外伝2『太平洋戦争編』
行間『Chasing The Angels』


――太平洋戦争中のこと。加藤武子は、隼に傾倒していた(隼のペットネームを考えたのは彼女である)ため、未来世界からサンプルで、F-15を受領した黒江に続く形で、F-16系を希望していた。

「ねぇ、綾香。あなたのツテで、16を取り寄せてない?」

「あん?何だよ藪から棒に……って、なんだ。ペットネームがファイティングファルコンだからか?」

「え、ええ」

「お前、若いころから変わってねーな。つか、一つ言っとくが、あれのペットネーム、現場だと使ってねーぞ。バイパーの方が通りがいい。系列機のF-2乗ったことあんから、言うけど」

「えぇ〜!?」

「たりめーだろ。ファイティングファルコンなんざ、舌噛むぜ。だからバイパーなんだよ」

そう。F16は、非公式の愛称のほうが通りがいいのだ。それを指摘する黒江。

「まぁ、天宮さんのあれに乗せてもらって、喜んでたお前の事だから、察しはついたぜ。書類は用意しといた。私が15Jだから、お前もF-2にしとけ。外見は同じだし、回しやすいしな」

「用意がいいわね」

「察しがよくなちゃ、出世は出来ねーよ。ほれ、ここにサインしろ。それと、将来的に評価試験するつもりで、三菱から引っ張ってきたマニュアルだ。読んどけよ」

「ありがとう」

「ん?三菱からって、製造メーカーから?」

「ばっか。空自から持ちだしたんじゃ、私の首が飛ぶだろ。連邦軍の時代に残ってた三菱のマニュアルをコピーしたんだよ。回りくどいけど、デジタルアーカイブのコピーの断りは、三菱に入れてある」

「それと、納入機の塗装だが、空自式の洋上迷彩が施されてるから、青系になってるぞ」

「うーん、青は馴染みないわねぇ。ウチの制式塗装に出来ない?」

「出来るけど、納入が遅れっぞ?早く乗りたかったら、塗装くらいは我慢しろ。テールインシグニアはお前のにしといてやるから」

「分かったわ」

武子はマニュアルを読みふけるが、ある日に、黒江にあることを指摘した。それは武装に対艦武装が多く含まれている事だ。

「綾香、この機体……支援戦闘機って、爆撃機の間違いじゃないの?対艦ミサイルを4発も積むなんて」

「系譜的には、海軍の陸攻の子孫だよ。向こうの日本は『政治的配慮』で攻撃軍備を持てない時代が長かったんだ。それだから、支援戦闘機という名目で、攻撃機を調達してた。それはその最後の奴だよ。ベースがバイパーだから、制空戦闘もこなせるけどな」

「なるほど。でも、戦闘機をと爆撃機を兼任させる事が出来るようになるってのは凄いわね」

「結果的に、親父さんの言うことは当たってたってわけだ。違うのは、戦闘機が爆撃機を兼任するくらいだけどな」

そう。源田実が提唱していた理論はほぼ的中していたのだ。違うのは、『強力な戦闘機は強力な爆撃機にもなる』という点で、源田実にとっては、ジェット戦闘機と、2000馬力級レシプロ機の登場が持論の方向性の正しさを証明した形になる。

「司令に反目する者は大勢いるけど、大丈夫かしら」

「親父さんを敵視するのは、海軍航空閥に多いからな。さらに言えば、五十六のおっちゃん達は、未来人達からも『戦闘機無用論』で批判されてる。それを酷く気にしてる。特攻で人材浪費させたのが、向こうの歴史的事実だが、それを責めるのは酷だぜ」

そう。扶桑軍は、国交樹立後、空自から『特攻での人材浪費』と、『場当たり的な海軍陸上航空隊拡充』、『戦闘機無用論による募集の縮小』を行った大日本帝国海軍航空隊の事例を取って、連日、矢のように批判を受けた。その当事者であったとされる『三和義勇』少将、『大西瀧治郎』中将、『山本五十六』元帥海軍大将と言った人々、特に三和少将は、『自分が体験していない事』で『航空に関わるな』、『パイロットを弾丸にしか思わない鬼畜』と、軍事評論家にさえ評される事態となり、『別の自分の勉強不足だった』と弁解するものの、彼は、別の自分の発言が結果として、皇国の衰亡に影響を与えてしまった事を気に病むあまりに、妻の目の間で自殺未遂を起こして、軍病院に長期に渡り入院してしまう。また、初期の内に連邦軍兵士に集団リンチを受けた大西瀧治郎中将は退院後、三和少将と対照的に『戦争を終わらせるためには、それしか無かったのだ。特攻は私が生み出したも同然であるが、全軍特攻化させた軍令部により責任がある』と声明を出し、自身の心境を自分で説明し、未来世界に謝罪した。山本五十六も大西をかばい、自身の失策を詫びた。当然ながら、扶桑軍側からは謂れのない中傷と捉え、憤激する者も多かったが、『自分達が選択を誤ったために、皇国の敗北を招いた』世界が次元世界で多数派である事実の前には押し黙るしか無かった。その為、扶桑は戦闘システムなどの近代化を推し進めたのが実情だった。

「ん?倉澤少佐の人事、アッツ島にしたのか。まぁ、史実でした事が鬼畜だから、要職につけるわけにもいかんわな」

「倉澤少佐の事、知ってるの?」

「悪名高い特攻隊の現場責任者だよ。真っ先に未来人の集団リンチの標的にされて、病院でうんうん唸ってるって聞いたんだが、現場に戻ってたのか。アッツ島送りは身柄保護も兼ねた左遷だろうな。お、福留参謀は失脚するかと思ったが、北方艦隊の任務部隊参謀で飼い殺しか」

軍の会報を手に取り、人事の項目を読む。そこには連邦軍の一部兵士らの集団リンチで病院送りにされたりした者達の左遷の情報、更に、真逆に正当に評価されて出世した者の人事異動が記されていた。史実でシーレーン防衛に尽くした大井篤大佐は、少将に任じられ、海上護衛総隊の新司令となる人事が発令され、同時に海上自衛隊への留学が命じられた。また、シーレーン防衛の提唱者だった新見政一中将は先見の明を評価され、大将に昇進。要職についた事が記されていた。

「お、新見閣下は現役引退を撤回したらしいな。これでシーレーン防衛は大丈夫だな」

と、感想を述べる。

「随分と向こうに配慮した人事ね」

「しゃーない。向こうの理屈なら、今の将官は誰かどうか、ポカの一つしてるしな。多聞丸のおっちゃんくらいだよ。勝ってるうちに死んだから、ポカしないですんだのは」

「山本閣下や、小沢閣下もミスはしてるけど、何故、擁護の声が多いの?」

「五十六のおっちゃんは最期が暗殺、小沢さんは航空兵力の質を立て直せないままで戦ったから、仲間内から擁護があるからな。栗田さんは……うん、あれだしな」

「栗田閣下の人事、浮いてるわね」

「しゃーない。自分のターンがなければ、原爆が落ちなかったかもしれないって知れば、前線勤務を嫌がるだろうからな。兵学校の人事も断ったみたいだし、人事不省状態になるな」

栗田健男中将は、史実の自分の行為が連合艦隊のトドメとなってしまった事を恥じ、兵学校の教諭への就任を断って、中央にも入らない『人事不省』状態で、郷里にこもってしまった事が語られた。原爆や本土空襲の悲劇が、彼に与えたショックは大きく、郷里に篭もるのも無理はないと、同情の声も大きかった。その為、古村啓蔵少将は彼を擁護し、『今度の戦で、豊田を大和か信濃に押し込んで突っ込ませればいい』と息巻いた。これに豊田大将は焦り、実績作りのため、大和に座乗して、砲撃作戦を率いる羽目になったりしたという。

「未来人は、私達に何を望んでいるの?」

「『国民のために肉壁になる日本軍』だ。だから、軍が半減しようが、国民と国土さえ守れればいいのさ。特に陸軍はウィッチ以外であれば、補充は効くしな」

「陸軍が聞いたら、激怒するわよ?」

「へっ。向こうで、国民見捨てたって後ろ指指されてる連中なんだ。いい薬になるから、残留孤児とか開拓団の無念を味わったほうがいい薬になるぜ」

かつて、属していた陸軍をボロクソにいう辺りは、すっかり戦後の人間であり、自衛隊員の倫理観に染まっているのが分かる。

「あなた、言うわねぇ。関心するわ」

「いいところがあるのは認めるが、汚点が多すぎるしな。特に補給軽視は弁護できねーよ。あと、インフラ整備をめんどくさがった事とかな」

「あとは火力のドクトリンだよ。機甲師団の有用性、あれだけミッド動乱で見せつけられたのに、まだ反対する輩いるんだから、信じらんねー」

そう。第一次世界大戦に表立っての参戦をしなかった扶桑軍は、カールスラントを信仰する風潮がありながら、機械化が遅れていた軍隊である。カールスラントと違い、強力な兵器が扶桑海事変で必要とされるまで、陸戦装備の更新がおざなりにされていたため、地球連邦軍の介入までは、史実の1942年前半の頃の日本陸軍と大差ないレベルであった。ところが、それら装備がティターンズの登場で旧態依然としたものと示されてしまい、陸戦装備の全更新に追われる羽目となった。そのため、一式中戦車『チヘ』、三式中戦車『チヌ』、四式中戦車『チト』までもがあっという間に旧世代兵器の烙印を押されてしまった機甲閥だが、最も先進的な設計であった五式をベースにして、61式相当にまで性能向上を果たしたのは褒めるべき点だろう。

「しょうがないわよ、戦車が数年でコロコロとスタンダードが変わるくらい進化するなんて、将軍たちも予測できなかったんだから。扶桑海の時は、長砲身47ミリくらいで十分だったんだし」

「そうだけど、海は十分なんだし、少しは陸に回して欲しいぜ」

「陸は未来人がうるさいから、今は機甲と砲装備に製造能力を割り振ってるけど、規模が大きすぎるのよ。装備の殆どが更新対象だし」

「しゃーねーよ。陸海の火砲の口径もバラバラ、小銃だって、明治期の代物がある始末だ。これで自動小銃やらがあるリベリオンと戦えてるのが不思議だぜ」

そう。この時の扶桑陸軍は、ミッド動乱参加部隊のみが最新装備だが、大多数は依然として、旧来装備が残っていた。装備の生産が間に合わず、しかも精鋭部隊の充足が優先されているため、本土部隊はボルトアクション式小銃が8割という有様だった。

「とりあえず、64式を採用したけど、AKとかにしなかったのはなんでかしら」

「四式小銃のメンバーがそのまま作れるからだと」

「そこまで験担ぎするなんて……」

「国内軍需産業がうるさいんだと。リベリオンのライセンス生産やら、ノックダウン生産ばかりで、国産兵器が作れないとか。だから、小銃くらいはやらせろと、うるさかったんだと」

「えー……」

「だから、国防省もご機嫌取りに動いたんだよ。それじゃ、この書類を新京の分所に提出してくるぜ。親父さんの威光で、4日もあれば納入されると思う」

「お願い」

黒江の言う通り、その五日後に、F-2の完成機が納入された。予備機含め、二個小隊分だ。

「どうだ、フジ。バイパーゼロは」

「か、かっこいい……」

「見とれてないで、乗ってみろよ」

「う、うん」

武子は、駐機されているF-2に乗り込んでみる。F-104までとは世代の違う計器配置(グラスコクピット)、操縦桿にスイッチが多く配置された『HOTAS概念』に則ったサイドスティック式操縦桿。どれを取っても、未来的だ。


「綾香、なんで操縦桿にスイッチが多いの?」

「HOTAS概念って言って、スイッチ類をまとめて、操縦桿とスロットルレバーに装備させて、親指・人差し指・中指で操作するシステムだよ。慣れれば楽だぜ。手元で瞬時に兵装操作ができるし。スロットルのほうが大事だかんなー。しばらくは地上で訓練しろ。私が教えてやんから」

「分かったわ」

それからしばらくは、武子は現役の航空自衛官でもある黒江のレクチャーを受けた。黒江は2005年以後、飛行開発実験団に配属となった事があり、必要上、F-2の操縦ライセンスを獲得したからだ。

「いいか、スロットルレバーにゃ、ウェポンセレクターやらレーダーレンジセレクターやらがついてる。それを瞬時に押せるようになれ」

黒江はなるべく、武子自身にやらせる事で、体に教え込んでいく。武子は必死に操作法を覚えていった。それからはシミュレータで悪戦苦闘する日々が続く武子。

「遅い!兵装の切り替えは迅速にやれ!」

「スティックこじるな!力入れるんじゃない、押さえる時間で舵角が変わるからタイミングを覚えろ!」

と、スパルタ特訓が続く。武子は元々、新機種の戦力化に熱心であった。そのため、熱心に訓練を受ける。黒江自身、F-2のライセンス獲得には、F-15の時より苦労しており、それなりに時間を要した。F-2の納入の際に当たり、自身の機体はサイドスティックを、次世代型の3cmほど動くモデルに換装させた。これは原型通りだと、2cmも動かないため、黒江自身が苦労したためだ。

「こいつはフライ・バイ・ライト式で、デジタル処理される。感覚の違いを覚えないと、事故るぞ!」

「わ、分かった!」

武子と言えど、デジタルで操縦制御される機体の感覚を覚えるには、数週間を要した。黒江でさえも機種転換訓練に10日を要したのだから、未経験の武子は、デジタル式操縦法の一からの習得も入ったので、当然であった。1947年の晩夏頃(ちょうど、次元震の起こる数日前)には、黒江に合格を貰えるほどに乗りこなすまでになった。

「おし、合格だ。慣れれば、こいつは素直だ。これなら単座に乗っても大丈夫だろう」

「ありがとう。慣れれば簡単ね」

「慣れればな。そこまでいくのに、私とあろう者が、10日もかかったぞ」

「珍しいわね、大抵は、数日もあれば乗りこなすあなたが」

「スティックの感覚が掴みにくくてな。それでかかったんだよ。」

「うふ。あなたでも、そんな事あるのね」

「私だって、パーペキな人間じゃねーかんな。イーグルドライバーが本業だし、チャーマーは副業だからな。さて、今日は帰還するぞ。私からはこれで言うことはないが、自衛隊の規則どおり、50飛行時間になるまでは、正式に操縦ライセンスは出さないからな」

「分かってるわ。これからも、ご教授、お願いね」

「へいへい」

と、言い合う。この日から数日後に次元震が起こり、武子はその対応に追われるが、その合間をぬって、訓練は続けていた。そして、坂本Bと黒江Bが64Fを見学に来た日のこと。

「おー、よく来たな」

「今日は特に展示飛行の予定も無かったから、源田司令に言って、許可もらったんだ」

坂本Bの次元では、343空の教官の時期が存在しないため、Aとは違い、源田に友好的だった。そのため、黒江Aは『平行世界』を実感した。

「お、おう。(そうだ、こいつは343空に教官として赴任した事がそもそもないんだ。だから、親父さんに敵愾心がないんだな)」

「お前らの部隊だが、実戦部隊と教育部隊の双方を兼ねてるのか」

「そうだ。最も、編成上の主力は第二中隊の維新組までだが」

「ウィッチの編成は見たが、熟練者が多くないか?菅野、下原、それに508の雁淵もいるなんて、贅沢じゃないのか?統合戦闘航空団でもないのに」

「新米も多いんだが、気づかなかったのか?第一と第二はエース級がひしめいてるけど、第三と第四は新米が主体だぞ?」

「何、本当か?」

「そこの飛行計画の掲示板を見てみろ。新米も飛んでるし、部隊の目的は熟練者同士の切磋琢磨、技術の交換、新人への伝授も含まれてるんだ。ここのお前は名簿だけ見て、早合点して、親父さんと揉めたけど」

「この陣容では無理もない。西沢やお前達、第一戦隊出身者までいるんだ。熟練者を集中させた『最強の飛行隊』と誤解するよ。我ながら、短慮で恥ずかしいよ……。ここの私は感情的になりすぎてたみたいだな?」

「揉め事起こしまくったからな。西沢が仲裁に走るくらいに、荒れてたぞ」

「嘘だろ、あの義子が?」

「おう。前に、ヒガシの奴とお前が、ウチの部隊のウィッチの指名転属で揉めた事があってな。私や穴拭じゃ手に負えなくなったんだ。それで西沢を呼んだんだよ」

「どんな感じだったんだ?」

「ああ、ICレコーダーに録音してあるから、聞くか?」

「頼む」

『前線支えてるウィッチを引き抜いて、何がやりたいんだ!ウィッチは源田の玩具じゃないんだぞ!」

『引き抜きじゃなく、交代よ。人事広報読んで無いの?』

『練度の低い若手を最前線に送り込んで、死にに行かせるのを、交代と言えるか!お前とあろう者が、源田に毒されたか?』


『あ゛?今、なんつった?もういっぺん言ってみなさいよ!!』

『お、おい、お前ら、落ち着けよ、な、な?』

レコーダーは、圭子が坂本Aの不用意な一言で、カチンと来る様子が克明に記録されていた。黒江は場を収めようと必死だが、ヒートアップし始めた圭子を止められない。

『お前……親父さんを侮辱したな?』

『お、お、お、落ち着け、おいぃ〜!』

指をポキポキ鳴らし、ほぐす音が聞こえる。黒江の狼狽する声も入っている。自分の喧嘩腰ぶりに、坂本Bは呆然としている。

「――お前、相当に腰がひけてるように聞こえたんだが……?」

「だってよ、こえーんだもん。キレたヒガシ――」

黒江は坂本Bに言い訳を言う。実際、圭子を諌めるには、武子か源田が必要で、マルセイユでも止められないのだ。これはマルセイユも匙を投げており、黒江が慌てて、マルセイユを呼ぶと『加藤大佐の領分だな……』と、遠い目をしたのだ。これに黒江は窮したが、その間にも二人は、年甲斐もなく、取っ組み合いの喧嘩を起こしてしまった。

「マルセイユ、退避だー!!ここにいると死ぬぞー!」

「わ、分かった!」

黒江がマルセイユに退避を呼びかけ、二人が逃げる足音が録音されている。その直後、皿が飛ぶ、置物が飛ぶ、拳が飛ぶ音が続く。

「なんか、物凄い音が入ってるぞ」

「お前ら、皿で円盤投げし始めたんだぞ?私とマルセイユは、鍋で頭を防御するので精一杯だったんだぞー」

黒江の愚痴に、坂本Bは困った表情だ。二人の頭上を、皿が円盤のように飛翔する金切り音と、その度に『ひぃ〜!当たるなよ、当たるなよ〜……』と、二人が震え声になっている。弾切れになったか、圭子と坂本が雄叫びをあげながら、お互いに殴りかかろうとする声が入る。二人の拳が交錯せんとした瞬間、『ちょっと待ったぁぁ〜〜!!』と、二人を制する声が響き、二人を殴る音が入る。

『あんたら、どうしたんだよ。この騒ぎは?』

『お〜〜、に、西沢!来てくれたか!!二人を止めてくれぇ!私達の手に負えない!』

『義子、どけ!!』

『落ち着けってんだよ!』

西沢の拳が飛び、坂本を殴りながら一喝する。

『あんたもだぜ、ケイさんっ!』

『ブフォ!?』

ケイには痛烈なチョップが脳天になされた。

『話してみろよ、お二人さん。何が何だか分からねーから』

『実は――』

西沢に事のあらましが説明される。西沢は、経緯を聞くと、こういった。

『喧嘩両成敗だぜ。ケイさんも、親父さんを侮辱されたからって、円盤投げ始めるこたぁねぇだろ。坂本、お前は口が悪すぎだ。ケイさんが怒るって、相当だぞ?反省しろ』

西沢かしらぬ、真面目な仲裁であったため、仲裁された坂本が『お、お前……熱でもあるのか……?』と言い、西沢のデコピンを食らう。

「お前なぁ。あたしと別れて、何年経ったと思ってんだよ。特務中尉にもなりゃ、部下の喧嘩の仲裁くらいは覚えるつーの」

部下を持ったためか、以前より落ち着いた振る舞いを見せる西沢。年齢的に22歳になるのもあってか、『大人になった』ところを見せた。

「すまん、若いころのイメージが抜けなくてな」

「お前なぁ」

と、西沢がぶーたれる声が入る。

「――義子のやつが仲裁に走るとはな。それにしても、この世界の私は荒れていたのだな。こんな簡単な事に気づかんとは……」

「これは上がる寸前の事だったけど、お前、この世界だと、評判ずいぶん落としたぜ?特進も無かったし、若手からは疎んじられるし」

「だろうな。話に聞いたが、零式の後継機の事で、相当に迷惑かけたようだな。面目ない、私自身が起こした不始末だし、私に代わって、詫びておくよ」

「お前のところは烈風が造られてないのか?」

「こちらでは、早々に紫電系統に一本化されたからな。宮藤製ストライカーユニットは計画中止だそうだ。凍結扱いかもしれんが」

――そう。Bの世界では、紫電改が主力機の座にすんなりついたため、烈風は造られていない。そのため、坂本もスムーズに紫電改に機種転換している。なので、Aが起こした問題が発生する要因がそもそもない。Aは、宮藤博士を侮辱されたような気がしたからこそ、零式に拘った面が強いが、Bは宮藤博士への感情とは別に、『新型機は率先して、ベテランが乗りこなして手本を見せるべし』という、教官としての責務が先に立っている面が大きく、少女らしさが残っていて、どことなく青臭さがあるAより『大人』であるのが分かる。

「へぇ。細かいところが違うなぁ」

「たぶん、ここの私は、思うように動かないところが気に入らなかったんじゃないか?ほら、零式は非力だが、思うように動くし」

「そうかもなぁ。ん?お前のところの私はどうした?姿が見えねーけど」

「格納庫に行くとか。お前んとこ、ジェット戦闘機持ってるだろ?」

「あー。なるへそ。大丈夫かなぁ」

「穴拭に面倒を頼んだから、馬鹿はやらんだろ」


――第二格納庫

黒江Bは格納庫にいた。どこの世界でも、新型に弱いようで、智子に頼んで、機動兵器の格納庫を案内してもらっていた。第二格納庫は戦闘機用なので、予備機の紫電改、烈風から、サンプル品のF-14++、F-15J、F-2までの幅広い機種が置かれていた。

「ふ、ふおぉおおお〜……こ、これが新型機か!」

「あんたは、どこの世界でも新型に弱いわねぇ」

「航空審査部だからな。外国のだろーが使ってるしな。ここの私は実戦部隊に戻ってるようだけど、それなのに、どうしてこんなに多種多様な機体があるんだ?」

「ジェット戦闘機動かすのには、航空工学の知識が必要だし、ウィッチで戦闘機動かせるのは限られてるから、未来でそれを学んだウィッチ専用になってるのよ。次期主力のサンプルも兼ねてるから、種類が多いのよ」

「こいつは?」

「F-15。本来はこの時代の30年後に実用化される『第4世代ジェット戦闘機』よ。その日本仕様の後期型で、結構電子化されてるわ。あ、言っとくけど、あんたの専用機よ、それ」

「わ、私の!?私、こんな複雑なの動かしてんの?」

「こっちだと、副業してるから、それで慣れてるからってのもあるかもね。慣れれば簡単よ」

「お前は何に乗ってるんだ?」

「あたしは、F-2。ほら、そこから見える単発の機体よ」

「そうか。でも、世代が進むにつれて、大きくなってないか?」

「しゃーないわよ。ある世代から二極化したから。でも、そいつは前世代機より、圧倒的に『クイ』って曲がるわよ」

「そう言えば、カールスラントの試作は、曲がらないって評判だけど、なんでだ?」

「技術の進歩よ。この頃のポッド式は曲がらないし、エンジン構造の問題で加速性も悪いけど、再燃焼装置、『アフターバーナー』が実用化されてからは加速性の問題は解消されたし、機体設計が洗練されたから、曲がるようになったわよ。旋回率も、後年になればなるほどよくなるから、アッと驚くくらいに曲がるって体感できるわよ。そこのF-14なら当分の間は使わないし、フライトしてみる?」

「本当か!?」

と、いう事で、智子は黒江BをF-14の後部座席に座らせ、ウイングマーク維持のための飛行を行った。

「どう?高度12000を飛んでる気分は」

「信じらんない。レシプロなら、どんな機体でもヘタって上がれない高さだぞ?」

「ジェットなら、まだまだ余裕よ。最近はデスクワークが多くなって、飛んでないから、長めに飛ぶわよ」

「お、おう」

「さて、一気に新京までぶっ飛ばすわよ!」

「おわっ!?」

スロットルを開き、機体を加速させる。加速に伴い、翼が可変するので、黒江Bは目を輝かす。

(あ、忘れてた。バスターコールしなくちゃいけないんだっけ。まあ、連邦のはスーパークルーズ当たり前だし、忘れちゃうのよね)

前線の駐屯地から、新京付近までは15分もあればたどり着くため、新京が近づき、高度を下げる。高度4000にまで降下すると、新京の町並みが一望できたが、様子が変わっているのに気付く。

「あれ?ビルが立ってないか?」

黒江Bの世界だと、新京は大正期までの帝都と同じように、煉瓦造りの建物が多いのだが、この世界だと、連邦の介入で、連邦の大使館やら、民間企業の進出に伴い、20世紀後半以後のような近代的鉄筋コンクリート造のオフィスビルが建築され始めていた。連邦はプレハブで建てる場合が多いが、扶桑は、将来のテストケースにするらしく、本格的な施工だった。4年前から建築ラッシュだった、中心市街地のオフィスビル街が完成し始めた時期と重なったため、黒江Bは『街の景色が一変した』ように思えたのだ。

「ハイウェイに、車……なんか、リベリオンに来たような気分だよ」

「向こう側の大都市を手本にしての再開発だから、交通の便は揃ってるわよ?島の横断ハイウェイ、南洋島鉄道の本線、郊外や田舎のところまで結ぶ私鉄とか、空港とか」

道路も100m道路であり、史実で成し得なかった開発構想が実現していた。史実の戦後のように、住民や財務省からの制約もないに等しいため、思い通りに都市が作れるため、モーターリゼーションの到来を予期して、路面電車の撤去も検討されたが、地域住民からの強い反対で撤回された。(そのため、中央分離帯に路面電車が走るようになっている。これは、当時、自家用車がまだまだ高嶺の花であった事も大いに関係している。そのため、路面電車の廃止に、住民から強い反対があった。その折衷案として、幹線道路沿いでは、中央分離帯を路面電車にしたのである)ハイウェイは、スウェーデンのように、戦闘機などの滑走路にも使えるタイプのものが建設され、その辺は後々の本土の高速道路と趣を異にする。

「地下鉄も建設中だし、ここはオフィスビル街と繁華街になりつつあるわ。空港で降りるわよ」

「分かった」

空港に着陸して駐機し、市内の路面電車に乗り、観光をする。

「空港の周りも開発進んでんなー」

「一等地だもの。放っておく建築業者いないわよ」

空港周りも、ハイウェイのインターチェンジが近くにあるなど、20世紀後半に開発が完了する羽田空港と似た特徴があった。国際空港なためだが、周辺の低層建築には店舗が入っていたりし、賑わいを見せている。

「洋装の人達が増えてんなー」

「空襲もあったから、和装じゃ不便だからよ。それで一気に増えたのよ」

地下鉄に乗り込んでくる人々は皆が洋装で、黒江Bの世界のように和装の人間は少ない。子供も洋装をするようになっており、史実昭和30年代終盤から40年代を彷彿とさせる。

「次の駅で降りるわよ。繁華街なんだけど、美味しいファミリーレストランがあるのよ」

「ファミリーレストラン〜?」

黒江Bには聞き慣れない単語だが、それはついてみて、分かった。お硬い雰囲気でなく、家族連れが入るような店構えで、智子の持ち金でも、それなりのものが食べられる店だった。(デ○ーズ)

「レストランって言うから、お硬い雰囲気かと思ったら、その辺の食堂みたいに、気楽に食べられるんだな」

「ファミリー向けのレストランだもの。都市部の中間層とかには持ってこいよ。富裕層用の高級レストランみたいに、服装気にしなくていいし」

巫女装束と小具足のいつものスタイルの智子は、ステーキにがっつく。未来で食べ慣れているおかげもあり、スムーズだ。

「慣れてんなー、お前」

「未来で給料日とかに行ってるからね。華族の行くような高級レストランは肩こっちゃって」

「要するに、西洋大衆食堂って訳だ」

「あんたねぇ。レストランの直訳、食堂よ?」

「あー、もうブリタニア語、ややこしいぞ」

「あんた、聞くけど、なんでお子様ランチなのよ」

「子供の頃、死んだ一番上の兄さんが百貨店で食べさせてくれたんだよ」

「ん?そっちじゃ、上のおにーさん亡くなってんの?」

「浦塩の初空襲の時に、瓦礫の下敷きになっててね。遺体を見つけた時は、全身から力抜けたよ。ん?ここだと兄さん、生きてるの!?」

「ええ。普通にリーマンしてるし、息子さんもいるわよ」

「ん?リーマンって?」

「あー、もう!サラリーマンよ、サラリーマン。ホワイトカラーの会社努めの人を指す造語よ」

「ああ、なるほど……」

「確か、風の噂だと、取締役に抜擢されたとか。あなたのお兄さん、バリバリに優秀だから」

「だろうなぁ。兄さん、忙しかったし。ここだと、なんて呼んでる?私」

「面と向かってだと、『兄様』、そうでない時は『上の兄貴』って言ってるわよ」

「なんで兄様なのよ?」

「15歳くらい年が離れてたのと、子供の頃に弟達を叱り飛ばすの見たからだって。あんたは違うの?」

「15歳も離れちゃいないわよ。せいぜい10歳くらいよ。それで、あんまり子供の頃は遊んでないとか?」

「ええ。そう言ってたわ」

「細かいとこ違うなぁ」

「平行世界だしね。あたしも違ってたし、同じ人物でも、細かい違いって出るもんよ。あんたは顕著に出てるって事ね」

「お前も、随分とフランクになってるよなぁ」

「よく言われるわ」

智子は、Bから見ると、涙目なほどに雑になった面がある。そのため、以前に比較して、歳相応の俗っぽさが増したと言っていいだろう。そのため、扶桑海の巴御前たらんとしているBと比べると、フランクである。

「若いころはキャラ作ってたところあるけど、オンとオフの切り替えできるようになったから、これが素のあたしってわけ」

「なるほどなぁ。で、相変わらず、字は下手っと」

「う、うるさいわね!若いころよりはマシになってるでしょ!」

と、赤面する。これだけは大して改善されていないからだ。なので、サインはよほどの事でもない限りは断る事にしている(その為、智子の姉は子や孫を達筆に育てた)。

「で、なんでマフラーの色を微妙に変えたんだ?昔より濃いぞ?」

「ああ、憧れてる人と同じ色にしたからよ」

智子はここで、マフラーの色を紅に模様替えした理由を示唆した。それは仮面ライダー一号と二号のWライダーに強く憧れており、彼らに肖ったためだ。また、圭子はこの頃には、流竜馬のように、緑のマフラーをするようになっているので、見分けはしやすい。

「さて、行くわよー」

「行くって、どこに?」

「思い出したんだけど、今日は巨○軍とド○ゴンズの試合なのよ」

「ああ、野球か」

そのまま、デーゲームの野球を観戦する事になった。この時はまだ8月であり、巨○軍の優勝はまだ分からない段階であるが、智子は当然ながら、大スターを抱える巨○軍ファンである(そのため、大のタ○ガーズファンのフェイトと喧嘩になることがある)その途中――

「ん?あれはF-2とF-15J……敵機がここへの空襲に向かってるようね。まっ、あの二人なら大丈夫でしょ」

上空を通過する両機種。それに搭乗するは、武子と黒江Aであった。

「味方からの情報によれば、新京への侵入を目論む4機の編隊が向かってるそうよ」

「四機か、おもしれぇ。ここ最近はデスクワークでなまってるし、もんでやんか」

黒江Aは余裕である。自身の技量に自信があるのを端々から感じとれる。

「こちら、連邦空軍『アマテラス』。ツルギに告げる。敵機がまもなく視認できるはずだ」

「ツルギ1-0リード(長機)よりアマテラスへ。これより迎撃に入る、送れ」

「アマテラスよりツルギ、方位02、高度4、敵進方位16、ツルギは方位0でバスター5分で反転、エネミーの背後から攻撃せよ、送れ」

「ツルギ1-0了解」


敵機は見慣れない機種であった。それはセンチュリーシリーズのF-107に酷似していた。だが。よく見ると、インテークの配置と設計が変更されており、別機種であると分かった。

「敵は、この世界のオリジナルの機体を出して来やがったぞ、フジ」

「本当?」

「ああ。F-107に似てるが、インテークの配置が違うし、形状も違う」

「どうする?」

「先手必勝、AAM-4で背後を突いて、出鼻を挫く」

「了解」

二人は敵編隊の背後を突く。が、これが曲者であった。敵の背後からミサイルを放ったはいいが、長機と思われる二機はそれを避けたのだ。そして、僚機を囮に使い、太陽を背に、二人に機銃で対抗してきたのだ。

「おっと!僚機を囮にして、ミサイルを使わせて、自分達は巴戦か!こりゃ面白い。この時代のパイロットらしいぜ」

この時代、ミサイルを宛にせず、昔ながらのドッグファイトに持ち込んでから落とすパイロットは多いが、高度な誘導ミサイルを早期警戒管制機の補助なしに回避するのは極めて難しい。

「こいつらも、AWACSの補助受けてんな。それも未来の技術入れた。なら、ミサイルはあまり宛にならんな。フジ、敵にもAWACSがいる可能性が高い。巴戦で仕留めるぞ」

「了解」

二人は、ミサイルをなるべく近距離で叩き込むように立ちまわる。だが、センチュリーシリーズに毛が生えた代物ながら、敵機は意外に俊敏であった。

「おっと。敵は機銃で落とそうとしてるぞ、フジ。当たんなよ!」

「私を誰だと思ってるのよ、この程度の機銃掃射に当たるとでも?」

「よし、次にすれ違い様にAAM-3でケリつけっぞ。用意しろ」

「OK」

「行くそ、FOX2!」

ミサイルを放ち、見事に誘導され、敵機は落ちる。

「落としたようね」

「パイロットはベイルアウトしてる。あれはあれで、戦闘機乗りの鑑だぜ」

「ミサイルってのは便利だけど、味気ないわね」

「だから、時々は機銃でやんないと腕落ちるぜ。敵もそれわかってるから、乗って来るし」

「分かったわ。でも、あの機体、いったい?」

「敵の新型だな。それもF-107の改良型だ。インテークが普通の配置で、意外に敏捷だ。マルヨンでやったら、勝てるかわからん。ファントムかF-8は最低で必要だな」

「機動性は良かったものね」

「まぁな。が、万が一、巴戦になったところで、第2世代で第4世代の改良型を落とせる道理はねーさ」

黒江は余裕だった。万が一、巴戦に持ち込まれたとしても、ジェット戦闘機の完成形とも言える第4世代以降の機体に、第2世代程度が敵う可能性は低いからだ。

「主翼が片方なくても、イーグルなら飛べるしな」

「あなたにしては惚れ込んでるわねぇ」

「まーな。副業で使ってるからな。とりあえず、空港で燃料を補給して、しばらく観光と行こうぜ」

黒江Aは着陸後にフライトジャケットに着替えて、街を出歩く。

「お〜い」

「あんたも来たの、綾香」

「スクランブル任務だ。それで燃料補給と休憩中だよ。フジのやつがこの近くの果実店に用があんだと」

「あの子は果物に目がないから。それと――」

「お〜い。助けてくれぇ〜」

「お前なぁ。私に何やらせてんだよ……」

黒江Bに、球場で買った野球グッズを運ばせている智子。選手のブロマイドやら、フェイトに頼まれた、タイ○ース選手のサイン入り色紙など盛り沢山なため、嵩張って、前が見えなくなってふらついている黒江B。黒江Aは頭を抑えて、呆れる。

「ほら、半分持ってやんから。えーと、この近くに宅配便取扱ってるコンビニはっと……」

「お待たせ〜」

「カゴいっぱいのフルーツなんて買って、どーすんだよ、フジぃ……」

「ジュースと、凍らせて飛行中のオヤツにきまってるでしょ?」

「お前なぁ……。それ以前に、ど〜やって凍らせんだよ、戦闘機で来てんだぜ、私達」

「あなたがダイヤモンドダストすれば万事解決じゃない」

「も〜、便利屋扱いにすんなよな。第一、高高度上がりゃ、自然に冷凍するじゃねーか」

「加減が難しいのよ、加減が。あなたなら凍気の制御効くでしょ?」

「しゃーねーな。氷河が聞いたら、目ぇ回すな…こりゃ。ダイヤモンドォ…ダスト!!」

ダイヤモンドダストを使い、武子のフルーツを冷凍する。氷河が聞いたら、目を回すような凍気の使い方だ。

「お、おい。今の魔法か?」

「魔法じゃねーよ。第7感の応用だって」

「第7感ってなによ、第7感って!?」

「ややこしいけど、あの時見たろ?あの力だよ」

「お前、何で、その力に……?」

「こう見えても、オリンポス十二神に仕えてる身だしな。それで身につけた。」

「それじゃ、あの鎧は?」

「その証だよ」

小宇宙の片鱗に驚く黒江B。黒江Aは冷凍させたお礼に、冷凍みかんを受け取り、皮を脱いて食べる。

「みかんは貰うからなー」

「いいわよ」

「お前、なんか凄いな……」

「何、私より凄いのは、まだまだいるさ。神を倒せるくらいの奇跡起こせるくらいにならないと」

黒江Bに、黒江Aは笑いかける。星矢の神をも倒した奇跡を羨望し、上を目指すと明言する。星矢が青銅でありながら、神をも恐れさせる領域に達したことへ憧れ、そこに至りたいという心を垣間見せた。





――同時刻 


「芳佳、伏せてろ!」

「ほ、箒さん!?どうしてここに!?」

「聖域からの勅命で来た。回りのウィッチを下がらせろ!死ぬぞ!」

「は、はい!」

「ギャラクシアンエクスプロージョン!!」

射手座の聖衣姿で、ギャラクシアンエクスプロージョンを放つ箒。その威力は日々向上しており、敵陸戦ウィッチの多くを消し飛ばす。

「すげぇ……周りの連中がぶっ飛びやがった……」

エンジントラブルで不時着していた菅野は、箒のギャラクシアンエクスプロージョンの圧倒的破壊力に唖然となる。元々、リベリオンに取っては貴重な陸戦ウィッチたちを一個中隊規模で瞬殺する大爆発が起こったのだから、当然だ。

「あんた、双子座だっけ……」

「今のところは射手座だ。だが、訓練は積んでるんでな。直枝、またエンジントラブルか?よく壊すな?」

「うるへー。壊すの前提に古いの履かせるんだ、今の整備長が!」

「お前が壊しすぎるからだろう?」

「ぐぬぬ……」

「しょうがない。芳佳、お前は周りを見張っていろ。たとえ戦艦だろうが、この私が拳を振るえば、破壊できるしな」

「分かりました」

「直枝は私が運ぼう。陸戦ウィッチの相手は私がする」

箒は指示を飛ばし、リベリオン本国軍を光速拳で蹴散らしていく。その結果、ウィッチ中隊を含む、一個師団がごっそり消え失せた事になる。亡命リベリオン軍から援護に駆けつけた、元506B部隊隊長のジーナ・プレディ中佐は、箒が光速拳で軍隊を蹴散らす光景を目の当たりにし、思わず顎が外れそうになり、『スリーレイブンズといい、扶桑人は化け物か!?』と唸ったという。また、この時の中佐の僚機を務めた『カーラ・J・ルクシック』中尉は『いったい、扶桑はどうなってんだ!?』と叫んだという。

「貴様ら、この地を荒らして、生きて帰れると思うなよ!!この『射手座』(サジタリアス)の黄金聖闘士――『射手座の箒』がな!」

リベリオン本国軍に啖呵を切り、見得を切る。火炎放射器を担ぐ兵が火炎放射を浴びせるが、手刀の風圧で消化する。

『アトミックサンダーボルト!!』

アトミックサンダーボルトを撃ち、兵士達を塵にしていく。リベリオン軍の戦死者は、この日、万単位を記録し、本土の兵站関係者を顔面蒼白にさせたという。



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