外伝2『太平洋戦争編』
六十三話『マジンエンペラーG!3』


――ウィッチ世界と21世紀日本の一部とが相容れない側面が一つある。それは戦争に対する考えが違う事である。いつしか防衛戦すら忌み嫌う事が反戦の政治的題目に利用されている日本。ウィッチ世界は『戦わなくては生き残れない』という弱肉強食の戦国時代の倫理観が生き残っており、日本の反戦思想を『一度の敗北程度でナヨナヨしている』と反感的に見る者も多かった。それが日本の左派の策動の大義名分として利用され、扶桑を大敗北させ、『史実同様の結末に!』に戦争を導こうとする動きが野党と反戦自衛官などを中心にあり、それが1948年の反攻作戦の頓挫に大きく関係していた。その埋め合わせにスーパーロボットが複数投入されるという異例の事態に陥った。それがマジンエンペラーであり、ゲッターロボ斬の投入であった。



――64F基地――

「そう。エンペラーが到着したの。なら大丈夫ね。あれは怪異の巣なんて問題外だから」

「しかし、大佐。あの機体は何なのです?あれほどの力は……」

「それがスーパーロボットよ。神の如き力で、全てをねじ伏せる。ラル少佐、こちらでのあなたはそれを使いこなしてるわ。期待しているわ、先輩としてね」

マジンエンペラーGを送り込んだ張本人である武子は、ラルBと通信を交わしていた。ラルBは武子の評判は聞いていたが、別世界とは言え、当人と会話を交わすのは初めてなので、珍しく緊張していた。武子は物腰は柔らかいが、凛とした佇まいを持つ。彼女は日本の活動家達の摘発で内務省と協力関係にあり、最近は軍事活動よりも治安維持に動く事が多くなり、時にはゲッター斬を借り受け、活動家達を散らして解散させる事も行っている。



――これは俗に言うゲバ棒を持ち出し、兵士やウィッチをリンチする過激派が観光客を装って紛れ込んでおり、年齢的に最後になるであろう『革命』を起こさんと、兵士やウィッチをリンチする事件や、野党の政治家にウィッチが大声で罵倒される事件が多く発生しており、内務省が軍に協力を要請したからだが、憲兵や公安警察の要員がゲバ棒で集団リンチされ、酷いケースだと、アジトに踏み込んだところに硝酸をぶっかけた上で殴打する事件が多く、憲兵と公安警察はタマ不足に陥っていた。これは日本政府も顔色を失う事態であり、扶桑皇国への干渉をやめるよう、首相が国会で議題にするほどに発展した。空軍の64Fが治安維持にも駆り出されたのは、『人型機動兵器を持っている』故の威圧効果によるものである。派遣される前、マルセイユもクスィーガンダムでデモの鎮圧に赴いており、デモ行進の行き先にクスィーガンダムを立たせて『勧告に従わない場合、諸君にビームライフルを叩き込む事になる』と脅している。『ガンダムで脅す』のは日本人に大変有効で、40代以下の男はこれで戦意喪失である。パトカーどころか、空飛ぶガンダムがやってくるのだ。これで戦おうとするのは、本物のコミュニストか、馬鹿だけだ。日本政府が射殺を避けるようにとする要請を撤回するのは、クスィーガンダムによる鎮圧を見たためで、要請の撤回に世論の同調を必要としたからだった。なお、ネットの某大手掲示板に『クスィーが体制側に使われている!』という板が立てられ、祭りになったという――


――RX-104と105は大型MSで唯一の空戦型ガンダムである。最終型のRX-106『オミクロンガンダム』の完成を前提に、クスィーガンダムは『輸出可能なガンダム』とされている。これは完成度の高いクスィーガンダムは貧弱な補給のゲリラでも運用可能とされている事も大きく、双方の性能統合型がオミクロンとなるはずであった。ところが、オミクロン計画が撤回された(モックアップは完成していたが)ので、クスィーガンダムの改良で完了とされている。これは34mを超える巨体が『艦載運用に適さない』と提督らの不況を買った事もカイラム級とドゴス・ギア級でもヒーヒーいうような格納スペースの専有が問題視された事で計画が撤回されたからだ。そのため、オミクロン用に製造されたオプションの幾つかはクスィーガンダム以前にレトロフィットさせて使用されている。その一つが増加装備のマイクロミサイルポッドである。

「隊長、内務省と外務省から書類が」

「ああ、机に置いておいて。後で確認するわ」

武子の懐刀であり、実家の執事も兼任するのが檜中尉。義足の撃墜王として著名で、武子に個人的にも忠誠を誓っている。彼女は武子が中尉任官時には従卒の立場であったが、後に魔力発現により航空ウィッチに任官、黒江とも轡を並べて欧州で戦った経験もある。ある日、黒江とはぐれてしまった際に二度被弾、最後の弾が彼女の右足の膝下10cmから下を吹き飛ばし、それ以来、右足を義足にしている。黒江は当時、鬱病気味であり、僚機の事まで気が回らず、檜とはぐれてしまい、その凡ミスを先輩の神保に厳しく叱責されている。その負い目があるため、彼女には頭が上がらない。黒江が二度目の現在、僚機との連携を厳にするのは、その時の神保の叱責と、ロンド・ベルでのアムロの叱責によるものである。デザリウム戦役の際には、アムロからそのエピソードを聞いた神保は大笑し、『あいつに編隊空戦を仕込んだのは私だ』と自慢したとか。

「孝美の妹の処置はいかがなされます?」

「赤松大先輩から孝美に言ってもらうわ。あの子、妹の事に盲目気味だから。所属は新撰組に変えておいて」

「了解です」

この日、雁渕ひかり(A)は正式に部内の『601航空隊/新撰組』に異動した。その通達は赤松に丸投げである。これは孝美のシスコンに由来しており、赤松でなければ『穏便で済まない』と武子が判断してのものだ。北郷という手もあるが、それでは孝美の面目が丸つぶれであるので、赤松に一任したのだ。既に部隊内ではひかりの一件で『シスコン』は有名で、北郷を呼んだ場合、統合参謀本部までシスコンが有名であると取られ、精神的に再起不能になると考えられたからだ。竹井に頼む案もあったが、竹井はリウィッチ化の副作用で扶桑海事変当時の口調に戻っているので、これまた没に。坂本は接点が薄すぎる。ということで、兵隊やくざの赤松に動いてもらうように頼むしかなかったのだ。結果は大成功に終わり、孝美も新撰組に異動という事で決着がついた。この交換条件には、赤松もドン引きだったりする。維新隊よりも妹を優先する事の暗示だからだ。建前上、244Fから『
鷹見忠江』を維新隊隊長の後任として迎えるためとされたが、部内ではシスコンの噂でもちきりである。どのみち、孝美は一定期間、恥ずかしい噂に耐えなくてはならず、一定の代償を払う事となった。






――B世界では、マジンエンペラーGの独壇場と言える戦場が展開されていた。

『ルストタイフゥゥン!!』

ルストタイフーンで怪異を腐食させ、崩壊に至らしめる。この世のものとは思えない暴風。心配になって二人を回収しに来た孝美Bはこの光景に唖然とする。マジンエンペラーという『巨人』の存在もそうだが、着目したのは武器の破壊力だった。

『グレートスマッシャーパーンチ!!』

暴風を巻き起こすわ、撃ち出すロケットパンチは飛び出る刃が超高速回転しながら敵を貫く。防げる怪異は存在しない。しかも誘導式のロケット推進で敵を自由自在に貫き、斬り裂く。1944年末〜45年頭当時の技術水準では、精密誘導ロケット弾など、夢物語であり、それが桁違いの威力の『空飛ぶ粉砕機』が自由自在に飛び回るのだ。唖然としないはずがない。そして、もっとも驚いたのが。

『エンペラーブレード!』

伸縮式のブレードが腿の突起から飛び回る。刃が『シャキン』という音と共に伸び、二振りのブレードとなる。マジンガーブレードと違い、取り回しを重視したのと、伸縮式である都合、刃渡りは短めだ。それを振るい、多くの空戦怪異を細切れに破砕して屠る。人間の剣豪のような動きで。ロボットと言えば、ぎこちない動きという先入観があるこの時代において、マジンエンペラーのような、人間の如き滑らかな動きの機械は正に『あり得なかった』。

『フ、子機の援護に親機が来たか。ならば!!』

マジンエンペラーのV字型放熱板の基部が下に降りるように展開し、長さが伸びるように追加される。同時に放熱板が赤く発光し、超高熱を纏う。放熱板から滾る炎。エンペラーの大技である事を示す高エネルギー反応。

『グレートブラスタァアアア!!』

マジンガーの系譜である事を示す胸部の放熱板から放つ超高熱線。その中でも最強の一角に間違いなく食い込むグレートブラスター。ファイヤーブラスターと同等、もしくはそれを上回る威力を以て、一瞬で怪異を蒸発させ、周囲の雲をそのエネルギーで散らす。その爆発エネルギーは、エルゲラブ島を吹き飛ばした人類初の水素爆弾の爆発に匹敵する規模であり、きのこ雲が立ち上っている。高度数千が爆心地なだけマシであろう。

「これがこのロボットの力だというの……!?き、強力すぎる……!」

孝美Bは強大すぎるマジンエンペラーの力に畏怖する。彼女が爆発で発生したきのこ雲に破滅のイメージを抱いたかは定かでない。ひかりBは姉のマジンエンペラーを見る目が『怖いものを見る目であった』のを脳裏に刻み、生涯忘れえぬ記憶となる。これは未来世界に好意的なAと、疑心暗鬼になっているBとの差異であり、カルチャーショックがあまりに大きすぎたのだ。

『こちらマジンエンペラー。これよりそちらの基地へ向かう』

『ご苦労だった。受け入れ体制を整えさせる』

『感謝する』

ラルと通信を終える鉄也。孝美の見る目が完全に恐怖に怯えたものであるのに気づき、『ため息を付く』。その目は妹の羨望の眼差しとは異質の『捕食される者がする側を見る目』である。マジンエンペラーの威力に恐れを成したのだ。孝美Bが鉄也への警戒を解くのは、このしばらく後の事である。



――基地――

基地では、黒江がガイちゃんを鍛えていた。黒江であれば、ガイちゃんの力であっても受け流せるからだが、何よりも、黄金聖闘士は神を守護する闘士である。それがガイちゃんを鍛える材料であった。

『ガイキングミサイル!』

『ダイヤモンドダスト!』

ガイちゃんのガイキングミサイルをダイヤモンドダストで尽く凍結させる。ガイちゃんは次々と技を繰り出すが、黒江の凍気で技を凍結させられる。

『デスパーサイト!!』

デスパーサイトは通常、目からの光線だが、腕からの斬撃エネルギーとして放つ事も出来る。それを実行したが、当然、エクスカリバーを撃たれ、相殺される。

「お前の力はマジンガー系より決定力に欠ける。技のデパートなのは良いが、それに頼りがちだぞ。お前が魔球投げなら、おあつらえ向きのモノを投げてやるよ」

「え!?」

「黄金聖闘士の身体能力舐めるなよ!」

どこからか取り出した野球のボールを、ある一定のモーションで握りつぶす。そこから投げたボールは縦の5つのボールへ分身する。ガイちゃんはとっさにカウンタークロスを二つ取り出し、それを連結させてバット代わりにし、打とうとするが、さすがのガイちゃんも振るタイミングが遅れた上、分身魔球の本体の見定めができておらず、完全に振り遅れの無様な姿を晒す。

「ぶ、分身魔球!?それも元祖の……。」

「そうだ。蜃気楼の魔球でも良かったが、あれはマニアックにすぎる。そこで縦分身魔球にしたのさ。えびぞりハイジャンプ魔球でも良いぞ。お前のハイドロブレイザーへのカウンターにゃ丁度いい。これでも、世代的に沢村栄治の絶頂期知ってるんでね」

「ナニ――!?」

黒江の世代は沢○栄治がそのキャリアの絶頂を迎える時期を知っている。野球のピッチャーを志す者には神様のような存在なので、食いつきが実にいい。

「考えてみろ。私は1921年の生まれで、大正世代だ」

「あ、ああー……って!あんた、凄いばーさんじゃない!?」

「それはご愛嬌。んなわけで、第二球だ!!」

今度はえびぞりハイジャンプ魔球である。完全に遊んでいるが、かの侍ジャイア○ツをも遥かに凌ぐ超人がえびぞりハイジャンプ魔球を投げたらどんな威力になるか。なんと早すぎて、ガイちゃんの動体視力でも全く反応すらできないほどで、ボールが地面にめり込む威力を見せた。

「ん。時速250キロは出てるだろ」

「なぁ!?何だよ、それぇ!?」

「エネルギー弾をこう、潰して、曲げて投げる訳だ、分かるか?」

「ドンだけ握力あるんですか?!」

「鋼鉄は軽く握りつぶせるけど」

この方式の分身魔球はその再現にとんでもない握力を必要とする。常人には魔送球の応用である大リーグボール右一号『蜃気楼の魔球』のほうがやりやすいだろう。分身魔球は概ね、蜃気楼の魔球と呼ばれる大リーグボールと、侍ジャイア○ツの番場蛮が投げていた縦横の分身魔球とがあるが、黒江は細かなコントロールはないので、後者を投げたわけだ。細かい理論は後者の分身は説明不能であるので、意外に打たれにくい。前者の蜃気楼の魔球は下拵えが必要である上、天候に左右されるので、タネが分かれば打たれる宿命にある。後者の分身魔球を『完全な分身魔球』と黒江は呼んでいる。

「分身魔球自体は古典的な魔球だからな。そりゃお前も知っとるだろう」

「あたし、これでも元の世界じゃ野球チームにいたもん!それくらい知ってますー!」

ガイちゃんはツワブキ・サンシローのパーソナリティを反映したのか、元の世界では野球チームに入っていて、ピッチャーをしていた。そのパーソナリティからか、えびぞりハイジャンプ魔球にカウンタークロスがかすりもしなかったのがよほど悔しいのか、半泣きだ。

「あれ?お前、ソフトボールじゃねーの?」

「リトルリーグだもんー!」

ガイちゃんはソフトボールをしていたかと思ったら、意外な事に、リトルリーグにいたという経歴を明言した。因みに、かのイ○ローの大ファンで、リトルリーグ在籍時代は『イ○ローから三振取るんだ―』と公言するほどの野球好きである。

「んじゃ、ハイドロブレイザー投げてみろ。打ってやるさ」

「な、な、何をぉ〜〜!あたしの火の玉魔球……打てるもんなら……打ってみろぉぉぉ!』

「あ〜らよっと!」

黒江はとっさにその辺の金属の棒をバットに見立て、スイングモーションに入る。それは、とある大監督が現役時代に用い、彼の名声を確立させた代名詞と言える打法。

「い、一本足打法!?」

ガイちゃんも驚いたその打法。だが、黒江の遊び心からか、振り子打法も混ざっていた。黒江はそのパワーでハイドロブレイザーの火の玉を強引に引っ張り、ホームランした。見事に。

「野球の心得がありゃ、これくらいのことはできるさ。ハイドロブレイザーの球速そのものは二軍選手でも見切れるくらいのもんだし、変化に規則性があるから、存外打ちやすい」

ハイドロブレイザーそのものはガイちゃんのサイコキネシスなども入っているが、分かれば、その変化に規則性があり、球速そのものも早いとは言えないので、黄金聖闘士の動体視力とスイングであれば容易にホームランにできる。

「サイコキネシスに頼りすぎだ。もっと鋭い変化を体で覚えろ。魔送球とは言わんが、せめてナックルくらいは投げられるようにしろ」

ガイちゃんはハイドロブレイザーのコントロールをサイコキネシスに頼っていたのもあり、意外に素のコントロール力は低めで、黒江とどっこいである。黒江はソフトボールがまだ影も形もない時代の人間である故、三兄に誘われ、野球をすることも多かった。それ故、沢○栄治を引き合いに出した。子供の当時には球種もそれほどない時代であるので、変化球は苦手である。

「えー!?」

「こんなばーちゃんにゃ負けたかねーだろ?関東大震災より前に生まれてるんだぜ?わたしゃ」

「ぐぬぬ……!み、見てろー!ばーちゃんより凄いの投げてやるんだから―!」

ガイちゃんからすれば、黒江は生年月日的に『ひーばーちゃん』に相当する。そのことを冗談めかして言う黒江。世代的にのび太の祖父の親世代に当たるため、自分が『高齢者』である事を冗談めかして語る事が多く、坂本などからネタにされている。これ以後、ガイちゃんを始めとするロボットガールズの祖母的ポジに落ち着き、黒江は精神的に安定してゆく事になる。これは圭子と智子にとっても喜ばしいことであり、黒江の心の傷はこの頃から少しづつ癒えていくのだった。

「なんだ、ここにいたのか。綾ちゃん」

「お、鉄也さん」

黒江は鉄也と親しくなってからは、呼び方を『鉄也さん』に改めている。これは鉄也のほうがロンド・ベルで先輩であることに由来する。

「差し入れ持ってきたぞ〜食うか?」

「お、食います食います!」

と、言うことで、鉄也の持ってきたスイーツにA世界の面々やガイちゃんでがっつく事になり、楽しく賞味する。鉄也は自分が開設しているスイーツブログの記事の更新をB世界に来てまでやっており、ノートPCを机に置いて作業している。

「なんすか、鉄也さん。ブログの更新っすか?超空間通信の無駄遣いですって」

「時空管理局のおかげで平行世界間のネット環境が整ったからな。やっておこうと思ってな」

「何してるんですか〜?」

「なんだ、ニパちゃんか。説明がややこしいから、後にしてくれ」

「私のこと、知ってるんですか?」

「こちらにも君はいるんでね」

と、鉄也はPCを操作しながらニパの問いかけに答える。ボタンを押し、ブログの更新を終える。

「……ふう。こちらの君も不幸体質だが、君もそうらしいな」

「や、やっぱり〜!?」

しょげるニパ。どこの世界でも『ついてないカタヤイネン』の二つ名はついて回るのにがっくりしたのだろう。

「あ、あのぉ……そっちの私は……」

「安心しろ。今は大尉だよ。不幸体質は変わらんが、君が被害担当でいるうちは、味方の人的被害が極限出来るみたいだし、しょげることはないさ」

「や、やったー!」

と、喜ぶ。

「あなたが持ってきたロボット、あれっていったい?」

「スーパーロボットだ。あれ一機で世界を滅ぼせるくらいの力を誇る。人が産んだ魔神と言うべきだな。魔神と言っても、デウス・エクス・マキナに引っ掛けてあるらしいネーミングだと聞いてるし、アラビアンナイトのビンの魔神のような感覚だな。その皇帝だから、マジンエンペラーと名付けられた。ならざる人の形成す超常の存在、みたいな意味合いもあるよ」

格納庫に置かれたマジンエンペラーG。この世界の502基地には人型機動兵器を置くスペースがないので、格納庫に寝かせて置いていた。

「今、隊長達が視察してますけど、貴方方の世界は何と戦っていたんですか?」

「色々とだ。宇宙人、宇宙怪獣など…。挙げるとキリがない。内輪もめもしょっちゅうだし、それで大陸に大穴開けた事すらある」

「!?」

「俺達の世界では、宇宙に移民を始めていてな。その移民の二世や三世達の代の連中が地球の政府に不満を募らせて、遂には戦争になった。これがその時に吹き飛んだシドニーとキャンベラの後にある内海だ」

23世紀世界の地球は、コスモリバースシステムを以ても完全には癒えなかった傷がある。シドニーとキャンベラの跡地のシドニー湾だ。ぶつけられた破壊力は6万メガトン以上ともされ、内輪もめの『内戦』で使われた大量殺戮としては史上最大だ。それ故、ジオン軍人の内部には敗戦の運命がここで決まったと公言した者も多い。ウィッチ世界の者の大半はこれで顔色を失うが、ニパは人同士の戦争をどこの世界でも予見していたらしく、諦感の表情だ。

「どこの世界でも、人は結局、戦争するんですね」

「君はこちらの世界でも似たような事を言っていたが、君もか」

「ええ。なんとなく予感はしていて。怪異がいなくなったら世界を巻き込む戦争やり始めるんじゃないかって」

「人間は戦わずにはいられん生き物だ。綾ちゃん達がいる世界では、俺達より先に来た介入者がその歴史情報を使い、世界を好き勝手にしてくれたが、やはりいるのさ。軍人の中にはな」

「軍人は、暇であることが一番の喜びたるべき職種だっつーのに、立身出世のいい機会って考える野郎共の多いことったら」

「なんか嫌ですね、それ。」

「俺達は常に何かと戦ってきたからな……。同じ種族で争い合う光景はもう見飽きたよ。地球生まれだの、宇宙移民だなんてのは些細な違いでしかないはずなんだがな」

「宇宙移民、か。なんか夢物語みたいな感じだけど、そちらだと実現してるんですね。バラ色って言われてるのに、幻滅しちゃいます」

「宇宙移民は希望を託して始められたはずだが、移民の子孫達の間で地球を神聖視する『エレズム』って過激な思想が流行り、それが選民思想にすり替わって、戦乱の始まりになった。今の映像はその戦争の開戦劈頭で行われた行為の傷跡さ」

「なんでそこまで平然と地球を痛めつけられるんですか?元は自分達の先祖が住んでた星なのに」

「宇宙移民、特にその中でも、地球からの距離が遠いところは自分らのアイデンティティをその『選民思想』に求めてしまったのさ。そしてその選民思想がやがて、地球圏を巻き込む大戦争になり、一年で数十億が死に絶えた。君に話すには重すぎる話さ」

一年戦争からの長い戦乱の世は地球人の宇宙移民を促進し、大航海時代のきっかけにもなった。その血の代償は大きい。23世紀の人間はその争いの十字架を背負って生きてゆかなければならない。平和を守る事。その願いがロンド・ベルを生み出したのだ。ロンド・ベルは『平和を守るため』に存在する。それを認めない者も多い。

「あなた達はなんで戦うんですか?」

「世界の平和を守るため、さ。そもそも俺のマシーンはそのために造られた。それがマジンガーを操る者の使命だからだ」

「使命……」

鉄也はフッと笑いかける。世界の平和を守る事。そのために生命を燃やし、使命に殉ずる。それが鉄也が最終的に見出した自らの存在意義だった。



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