外伝2『太平洋戦争編』
四十四話『なのはの奮闘記』


――マジンガーZEROから生まれし少女。その後の調査により、人間に限りなく近い存在である同時に、Zを女性として擬人化させたような存在である事が明らかになった。ZEROとしての記憶はなく、純粋に『マジンガーZの力を持つ少女』と言ったものだった。

「あの子、本当にZの?」

「そう見たほうがいいな。ただ、ZEROではない。ZEROとしての記憶を引き継いでないが、性格面にその片鱗がある」


甲児達は武子達の不在の64F基地に戻り、階級が三佐であるなのはが、地上残存隊の指揮を代行していた。時空管理局武装隊の三佐は、扶桑軍少佐相当であるので、64Fの幹部職を代行できる。臨時であったが、執務室を借り受け、ハンコを押す生活がスタートしたわけだ。そのため、動きにくい時空管理局の制服ではなく、自身が故郷の世界で就職した空自の制服を着ていた。

「管理局の制服、動きにくいし、階級が分かりにくいから、空自の制服着てきました。階級も三佐なんで」

なのはは故郷の世界での空自でスピード出世し、早くも三佐になっていた。そのため、空自の制服を着ていた。のび太の世界での黒江と似た立ち位置にいるので、師と弟子は似るらしい。世界と時代は違えど、同じ組織に属しているので、何かと情報交換も効く。例えば、なのはの世界での空自は、F-35が初期作戦能力を得ているので、黒江はその搭乗員になったなのはから聞き出している。

「でもさ、時代は20年くらい違うんだろ、綾香さんと」

「ええ。あたしは二回目の東京オリンピックが近くなってきた頃の志願なんで、ファントム婆さんは引退した後です」

黒江は99年に防大志願した世代に潜り込んだので、F-4系が飛ぶ光景は見慣れている。一方のなのはは、90年代半ばから後半の生まれで、2010年代後半以後に現役生活を送る世代だ。なのはが任官された頃には、F-4は引退セレモニーが行われて、その任を解かれている。そのため、なのはは自衛隊員としては、ファントム系の搭乗経験はない。

「ふーん。んじゃ、ライトニングUが自衛隊の隊員としての?」

「ええ。ただ、あれはステルス戦闘機だから、巴戦で引っ張るやつじゃないのがねぇ」


なのはは、世代的に『ステルス戦闘機全盛期』にそのキャリアを始めている。21世紀の軍事的常識としては『巴戦は二義的なもの』であるので、なのはのような『ガンファイター』は珍しい人種へなり始めた時代である。23世紀の教育を受けた身としては、21世紀の軍事教育は『机上の空論』感が強いというのが、彼女の言だ。仕方がないが、23世紀の『しょっちゅう戦時状態』のほうが異常な状況である。空自はその中では、比較的巴戦と統制要撃のプロと言えるものであり、黒江が『潜りこむ』ように源田から厳命を受けたのは、扶桑航空隊にはそのノウハウが無きに等しかったからでもある。なのはも、時空管理局航空隊は魔導師主体であり、統制要撃とは言えない有様の要撃を、動乱でしていた事を痛感しており、故郷での表向きの仕事として志願したのだ。

「でも、とりあえずは研究してるんだろ?」

「ええ。エクスカリバーに比べりゃニブチンですけど」

「あれと比べちゃ可哀想だぜ。あれとじゃ、21世紀の戦闘機は爆撃機同然だよ」

甲児が諌める。23世紀で『最高の機動力と運動性能』を売りにしている最高級機種と、21世紀のジェット戦闘機とでは、推力重量比が『次元の違うレベル』の差があるのだ。言うならば、メッサーシュミットme262とF-22の差を当てはめるべきである。

「でも、35も12G機動出来るみたいだし、御近所とやりあうのはなんとかなりそうです」

「うふぇ。おっそろしー」

と、会話する二人。なのはは時空管理局から既に愛機を取り寄せており、居座る気満々である。よほど武装隊の組織改編に伴ってのデスクワークに飽き飽きしているのだろう。実戦肌の魔導師であるので、デスクワークは嫌いなのだ。特に、ジオン残党狩りなどの前線に居続けたなのはAはその傾向が強い。Bが19歳以後、ヴィヴィオの養育のため、前線にいない時期があるのに対し、Aはヴィヴィオを引き取っても前線に居続けていたため、Bからは『ウォーモンガー?』と言われている。これはAの立ち位置が局員だけでなく、軍人としてでもある故で、フェイトの方が家にいる機会が多い事態にもなり、B世界と逆のポジションにいる。ヴィヴィオAがなのはBに語った言葉は、『ウチのなのはママ、偶に帰ってくるって感じだから、お父さんに近いかも』で、なのはBを泣かせている。ヴィヴィオAは二人が留守しがちな環境で育ったせいか、早期にアイデンティティを確立しており、また連邦の技術で治療された副作用で、外見年齢と精神年齢が実年齢より数歳は上で落ち着いた。そのため、23歳のなのはBは、ヴィヴィオの年齢と外見に、自分の知るヴィヴィオと差がある事に気づき、指摘している。

「ヴィヴィオちゃんはもう何歳だ?」

「えーと、今はあたしが20超えだから、外見は8歳、実年齢は6歳かな?B世界のあたしが驚いてましたよ。ヴィヴィオの外見とか、あたしの見かけとか……。空自に入る前、喫茶店で17とか言って、バイトしてた事もあるんで」

なのはAは高校時代から防大入学までの期間、小遣い稼ぎに、繁華街の喫茶店でバイトした事がある。小遣い稼ぎにはちょうど良かったが、童顔で年齢相応に見られないのを利用し、サバ読みしてバイトに励んだ事がある。

「なのはちゃんらしいなぁ。サバ読みって、その時点で、何歳?」

「嫌だなぁ。ほんの2歳か3歳くらいですよ。もちろん、仲間内でだけど」

なのはは19歳を超えたあたりから、年齢を聞かれると、『17歳』と冗談めかして言うことが多くなった。童顔かつ、20代と思えないほどに肌の艶が良いためだ。これは見かけの年齢が10代のスリーレイブンズがこの時期に直面しだした、『実年齢との見かけの乖離』問題と共通している。

「ケイさんだって、最近は実家から矢の催促だって言いますよ、お見合い。ケイさん、そろそろ三十路ですし、戸籍上は」

「そうか、初めて会った時で25だから、もうそんなだなぁ」

圭子はこの時期、実家からお見合いが矢の催促のように来ており、流石に両親からの厳命もあり、お見合いはしたのだが、圭子の前線での武勇が知れ渡っているため、先方側がビビり、お見合いが破談になるのが当たり前であった。普通のウィッチならまだしも、扶桑海とアフリカ、ロマーニャの英雄に釣り合う男性がいなかったのだ。圭子の両親は、『行き遅れ』と、娘が後ろ指を指されるのが怖いらしいが、実績が凄すぎるので、逆に貰い手がいない事態なのだ。そのため、圭子は結局、30までの残りの期間はお見合い続きだったが、全敗に終わるのだった。圭子は『ウチの両親、後継ぎほしいだけなのよ。いいじゃん、兄貴達に生まれるし、澪が将来、あたしの後継ぎになるんだし』とぼやいたという。

「ケイさんの大姪が後継ぎになるの、知らせたらどうなんだ?」

「信じると思います?SFが浸透してないんですよ、この時代」

「うーん……。確かに」

なのはに、圭子は一族最後の人間であり、後継である、義理の娘(血縁は大姪)の澪を両親に教えたいが、諦めている事を言った事がある。加東一族は80年代までに、圭子の次兄の系統以外は何かかしらのアクシデントで絶え、次兄の子供も80年代の航空大事故で亡くなってしまい、その遺児である澪と圭子以外に存命者はいなくなり、澪は圭子を『母さん』と慕い、育ったという未来が待っている。圭子は『絶えたわけじゃないけど、親戚がいなくなって、二人きりってのがね。あたしの頃は親戚連中が大勢いたから……』と、澪の世代の親戚がいないことを嘆いている。それを不憫に思ったか、黒江は2000年代中頃、澪のお見合い相手に、自分の大甥を連れてきて、強引に結婚させたという。


「なのは隊長代理」

「ん、君は雁渕大尉の妹のひかりちゃんだったね」

「はい。飛行隊の皆さんからの意見具申を集めて来ました」

「ご苦労」

ひかりは、残置組の中では有望株に当たる。姉の孝美の根回しで、奇兵隊(偵察部隊)に回されたが、偵察任務で実績を積んできたため、地上居残り組の中では、比較的練度が高い部類に入る。居残り組は、64Fの中での低練度組と言っても、他部隊基準では、むしろ高練度と言える者が多い。ひかりがそれに当たる。64Fの主力が異常な飛行時間を誇っているだけで、居残り組の平均飛行時間も、700時間台を超えており、大戦末期の独空軍と日本軍が聞いたら血の涙を流す長さだ。最高練度かつ、最古参の赤松で2000時間を有に超える。その赤松から見て、中堅と判断しているスリーレイブンズで1500前後の飛行時間なので、赤松が如何に異常かが分かる。

「うん?綾香さん、相当にしごいてるナ。訓練密度を下げてくれってありますよ、甲児さん」

「あの子、部下の訓練は手を抜かねーかんな」

黒江は、自分の管轄に於ける訓練は相当にきつくしており、一日の最後にはへばる部下も大勢いる。自身が赤松にシゴかれているのが影響したか、最近はキツめだ。赤松は黒江の考案したメニューにダメ出しを出せる立場であるので、赤松が言い聞かせているのは、『アメとムチだ。いいか、小僧。休暇と装備チェック日には気を使え。ウィッチってのは厳しいだけではついていかんし、アメだけでも人望は得られん。上手く使え』という事だ。黒江は赤松から見れば、『青二才』であり、『小僧』である。後輩らに年の功的な事を教えられる立場なので、育成計画にも関わっている。当然ながら、なのはとも面識があり、なのはは曾孫弟子(黒江は江藤の弟子に当たるので、孫弟子である)に当たる。

「あ、赤松さん」

「おう、黒江のところの娘っ子その一か。加藤が体調不良での、儂が定時連絡に出とる」

「ご苦労様です」

「黒江のガキのところの訓練メニューだが、お前が手直ししておいてくれんか?あいつ、教導はまだまだ経験不足での。教導部隊におるお前なら簡単じゃろ?」

「そういうことなら。……んー、これでもギリギリ行けそうですけどねー」

「余裕が無さすぎて調製処が無かろうよ?と、いうわけで、調整処を作っておいてくれ。あのガキには儂から言っておく。奴は熱心だが、体力を自分基準で考えてしまう癖があっての」

黒江は、赤松の教えた者の中では有数に『勉強熱心』であったが、休憩時間の間隔などの使い方などで経験不足であり、教導担当としては『青二才』である。そのため、赤松はなのはにメニューの微調整をさせ、最適化させる方法を取った。要望が届いていたからだろう。

「そっちに雁渕の妹はいるか?」

「いますよ。替わりましょうか?」

「いや、伝えといてくれんか。姉貴を説得して、新撰組に籍を移す事を承諾させたと」

赤松はひかりの才能を買っていたらしく、姉の孝美を自ら、何度も説得し、ひかりの前線部隊配属を承諾させたのだ。芳佳と同じフライトに入れる事が条件であり、孝美のシスコンぶりが示された。つまり、芳佳の『最強の防御力』と『治癒力』をダシにしたのだ。芳佳の治療力はなのはから見ても高い水準であり、シャマルをも総じて凌ぐ。これは精密さでは及ばないが、古傷であろうとも治癒できる、宮藤家の代々伝わる治癒力が加味されている。

「宮藤の治癒力を説得材料に使わせてもらった。ジョセというガリアのウィッチが自信喪失する勢いで強いからな」

芳佳の治癒力は、旧502のジョゼが匙を投げるレベルの負傷であろうと、一瞬で治癒される水準のもので、各次元世界を見回しても、稀有な力の持ち主である。そのため、ジョゼは治癒魔法は芳佳の補助に回り、戦闘要員に回ったほどだ。もっとも、それはロマーニャ戦以後の事だが。

「あの子の治癒力は凄いですからね。ウチに欲しいくらいですよ。それで、雁渕大尉はなんであの子と同じフライトに?」

「うむ。奴を見極めたいそうだ。宮藤は、坂本と竹井がスカウトしたが、元々は戦争嫌いで、お父さんっ子の子供だったからの」

「知っているんですか?」

「黒江のガキや穴拭の嬢ちゃんから話を聞いていたし、若い頃、父親の博士と会った事があったのでな」

「なるほど」

「宮藤の姿勢は生え抜き軍人なら、誰でも反感を持つ。が、誰もが一途さに憧れる。黒江のガキも言っとった。『あいつみたいに生きたかった』と。出世すると、どうしても真っ当な手段では物資などを調達出来んからの」

黒江が芳佳を可愛がる理由は、『宮藤博士の忘れ形見』という点もあるが、自分にはできなくなった『真っ直ぐな生き方』に憧れていた心理も働いている。芳佳の一途な心は、黒江や智子達にも大きな影響を与え、彼女達がヒーロー達を真っ直ぐに信じる心理の源になっている。そして、それが本郷達に『23世紀を生きる決意を固めさせる』など、巡り巡っての影響を各所に与えている。本郷猛=仮面ライダー一号は自分らの後継者と言える、『BLACKRX』の存在から、戦いに舞い戻るかを躊躇していた。だが、ストロンガー=城茂からの報告で『自分を慕ってくるガキがいる』と報告を受け、直接会った事、クライシス帝国に食い下がる姿に決意を固め、一号ライダーに変身し、助けた。その際に、黒江(当時、13歳相当)の『純粋に自分へ憧れる』視線に、『子供を泣かせるわけにはいかんな……』と感じたらしく、サイクロン号に乗せて、自身の邸宅で世話した。それが本郷が、本格的にクライシス帝国と戦うきっかけの一つとなった。本郷は元々、誰にでも優しく、正義感が強い性格であった。戦い続けていた事で、『俺は肉体でなく、心に年を取らせていたようだ』と実感したようで、かつての明るさを取り戻し、今では、スリーレイブンズ、その中でも『二バカ』と茂が呼ぶ二人の良い父親代わりとなっている。

「雁渕は間接的にとは言え、あちらこちらに、特に伝説とまで言われとった、奴の先輩格まで影響を与えた、宮藤をそばで見たいんじゃろ。どんな人間なのか、どんな事を考えているのか」

「ああ、あたしにもそういう経験はあるんで、分かります」

「お前がそうであるように、出るからな。戦乱の世には、格別の存在感を放つやつが。かつての戦国三傑、三国志の英傑達……」

――戦争の時代には、たとえ兵器が進化しようと、格別の存在感を見せる戦士なり、指揮官が現れた。21世紀頃には鳴りを潜めたが、未来世界では、22世紀頃から『復活した』。この世界における『英雄』は自分達という自覚があるらしかった――

「そんな者が持つ引力は想像以上にデカイ。歴史を動かす程に。黒江のガキは、歴史を変えるキーパーソンだろう宮藤、あるいはその身内と関係を持つ事で、改変のトリガーを引いた。それはお前も知ってるだろう」

「はい。あの子がこの世界、いや、この世界の基盤に必要な存在だと?」

「かもしれん。名前も、役割すら違う人間も多いのに、奴だけは同じような立ち位置にいる。特異点って奴かもな。歴史改変でも消えない存在ってよく言う」



芳佳は、ウィッチ世界の歴史を動かす重要な存在であり、歴史改変されても、運命がそれほど変わらないし、存在が消えることもない『特異点』に近い存在であろう。他には、なのは、のび太、仮面ライダー一号、兜甲児、流竜馬などがそれに該当するだろう。歴史を大きな流れとするなら、それに必要となる『モノ』。なのはは赤松の推測に頷く。自分もその節があるらしいのを悟っていたからだ。

「もしかしたら、そっちに現れた『マジンガーZのバケモノ』は、Zの『操縦者達も、自分の後継者達に愛情が移って、いつしか忘れ去られてしまう』恐怖が暴走して生まれたのかもしれんな」

「Zが恐怖を?」

「そうだ。Zは、グレート、マジンカイザーと言った後続機達に道を譲る事が怖かったのさ。それで『創造主の願いを歪んだ形で解釈した』……ZEROが最後に産み落としたガキは、ZEROに僅かながらあった善性が『償い』のために生み出した存在かもしれん」

その少女こそ、マジンガーZの力を持つ少女、『Z』。ZEROが最後の力で産み落とした『善性』の象徴。なのはは『目覚めた』という報告を、赤松との通信中に聞くことになる。その少女が持つ力は、正にマジンガーそのものであり、なのはも手を焼く事になるのだった。



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