外伝2『太平洋戦争編』
五十三話『永遠ブルー』


――1948年。黒江は山本五十六の臨終を看取り、その悲しみが癒えぬ間に作戦に駆り出されていた。その精神は疲弊しており、それが祖国を裏切った同期らへの激しい破壊衝動となって表れた。それは作戦が始まる数日前の事。

『廬山真武拳!!』

敵となって表れた同期の航空魔女たちへの破壊衝動が暴走し、聖闘士としての本気の一撃で彼女らを攻撃する。しかも怒りで理性が半分吹き飛んだため、情け容赦ない攻撃ぶりであり、相手が泣き叫ぶほどに痛めつけていく。

「な、なんだ……く、黒江から感じるこの激しい闘気は……」

『ダイヤモンドダストぉぉ!!』

黒江はダイヤモンドダストを使い、相手のストライカーを纏う足を凍結させ、エクスカリバーで綺麗サッパリ切断する。

『フリージングコフィン!!』

黒江は逆行する前、転向を見据えた際に、水瓶座の修行を積んだ事が後期頃にあり、その成果により水瓶座の闘技が使える。が、背中の朱雀から、紫龍の交代要員としての天秤座となったので、闘技は使えるが、転向しなかった。その修行の名残りだ。フリージングコフィンで永遠に仮死状態に置かれた者、廬山真武拳で土手っ腹をぶち抜かれ、苦しみ悶えながらのたうち回る者と千差万別だが、一撃では殺しておらず、苦しみを与えるあたり、サディストの気も窺える。聖闘士として生きた年数が長かった故の成果だが、乙女座は仏門などの修行も必要なためと、瞬がいるので、除外していた。だが、それでも黄金聖闘士は死した後も、人間界に生前の肉体の姿で表れる事ができる場合がある。それは黄金聖闘士でも、生前、特に強い力を持つものに限られ、当代最強クラスを謳われた乙女座のシャカは死後も度々現れているし、前教皇の『牡羊座のシオン』も『ゼウスの使いっ走りになった』と自嘲しつつ、教皇不在の聖域に姿を見せた事がある。



――ハーデス戦が終結した後、歴代の教皇が度々の内乱の温床となった事を鑑みた城戸沙織=アテナは教皇を置かず、直接統治に切り替え、外部の人材を黄金聖闘士に登用する決断も下している。冥界がハーデスの肉体の崩壊で消滅し、この世とあの世の秩序が乱れる事を危惧したゼウスの協力により、当代黄金聖闘士の何人かがゼウスの配下として送り込こまれた。その内の一人が特別枠にねじ込まれた、前教皇のシオンであり、絶頂期の姿で舞い戻る事になった。神々は気まぐれで黄金聖闘士を度々、甦えさせる事があるが、今回はゼウス直々の意思で蘇った者が聖域に舞い戻る事になった。そのため、黒江の逆行は『彼ら』に許可を仰いだ結果、認められた事によるものでもある。この世界のこの時代にも、聖域の統制は行き届いており、聖域の指令が届き、その命令でスリーレイブンズが動くことは度々あった。例えば、ロマーニャ決戦前、黒江は聖域からの『ロキ討伐』の命を受け取り、その時点から闘技を解禁している。今日でも、指令は引き続き有効である。ロマーニャの決戦直後には沙織が直接、姿を見せていた。





――三年前 ロマーニャ――

「沙織さん、いや、アテナ……。このような所までご足労頂き……」

黄金聖闘士である黒江、それとその後継にあたる翼がそれぞれ黄金聖衣を纏い、片膝ついて最敬礼している。城戸沙織の肉体年齢は中学生なのだが、神の化身である故の端正なプロポーションで、とてもそうは見えない。事情を知る者達は皆、畏まっている。遅れてやってきたミーナは怪訝そうな表情を見せるが、ハルトマンとマルセイユが急いで指示する。

(ふ、二人とも……これはいったいなんの騒ぎなの……?)

(オリンポス12神が一人、アテナのお成りだよ!はやくしてよ、ミーナ!先方に失礼でしょ!)

(え、お、オリンポス!?)

(いいから早くしてくれ!粗相があっちや、ウチの沽券に関わる!)

この時は沙織と『城戸沙織としての』執事の『辰巳徳丸』、護衛は青銅聖闘士の『一軍』で唯一、手すきだった一輝が護衛としてついていた。これは白銀の生き残りの魔鈴とシャイナは動かせず、他の青銅聖闘士の一軍は各地に散っており、一輝が動くしかなかった事が大きい。

「一輝、まさかお前が護衛なんて仕事をやるたぁな」

「お嬢さんを護衛なしで行かせられんからな。邪武達では不測の事態の際に対応できんからな」

当代青銅聖闘士は実力差がはっきり生じており、当初は星矢のライバルを目された一角獣星座の邪武以下の他の青銅聖闘士が束になったところで、黄金聖闘士の後継に指名された今の星矢達に一蹴される程度でしかない。ましてや現時点の青銅最強とされる一輝の前では、鍛え上げられた屈強な成年男子と生まれたばかりの赤子ほどの差がある。

「あいつらとお前らじゃ、肉食恐竜とダミくらいの差があるからな。お前、15年位で獅子に昇進だって?」

「まだ正式な決定ではないがな。サガの乱の事もあるから、遅めになるのは確実だが」

一輝は次代の獅子座の黄金聖闘士に内定しており、『然るべき時』、フェイトから受け継ぐ事になっている。それが遅めなのは、サガの乱の教訓によるものだ。

「今の聖域には教皇は置かれていないし、サガがあれこれしてくれたおかげで混乱が起き、それへの周りの村への言い訳もあるからな」

「サガって、どんだけやらかしたんだ?」

「幸い、教皇として振る舞っていた時は善の人格だったから、目立った悪行はしていなかったが、死んだ後、色々と近隣の村々に混乱が起こってな」

「なんかプライド高そうだしな、サガって」

――双子座のサガは、善悪の差がありすぎた事、双子の弟『カノン』の囁きが悲劇のもとだった。それは先代の『カイン』と『アベル』でも同じであったので、双子座は何かしらの相克に悩むのがお約束である。サガの場合は教皇としての仕事自体はこなしており、教皇シオンの存命時の晩年期は200歳を超える老齢だったのに対し、サガは死亡時でも28歳と若齢であるため、公務をこなす速度は早かった。聖闘士は数百年を生きられるが、その中でもシオンは長めの存命期間を誇る。(因みに、最古の記録として、前聖戦時に500歳を超えていた元水瓶座の黄金聖闘士のクレストとの事)

「此度のロキ討伐の任、大義でした」

「ハッ。ですが、討伐は果たせず、申し訳ありません」

「貴方方のおかげで、ロキは大きくダメージを負っています。当分は依代となった者の中で回復を図るでしょう。それだけでも大きな成果です」

「ありがとうございます。それとご報告したいことが」

黒江は沙織に敬語で接し、ルッキーニが仔馬星座の聖衣を纏った事を報告する。この聖衣は、別の世界では『聖闘少女』(セインティア)と呼ばれたであろう、アテナ直属の女性聖闘士が受け継ぐ聖衣であり、その存在がない世界でも、女性用聖衣として存在していた。また、聖衣を纏ったルッキーニは、その性格に変化が生じており、声色も似ていると評判のスバル・ナカジマにより近いモノに変化しており、孫娘のトリエラに近くなっていた。その変化はこの時に顕著に表れ、ルッキーニとは思えないほどに、普段からは声のトーンが下がっていた。そのため、ミーナや坂本、シャーリーは激しく動揺していた。

(え!?ルッキーニさん、どうしたのよ、あ、あれ!?)

(あれを着てるから、キャラ変わってるんだよ。ったく、調子が狂うぜ)

(おいおい、聖衣というのは、キャラまで変えるのか?)

(綾香さんだって、普段と調子変えてるだろ)

(それはそうだが)

三人はそれぞれ視線と表情、アイコンタクトなどで意思を伝える。この時、ミーナには労いの言葉が述べられ、更に501にアテナの加護が付く事が伝えられた。一輝は威風堂々とした佇まいだが、実はまだ10代半ばであることが聖闘士でないほぼ全員に突っ込まれ、『老け顔』と言われてしまったとか。また、偶然に起こった怪異の奇襲に際しては、鳳翼天翔の一撃で離れた場所から粉砕し、その実力の片鱗を見せた――




――黒江は精神的に不安定なところが多数見受けられるため、周りのサポートが必要であった。聖闘士としては先輩にあたる一輝や紫龍、瞬などから助言をもらう事が多々あった。そのため、スリーレイブンズの残りの面々は補助要員的扱いで、聖域へ出入りできるようになり、星矢達とは48年までに知り合っている。ただ、星矢は廃人に近い状態であったので、ちゃんと面識があるのは他の4人に留まる。黒江は位階こそ最高位だが、精神的には、幾多の聖戦を戦い抜いた星矢らに及ばないと言える――



――作戦中、あまりにも膨大な敵機に、コスモストライカーでは対応仕切れないと踏んだ黒江は、補給という名目で、アルバトロスに戻った後、黄金聖衣を呼び出して纏う。今回はちゃんと山羊座である。そして、その力を発揮し、一人でウィッチ一個飛行師団以上の戦力として振る舞う。

「勝利を約定せし聖剣!エクスカリバ―――!!」

エクスカリバーで敵機を薙ぎ払う。こういう一対多の局面にエクスカリバーは重宝する。使う時に聖衣を纏うのは気分の問題だが、100機単位で落としていくのは爽快感すらある。聖衣を纏っていれば、両足が自由に使える利点が生じるのもあり、黒江は聖闘士として戦う。

「あれが先輩が継いだっていう聖衣……」

「そうです。あれが山羊座の聖衣。アテナに忠心深い者が纏うことを許されるそうです」

「それじゃ先輩は……」

「当代最高級の忠誠心持ってるそうです」

「聖闘士って言っても、全員がアテナに忠誠誓ってるわけではないのね…」

孝美は、芳佳から説明を受ける。聖闘士に関する事や、黒江は割と他人の黄金聖衣を借りて着る事が多い事など……。また、山羊座の黄金聖衣は『女神に忠篤い者しか纏えない』というのも説明されたため、黒江の聖域への忠誠心の高さを知ったわけである。


「うおりゃあ!」

手刀で戦闘機の翼を切り、墜落させる。このような時、黒江は『水を得た魚のように』働く。ウィッチとして鳴らした故、自分の限界に気づき、聖闘士にたどり着いた。それは芳佳やなのはという『才ある妹分なり、弟子』を持ったからこそ、気付かされた事であった。スリーレイブンズはほぼ全員が、『自分を遥かに超える魔力の素養がある』弟子や妹分を持ったため、武術の様々なジャンルに手を出した。黒江はその内の大きなものが聖闘士であった。努力の甲斐あり、山羊座の黄金聖闘士になったものの、元々の精神の不安定さ故、幻朧魔皇拳や鳳凰幻魔拳にかかりやすい事は一輝から指摘されている。その事もあり、智子に依存気味だと言えた―




――無謀とも言える作戦を支えているのは、昭和仮面ライダーらの入念な諜報活動だった。一文字隼人は現在、肉体の外見を30代に変えており、腹が20代時より出てきているのをネタにされている。本郷も30代の外見に変えたので、以前より筋肉隆々の姿になっており、副業で空手道場の講師をしている。意外とピッタリであるので、風見からネタにされている。

「一文字、ブリタニア艦隊が出港したぞ」

「思ったより早いご出陣だな。死にゆくジョージ六世への手土産と言ったところか」

「まさか、45000トン級空母がイギリスにあったとはな」

「こちらだと、大戦の終結による『大英帝国の終焉』で作れなかった空母だよ。だから、子供でも買える本に載ってるぞ」

ブリタニアは、戦艦戦力を大増強したのと引き換えに、いくつもの『手頃な空母』を諦めた。その代価として、戦艦と同時に建造されていたのが『ジブラルタル級航空母艦』である。急速なジェット化で戦前から1943年度までの計画の全空母が陳腐化してしまったため、その代替として、44年度に計画されて建造されたのが同級だ。ただし、当初と違い、バルバス・バウとアングルド・デッキの採用がなされており、満載排水量はミッドウェイに匹敵する。艦載機もシービクセンの機銃搭載型とバッカニアなので、この当時のブリタニアとしては最高性能機を揃えている。当時、扶桑は既に、戦闘機の主流がより高性能な超音速機になりつつあったので、シービクセンは些かの旧世代感はある。だが、当時のブリタニアの財政とパイロットの不慣れもあり、シービクセンは当面の主力機として運用される事になっている。これは当時のブリタニア海軍には練度良好なパイロットもウィッチもおらず、より後世のファントムを持ち込んだところで『猫に小判』か『豚に真珠』である事が関係している。更にレシプロ複座戦闘機に飽き飽き気味の当時のパイロットが単座機指向だったのもあり、当時はファントムの早期採用が見送られ、国内産業の堅実な育成も兼ね、時代相応の機体にしたのだ。

「あの子達のとこを取材しに行ったが、カオスってたぞ。F-8とF-4E、A-7、それに日本のF-2とF-15J、F-14のOTM型だぞ。最近は自衛隊のF-1の評価試験まで押し付けられたとか」

「なんだその混沌としてる様子は」

「分離した海軍航空隊は『ジェットのテストパイロットに相応しい技量のパイロットがいない』とかで、次世代機の評価試験とかいう名目で保有が許されたらしい。だから、海軍機まであるんだよ」

「あの子達は空軍じゃなかったか?海軍機を扱えるのか?」

「連邦で鍛えられたから、ばっちりだそうだ。おかげで多忙らしいぞ」

「大変だな。あの子達の基地が、元は戦略爆撃機用の基地になったのはそのためか」

「そうだ。富嶽のジェット化が予想以上の航続距離だったんで、そこを使用する意義が無くなったから、あの子達に回したというのが、公式の回答だ」

「基地の名は?」

「基地がある地名は『天仁』だが、大昔の年号だから、別の名前だそうだ。元山か」

「こちらでの元の北朝鮮の地名じゃないか?」

「元々、南洋島には李氏朝鮮と明の生き残りが帰化して移り住んだ関係で、この地域には高麗系と漢民族系の末裔が多いんだそうな。こちら側の朝鮮民族とは異なるから、高麗人達とは反りが合わないそうだ」

「漢民族系の先住民族だからな、彼らは」



――意外な事だが、李氏朝鮮の直接の末裔である彼らの気質は中国人寄りなのと、漢人の派生系である高麗系の人種であったため、21世紀頃の韓国人らとは似て非なる存在である。その関係もあり、21世紀の韓国とはまったく反りが合わなかった。彼ら韓国人にしてみれば、『日本に同化した裏切り者』と誹るが、そもそも中国もろともに滅んだ末に、扶桑に同化していった彼らにしてみれば、『先祖の地に居座る余所者』と言うべき存在であるという、双方の民族的背景がある。そのため、高麗人は現在の自分達とは『違う』という事実を突きつけられ、激しく狼狽した韓国は自らのアイデンティティを守るため、ティターンズに国家を挙げて肩入れする事になる。これは当時の韓国の政権が人気取りに行った施策でもあったが、地球連邦軍の僅かに残った記録によれば、後世からは罵られることになったとの事。これは当時の韓国の国情的に、隣国の日本との関係悪化は避けたいが、反日教育を受けた世代が日本統治時代の人間と入れ替わった事により、かつての宗主国の一つである日本へ反発をする事を良しとしてしまう苦しい現況を打破するための『不満のはけ口』も兼ねていたが、結果として、自らが主張する歴史との決定的な矛盾点を証明してしまう最悪の結果に終わってしまう。更に、米国や日本からの怒りを買い、中国とロシアも声明で『韓国は最悪の選択をした』と批判したので、韓国は自分の味方を失ってしまい、北朝鮮主体の統一すら考えるようになる。政権交代までに韓国軍はティターンズにかなり肩入れし、扶桑の捕虜を非人道的に扱ったと報道されたのも、実に不味かった。止めに、2014年に入ろうかと言う時に扶桑からのルートで報道された写真が、韓国の立場を決定的に悪化させてしまった。コンピュータ合成技術がない時代の扶桑の報道班が撮影した、大量虐殺の後の市の写真は、現場が国際法違反を平然と行った事を証明してしまう最悪の事態を現出させた。その写真は、まさにベトナムで韓国軍が行ったとされるタイヴィン虐殺、タイビン村虐殺事件などの存在が真である事を証明してしまう凄惨な光景であった。また、住民の生き残りが『自分らを守ろうとしたウィッチの顔の皮を死後に剥いだり、生きてる間に強姦して弄んだ』と涙ながらに証言したのが、日本やアメリカなどの人々の義憤を煽った。これは韓国が派遣軍の統制を中央が取れていない事の証明ともなってしまうため、軍トップを解任するなどの場当たり的対応を行ったものの、学園都市の侵攻を日本が煽っているという噂が流れたため、韓国は必死に火消しを行う。が、その努力も虚しく、怒りに燃える扶桑からの撤兵要求と交戦通告が通告されてしまう。しかし、韓国はポツダム宣言の際の日本帝国よろしく、『黙殺』を決め込む。そうしか方法がなかったのだ。


――扶桑の行動は迅速で、最新鋭戦艦『播磨』とその護衛艦隊を送り込み、その巨砲をソウルに向けたのだ。韓国は播磨の威容に畏怖した。戦艦という化石のような存在にも関わず、だ。かの戦艦大和を更に巨大化させたような姿を持ち、その主砲は大和の46cm砲をも上回るという目測に、だ。大和は世界最大とされた46cm砲を有していたが、播磨はそれより2ランクも上の51cm砲を速射砲で備えている。しかも艦容は主砲などの最小限度の砲熕武装以外は最先端の武装になっており、現在艦に遜色ない武装であった。更に『戦艦』であると言うことは、戦前型大型艦艇の特徴である『重装甲』を備えている表れである。ギネスブックすら軽く凌駕する巨砲に耐えられるだけの。韓国大統領は播磨の出現に、世論と国家存続とで大いに揺れた。『巨砲を叩き込まれて国家を滅ぼすか、国家存続のため、交戦を避けるか』。大統領は当然、後者だった。大和をも超越した巨砲を叩きこまれた場合、過去の日本への艦砲射撃がそうであるように、街が地図から消えかねない。朝鮮戦争もそうだったように――。大統領は過去の戦争の再来を恐れ、この局面では賢明な判断を下そうとしたのだが……、最悪の結果が待っていた。扶桑からのビラが韓国世論を暴発させたのだ。内容は最後通告に等しい『扶桑皇国ヨリ達ス。軍引カズバ宣戦ヲ布告シ貴国を灰塵ニ帰セン。期日迄ニ解答サレタシ』というものだったのもあり、世論は暴発へ向かった。そのため、罷免を恐れた大統領は世論の『第二次大戦の日帝戦艦など鉄屑スクラップである。我が軍の敵ではない、沈めてやれ!』という声に答えるしか道は残されていなかった。が、韓国海軍は醜態を見せた。主力艦の全力出動ができなかったのだ。もっとも空軍と海軍の現場の幹部は『随伴艦は最新鋭のイージス艦なのに、沈めろとは無茶だ。それに、現在のミサイルは戦艦の重装甲を想定はしておらんのに』と大いに嘆いた。これは戦艦という重装甲の艦種が戦後に絶滅しており、アメリカと日本がレンタルと再建造と、再度の復帰で細々と使っているに過ぎないという現況を鑑みての事だ。21世紀の兵器システムにとって、砲熕武装主体の艦はイレギュラーであり、アイオワ級の再度の復帰の際には反対論が盛んに報じられていた。それを知っている故、現場の幹部は『戦艦との交戦など、現在艦に出来るものか!』と悲観していた。その時の扶桑軍艦隊の司令長官はかつて、武蔵の艦長でもあった『猪口敏平』中将だった。

――播磨 CIC――

「韓国軍は何をもたついておるのだ?まともに出港準備すらできんのか?」

「彼らは沿岸海軍でありながら、無理に外洋装備を買い揃えている軍隊と聞きます。兵の教育が行き届いていないのと、兵器の整備がなされていないのでしょう」

彼らは、宣戦布告から一時間経っても出動準備が整わない韓国海軍に同情すらした。映像では『肝心な時に、兵器が動かない』、『エンジンがエンコした』という哀れさを誘う状況が映し出されており、最精鋭が配置されているとされる主力艦でさえ、整備不良か、マストが折れ曲がる始末だ。

「長官、これは……」

「うーむ。なっとらんな。自衛隊から話は聞いたが、予想以上だぞ、これは」

「これでは空軍のほうを先に相手取る事になりそうだな」

「そろそろ出動が終わるころでしょうから、第一陣は間もなくでしょう」

「21世紀の武器で、宇宙戦艦の技術で作られとる本艦は傷つけられんというのに、な」

彼らは極めて余裕であった。何せ、播磨はドイツ最強を誇るヒンデンブルク号と戦うために計画された。宇宙戦艦のように、船殻が三重にもなっている上に、強化テクタイト板とガンダリウム合金の装甲を持つというオーバーテクノロジー満載である。そのため、21世紀のどんなミサイルでもヴァイタル・パートは破壊不能だ。核ミサイルであろうとも。これはミッドチルダ動乱の折、猛威を奮ったヒンデンブルク号には『改大和では不足である』と突きつけられた結果、造られた超大和型だからである。



――同艦の砲が51cm砲になったのは、三笠型の56cm砲の砲身命数の短さという難点と、大和より威力がある砲という利点を選んだという実用的観点からである。ヒンデンブルクはその重装甲とドイツの技術の集大成というべき高火力で大和型を苦戦させ、近代兵器込みでさえ決定打に至らない生存性で、扶桑の砲術関係者を畏怖させた。その畏怖が播磨の誕生に深く関わっている。そもそも、大和型を『扶桑戦艦の集大成』と見込んでいた扶桑軍は、大和型に絶対の自信があった。実際に大和型に匹敵し得る艦はモンタナ級が最初で、出現までに大和の竣工から5年近くかかっていたのもあったが、H級戦艦群がミッドチルダで現れてからは旗色が変わり、武蔵が損傷したのを皮切りに、信濃と大和、あるいは甲斐の二隻がかりで沈められないという事が続いた。更にヒンデンブルク号の登場で、火力の優位が無くなったのが最大の契機となった。播磨は結局、動乱の休戦には間に合わなかったが、ヒンデンブルク号に匹敵する戦艦を得たという心理的効果は大きかった。そのため、21世紀韓国軍の事は殆ど歯牙にかけていない。

「長官、来ました。韓国空軍です」

「CIWSとパルスレーザーの試験には丁度いい。全艦に通達。撃退に留めろ。韓国軍の攻撃は長くは続かん」

「まるでもぐらたたきゲームですな」

「我々が全力を出せば、彼らは3時間でもあれば全滅だ。が、それでは惨めだろう」

「彼らは口ばかり達者なトーシローばかり揃えておるでしょうが、まるでカカシですな」

「ガワは立派だが、肝心の訓練がなされておらんよ。我々の航空隊も似たようなものだがな。平文で『練習ナリヤ?』と入れてみたまえ。どうも分からんからな、海軍の動き」

栄光を誇った大日本帝国海軍の同位軍にあたる彼らからすれば、韓国海軍はお粗末そのものにしか見えなかった。空軍の第一波をパルスレーザーとCIWS、ミサイルで迎撃、全機の撃退に成功した。相手に撃たせての迎撃であったが、なんと、相手のミサイルが戦艦、それもニミッツ級空母よりも巨大な目標を外すという珍事が起こり、猪口中将をして困惑させた。ようやく登場した海軍も同様に、なんと戦艦にミサイルが当たらずに自爆するわ、不幸な民間船に当たるわの失態続きで、扶桑側を閑古鳥が鳴くほどに呆れさせた。

「なんだね、これは。本当に彼らは近代海軍かね?帆船時代の海賊でもこれよりマシだぞ?」

と、猪口中将は辛辣である。砲術の権威『キャノン・イノクチ』と世界に名を轟かせた彼からすれば、誘導装置付きの兵器を外す事自体が信じられないのだ。

「どうします、長官。これでは練習台にも……」

「やれやれ。超甲巡に相手をさせ給え。あれでも、21世紀型艦艇にはお釣りが来る」

超甲巡。21世紀での過去の例で言えば、アラスカ級が近いが、アラスカ級は所詮、『戦艦サイズの巡洋艦』だが、超甲巡は実質、『大和型の流れを組む手頃な高速戦艦』である。そのため、アラスカ級が持つ問題は超甲巡には無く、大和型を小型化したような塔型艦橋のおかげもあり、大和型の簡易型というイメージが余計に際立つ。それが前に出、砲を韓国海軍艦隊へ指向させる。

「威嚇射撃を行う。相手の出方を覗うぞ」

超甲巡2隻が砲を発砲する。時代がかっているが、砲はミサイルと違い、威嚇射撃に適している。戦艦サイズの砲でも、だ。そのため、ミサイルを外した韓国海軍の心胆を寒からしめる効果を産んだ。21世紀の海軍にとって、弩級戦艦サイズの主砲ですらロストテクノロジーに等しいので、時限信管を活用しての横一線に爆炎の花が艦隊の手前で出現するだけでも、充分な効果だった。

「さて、どう出る?」

「あ、敵の広開土大王級2隻、李舜臣級1隻が突出してきました。砲雷撃戦を挑む模様」

「無謀だな。ミサイルという鉾が宛にならないミサイル駆逐艦など、ただの駆逐艦だ。それが戦艦に勝てる道理はないというのに」

稼動状態にあるただ一隻の李舜臣級が先に砲撃を始めるが、所詮は5インチ砲であること、韓国軍の練度不足などが重なり、超甲巡に命中しなかったりした。残りの艦のオート・メラーラ/127mm砲も火を噴くが、門数の不足や口径の小ささ、命中角度の問題もあり、戦艦に準ずる重装甲を貫くまでに至らない。発射速度は早いものの、蚊の刺した程度である。

「『吾妻』、『磐梯』、パルスレーザーを掃射した模様」

「うむ」

大和型及び、超大和型を護衛する目的で造られた超甲巡第二生産ロットの艦は当初より、23世紀のテクノロジーが多めである。パルスレーザーを掃射し、広開土大王、乙支文徳のマストとFCSアンテナ、CIWSを狙い撃ちし、戦闘不能に陥らせる。だが、文武大王のみは僚艦の惨状にもめげず、突撃を敢行する。短魚雷発射管を水上艦へ使うつもりである。だが、これは全くの誤りである。扶桑海軍が持つ酸素魚雷などの大戦型の長魚雷と異なり、21世紀に流通している魚雷は対潜用の短魚雷である。使えない事はないが、対水上艦へは未知数である。それを元々は世界最強の水雷戦隊で鳴らした扶桑に使おうとするというのは、全くもって愚策である。


「フン。我が軍に水雷戦を挑もうなど、100年早いわ!」

吾妻の艦長は鼻を鳴らし、主砲を放つように下令した。一式徹甲弾の水中弾効果を狙ったのだ。無論、装甲らしい装甲がない現在艦にまともに命中させても、突き抜けるだけになる危険があるので、夾叉した際の水中弾で仕留める事を意図した。そしてそれは的中した。

「な、なんだ!?」

「艦首に命中した模様!?」

「バカナ!?」

水中弾は文武大王の艦首をもぎ取り、喫水線下に大穴を穿った。砲塔の一基が放った徹甲弾が水中弾効果を発揮したのだ。同艦は片側に傾斜を始める。現在艦のダメージコントロールは大口径砲弾など想定していない事もあり、沈没は確定した。ここに文武大王は『日本軍艦の実戦での射撃で餌食になった久しぶりの艦』という名誉(?)を賜った。

「あっけないものだ。21世紀以降の駆逐艦はああなのかね?」

「いえ、海上自衛隊の護衛艦や米軍の駆逐艦は耐久力があるので、彼の国は脆いほうです」

と、副長が言う。韓国系の艦艇はトップヘビーであるので、砲撃戦に持ち込まれた場合には余計に脆い。それが自分達によって証明されたのだ。韓国側は怖じ気づいたのか、動きを止めている。

「敵艦隊、動きを止めました」

「自分達の武器が宛にならんのを見せつけられたんだ。怖くなったんだろう。そろそろ例の時刻が近い。奴さんには退いてもらおう。主砲で威嚇する」

「よろしいので?」

「本物の戦艦、それも大和型を凌ぐハイパードレッドノートとも言うべき本艦の威力を見せるのだ。無益な殺生をしに来たわけではないのだからな」

扶桑の超大和型戦艦は、超々々弩級と評された大和型を名実共に上回るので、『ハイパードレッドノート』と、どこかの海軍年鑑は記した。これは最強の艦砲を持つと謳われた大和型を更に超える艦が出現するという事態に編集部が慌てた末に記載された。便宜上のものだが、大和型の改良型というので、海軍年鑑は『日本の同位国が国力にあかして作った超巨大艦で、大和型の発展型と思われる』という所見を載せた。ニミッツ級空母以上の体躯を30ノット以上で航行させる機関を持ち、レーザー兵器を扱え、それとは不釣り合いとも思える巨砲の様子は、世界を驚かした。韓国海軍は一発の威嚇ですっかり戦意喪失したようだ。

「……時間だな、国際周波で砲撃警報流せ!音声に主砲射撃警報音入れとけ!準備出来たら砲撃開始!」

「ハッ!」

警告があらゆるメディアに流され、韓国の人々は哀れにも右往左往し、混乱する。播磨はその射程にソウルが入ったと同時に巡航に移行し、主砲をソウルへ向ける。目標は大統領府と国家議事堂。それぞれ一斉射で片付く。大和以上の破壊力の砲なのだ。

「撃て!!」

51cm砲の砲弾が宙を舞う。大和型を凌ぐ爆炎と轟音と共に吐き出された二トンの砲弾が超音速で降り注ぐのだ。徹甲弾であれば、改装前の大和型の主砲塔前盾最厚部すら容易に貫く。そんな砲弾は見事、狙い済ませたところへ命中し、激しい爆炎を上げる。この時代の砲の常識では、大口径化しすぎると、ライフル砲よりも割腔砲のほうが使い勝手がいいのだが、播磨はショックカノン規格で砲が制作された都合上、ライフリングが刻まれている。ソウルは昔の京城でもあるが、邦人は既に全員が退避しており、米軍も家族は本国へ避難し終えていたため、扶桑は気兼ねなくソウルを消せる。そのため、播磨は数度の一斉射撃を行った。ソウル特別市はその威力で大統領府と国会議事堂、軍事施設が跡形もなく吹き飛ぶ。かつてのナチスの列車砲『ドーラ』の起こした光景の再現だ。因みに、かの『ドーラ』は都市区間をまるごと吹き飛ばせたので、それよりは可愛い(?)。その直後、彼らの扶桑への怒りは政府の無能へ転化し始める。扶桑海軍に本土近海に楽々、侵入された上に、艦砲射撃である。が、大多数は『陸軍が残っている!』と期待していた。彼らの最新鋭兵器が、もよや第二次大戦時の日本と同等と思われる陸軍に負けるはずはない、と。それはむしろ最悪の形で裏切られる。韓国と問題が発生した頃には、扶桑では1949年であるので、同軍で唯一、MSを扱える64Fに出動を命じ、その圧倒的武力を誇示した。64FはZ系によるピンポイント制圧を行い、ウェイブライダーで大気圏突入→制圧を実行した。その際に韓国陸軍の先鋒は無視され、主力の背後に降下されるという屈辱を味わった。目立った戦闘も起きないまま、韓国軍は指揮系統を制圧され、あっという間に無力化させられたため、人型兵器の優位性を誇示する事も成功する。だが、一部の部隊は抵抗を続けたため、64Fによる掃討戦が一週間ほど続いたという。


――一週間後、韓国は軍隊が陸軍の歩兵兵力が健在な状況で扶桑に屈する事になった。最後の二日はほとんどルーチンワーク的に機甲・海上・航空戦力の殲滅に費やされ、一定の規模の近代国家の軍隊としては異例の速度で敗退した。機甲戦力はMSの機動性と装甲の前に、航空戦力はOTM後の23世紀の現用機で、海上戦力は播磨で殲滅した。その様子は『蹂躙』と呼ぶもので、米軍をも驚愕させた。特に、虎の子の『F-15K スラムイーグル』が扶桑のSFじみた謎の戦闘機(コスモタイガー)に蹂躙され、何もできぬままに10機が撃墜される様は、F-15系を現役で使用中の米軍にショックを与えた。コスモタイガーの使用はこの時、機密保持もあり、わずかに15機程度であったが、パルスレーザーによる『弾切れ』のない機銃を用い、ミサイルの速度は現行のそれを超越する性能は示した。特にパルスレーザーによる継戦能力の高さは注目の的で、これが『パルスレーザーの開発のきっかけ』になるのである。これは些か未来の話――






――その前年の48年の捷二号作戦(未来人による嫌味な命名で、旧日本軍の計画との関連性はない)の最中、聖衣を纏い、敵を蹂躙する黒江。その強さはまさに無敵と言えるものであり、爆撃機隊は瞬く間に消え失せていく。ブリタニア艦隊が向かいつつある戦場だが、黒江をカバーするため、智子もストライカーを戻した後、変身を同僚の前で初披露する。孝美はこれでA/Bの双方が変身を知った事になる。

「先輩、ずるいですよ……私より上の覚醒系魔法なんて」

「あたしなんて、セブンセンシズに比べりゃ、シックス・センスの範疇だから、可愛いもんよ」

智子は言う。自分の力もそうだが、魔法はあくまで第六感の範疇に留まるが、小宇宙の真髄たるセブンセンシズに比べれば『人間の域』であると。セブンセンシズに到達した、あるいは到達しつつある者たちこそ、神々の守護に相応しい。しかし、当の智子が認識していないだけで、変身の力の増大により、セブンセンシズに近づきつつある。これは聖闘士で言えば、『ポセイドンとの戦いの当時の星矢達』相当であり、一般的な白銀聖闘士と同等以上の速度を手に入れている。また、覚醒当初は視認も困難だった黒江の動きを気配で察せるところには来ており、概ね速度は、魔鈴やシャイナと同クラスと言える。

(うんにゃ、おめー、充分に黄金になれる素養があるよ。光速の私の気配を察するなんてのは、青銅……いや、白銀の一般的な実力の連中にゃ出来ん。実力者で鳴らしてる魔鈴さんやシャイナさんくらいだ。オメーは近づいてるんだよ。セブンセンシズに)

独白する黒江。智子は逆行前、靖国神社で神の一柱になっている。と、言うことは本来の力はセブンセンシズどころか、エイトセンシズの域である。神の一柱であるので、小宇宙は黄金聖闘士をも超え、いずれ神の領域に達する。その事を察している黒江。自分と異なり、『神の一柱である』記憶にまだ目覚めていない智子がなぜ、その片鱗を見せるのか?それが数年間、綾香が抱く疑問である。孝美は二人の戦闘に追従しようとするが、菅野に止められる。

「やめとけ。見ただろう?セブンセンシズどころか、第六感ですら満足に扱えねーお前が加わったところで、足手まといなだけだ」

「そ、それは……」

「最低、絶対魔眼をリスク無しに使えるようになってから言うんだな」

菅野はバッサリと切り捨てる。この頃には死ぬような目が何度かあったおかげで、第六感の最高位に達しつつある。なのはも概ね、この領域であり、聖闘士で言えば、青銅候補生レベルと言える。孝美は死地に立ったのが一度きりである上に、絶対魔眼を封印してきたので、第六感すらも成長していない。しかも当初はウィッチ本来の宿命に従おうとしていたのもあり、小宇宙へ足を踏み入れつつある菅野に全てで追い抜かれている。そのため、菅野は流星拳と彗星拳と言った初歩的闘技を身に着けている。

『食らえ、流星拳!』

菅野はコスモストライカーで流星拳を放つ。そしてそれをサポートする芳佳。

(どうすればいいの、どうすれば……!)

孝美は悩む。菅野に切り捨てられ、赤松には忠告された自分の思い。ひかりとの相克になり得るすれ違い。二人の先輩格の『圧倒的な力』への劣等感。そして禁忌とした力も及ばぬセブンセンシズの存在。

(もし、もし……許されるなら、あの子を、あの子が願った何かを守るために……!!)

「こ、これは……!?」

孝美は絶対魔眼を発動させるつもりで力をこめた。が、次の瞬間、それとは異質の力が包み込む。淡い黄金の光が。それは正しく……。

「何!?こ、これはまさか……!」

孝美の岩をも通す念が奇跡を呼んだ。黒江はその光がなんであるか、すぐに分かった。

「せ、先輩、これは……!?

「……明鏡止水。邪念がなく、澄み切って落ち着いた状態だ。宮藤、お前の刀を貸してやれ」

「分かりました」

「あの、宮藤さん、これ、ビームソードじゃ」

「コスモストライカーの装備品ですから。斬れ味いいですよ」

「先輩はその、いいんですか?」

「私は神の加護ついた聖剣があるから大丈夫だよ。武器が無くても、手刀で斬れるしな」

黒江は自前の刀にエクスカリバーとエアの力を上乗せできる上、斬艦刀へ変異させられる。その証拠に、自前の雷切を斬艦刀へ変異させる。

「ムウン!」

「え!?」

「この通り、な」

山羊座の聖衣を纏った上で、斬艦刀という武器を使用する黒江。(この頃には聖域も聖戦後の人材不足を理由に、武器の使用基準を緩和していたので、別に咎められない。むしろ六人の黄金聖闘士がアテナエクスクラメーションを行ったほうが大問題だが、アテナ=沙織は名誉を剥奪していない。そのため、雷切は『体の延長』という扱いとして、ゼウスの使者という形で、この世に舞い戻った前教皇のシオンと沙織が承認した)


――ある時の聖域――

「大神ゼウスのお達しにより、不肖、牡羊座のシオン、ゼウスの使いとして舞い戻る事になった。これはアテナも承認なされている」

牡羊座のシオン。牡羊座のムウの前任者にして、前教皇である。ハーデスの意思に背き、アテナ軍の味方をした事により、神々に逆らった罰を受けそうになったが、ハーデスの肉体の崩壊で冥界が消える際の混乱の折、ゼウスに拾われ、ゼウスの使いとなった。その際に、現世で行動するための肉体を得ている。肉体の年齢は17歳前後、彼が絶頂期を自負していた若々しいもので、これは親友の童虎との釣り合いを取るためだ。なお、教皇に再任されていないのは、生前に辞意を表明していたためと、『生きていれば、300歳に手の届く老人』である自覚からである。そのため、あくまでオブザーバーに留まり、アテナの統治の補助役という役回りである。(ムウ亡き後の牡羊座の聖衣を纏う資格は前任者として保持しているが)彼と沙織の協議により、正式に黒江、箒、フェイトを黄金聖闘士と認める事、聖戦の折のサガ達のアテナエクスクラメーションの行為の承認、武器使用基準の緩和、仮面の掟のことなどが議論された。結果、時代の変化という事で、女性聖闘士の仮面は自主性に委ねる事、中国拳法などの考えが入った事、アテナがニケの錫杖を持ってることから、「武器をその身と成すなら、それも体一つで戦うと同じ」と発言し、武器の使用が条件付きで認められた。また、サガ達のアテナエクスクラメーションは『戦時下の状況での不可抗力』という形で追認され、三人の異世界出身者の正式な任命が、前教皇でもあるシオンとアテナの臨席の上に行われた。その際にシオンは、教皇の法衣ではなく、牡羊座の黄金聖衣を着て臨席しており、教皇としてではない事を強調していた。それは聖域でいうところの西暦1990年頃の事だった。そのため、その世界の日本は好景気に沸いている事を意味している。そのため、任命が済んだ後、黒江は聖域から当時の日本に行き、のび太の時代では入手困難なTVゲームの本体とソフト、それに使うTVを1990年当時の日本で購入していたりする。当人曰く『のび太の時代にゃ、もうプレイス○ーションとサ○ーンだから』との事で、貴金属を換金した上で、購入していた。当然、当時はカセットの時代なので、TVと合わせて意外に高い金額(2013年でPS3とソフトをセットで買うより高いとの事)を使っている。黒江はどちらかと言うと、当時の覇者であった『任○堂』よりも『セ○』、90年代末以降はPCメーカーに収まったが、当時はゲーム業界で一定の存在感を見せた『N○C』と言ったコアなメーカーを好んでおり、防大時代には『ドリームキャ○ト』を並んで購入している。なお、サ○―ン時代からの人気ソフト『サ○ラ大戦』の4が出た時には、販売店にすっ飛んで購入したほどだ。(セ○のゲームハード事業撤退の折には泣いたとの事)世界を渡り歩いてまで、ゲームに情熱を燃やす事には、瞬や氷河も微笑ましく思っていた。その一方で、前任者のシュラを思わせる求道的一面もあるので、古参からも好意的に見られていた。その内の一人が鷲星座の魔鈴であった。女性聖闘士でありながら、仮面をかぶらないという伝統破りなところと、女性では珍しく、黄金聖闘士に上り詰めたその素養から、魔鈴は後輩にあたる黒江を高く買っており、シャイナ共々、可愛がっていた。位階は下ながら、聖戦に従事した中での生き残りであり、先輩に当たるので、公の場以外では、シャイナと魔鈴の二人に対し、黒江は敬語を使っている。――


――話は戻って。

「食らえ、聖剣!エクスカリバー!!」

斬艦刀を使用時は手刀時と違い、コードを叫ぶだけで力を発揮できる。そのため、エクスカリバーとしての力を主体にしている際は、鍔の形状が西洋剣寄りである。西洋の古の甲冑である聖衣との相性はバッチリだった。エクスカリバーの威力は爆撃機を細切れにするに充分であり、レシプロ爆撃機群は既に半数は空の塵になっていた。特に性能が劣るアベンジャーとヘルダイバーの生存率は低く、その過半数が撃墜されていた。スカイレーダーはその高性能により、かなりが生存しており、撤退していく。

「よし、これでレシプロ爆撃機の連中は追っ払った。後は戦闘機の連中だ!フューリーは加速力がないから、そこを突け!」

黒江はインカムで指示を飛ばし、自身は聖衣を使っての光速戦闘で落としていく。黒江以外の者の戦術は、基本的に朝鮮戦争時代の空中戦の戦術である。ミサイルがないからだ。当時、ミサイルは亡命リベリオン/扶桑ではウィッチ用が試験段階、戦闘機用は未来からの輸入品に頼っており、普及はまだまだ先の話だった。更に、誘導弾へ対応が取れる者も64F所属者に限られていたのもあり、この時期、ジェット戦闘機との制空戦闘が可能な唯一のウィッチ部隊でもあった。それを妬む他のウィッチ部隊は多かった。その筆頭と言えるのが、64と精鋭の座を争っていた一つの『47F』であった。50Fが大損害で本土での再建を余儀なくされた中、47Fは新型機のテストが元々の任務だったため、良好な人材と機材を有していた。その中には諏訪天姫と中島錦の姿もあり、元々は同隊が行っていた新型機の集中テストを、コネにあかして行っていると、47F隊長『杉山俊子』中佐(黒江の一期後輩で、元同僚)は見ており、武子にライバル意識を持っていた。


――47F 隊舎――


「ええいクソ!!また黒江先輩に出し抜かれたじゃないか!」

杉山中佐は、黒江が第一期現役時代の頃の若かりし頃、黒江と撃墜数を争い、黒江の引退まで互角の撃墜数を誇った俊英であった。彼女もリウィッチとなり、47戦隊長を前任者の神保大佐(在任中は大尉〜少佐で、黒江が同隊時代の中では一番に慕う大人物。デザリウム戦役にも参陣)から引き継いで間もなかった。彼女は黒江を上回るほどの負けず嫌いで有名で、最近は『自衛隊に籍を置き、次世代機の操縦資格を取得した黒江』にもライバル心を抱いており、黒江がF-15Jを取り寄せられる特権を持つ事を妬んでいた。

「隊長、何をイライラしてるんです?」

「これだ!」

副官の光本悦子大尉(同じく、黒江の後輩であり、杉山中佐の抑え役)に中佐が見せたのは、黒江がイーグルドライバーとして活躍する模様が載っている軍発行のプロパガンダ雑誌だ。

「ああ、黒江先輩ですか。スリーレイブンズなんですから、これくらいの特権は当たり前ですよ。源田司令の直轄なんですから」

「新撰組は元々、こちらのほうが先に使っとったのだぞ!なのに、海軍の343空を吸収した64のほうに持ってかれたんだぞ!」

「あ、そこですか……」

大尉は呆れるが、実は新撰組を称した飛行隊は、黒江が現役時の47Fが最初であった。が、別名の『かわせみ部隊』のほうが有名になり、更に本土防空で343空が鳴らした事、軍上層部も343空の存在を重視していた事により、新撰組という名称の優先使用権を64F結成時に付与し、実際にそれを編成名に用いた。元々、初代の戦隊長の坂川が考え、安土時代にあった有名な47志士と数が一致した事、安土末期にあった新撰組になぞられてつけたという由来があるので、343空に対抗心があった。それが64戦隊と合併し、名前を奪ったという意識が強かった。特に彼女がライバル意識を抱く黒江が、同隊の幹部として君臨している事もあり、彼女は行動を起こした。

「あ?そちらサーブ社ですか?自分は……はい。御社の戦闘機を我が隊で……はい……お願い致します。はい」

黒江はアメリカ/日本系航空産業から機体を融通できる特権がある。これは自衛隊在任中であるのも関係したものだが、別に黒江のみの特権ではなく、戦隊長とその腹心に与えられた裁量権の範囲内である。当時、64Fに新機種テストまで負担させるのもどうかという意見が大勢を占めており、他部隊にも権利が与えられていた。戦隊司令も兼ねている中佐は、当時に本土配備が完了し、南洋にも一部が進出していたドラケンに着目。スウェーデン空軍やサーブ社に連絡を取ったのだ。この時に、扶桑空軍の使用機種がおおよそ固まった。『制空戦闘機と戦闘攻撃機はアメリカ/日本系だが、要撃機はスウェーデン製と国産』というものだ。47Fが連絡を取った事で、商機を感じたサーブ社は、直ちに47Fに援助を行った。ドラケンの現地生産を委託されている長島飛行機の工場の監督、更に『後継機』にあたる『サーブ37 ビゲン』を提供したのだ。ただし、これは不評になる可能性もあったため、更なる後継機『サーブ 39 グリペン』も提供を行い、かなりの数が47Fで使用された。そのため、ビケンは『グリペンまでのつなぎ』で使用されたとか。彼女の選択は結果として、扶桑空軍の最重要パートナーの一つにスウェーデン空軍が君臨する決定的な出来事となり、要撃機部隊のスウェーデンスキーが確定したのだった。



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