外伝2『太平洋戦争編』
五十一話『勇気、力、真実』


――フェイトは今回のウィッチB世界では、魔導師としてよりは、聖闘士として振る舞う事の方が多く、ラルに対して以外には格上として振る舞っていた。実際、聖闘士としての実力も高く、当代の黄金聖闘士としては上位に位置している。神を滅した星矢達に比すれば落ちるが、充分に黄金聖闘士としての器であった。

「うーん。あの人の実力、どれだけのものなんだろうね?」

「当人曰く、『中の上くらいだろう』って事だけど、最高位の闘士でも実力差があるっていうのは不思議だなぁ」

「任じられる星座による。私は獅子座で、聖闘士としてはオーソドックスな拳による攻撃が主体だが、中には超常現象を当たり前に起こす者、積尸気を操る者もいるからな」

「フェイト……さん」

聖闘士になってからはラフな格好で通す事が多いため、普段着は生前のアイオリアが着ていたものに近い。彼の影響によるものだ。凍気にも耐えられるようになったためか、ノースリーブである。

「寒くないんですか?その格好」

「聖闘士になれば、絶対零度に近い凍気をぶつけられる事も日常茶飯事なのでな。この程度の寒さは感じんようになったよ」

「おっそろしい」

「伯爵、確か、怪異の巣の消滅の謎を隊長が知りたがってたな?」

「そうだけど?」

「この情報を渡してやれ。ブリタニアの極秘情報になってるが、こちらでは周知の事実なのでな」

それはウォーロックと宮藤芳佳に関する全情報だ。異なる世界と言え、大まかには同じような経緯を辿っているため、情報の共有も可能である。宮藤芳佳の事は、B世界では司令部の汚点に結びつくためにひた隠されていたが、A世界から来たフェイトが妹弟子にあたる芳佳の全資料を与えたので、ラルは事のあらましを知る事となった。マロニーの更迭への報復か、宮藤芳佳に責任を追わせる形になった事に憤りを見せたラルはすぐに、501の残務整理の責任者になったガランドに通達、ガランドBもその経緯を鑑み、宮藤芳佳の咎を『無かった』事にし、扶桑皇国に圧力をかけた。その結果、芳佳Bの咎は『脱走の日に遡って取り消され、逆に准尉への特進となった。(咎が無くなったため、現役の扱いに戻った)

「宮藤芳佳……か。宮藤博士の遺児で、あの坂本美緒少佐の秘蔵っ子。凄い経歴だね」

「こっちでは直枝の僚機を務める俊英で、空の宮本武蔵の諢名を持つ。ここではそうはならんだろうが、それでも扶桑の次代の撃墜王だよ、こいつは」

「今回の事件で、扶桑からは何人が行方不明になってる?」

「後はこの三人だ。お前の世代は知らんだろうが、かつてエースとして鳴らした三人だ。伯爵」

「エクスウィッチって奴だね」

スリーレイブンズは、A世界では『伝説の英雄』だが、B世界では『前時代のエースだった三人組』でしかない。その違いが表れた一幕だった。B世界では、三人のごく親しい者しかその消息を探して無かったり、マルセイユが憔悴している程度だ。智子と黒江は、本国の武子(黒江の捜索)とハルカ(智子を)が半狂乱状態で探している程度だが、圭子はロンメル、パットン・モントゴメリーの三人が全力で捜索している。重要度にかなりの違いがある。

「いや、全員がこっちでは現役バリバリだ。それと、一人は私と同じ黄金聖闘士で、私のウィッチとしての師でもある」

「な、なんだって――!?」

コーヒーを盛大に噴き出す『伯爵』。と、そこに孝美がやってきた。

「フェイトさん、ラル隊長がお呼びです。何を渡したんですか、隊長に」

「この時点での極秘情報だ。それとこちら側に来てしまった者のリストだよ。お前も見るか?」

リストを見ると、スリーレイブンズの名があるのに気づいた。

「穴拭智子、黒江綾香、加東圭子……!?そんな、どうして先輩方の名前が?」

「たぶん、巻き込まれただけだろう。綾香さんはテスト中、ケイさんは偵察、智子さんは教練の最中にな。こちら側と違って、ここでは引退して、ケイさん以外は前線任務にはついていないはずだからな」

「こちら側とは?」

「あー……こちら側では現役バリバリの撃墜王でな、扶桑の撃墜王ランキングのトップ20の常連だよ」

「なぁ!?」

「()とついているのは、こちら側の現時点での階級だ。みんな佐官に任じられているからな」

「!?」

――A世界では、智子も階級が進級し、少佐になったため、スリーレイブンズの全員が佐官になった(改変前よりも戦功が多いため)事になる。そのため、B世界での当人達のそれまでが嘘のような速さで、大佐に登り詰めた圭子、中佐の綾香、少佐の智子となる。もっとも、少佐→中将へ一夜にして任じられたラルAほどでないが――

「ど、どうしてですか?なぜ先輩方が今頃になっても……」

「上がり問題が条件付きで解消されたからだよ、孝美。その被験者に三人は初期の内に任じられ、その実験の影響で体質が変化し、魔力が一生、減退しない体質になっている。副作用も色々あったがな」

「副作用!?」

「特に智子さんには顕著に表れた。このブロマイドを見てみろ」

「え……?」

フェイトが証拠も兼ねて持っている一枚のブロマイド。それは智子のブロマイドだが、この当時は貴重なカラー写真である上、髪の色と瞳の色が全く異なる。まるで別人だ。覚醒発動時の様子であるためだ。

「これが……扶桑海の巴御前と謳われた穴拭智子先輩……!?」

「そうだ。彼女が新たに得た固有魔法『変身』だよ」

「覚醒系の魔法を先輩が!?」

「ああ。お前の絶対魔眼と違い、体への負担もなしに全ての能力が飛躍するし、ストライカー無しでも飛べる」

「この姿だと、さしずめ“扶桑の雷神”ってところかしら?」

「いや、当人は炎神を自称してるよ。雷神はむしろ、綾香さんのほうだな」

「似たようなものじゃ?」

「あった。これだ」

「な、なんですか、これぇ!?」

雷と風を纏った斬艦刀を構える黒江のブロマイドも見せる。しかも黄金聖衣姿での。

「綾香さんの聖闘士としての姿だ。あの人は山羊座(カプリコーン)の黄金聖闘士でもあるからな。それでそうなった。腕には聖剣を宿しているしな」

「せ、聖剣!?」

「アテナより賜った『カリバーン』を、あの人は『エクスカリバー』と『エア』に進化させ、『二拳二刀』の異名で知られている。その片鱗だよ」

「二拳二刀……!?」

「あの人が本気を出したら、次元の境界すら断ち切れる。その力を使い、刀を変形させられるんだ。それがその斬艦刀だ」

「斬艦刀……!で、この甲冑が山羊座の黄金聖衣。ヘッドギアつけていないんですね?」

「あの人はヘッドギアつけないで戦うのを好むからな。戦闘能力では智子さんと双璧だ」

「確かに……」

黒江はAとBとで、決定的に戦闘能力の差があるし、Aは感情の起伏も激しい。そのため、Bはホテルで死ぬような目に遭い、失禁しかけている。黒江の感情の起伏具合はBから見ると、相当に激しかったようで、武子の事情聴取に怯えながら答えるほどだった。

(言えないな。ここの綾香さんが『同一人物』にぶち切られて、本当に怯えたなんて。一時はトラウマになりそうだったし)

事の発端は単純明快だったのだが、フェイトも『まさか、別の自分にここまでぶち切れるか?』と引くほどに、黒江Aはぶっちぎりにキレていた。逆鱗に触れたらしく、『廬山龍飛翔』でふっ飛ばそうとしていた。当の本人でさえも『精神科受診しようかな……』と悩み、圭子が連れて行ったのだが、そこであーやの存在が分かったのだ。この事件はBを酷く怯えさせ、しばしホテルに引きこもるほどのショックを与えた。その際に叩き込もうとした『廬山昇龍覇』と『廬山龍飛翔』。Bが喰らえば、重傷は間違いない。そのため、B達は黒江Aを『怒らせたら怖い』と認識したという。同時に黒江Bが、智子Bと友情を結ぶきっかけともなった。智子Bが庇ったからだ。怒髪天を突く勢いのAがなんとか止まったのも、智子Bの言葉のおかげだ。

「でも、あがりをどうにかするって……出来る事なんですか?」

「こちらでのウィッチは誰もが『魔力供給器官』があって、あがりはそれが不活性のままで、魔力を使い果たす事で生じる現象である事が分かってな。体の時間そのものを操作するか、器官が活性化することで解決できた。生まれつき、それが活性化している一族もある。その最たる例が、宮藤芳佳だ」

「あなたもそうなんですか?」

「そうだ。が、私は元々、全く別の世界の出身で、地球人ですらない。さらに言えば、人工的に造られた人間だ。あるウィッチが死んだ愛娘を蘇生させたいがために作った、な」

フェイトは元々、プレシア・テスタロッサの一人娘『アリシア・テスタロッサ』の体細胞から培養されたクローン人間である。元から、アリシア・テスタロッサの死亡時と同じ年齢の肉体を持って誕生したので、フェイト・テスタロッサとしての実年齢は、外見上から五歳引いた年齢になる。P・T事件の一端を担った咎人である故、管理局に献身的だったが、メカトピア戦争でのなのはの行方不明をきっかけに管理局へ疑問を募らせ、更に高校までの地球暮らしで地球人としてのアイデンティティを確立させたので、ミッドチルダ生まれの地球人を自負している。更に、現在は管理局に在籍している理由を『内部改革のため』としていて、忠誠心は無く、黄金聖闘士になったのもあり、実質的には『地球人である』ことを選択している。

「が、地球に長く暮らしていて、実質的に故郷になったよ。私が生まれた地は治安が良いとはいえんからな」

「地球には何年?」

「もう10年近い。異世界を行き交う仕事をしていると、何かと苦労も多くてな。自分自身の同位体にさえ会った事もある。で、先程やってきた艦隊は、その中でも最高レベルの文明を持った地球の宇宙艦隊だ」

「う、宇宙!?」

「ある一定の文明レベルになると、人は母星の人口問題やエネルギー問題の解決を宇宙に求める。色々なきっかけで、23世紀には宇宙大航海時代を迎えた世界の宇宙艦隊があれだ」

「でも、23世紀って言ったら、たった数百年だよ?そんな短期間に、あんな宇宙戦艦が作れる物なのかい?」

「あれは戦艦でない。重巡洋艦にすぎんし、今回の艦隊は水雷戦隊で、戦艦の戦隊ではない。戦艦ともなると、もっと凄いものが山のようにある」

「うへぇ」

「更に言うと、この世界のように、最後の対人戦争がカールスラント・ガリア戦争な世界のほうが希少だ。それに本来なら、伯爵。お前の国と扶桑は世界大戦を挑み、今頃は青色吐息に追い詰められてるし、それに十年もかからず人類は宇宙に手を伸ばす。60年代には月に足を踏み入れるんだぞ」

「世界……大戦?」

「残酷だが、多くの世界では、1910年代と1939年に起こる。どちらもカールスラントが引き起こし、いずれも負ける。扶桑も戦前の体制が1945年8月15日を以て崩壊する」

「!!」

――世界大戦という単語はウィッチ世界では夢物語だが、多くの世界では20年で二度起こり、後者は日独伊の戦前の体制が崩壊し、日本に至っては武装解除させられた状態を国是とし、慌てて自衛隊を作るという運命となる。その歴史は扶桑国民に少なからず、多くの世界で覇者となるアメリカ合衆国の同位国『リベリオン合衆国』を嫌悪する思考を埋めつけ、それが一部軍人らの捕虜虐待に繋がっている。そのため、亡命政府は謙虚に振る舞う事で、その悪感情を軽減させようとしている。アイゼンハワーはその悪感情に苦労しており、全軍の兵・将校に至るまでの『自分の文化を他国に押し付けない』再教育を行っている。特に愛国心が強い者が亡命軍であったため、それが最大の懸念事項であった。が、アメリカ合衆国の『アメリカナイズ化』は元々が列強だった日本以外では失敗に終わり、衰退に向かっていく歴史を客観視することで、ハルゼーとルメイですら鳴りを潜めている。

「2つの世界大戦の大きな犠牲と引き換えに、平時の10年分以上の進歩が6年ほどで起こり、有人ロケットを打ち上げるし、1954年ごろには飛行機は超音速が当たり前になるし、電子計算機、俗に言うコンピュータなんてものさえ現れていく。それが本来、あるべき歴史だ」

「どうしてそう言えるんですか!?」

「確かに、両方で膨大な人は死んだ。が、それと引き換えに科学技術は飛躍した。もっと凄い戦争など、あの艦隊の世界ではいくらでも起こっている」

――両方の世界大戦が目じゃないような数が死んでいったのが、未来世界の22世紀末期からの戦乱期である。特に一年戦争からの流れでは、少なくとも数十億は死んでいる。コスモリバースシステムでの蘇生を差し引いても、10億以上は確実な死者に数えられる。孝美はショックで顔色を失い、伯爵も息を呑む。

「宇宙移民というだけで反抗して戦争を起こし、巨大な人工物を地球にぶつけるって光景も日常茶飯事だ。大穴が空いた大陸だってある。君達が考えている以上に、世界は残酷だ。ある時突然、戦争という魔物が日常を飲み込む。それが怪異であるか、同じ人間であるか、それとも異星人であるか、神であるかの違いはあるが」

「あなたは見てきたように言うけど、それを体験したんですか!?」

「そうでなければ、黄金聖闘士になど、なってはおらんよ。人間を滅ぼそうとする神など、オリンポス十二神や北欧神話、ギリシア神話などにいくらでもいるからな。聖闘士はそのために存在する」

まるで、アイオリアのような口調になっているフェイト。フェイトはアイオリアと分離して以後も、彼と同化していた期間が長かったため、アイオリアの魂の残った一部がフェイトの魂と一体化したため、アイオリアのような口調になる事がままある。


「神と言っても原初の神以外にも。事象を司る物や人の魂が、祈りで高められたもの等色々有るがな。強大な力で勘違いして神を自称する様なのも居るがな。お前たちが人々の笑顔を守るために、ウィッチであるように、『俺』も聖闘士として、ある人から獅子座(レオ)を受け継いだ使命を果たす。それが『俺』が聖闘士である理由だ」

その最たる例が、聖闘士としての意識が強い時は、一人称が『俺』になる事がある(普段は私)事だ。アイオリアの置き土産とも言うべきもので、アイオリアの拳の技能を受け継いだ事に伴う副作用である。なので、最近は女性局員からの人気が高い。なお、フェイトはデフォルトでアイオリアの技能を受け継いでいるが、箒が彼の兄『アイオロス』の拳の技能を受け継いでいる事もあり、技を互いに教えあったため、フェイトもこの頃には射手座の闘技を放てる。

「俺は獅子座だが、他の星座の技も使えん訳ではない。機会があったら見せよう」

そう示唆し、二人のもとを去る。フェイトの実力の底知れなさに身震いする雁斑と『伯爵』。フェイトの一人称がいつの間にか『俺』へと変化しているのに首を傾げつつ、ラルからの通達を待った。


――ラルの執務室――

「……貴方がフェイトの言っていたスリーレイブンズの一人ですか?」

「そうだ。やりにくいったらありゃしねー。君はこちらだと中将閣下なものでね」

「それはやめて下さい。小官はこちらでは少佐に過ぎませんので」

ラルは黒江が自分を『目上』として接してきたので、普通に少佐として接してくれと頼み込む。中佐の階級章を持つ者に『閣下』と言われるのは変な気持ちになるし、上層部のスパイが聞き耳を立てているやもしれないからだ。

「では、『少佐』。結論から言おう。君らは我々の戦争に巻き込まれている。それもかなり深みにだ」

「深み、といいますと?」

「既に君の世界の者たちは、こちらでの戦争に駆り出されている。この私自身を含めてな。そのため、敵が暗殺者を送り込む事が考えられる」

「馬鹿な、別の世界に人を送り込むなど……」

「こちらが行っている以上、敵も行うのは当然だろう。そのため、フェイトを就かせた。あいつなら、そんじょそこらの兵士一個大隊より頼りになる」

「あなたの弟子だそうですね、中佐殿」

「話せば長いので省略するが、とにかく、そうだ。私もあいつと同じ『神の闘士』だ。それでいて、ウィッチでもあるがな」

「しかし、にわかには信じられませんな。あがりの問題が条件付きで解消されたなど」

「彼らのテクノロジーは見たんだろう?少佐」

「ハッ。ですか、小官は信じかねます。時間を操作できるなど」


「あー、フェイト、そこに灰皿があるだろう?破片が出る程度に砕いてみせろ」

「了解」

灰皿を小突いて、破片が出る程度に砕き、おもむろにタイムふろしきを取り出す。サイズはハンカチ程度だ。かぶせた数秒後、灰皿は元に修復された。割れてなかったように。

「!?」

「この通り、私らはこのテクノロジーを人間に応用した実験で、魔力が発現して間もない頃の状態、あるいは絶頂期の状態に肉体を若返らせ、任務に復帰した。我々はそのウィッチを『リウィッチ』と呼んでいる」

「リウィッチ……」

「戦争の様相が対人戦に移行するに従って、世代交代のルーチンが崩れた結果、我々のような老兵に頼らざるを得なくなった結果、定着した概念だがな」

黒江は『老兵』という言葉を使うことで、ラルの抵抗感を和らげようとした。実際、A世界では用いられている表現だ。

「昨今のウィッチは怪異相手であれば戦えるが、軍隊の本懐たる対人戦では未知数ですからな。中佐殿はどうだったのです?」

「むしろ、奴さんの世界で従軍することが条件だったから、人を殺すのに『慣れちまった』よ」

すっかり忘れられているが、リウィッチ化の交換条件は『地球連邦軍への従軍』である。リウィッチとなった者は例外なく、メカトピア戦争〜デザリウム戦役に従軍している。その過程で、ジオン残党の掃討に駆り出されたりしている。また、自衛隊にも出向した者は……。

「別の出向先で軍にあたる組織が警察官の職務執行法を準用してて、その理念を聞いて人を撃つ事に納得出来る様になったしな。当然、誰もが反感は覚えるが、それなりの理念や理由がある。それを理解すればいいんだがね」

黒江らは自衛隊などに属する内に、人を撃つ理由に整理をつけたのがわかる一言だった。また、聖闘士として戦うことを決意してからは信念に従って拳を奮っている。自衛隊に潜り込んだり、地球連邦軍の一員として生き、聖闘士になることは、黒江を成長させたのだろう。

「中佐殿、正式な顔合わせはいつになりますか?」

「わからん。こっちは作戦行動中だからな。とにかく、こちらの作戦が終わらん事には時間が取れん。それまで管野は借りとくぞ』

「了解しました」

「埋め合わせはあの艦隊で十分だとは思うが、向こうの司令とよく打合せしてくれ」

と、丸投げである。しかし、黒江としても動けない状態なのだ。通信を終えると、ブレイブウィッチーズは前線に駆り出され、その小隊の指揮を孝美が任されたのだが、妹が共に出ている事を不安に思うのが動きに出たか、地上からの対空砲火の雨霰を浴び、不時着に追い込まれてしまう。

「お姉ちゃん!」

「ひかり、来ては駄目!」

「で、でも!」

「これは私のミス……私自身で取り返さなくてはならないの。あなたはみんなを……!?ひかり、うしろ!」

「え?」

ひかりの背後からビームが発射される。ひかりの回避も防御も間に合わないタイミング。孝美はこの世の終わりのような表情で絶望するが……。

『ケイロンズライトインパルス!!』

その怪異は突如として吹き荒れた暴風に飲み込まれて吹き飛ばされ、あらぬ方向にビームが放たれた。

「大丈夫か、二人共」

「フェイトさん……?」

「やはりお前はこの世界でも、妹の事になると周りが見えなくなるな。それがお前らしさなのだろうが……」

「お姉ちゃん……」

「いえ、その、あの……い、妹の前で変な事言わ……」

「そのような事言っとる場合か。さて、俺の後ろにいろ。巻き込まれるぞ」

フェイトは赤面する孝美を軽く流し、次の技の態勢に入る。

『キングス・エンブレム!』

広域に放射される黄金のエネルギー波が、接近する陸空の怪異を飲み込んでいく。地を割り、抉りながら。しかも大型怪異も有無を言わさずに粉砕していく威力だ。

『ライトニングファング!』

続いて、地面に拳を叩きつけ、そこから広域に放電し、その電流が敵を焼き払う。そして、驚いた事に、ストライカー無しで空を飛んで見せる。見たこともない魔法陣を展開させて離陸する。さらにバルディッシュを取り出し、ザンバーフォームで展開したので、黄金聖衣と重なって、目立つことこの上ない。

『久しぶりにやるか!雷光一閃、プラズマザンバーァァァ……ブレイカァアアアア!!』

単騎で発動させるのは、実はこの時が初めてなこの魔法。威力はなのはのスターライトブレイカーに引けを取らない強力なモノで、この地域にキノコ雲を発生させるほどの威力である。時空管理局がウィッチ世界にアドバンテージを持つ所以は、このような強力な攻撃魔法を体系だって確立させている事である。更にフェイトが小宇宙で威力を増幅させた事もあり、余計に威力が向上していた。(カートリッジ消費量は小宇宙との併用で減っている)

「こんなものか。試しにコスモで威力を強化したが、いけるな」

手応えを感じるフェイト。

「凄いです、フェイトさん!あんな魔法が使えるなんて!!」

「だから、ウィッチでもあると言ったろ?」

バルディッシュ・アサルト改をザンバーフォームで担ぐフェイト。黄金聖衣との組み合わせは最高に映える。彼女は反則と言えるほどに強い。その事実が実戦で示された。報告をどうすればいいのか、孝美は悩むのだった。(聖闘士は基本、拳で戦うが、この時はフェイトの私物を使った扱いになる)



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