要請を出してくれたまえ。ネオ・ジオンからクィン・マンサでももらったら、事だ」

「ハッ」

――ジークフリート。それはZZガンダムの派生に位置する城塞攻略用重MSである。サイコガンダムよりも通常MSに近い運用を可能にし、スーパーロボットを除けば最大戦力に位置づけられる。航空戦能力を持つメタルアーマー『ドラグーン』の製造ラインの回復がまだ50%以下である(白色彗星帝国戦で急遽、再活性化したラインのフル稼働でもその数値)ため、連邦軍は依然として、MSを戦力の中心にしていたが、一部の精鋭と一般部隊の練度差は大きかった。その為、ネオ・ジオンの熟練者に手もなくひねられる事例が後を絶たなかった。その為に、ジークフリートのような城塞攻略用MSが重宝されていた。

「これで我が軍は三つの敵と対峙せねばならなくなったか」

そう。幸いなことに、ジオンは水上兵力は持たず、海軍は水中戦力に限られる。しかし、今や連邦軍の水中型MSで対抗可能なのは、水中型ガンダム(ガンダイバー)や、本式のガンダムタイプしかなく、その辺では不安を感じさせた。

「連合軍に通達せよ。アフリカ大陸はジオンに譲渡されたと」

「ハッ」

――太平洋戦争は、ジオンの出現で混乱の様相を呈する。連合軍総司令部は、地球連邦軍無くば、アフリカ要衝の奪還すら不可能であり、しかもジオン軍指折りのエースパイロット『ソロモンの悪夢』アナベル・ガトーが派遣されているとあれば、連合軍の戦力はどんな物量をも跳ね返すのが予想された。

「ソロモンの悪夢か……」

「ああ。たった一機で艦隊まるごとが全滅したという逸話を持つ化物だろう?あれでは戦略が戦術で覆されてしまうよ」

連合軍総司令部は、ガトーが一年戦争で見せた戦闘力を目の当たりにし、異常に恐れた。連邦軍をして、悪夢と恐れさせるエースパイロット。戦略を戦術で覆す事が一年戦争はちょくちょく起こった。アムロ・レイとファーストガンダムなどがその最たる例だ。

「どうするのだ?」

「こればかりは連邦に頼るしかあるまい。我々は対水中のノウハウが無きに等しいのだ。ましてや、連邦軍製兵器でなければ、MSの装甲は抜けんからな」

「それに、裏切り者のウィッチ共の事もある。我々はそちらにかかるしかないな」

彼らはジオン軍への対処は半ば諦めた形であるため、ティターンズ配下となった者らへの対処を議題にした。

「カールスラント空軍のグレーテ・M・ゴロプ少佐が一番の大物か?」

「ああ。彼女は皇帝信奉者であったが、ナチズムに傾倒している事が明らかになったので、皇帝が危険視し、軍籍剥奪を行った。だがそれが却って、ナチズムへの傾倒を強めたようだ」

連合軍総司令部はカールスラント空軍に所属していた、グレーテ・M・ゴロプ少佐を内通者リストの筆頭にし、以前よりマークしていた。しかしながら、彼女は皇帝信奉者であり、ゲルマン民族至上主義と取れる内容の論文を発表するなど、ナチズムに似た傾向があり、連邦軍が追放を考えていたが、母国のオストマルク側が『優秀な成績を兵学校で残し、実戦でも実績がある』と追放を拒んだため、連邦軍も追求を避けてきたが、オストマルクがカールスラントと連合を組んだ事、仮面ライダーX=神敬介から『バダンと内通している』と調査結果を報告した事で、彼女から軍籍剥奪を行おうとしたのだが、それより早く彼女は行動を起こし、バダンの一員となったのだ。これにより、彼女を擁護していた、カールスラントのオストマルク空軍出身の高官は失脚し、また、彼女を見込んでいた兵学校の教官はピストル自殺を遂げた。これにより、彼女の家族は売国奴の烙印を押され、夜逃げのようにブリタニアへ亡命。オストマルクには当時に生存していたすべての親族が足を踏み入れることは無く、彼女の妹はブリタニア空軍に入隊し、辛酸を舐める事になるのだった。そんな彼女の事は、犬房の口から黒江へ伝えられた。

――1947年某日


―太平洋戦争の最中、黒江は自身のトラウマの主因になったウィッチ『犬房由乃』との再会を果たした。彼女は悪運が強く、ティターンズの捕虜となった後、川内型軽巡洋艦の一番艦の艦娘『川内』に捕虜収容所から救出されたのだが、そこまでにかなりの期間、追手を振り切るために戦闘を繰り返していた事などの要因で、本土への帰還が遅れに遅れたのだった。その最中、仮面ライダー一号=本郷猛の救援を受け、ティターンズの追手を撃破し、彼に連れられて来たのだ。

「い、犬房〜〜!!無事だったのか〜!」

感涙の黒江。ここ数年は犬房の事が心にずっと引っかかっていたため、トラウマが和らいだのだった。そんな黒江だが、それからロンド・ベルがネオ・ジオン軍と三度の激闘を繰り広げ、ウィッチ世界にも余波が広がっていたのを知らされた。

「な…………んだとぉぉぉぉぉっ!あの野郎ぉぉぉぉ!!」

思わず激昂し、怒声になる黒江。信頼していた上官が事もあろうに、自分が慕う仮面ライダーらの不倶戴天の敵に内通し、自分らを『仲間』と見ていなかった事を知ったため、、思わず部屋の壁を盛大に破壊してしまう。

「そうかそうか、私達は『駒』だったわけか?あの野郎が皇帝に気に入られるための?冗談じゃねぇえええええ!!」

黒江は堪忍袋の尾が完全に切れたため、いつになく激情を見せる。

「あの野郎は、ハラワタをぶちまけろってくらいにズタズタにしてやる!!私達をコケにしやがって!!見てろ!!目を繰り抜いて………」

完全に頭に血が登っているため、『ハラワタをぶちまけろ』『ズタズタにしてやる』などの過激な台詞連発である。21世紀以降の漫画であれば伏せ字確実な程に過激であるあたり、黒江の怒りが怒髪天をついているのが分かる。

「あの、教官?」

「ハァ、ハァ……。悪い、頭に血が登っちまった」

なんとか頭をクールダウンさせるが、周りの被害は甚大で、執務室の壁に複数の大穴が開いている。犬房がドン引きするほどの激昂ぶりであった。

「教官は少佐を信頼していたんですか?」

「ああ。野郎の『仲間を思う』気持ちは本物だったからな……。だが、扶桑人である私達を『駒』としてしか見てなかったのなら、話は別だ」

黒江は怒りのボルテージが依然としてMAXなためか、声色に怒気がこもっている。それを見かねたのか、犬房を連れてきた本郷猛が諌める。

「落ち着け。怒りに身を任せれば、お前が破滅するだけだ」

「本郷さん……」

一号ライダーこと、本郷猛は長年の経験から、感情で突っ走り、破滅していった者を多く見てきた。人間だった頃の一番の親友であったはずの『早瀬五郎』は、本郷に勝ちたい欲望から、『サソリ男』として彼と敵対し、本郷がその手にかけた。その悲しい経験、家族を皆殺しにされた風見志郎の懇願などの経験から、黒江の感情的な言動と行動を諌めたのだ。

「お前が本気を出せば、その少佐を殺すことは簡単だ。だが、殺してしまえば、分かりあう事は出来なくなる。俺にも和解したかった奴がいたからな」

本郷は、サソリ男であった親友の早瀬五郎をその手にかけた。脳改造を受けていた故に、本郷との友情は消え失せていたが、本郷は友情を最後まで信じた。それ故、光太郎=RXに、『運命を変えてみせろ』と激励している。アムロから、『黒江は、怒ると感情が先走り、後先考えずに突っ走る傾向が見られる』と聞かされていた彼は、自分の例を引き合いに出し、感情で動きがちな黒江を諭し、諌めた。

「光太郎と秋月信彦を見てみるんだ。光太郎は、シャドームーンがかつての義兄弟『秋月信彦』に戻るのを信じ、運命と戦っているだろう?信じるんだ。ゴロプ少佐にまだ、『505隊長』としての心が残っていると」

「……」

「お前の気持ちはよく分かる。だが、感情に身を任せるな。復讐したいという、一時の感情に駆られて、取り返しがつかなくなったらどうする?俺達はそんな場面をいくつも経験してきた」

「それは分かってる!分かってるんです!だけど、だけど……やり場のないこの気持ちを何に、何にぶつければいいんです!?……私は、私は……!」

抑えられない激情が言葉の端々から感じられる。彼女は許せないのだ。自分の教え子や自身を『皇帝に気に入られるための駒』としか見ていなかったゴロプを。

「感情をぶつけるのは、力以外の方法が有るだろう?」

「本郷さん、私、私……」

「泣きたい時は、思い切り泣けばいい。信じていた者に裏切られる事ほど、悲しいモノはないからな」

「う…うわああああっ……!あああああっ!」

子供のように、本郷にすがりついて泣く黒江。抑えられない激情が悲しみという形で表れたのだ。犬房は、師が見せた感情の揺らぎに圧倒されるが、黒江の人間性を知り、泣きじゃくる黒江をなだめる。黒江が他人に『弱さ』を見せたのは、これで二回目であり、如何に本郷に心を許しているかが伺えた。逆に言うと、仮面ライダー達が彼女に取っての精神的意味の『父親』であるとも取れる場面でもあった。


――ネオ・ジオンがアフリカを拠点にした事に激昂したのがマルセイユだった。自分が血と汗と涙で守ってきたアフリカが、事もあろうに取引材料に使われた事を知るや、思わず壁を殴った。

「奴らめ!!アフリカを取引材料に使いやがって!!私達がどれほどの血と涙を流して……!」

「落ち着け、中佐。ここで吠えていても、アフリカは落とせんぞ。如何に貴官がΞガンダムを愛機にしていてもな」

ここで抑え役に回ったのは、意外にもルーデルだった。ルーデルの出撃狂ぶりはマルセイユも知っていて、敬意を払っていたので、ルーデルの言うことは聞くのだ。

「しかし、大佐!」

「抑えろと言っているのだ。私とて、できたら今頃、VFで出ている。それをしていないのがどういう意味か、分かるか?」

「地上部隊がどうにも出来ない、ということですね?」

「そうだ。今のネオ・ジオンを真っ向から打ち破れる者はロンド・ベルだけだ。特に旧ジオン公国のトップエースが数人でもいると、こちらの戦略などは意味を為さん、戦術で戦略をひっくり返される。上はそれを恐れているのだ」


ルーデルはジオン公国時代のトップエースと呼ばれた人間達の戦闘力を冷静に分析しており、彼らを高く評価していた。それ故、拮抗状態に持ち込むのにも、ロンド・ベルの更にトップエースと謳われる歴代ガンダム乗りらを集結でもさせないと無理と断言する。


「ロンド・ベルを動かせられますか?今の状況で」

「やるしかない。それこそシン・マツナガや、ギャビー・ハザード、シャア・アズナブルご本人が来てみろ。アムロ少佐やカミーユ中尉などの限られた連中でもないと、倒す見込みすら立てられん。特にジオンは技術力こそ連邦が逆転しているが、豊富にエースパイロットがいるからな」

そう。ネオ・ジオンは人数は少ないが、公国時代のトップエースらは並の強化人間よりも、よほど戦力的価値がある。シャアは公国時代のツテで、市井に引っ込んでいたエースパイロットらを呼び寄せるこ事に成功しており、人材不足に喘いだアクシズや、先の戦争がウソのような人材の充実ぶりだった。

「大佐はどうなされるのです?」

「私はロンド・ベルと交渉を行う。貴官は腕を磨け。今の腕では、アナベル・ガトーどころか、オットー・カリウスにも鎧袖一触だぞ」

「わかっています」

マルセイユに忠告を行い、バーの外に停めたBMW・R75にまたがり、南洋島の連邦軍基地に向かうルーデル。マルセイユは酒を煽りながらも、MS操縦の腕を磨くための方策を練っており、連邦軍のMS演習にジェガンなどで参加し、腕を鍛えていく。ライーサも、マルセイユの背中を守るべく、この頃になり、MS操縦訓練の受講を決意し、真美やティアナを驚かせたという。



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