外伝2『太平洋戦争編』
三十二話『加速装置!』


――ミッド動乱を経て、かなり部隊の機械化が進んだ扶桑だが、急速に戦後型装備を揃えた本国リベリオンに比しては、些か前世代的な軍備であった。それでも、史実大戦末期の無力ぶりを散々に露呈した日本軍とは雲泥の差であったが。

――訓練の道中

「そちらはリベリオンに押され気味のようだね」

「陸軍の相手が戦後型軍隊じゃ、分が悪いですよ。こっちは全部が1945年型にさえ更新が終わってないっつーに」

「仕方がないさ。ミッド動乱に従事した部隊はせいぜい、一個軍団だ。それの損耗補充に生産力が割かれたから、軍全体にまで気が回らないんだろう」

「それにしたって、機甲部隊の惨状はねぇ」

「チハでパーシングに対峙するよりはマシだ。チトやチリがある分、史実の10倍は恵まれているよ」

パットン以降の戦車には不利であるものの、61式戦車、チリ、チト車が存在する分、史実の10倍は潤沢な装備を扶桑は持つ。チヌ車は早々に引き上げられたため、前線に残置する『旧軍型戦車』は砲戦車を除くと、その二種のみだ。もちろん末期生産型なので、装甲厚を多少改善してはいるが、パットンの攻撃力からすれば、雀の涙ほどの効果でしかないのだが。

「うーん……。そういうもんですかね」

「連邦だって、ザンスカール帝国の高性能機にジムUで戦う羽目に陥った戦線があったくらいだ。それに比べればマシだよ」

実際、連邦軍も最新装備は全部隊には行き渡っていない。結局、軍隊というのは、定期的に実戦がなければ弛緩してしまうし、戦争のたびに政治屋に振り回されて、損害を被るのは、いつの世も同じなのだ。そのため、連邦は軍閥政治に陥ったことすらある。そのため、今の連邦の政治屋の半分は『軍と軍需産業のご機嫌取り』しか脳がない者だ。それが許容されるほど、人々に白色彗星帝国の本土爆撃の恐怖が染み付いている証である。


「デビルマンの話だと、ミッド動乱の時に、将校級は加速装置持ちだったろ?サイボーグ009式の」

「ええ。なんでまた?」

「それを更に推し進め、タキオン粒子を応用し、時の流れに干渉する事で『認識すら出来ない』程の加速をする装置がバダンにある。それに対抗できるのは、今のところ仮面ライダー達だけだ。彼ら、とりわけ後期のライダーはそれに対抗できるが、それ以外のライダー達用の、時の流れに干渉する加速装置を、ライダーマンが完成させたそうだ」

それはある『平成ライダー』の持つ能力を、バダンと昭和ライダーがお互いに解析しあった結果である。タキオン粒子は時空にも干渉できる性質を備え、従来の加速装置の限界を超える加速が行える。RXのように、存在そのものが神に等しい『世紀王』であれば、マッハ5の加速であろうと、光速でも普通に対応できるし、ZXとストロンガー、ギギとガガの腕輪を合体させた場合のアマゾンも光速に対応できる。だが、初期の5人はそうではない。一号からXが、加速装置持ちの将校に思わぬ苦戦を強いられたのは、『音速には対応できるが、極超音速に達すると、相手の動きを補助電子頭脳が処理しきれなくなった』からだ。そのため、初期ライダー達はまず、自分達に組み込まれていた初期型の加速装置を改良し、電子頭脳もより小型で性能の高いものに発展はさせた。だが、時の流れに干渉されると、RXしか対応出来なくなる。そのため、仮面ライダー達もその装置『クロックアップ』を欲し、その平成ライダーの強化スーツ(機械式の平成ライダーの変身は、サイボーグである昭和ライダーから見るとライダーマンと同種と判断した)を作った組織から技術を拝借したのだ。ライダーマンによるテストを終え、施術はV3→1号→2号→Xの順で行われた。後に、施術が後期ライダーたちにも行われ、クロックアップ(後にハイパークロックアップへ)能力を得たのだ。

「クロックアップを昭和ライダーが再現ねぇ。まぁ、通常の加速装置なら、私の敵じゃないんですけど、クロックアップされたらダメですし」

「そういう事だ。機械式加速装置は機械故の限界点があるし、今後は使い所の駆け引きが主体になっていくだろうな。君のように、極超音速に対応できる者が現れてきているしな」

「加速装置持ってれば勝てた時代でも無くなったってわけか……なんか凄いっスね」

「超光速以上に速い速度となると、時間に干渉するという手段しかないからな。タキオン粒子を応用すればいいし、波動エンジンのような機関があれば、遅かれ早かれ考えつくものさ」

加速装置は通常の機械式だと、機械的限界点に速度が制限される。パーフェクトサイボーグのZXを除けば、おおよそマッハ5.5〜3程度である事が多い。初期仮面ライダーの4人に搭載されていたのは、初期タイプの後期型で、おおよそマッハ3程度まで加速できる。が、それ以上の加速ができるものには『鈍亀』にすぎない。そのため、再改造の際には、加速装置をより小型で使用間隔の短い新型へ交換したのだ。

「加速装置の世代ってどうなってるんだろう?」

「ビジュアルで見分けるには、速度だな。初期のは音速からマッハ3程度、中期で4から5.5、ZXと同世代だと一気に光速だが、そこまでの高性能はバダンでもごく少数しかないそうだから、普段は出会わん」

パーフェクトサイボーグでもなければ、生体部分が加速に耐えきれないという結論が出たらしく、80年代に脳以外の全てを機械化するという『パーフェクトサイボーグ』が考案された。ストロンガーの時点で、機械がかなり増加していたが、それを更に推し進め、スーパー1の弱点である、機械部分の冷却問題を解消した完成形がZXである。ある程度の自己治癒能力は、ほぼ全てのライダーが備えているが、欠損部分を瞬時に再構築可能なのは、RX以外にはZXのみが持つだけだ。

「でも、なんで加速装置なんて考え出したんだ?戦闘以外に役に立つのか?あれ」

「本郷さんの話だと、元はナチス時代の東部戦線で機先を制すために考えられたアイデアだそうだ。それを戦闘力増強に転用し始めたのが戦後、旧二号で初めて積まれたそうだ。ブラックゴーストも、別次元でバダンの下部組織として存在していて、ゼロゼロナンバーサイボーグを本当に作っていたそうな」

「本当ッスか!?」

「どうもそうらしい。ZXに至るまでの過程のパーフェクトサイボーグの試作品の素体に『島村ジョー』の名があったと言っていた。加速装置の存在から、薄々と彼らも気づいていたらしいが。それはおおよそ1960年代の事で、彼らと、00ナンバーとの技術的繋がりもあるらしいしな」

――仮面ライダー型改造人間は、かの00ナンバーサイボーグ達9人の成果を踏まえて生み出された代物であると、アムロは明言した。そうなると、ブラックゴーストは『サイボーグ技術の熟成』の役目を負った、バダンの下部組織であり、バダンがその技術を洗練させて仮面ライダーを生み出したと考えたほうが自然である。


「ライダー達は知ってるんですか?彼らの存在を」

「ジャッカー電撃隊のボディを作るのに、ギルモアという博士が関わったという話を聞いて、薄々とは気づいていたそうだ。彼らが知れば協力してくれるだろうが、ライダー達はサイボーグだ。誤解されて、ドンパチされても困るとか言ってたよ」

「確かに。『002』や『004』と鉢合わせして、誤解されたら厄介だしなぁ」

「『001』がいれば、瞬時に理解してもらえるんだがね。それと『ライダーより旧式の技術で生み出された代物だから、メンバー間の戦闘力にムラがある』のも難点らしい」

ライダーは武器の有無の差異はあるが、戦闘力の平均レベルは概ね同じである。00ナンバーは改造箇所の多さや、用途別の改造などの都合上、個人単位の戦闘力にムラがある。001を除いて、最も非力な003となると、本郷猛の変身前の平手打ちで気絶しかねないとの事。

「004は原爆積んでるけど、自爆したとしても、ライダーは水爆に耐えるからなぁ。002は飛べるけど、それだけだし、009が一号に伍する事ができる程度かな?」

「いや、覚醒後の彼らは001、003を除いて、得意なフィールドで有れば、短時間ならライダーと拮抗出来るよ。『短時間なら』ね。それでも、ストロンガーの相手は難しいだろう。チャージアップ状態のエレクトロファイヤーでも食らったら、彼らのボディの許容範囲を超え、ジェネレータが誘爆を起こすだろうからね」

「いきなりチャージアップして、ドリルキックでも当てたら、腕の一本はフレームごとへし折るだろうからなぁ。で、RXのリボルケインは全員のボディを貫けるしなぁ」

00ナンバーサイボーグは覚醒後の能力であれば、ライダーと渡り合えるが、長期戦は不利である。ボディのそもそもの耐久力が違いすぎるのだ。ライダー達は原爆は愚か、メガトン級の水爆にも耐えるボデイを持っているのだ。しかも爆心地で。これはダブルライダーが、V3誕生時にカメバズーカの東京全体を吹き飛ばせる原爆の炸裂の爆心部にいたのに関わらず、余裕で生存していた事で証明されている。

「ライダー達のボディは大首領のボディの試作品でもあるんだ。想定された耐久度が違いすぎる。シミュレートすると、どうしてもライダー側に有利になってしまうのさ。それと、神々との戦いを終えた彼らを、戦いの場に戻すのは不憫だと思っている。」


ライダー達が彼らとのコンタクトを躊躇うのは、別次元で平和に暮らしている彼らを、再び戦いに巻き込んでいいのかという、同じサイボーグとしての苦悩も背景にある。しかも、彼らの都合でなく、ライダー側の都合で。これは大きな問題である。だが、その00ナンバーサイボーグの生みの親のアイザック・ギルモア博士は、次元漂流でジャッカー電撃隊を生み出すのに協力した故か、『ブラックゴーストよりも遥かに強大な、神そのものの軍団である』バダンの存在を掴んでいたが、敢えて、皆には告げていなかった。ギルモア博士の名が、ジャッカー電撃隊の生みの親の一人(人類を守護する戦士の創造であるので、説得の末に協力した)として語り継がれていたのはそのためだ。

「今頃、別次元でも、ギルモア博士がライダー達と同じことを憂いているだろうな。バダンはブラックゴーストの黒幕で、彼らの仇敵そのものだ。だが、戦いを終えた彼らに、また戦いを強いるわけにはいかないと。別次元のサイボーグであるライダー達の勝利を祈ってるかも知れないな」

別次元に跨っているバダンの野望。別次元で00ナンバーを、一方で仮面ライダー達を生み出した。そのため、両者の立場はよく似ている。ライダーは11人(のち、13人)、00ナンバーは9人という違いはあるが、悪を滅ぼすために戦う立場は同じだ。アムロとギルモア博士は、それぞれ別々の立場から、両者の邂逅がどこかのタイミングで起こる事を悟っていたのかもしれない。

――根は一つのサイボーグ戦士達。生身の時の姿を残した者、それとは別に、異形の姿である事をアイデンティティとした者とに分かれたが、想いは一つだ。それは約束された邂逅かも知れない――



――グレートマジンガーがカイザー化したという報は、この時にはウィッチ世界でも知られており、グレートがあれから更に強くなったのに畏怖を感じる者も多かった。

「グレートで充分に強いよ!なのに、もっとパワーアップだなんて!」

とは、ニパの談だ。ウィッチ達は、ロマーニャ最終決戦に参陣した『ダイナミック・スーパーロボット』の強さに恐怖すら抱く者も多かった。グレートマジンガーの時点で、ガンダムmk-Xと互角に渡り合い、雷を操るのに、更に『皇帝』に進化した。この事実は、ウィッチ達を動揺させた。勇者が『皇』にならなければならないほどの強敵が未来世界にはいる事の表れだからだ。そして、全てを無に返す魔神『マジンガーZERO』……。

「信じられませんわ……全てを無に還す魔神が未来世界にはいるだなんて」

ガリアの屋敷で、ペリーヌ・クロステルマンは顔を曇らせた。マジンガーZEROとゴッドマジンガーの戦闘がガリアの新聞にも報じられていたのだが、ゴッドマジンガーのゴッドサンダーと、ZEROの光子力ビームがぶつかりあい、大地を揺るがし、破壊する様子が捉えられており、神々の対決があればこんな感じだろうという雰囲気がひしひしと伝わっていた。この頃、ペリーヌ・クロステルマンは501を離れており、、第二代ノーブルウィッチーズの設立に奔走していた。だが、当時、『初代』メンバーの多くは隊を離れていた。黒田やハインリーケは太平洋戦線でそれどころではないし、イザベルも隊を離れていた。それどころか、B部隊もほぼ全員が太平洋戦争に従事しており、新生ノーブルウィッチーズの再起動は当分先送りにされている。ペリーヌはロザリーから任を引き継いだものの、人員が引き継げなかったのが打撃だった。そのため、1947年からはガリアで引き継ぎの書類を処理しつつ、未来世界の動向を探っていたのだ。

「未来世界のスーパーロボットはなんなんでしょうか、ペリーヌさん」

今や、従卒に近い役割を負ったアメリー・プランシャールが言う。ペリーヌを崇拝しているため、この時期にガリアが衰退し、家のために軍隊から離れるウィッチも多くなっているが、彼女は軍隊に籍を残している。だが、ガリアそのものの衰退により、ウィッチが退役し、家の稼業を継ぐことも多くなったたため、ガリア軍のウィッチ部隊は、戦前から見る影もないほどに弱体化していた。それを何とかするためにペリーヌはロザリーから任を引き継いだのだ。ガリアの栄光の残照のプロパガンダだと分かっていても。

「神の力を持つ機械、いえ、人が機械を使って創り上げた神かも知れませんわね。兵器として見るなら、搭乗員のことを考えてないとんでもない代物なのは確かでしょうが、制御できれば、神に等しい力を与える……。偶像崇拝と科学が結びついたものなのでしょう、スーパーロボットは」

「そうですね……。明らかに兵器に対する思い入れを超えてましたもの」

「連邦の人々にとって、スーパーロボットは希望の象徴なのでしょう。それ故に敗北は許されないという厳しい環境に置かれていますが」

ペリーヌは、未来世界で希望の象徴と言われているスーパーロボットを、『偶像崇拝と科学が結びついた』存在と評した。実際には、『アミニズムと超人幻想と偶像化』を超科学でなし得たのが、歴代スーパーロボットである。兜十蔵博士からして『お前は神にも悪魔にもなれる』と言い残すほどなので、兵器としての色彩が濃いリアルロボットと異なり、スーパーロボットには日本独特の思想が色濃く反映されている。そのため、ペリーヌから見ると、スーパーロボットへ求められるものは理解しがたいのだろう。ペリーヌはスーパーロボットを『あくまでも体の延長、もしくは作られた超人、人が乗らずとも人形ゆえに人格を映す鏡として見いだしてしまった』のか、一点もののスーパーロボットに多大な労力をかける事に疑問視している節があった。それはペリーヌ個人の考えであるが、表には出していない。ハルトマンがグレートマジンガーに思い入れがあるのを見ており、万が一、剣鉄也とグレートを侮辱するような事を言えば、もれなく半殺しは確定する。

(ハルトマン少佐が今の事を聞いたら、半殺しにしてきますわね。……あの方、いつからあのような剣術を……坂本少佐の訓練に混じっていたわけでもないと言うのに?)

ペリーヌは内心、最終決戦で見せた、ハルトマンの扶桑剣術に唸っていた。坂本が最も腰を抜かしていたのを覚えている。

(黒江中佐の雲耀は放つ、私のレイピアによる突きより速い突きを見せる……坂本少佐が腰を抜かされるのは無理もありませんわね)

ハルトマンの剣術は、本人の希望で、坂本には黒江も、智子も、圭子も知らせなかった。坂本の早朝からの特訓に付き合わされるのを嫌がったハルトマンが、別口(磁雷矢などから教わった)で鍛え、遂には飛天御剣流と牙突に行き着いていたのだ。そのため、自らが手合わせし、成長を喜んだ芳佳、菅野コンビ、自分が追いつこうとしていた黒江のことは知っているが、ハルトマンはノーチェックだったからだ。それが、黒江と自分しか、実戦で使いこなせないと自負していた『雲耀』を放ったのだから、当然だった。坂本は瞠目し、『ハ、ハルトマン!?そ、それをいったいどこで覚えた!?』と驚愕しきっていた。一応、事前に黒江は、ハルトマンに『言ったほうがいいんでねーの?身内に秘密ってのもあれだしよ』と言ったのだが、『早朝トレーニングに付き合わされるからヤダー!』と、ハルトマンが押し通したのだ。実際、坂本は朝の4時半と、黒江と智子よりも早い時間から鍛錬しており、5時半頃に起きてきた二人に、『お前ら、遅いぞ!年を取って、朝が辛くなったとかいうんじゃないだろうな』と言い、黒江も『お前が早すぎなんだよ!』とぶーたれていた。坂本は最終的に、黒江と智子の通常時にかなり肉薄できるほどに成長しており、黒江が聖闘士としての人格になって間もない&智子が覚醒能力を完全に思い出した直後の日、智子の竹刀を弾き飛ばし、とどめの一撃を入れようとした瞬間、智子は変身を使い、劣勢を覆した。そこまでさせる程に成長していたのだ。


――1945年頃――

「やれやれ、腕を上げたわね。坂本」

と、関心する変身後の智子。青い炎のオーラがその身を覆うその姿に、坂本に今一度、智子との間に横たわる実力差を痛感させた。

「そうか、お前には隠し玉があったな……覚醒という……」

「思い出して間もないけどね。でも、私にこれを使わせたのは、あなたが三人目よ」

智子は変身を使うことで、攻防速を飛躍させる事ができる。雁渕孝美の絶対魔眼のように、容姿の変化が伴う。智子自身は認識していないが、使い魔との魂の同化という、大きなリスクはあるが、普段に於けるリスクは、ほぼない。そのため、思い出して以降は多用していくのである。(表面化するのは、使い魔『ゴン太』のエロさが智子自身に作用し始めてからだ)


――オーラがはっきりと視認できる上に、そのオーラが蒼い炎の如く、智子を包み込んでいる。銀の瞳も坂本に、不思議とぼやけていた記憶を『蘇えさせる』のに一役買う。

「思い出したぞ…、その銀の瞳、その蒼いオーラ。まさしく、あの時のお前だ……。思い出したというのは本当のようだな……」

「言ったでしょ、記憶が混乱してたって」

坂本への方便ではあるが、それは嘘ではない。坂本はこの日、三羽烏に警戒心を見せるミーナを説得する。

『あいつらは私達の大先輩だぞ?頼るのは当たり前だ。それに私と醇子にとっては、『実家のお姉さん』のような存在なんだぞ?なぜそんなに警戒する?』

ミーナは言えるはずがない。坂本に恋心を抱いており、部隊員の事を自分にでなく、三羽烏に相談している事への嫉妬が主な原因であると。坂本としては、隊員により近い立場である三羽烏に聞いたほうが、確実な助言を貰えるからである。ミーナは他の部隊の統合の手続きが続き、デスクワークが多くなっている。三羽烏は現場に近い立場である故、自ら陣頭指揮を取り、戦果を出している。しかも、アクの強い面々を束ねて。黒江が秘書にしている黒田にしても、扶桑海以来の猛者であり、506の潤滑油と目されている俊英である。ミーナは胃炎の日々だった。それは旧502側も同じだった。ある日突然に501に取り込まれてしまい、502と求められる条件が違う501の一員と扱われたのだ。ただ一人の506出身者の黒田はお気楽だが、502の幹部級はアットホームな501に戸惑いを感じており、更にそれでいて、戦闘で阿修羅になるハルトマンや芳佳、菅野を目の当たりにしたのだ。見慣れていた菅野はまだいい。ハルトマンの修羅ぶりは、新人時代に教えていたロスマン、更に知己のラルでさえも、後ずさりするほどに恐怖を感じるほどに恐ろしいものがあった。

「馬鹿な……、あのハルトマンが……まるで……!」

「一体何があったっていうの……ハルトマン…!?」

と、恐怖するほどであるが、普段はいつも通りのズボラなので、落差が激しかった。二人はそのズボラさに安心したが、敵には情け容赦なく、半死半生に追いやるのも躊躇がない(基本、生存できるようにはしているが、外道は胴体をちぎり飛ばすほどの一撃を与えている)姿との落差に呆然としていた。そして、敵へ見せる冷たい視線にゾクッとし、ロスマンは教え子に怯えすら感じた。一方の坂本は、黒江達が休暇から戻った頃には、ハルトマンの秘密の一端には到達しており、『部屋を抜き打ち検査する』名目で、ハルトマンの部屋に出向き、ハルトマンに竹刀を振るってみた。すると。「痛いよ!ひどいなー」と誤魔化そうとするが、坂本は既にそれが演技であると見抜いていたため、片付いていないお仕置という名目で、もう一撃見舞う。すると、無意識のうちに行動し、竹刀を振り払い、逆に竹刀の居合抜きの風圧で坂本を吹き飛ばす。我に返ったハルトマンは『ヤバッ!』と気づくも、時既に遅し。坂本は剣捌きが素人のそれでなく、達人のそれであると、すぐに気づく。

「ハルトマン!白状してもらうぞ、その剣術は誰から教わった?」

「うぅ……。黒江中佐達からだよ。教えてくれって言ったら、すぐに教えてくれたよ。未来行ってた時だから、もう一年になるかな」

「馬鹿な、私が今に至るのにも、10年近くかかったのだぞ。それを一年かそこらで追いついただと!?」

「う、うん。トントン拍子に……」

「お前の天才肌ぶりには頭が下がるよ」

「盗むやり方じゃなくて細かく指導されたからかも。 未来世界のアスリート指導法試させろって言われた」

「そうなのか?あいつら、世が世ならスポーツコーチになれるな、ありゃ」

「ハンナに付き合ってたのが、惰性で続いてね。今じゃ戸隠流忍術の心得だってあるよ」

「黒江が昔に使っていたという、忍術か……。あいつめ、どういうコネがあるのだ?」

黒江達と共に、未来世界の達人達にも聞きに行ったり、手合わせをしてきたのが功を奏し、ハルトマンは急激に戦闘力を伸ばした。マルセイユも同等の戦闘力を持っている。これはマルセイユが意気消沈している時に付き合ったことがトレーニングを継続するきっかけだったからだ。

「あたしだって、剣持ったこともなかったから、人並み以上に努力はしたさ。宮藤に相手を頼んだ事もあるし」

「そうか、あいつが二刀流などという事を始めおって、気になっていたのだが、大本はあいつらか」

「黒田が二天一流も教えたようだし、今の宮藤はかなり強いよ」

「何、穴拭に比肩する今の私が、俄仕込みの二天一流などに……」

「その二天一流が曲者なんだよ。宮本武蔵ご本人から教えてもらったとか」

「!?」

「タイムマシンで本人が生きてる時代に行って、そこで教えてもらったんだよ。ドラえもんとのび太が巌流島の戦いのより前の若い時に会ってたみたいで、その当時はなんていうか、本物の刀を見るとすくんじゃう若者だったらしいんだ」

「まさか」

「誰だって最初から強いわけじゃないって事じゃない?あたしが会った時は二天一流を確立させた後の30代くらいの頃の姿で、のび太に恩があるからって、教えてくれたんだよ。だから、後世の二天一流とはかなり違う『生存術』だったね」

オリジナルの二天一流は後世におけるそれと異なる『生存術』だった。それを教わったため、サバイバル術に長けるようになってしまったのが実のところだ。そのため、侮っていると、痛い目を見る。

「黒江中佐だって、当然、武蔵には手も足も出ないで負けてるからね。穴拭大尉に至っては0.5秒だったよ」

宮本武蔵は、壮年期に入りだした頃の壮健なる姿での戦闘力は、当然ながら、天下無双。相手が三羽烏であろうとも、一瞬の内に一本取れる腕の持ち主である。のび太には『女子(おなご)にしては筋は悪くないのですが、頭で考えすぎる。体がかってに動くくらいでないと、剣を極めたとは言えませぬ』と言い、黒江や智子の剣術を『頭で物事を組み立てようと躍起になっている』事を示唆した。武蔵ほどの腕になると、後世に剣聖と讃えられるほどの剣技もそうだが、体の反射行動もピカイチである。とっさの行動に優れるのは、戦国期に生きた経験を持つ最後の世代というアドバンテージもあるが、素で武蔵に勝てる要素は全員になかった。のび太が『やりすぎじゃない?』と思わず諌めたほどだ。

「それはそうだろう。武蔵からすれば、全力でかかってこその修行だ。あいつらとて、ウィッチとしての力を抜きにしても、全力でかかったから、何かを掴んだんだし、穴拭が思い出せたんだろう」

「さすが少佐。言うと思った」

「のび太のヤツ、コネがあるんなら私にも声かけてくれれば……あいつらより憧れているんだぞ〜!」

「いや、それを今言われても…」

坂本は、武蔵のファンである。五輪書の写しを本棚に持っていたり、武蔵の題材の小説を持っているほどだが、実像は戦国剣士である宮本武蔵と、江戸期(安土期)の武士像に憧れている坂本とでは。噛み合わない点が多いのは言うまでもない。


「それより、先生がやることないって腐ってるから、どうにかしてやってよ」

「ロスマン曹長か。それについてはこちらでも考えている。彼女、501に送られて来たから、戸惑っているところが多くてな」

「エース級しかいないもんね。リーネも芳佳も、ブリタニアで一人前になってるし、やることないってのは事実だよね」

501は既に実績も積み、メンバーも全てがエース級に成長済みの部隊である。ロスマン個人は501への吸収に反対意見を述べていた。だが、オラーシャ方面には『大戦隊ゴーグルファイブ』、『科学戦隊ダイナマン』が増援で現れ、更に連邦軍がジークフリートを用いて、戦線を押し上げ始めたため、統合戦闘航空団をペテルブルグに置く必要性は薄れた。502を吸収するという案が通ったのは、ゴーグルファイブとダイナマンの東部戦線での活躍によるものだった。

「一応、リーネとペリーヌの訓練がある。それと、ミーナ含めた全メンバーの教官役が足りんのも事実だ。それを上は分かっていたから、黒江たちを現役に戻した上で送り込んだんだろう」

坂本なりに、三羽烏が全員集められた理由は考察していた。スリーレイブンズがその名を轟かせた時代からは既に、年月が経っており、古参と言えるロスマンやラル、ミーナでさえ、彼女達の現役時代の活躍は目にしていない。それ故、現役時代の威光で就かせたというより、教官役として送り込んだのではないか、と。実際は坂本自身の魔力減衰が顕著なのに伴い、リウィッチのスリーレイブンズがなし崩し的に先任中隊長の任につき、戦場で指揮を取っているが。

「書類上は私がまだ戦闘隊長だが、実質的にはあいつらに譲ったようなものだ。あ、ロスマン曹長だが、カールスラント皇帝直々の指令で、特務少尉に任じられると、さっき通達が来た」

「皇帝が直々に?」

「昨日のことだが、彼女、休暇取って、ノイエカールスラントの実家に帰っていたんだが、お父上と衝突してな」

「思い出した!先生のお父さん、皇室信仰者だった!」

「それで、士官学校入学を拒否していると父上が聞いて、怒り狂ってな……。大声で罵ったんだそうだ」

「あのオヤジならやりそうだ……」

「加東がゼータで現地に行ってくれて良かったよ……。曹長、相当に怯えていたそうな」

「先生は教育係を天職にしてるから、相当嫌がったろうけど、階級を少尉以上にしないと、生え抜き士官候補生に舐めプされるしねぇ。あのオヤジ、どうせ、『この親不孝者めが!階級を上げる機会を逃すとは、それでも栄えあるカールスラント軍人か!』って怒ったんだろうな」

ロスマンの父は強烈な愛国者かつ、皇室信仰の持ち主で、一度は不採用に終わった娘を罵ったことで親子関係がこじれ、仲は良くない。母親の事もあり、定期的に実家に帰ってはいるが、今回は、その前にカールスラント皇帝が直々に訪れていた事で、父親の怒りの導火線に火がつき、彼が若かりし頃、第一次世界大戦でそれなりに名を上げた軍人(現役時は大佐)であった事もあり、大喧嘩となった。それで父親はモーゼルで娘を銃撃、ロスマンはそのショックでへたり込んでしまった。そこにケイがゼータで現れ、喧嘩を強引に仲裁したというわけだ。

「父親が事もあろうに、モーゼル持ち出して、威嚇で撃ってな。そのショックでへたり込んでしまったんだ。それで大泣きしたところに、あいつがゼータで降りてきたんだ」

「ゼータの変形を見せたの?」

「ばっちり。60ミリバルカン砲をぶち込むとか加東が脅して、父上はモーゼルを放り投げ、曹長は呆然としたそうな。それで、加東がその場を収めて、母上の懇願もあり、少尉任官を認めたそうだ」

「母上かぁ。先生は母上を『父親の言いなり』って嫌ってはいるけど、先生を支えてくれてるしね、断れなかったんだろう」

「長年の功績の帳尻合わせで、数ヶ月で大尉にするそうだ。特務士官としてはそのくらいないと、正規士官に舐められるしな」

ロスマンは特務大尉に任じられる事自体は嬉しいが、皇帝の手を煩わした事に引け目を感じていると後に語り、正式な階級は大尉のままだが、ウィッチ教育総監となるのである。その過程で教え子となるのが、ハルトマンの姪っ子で、二代目501最強を謳われし者なのだが、それは未来の話。

「今日はその加東と一緒に出撃しているはずだが、あいつが凄いことやったそうだ」

「鉄拳オーラギャラクシーか、ゴッドハンドでもした?」

「いや、ゴッドガンダムの石破天驚拳だそうだ」

「さすがwww」

ロスマンは、圭子が26歳(当時)という、ウィッチとしては高年齢である事、アフリカで飛んでいたとは言え、前線に立ってはいない事を心配したのだが、オーラパワーとゲッター線のコンボを使える圭子は、そんな心配を吹き飛ばす活躍を見せ、大型怪異を石破天驚拳で消滅させたのだ。

「先生、目玉飛び出たんじゃない?ww」

「言ってやるな。あいつらは規格外だから、曹長は大層、驚いたろうな。魔眼もシールドも関係なく、力技で消滅させられるのは、全世界広しといえど、あいつらだけだしな」

「ペリーヌが無電聞いて、信じられないという顔をしてたが、私とて信じられんくらいだよ」

「黒江中佐のエクスカリバー知ってて、それ言う?」

「あいつがエクスカリバーを宿してるとは話したが、信じてもらえなくてな」

「誰に?」

「お前とマルセイユ以外のカールスラント組全員だ。神話の聖剣と同じ名の力を宿しているなど、ウィッチとしての常識ではあり得んからな」

「確かに、素で光速移動できる、なんでも斬れる手刀撃てますじゃねぇ。左手なんて『エア』だよ、エア。次元切り裂けるんだよ?」

「扶桑海の時の様子話そうにも、報告書と違うから話せなくてな」

黒江の両腕は聖剣である。本気で振るえば、神をも葬り去れる。が、その姿を話そうにも、機会に恵まれない上に、カールスラント組は報告書にある『大和型戦艦の参戦』を信じ込んでいる。大和型戦艦のシルエットを目にした観戦武官がいたからで、その報告書に前後して、大和が完成した事から、他国軍人は大和型戦艦を実態よりも恐れていた。坂本は『大和型戦艦は扶桑海にいない』事を知っており、それを話してみたが、ラル、ミーナ共に本気と受け取られていない。

「二人はあの時、大和型戦艦がいたって信じていてな」

「ああ、当時の実態と違うのを、扶桑のプロパガンダを信じ切ってるんだな。そういうのは諦めなよ。高官が否定しなけりゃ」

「私がその場にいれば良かったんデスガ」

「金剛、じゃなくて……Dさん」

「私が艦娘って分からせれば早いデスガ、些か相手がいないのが残念デース」

「あなたは火力がオーバーですから。14インチ砲をバンバン撃てるし、ショックカノンや最悪、波動砲、拡散波動砲もあるじゃないですか。おまけに、マリンウィッチの噂は貴方方のせいじゃないですかぁ!」

「緊急事態でしたカラ。リバウ撤退戦の時にも私と比叡と榛名、それと大和で雁渕大尉、あの時は中尉か……を回収しましたヨ」

「と、言うことは雁渕は貴方方を?」

「見ているし、知ってマース」

リバウ撤退戦の折、艦娘大和は金剛、比叡、榛名を従え、機密状態であるのにも関わらず投入され、クロウズがいない分を補う活躍を見せ、その時に、雁渕孝美は艦娘を目撃していた。そのため、彼女だけがマリンウィッチの噂を信じていた。絶対魔眼を使い、味方へ襲いかかる怪異を一掃せんとした際、反撃で負傷し、更に目の前で同期が自分を庇って死んでいくのを目の当たりにし、錯乱状態に陥りかけた時、見たのだ。ショックカノンの光芒を。

「その時に私や大和が大暴れして、相当の怪異を塵にし、露払いで私が拡散波動砲を撃ったデスヨ」

「大気圏でよく撃てましたね」

「拡散範囲の調整が効きますし、普通の波動砲よりエネルギー1つあたりは低威力ですから、使いやすいデスヨ」

「それで、あとは突撃して、落としまくって、中尉を回収してから撤退したのデース」」

「おかしいな、その時にいたのなら、ラル少佐がいたはずだが?」

「ラル少佐はあいにく、輸送船に乗ってましてネ」

「なんと」

艦娘の戦果は記録されないものの、リバウ撤退戦での一筋の光明であった。そのため、連合で山本五十六の評価が高いのは、艦娘を投入する判断をいち早く下した功績によるものだ。


――この時の501の逸話は数多いですわ。スリーレイブンズの大暴れ、ハルトマン少佐の功績、マリンウィッチと噂された、『シップガール』の存在が私達に開示された事、そして。スーパーロボット。『偉大な勇者』、ゲッター線というエネルギーで動く『G』、『宇宙の王者』、『黒鉄の神』……。501での活動期間中に目の当たりにしたモノは、私の価値観を根底から覆しました。彼らの存在が私達に何を問いかけたのか?それは『人々の嘆きの声にその手を差し出すのに、ウィッチもリウィッチも関係ない』という事。私達は人と戦うという事実に立ち返る以前に、内なる敵に立ち向かう勇気を持つ事が、大事なのですわ――

――1948年――

「そろそろお時間です、ペリーヌ『隊長』」

「参りましょう。未来の方々が示した『友情』に『恩返し』するために」

アメリーからの呼びかけに、成長したペリーヌ・クロステルマンは答える。第二代506統合戦闘航空団『ノーブルウィッチーズ』の隊長として。向かう場所は『太平洋戦線』。


――ペリーヌ・クロステルマンはこの時、18歳前後。ウィッチとして油の乗っている時期であった。この時期から書き始めた『撃墜王』なる回想録に記す記述はどういうものであろう?――



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